説明

印刷物の作製方法

【課題】水溶性の液体が浸透しやすい帳票やラベルなどの被印刷物に対しても、オフセット可変印刷を可能とするとともに、印刷物の意匠性を向上することができる印刷物の作製方法を提供する。
【解決手段】本発明の印刷物の作製方法は、基材シート1の一方の面1aの所定位置に、基材シート1に対する水性剤3の浸透を抑制する浸透抑制剤を塗布して、これからなる可変印刷領域2を少なくとも1つ形成する工程Aと、可変印刷領域2の印刷面2aに水性剤3を塗布して、水性剤3からなる所定の印刷ネガパターン4を形成する工程Bと、転写体40の表面40aに形成された印刷インキ41からなる印刷パターンを、可変印刷領域2の印刷面2aおよび基材シート1の一方の面1aにおける可変印刷領域2以外の領域に転写する工程Cと、印刷インキ41を転写した後の基材シート1を乾燥する工程Dと、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷物の作製方法に関し、さらに詳しくは、オフセット可変印刷に好適な印刷物の作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オフセット印刷は、印刷版からインキを直接、紙などの被印刷物に印刷せずに、一旦、インキをゴムブランケットなどの転写体に転写して、転写体から被印刷物にインキを移す印刷方式である。そのため、従来、オフセット印刷では、可変印刷を実施することができなかった。
可変印刷とは、データベースと連動して、個別に印刷内容(印刷情報)を変更しながら印刷する技術である。
【0003】
可変印刷が可能なオフセット印刷システムとしては、可変印刷を行う領域(可変印刷領域)に対して、インクジェット方式により所定の印刷のネガパターンをなすように水溶性の液体を噴霧し、この可変印刷領域にインキがベタ塗りされた転写体を接触させて、インキを転写する方式が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このオフセット印刷システムでは、被印刷物への水溶性の液体の浸透や吸収を抑制して、より鮮明な印刷を行うために、水溶性の液体を噴霧する前の被印刷物の表面(被印刷面)にコーティング剤を塗布することが開示されている。
【特許文献1】国際公開第2007/098178号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1には、被印刷物にコーティング剤を塗布するためのコーティングシステムを備えた印刷システムが開示されているものの、そのコーティングシステムの構成およびコーティング剤についての詳細が記載されておらず、このコーティング技術の有効性、例えば、水溶性の液体が浸透しやすい帳票やラベルなどの被印刷物に対する有効性が明確でなかった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、水溶性の液体が浸透しやすい帳票やラベルなどの被印刷物に対しても、オフセット可変印刷を可能とするとともに、印刷物の意匠性を向上することができる印刷物の作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の印刷物の作製方法は、基材シートの少なくとも一方の面の所定位置に、前記基材シートに対する水性剤の浸透を抑制する浸透抑制剤を塗布して、該浸透抑制剤からなる可変印刷領域を少なくとも1つ形成する工程Aと、前記可変印刷領域の印刷面に水性剤を塗布して、該水性剤からなる所定の印刷ネガパターンを形成する工程Bと、転写体の表面に形成された印刷インキからなる印刷パターンを、前記可変印刷領域の印刷面に転写する工程Cと、前記印刷インキを転写した後の基材シートを乾燥する工程Dと、を有することを特徴とする。
【0007】
前記工程Cにおいて、転写体の表面に形成された印刷インキからなる印刷パターンを、前記基材シートの少なくとも一方の面における前記可変印刷領域以外の領域に転写することが好ましい。
前記浸透抑制剤は、充填材と、定着剤と、樹脂と、界面活性剤とを含んでなることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の印刷物の作製方法は、基材シートの少なくとも一方の面の所定位置に、前記基材シートに対する水性剤の浸透を抑制する浸透抑制剤を塗布して、該浸透抑制剤からなる可変印刷領域を少なくとも1つ形成する工程Aと、前記可変印刷領域の印刷面に水性剤を塗布して、該水性剤からなる所定の印刷ネガパターンを形成する工程Bと、転写体の表面に形成された印刷インキからなる印刷パターンを、前記可変印刷領域の印刷面に転写する工程Cと、前記印刷インキを転写した後の基材シートを乾燥する工程Dと、を有するので、基材シートが、水性剤(水溶性液体)が浸透しやすい媒体(帳票、ラベルなど)であっても、可変印刷領域に対して部分的なオフセット可変印刷が可能となる。また、帳票毎に、可変印刷領域における印刷パターンを変えて、この領域に設けられる印刷情報を変えることにより、偽造防止効果が得られる。
さらに、基材シートの少なくとも一方の面において、不連続領域を有する可変印刷領域、を設ければ、この可変印刷領域に水性剤を塗布して、所定の印刷のネガパターンを形成すると、浸透抑制剤の未塗布部分においては、基材シートに水性剤が吸収されて印刷インキが吸収されやすい状態となる。そこで、転写体により、不連続領域も含めて可変印刷領域の印刷面の全面に、印刷インキを面接触させると、可変印刷領域における水性剤が塗布されていない部分および浸透抑制剤の未塗布部分に印刷インキが転写されるので、より意匠性を向上させた印刷物を作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の印刷物の作製方法の最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0010】
(第一の実施形態)
図1は、本発明の印刷物の作製方法の第一の実施形態を示す概略図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線に沿う断面図である。
図1中、符号1は基材シート、2は可変印刷領域、3は水性剤、4は印刷ネガパターン、5は可変印刷情報、6は第一の固定印刷情報、7は第二の固定印刷情報、8は第三の固定印刷情報、9は第四の固定印刷情報、10は印刷物、20は浸透抑制剤塗布装置、30は水性剤塗布装置、40は転写体、41は印刷インキ、42は第一のパターン、43は第二のパターン、44は第三のパターン、45は第四のパターン、46は第五のパターン、50は乾燥機をそれぞれ示す。
【0011】
この実施形態では、基材シート1として、その長手方向に沿って所定の長さ毎に区分された連続シートを例示する。
基材シート1としては、水性剤に対して浸透性のあるもので、その一方の面11aにおいて、可変印刷領域12および固定印刷情報13が設けられた領域以外の領域には、一般的な印刷インキを用いた印刷が可能なものが用いられ、例えば、印刷・筆記・図画用紙(上質紙など)、包装用紙、薄葉紙(インディアペーパー、複写原紙、プリント合成用紙など)、家庭用薄葉紙、雑種紙(連続伝票用紙、電気絶縁紙、色上質紙、濾紙など)等の紙基材などが挙げられる。
また、基材シート1の色は、特に限定されず、白無地または任意の色調であってよく、あるいは、その一方の面1aに罫線や地紋が設けられていてもよい。
【0012】
この実施形態の印刷物の作製方法では、基材シート1は、その長手方向(図1に示す矢印方向)に沿って、回転ロールなどの搬送手段(図示略)により連続搬送されている。
先ず、浸透抑制剤塗布装置20により、基材シート1の一方の面1aの所定位置に、浸透抑制剤を吹き付けて(塗布して)、この浸透抑制剤からなる可変印刷領域2を形成する(工程A−1)。
【0013】
浸透抑制剤塗布装置20としては、インクジェット方式または転写方式の塗布装置などが用いられる。
【0014】
可変印刷領域2は、基材シート1の区分(1A、1B、1C、1D、1E、・・・)毎に、印刷インキにより異なる印刷情報を印刷するための領域である。
この可変印刷領域2を形成する浸透抑制剤は、オフセット印刷システムにおいて用いられる水性剤の基材シート1に対する浸透(基材シート1に対する水性剤の浸透しやすさ)を抑制するとともに、疎水性の印刷インキとの結着性(定着性)に優れた材質から構成されている。すなわち、浸透抑制剤は、水性剤(水溶性液体)が浸透しやすい基材シートにおいて、水性剤が基材シートに浸透することなく、基材シートの表面に所定の形状で存在するようにする一方、印刷インキを結着(定着)させる機能を有するものである。言い換えれば、浸透抑制剤は、水性剤を吸収することなく、かつ、水性剤に対する適度の濡れ性も有して、水性剤によって形成された所定の印刷ネガパターンを保持することができるもとともに、印刷インキを結着(定着)させることができるものである。
【0015】
このような浸透抑制剤は、充填材と、定着剤と、樹脂と、界面活性剤とを必須成分として含んでなるものである。
充填材としては、二酸化ケイ素(シリカ)、二酸化チタン、アルミナ、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、タルク、カオリン、ホワイトカーボン、硫酸バリウムなどが用いられる。
【0016】
定着剤としては、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイドなどの非イオン性ポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミドの部分加水分解塩、アクリルアミド−アクリル酸共重合体、アクリルアミド−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体などの陰イオン性ポリマー、ポリアクリルアミドマンニッヒ変性物、ポリアクリルアミドホフマン分解物、アクリルアミド−ジメチルアミノエチルメタクリレート共重合体(3級塩およびジメチル硫酸またはメチルクロライド4級塩)、アクリルアミド−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド共重合体、アクリルアミド−メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド共重合体ポリエチレンイミンなどの陽イオン性ポリマー、アクリルアミド−アクリル酸共重合体のマンニッヒ変性物、ポリアクリルアミドホフマン分解物の加水分解物などの両性ポリマー、(メタ)アクリル酸アミド類、反応性アクリル系モノマー類、架橋性アクリル系モノマー類などのアクリル系モノマー、スチレン系モノマー、少なくとも1以上のアクリロイル基またはメタクリロイル基を有するアクリル化合物のオリゴマー、放射線硬化性第1アクリル化合物などが挙げられる。
【0017】
樹脂としては、ロジン、セラック、ギルソナイトなどの天然樹脂、硬化ロジン、ロジンエステル、マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂などの天然樹脂誘導体、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ケトン樹脂などの合成樹脂が用いられる。
界面活性剤としては、スチレン−マレイン酸共重合体、オレフィン−マレイン酸共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体などをアルカリで中和した水溶性樹脂の水溶液、シリコン樹脂、アルキルケテンダイマー、アルケニル無水コハク酸などが用いられる。
【0018】
また、浸透抑制剤は、任意の色調の着色剤を含んでいてもよい。着色剤としては、一般的な染料が用いられる。
このようにすれば、基材シート1の色調や、可変印刷領域2に転写(塗布)される印刷インキの色調に応じて、可変印刷領域2の色調を調整して、この領域に印刷される印刷情報を際立たせることができる。
【0019】
次いで、水性剤塗布装置30により、可変印刷領域2の印刷面(表面)2aに、水性剤3を吹き付けて(塗布して)、印刷面2aに、水性剤3からなる所定の印刷ネガパターン4を形成する(工程B−1)。
【0020】
水性剤塗布装置30としては、インクジェット方式の塗布装置などが用いられる。
また、水性剤3によって形成された印刷ネガパターン4は、印刷インキを塗布(定着)させない部分に水性剤3を塗布し、印刷インキを塗布(定着)させる部分に水性剤3を塗布しないことにより、水性剤3からなる層に印刷ネガパターン4が開口してなるものである。この印刷ネガパターン4の内側の領域には、可変印刷領域2の印刷面2aが露出している。
さらに、この工程Bにおいて水性剤3によって形成される印刷ネガパターン4は、基材シート1の区分(1A、1B、1C、1D、1E、・・・)毎に異なる印刷情報を印刷するための領域である。
【0021】
水性剤3としては、水、ゴム液、リン酸ソーダ、正リン酸、第一リン酸アンモニウム、活性剤、有機酸などから構成されるものや、水、エチレングリコール、プロピレングリコール、その他のグリコール類から選択される1種または2種以上からなるものなど、一般的なオフセット印刷システムで用いられるものを使用することができる。
【0022】
次いで、図1に示す矢印方向に回転する転写体40を、基材シート1の一方の面1aに面接触させる。すると、可変印刷領域2の印刷面2aおよび基材シート1の一方の面1aにおける可変印刷領域2以外の領域に、転写体40の表面40aに形成された印刷インキ41からなる印刷パターンαが転写される(工程C−1)。
【0023】
転写体40の表面40aに形成された、印刷インキ41からなる印刷パターンαは、例えば、図2に示すような形状をなしている。印刷パターンαは、第一のパターン42、第二のパターン43、第三のパターン44、第四のパターン45および第五のパターン46から構成されている。
第一のパターン42は、基材シート1の一方の面1aに可変印刷情報を印刷(転写)するためのパターンである。一方、第二のパターン43、第三のパターン44、第四のパターン45および第五のパターン46は、基材シート1の一方の面1aに固定印刷情報を印刷(転写)するためのパターンである。
この実施形態では、印刷パターンαを構成する全てのパターンを、1種類の印刷インキ41により形成する。
【0024】
この工程C−1では、基材シート1の一方の面1aに転写体40を接触させることにより、第一のパターン42が、基材シート1の可変印刷領域2の印刷面2aと接触し、上記の印刷ネガパターン4の内側の領域にのみ第一のパターン42を形成する印刷インキ41が転写され、可変印刷情報5が形成される。これとともに、第二のパターン43の一部が、基材シート1の一方の面1aにおける可変印刷領域2以外の領域と接触し、この領域に第二のパターン43の一部が転写され、第一の固定印刷情報6の一部が形成される。また、第三のパターン44が、基材シート1の一方の面1aにおける可変印刷領域2以外の領域と接触し、この領域に第三のパターン44が転写され、第二の固定印刷情報7が形成される。
【0025】
さらに、基材シート1の一方の面1aに対する転写体40の接触を継続することにより、第二のパターン43の残りの部分が、基材シート1の一方の面1aにおける可変印刷領域2以外の領域と接触し、この領域に第二のパターン43の残りの部分が転写され、基材シート1の一方の面1aに、完全な第二のパターン43が転写され、完全な第一の固定印刷情報6が形成される。これとともに、第四のパターン45が、基材シート1の一方の面1aにおける可変印刷領域2以外の領域と接触し、この領域に第四のパターン45が転写され、第三の固定印刷情報8が形成される。また、第五のパターン46が、基材シート1の一方の面1aにおける可変印刷領域2以外の領域と接触し、この領域に第五のパターン46が転写され、第四の固定印刷情報9が形成される。
なお、第一の固定印刷情報6、第二の固定印刷情報7、第三の固定印刷情報8および第四の固定印刷情報9は、最終的に得られる印刷物10毎に差異がなく、固定された情報である。
【0026】
転写体40としては、一般的なオフセット印刷システムで用いられるロール状のゴムブランケットなどの転写体が用いられる。
印刷インキ41としては、一般的なオフセット印刷システムで用いられるヒートセットインキやクイックセットインキ(ノンヒートセットインキ)などのオフ輪インキが用いられる。
【0027】
次いで、印刷インキ41からなる印刷パターンαの全てを転写した後、乾燥機50により基材シート1を加熱することにより、可変印刷領域2に塗布した水性剤3を蒸発させるとともに、可変印刷情報5、第一の固定印刷情報6、第二の固定印刷情報7、第三の固定印刷情報8および第四の固定印刷情報9を形成する印刷インキ41を乾燥させる(工程D−1)。
【0028】
これにより、基材シート1と、その一方の面1aの可変印刷領域2に設けられた可変印刷情報5と、基材シート1の一方の面1aの所定位置に、可変印刷領域2(可変印刷情報5)と離隔して設けられた第一の固定印刷情報6、第二の固定印刷情報7、第三の固定印刷情報8および第四の固定印刷情報9とからなる印刷物10を得る。
【0029】
乾燥機50としては、一般的なオフセット印刷システムで用いられる乾燥機を用いることができるが、水性剤を乾燥可能なものであれば、これに限定されるものではない。
【0030】
この実施形態の印刷物の作製方法によれば、基材シート1の一方の面1aの所定位置に、基材シート1に対する水性剤3の浸透度合を調整する浸透抑制剤を塗布して、この浸透抑制剤からなる可変印刷領域2を少なくとも1つ形成する工程A−1と、可変印刷領域2の印刷面2aに水性剤3を塗布して、水性剤3からなる所定の印刷ネガパターン4を形成する工程B−1と、転写体40の表面40aに形成された印刷インキ41からなる印刷パターンを、可変印刷領域2の印刷面2aおよび基材シート1の一方の面1aにおける可変印刷領域2以外の領域に転写する工程C−1と、印刷インキ41を転写した後の基材シート11を乾燥する工程D−1と、を有するので、基材シート1が、水性剤(水溶性液体)が浸透しやすい媒体(帳票、ラベルなど)であっても、可変印刷領域2に対して部分的なオフセット可変印刷が可能となる。また、帳票毎に、可変印刷領域2における印刷パターンを変えて、この領域に設けられる印刷情報を変えることにより、偽造防止効果が得られる。
【0031】
なお、この実施形態では、基材シート1の一方の面1aにおいて、連続した領域をなす可変印刷領域2を設ける印刷物の作製方法を例示したが、本発明の印刷物の作製方法はこれに限定されない。本発明の印刷物の作製方法にあっては、基材シートの少なくとも一方の面において、不連続領域を有する可変印刷領域、換言すれば、上述のような所定のネガパターンをなし、浸透抑制剤が塗布された部分と塗布されていない部分(未塗布部分)とからなる可変印刷領域を設けてもよい。このように不連続領域を有する可変印刷領域を設ければ、この可変印刷領域に水性剤を塗布して、所定の印刷ネガパターンを形成すると、浸透抑制剤の未塗布部分においては、基材シートに水性剤が吸収されて印刷インキが吸収されやすい状態となる。そこで、転写体により、不連続領域も含めて可変印刷領域の印刷面の全面に、印刷インキを面接触させると、可変印刷領域における水性剤が塗布されていない部分および浸透抑制剤の未塗布部分に印刷インキが転写されるので、より意匠性を向上させた印刷物を作製することができる。
【0032】
また、この実施形態では、基材シート1の一方の面1aに、1つの可変印刷領域2を設け、この可変印刷領域に可変印刷情報を印刷する印刷物の作製方法を例示したが、本発明の印刷物の作製方法はこれに限定されない。本発明の印刷物の作製方法にあっては、基材シートの一方の面の所定位置に2つ以上の可変印刷領域を設けて、それぞれの可変印刷領域に可変印刷情報を印刷してもよく、あるいは、基材シートの一方の面および他方の面(一方の面とは反対側の面)のそれぞれにおける所定位置に1つ以上の可変印刷領域を設けて、それぞれの可変印刷領域に可変印刷情報を印刷してもよい。このようにすれば、印刷物毎に、2つ以上の異なる可変印刷情報を印刷することができ、帳票などの印刷物の意匠性を向上することができる。
【0033】
また、この実施形態では、工程C−1において、基材シート1の可変印刷領域2の印刷面2aおよび基材シート1の一方の面1aにおける可変印刷領域2以外の領域に、転写体40の表面40aに形成された印刷インキ41からなる印刷パターンαを転写する印刷物の作製方法を例示したが、本発明の印刷物の作製方法はこれに限定されない。本発明の印刷物の作製方法にあっては、工程Cにおいて、転写体の表面に形成された印刷インキからなる印刷パターンを、可変印刷領域の印刷面のみに転写してもよい。このようにすれば、あらかじめ印刷情報が設けられた基材シートに対しては、可変印刷情報のみを印刷することができるので、本発明の印刷物の作製方法を適用可能な被印刷物(基材シート)の範囲が広くなる。
【0034】
また、この実施形態では、基材シート1として、その長手方向に沿って所定の長さ毎に区分された連続シートを用いた印刷物の作製方法を例示したが、本発明の印刷物の作製方法はこれに限定されない。本発明の印刷物の作製方法にあっては、基材シートが単片シートであってもよく、さらに、その形状は、任意の形状に型抜きされていてもよい。
さらに、この実施形態では、転写体40の表面40aの印刷パターンαを構成する全てのパターンを、1種類の印刷インキ41により形成する印刷物の作製方法を例示したが、本発明の印刷物の作製方法はこれに限定されない。本発明の印刷物の作製方法にあっては、転写体の表面の印刷パターンを構成するそれぞれのパターンを異なる印刷インキで形成してもよい。
【0035】
(第二の実施形態)
図3は、本発明の印刷物の作製方法の第二の実施形態を示す概略図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のB−B線に沿う断面図である。
図2中、符号61は基材シート、62は第一の可変印刷領域、63は第二の可変印刷領域、64は水性剤、65は第一の印刷ネガパターン、66は第二の印刷ネガパターン、67は第一の可変印刷情報、68は第二の可変印刷情報、69は第一の固定印刷情報、70は第二の固定印刷情報、71は印刷物、81は第一の浸透抑制剤塗布装置、82は第二の浸透抑制剤塗布装置、90は水性剤塗布装置、100は転写体、101は印刷インキ、102は第一のパターン、103は第二のパターン、104は第三のパターン、105は第四のパターン、110は乾燥機をそれぞれ示す。
【0036】
この実施形態では、基材シート61として、その長手方向に沿って所定の長さ毎に区分された連続シートを例示する。
基材シート61としては、上記の基材シート1と同様のものが用いられる。
この基材シート61は、その長手方向(図3に示す矢印方向)に沿って、回転ロールなどの搬送手段(図示略)により連続搬送されている。
【0037】
この実施形態の印刷物の作製方法では、先ず、第一の浸透抑制剤塗布装置81により、基材シート61の一方の面61aの所定位置に、浸透抑制剤を吹き付けて(塗布して)、この浸透抑制剤からなる第一の可変印刷領域62を形成するとともに、第二の浸透抑制剤塗布装置82により、基材シート61の一方の面61aの所定位置に、第一の可変印刷領域62と離隔して浸透抑制剤を吹き付けて(塗布して)、この浸透抑制剤からなる第二の可変印刷領域63を形成する(工程A−2)。
【0038】
第一の浸透抑制剤塗布装置81および第二の浸透抑制剤塗布装置82としては、上記の浸透抑制剤塗布装置20と同様のものが用いられる。
【0039】
第一の可変印刷領域62および第二の可変印刷領域63を形成する浸透抑制剤としては、上記の可変印刷領域2を形成するものと同様のものが用いられる。
但し、この実施形態では、第一の可変印刷領域62を形成する浸透抑制剤と、第二の可変印刷領域63を形成する浸透抑制剤とは、異なる色調をなしている。これら2つの浸透抑制剤の色調を異ならせるためには、それぞれの浸透抑制剤に色調が異なる顔料などの着色剤を含有させる。
【0040】
次いで、水性剤塗布装置90により、第一の可変印刷領域62の印刷面62aに、水性剤64を吹き付けて(塗布して)、印刷面62aに、水性剤64からなる所定の第一の印刷ネガパターン65を形成するとともに、第二の可変印刷領域63の印刷面63aに、水性剤64を吹き付けて(塗布して)、印刷面63aに、水性剤64からなる所定の第二の印刷ネガパターン66を形成する(工程B−2)。
【0041】
水性剤塗布装置90としては、上記の水性剤塗布装置30と同様のものが用いられる。
水性剤64としては、上記の水性剤3と同様のものが用いられる。
【0042】
次いで、図3に示す矢印方向に回転する転写体100を、基材シート61の一方の面61aに面接触させる。すると、第一の可変印刷領域62の印刷面62a、第二の可変印刷領域63の印刷面63a並びに基材シート61の一方の面61aにおける第一の可変印刷領域62および第二の可変印刷領域63以外の領域に、転写体100の表面100aに形成された印刷インキ101からなる印刷パターンβが転写される(工程C−2)。
【0043】
転写体100の表面100aに形成された、印刷インキ101からなる印刷パターンβは、例えば、図4に示すような形状をなしている。印刷パターンβは、第一のパターン102、第二のパターン103、第三のパターン104および第四のパターン105から構成されている。
第一のパターン102および第二のパターン103は、基材シート61の一方の面61aに可変印刷情報を印刷(転写)するためのパターンである。一方、第三のパターン104および第四のパターン105は、基材シート61の一方の面61aに固定印刷情報を印刷(転写)するためのパターンである。
この実施形態では、印刷パターンβを構成する全てのパターンを、1種類の印刷インキ101により形成する。
【0044】
この工程C−2では、基材シート61の一方の面61aに転写体100を接触させることにより、第二のパターン103が、基材シート61の第二の可変印刷領域63の印刷面63aと接触し、上記の第二の印刷ネガパターン66の内側の領域にのみ第二のパターン103を形成する印刷インキ101が転写され、第二の可変印刷情報68が形成される。これとともに、第三のパターン104が、基材シート61の一方の面61aにおける第一の可変印刷領域62および第二の可変印刷領域63以外の領域と接触し、この領域に第三のパターン104が転写され、第一の固定印刷情報69が形成される。
【0045】
さらに、基材シート61の一方の面61aに対する転写体100の接触を継続することにより、第一のパターン102が、基材シート61の第一の可変印刷領域62の印刷面62aと接触し、上記の第一の印刷ネガパターン65の外側の領域(水性剤64の周縁)にのみ第一のパターン102を形成する印刷インキ101が転写され、第一の可変印刷情報67が形成される。これとともに、これとともに、第四のパターン105が、基材シート61の一方の面61aにおける第一の可変印刷領域62および第二の可変印刷領域63以外の領域と接触し、この領域に第四のパターン105が転写され、第二の固定印刷情報70が形成される。
【0046】
転写体100としては、上記の転写体40と同様のものが用いられる。
印刷インキ101としては、上記の印刷インキ41と同様のものが用いられる。
【0047】
次いで、印刷インキ101からなる印刷パターンβの全てを転写した後、乾燥機110により基材シート61を加熱することにより、第一の可変印刷領域62および第二の可変印刷領域63に塗布した水性剤64を蒸発させるとともに、第一の可変印刷情報67、第二の可変印刷情報68、第一の固定印刷情報69および第二の固定印刷情報70を形成する印刷インキ101を乾燥させる(工程D−2)。
【0048】
これにより、基材シート61と、その一方の面61aにおいて、第一の可変印刷領域62に設けられた第一の可変印刷情報67と、第二の可変印刷領域63に設けられた第二の可変印刷情報68と、第一の可変印刷領域62および第二の可変印刷領域63と離隔して設けられた第一の固定印刷情報69および第二の固定印刷情報70とからなる印刷物71を得る。
【0049】
乾燥機110としては、上記の乾燥機50と同様のものが用いられる。
【0050】
この実施形態の印刷物の作製方法によれば、基材シート61の一方の面61aの所定位置に、基材シート61に対する水性剤64の浸透を抑制する浸透抑制剤を塗布して、これらからなり、色調が異なる2つの可変印刷領域(第一の可変印刷領域62、第二の可変印刷領域63)を設け、それぞれの可変印刷領域に可変印刷情報(第一の可変印刷情報67、第二の可変印刷情報68)を印刷するとともに、基材シート61の一方の面61aにおける第一の可変印刷領域62および第二の可変印刷領域63以外の領域に固定印刷情報(第一の固定印刷情報69、第二の固定印刷情報70)を印刷するので、上述の第一の実施形態の効果に加えて、より意匠性に優れた印刷物を作製することができる。
【0051】
なお、この実施形態では、基材シート61の一方の面61aにおいて、連続した領域をなす第一の可変印刷領域62および第二の可変印刷領域63を設ける印刷物の作製方法を例示したが、本発明の印刷物の作製方法はこれに限定されない。本発明の印刷物の作製方法にあっては、基材シートの少なくとも一方の面において、不連続領域を有する可変印刷領域、換言すれば、上述のような所定のネガパターンをなし、浸透抑制剤が塗布された部分と塗布されていない部分(未塗布部分)とからなる可変印刷領域を設けてもよい。このように不連続領域を有する可変印刷領域を設ければ、この可変印刷領域に水性剤を塗布して、所定の印刷ネガパターンを形成すると、浸透抑制剤の未塗布部分においては、基材シートに水性剤が吸収されて印刷インキが吸収されやすい状態となる。そこで、転写体により、不連続領域も含めて可変印刷領域の印刷面の全面に、印刷インキを面接触させると、可変印刷領域における水性剤が塗布されていない部分および浸透抑制剤の未塗布部分に印刷インキが転写されるので、より意匠性を向上させた印刷物を作製することができる。
【0052】
また、この実施形態では、基材シート61の一方の面61aに、2つの可変印刷領域(第一の可変印刷領域62、第二の可変印刷領域63)を設け、それぞれの可変印刷領域に可変印刷情報(第一の可変印刷情報67、第二の可変印刷情報68)を印刷する印刷物の作製方法を例示したが、本発明の印刷物の作製方法はこれに限定されない。本発明の印刷物の作製方法にあっては、基材シートの一方の面の所定位置に3つ以上の可変印刷領域を設けて、それぞれの可変印刷領域に可変印刷情報を印刷してもよく、あるいは、基材シートの一方の面および他方の面(一方の面とは反対側の面)のそれぞれにおける所定位置に1つまたは2つ以上の可変印刷領域を設けて、それぞれの可変印刷領域に可変印刷情報を印刷してもよい。このようにすれば、印刷物毎に、3つ以上の異なる可変印刷情報を印刷することができ、帳票などの印刷物の意匠性を向上することができる。
【0053】
また、この実施形態では、工程C−2において、基材シート61の第一の可変印刷領域62の印刷面62a、第二の可変印刷領域63の印刷面63a並びに基材シート61の一方の面61aにおける第一の可変印刷領域62および第二の可変印刷領域63以外の領域に、転写体100の表面100aに形成された印刷インキ101からなる印刷パターンβを転写する印刷物の作製方法を例示したが、本発明の印刷物の作製方法はこれに限定されない。本発明の印刷物の作製方法にあっては、工程Cにおいて、転写体の表面に形成された印刷インキからなる印刷パターンを、可変印刷領域の印刷面のみに転写してもよい。このようにすれば、あらかじめ印刷情報が設けられた基材シートに対しては、可変印刷情報のみを印刷することができるので、本発明の印刷物の作製方法を適用可能な被印刷物(基材シート)の範囲が広くなる。
【0054】
また、この実施形態では、基材シート61として、その長手方向に沿って所定の長さ毎に区分された連続シートを用いた印刷物の作製方法を例示したが、本発明の印刷物の作製方法はこれに限定されない。本発明の印刷物の作製方法にあっては、基材シートが単片シートであってもよく、さらに、その形状は、任意の形状に型抜きされていてもよい。
さらに、この実施形態では、転写体100の表面100aの印刷パターンβを構成する全てのパターンを、1種類の印刷インキ101により形成する印刷物の作製方法を例示したが、本発明の印刷物の作製方法はこれに限定されない。本発明の印刷物の作製方法にあっては、転写体の表面の印刷パターンを構成するそれぞれのパターンを異なる印刷インキで形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の印刷物の作製方法の第一の実施形態を示す概略図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線に沿う断面図である。
【図2】本発明の印刷物の作製方法の第一の実施形態において、転写体の表面に形成された印刷インキからなる印刷パターンを示す概略平面図である。
【図3】本発明の印刷物の作製方法の第二の実施形態を示す概略図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のB−B線に沿う断面図である。
【図4】本発明の印刷物の作製方法の第二の実施形態において、転写体の表面に形成された印刷インキからなる印刷パターンを示す概略平面図である。
【符号の説明】
【0056】
1,61・・・基材シート、2・・・可変印刷領域、3,64・・・水性剤、4・・・印刷ネガパターン、5・・・可変印刷情報、6・・・第一の固定印刷情報、7・・・第二の固定印刷情報、8・・・第三の固定印刷情報、9・・・第四の固定印刷情報、10,71・・・印刷物、20・・・浸透抑制剤塗布装置、30,90・・・水性剤塗布装置、40,100・・・転写体、41,101・・・印刷インキ、42・・・第一のパターン、43・・・第二のパターン、44・・・第三のパターン、45・・・第四のパターン、46・・・第五のパターン、50,110・・・乾燥機、62・・・第一の可変印刷領域、63・・・第二の可変印刷領域、65・・・第一の印刷ネガパターン、66・・・第二の印刷ネガパターン、67・・・第一の可変印刷情報、68・・・第二の可変印刷情報、69・・・第一の固定印刷情報、70・・・第二の固定印刷情報、81・・・第一の浸透抑制剤塗布装置、82・・・第二の浸透抑制剤塗布装置、102・・・第一のパターン、103・・・第二のパターン、104・・・第三のパターン、105・・・第四のパターン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートの少なくとも一方の面の所定位置に、前記基材シートに対する水性剤の浸透を抑制する浸透抑制剤を塗布して、該浸透抑制剤からなる可変印刷領域を少なくとも1つ形成する工程Aと、前記可変印刷領域の印刷面に水性剤を塗布して、該水性剤からなる所定の印刷ネガパターンを形成する工程Bと、転写体の表面に形成された印刷インキからなる印刷パターンを、前記可変印刷領域の印刷面に転写する工程Cと、前記印刷インキを転写した後の基材シートを乾燥する工程Dと、を有することを特徴とする印刷物の作製方法。
【請求項2】
前記工程Cにおいて、転写体の表面に形成された印刷インキからなる印刷パターンを、前記基材シートの少なくとも一方の面における前記可変印刷領域以外の領域に転写することを特徴とする請求項1に記載の印刷物の作製方法。
【請求項3】
前記浸透抑制剤は、充填材と、定着剤と、樹脂と、界面活性剤とを含んでなることを特徴とする請求項1または2に記載の印刷物の作製方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−262503(P2009−262503A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−117881(P2008−117881)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(000110217)トッパン・フォームズ株式会社 (989)
【Fターム(参考)】