説明

単結晶窒化ケイ素ナノシートとその製造方法

【課題】 ナノサイズの二次元構造を有する単結晶窒化ケイ素ナノシートと、その単結晶窒化ケイ素ナノシートを製造するための方法であって、簡便に生産が可能な方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 単結晶窒化ケイ素ナノシートを製造するための方法であって、原料としてケイ素粉末を用い、ケイ素の窒化反応が進行する温度以上で、ケイ素が溶融しない温度以下の温度で反応させることを特徴とする製造方法。並びに、大きさが1μm×1μm以上で、厚みが20nm以下である単結晶ナノシート窒化ケイ素ナノシート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ素粉末を原料とした単結晶窒化ケイ素ナノシートとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セラミックスのナノシートは酸化チタンをはじめ、いくつかの報告例がある。しかしながら、これらは層状物質からの剥離により合成するものであり、本発明のように気相法によるナノシートの報告例は、とても少ない。一方、窒化ケイ素のナノ構造体として、様々な原料、雰囲気及び熱処理方法により、ナノサイズの単結晶ナノロッドやナノウィイスカーが合成されてきた。しかしながら、これまでに上述の一次元ナノ構造体であるナノロッド及びナノウィスカーの合成の報告は多数存在するが、二次元構造体であるナノシートの報告例はない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、本発明は、単結晶窒化ケイ素ナノシートを提供することを目的とする。
また、本発明は、単結晶窒化ケイ素ナノシートを製造するための方法であって、簡便に生産が可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記従来技術の問題点を解決するため、本発明者らは鋭意研究を行った結果、原料としてケイ素粉末を用いて、所定の温度及び窒素ガス流量の条件下で反応させることにより、簡便な処理で、単結晶窒化ケイ素ナノシートを製造できることを発見し、本発明を完成させた。
【0005】
要するに、本発明は、単結晶窒化ケイ素ナノシートを製造するための方法であって、原料としてケイ素粉末を用い、ケイ素粉末の窒化反応が進行する温度以上であり、且つケイ素粉末が溶融しない温度以下の温度で窒素と反応させることを特徴とするものである。
【0006】
また、本発明は、単結晶窒化ケイ素ナノシートを製造するための方法であって、原料としてケイ素粉末を用い、非密封状態の容器中に入れ、窒素ガス流量を電気炉内断面積が25cm2あたり0.5 l/min以上の条件で、1300℃〜1400℃の温度で反応させることを特徴とするものである。
【0007】
また、本発明は、単結晶窒化ケイ素ナノシートであって、大きさが1μm×1μm以上で厚みが20nm以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に従えば、これまでに報告されていないナノサイズの二次元構造を有する単結晶窒化ケイ素ナノシートを、簡便に製造することが可能となる。
即ち、本発明により、容易に入手できるケイ素粉末を使用し、且つ反応装置の構造及び反応操作が簡単な気相法を使用することにより、大きさが1μm×1μm以上で厚みが20nm以下である単結晶窒化ケイ素ナノシートを製造することができる。
【発明の実施の形態】
【0009】
本発明の明細書中において「単結晶窒化ケイ素ナノシート」とは、大きさが1μm×1μm以上で厚みが20nm以下である単結晶の窒化ケイ素ナノシートを表す。
本発明の単結晶窒化ケイ素ナノシートは、以下の手順で製造することができる。
【0010】
まず、ケイ素粉末を原料とし、これらを非密封状態の容器中におく。容器は1400℃程度の温度に耐えうるものであれば制限はないが、好ましくは、坩堝である。坩堝は処理条件において原料と反応しない材質のものであればよく、好ましくは、窒化ボロン製坩堝である。
【0011】
本発明において使用することができるケイ素粉末は特に制限はない。
次いで、非密封状態の坩堝を電気炉内に配置し、電気炉内を一度真空(10-2Pa程度の真空度)にしてから窒素ガスで大気圧に戻し、電気炉等の適当な手段により1300℃〜1400℃の温度に加熱し、その後電気炉内断面積が25cm2あたり0.5 l/min以上の流量の窒素ガスと約30時間反応させてケイ素粉末原料から窒化ケイ素を生成させる。このとき、温度は、窒化ケイ素生成反応が進行する1300℃以上で、ケイ素が溶融しない1400℃以下の温度に設定することを要する。
【0012】
このようにして製造される本発明の単結晶窒化ケイ素ナノシートは、大きさが1μm×1μm以上で、厚みが20nm以下であるナノシートである。
以下、本発明を、一実施態様である実施例によって更に詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0013】
(実施例1)
本発明の単結晶窒化ケイ素ナノシートの製造方法を実施するのに使用することができる装置の一例を、図1に示す。
【0014】
図1において、原料であるケイ素粉末1を、窒化ボロン製の坩堝2中に入れた。本実施例において、ケイ素粉末は、ニラコ社製のケイ素粉末を使用した(粒度200〜300メッシュ、純度99.999%)。
【0015】
その上から、窒化ボロン製の蓋3で坩堝に蓋をし、その坩堝を電気炉容器(真空容器)4に入れた。電気炉容器中を一度10-2Pa程度まで真空排気し、窒素ガスで大気圧に戻し、電気炉内断面積が25cm2あたり0.75 l/minの流量の窒素ガスを流し、ヒーター5で1400℃にした後、30時間坩堝を電気炉容器中に静置し、ケイ素粉末と窒素ガスを反応させた。
【0016】
製造された単結晶窒化ケイ素ナノシートの透過型電子顕微鏡写真及び電子線回折パターンを、図2に示す。図より、本発明の方法に従えば、大きさが1μm×1μm以上で、厚みが20nm以下である単結晶窒化ケイ素ナノシートを粉末表面に形成することができる。即ち、その形成されたシートは、図2の左図の矢印で示される長方形の影のような部分であり、その大きさは1μm×1μm以上である。又、図2の右図の(a)、(b)、(c)及び(d)は、図2の左図に示される単結晶窒化ケイ素ナノシートの(a)、(b)、(c)及び(d)箇所における格子像の拡大図である。
【0017】
(比較例)
実施例と同様な方法で、ケイ素粉末を電気炉中に入れ、真空排気した後、電気炉内断面積が25cm2あたり0.2 l/minの流量の窒素ガスを流し、1300℃で30時間反応させた。これにより、作製された試料の電子顕微鏡写真を図3に示す。図より、二次元方向に広がりを有さない、一次元の単結晶窒化ケイ素ナノロッド及びナノベルトが形成されていることがわかった。即ち、窒素ガスの流量が0.2 l/minではシート状の単結晶窒化ケイ素が生成しないことを示している。
【産業上の利用可能性】
【0018】
従来窒化アルミニウムなどの絶縁体が、パワー半導体モジュールの絶縁基板として用いられていた。近年、高強度、高熱伝導率である窒化ケイ素を用いて、モジュール構造の簡略化を行なってきた。さらに、ナノメートルオーダーととても薄い、本発明の窒化ケイ素ナノシートを用いることにより、これらモジュールの小型化を図れる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の単結晶窒化ケイ素ナノシートの製造方法の一実施態様を示す図である。
【図2】本発明の単結晶窒化ケイ素ナノシートの透過型電子顕微鏡写真及び電子線回折パターンである。
【図3】比較例により作製された単結晶窒化ケイ素ナノロッド及びナノベルトの透過型電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0020】
1 ケイ素粉末
2 窒化ボロン製坩堝
3 窒化ボロン製坩堝の蓋
4 電気炉容器(真空容器)
5 ヒーター


【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶窒化ケイ素ナノシートを製造するための方法であって、出発原料としてケイ素粉末を用い、ケイ素粉末の窒化反応が進行する温度以上で、ケイ素粉末が溶融しない温度以下の温度で窒素ガスと反応させることを特徴とする製造方法。
【請求項2】
単結晶窒化ケイ素ナノシートを製造するための方法であって、原料としてケイ素粉末を用い、これを窒素雰囲気中で非密封状態の容器中に入れ、1300℃〜1400℃(ケイ素粉末の溶融点以下)の温度及び少なくとも電気炉内断面積が25cm2あたり0.5 l/min以上の窒素ガス流量で反応させることを特徴とする製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2で製造された単結晶窒化ケイ素ナノシートが1μm×1μm以上で厚みが20nm以下であることを特徴とする単結晶窒化ケイ素ナノシート。



















【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−160548(P2006−160548A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−352353(P2004−352353)
【出願日】平成16年12月6日(2004.12.6)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)