説明

医薬物質の透過率および溶解性を改善するための添加剤アミノアルキルメタクリレートコポリマーEの四級化

本発明は、化学的に変性されたアミノアルキルメタクリレートコポリマーEの添加に基づく、医薬製剤の透過率および溶解性を改善するための戦略を表わし、この場合この化学的変性は、存在するアミノアルキル基の含分の四級化にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学的に変性されたアミノアルキルメタクリレートコポリマーEの添加に基づく、医薬物質の透過率および溶解性を改善するための戦略を表わし、この場合この化学的変性は、存在するアミノアルキル基の含分の四級化にある。
【0002】
数多くの医薬物質の僅かな生物使用可能性(Bioverfuegbarkeit)は、医薬調製の際の大きな問題である。一定の適用経路に関連する生物使用可能性の重要性は、第1に作用物質の溶解性および透過率である。良好な透過率の際の劣悪な溶解性は、劣悪な透過率の際の良好な溶解性と同様に劣悪な生物使用可能性をまねく。溶解性および透過率の問題を克服するために、種々の戦略が追求されている。
【0003】
腸内での前記物質の透過率は、例えば一定の助剤を使用することによって上昇させることができる。このような助剤は、例えばキトサンまたはカプリン酸ナトリウムである。この場合、前記物質は、なかんずく傍細胞輸送(parazellulaeren Transport)に影響を及ぼすと想定されている(Current Drug Delivery, 2005, 2, 9-22)。しかし、経細胞輸送(transzellulaeren Transport)に対してもプラスの影響を及ぼすことが考えられ得る。
【0004】
アミノアルキルメタクリレートコポリマーE(Pharmacopeia japonica; Europaeischen Arzneibuch中に"Basic butylated methacrylate copolymer"として項目に記載された)に対して、テトラサイクリンを同時に経口投与した場合には、そのAUC("Area under the curve"=身体によって吸収される医薬の全体量に対する基準)は上昇していることを示すことができた(欧州特許出願公開第1302201号明細書A1)。その上、オイドラギットE100、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEの商業的に入手可能な形(Roehm GmbH)、は、粘液または胆汁酸に対するカチオン性作用物質の合成を減少させることができる(Takemura, Controlled Release Society 32nd Annual Meeting and Exposition; 欧州特許出願公開第1302201号明細書A1; Macromol. Biosci., 2005, 5, 207 - 213)。更に、Alasino他は、ドキソルビシンが負荷されたリポソームがオイドラギットE100の存在下で不変のリポソームの大きさの際にオイドラギットE100の不在下の場合よりも多量の作用物質を放出することを示すことができた(Macromol. Biosci., 2005, 5, 207 - 213)。これは、脂質膜上のオイドラギットE100の透過率を変化させる作用を示唆する。オイドラギットE100による機構が生物使用可能性を上昇させ得ることは、未だ研究により明らかにはなっていない。予想される機構は、胆汁酸の結合、粘液に対する医薬物質の結合の阻害およびオイドラギットE100と細胞膜または密着帯との相互作用である。
【0005】
図1は、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE(オイドラギットE)の刊行物で普通の記載形式を示す。前記コポリマーの中、統計学的ターポリマーが重要であり、トリブロックコポリマーは重要ではなく、即ちm、nおよびoの値は、変化しうることが明らかになる。
【0006】
欧州特許出願公開第1302201号明細書A1には、1つの酸と組み合わせてアミノアルキルメタクリレートコポリマーEを使用することが記載されている。この化合物は、下記にオイドラギットEとして詳細に規定されている。酸を添加することは、必要である。それというのも、前記化合物は、5.5よりも高いpH値で劣悪に溶解するが、しかし、溶解しない状態では作用しないからである。
【0007】
本発明の課題は、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEを、その溶解性が他の物質、例えば酸の添加なしに5.5を越えるpH値で顕著に上昇されるように化学的に変性することであった。更に、本発明の課題は、このような化学的変性がアミノアルキルメタクリレートコポリマーEの透過率を促進する作用を制限しないことであった。更に、このように変性されたアミノアルキルメタクリレートコポリマーEは、毒性であってはならず、時間が掛からず、ならびに費用が掛からないように製造することができるはずである。
【0008】
本発明の課題は、アミノアルキル基の含分が四級化されていることを特徴とする、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEによって満たされる。
【0009】
特に、四級化されたアミノアルキル基の前記含分は、アミノアルキル基の全体数に関連して10%を上廻り、特に20%を上廻る。しかし、四級化率は、常に100%未満である。
【0010】
1つの好ましい実施態様において、前記のアミノアルキルメタクリレートコポリマーEは、構造式:
【化1】

〔式中、mは、ブチルメタクリレート基の全体数を表わし、nは、アミノアルキル基の全体数を表わし、oは、メチルメタクリレート基の全体数を表わし、およびqは、四級化されたアミノアルキル基の全体数を表わす〕を有する。
【0011】
本発明の課題は、同様に特徴付けられたアミノアルキルメタクリレートコポリマーEの製造法によって満たされ、この場合前記の四級化は、メチルハロゲン化物またはジメチルスルフェートとの反応によって行なわれる。
【0012】
1つの好ましい実施態様において、前記のメチルハロゲン化物は、ヨウ化メチル、臭化メチル、塩化メチルを含む群から選択され、好ましくは、ヨウ化メチルである。
【0013】
特に、前記方法の場合、メタノールは、溶剤として使用される。
【0014】
更に、本発明は、医薬物質の透過率および溶解性の改善のための上記に特徴付けられたアミノアルキルメタクリレートコポリマーEの使用に関する。
【0015】
1つの好ましい実施態様において、前記のコポリマーは、前記の医薬物質と一緒に投与される。
【0016】
また、本発明の課題は、1つ以上の医薬物質および上記の特徴付けられたアミノアルキルメタクリレートコポリマーEを含有する製薬学的調製物によって満たされる。
【0017】
本発明者らは、意外なことに、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEの四級化された誘導体(20%を上廻る四級化率)が低い透過率を有する物質の透過率を、単層のバリヤー機能を不可逆的に損なうことなしに、一時的に上昇させることができることを見出した。上昇速度は、少なくとも同様に高く、部分的には、四級化されていないアミノアルキルメタクリレートコポリマーEで達成された上昇速度よりも明らかに高い。
【0018】
部分的には、四級化されたアミノアルキルメタクリレートコポリマーEのなお明らかに高い透過率を促進させる作用を用いた場合には、最初から考慮に入れることができなかった。それというのも、負荷された分子は、減少された脂質溶解性のために分子が負荷されていない構造類似物と比較して上皮および内皮を通しての僅かな透過係数を有することが公知であるからである。例示的に対の物質のスコポラミンおよびN−ブチルスコポラミンが挙げられる。最後に挙げたN−ブチルスコポラミンは、第四級アンモニウム化合物(永久陽イオン電荷を有する)であり、この化合物は、腸からの極く僅かな腸管の再吸収分を有し、血液脳障壁を通じての言うに値する通過を有しない。これは、不十分な脂質溶解性および前記分子と生体膜との相互作用に帰因する。
【0019】
その上、経上皮電気抵抗(TEER)は、四級化されたポリマーと一緒の細胞のインキュベーションの際に単層の透過率のための基準としてpH7.4でも減少し、一方で、これは、元来のアミノアルキルメタクリレートコポリマーEには当てはまらないことを示すことができた。この結果、四級化された誘導体のpHに依存しない溶解性および作用を推論することができる。それによって、本発明は、欧州特許出願公開第1302201号明細書A1の教示とは異なり、酸の添加を必要としない。このことから、経口投与に対して1つの利点が明らかになる。それというのも、腸内でのpHは、領域に応じて5.5〜7.4であるからである。この性質は、生体内で僅かな透過率を有する医薬物質の透過率の改善、ひいては前記医薬物質の開発および医薬品としての前記医薬物質の使用を可能にする。
【0020】
生物使用可能性促進剤(Bioverfuegbarkeitspromotoren)としての本発明による物質の使用は、殆んど全ての適用例に対して考えられ得る。溶液、懸濁液、乳濁液、装入物または別の適当な医薬剤形が重要である。更に、本発明は、経口、皮下、頬側、直腸、鼻孔または全ての別の適用例に使用されてよく、この場合再吸収バリヤーを克服することができ、医薬物質の局所的または全身的作用が可能になる。即ち、例えば眼科的目的のための使用、即ち眼への使用である。この場合、この物質は、角膜を通しての一定の医薬物質の漏出を改善することができる。
【0021】
四級化された誘導体を製造するための本発明による方法は、(大規模でも)簡単に実施することができ、この場合には、時間が掛からず、ならびに費用が掛からないように実施することができる。
【0022】
定義
本明細書中で使用されているような「透過率」(=Durchlaessigkeit)の概念は、細胞膜、殊に上皮細胞膜を通じての物質、例えば医薬品の拡散である。「細胞透過率」または「上皮透過率」の概念は、同義語で使用することができる。
【0023】
「四級化率」の概念は、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEの所定量中の窒素原子の全体数(アミノアルキル基)に対する第四級窒素原子(または第四級アミノアルキル基)の割合を示す。
【0024】
「医薬物質」の概念は、ヒトまたは動物の身体に対する使用、またはヒトまたは動物の身体中への使用に特定される物質からの物質および調剤を示し、
疾病、持病、身体の損傷または病的な苦痛を治癒、緩和、予防または識別することができ、
病原体、寄生虫または体外物質を阻止、排除または無害化することができ、
身体の性質、状態または機能、または精神的状態認識することができるか、または影響を及ぼすことができ、および
ヒトまたは動物の身体から製造された作用物質または体液を交換することができる。
【0025】
「生物使用可能性(Bioverfuegbarkeit)」の概念は、全身的循環路中(特に:血液循環路中)で不変のまま使用される、物質の割合のための薬理学的測定の影響力を示す。この薬理学的測定の影響力は、如何に急速に物質(医薬物質)のどの位の規模で再吸収され、かつ作用場所に使用されるのかを示す。
【0026】
「オイドラギットE100」(Roehm GmbH)は、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEの商業的に入手可能な形である(他の選択可能な表記:ポリ(ブチルメタクリレート、(2−ジメチルアミノエチル)メチルアクリレート、メチルメタクリレート)および「基本ブチル化メタクリレートコポリマー」)。「オイドラギットE PO」(同様にRoehm GmbH)は、オイドラギットE100の粉末形である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】アミノアルキルメタクリレートコポリマーE(オイドラギットE)の構造式を示す。
【図2】オイドラギットE PO(Roehm GmbH)のモノマー組成を測定するためのオイドラギットE POの1H NMRスペクトル(300MHz、MeOHd4)を示す。信号の対応配置は、符号a〜jによって表示される。
【図3】ヨウ化メチルでのオイドラギットE PO(Roehm GmbH)の四級化の反応式を示す。
【図4】0%、22%、42%および65%の四級化率を有するオイドラギットE PO(Roehm GmbH)の1H NMRスペクトル(300MHz、MeOHd4)を示し;第三級窒素に結合されたメチル基およびメチレン基のプロトンの信号は、灰色で記載されている。
【図5】1H NMR分光分析法によって測定された、65%の末端四級化の際の時間に対する四級化率をプロットした図を示す。
【図6】1時間のインキュベーション後にpH6.5で3つの測定値から標準偏差の記載と共にトリパンブルーを排除するCaco−2−細胞の対照に対する百分率での割合を有するグラフを示す。
【図7】オイドラギットE POおよびその四級化誘導体の存在下でpH6.5で1時間のインキュベーション後にマンニトールのための4つの測定値からの標準偏差を有するPapp(見掛け透過率)をプロットした図を示す。
【図8】等モル量のポリマーで1時間インキュベートした後のマンニトール透過率の可逆性を記録したグラフを示す。Pappは、60分間の間隔で測定された。
【図9】ポリマーの存在下で1時間のインキュベーション後およびポリマー化合物なしで先端でpH6.5および基底外側でpH7.4で6時間のインキュベーション後の0.21μMの濃度でオイドラギットE POおよびその四級化誘導体の添加の時点で先端でpH6.5および基底外側でpH7.4でのTEER値の百分率でのTEER値の経過を示す。
【図10】ポリマーの存在下で1時間のインキュベーション後およびポリマー化合物なしで6時間のインキュベーション後の0.21μMの濃度でオイドラギットE POおよびその四級化誘導体の添加の時点で先端および基底外側でpH7.4でのTEER値の百分率でのTEER値の経過を示す。
【図11】0.2μMの濃度でオイドラギットE POおよびその四級化誘導体の存在下で先端でpH6.5および基底外側でpH7.4で2時間のインキュベーション後の塩化トロスピウムのための3〜5つの測定値からの標準偏差を有するPappをプロットした図を示す。
【図12】50μg/mlの濃度でオイドラギットE POの四級化誘導体の存在下で先端でpH6.5および基底外側でpH7.4でタリノロール(Talinolol)のための3つの測定値からの標準偏差を有するPappをプロットした図を示す。
【実施例】
【0028】
1.オイドラギットE POの四級化
オイドラギットE PO(Roehm GmbH)のモノマー組成を1H NMR分光分析法により測定した(図2/第1表)。このために使用される重水素化された溶剤MeOHd4をDeutero GmbHから購入した。
【0029】
【表1】

第1表 ポリマーオイドラギットE POのモノマー組成。BMA=ブチルメタクリレート、DMAEMA=(2−ジメチルアミノエチル)メタクリレート、MMA=メチルメタクリレート
【0030】
定義された四級化されたオイドラギットE POを、オイドラギットE POの第三級アミン基によるヨウ化メチル(Mel)での求核性二分子置換によって製出した。典型的な四級化反応(図3)のために、オイドラギットE POを一口フラスコ中でメタノール(MeOH)中に溶解し(0.1g/ml;Acros Organics)、この場合この中には、出発化合物ならびに相応する四級化生成物が良好に溶解している。達成しようと努力された四級化率に必要とされる量のMel(Acros Organics)を計量供給し、攪拌された溶液に添加した。メチル化の場合、オイドラギット(登録商標)E POのモノマー組成物の製造業者の記載に関連するならば、努力して得られる四級化率に対して理論的に必要とされるであろうよりも約10%少ないMelを使用した(第1表)。一緒のBMAおよびMMAに対するDMAEMAの実際の物質量比は、10%より低いので、Mel量の還元は、必要である。1〜2時間後、前記ポリマーを緩徐な滴加によって、強力に攪拌されたジエチルエーテルの20倍の容量中で−78℃で沈殿させた。
【0031】
達成された四級化率を1H NMRにより測定するために、試料を取り出し、高真空中で乾燥させた。窒素の四級化または正電荷の導入は、結合された基に対して電子密度の減少を生じる。1H NMRスペクトル中で、この脱保護(Entschirmung)は、明らかに低磁界側への移動(Tieffeldverschiebung)を示す。従って、第三級窒素に結合した基の信号の縮小化により四級化は、定めることができる。出発化合物の同じモノマー組成を絶えず取る場合には、図4に示された全てのスペクトルにおいて、BMAのブチル基に対するメチレン基の信号の積分は、1.66ppmで参照として2に設定された。引続き、第三級窒素に結合されたメチル基のプロトンの信号により、全てのスペクトル中で正確に同一の区間(Iメチル)に亘って積分された。出発化合物において、この積分の値は、9.44である。従って、窒素原子の全体数に対する第四級窒素原子の割合、即ち次式:
【数1】

による四級化率DQnが判明する。
【0032】
65%の四級化率を有するオイドラギットE POに関する1H NMR:
1H NMR(300 MHz,MeOHd4)δ=4.52(広幅,COOCH2CH2N(CH33+),4.12(広幅,COOCH2CH2N(CH32),3.91(広幅,COOCH2CH2CH2CH3),3.64(広幅,COOCH3),3.42(広幅,COOCH2CH2N(CH33+),2.68(広幅,COOCH2CH2N(CH32),2.35(広幅,COOCH2CH2N(CH32),2.21〜1.75(広幅,CH2 基準),1.65(広幅,COOCH2CH2CH2CH3),1.46(広幅,COOCH2CH2CH2CH3),1.30(広幅,CH3),1.23〜0.69(広幅,CH3,COOCH2CH2CH2CH3)。
【0033】
反応経過を追求するために、65%の四級化率に関連して試料を反応混合物から取り出した。全ての揮発性成分を反応混合物から高真空中で分離することによって、反応をそれぞれ停止させた。図5は、第2次の動力学により進行するSN2反応(=求核性二分子置換)に対して予想することができる典型的な飽和曲線を示す。達成しようと努力される四級化率は、既に1時間後に達成されており、この場合この1時間で反応は、定量的に進行する。
【0034】
オイドラギットE POをヨウ化メチルで四級化した後、ヨウ化物は、正電荷を有するアンモニウム基に対する対イオンを有する。細胞試験の際にポリマーそれ自体によって惹起されない効果をできるだけ排除しうるために、ヨウ化物を生化学的に懸念されない塩化物とイオン交換することを実施した。イオン交換樹脂(Dowex Monosphere 550A, OH-負荷した;Sigma Aldrich)を水中に懸濁させ、約3cmの直径を有する約30cmの長さのカラム中に充填した。流出する水のpH値は、8〜9であった。次に、半分に濃縮された酢酸で、pH値が酸になるまで洗浄し、引続き流出する水が中性になるまで水で洗浄した。引続き、H2O中の四級化された化合物300mgを前記カラム上に添加し、水300mlで洗浄した。1mlを取出し、濃縮された硝酸銀溶液(Acros Organics)を添加した。沈殿物を観察することができた場合には、前記溶液を繰返しカラム上に添加し、H2O 100mlで後洗浄した。pH値をHClで1に調節し、酢酸および水を遠心分離し(abrotieren)、ポリマーを60℃で真空乾燥箱中で数日間乾燥させた。最終製品は、無色の固体であった(収率:95%を上廻る)。
【0035】
2.Caco−2−細胞モデル中での四級化されたオイドラギットE PO誘導体の試験
A.方法
細胞の培養
Caco−2−細胞を1cm2当たり100000個の細胞の密度で24個の孔を有するポリカーボネート−トランスウェル(Polycarbonat-Transwells)(直径:0.33cm2)中に培養した。前記細胞を、ペニシリン100単位/ml、ストレプトマイシン100mg/ml、可欠アミノ酸1%およびFBS10%が添加されたDMEM中でCO25%および空気湿度90%で生育させた。試験を培養後20〜22日間実施した。
【0036】
細胞培養の維持のために、細胞を75cm2の細胞培養瓶中に貯蔵し、トリプシン/EDTA溶液(0.25%/0.02%)で双方の流れが80〜90%合流した際にトリプシン化し、それぞれの二日目に中性媒体を供給した。次に、前記細胞を上記の記載と同様にトリプシン化し、試験のためにトランスウェル(Transwells)中で培養した。細胞を剥離するためのトリプシンでの処理は、継代培養(Passagieren)とも呼称される。この意味で試験には、単に継代44〜58の細胞を使用した。
【0037】
トリパンブルー排除アッセイ
最初にMES/HBSS 10mM(pH6.5)中のトリパンブルー0.04%の溶液を製造した。Caco−2−細胞をトリプシン化し、遠心分離し、MES/HBSS 10mM(pH6.5)中に再懸濁させた。次に、前記細胞を1時間、1.5mlのエッペンドルフ型容器(Eppendorf-Gefaessen)中でポリマー0.21μMを有するMES/HBSS 10mM(pH6.5)中で室温で回転歯車(Drehrad)上でインキュベートした。引続き、細胞懸濁液50μlをトリパンブルー溶液の50μlと混合し、この混合物20μlを血球計上に添加し、光学顕微鏡の下で細胞数を数えた。この試験の場合、無傷の細胞は、染料のトリパンブルーを排除し、損傷した/死亡した細胞は、青色に着色されていることを示す。
【0038】
マンニトールに対する輸送再生("transport recovery輸送回復")アッセイ
このアッセイを、24個の孔を有するポリカーボネート−トランスウェル中で実施した。細胞を1時間、ポリマーの溶液(0.21μM)、マンニトール0.1mMおよび14Cマンニトール1μCi/mlと一緒に先端でMES/HBSS 25mM(pH6.5)中で、および基底外側でHEPES/HBSS 25mM(pH7.4)中でインキュベートした。先端および基底外側での溶液を1時間後に注意深く除去し、先端側でマンニトール0.1mMおよび14Cマンニトール1μCi/mlを有するMES/DMEM+10%FBS25mM(pH6.5)によって、および基底外側でHEPES/DMEM+10%FBS25mM(pH7.4)によって置換した。ポリカーボネート装入物を毎時間緩衝液で充填された新規の24個の孔を有するポリカーボネート−トランスウェル板中に移行させた。基底外側での媒体の試料をシンチレーションカウントのために使用した。初期のマンニトール濃度を測定するために、先端での媒体の試料を試験の開始時および先端での媒体の交換後に取り出し、シンチレーションカウントに使用した。
【0039】
トロスピウムのための輸送アッセイ
トロスピウム輸送をHPLCにより分析した。先端の細胞側を、前記ポリマーを0.21μMの濃度で含有しかつトロスピウム2mMを含有する、MES/HBSS 10mM(pH6.5)からなる輸送緩衝液でインキュベートし、基底外側の細胞側を、HEPES/HBSS10mM(pH7.4)中でインキュベートした。先端の側から試験の開始時に試料100μlを取出し、新しい緩衝液100μlによって置換した。HPLC毎に試料を測定するために、試料を−18℃で貯蔵した。
【0040】
タリノロールのための輸送アッセイ
タリノロールを1μCi/mlの濃度で使用した。先端の側を、MES/HBSS 10mM(pH6.5)中のポリマー溶液(0.21μM)でインキュベートし、基底外側の側を、HEPES/HBSS10mM(pH7.4)中でインキュベートした。開始時に試料20μlを先端の側から取出し、供与体室を新しい溶液20μlで再び充填した。30分、60分、90分および120分の後、基底外側の室から試料500μlを取出し、それぞれ新しい試料500μlによって置換した。
【0041】
シンチレーションカウント
試料を、ミニバイアルスA小管(Mini Vials A-Roehrchen)(Carl Roth GmbH & Co., Karlsruhe, Deutschland)中で液体シンチレーションカウンター(LC 6000, Beckman Coulter, Unterschleissheimm, Deutschland)を用いて徹底的な混合後にシンチレーション溶液Rotiszint 22 4ml(Carl Roth GmbH & Co., Karlsruhe, Deutschland)で分析した。計数時間は、全ての試料および試験に対して5分間に調節された。
【0042】
HPLC
測定を、Jasco PU−980ポンプとJasco AS−950試料捕集器(自動サンプラー)とJasco UV−975 UV/VIS検出器(Jasco Deutschland GmbH, Gross-Umstadt, Deutschland)とからなるJasco HPLCシステムを用いて内部標準としてのアメジニウムメチルスルフェート(Ameziniummetilsulfat)を使用しながら実施した。
【0043】
クロマトグラフィー条件:
カラム:LiChroCart 125×4mm、RP−8、Superspher 60(Merck Darmstadt, Deutschland)、
移動相:HEPES 0.01M、K2HPO4×3H2O 0.003M、2回蒸留した水300ml、アセトニトリル700ml、85%燐酸1.5ml、
温度:室温、
流速:1.2ml/分、
検出:UV吸収210nm、
注入容量:50μl、
運転時間:7分間。
【0044】
経上皮電気抵抗(TEER=transepithlial electrical resistance)の測定
TEERを所謂「チョップスティック(Chopstick)」電極(Millicell ERS, Millipore, Bedford, USA)で測定した。輸送再生試験のために、24個の孔を有するポリカーボネート−トランスウェルを利用し、細胞を、最初に20分間、先端でMES/DMEM 25mM(pH6.5)で、および基底外側でHEPES/DMEM+10%FBS25mM(pH7.4)でインキュベートした。その後、濃縮されたポリマー溶液をピペットで注入し(zupittetieren)、したがってインキュベーション媒体中でのポリマーの最終濃度は、0.21μMであった。次に、TEERを1時間に亘って追求し、その後に先端の側の媒体を新しい緩衝液(MES/DMEM(pH6.5)+10%FBS25mMまたはHEPES/DMEM(pH7.4)+10%FBS25mM)によって置換した。次に、TEERの再生を6時間に亘って追求した。
【0045】
app(見掛け透過率)の算出
app値を次の式により算出した:Papp=(Va/(A*t))*([医薬]受容体/[医薬]出発、供与体X)、この場合Vaは、mlでの受容体室内での先端での容量を表わし、Aは、cm2での単層の面積を表わし、tは、秒での時間を表わし、[医薬]受容体は、t秒後の基底外側の室内での累積医薬濃度を表わし、および[医薬]出発、供与体は、供与体室内での初期医薬濃度を表わす。
【0046】
B.結果
項目1の記載により合成された化合物の中から、22%、42%および65%の四級化率を有する3つの誘導体をCaco−2−細胞モデル(J. Pharm Sei., 2000, 89, 63 - 75)中で試験した。
【0047】
オイドラギットE POの四級化された融合対の毒性を試験するために、最初にトリパンブルー排除試験を実施した。図6から判断することができるように、四級化された化合物は、オイドラギットE POよりも僅かに高い毒性を有するにすぎない。その上、経上皮電気抵抗(TEER)ならびにマンニトール輸送の上昇は、細胞を四級化された化合物と一緒にインキュベートした際に可逆的であった(図8および9)。これは、上皮が物質によって不可逆的な損傷を被らないし、ポリマー溶液の除去後にバリヤー機能が再生されることを示す。
【0048】
pH7.4(先端および基底外側で)でオイドラギットE POは、四級化された誘導体に対して等モル量の濃度でTEERに関連して対照と比較可能な挙動を取り、一方で、四級化された化合物は、TEERの明らかな減少を惹起する(図10)。もしかすると、オイドラギットE POは、中性のpHでその劣悪な溶解性のために作用を有していないかもしれない。
【0049】
マンニトール透過率の上昇と共に(図7)、ポリマーは、細胞培養のモデル中でトロスピウム(図11)およびタリノロール(図12)の透過率を上昇させた。マンニトール透過率およびトロスピウム透過率の場合には、四級化された誘導体の等モル量は、オイドラギットE POと比較された。この場合、前記誘導体は、等モル量で記載された物質の透過率を部分的によりいっそう強く上昇させたが、しかし、全ての場合に、オイドラギットE POと少なくともちょうど同じように強く上昇させることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノアルキルメタクリレートコポリマーEにおいて、アミノアルキル基の含分が四級化されていることを特徴とする、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE。
【請求項2】
四級化されたアミノアルキル基の前記含分が、アミノアルキル基の全体数に関連して10%を上廻り、特に20%を上廻る、請求項1記載のアミノアルキルメタクリレートコポリマーE。
【請求項3】
構造式
【化1】

〔式中、mは、ブチルメタクリレート基の全体数を表わし、
nは、アミノアルキル基の全体数を表わし、
oは、メチルメタクリレート基の全体数を表わし、および
qは、四級化されたアミノアルキル基の全体数を表わす〕を有する、請求項1または2記載のアミノアルキルメタクリレートコポリマーE。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載のアミノアルキルメタクリレートコポリマーEを製造する方法において、前記四級化をメチルハロゲン化物またはジメチルスルフェートとの反応によって行なうことを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載のアミノアルキルメタクリレートコポリマーEを製造する方法。
【請求項5】
前記のメチルハロゲン化物は、ヨウ化メチル、臭化メチル、塩化メチルを含む群から選択され、好ましくは、ヨウ化メチルである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
メタノールを溶剤として使用する、請求項4または5記載の方法。
【請求項7】
医薬物質の透過率および溶解性を改善するための、請求項1から3までのいずれか1項に記載のアミノアルキルメタクリレートコポリマーEの使用。
【請求項8】
前記のコポリマーを前記の医薬物質と一緒に投与する、請求項7記載の使用。
【請求項9】
1つ以上の医薬物質および請求項1から3までのいずれか1項に記載のアミノアルキルメタクリレートコポリマーEを含有する製薬学的調製物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2011−506370(P2011−506370A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−537322(P2010−537322)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【国際出願番号】PCT/EP2008/010585
【国際公開番号】WO2009/074336
【国際公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(390009128)エボニック レーム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (293)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Roehm GmbH
【住所又は居所原語表記】Kirschenallee,D−64293 Darmstadt,Germany
【Fターム(参考)】