説明

半導体発光素子

【課題】 半導体層とコンタクトを取るためにサファイア基板に設けられる孔が、半導体層が完全に露出し、かつ、半導体層をエッチングし過ぎないように精密に形成され、しかも、電流が均一に広がりながら機械的強度も充分に得られるように形成され得る半導体発光素子を提供する。
【解決手段】 絶縁基板1と、該絶縁基板上に発光層を形成すべく積層される半導体層2〜5と、該半導体層の上面に形成される上部電極8と、前記絶縁基板の裏面側に設けられ、該基板のコンタクト孔1cを介して前記積層される半導体層の下層部に接続される下部電極9とからなる半導体発光素子であって、前記絶縁基板はその裏面側に段差が設けられ、該段差により薄くされた前記絶縁基板の肉薄部分に半導体層を露出させるコンタクト孔1cが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は絶縁基板上に半導体層が積層されて発光層が形成される半導体発光素子に関する。さらに詳しくは、積層される半導体層の下部の半導体層に接続される電極が絶縁基板の裏面側に形成される半導体発光素子に関する。
【0002】
【従来の技術】半導体結晶層をエピタキシャル成長する場合に、格子定数の関係から絶縁性の基板上に成長しなければならない場合がある。たとえば青色系発光素子用のチッ化ガリウム系化合物半導体層は、チッ化ガリウム系化合物半導体層を堆積するのに適当な半導体基板がなく、サファイア(Al2 3 単結晶)基板上にエピタキシャル成長される。このチッ化ガリウム系化合物半導体結晶層を用いた青色系の半導体発光素子の基本構造は、たとえば図5に示されるような構造になっている。すなわち、サファイア基板21上にたとえばn形のGaNからなる低温バッファ層22と、高温でGaNがエピタキシャル成長されたn形層(クラッド層)23と、バンドギャップエネルギーがクラッド層のそれよりも小さくなる材料、たとえばInGaN系(InとGaの比率が種々変わり得ることを意味する、以下同じ)化合物半導体からなる活性層24と、p形のGaNからなるp形層(クラッド層)25とからなり、その表面にp側(上部)電極28が設けられ、積層された半導体層の一部がエッチングされて露出したn形層23の表面にn側(下部)電極29が設けられることにより形成されている。
【0003】この構造では、下部電極29を設けるため積層された半導体層の一部をエッチングして除去しなければならない。また、組立工程でボンディングパッドや基板上にボンディングする場合でもサファイア基板21の裏面は絶縁性であり、ボンディングパッドと下部電極29との間で金線などによりワイヤボンディングをしなければならない。このような不都合を解消するため、図6R>6(a)〜(b)に断面図が示されるように、サファイア基板21の裏面からn形の低温バッファ層22が露出するようにコンタクト孔を設け、その孔内に電極用金属を蒸着することによりサファイア基板21の裏面側に下部(n側)電極29を設ける構造のものも知られている。図6(a)はコンタクト孔の直径がチップの一辺の長さ(たとえば0.2〜1mm程度)の70〜80%程度(たとえば150〜750μm程度)の大きな穴が設けられる例で、図6(b)は穴の直径がチップの一辺の長さの1/100程度(たとえば2〜10μm程度)と小さい穴が設けられる例を示している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】前述のサファイア基板にコンタクト孔を形成する場合、塩素ガスを用いてドライエッチングにより行われるが、サファイアは非常に堅くエッチングされにくい。このサファイア基板は素子の強度を保つため、50〜100μm程度と厚く、この厚いサファイア基板にその厚さの1/10程度以下の直径のコンタクト孔を設けることは非常に難しい。しかも、半導体層はサファイア基板よりエッチングレートが非常に大きく、サファイア基板が残存せず丁度半導体層が露出するように制御することが難しい。そのため、サファイアの一部が残ったり、半導体層までエッチングをし過ぎるという問題がある。また、厚いサファイア基板に小さいコンタクト孔をたくさん形成するのは困難で、孔の数が少ないと、電流が孔の近くに集中してしまい、均一に光らないという問題がある。
【0005】一方、前述の大きなコンタクト孔がサファイア基板に設けられると、サファイア基板の大部分がなくなることになり、積層される半導体層の厚さは全部で1〜5μm程度であるため、素子の機械的強度が非常に弱くなり、ウェハから各チップに切断する際や、組立工程の際に素子を破損するという問題がある。
【0006】本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、半導体層とコンタクトを取るために絶縁基板に設けられる孔が、半導体層が完全に露出し、かつ、半導体層をエッチングし過ぎないように精密に形成され、しかも、電流が均一に広がりながら機械的強度も充分に得られるように形成され得る半導体発光素子を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明による半導体発光素子は、絶縁基板と、該絶縁基板上に発光層を形成すべく積層される半導体層と、該半導体層の上面に形成される上部電極と、前記絶縁基板に設けられるコンタクト孔を介して該絶縁基板の裏面側に設けられる下部電極とからなる半導体発光素子であって、前記絶縁基板はその裏面側に段差が設けられ、該段差により薄くされた前記絶縁基板の肉薄部分に半導体層を露出させるコンタクト孔が設けられている。この構造にすることにより、薄くなった基板部にコンタクト孔を形成することができるため、小さい径のコンタクト孔を精密に設けることができる。そのため、絶縁基板を広い範囲に亘って除去する大きな形状のコンタクト孔にする必要がなく、機械的強度が充分に得られると共に、発光特性も高く維持することができる。
【0008】前記肉薄部分が前記半導体発光素子のチップの中心部側に設けられ、前記コンタクト孔が複数個設けられることにより、チップの周囲で機械的強度を充分に保ちながらコンタクト孔を広い範囲でたくさん形成することができ、電流の一点集中を避けることができる。
【0009】前記上部電極が前記半導体発光素子のチップの外周部側に設けられ、かつ、下部電極がチップの中心部に設けられたり、前記肉薄部が前記半導体発光素子のチップの外周部側に設けられ、かつ、前記上部電極が前記チップの中心部側に設けられることにより、電流がチップ全体に広がりやすく発光効率を向上させることができる。
【0010】
【発明の実施の形態】つぎに、図面を参照しながら本発明の半導体発光素子について説明をする。図1には、たとえば青色系発光に適したチッ化ガリウム系化合物半導体層がサファイア基板上に積層される本発明の半導体発光素子の一実施形態の断面説明図およびその底面図が示されている。
【0011】ここにチッ化ガリウム系化合物半導体とは、III 族元素のGaとV族元素のNとの化合物またはIII 族元素のGaの一部がAl、Inなどの他のIII 族元素と置換したものおよび/またはV族元素のNの一部がP、Asなどの他のV族元素と置換した化合物からなる半導体をいう。
【0012】本発明の半導体発光素子は、図1に示されるように、たとえばサファイア(Al2 3 単結晶)などからなる絶縁基板1の表面に発光層を形成する半導体層2〜5が積層されて、その表面側の半導体層には拡散メタル層7を介して上部電極(p側電極)8が形成されている。また、絶縁基板1には、その裏面から大きな径の凹部から段階的に小さな径の凹部がエッチングにより順次形成されて段差が設けられており、その段差による絶縁基板1の肉薄部分に半導体層を露出させるコンタクト孔1cが設けられている。そして、階段状に設けられた凹部内に金属膜が設けられることにより、小さな径のコンタクト孔1cで露出した半導体層と電気的に接続する下部電極(n側電極)9が設けられている。この径の小さいコンタクト孔1cは、図1(b)に示されるように、複数個設けられることにより、下部電極9が半導体層と接触する面積を大きくしている。
【0013】絶縁基板1上に積層される半導体層は、たとえばGaNからなる低温バッファ層2が0.01〜0.2μm程度堆積され、ついでn形のクラッド層となるn形層3が1〜5μm程度堆積され、さらに、バンドギャップエネルギーがクラッド層のそれよりも小さくなる材料、たとえばInGaN系化合物半導体からなる活性層4が0.05〜0.3μm程度、p形のAlGaN系(AlとGaの比率が種々変わり得ることを意味する、以下同じ)化合物半導体層5aおよびGaN層5bからなるp形層(クラッド層)5が0.2〜1μm程度、それぞれ順次積層されることにより構成されている。なお、p形層5はAlGaN系化合物半導体層5aとGaN層5bとの複層になっているが、キャリアの閉じ込め効果の点からAlを含む層が設けられることが好ましいためで、GaN層だけでもよい。また、n形層3にもAlGaN系化合物半導体層を設けて複層にしてもよく、またこれらを他のチッ化ガリウム系化合物半導体層で形成することもできる。さらに、この例では、n形層とp形層とで活性層が挟持されたダブルヘテロ接合構造であるが、n形層とp形層とが直接接合するpn接合構造のものでもよい。
【0014】絶縁基板1は、その厚さは100μm程度にされてからエッチングが施され、最初に設けられる一番大きな凹部1aの直径Bは、チップの一辺の大きさAが0.2〜1mmに対して150〜750μm程度で、その深さFが70μm程度に形成される。また、2番目の凹部1bは、その直径Cが100〜500μm程度で、1段目の穴の底からの深さGが20μm程度に形成されている。そして、一番小さく形成されるコンタクト孔1cはその直径Dが2〜10μm程度で、その深さHは絶縁性基板1の残存している厚さで10μm程度である。すなわち、凹部1a、1bまたはコンタクト孔1cの径に対するエッチングの深さが極端に大きくならないように、凹部による段差が形成されて、薄くされた絶縁基板1の肉薄部にコンタクト孔1cが形成されている。
【0015】本発明の半導体発光素子は、このように、絶縁基板1の裏面側に下部電極9が設けられる場合に、段々と小さくなる凹部による段差が形成され、薄くなった絶縁基板1の肉薄部に径の小さいコンタクト孔1cが設けられている。そのため、エッチングされる深さとそのエッチング部の直径とが比較的近く、エッチングの制御が容易となる。その結果、エッチングのし難い絶縁基板1をエッチングしながら、エッチングに対して弱い半導体層にダメージを与えることなくその表面を露出させることができる。
【0016】また、図1(b)に示されるように、コンタクト孔1cが多数個設けられることにより、電流が一部に集中しないで全体に広がりやすいため、均一な発光が得られる。また、小さい径のコンタクト孔1cを多数個設けることにより、半導体層が連続した大きな面積で露出しないで絶縁基板1により保持されているため、ウェハからの各チップへの切断時や組立工程での取扱時に破損することがなく、また取扱が非常に容易となる。
【0017】つぎに、図1に示される半導体発光素子の製法の具体例について図2を参照しながら説明をする。
【0018】まず、図2(a)に示されるように、サファイアからなる絶縁基板1上に、有機金属化学気相成長法(MOCVD法)により、キャリアガスのH2 と共にトリメチリガリウム(TMG)、アンモニア(NH3 )などの成長ガスおよびn形にする場合のドーパントガスとしてのSiH4 などを供給して、GaN層からなる低温バッファ層2を0.01〜0.2μm程度、同じ組成でn形のn形層(クラッド層)3を1〜5μm程度成膜する。さらにドーパントガスをとめ、トリメチルインジウム(以下、TMInという)を供給してInGaN系化合物半導体からなる活性層4を0.05〜0.3μm程度成膜する。ついで、反応ガスをTMInからトリメチルアルミニウム(以下、TMAという)にし、ドーパントガスとしてシクロペンタジエニルマグネシウム(以下、Cp2 Mgという)またはジメチル亜鉛(DMZn)を導入して、p形のAlGaN系化合物半導体層5aを0.1〜0.5μm程度、さらに再度TMAを遮断してp形のGaN層5bを0.1〜0.5μm程度成膜し、p形層5を形成する。
【0019】つぎに、図2(b)に示されるように、絶縁基板1を裏向きにしてレジスト膜(図示せず)を設け、各チップ(一辺の長さが350μm程度)の中心部に直径が250μm程度の開口部となるようにパターニングをする。そして、アルゴンなどの不活性ガスに塩素ガスなどの反応ガスを混入して反応性イオンエッチングにより70μm程度の深さだけエッチングをする。このエッチングは、100μm程度の厚さの絶縁基板1の70%程度をエッチングするもので、しかもエッチング深さの精度はそれ程厳密ではないため、加速電圧を高くしてエッチングスピードを早くして行うことができ、30〜300時間程度で行うことができる。その結果、凹部1aがチップの中心部に形成される。
【0020】つぎに、絶縁基板1の裏面に再度レジスト膜(図示せず)を設け、第1の凹部1aの中心部に直径が200μm程度の開口部となるようにパターニングをし、同様の反応性イオンエッチングを行うことにより、図2(c)に示されるように、第2の凹部1bを20μm程度の深さ(図1のG)に形成する。この場合のエッチングもその深さはそれ程厳密ではないため、エッチングスピードを速くして行う。
【0021】その後、絶縁基板1の裏面に再度レジスト膜(図示せず)を設け、第2の凹部1bの底面に5μm程度の直径の開口部が均等に設けられるようにパターニングをし、第2の凹部1bの底に10μm程度の厚さに残った絶縁基板1に同様の反応性イオンエッチングを行うことにより、図2(d)に示されるように、低温バッファ層2が露出するコンタクト孔1cを形成する。このエッチングの場合は、絶縁基板1であるサファイアがなくなりGaNからなる半導体層が露出すると、半導体層が急速にエッチングされやすいため、加速電圧を低くしてたとえば0.01μm/分程度のレートでエッチングを行う。
【0022】その後、図1に示されるように、積層された半導体層の表面にNiおよびAuを蒸着して厚さが2〜100nm程度の拡散メタル層7を設け、さらにTiおよびAuを蒸着してパターニングをすることにより上部電極8を形成し、さらに絶縁基板1の裏面にTiおよびAuを蒸着して下部電極9を形成する。ついで、各チップにブレークすることにより、半導体発光素子のチップが形成される。
【0023】図3に示される例は、図1の変形例で、上部電極8がチップの中心部ではなくて、外周部に設けられている。図1に示されるように、上部電極8および下部電極9が共にチップの中心部に設けられると、発光層となる活性層4部の電流通路が中心部に集中し、周囲に電流が流れ難く、チップ全面での発光をし難い。しかし、図3に示されるように、上部電極8がチップの外周に沿って設けられ、下部電極9がチップの中心部に設けられることにより、電流がチップ全体に広がりやすく発光効率が向上する。
【0024】図4は、図3と同様に電流通路をチップ全体に広げる他の構造例で、上部電極8をチップの中心部に設け、下部電極9をチップの外周部に設けたものである。すなわち、チップの外周部の絶縁基板1をエッチングすることにより段差を形成し、その外周部の肉薄部にコンタクト孔1cが設けられたものである。この構造にしても図3の例と同様に、電流がチップをクロスする方向に流れるため広がり、チップ全体で発光しやすい。この場合、外周部に設けられるコンタクト孔1cは、図1に示されるような小さい径のものを多数個均等に設けることもできるし、チップの周囲に細い幅でリング状に設けることもできる。ウェハから各チップに切断分離する場合、絶縁基板1の裏面をスライシングし(ダイヤモンドペンで線を入れる)て割る方法により行われるため、この例のように、チップの外周部で絶縁基板1が薄くなっていると、ウェハから各チップに分離する作業が容易になる。
【0025】
【発明の効果】本発明によれば、サファイア基板のような硬い絶縁基板上に半導体層が積層される半導体発光素子でも、基板強度を弱めることなく、かつ、発光の均一性を損なうことなく、裏面側に一方の電極を設けることができる。そのため、リードフレームなどの基板上に直接ボンディングをすることができ、組立工程が非常に簡略化されながら、特性の優れた半導体発光素子が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の半導体発光素子の一実施形態の説明図である。
【図2】図1の半導体発光素子の製造工程を示す図である。
【図3】図1の半導体発光素子の変形例を示す図である。
【図4】図1の半導体発光素子の他の変形例を示す図である。
【図5】従来の半導体発光素子の一例の斜視説明図である。
【図6】従来の半導体発光素子の他の例の説明図である。
【符号の説明】
1 絶縁基板
1a 第1の凹部
1b 第2の凹部
1c コンタクト孔
7 上部電極
8 下部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】 絶縁基板と、該絶縁基板上に発光層を形成すべく積層される半導体層と、該半導体層の上面に形成される上部電極と、前記絶縁基板の裏面側に設けられ、該基板のコンタクト孔を介して前記積層される半導体層の下層部に接続される下部電極とからなる半導体発光素子であって、前記絶縁基板はその裏面側に段差が設けられ、該段差により薄くされた前記絶縁基板の肉薄部分に半導体層を露出させるコンタクト孔が設けられてなる半導体発光素子。
【請求項2】 前記肉薄部分が前記半導体発光素子のチップの中心部側に設けられ、前記コンタクト孔が複数個設けられてなる請求項1記載の半導体発光素子。
【請求項3】 前記上部電極が前記半導体発光素子のチップの外周部側に設けられてなる請求項2記載の半導体発光素子。
【請求項4】 前記肉薄部が前記半導体発光素子のチップの外周部側に設けられ、かつ、前記上部電極が前記チップの中心部側に設けられてなる請求項1記載の半導体発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開平10−173235
【公開日】平成10年(1998)6月26日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−326329
【出願日】平成8年(1996)12月6日
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)