説明

印刷機用番号器

【課題】従来の印刷機用番号器よりも印刷性能を向上させるとともに、延命化することが可能な印刷機用番号器を得る。
【解決手段】筒状に形成した軸と、前記軸へ必要けた数分並列して構成された円筒体の表面にそれぞれの数字や文字を彫刻したリング状の各字輪と、字輪に固着し軸に嵌装した字輪を駆動させるための歯車と、前記歯車と接触し前記字輪を回動させ字送り及びけた上げ可能な送り爪とから構成されている印刷機用番号器であって、前記軸の表面に各字輪との嵌合箇所へ潤滑油を滞留させるための油溝を設けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、字輪変換における軸の摩滅損耗を抑制するための油溝を設けた印刷機用番号器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
印刷機用番号器は、軸に字輪、歯車、送り爪などを嵌合したものが一般的に用いられている。記番号が彫刻された字輪は、字輪に嵌装した歯車を送り爪により回転させることで機械式ナンバリング装置として広く用いられている。しかしながら、字輪が高速で転換することから、軸との間に摩擦が発生し少なからず磨耗する。一般に摩擦解消のため、軸へ適合する潤滑油を塗布しているが、今日、印刷機用番号器が日進月歩で更に高速化しており、字輪と軸との摩擦による発生熱が高く、潤滑油が揮発し、摩擦が解消されないで磨耗する事象が発生している。また、軸に嵌合した字輪は字輪間が狭隘な場所であるため、十分な潤滑油の塗布が困難であることも磨耗を抑制できない原因であり、磨耗を助長していた。このことにより、印刷経過に伴い軸が摩滅損耗し、字輪の転換が十分に行えなくなり、印刷した記番号位置が上下にばらつく字並び不良と称する印刷障害や、字輪が回転せず同じ記番号を印刷する八重番印刷と称する印刷障害を発生させている。
【0003】
字輪の回転不良により字輪の繰り上がりミスが発生した場合、機械運転中には発見できないため、印刷後にオペレータにより発見されることになり、この間の作業時間及び用紙等に大きな損失が発生する。
【0004】
前記印刷機用番号器における軸の代替材料として、磨耗を改善するため、オイル含有メタルを用いる方法がある。この場合、多孔質の金属表面にあらかじめオイルを10〜20%染み込ませておくものであるが、近年の高速印刷(枚葉紙;10,000〜12,000枚/時間)により、前記字輪が高速回転することから、軸に染み込ませたオイルが飛散し、被印刷製品に付着するといった不具合を生じることになる。また、使用経過とともに軸のオイル成分が枯れ、結局は給油することとなり、前述した問題点が解消できないでいた。
【0005】
また、軸の表面軸方向へ潤滑油をためるための油溝を設けることにより、上述した問題点を回避する方法があるが、字輪によっては回動が著しく少ない部位(例えば、1万位や10万位の字輪)もあり、この部位へは滞留した油が滲み出し易く、製品へ付着するといった不具合を生じることから、効果的であるとはいえないものであった。
【0006】
印刷機用番号器の軸は印刷経過にともない磨耗が顕著となることから、これらをかんがみ、オペレータは前述した印刷障害を未然に抑制するため、定期的な番号器自体の分解洗浄を余儀なくされていた。また、軸の磨耗状態によっては軸自体を交換する場合があり、このことがオペレータにとって厄介かつ面倒であっただけでなく、印刷効率を著しく低下させていた。これらの問題を勘案した印刷機用番号器の軸として、磨耗を抑制でき、連続的に長期間の記番号印刷が可能な軸が強く求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
軸の材質として低摩擦係数であるフッ素系樹脂やセラミックスと鋼を混合焼結したTiC−Ni系合金であるサーメットへ変更することが行われている。これらの材質の場合、従来のオイル含有メタルを材質としていた場合と比較し、耐磨耗性に優れ延命化が可能である。しかし、時間の経過とともに劣化することに変わりなく、やがて軸表面が摩擦減耗して凹凸化し、前述した様々な不具合を生じさせることとなる。また、磨耗頻度は鈍化したものの磨耗することに変わりなく、定期的な軸交換が必要不可欠であった。
【0008】
また、これらの印刷機用番号器の軸はオイル含有メタルと比較して、コスト単価が2〜3倍であるが、わずかな延命化しか望むことができないでいた。さらに、オペレータの作業は従前と比較して大きく軽減されることなく、印刷機用番号器の軸として移行しない場合もあり、定着していない現状がある。
【0009】
本発明は、前記問題点を解決するため、従来の印刷機用番号器よりも印刷性能を向上させるとともに、延命化することが可能な印刷機用番号器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の印刷機用番号器は、円柱状に形成した軸と、前記軸へ必要けた数分並列して構成された円筒体の表面に夫々の数字や文字を彫刻したリング状の各字輪と、字輪に固着し軸に嵌装した字輪を駆動させるための歯車と、前記歯車と接触し前記字輪を回動させ字送り及び桁上げ可能な送り爪とから構成される印刷機用番号器において、前記軸の表面には各字輪との嵌合箇所へ潤滑油を滞留させるための油溝を設けたことを特徴としている。
【0011】
また、前記油溝は、字輪の各位に対応して滞留する油量を変化させる形状であることを特徴としている。
【0012】
また、前記軸の材質として高速度鋼を用いたことを特徴としている。
【0013】
また、前記軸の表面へ用いる潤滑油として、粘度10〜50mm/Sに調整された鉱油又は合成油を用いたことを特徴としている。
【0014】
また、前記軸の表面へフッ素系界面活性剤を予め塗布したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の印刷機用番号器の軸が十分な潤滑油を滞留できる形状であり、適度な界面潤滑が実現できることから、優れた耐摩耗性を有することになり、オイル含有メタルを用いた従来の印刷機用番号器の軸のように、磨耗による度重なる番号器の分解洗浄や番号器そのものの交換作業を必要とせず、また長期間の繰り返し使用によっても、従来の印刷機用番号器の軸に見られる摩滅損耗に起因する印刷障害を回避することができる。
【0016】
また、前記軸の材質として高速度鋼を用いた本発明の印刷機用番号器の軸は、剛性に優れていることで軸の磨耗が抑制されることから印刷適性に優れ、連続的に品質の良い印刷物を得ることができるという効果を奏する。
【0017】
また、前記軸の表面へ用いる潤滑油として、粘度10〜50mm/Sに調整された鉱油又は合成油を用いたことから、字輪内周面へ適正な潤滑油膜を形成することが可能となり、字輪内周面又は軸表面の摩滅損耗を大幅に抑制することが可能となる効果を奏する。
【0018】
また、前記軸の表面へフッ素系界面活性剤をあらかじめ塗布することで、軸表面を界面活性剤にて1次的にコーティングすることが可能となり、直接的に潤滑油から受ける熱的エネルギーの前記軸への伝達を規制することができることから磨耗が抑制でき、長期間にわたり連続的に使用することできるという効果を奏する。
【0019】
また、従来頻繁に実施していた印刷機用番号器の分解清掃や軸交換といった作業が軽減されることから、オペレータの作業負荷が大幅に軽減できるとともに、生産性の向上が図れるという効果を奏する。
【0020】
さらに、本発明の印刷機用番号器の軸を用いることで、従来の印刷機用番号器の軸に生ずる不都合がすべて解消され、長期間の繰り返し使用にも十分なる耐久性を有し、また印刷品質が低下することがないという効果を奏する。
【実施例】
【0021】
以下、図1乃至図9に基づき、この発明の実施形態を説明する。図1は本発明に係る番号器の軸の外観図、図2は本発明に係る番号器の軸の断面図、図6は本発明に係る番号器の軸の別角度の断面図をそれぞれ示す図である。また、図3、図4は本発明に係る別形態の番号器の軸の断面図である。また、図8は一般的な番号器の軸の外観図、図9は一般的な番号器字輪の外観図である。
【0022】
図9のとおり一般的な印刷機用番号器は、円柱状に形成した軸6と、前記軸6へ必要桁数分並列して構成された円筒体の表面に夫々の数字や文字を彫刻したリング状の各字輪3と、字輪に固着し軸に嵌装した字輪3を駆動させるための歯車8と、前記歯車と接触し前記字輪を回動させ字送り及びけた上げ可能な送り爪9と、図示しない位置決め及び桁上げを行うための字輪転換カム仕組みとから構成されている。ここで、番号器の軸6の材質としては主にオイル含有メタルである。
【0023】
図1に示す本発明の印刷機用番号器の軸1は、前記軸1に潤滑油4を投入するための潤滑孔5及び前記潤滑油4を滞留させるための油溝2を前記字輪3との嵌合箇所へ円弧状に形成している。ここで、前記油溝2の深さは所定の値を有し(本実施例では、表面より0.1〜3.0mmの深さ)、この所定の値は前記軸1と前記字輪3の摩擦度合に相応する。すなわち、極めて有利には前記軸1の油溝2の深さは摩擦力解放のために可変的に設定する。例えば、字輪3の回動が顕著である軸部位(記番号字輪の1位字輪と嵌合接触する部位)は前記軸1の油溝2を深く形成している。逆に、顕著に回動しない軸部位(記番号字輪の10万位字輪と嵌合接触する部位)は、前記軸1の油溝2を浅く形成している。記番号字輪1位の回動は10位と比較して10倍、100位と比較して100倍回動することとなり、それぞれ独立に作動する。前記油溝2は前記潤滑油4を局所的につなぎ止めるという任務を有する。
【0024】
前記軸1の油溝2へ用いる潤滑油4は、粘度10〜50mm/Sに調整された鉱油又は合成油であり、潤滑孔5より前記軸1の油溝2へ注入する。図5に示すように注入された潤滑油4は、適正な界面油膜を形成できる特徴を有しており、前記番号器用字輪3と前記軸1の摩滅損耗を抑制でき効果的である。
ここで、10mm/Sより低い数値の鉱油又は合成油を用いると、連続的に使用した場合、前記字輪3の回動に伴い発生するエネルギーにより潤滑油4が枯渇する場合があり効果的でない。また、50mm/Sより高い数値の鉱油又は合成油を用いると、前記油溝2に滞留し続ける潤滑油4が介在することになり、この潤滑油が劣化することで十分なる潤滑作用を阻害する場合があり効果的でない。軸1の形状としては、図3に示すように油溝2を均一に配置する場合や、図4に示すように任意の位置へ任意の油溝幅及び任意の油溝形状に設ける場合がある。
【0025】
前記軸1の材質としては、高速度鋼を用いている。高速度鋼は、材質そのものが高剛性という性質を有しており、軸材質としては適正である。しかしながら軸1と嵌合する図示しない字輪内周面を摩擦により磨耗させることから、印刷機用番号器の軸1のように小型部品の主軸としては用いられないことが多かった。しかし、軸1に油溝2を設けた本発明の印刷機用番号器では前記字輪内周面を磨耗させ難く、使用できるものである。
【0026】
また、前記軸1の材質として、図7に示すように超硬ダイス鋼7を用いる場合がある。この場合、コスト的には高速度鋼に劣るものの、高速度鋼以上に高剛性であるとともに耐油性に優れていることから、場合によっては、軸1として用いられる場合がある。本発明の原理は前述した実施例と全く同様であるので、詳細な重複説明は省略する。
【0027】
また、前記軸1へあらかじめフッ素系界面活性剤(例えば、ノベックFC−4430;3M社製)を塗布する場合がある。この場合、軸1の表層にフッ素系界面活性剤が存在することになり、この界面活性剤が耐油性を示すことから、潤滑油4と軸1との直接接触が少なく、また潤滑油4及び図示しない界面活性剤において摩擦により発生した熱的エネルギーを吸収することから、前記軸1への熱的エネルギーの伝達を規制でき、前記字輪内周面と前記軸1との摩滅損耗が発生し難いことになる。即ち、潤滑油としては、流体潤滑を実現している状態となる。
【0028】
本発明の軸1を用いた印刷機用番号器を使用した結果について、軸の違いによる枚葉紙300万枚の印刷経過後の軸1における凹凸状態を比較した結果の一例を説明する。約300万枚の印刷経過後では、一般的な番号器の軸6は表面に凹凸が顕著に現れ、前述した字並び不良と称する印刷障害や八重番印刷と称する印刷障害が発生した。他方、本発明の軸1は、印刷製品における不具合の発生はなかったと同時に軸1の表面は平滑状態であった。以降の使用においても十分に耐えうるものであった。
【0029】
前述した実施例に基づいた印刷機用番号器は、印刷を行った結果、長期間において連続的に品質の良い記番号印刷製品を得ることができた。また、軸1の摩滅損耗が大幅に抑制できることから、オペレータにとって、これまで頻繁に実施していた番号器用字輪3の分解洗浄や狭隘場所である軸1への潤滑油4の給油における作業負荷の軽減が図れた。狭隘箇所への給油手段として注射針を使用するケースがあり、この折、懸念されていた給油時の字輪損傷が抑制できた。このほか、番号器用字輪3にまつわる印刷不具合における損紙の低減が図れた。
【0030】
以上、本発明について説明したが、本発明は実施例に限定するものではなく、前記特許請求の範囲の記載の範囲内でいろいろな対応があることは、言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る印刷機用番号器の軸の外観図である。
【図2】本発明に係る印刷機用番号器の軸の断面図である。
【図3】本発明に係る別形態の印刷機用番号器の軸の断面図である。
【図4】本発明に係る別形態の印刷機用番号器の軸の断面図である。
【図5】本発明に係る印刷機用番号器の軸へ潤滑油を給油した状態を模式した図である。
【図6】本発明に係る印刷機用番号器の軸の別角度の断面図である。
【図7】本発明に係る別形態の印刷機用番号器の軸の外観図である。
【図8】一般的な印刷機用番号器の軸の外観図である。
【図9】一般的な印刷機用番号器字輪の断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 本発明の番号器の軸
2 油溝
3 番号器用字輪
4 潤滑油
5 潤滑孔
6 一般的な番号器の軸
7 超硬ダイス鋼製番号器の軸
8 歯車
9 送り爪


【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状に形成した軸と、前記軸へ必要けた数分並列して構成された円筒体の表面に夫々の数字や文字を彫刻したリング状の各字輪と、字輪に固着し軸に嵌装した字輪を駆動させるための歯車と、前記歯車と接触し前記字輪を回動させ字送り及び桁上げ可能な送り爪とから構成される印刷機用番号器において、
前記軸の表面には各字輪との嵌合箇所へ潤滑油を滞留させるための油溝を設けたことを特徴とする印刷機用番号器。
【請求項2】
前記油溝は、字輪の各位に対応して滞留する油量を変化させる形状であることを特徴とする請求項1記載の印刷機用番号器。
【請求項3】
前記軸の材質として高速度鋼を用いたことを特徴とする請求項1及び2記載の印刷機用番号器。
【請求項4】
前記軸の表面へ用いる潤滑油として、粘度10〜50mm/Sに調整された鉱油又は合成油を用いたことを特徴とする請求項1乃至3記載の印刷機用番号器。
【請求項5】
前記軸の表面へフッ素系界面活性剤をあらかじめ塗布したことを特徴とする請求項1乃至4記載の印刷機用番号器。









【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−44932(P2007−44932A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−230197(P2005−230197)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】