説明

印刷機における安全カバーのロック機構

【課題】
全自動刷版交換中に全自動刷版交換装置を装備した安全カバーを作業者が誤って開かないようにするためのロック機構の提供
【解決手段】
両側版8、8に電磁スイッチ72を設け、安全カバー10が閉状態のとき電磁スイッチ72に係合する係合部71を安全カバー10の下端部両側に設け、全自動刷版交換中は電磁スイッチ72に通電することで、係合部71を電磁スイッチ72から離脱不能に保持し、安全カバー10が開かないようにロックする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷機において、印刷ユニットの版胴に刷版(新版)を挿入または前記版胴から刷版(旧版)を排出する全自動刷版交換装置を装備した開閉可能な安全カバーの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の印刷機は、版胴に刷版を取り付ける工程(給版工程)の場合、まず、作業者が刷版を安全カバーの所定位置にセットしておく。次に、給版装置で刷版のくわえ端を版胴に設けたくわえクランプに挿入した後、くわえクランプを閉じて刷版のくわえ端をくわえる。次に、版胴を正転させて刷版を誘導部材に案内させながら所定量巻付けていく。その後、版胴に設けたくわえ尻クランプを閉じて刷版のくわえ尻端をくわえる(特許文献1参照)。
【0003】
版胴から刷版を取り外す工程(排版工程)の場合、まず、くわえ尻クランプを開き、刷版のくわえ尻端部をその弾性で版胴から離反させ誘導部材に当てる。次に版胴を逆転させ、刷版を誘導部材の誘導により版胴から案内経路内に排出していく。版胴を所定量逆転させた後、くわえクランプを開き、刷版のくわえ端を開放する。その後、排版装置で刷版をくわえクランプから抜き取る(特許文献2、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−7596号公報
【特許文献2】特開2006−7595号公報
【特許文献3】特開2006−7594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このような全自動刷版交換装置を装備した安全カバーは、印刷機がどのような状態でも常に作業者による開閉が可能であった。たとえば全自動刷版交換が行われているときでも作業者による開閉が可能であった。
【0006】
全自動刷版交換中に全自動刷版交換装置を装備した安全カバーを開いた場合、たとえば、給版工程において、給版装置が刷版のくわえ端を版胴に設けたくわえクランプに挿入しようとしているときに安全カバーを開いた場合、刷版のくわえ端は正常にくわえクランプに挿入されず、不具合(給版不良)が発生してしまう。
【0007】
また、排版工程において、版胴を逆転させ刷版を誘導部材の誘導により版胴から案内経路内に排出しているときに安全カバーを開いた場合、刷版は案内経路から逸脱し正常に排出されなくなる不具合(排版不良)が発生してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、印刷ユニットの版胴の刷版を全自動で交換する全自動刷版交換装置を装備した安全カバーにおいて、前記刷版を全自動で交換する工程中、前記安全カバーの閉状態を保持するロック機構が設けられたことを特徴とする。
【0009】
より具体的には、上記本発明の印刷機において、前記ロック機構は、前記印刷ユニットの側板(フレーム)に電磁スイッチを設け、前記安全カバーに前記安全カバーが閉状態のとき前記電磁スイッチに係合する係合部を設け、前記電磁スイッチは、前記係合部が係合し、かつ通電している間、前記係合部を離脱不能に保持することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明における印刷機において、全自動刷版交換の工程中、全自動刷版交換装置を装備した安全カバーを閉状態で保持することで、作業者が誤って前記安全カバーを開けることに起因する給版不良および排版不良を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態を示す印刷機の給版時の動作を示す概略断面図。
【図2】同じく排版時の動作を示す概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係る印刷機を、枚葉印刷機を例に図面に基づいて説明する。図1および図2は枚葉印刷機の印刷部の概略断面図である。
【0013】
一般に、枚葉印刷機は、上流側に給紙部を有し、下流側に排紙部を有し、その中間に印刷部(印刷ユニットとも呼ばれる)を配置している。これらの図は、何れも当該印刷部1の構造を示す図である。この実施形態では、一個の印刷部1を代表して記載しているが、印刷部1は、印刷に使用するインキの色の数に応じた数だけ給紙部と排紙部との間に並べて配置されている。
【0014】
図1および図2に示すように、印刷部1は、本体カバー2と、両側板8,8と、刷版3を巻付けるための版胴4と、版胴4にインキを供給する複数のインキローラ6を含むインキ装置を有している。なお、版胴4は両側板8,8に支軸4aを介して回転自在に支持されている。符号5は、版胴4に転接可能なゴム胴(ブランケット胴)を示す。本体カバー2は、両側板8,8間の下流側B1に配置される全自動刷版交換装置を装備した安全カバー10を備え、安全カバー10は、両側板8,8間に上下動可能に取付けられることで、両側板8,8間の下流側B1を開閉可能に構成されている。
【0015】
版胴4は、刷版3をくわえるための公知のクランプ装置15を有し、このクランプ装置15は、刷版3のくわえ端20をくわえるくわえクランプ21と、刷版3のくわえ尻端22をくわえるくわえ尻クランプ23とを周方向に対で有している。
【0016】
安全カバー10の表面側上部に、上下一対の刷版案内杆45,46が互いに平行、かつ回転可能に掛渡されている。これら刷版案内杆45,46は、上下に所定の離間幅を有し、それぞれ安全カバー10の表面から刷版3が通過可能な距離δの隙間を有して配置されている。安全カバー10の表面側下部には、受け枠部材42が取付けられている。受け枠部材42と刷版設置姿勢C1における、後述する刷版案内板31の表面との間には、刷版3のくわえ端20が挿入可能な隙間が設けられ、受け枠部材42には前記隙間側に刷版3を係止する係止部(突起)が設けられている。
【0017】
安全カバー10は、その下部に給版装置Aを有している。給版装置Aには刷版案内板31が、安全カバー10の裏面側に設けた支軸31aを介して傾動自在に取付けられている。安全カバー10の裏面側側部には、刷版案内板31を安全カバー10の表面と略同一面となる刷版設置姿勢C1と版胴4側に傾動した給版姿勢C2とに切替えるための公知の駆動装置が設けられている。
【0018】
給版装置Aは、刷版3の版裏面を吸引吸着するための吸引装置51を有する。吸引装置51は、刷版案内板31の裏面側に設けられ、その吸引部が刷版案内板31の表面からわずかに突出している。吸引装置51は、刷版案内板31の下方に位置して刷版3を吸引吸着する吸引位置E1と、刷版3を吸引吸着した状態でクランプ15側に位置する給版位置E2とに切替え自在とされている。刷版案内板31の裏面側には、吸引位置E1と給版位置E2とに切替えるための公知の駆動装置が設けられている。
【0019】
給版装置Aは、給版、排版時に、刷版3を案内する補助案内装置96を有する。補助案内装置96は、安全カバー10に支軸96aを介して回動自在に支持された傾動板97と、この傾動板97の先端部に配置された複数個の誘導部材98を有する。補助案内装置96は、給版誘導姿勢F1と排版誘導姿勢F2とに公知の駆動装置で傾動可能になっている。給版誘導姿勢F1は給版方向G1に移動してくわえ端20がクランプ15のくわえクランプ21にくわえられた刷版3を、版胴4に巻付けるよう誘導案内するものであり、排版誘導姿勢F2は刷版3の排版時に刷版3を排版方向G2に誘導するものである。
【0020】
安全カバー10は、版胴4に巻付いた刷版3を安全カバー10の上部から排出するための排版装置90を有する。この排版装置90は、安全カバー10の裏面側上部に配置された前後一対の排版案内板91,92と、刷版3を前後両側から挟持する挟持ローラ93,94とを有する。前後一対の排版案内板91,92の間の空間は排版時の刷版3を案内する案内経路となる。挟持ローラ93,94は、不図示の共通のエアシリンダ装置によって排版案内板91,92に沿って上下動可能に設けられ、他方の挟持ローラ94は、排版案内板91,92に沿って上下動可能に設けられるとともに、その動作に伴って一方の挟持ローラ93に接近離間自在に構成されている。すなわち、他方の挟持ローラ94は、不図示のばねにより一方の挟持ローラ93に向けて弾発付勢され、安全カバー10に、他方の挟持ローラ94が下方にある際にこれを一方の挟持ローラ93に対して離間させその位置を保持させるためのステー95が設けられている。
【0021】
安全カバー10の下端両側には、安全カバー10が閉状態のとき電磁スイッチ72に係合する係合部71を設け、印刷ユニットの両側板8,9に電磁スイッチ72が設けられている。電磁スイッチ72は、係合部71が係合し、かつ通電している間、係合部71を離脱不能に保持する。この通電は、全自動刷版交換の工程中は続くように制御されている。
【0022】
上記のような構成で、版胴4に刷版3を取り付ける工程(給版工程)について図1をもとに説明する。この場合作業者は、刷版案内板31を刷版設置姿勢C1とした状態で、刷版3を安全カバー10と刷版案内杆45との隙間に挿入する。続いて、さらに刷版3を降ろして安全カバー10の表面と下方の刷版案内杆46との隙間に送り、受け枠部材42の係止部に刷版3のくわえ端20を係止させておく。
【0023】
次に、操作者が不図示の給版スイッチを操作すると、吸引装置51に接続した吸引ポンプが駆動し、刷版3の版裏面を吸引する。このとき吸引装置51は吸引位置E1に位置している。
【0024】
次に、版胴4が回転し、くわえクランプ21が刷版3のくわえ端20を挿入する位置で停止した後、刷版案内板31が吸引装置51により刷版3を吸引した状態で、駆動装置により給版位置C2へ移動する。このとき、補助案内装置96は、給版誘導姿勢F1に駆動装置により傾動される。
【0025】
次に、吸引装置51が不図示の駆動装置により吸引位置E1から給版位置E2へと移動すると、刷版3のくわえ端20がくわえクランプ21に挿入される。
【0026】
このとき、作業者が誤って安全カバー10を開けた場合、刷版3のくわえ端20がくわえクランプ21に挿入されず給版不良となってしまうが、本発明においては、安全カバー10の下端部両側に設けた係合部71が電磁スイッチ72に係合し、電磁スイッチ72は通電されているので、係合部71は離脱不能に保持されており、安全カバー10は開かないようにロックされている。これにより作業者が誤って安全カバー10を開けることを回避できる。
【0027】
刷版3のくわえ端20がくわえクランプ21に挿入された後、くわえクランプ21を閉じて刷版3のくわえ端20をくわえる。その後、版胴4が反時計回りに回転(正転)し、刷版3を版胴4に所定量巻付けていく。このとき、傾動板97の先端部に配置された複数個の誘導部材98により刷版3は案内される。その後、版胴4に設けたくわえ尻クランプ23を閉じて刷版3のくわえ尻端22をくわえる。
【0028】
印刷が終了して版胴4から刷版3を取り外す工程(排版工程)の場合、図2に示すように刷版案内板31は刷版設置姿勢C1に位置しており、補助案内装置96は、排版誘導姿勢F2に位置している。この状態で、クランプ装置15が所定の位置に来るよう版胴4を回転させ、くわえ尻クランプ23による刷版3のくわえ尻端22のくわえ状態を解除する。そうすると、刷版3のくわえ尻端22がその弾性によって版胴4から外れ、排版誘導姿勢F2に位置している傾動板97の先端部に配置された複数個の誘導部材98に当たる。次に、版胴4を時計方向に回転(逆転)させると、刷版3の途中部分は順次版胴4から離れ、誘導部材98により排版方向G2へ誘導されながら刷版3のくわえ尻端22から順次排版案内板91,92間の案内経路内に送られる。
【0029】
このとき、作業者が誤って安全カバー10を開けた場合、刷版3は排版案内板91,92間の案内経路内に誘導されず、排版不良となってしまうが、本発明においては、安全カバー10の下端部両側に設けた係合部71が電磁スイッチ72に係合し、電磁スイッチ72は通電されているので、係合部71は離脱不能に保持されており、安全カバー10は開かないようにロックされている。これにより作業者が誤って安全カバー10を開けることを回避できる。
【0030】
次に、さらに、版胴4が時計方向に回転し、所定の位置で停止し、くわえクランプ21による刷版3のくわえ端20のくわえ状態を解除する。その後、刷版3は挟持ローラ93,94で表裏面を挟持された状態で、公知のシリンダ装置の駆動により挟持ローラ93,94の上動とともに安全カバー10の上部から外部へ排版される。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明に係る印刷機は、全自動刷版交換装置を装備した安全カバーを有する枚葉印刷機において極めて有用である。
【符号の説明】
【0032】
1…印刷部、2…本体カバー、3…刷版、4…版胴、4a…支軸、5…ゴム胴、6…インキローラ、10…安全カバー、15…クランプ装置、20…くわえ端、21…くわえクランプ、22…くわえ尻端、23…くわえ尻クランプ、31…刷版案内板、31a…支軸、42…受け枠部材、51…吸引装置、71…係合部、72…電磁スイッチ、90…排版装置、91,92…排版案内板、93,94…挟持ローラ、96…補助案内装置、96a…支軸、97…傾動板、98…誘導部材、A…給版装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷ユニットの版胴の刷版を全自動で交換する全自動刷版交換装置を装備した安全カバーを有する印刷機において、
該刷版を全自動で交換する工程中、該安全カバーの閉状態を保持するロック機構が設けられたことを特徴とする印刷機。
【請求項2】
該印刷ユニットの側板に電磁スイッチを設け、
該安全カバーが閉状態のとき該電磁スイッチに係合する係合部を該安全カバーに設け、
該電磁スイッチは、該係合部が係合し、かつ通電している間、該係合部を離脱不能に保持することを特徴とする請求項1に記載の印刷機。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−104883(P2011−104883A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262782(P2009−262782)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(000006943)リョービ株式会社 (471)
【Fターム(参考)】