説明

印刷機の圧胴または搬送胴の被覆体

【課題】印刷機の圧胴または搬送胴にインキが付着するのを防止する。
【解決手段】印刷機の圧胴または搬送胴の表面に装着される被覆体(ジャケット)であって、シート状の基材1の表面に、セラミックス粒子などの超硬度粒子2を散布し、超硬度粒子2がなす凹凸が残るように、基材1の表面に、低表面エネルギー樹脂であるPTFEの微粒子が均一に分散共析するニッケル−リンメッキ層4を形成してなり、更に、超硬度粒子2を、丸味状又は球形とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷機の圧胴または搬送胴にインキが付着するのを防止するために、圧胴または搬送胴に巻装される被覆体に関する。
【背景技術】
【0002】
紙などの両面に印刷を行なう印刷機の一例を図5に示す。この印刷機は両面印刷枚葉輪転印刷機であり、その構成は、給紙部101、印刷部102、排紙部103からなる。給紙部101においては、積み重ねられた枚葉紙が一枚ずつ取り出され、レジスタボード104、スウインググリッパ105、渡し胴106を経て印刷部102に供給される。
【0003】
印刷部102は、4個の表面印刷ユニット107A、107B、107C、107D及び4個の裏面印刷ユニット108A、108B、108C、108Dからなる。第1〜第4色目の表面印刷ユニット107A〜107Dは、紙くわえ爪を備えた圧胴109aの上部に、ブランケット胴(ゴム胴)110a、版胴111a、インキ装置(図示省略)を設けて構成されている。同様に、第1〜第4色目の裏面印刷ユニット108A〜108Dは、紙くわえ爪を備えた圧胴109bの下部に、ブランケット胴(ゴム胴)110b、版胴111b、インキ装置(図示省略)を設けて構成されている。
【0004】
表面印刷ユニット107A〜107Dと裏面印刷ユニット108A〜108Dとは、第1色目の表面印刷ユニット107Aの次に第1色目の裏面印刷ユニット108Aが来、その次に第2色目の表面印刷ユニット107Bが来るという具合に接続している。
【0005】
給紙部101から供給された枚葉紙は、第1表面印刷ユニット107Aの圧胴109aに受け渡されて、ブランケット胴110aに対して圧胴109aにより押圧されることにより、その表面に第1色目の印刷が施され、次いで第1裏面印刷ユニット108Aの圧胴109bに受け渡され、ブランケット胴110bに押圧されることにより、その裏面に第一色目の印刷が施される。その後上記と同様に第2〜第4表面印刷ユニット107B〜107D及び第2〜第4裏面印刷ユニット108B〜108Dにより、枚葉紙の表裏両面に交互に第2〜第4色目の印刷が施される。印刷終了後の枚葉紙は、最後尾の圧胴109bから搬送胴112を介して排出部103にて排出される。このような両面印刷機は、例えば特開平11−105249号公報に開示されている。
【0006】
このような両面印刷機においては、最上流に位置する圧胴109a以外の圧胴は、印刷された面、つまりインキの乗った面をブランケット胴110a、110bに対し押し付けることから、インキが圧胴109a、109bに付着し、圧胴109a、109bに付着したインキがその後の印刷物(枚葉紙)に付着し、印刷物を汚して不良印刷物としてしまうおそれがある。
【0007】
図6にはその様子を模式的に示してある。第1の表面印刷ユニット107Aのブランケット胴110aに枚葉紙113の表面が圧胴109aによって押し付けられることにより、枚葉紙113の表面にインキ114aが乗る、つまり印刷がなされる。次に、第1の裏面印刷ユニット108Aにおいては、ブランケット胴110bに枚葉紙113の裏面が圧胴109bにより押し付けられることにより、枚葉紙113の裏面にインキ114bが乗せられる。このとき、枚葉紙113の表面に乗っているインキ114aが圧胴109bに転移する。そして、そのインキが次に来る枚葉紙に移り、印刷物を汚してしまうのである。なお、このような不具合は、両面印刷機に限らず、片面印刷後に反転して裏面を印刷する両面兼用印刷機において裏面を印刷する場合にも同様に生じる。また、ブランケット胴110bに枚葉紙113を押し付ける圧胴109bほどではないが、枚葉紙113の印刷された面が胴表面に対向した状態で枚葉紙113を搬送する搬送胴112でも、同様の問題が発生する。尚、この搬送胴には、前記特開平11−105249号公報の図2の中間胴110や、片面印刷機において印刷ユニットの各圧胴間に枚葉紙を搬送する中間胴や渡し胴も含まれる。
【0008】
このような印刷物の汚れを防止するために、図7に示すように、インキが付着しにくい被覆体120を、第2の表面印刷ユニット107B以降の圧胴109a、すべての裏面印刷ユニット108A〜108Dの圧胴109b及び搬送胴112の表面に装着する技術が考えられている(特許文献2)。特許文献2に開示されている被覆体は、図8に示すように、基材121上にセラミックス溶射層122を溶射によって形成し、その上に、シリコーン系樹脂である低表面エネルギー樹脂123をコーティングするものである。124は、セラミックス溶射層122内に形成された空孔である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−105249号公報
【特許文献2】特開平2003−335075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記特許文献2に開示されている被覆体120は、基材121上にセラミックス溶射層122を溶射によって形成するのであるが、溶射によって均一な膜厚のセラミックス層を形成することは決して容易ではない。また、セラミックスを金属性板材等の基材121に密着させるためには、間に金属溶射層125を設けなければならず、生産性が悪い。
【0011】
また、特許文献2に記載の被覆体120は、表面の低表面エネルギー樹脂123が剥離、摩耗しやすく、頻繁に交換しなければならない。更に、低表面エネルギー樹脂123は、比較的柔らかいため、紙粉やごみが突き刺さりやすく、しかも低表面エネルギー樹脂123は、静電気特性が悪く、帯電しやすいことから、紙粉やごみが吸着されやすく、これらの紙粉やごみにインキが付くと短期間でインキ汚れが発生してしまう。なお、金属製板材等の基材121にセラミックス溶射層を溶射するため、一度使用した基材121を再利用できないという問題もある。
【0012】
本発明は、上記のような従来の被覆体における問題点を解決することを目的としてなされたもので、圧胴または搬送胴にインキが付着しにくくすることは勿論、耐久性があり、製作も容易で、しかも紙粉などが付着しにくい圧胴または搬送胴の被覆体を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成する本発明(第1の発明)に係る印刷機の圧胴または搬送胴の被覆体の構成は、
印刷機の圧胴または搬送胴に巻装され、インキが付着するのを防止する被覆体であって、
シート状の基材の表面に超硬度粒子を散布し、
前記超硬度粒子がなす凹凸が残るように、前記基材表面に、低表面エネルギー樹脂の微粒子を共析させた金属でメッキ(複合メッキ)をし、前記低表面エネルギー樹脂の微粒子を共析させた金属メッキが、前記超硬度粒子の半分以上を覆い、前記超硬度粒子を前記シート状の基材に固定してなり、
更に、前記超硬度粒子が、丸味状又は球形であることを特徴とする。
【0014】
超硬度粒子としては、例えば、セラミックス粒子、アモルファス合金粒子、ダイヤモンド粒子などが採用される。更には、タングステン、モリブデンなどの元素の粒子、タングステン、モリブデン、ホウ素、アルミニウム、チタン、珪素などの元素の酸化物または炭化物の粒子またはガラスの粒子が採用される。
【0015】
低表面エネルギー樹脂とは、表面自由エネルギーが小さい樹脂のことであり、本発明においては、インキが付きにくく、弾きやすい樹脂のことである。低表面エネルギー樹脂としては、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、四フッ化エチレン−パーフルオロビニルエーテル共重合体(PFA)、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、四フッ化エチレン−エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、三フッ化塩化エチレン樹脂(PCTFE)、更にはフッ化黒鉛等をあげることができる。なお、これらのうち、PTFEは、固体の中で最も低い表面エネルギー(18dyn/cm)を有しているので、望ましい。
【0016】
複合メッキとして採用される金属としては、ニッケル−リン(Ni−P)、ニッケル(Ni)、ニッケル−ボロン(Ni−B)等があげられる。尚、メッキの方法としては、電気メッキ、無電解メッキのいずれの方法でも可能である。
【0017】
低表面エネルギー樹脂の微粒子を共析させた複合メッキは、超硬度粒子の形状にもよるが、超硬度粒子を基材上に強固に保持できる厚さで施される。
【0018】
上記目的を達成する本発明(第2の発明)に係る印刷機の圧胴または搬送胴の被覆体の構成は、
印刷機の圧胴または搬送胴に巻装され、インキが付着するのを防止する被覆体であって、
シート状の基材の表面に超硬度粒子を散布し、
第1のメッキにより前記超硬度粒子を前記基材に固着し、
更に、前記超硬度粒子がなす凹凸が残るように、前記第1のメッキの表面に、低表面エネルギー樹脂の微粒子を共析させた金属で第2のメッキをし、前記第1のメッキ及び第2のメッキが、前記超硬度粒子の半分以上を覆い、前記超硬度粒子を前記シート状の基材に固定してなり、
更に、前記超硬度粒子が、丸味状又は球形であることを特徴とする。
【0019】
この第2発明においては、超硬度粒子の形状にもよるが、第1のメッキ及び第2のメッキは、超硬度粒子を強固に保持できる厚さで施される。
【0020】
上記目的を達成する本発明(第3の発明)に係る印刷機の圧胴または搬送胴の被覆体の構成は、第1の発明又は第2の発明において、前記超硬度粒子が、低表面エネルギー樹脂の微粒子を共析させたメッキ層から突出し、又は前記超硬度粒子が、低表面エネルギー樹脂の微粒子を共析させたメッキ層で覆われていることを特徴とする。つまり、超硬度粒子そのものの一部が複合メッキの表面から突出して凹凸をなしていてもよいし、超硬度粒子が、低表面エネルギー樹脂の微粒子を含むメッキ層で覆われた状態で凹凸をなしていてもよい。
【0021】
上記目的を達成する本発明(第4の発明)に係る印刷機の圧胴または搬送胴の被覆体の構成は、第1の発明又は第2の発明に係る圧胴または搬送胴の被覆体において、前記被覆体がなす表面粗度が、Rz=5〜40μmであることを特徴とする。
【0022】
上記目的を達成する本発明(第5の発明)に係る印刷機の圧胴または搬送胴の被覆体の構成は、第1の発明又は第2の発明に係る圧胴または搬送胴の被覆体において、前記超硬度粒子の平均粒径が、3〜30μmであることを特徴とする。
【0023】
上記目的を達成する本発明(第6の発明)に係る印刷機の圧胴または搬送胴の被覆体の構成は、第1の発明又は第2の発明に係る圧胴または搬送胴の被覆体おいて、前記低表面エネルギー樹脂の微粒子を共析させた金属における低表面エネルギー樹脂の微粒子が体積比で10〜60%共析されたものであることを特徴とする。
【0024】
上記目的を達成する本発明(第7の発明)に係る印刷機の圧胴または搬送胴の被覆体の構成は、第1の発明又は第2の発明に係る圧胴または搬送胴の被覆体おいて、前記低表面エネルギー樹脂の微粒子の粒径が、0.05〜15μmであることを特徴とする。
【0025】
第1の発明又は第2の発明に係る圧胴または搬送胴の被覆体おいて、前記超硬度粒子は、例えば、丸味状アルミナ又は球形アルミナである。
【0026】
超硬度粒子が丸味状、球状をなすものである場合には、その平均粒径の超硬度粒子の丈の半分以上を覆うように、つまり最大径を超えるようにメッキが施される。最大径を超えてメッキを施すことにより、超硬度粒子は基材側に強固に保持された状態となる。固定を強固なものとするためには、超硬度粒子の丈の55%から65%程度が埋まっていることが望ましい。
【発明の効果】
【0027】
第1の発明に係る印刷機の圧胴または搬送胴の被覆体によれば、超硬度粒子が、紙、フィルムなどの印刷媒体を押すので、押圧点は極小点であり、インキ汚れがほとんど生じない。超硬度粒子であるので、低表面エネルギー樹脂と比べて摩耗が極めて小さく、耐久性が高い。超硬度粒子は、低表面エネルギー樹脂を共析させた複合メッキで保持されているので、脱落、剥離などがない。しかも、複合メッキは、低表面エネルギー樹脂を共析させてあるので、低表面エネルギー性が担保され、インキが付きにくくなる。更に、複合メッキのマトリックスが金属であることから、紙粉等が付着しにくい。更に、溶射が不要であることから、被覆体自体の製造も容易である。
また、前記超硬度粒子を、丸味状又は球形とすることにより、紙、布などの印刷部を傷付けることがなくなる。更に、超硬度粒子の形状がそろっていることにより、超硬度粒子を基材に強固に保持するためのメッキの厚さの調整が容易となる。
【0028】
第2の発明に係る印刷機の圧胴または搬送胴の被覆体によれば、第1の発明の効果に加えて、セラミックス粒子を先ず第1メッキのみで基材に保持し、その上に、低表面エネルギー樹脂を共析させた第2メッキをするので、第2メッキの厚さが薄くてすみ、高価な低表面エネルギー樹脂の使用量を少なくすることができる。また、第1のメッキとしては、低表面エネルギー樹脂の分散性等を考慮することなく、超硬度粒子の固定のみを目的とした金属を使用でき、セラミックス粒子の保持をより強固なものとすることができる。
また、前記超硬度粒子を、丸味状又は球形とすることにより、紙、布などの印刷部を傷付けることがなくなる。更に、超硬度粒子の形状がそろっていることにより、超硬度粒子を基材に強固に保持するためのメッキの厚さの調整が容易となる。
【0029】
第3の発明に係る印刷機の圧胴または搬送胴の被覆体によれば、前記超硬度粒子が、低表面エネルギー樹脂の微粒子を共析させたメッキ層から突出している場合には、凹凸の凸をなす超硬度微粒子そのものの先端部(頂面)が印刷物に当たって、印刷物をブランケット胴側に押し付けることになるが、この部分は極小点であるので、この極小点に、インキが付着し、印刷面には小さな白抜け(インキがない部分)が生じることになるが、肉眼では気にならないほどのちいさなものであるので、問題にはならない。また、異なる印刷物を印刷するときには、インキが付着した超硬度粒子の部分が絵柄の場合にはそれ以上にインキが付着しないため問題とはならず、絵柄ではない部分についても試し刷りの間に超硬度粒子の凸部先端に付着したインキが印刷物に持っていかれるため、本刷り時には、問題とはならない。なお、セラミックス粒子やアモルファス合金粒子、ダイヤモンド粒子である超硬度粒子は硬度が極めて高いため、摩耗等が非常に発生しにくく、接触部分の面積も拡大しにくく、長期間に渡ってインキによる汚れが防止できる。
【0030】
また、前記超硬度粒子の凸部が、低表面エネルギー樹脂の微粒子を共析させたメッキ層で覆われている場合には、凸部自体が離型性にすぐれ、インキが付きにくくなる。しかも、低表面エネルギー樹脂は、複合メッキで保持されているので、剥離しにくく、インキの付きにくさが持続する。凸部を被覆するメッキ層が摩耗して、セラミックス粒子の凸部が露出した場合には、前述したように、超硬度粒子のメッキ層から突出している部分が極小点であり、かつ高い硬度を有することにより、インキで汚れることはなく、印刷物を汚すこともない。
【0031】
第4の発明に係る印刷機の圧胴または搬送胴の被覆体によれば、表面粗度をRz=5〜40μmの範囲に設定することにより、被覆体の表面が汚れにくくなる。つまり、表面粗度が5μmより小さいと、印刷面と接触する面積が大きくなり、被覆体の表面にインキが付着し、汚れてしまう。また、表面粗度が40μmより大きくなると、超硬度粒子の凸部先端が紙などの印刷物自体を傷つけ、清浄な印刷物ができなくなってしまう。
【0032】
第5の発明に係る印刷機の圧胴または搬送胴の被覆体によれば、超硬度粒子の平均粒径を3〜30μmの範囲に設定することにより、被覆体の表面が汚れにくくなる。つまり、超硬度粒子の平均粒径が3μmより小さいと、被覆体の表面粗さが小さくなり過ぎ、被覆体の表面にインキが付着し、汚れてしまう。また、超硬度粒子の平均粒径が30μmより大きいと、被覆体の表面粗さが大きくなり過ぎ、超硬度粒子の凸部先端が紙、布などの印刷物自体を傷つけ、正常な印刷物ができなくなってしまう。
【0033】
第6の発明に係る印刷機の圧胴または搬送胴の被覆体によれば、複合メッキ中の低表面エネルギー樹脂の微粒子が体積比で10〜60%共析されたものとすることにより、被覆体の表面が汚れにくくなる。この体積比が10%より小さくなると、メッキのインキを弾く力が弱くなり過ぎ、メッキ表面つまり被覆体表面にインキが付着し、汚れてしまう。また、この体積比を60%より大きくすることは、現在技術的に困難である。
【0034】
第7の発明に係る印刷機の圧胴または搬送胴の被覆体によれば、低表面エネルギー樹脂の微粒子の粒径を0.05〜15μmの範囲で設定することにより、被覆体の表面が汚れにくくなる。低表面エネルギー樹脂の微粒子の粒径を0.05μmより小さくすることは、技術的に困難であり、市販もされていない。また、低表面エネルギー樹脂の微粒子の粒径を15μmより大きくすると、超硬度粒子の粒径に近くなり、その結果、メッキの厚みが厚くなり、被覆体表面の粗さが小さくなって被覆体表面にインキが付着し、汚れてしまう。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施例(実施例1)に係る印刷機の圧胴または搬送胴の被覆体の部分断面図である。
【図2】本発明の他の実施例(実施例2)に係る印刷機の圧胴または搬送胴の被覆体の部分断面図である。
【図3】本発明の他の実施例(実施例3)に係る印刷機の圧胴または搬送胴の被覆体の部分断面図である。
【図4】本発明の他の実施例(実施例4)に係る印刷機の圧胴または搬送胴の被覆体の部分断面図である。
【図5】両面印刷機の一例の概略側面図である。
【図6】圧胴へのインキの付着を説明する模式図である。
【図7】被覆体を装着した圧胴または搬送胴の概略図である。
【図8】従来の被覆体の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明に係る印刷機の圧胴または搬送胴の被覆体を実施例により図面を用いて詳細に説明する。
【実施例1】
【0037】
図1は本発明の第1の実施例に係る被覆体(ジャケット)の部分拡大断面図である。
【0038】
図1に示すように、シート状の基材1上に超硬度粒子2が散布される。シート状の基材1としては、例えばステンレス鋼板、アルミ等の耐食性金属板などが採用される。超硬度粒子2としては、セラミックス粒子、アモルファス合金粒子、ダイヤモンド粒子、タングステン、モリブデンなどの粒子、更には、タングステン、モリブデン、ホウ素、アルミニウム、チタン、珪素などの酸化物または炭化物の粒子またはガラスの粒子が使用できる。
【0039】
超硬度粒子2は、その平均粒径が3〜30μmの範囲のものが採用される。被覆体とした場合、超硬度粒子2の平均粒径が3μmより小さいと、被覆体の表面粗さが小さくなり過ぎ、被覆体の表面にインキが付着し、汚れてしまう。また、超硬度粒子2の平均粒径が30μmより大きいと、被覆体の表面粗さが大きくなり過ぎ、超硬度粒子2の凸部先端が紙、布などの印刷物自体を傷つけ、正常な印刷物ができなくなってしまう。10〜20μmの範囲が最適である。
【0040】
超硬度粒子2は、基材1上に隙間なく散布されるのではなく、粒子間に適当な間隔があくように散布される。セラミックス粒子2の形状としては、例えば、表面が滑らかな丸味を帯びたもの、更には球形のものなどが採用される。具体的には、昭和電工株式会社製の丸味アルミナASシリーズ、株式会社マイクロン製の球状アルミナ微粒子が採用できる。
【0041】
基材1上に、低表面エネルギー樹脂の微粒子3を均一に分散共析させた複合メッキが施され、基材1がメッキ層(複合メッキ層)4で覆われる。複合メッキ層4は、超硬度粒子2がなす凹凸が残るように、超硬度粒子2の半分以上を覆う。具体的には、超硬度粒子2のなす凹凸の表面粗度が、Rz=5〜40μmとなるように複合メッキ層4が形成される。表面粗度をRz=5〜40μmとするのは、被覆体とした場合、表面粗度が5μmより小さいと、印刷面と接触する面積が大きくなり、被覆体の表面にインキが付着し、汚れてしまう。また、表面粗度が40μmより大きくなると、超硬度粒子の凸部先端が紙などの印刷物自体を傷つけ、清浄な印刷物ができなくなってしまう。より好ましくは、超硬度粒子2のなす凹凸の表面粗度は、Rz=15〜30μmである。
【0042】
超硬度粒子2を基材1に強固に固定するためには、超硬度粒子2の丈の半分以上がメッキで埋まっていることが望ましい。より強固に超硬度粒子2を固定するには、平均粒子径のものの丈の55%から65%程度が埋まっていることが望ましい。メッキの厚さは、メッキの方法にもよるが、例えばメッキ時間を調整することにより容易に調節することができる。
【0043】
超硬度粒子2は、マトリックスが金属である、低表面エネルギー樹脂の微粒子3を均一に分散共析させた複合メッキ層4で固定されるので、基材1に対し1個1個強固に保持される。なお、無電解メッキを使用した場合には、熱処理することにより、マトリックスの硬度を高めることができ(Hv500〜900)、耐摩耗性を向上させることができる。
【0044】
凹凸をなす超硬度粒子2の凸部と凸部との間隔(ピッチ)は、超硬度粒子2の含有率で調整可能である。ピッチ幅が細か過ぎると超硬度粒子の接触面積が大きくなり、白抜け部の数が多くなり過ぎ、粗すぎると複合メッキ層4の多くの部分に枚葉紙112が直接接触するようになってインキ汚れが発生し、印刷品質が劣化する。このような理由から、50〜100μmが望ましい。
【0045】
この例では、複合メッキ4としては、低表面エネルギー樹脂の微粒子3として四フッ化エチレン樹脂(PTFE)を共析させたニッケル−リン(Ni−P)合金が採用されている。低表面エネルギー樹脂の微粒子3としては、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)以外のフッ素樹脂として、四フッ化エチレン−パーフルオロビニルエーテル共重合体(PFA)、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、四フッ化エチレン−エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、三フッ化塩化エチレン樹脂(PCTFE)、更にはフッ化黒鉛等が使われる。PTFEは、固体の中で最も低い表面エネルギー(18dyn/cm)を有しているので、望ましい。
【0046】
PTFE微粒子等が分散共析される金属、つまりメッキのマトリックスとしては、ニッケル−リン(Ni−P)以外に、例えばニッケル(Ni)、ニッケル−ボロン(Ni−B)等が採用される。複合メッキ4は、マトリックスに対しフッ素樹脂等の低表面エネルギー樹脂の微粒子3が、体積比で10〜60%共析されたメッキとする。金属マトリックスに対する低表面エネルギー樹脂の微粒子3の体積比を10〜60%としたのは、体積比が10%より小さくなると、メッキのインキを弾く力が弱くなり過ぎ、メッキ表面つまり被覆体表面にインキが付着し、汚れてしまう。また、この体積比を60%より大きくすることは、現在技術的に困難である。
【0047】
また、複合メッキ4中に共析される低表面エネルギー樹脂の微粒子3の粒径は、0.05〜15μmとする。低表面エネルギー樹脂の微粒子の粒径を0.05μmより小さくすることは、技術的に困難であり、市販もされていない。つまり、下限値0.05μmは、実施する上での技術的、経済的な理由による。また、低表面エネルギー樹脂の微粒子の粒径の上限を15μmとしたのは、これより大きくすると、超硬度粒子の粒径に近くなり、その結果、メッキの厚みが厚くなり、被覆体表面の粗さが小さくなって被覆体表面にインキが付着し、被覆体が汚れてしまうことによる。
【0048】
以上のように、複合メッキ4に低表面エネルギー樹脂の微粒子3を共析させることにより、複合メッキ4の表面の低表面エネルギー性が確保される。つまり、インキを寄せ付けにくく、弾きやすい性質が担保されるのである。
【0049】
また、複合メッキ4は、低表面エネルギー樹脂の微粒子3が、金属マトリックスに保持されているため、剥離や摩耗がしにくい。低表面エネルギー樹脂の微粒子3以外の表面は、メッキのマトリックスである金属(例えば、Ni−P)であるため、紙粉やごみ等が突き刺さりにくくなっている。更に、低表面エネルギー樹脂の微粒子3以外の表面は金属であるメッキのマトリックスであるため、通電性があり、帯電しにくく、紙粉やごみなどを吸着しにくい。
【0050】
上述の如くして得られた被覆体10は、図5に示した印刷機に適用する場合には、第2の表面印刷ユニット107B以降の圧胴109a、すべての裏面印刷ユニット108A〜108Dの圧胴109b、及び搬送胴112に装着される。装着は、例えば、図7に示すように、被覆体10の両端を圧胴109a(109b)及び搬送胴112の溝11内に挿入し、溝11内に設けた保持装置(図示省略)により被覆体10を張って保持することによりなされる。
【0051】
この被覆体10を装着した圧胴及び搬送胴を用いた印刷機による両面印刷においては、枚葉紙をブランケット胴側に押し付けるとき及び枚葉紙を搬送するときには、超硬度粒子2がなす凹凸の凸部が枚葉紙に当たることになる。凸部の先(超硬度粒子2の先端2a)という極小の点で枚葉紙に接するので、点接触効果により、印刷後のインキが付着しても、更に次に来る印刷紙を汚すことはほとんどなく、印刷品質に影響を与えない。超硬度粒子2の先端2aにのみインキが付着する一方、その部分に対応していた印刷面には小さな白抜け(インキがない部分)ができてしまうが、肉眼では気にならないほど小さなものであり、印刷物としては何ら問題はない。
【0052】
また、異なる印刷物を印刷するときは、インキが付着した超硬度粒子2の先端2aに対応する部分が絵柄部分である場合には、それ以上インキが付着しないため問題とはならない。絵柄部分でない場合には、試験刷りの間に超硬度粒子2の先端2aに付着していたインキは印刷物に転移して持っていかれるため、本刷り時には問題にはならない。
【0053】
なお、超硬度粒子2の先端が鋭利であると、薄紙の印刷時に薄紙に孔があいてしまい、また、ベタ部のスクラッチが発生し、印刷物を損傷させてしまうおそれがあるが、本実施例の如く、超硬度粒子2として丸味状又は球状のセラミックス粒子などを採用すれば、これらの問題は生じない。
【0054】
被覆体10の表面は、超硬度粒子2と、複合メッキ4とからなっているので、印刷中に紙粉やごみなどが付着しにくく、また静電気を帯びにくいことから紙粉やごみなどを吸着しにくく、このような面からも被覆体10のインキ汚れを起こしにくくなっている。
【0055】
このような被覆体10を装着した圧胴109a、109b又は搬送胴112によれば、長期に亘ってインキ汚れを防止することができる。つまり、洗浄までの時間が長くなり、印刷の生産性を上げることができる。印刷汚れが発生した場合には、圧胴109a、109b又は搬送胴112を洗浄することになるが、超硬度粒子2、低表面エネルギー樹脂の微粒子3は、メッキの金属マトリックスにより強固に保持されているので、洗浄によって離脱、脱落することがない。また、複合メッキ層4は、表面が摩耗しても新たな低表面エネルギー樹脂の微粒子3が露出してくるので、離型性が持続し、凹部の汚れも簡単に洗浄できる。
【0056】
更に、この被覆体10は、前述した製造と逆の工程を行なうことによりメッキを取り去ることができ、一度使用した基材1を再利用することができる。
【実施例2】
【0057】
図2には、他の実施例に係る圧胴または搬送胴の被覆体の部分断面を示す。
この実施例に係る被覆体20は、基材1上にセラミックス粒子などの超硬度粒子2を散布する点は、実施例1と同じであるが、その上を、低表面エネルギー樹脂の微粒子を共析させた複合メッキで覆うのではなく、先ず、ニッケル(Ni)メッキ(第1メッキ)により、超硬度粒子2を基材1上に固定する。このニッケルメッキ層(第1メッキ層)21により、超硬度粒子2は基材1に強固に固定される。次に、PTFE微粒子3を含有するニッケル−リン(Ni−P)の複合メッキ(第2メッキ)を施し、超硬度粒子2の半分以上を覆う。この場合、第2メッキによるニッケル−リンメッキ層(複合メッキ層)22は薄くてすみ、高価なPTFEの使用量を低減することができる。
【0058】
この実施例における、超硬度粒子2の材料、粒径、分布は実施例1と同様である。また、第2メッキ層22における低表面エネルギー樹脂の微粒子の材料、粒径、分布の度合い等も実施例1のものと同様である。
【実施例3】
【0059】
図3には、第3の実施例に係る圧胴または搬送胴の被覆体の部分断面を示す。
この実施例に係る被覆体30は、超硬度粒子31の頂面部分もメッキ層で覆うようにしたものである。その構造は、腐食させたセラミックス粒子31を基材1上に散布し、その上に、低表面エネルギー樹脂の微粒子を均一に分散共析させた複合メッキ32を形成したものである。
【0060】
図3に示すように、セラミックス粒子31の表面も複合メッキ層32で覆われ、全体として凹凸を形成する。この実施例における、基材1の材料、低表面エネルギー樹脂、その微粒子を含有する複合メッキ32を形成する金属材料は、実施例1のものと同じであり、セラミックス粒子31の粒径、平均粒度、複合メッキ32における低表面エネルギー樹脂の体積率、低表面エネルギー樹脂の微粒子の粒径なども実施例1のものと同じである。
【0061】
この実施例に係る被覆体30を用いた圧胴または搬送胴にあっては、セラミックス粒子31の複合メッキ32の薄膜で覆われた点(頂部32a)が、紙、布などの印刷媒体に接触することになる。この部分32aも低表面エネルギー性を有するので、印刷面に当たったとしてもインキを弾き、インキが移ることはなく、その後の印刷物を汚すことがない。頂部32aを覆うのは複合メッキであり、単なる低表面エネルギー樹脂ではないので、耐摩耗性もあり、長期間に亘ってインキを弾く、寄せ付けない機能を発揮する。
【0062】
頂部32aが摩耗してセラミックス粒子31が露出したとしても、セラミックス粒子31の先端31aは極小点であり、以後は、この部分31aが、実施例1で説明したのと同じように機能して、印刷物の汚れを防ぐ。
【実施例4】
【0063】
図4には第4の実施例に係る圧胴または搬送胴の被覆体の部分断面を示す。
この実施例に係る被覆体40は、腐食させたセラミックス粒子31を用い、図2に示した実施例と同様に、先ず金属メッキのみでセラミックス粒子の固定をし、その上に、低表面エネルギー樹脂の微粒子を含有する複合メッキを施し、セラミックス粒子31の頂部をもメッキで覆うようにしたものである。
【0064】
図4に示すように、基材1上に、腐食させたセラミックス粒子31を散布し、次いで、基材1上にニッケルメッキ(第1メッキ)を施す。ニッケルメッキ層(第1メッキ層)41は、平均粒径のセラミックス粒子31の丈の半分以上を覆うように施される。セラミックス粒子31の固定を完全にするためには、その丈の55〜65%が埋まるようにすることが望ましいのは他の実施例と同様である。このニッケルメッキ層41を形成した状態では、セラミックス粒子31の先端部はニッケルメッキ層41から突出した状態にあり、多数のセラミックス粒子31の先端部が凹凸を形成する。
【0065】
次いで、ニッケルメッキ層41上に、PTFE微粒子3を含有するニッケル−リン(Ni−P)メッキの複合メッキ(第2メッキ)を施す。複合メッキ層(第2メッキ層)42は、セラミックス粒子31がメッキ可能となっているので、セラミックス粒子31の表面にもメッキは乗る。つまり、PTFE微粒子3を含有する複合メッキ層42で覆われた凹凸が形成されるのである。
【0066】
この実施例における、セラミックス粒子31の粒径、平均粒度、複合メッキ層42における低表面エネルギー樹脂の体積率、低表面エネルギー樹脂の微粒子の粒径なども実施例1のものと同じである。また、基材1の材料、複合メッキ層42の他の材料としても、実施例1であげたものと同じものが採用できる。
【0067】
この実施例では、第3実施例のものに比べ、第2メッキ層42は薄くてすみ、高価なPTFEの使用量を低減することができる。この実施例に係る被覆体を用いた場合の、インキによる汚れを防止する作用効果、印刷物の汚れを防止する作用効果は、実施例3のものと同様である。
【符号の説明】
【0068】
1 基材、2 超硬度粒子、3 PTFE微粒子、4 複合メッキ層、 10 被覆体、20 被覆体、 21 ニッケルメッキ層(第1メッキ層)、 22 複合メッキ層(第2メッキ層)、 30 被覆体、 31 超硬度粒子、 32 複合メッキ層、 40 被覆体、 41 ニッケルメッキ層(第1メッキ層)、42 複合メッキ層(第2メッキ層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷機の圧胴または搬送胴に巻装され、インキが付着するのを防止する被覆体であって、
シート状の基材の表面に超硬度粒子を散布し、
前記超硬度粒子がなす凹凸が残るように、前記基材表面に、低表面エネルギー樹脂の微粒子を共析させた金属でメッキをし、前記低表面エネルギー樹脂の微粒子を共析させた金属メッキが、前記超硬度粒子の半分以上を覆い、前記超硬度粒子を前記シート状の基材に固定してなり、
更に、前記超硬度粒子が、丸味状又は球形であることを特徴とする印刷機の圧胴または搬送胴の被覆体。
【請求項2】
印刷機の圧胴または搬送胴に巻装され、インキが付着するのを防止する被覆体であって、
シート状の基材の表面に超硬度粒子を散布し、
第1のメッキにより前記超硬度粒子を前記基材に固着し、
更に、前記超硬度粒子がなす凹凸が残るように、前記第1のメッキの表面に、低表面エネルギー樹脂の微粒子を共析させた金属で第2のメッキをし、前記第1のメッキ及び第2のメッキが、前記超硬度粒子の半分以上を覆い、前記超硬度粒子を前記シート状の基材に固定してなり、
更に、前記超硬度粒子が、丸味状又は球形であることを特徴とする印刷機の圧胴または搬送胴の被覆体。
【請求項3】
前記超硬度粒子が、低表面エネルギー樹脂の微粒子を共析させたメッキ層から突出し、又は前記超硬度粒子が、低表面エネルギー樹脂の微粒子を共析させたメッキ層で覆われていることを特徴とする請求項1又は2に記載の印刷機の圧胴または搬送胴の被覆体。
【請求項4】
前記被覆体がなす表面粗度が、Rz=5〜40μmであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の印刷機の圧胴または搬送胴の被覆体。
【請求項5】
前記超硬度粒子の平均粒径が、3〜30μmであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の印刷機の圧胴または搬送胴の被覆体。
【請求項6】
前記低表面エネルギー樹脂の微粒子を共析させた金属における低表面エネルギー樹脂の微粒子が体積比で10〜60%共析されたものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の印刷機の圧胴または搬送胴の被覆体。
【請求項7】
前記低表面エネルギー樹脂の微粒子の粒径が、0.05〜15μmであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の印刷機の圧胴または搬送胴の被覆体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−105010(P2011−105010A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24618(P2011−24618)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【分割の表示】特願2005−308677(P2005−308677)の分割
【原出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【出願人】(000184735)株式会社小森コーポレーション (403)
【出願人】(505197274)株式会社東電工舎 (4)
【Fターム(参考)】