説明

印刷用ブランケット

【課題】パッケージ印刷上の印刷領域にのみオーバーコートを印刷するため、前記印刷領域外の非印刷領域の表面印刷層3をはく離して使用する印刷用ブランケットであって、表面印刷層3をはく離した非印刷領域におけるニスや洗浄液等の浸透を確実に防止して、全体の厚みが短期間で不均一化するのを防止できるため耐久性に優れる上、生産性等にも優れた印刷用ブランケットを提供する。
【解決手段】基布5、7、9を含む支持体層2の片面に表面印刷層3を積層するとともに、前記のうち基布7は、前記基布7を形成する繊維間にフッ化アルキル樹脂を含ませた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばパッケージ印刷等の分野において印刷物の表面を保護するべくニスのオーバーコート層を印刷するために用いる印刷用ブランケットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近時、例えばパッケージ印刷の分野においては、パッケージのもとになる紙等の基材の表面に絵柄や文字等を印刷した後に、印刷物の表面をニスのオーバーコート層で被覆して保護する場合が増加しつつある。
ところが、例えばパッケージを用いて包装する商品の情報等を記録するバーコード部分には後からバーコードを印刷しなければならないため、オーバーコート層を被覆することはできない。またパッケージの構造等によっては、前記バーコード部分以外にもオーバーコート層で被覆したくない領域が生じる場合がある。
【0003】
そこで、印刷物の絵柄等に応じて、前記バーコード部分等のオーバーコート層で被覆したくない領域(非印刷領域)を除く他の領域(印刷領域)に、選択的にオーバーコート層をパターン形成することが求められる。
かかるオーバーコート層のパターン形成法としては、少なくとも1枚の基布を含む支持体層の片面に、ゴム等からなる表面印刷層を積層した印刷用ブランケットを用いたオフセット印刷法が一般的に採用される。
【0004】
すなわち、前記表面印刷層の表面に、ニスを、形成したいオーバーコート層の平面形状に対応させてパターン形成し、それを前記表面から印刷物の表面に転写したのち乾燥させ、さらに必要に応じて硬化させることにより、前記印刷物の表面に、所定の平面形状を有するオーバーコート層が形成される。
前記オーバーコート層形成用の印刷用ブランケットは、通常のオフセット印刷用とは異なり、表面印刷層のうち印刷領域に対応する部分を残し、非印刷領域に対応する部分を選択的にはく離、除去した状態で使用するのが一般的である。これにより、前記表面印刷層のうち非印刷領域に対応する表面が印刷物と接触するのを防止して、オーバーコート層のはみ出し等を抑制できる。
【0005】
そのため、オーバーコート層形成用の印刷用ブランケットにおいては、支持体層から表面印刷層をはく離しやすくするため、前記支持体層のうち表面印刷層より下の任意の位置にピーリング層を設けるのが一般的である。
前記ピーリング層としては、例えば微小ガラス球や、あるいは樹脂製の殻内に気体を封入した中空微小球などを、バインダとしてのゴム中に分散させた層が採用される。
【0006】
かかるピーリング層は、分散させた微小ガラス球や中空微小球によってゴムの連続性が阻害されることで層全体での強度が他の層よりも低めに設定されるため、表面印刷層をはく離する際の応力によって比較的容易に破壊され、層内もしくは層間ではく離して、表面印刷層のはく離を補助する働きをする。
なおピーリング層は、表面印刷層をはく離しない印刷領域での印刷特性や耐久性等に影響を及ぼさないため、できるだけ薄いことが求められる。しかしピーリング層を薄くするほど、非印刷領域で露出したピーリング層の残滓も薄くなるため、前記非印刷領域では、実質的に、支持体層のうちピーリング層の直下の基布が露出した状態となりやすい。
【0007】
オーバーコート層の印刷工程では、ニスによる印刷と、その後の洗浄液による印刷用ブランケットの洗浄とが繰り返されるため、前記印刷用ブランケットの表面には、印刷領域、非印刷領域を問わず、前記ニスおよび洗浄液が繰り返し接触することになる。
ところが、前記のように非印刷領域において基布が露出していると、前記ニスや洗浄液が、前記基布を通して支持体層中に浸透して、前記基布とともに支持体層を構成するゴムの層(基布間のプライマ層等)や、あるいは表面印刷層等が膨潤しやすくなる。
【0008】
特に印刷領域のうち、基布を露出させた非印刷領域と接する縁辺部等が、それより内部の領域に比べて大きく膨潤しやすい。
そのため従来の印刷用ブランケットは、比較的短期間で、前記膨潤により厚みが不均一化して印刷に使用できなくなる場合があり、耐久性の低下が問題となっていた。
オーバーコート層形成用でない通常のオフセット印刷用の印刷用ブランケットにおいては、支持体層の最下面等に、撥水性と撥油性とを兼ね備えた被覆層を形成して、前記支持体層を構成する基布等へのインキや湿し水、あるいは洗浄液等の浸透を防止する場合がある。
【0009】
例えば特許文献1には、(メタ)アクリル樹脂中に、フッ素系等の撥水撥油剤を加えた混合物を塗布して、前記両成分を相分離させながら乾燥させることにより、前記支持体層の最下面、および必要に応じて側面に、前記撥水撥油剤が層の外面側に偏析した被覆層を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3354089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、例えば前記特許文献1に記載の被覆層を、オーバーコート層形成用の印刷用ブランケットの、支持体層の最下面等に形成したとしても、前記のようにニス等の浸透のメカニズムが異なるため、前記印刷用ブランケットの不均一な膨潤とそれに伴う厚みの不均一化を防止することはできない。
また、表面印刷層をはく離した後の非印刷領域からのニス等の浸透を防止するべく、前記被覆層を、最下層ではなく、支持体層の厚み方向の途中の任意の位置に挿入しようとしても、当該被覆層は、支持体層を構成するゴムの層等とは異質の、(メタ)アクリル樹脂を主体とするものであり、前記ゴムの層等とは加硫接着させることができないため、印刷用ブランケットを製造することができない。
【0012】
本発明の目的は、非印刷領域におけるニスや洗浄液等の浸透を確実に防止して、全体の厚みが短期間で不均一化するのを防止できるため耐久性に優れる上、生産性等にも優れた印刷用ブランケットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、少なくとも1枚の基布を含む支持体層と、前記支持体層の片面に積層した表面印刷層とを備え、前記少なくとも1枚の基布は、前記基布を形成する繊維間にフッ化アルキル樹脂を含んでいることを特徴とする印刷用ブランケットである。
本発明によれば、前記のように支持体層を構成する少なくとも1枚の基布を形成する繊維間に、撥水撥油性を有するフッ化アルキル樹脂を含ませることで、前記基布に撥水撥油性を付与している。
【0014】
そのため、前記基布の撥水撥油性に基づいて、非印刷領域からのニスや洗浄液の浸透による印刷用ブランケットの不均一な膨潤と、それに伴う厚みの不均一化とを長期間に亘って抑制して、耐久性を向上することができる。
また、前記印刷用ブランケットは、先に説明した被覆層を追加する場合に比べて、層数および工程数を大幅に増加させることなく高い生産性でもって製造することもできる。
【0015】
また、前記のように基布中に含ませたフッ化アルキル樹脂は撥水撥油性を有するため、前記基布の片面に直接に、または中間層を介して表面印刷層を積層した状態において、前記基布と表面印刷層、または基布と中間層との界面を、前記表面印刷層の、支持体層からのはく離を補助するはく離境界面として機能させることができる。
そのため従来のピーリング層を省略することができ、前記ピーリング層を追加することによる層数および工程数の増加や、印刷領域における耐久性の低下等が生じるのを防止することもできる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、非印刷領域におけるニスや洗浄液等の浸透を確実に防止して、全体の厚みが短期間で不均一化するのを防止できるため耐久性に優れる上、生産性等にも優れた印刷用ブランケットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の、実施の形態の一例の印刷用ブランケットの一部を拡大して示す断面図である。
【図2】他の例の印刷用ブランケットの一部を拡大して示す断面図である。
【図3】他の例の印刷用ブランケットの一部を拡大して示す断面図である。
【図4】さらに他の例の印刷用ブランケットの一部を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の、実施の形態の一例の印刷用ブランケット1の一部を拡大して示す断面図である。
図1を参照して、この例の印刷用ブランケット1は支持体層2を備えるとともに、前記支持体層2の片面に積層した表面印刷層3を備えている。
また支持体層2は、前記表面印刷層3側から順に、上層基布4、圧縮層5、上層プライマ層6、中層基布7、下層プライマ層8、および下層基布9を備えている。
【0019】
このうち中層基布7は、例えば綿、ポリエステル、レーヨン等の織布や不織布等からなる基布の繊維間に、撥水撥油性を有するフッ化アルキル樹脂を含ませることによって形成される。
前記フッ化アルキル樹脂を含ませることで、中層基布7に撥水撥油性が付与される。
そのため前記中層基布7の撥水撥油性に基づいて、非印刷領域からのニスや洗浄液の浸透による印刷用ブランケット1の不均一な膨潤と、それに伴う厚みの不均一化とを長期間に亘って抑制して、耐久性を向上することができる。
【0020】
また、前記印刷用ブランケット1は、従来の被覆層を追加する場合に比べて、層数および工程数を大幅に増加させることなく高い生産性でもって製造できる上、前記中層基布7は従来の基布と同等の特性を有するため、印刷領域において、従来の、基布とゴムの層とからなる通常の支持体層を備えたものとほぼ同等の印刷特性を維持することもできる。
また、中層基布7中に含ませたフッ化アルキル樹脂は前記のように撥水撥油性を有するため、前記中層基布7と表面印刷層3との間に介在している上層基布4、圧縮層5、および上層プライマ層6を中間層10として、前記中間層10の最下層である上層プライマ層6と中層基布7との界面Sを、前記表面印刷層3の、支持体層2からのはく離を補助するはく離境界面として機能させることができる。
【0021】
そのため従来のピーリング層を省略することができ、前記ピーリング層を追加することによる層数および工程数の増加や、印刷領域における耐久性の低下等が生じるのを防止することもできる。
前記中層基布7の繊維間に含ませるフッ化アルキル樹脂としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、PFA)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等が挙げられる。
【0022】
前記フッ化アルキル樹脂を、例えばヘプタン、ハイドロフロロエーテル、またはこれらの混合溶剤等の溶剤に溶解して固形分濃度、すなわちフッ化アルキル樹脂の含有割合が0.5質量%以上、15質量%以下程度の溶液を調製し、前記溶液を、中層基布7のもとになる基布に含浸させたのち常温〜50℃程度でおよそ1時間程度乾燥させて前記溶剤を揮発させることにより中層基布7が形成される。
【0023】
先に説明したニスや浸透液等の浸透を防止する効果を考慮すると、前記フッ化アルキル樹脂を、中層基布7の総量(基布+フッ化アルキル樹脂)中の0.5質量%以上、10質量%以下程度の割合で含ませるのが好ましい。
前記中層基布7の厚みは、ニスや浸透液等の浸透を確実に防止することや、印刷用ブランケット1の面方向の変形を抑制して印刷品質の低下を抑制すること等を考慮すると0.15mm以上、特に0.2mm以上であるのが好ましく、0.6mm以下、特に0.5mm以下であるのが好ましい。
【0024】
前記中層基布7以外の他の層は、従来同様に構成することができる。
すなわち上層基布4、および下層基布9としては、従来同様にフッ化アルキル樹脂を含まない通常の、綿、ポリエステル、レーヨン等の織布や不織布等を用いることができる。
前記上層基布4、下層基布9の厚みは、印刷用ブランケット1の面方向の変形を抑制して印刷品質の低下を抑制すること等を考慮すると0.15mm以上、特に0.2mm以上であるのが好ましく、0.6mm以下、特に0.5mm以下であるのが好ましい。
【0025】
また表面印刷層3としては、例えばアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素添加NBR、クロロプレンゴム(CR)、ウレタンゴム、アクリルゴム等のゴムの1種または2種以上を加硫させた加硫ゴム層が挙げられる。
同様に上層プライマ層6、および下層プライマ層8としても、前記ゴムの1種または2種以上を加硫させた加硫ゴム層が挙げられる。
【0026】
これらの層は、前記ゴム、ゴムの加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、補強剤、可塑剤、軟化剤、および顔料等を所定の割合で配合するとともに、トルエン、メチルエチルケトン等の溶剤に溶解させて調製したゴム糊を前記基布等の表面に塗布した後、印刷用ブランケット1を製造する工程の任意の時点で加硫させることによって形成される。
前記表面印刷層3の厚みは0.05mm以上、中でも0.1mm以上、特に0.2mm以上であるのが好ましく、2.0mm以下、中でも0.6mm以下、特に0.4mm以下であるのが好ましい。
【0027】
厚みが前記範囲未満では、直下の上層基布4の凹凸が表面印刷層3の表面に現れて印刷精度が低下するおそれがある。
また前記範囲を超える場合には、印圧によって表面印刷層3が厚み方向だけでなく面方向にも歪み変形しやすくなってやはり印刷精度が低下するおそれがある。
また上層プライマ層6、下層プライマ層8は、それぞれ印刷用ブランケットの製造工程において上下の層を接着するためのものであって、他の層の特性に影響を及ぼさないことを考慮するとできるだけ薄いことが好ましく、0.2mm以下、特に0.1mm以下であるのが好ましい。
【0028】
圧縮層5としては、前記ゴムの加硫物からなり、その内部に独立気孔構造もしくは連続気孔構造を有する多孔質の加硫ゴム層が挙げられる。
前記圧縮層5は、先の各成分にさらに微小ガラス球、樹脂製の殻内に気体を封入した中空微小球、前記殻内に、加熱によって気化する低沸点液体を封入した熱膨張性微小球、発泡剤、あるいは食塩等の水溶性微粒子等を加えるとともに、トルエン、メチルエチルケトン等の溶剤に溶解させて調製したゴム糊を前記基布等の表面に塗布した後、印刷用ブランケット1を製造する工程の任意の時点で加硫させることによって形成される。
【0029】
前記のうち微小ガラス球や中空微小球を含むゴム糊を用いると、独立気孔構造を有する圧縮層5が形成される。また熱膨張性微小球を含むゴム糊を用いると、前記熱膨張性微小球中の液体が加硫時の熱によって気化し、熱膨張して、独立気孔構造を有する圧縮層5が形成される。
発泡剤を含むゴム糊を用いると、前記発泡剤が加硫時の熱によって発泡して、独立気孔構造もしくは連続気孔構造を有する圧縮層5が形成される。どちらの気孔構造とするかは、発泡剤の種類と量によって調整できる。
【0030】
さらに水溶性微粒子を含むゴム糊を用いる場合には、加硫後の層を温水等に浸漬して前記水溶性微粒子を溶出、除去させることで、連続気孔構造を有する圧縮層5が形成される。
前記圧縮層5の厚みは、印圧の過剰な低下を抑制しながら十分な圧縮効果を得ること等を考慮すると、0.15mm以上、特に0.2mm以上であるのが好ましく、0.6mm以下、特に0.5mm以下であるのが好ましい。
【0031】
前記各層を含む印刷用ブランケット1の全体の厚みは任意に設定できるが、汎用されているオフセット印刷機に使用すること等を考慮すると1.6mm以上、特に1.8mm以上であるのが好ましく、2.2mm以下、特に2.0mm以下であるのが好ましい。
前記印刷用ブランケット1は、例えば後述する実施例に記載したように、
・ 基布の片面にゴム糊を塗布し、任意の時点で加硫して加硫ゴム層を形成する、
・ 基布と基布、あるいは基布と加硫ゴム層との間をプライマ層となるゴム糊を介して貼りつける、
といった工程を繰り返すことにより、図1の積層構造とすることができる。
【0032】
図2は、他の例の印刷用ブランケット1の一部を拡大して示す断面図である。
図2を参照して、この例の印刷用ブランケット1は支持体層2を備えるとともに、前記支持体層2の片面に積層した表面印刷層3を備えている。
また支持体層2は、前記表面印刷層3側から順に、上層基布4、圧縮層5、上層プライマ層6、中層基布7、下層プライマ層8、下層基布9、最下層プライマ層11、および最下層基布12を備えている。
【0033】
このうち中層基布7は、基布の繊維間に撥水撥油性を有するフッ化アルキル樹脂を含ませることによって形成されており、前記撥水撥油性に基づいて、非印刷領域からのニスや洗浄液の浸透による印刷用ブランケット1の不均一な膨潤と、それに伴う厚みの不均一化とを長期間に亘って抑制して、耐久性を向上することができる。
また前記撥水撥油性に基づいて、前記中層基布7と表面印刷層3との間に介在している上層基布4、圧縮層5、および上層プライマ層6を中間層10として、前記中間層10の最下層である上層プライマ層6と中層基布7との界面Sを、前記表面印刷層3の、支持体層2からのはく離を補助するはく離境界面として機能させることもできる。
【0034】
前記各層のうち表面印刷層3から下層基布9までは、先の図1の例と同様に構成される。また最下層プライマ層11は上層プライマ層6、および下層プライマ層8と同様に構成され、最下層基布12としては、上層基布4、および下層基布9と同様のものが使用される。
各層の厚みも先の図1の例と同様の範囲とすることができるが、3層の基布7、9、12については少し厚みの小さいものを用いることにより、印刷用ブランケット1の全体の厚みを、先に説明した範囲内となるように調整するのが好ましい。
【0035】
図3は、他の例の印刷用ブランケット1の一部を拡大して示す断面図である。
図3を参照して、この例の印刷用ブランケット1は支持体層2を備えるとともに、前記支持体層2の片面に積層した表面印刷層3を備えている。
また支持体層2は、前記表面印刷層3側から順に、上層基布4、圧縮層5、プライマ層13、および下層基布14を備えている。
【0036】
このうち下層基布14は、基布の繊維間に撥水撥油性を有するフッ化アルキル樹脂を含ませることによって形成されており、前記撥水撥油性に基づいて、非印刷領域からのニスや洗浄液の浸透による印刷用ブランケット1の不均一な膨潤と、それに伴う厚みの不均一化とを長期間に亘って抑制して、耐久性を向上することができる。
また前記撥水撥油性に基づいて、下層基布14と表面印刷層3との間に介在している上層基布4、圧縮層5、およびプライマ層13を中間層10として、前記中間層10の最下層であるプライマ層13と中層基布7との界面Sを、前記表面印刷層3の、支持体層2からのはく離を補助するはく離境界面として機能させることもできる。
【0037】
前記各層は、先の図1の例と同様に構成される。各層の厚みも先の図1の例と同様の範囲とすることができるが、圧縮層5については、先に説明した好適範囲より厚みを大きくすることで、印刷用ブランケット1の全体の厚みを、先に説明した範囲内となるように調整するのが好ましい。
前記圧縮層5の厚みは0.6mm以上、特に0.8mm以上であるのが好ましく、1.2mm以下、特に1.0mm以下であるのが好ましい。
【0038】
図4は、さらに他の例の印刷用ブランケット1の一部を拡大して示す断面図である。
図4を参照して、この例の印刷用ブランケット1は単層で支持体層2を構成する基布15を備えるとともに、前記基布15の片面に積層した表面印刷層3を備えている。
前記基布15は、基布の繊維間に撥水撥油性を有するフッ化アルキル樹脂を含ませることによって形成されており、前記撥水撥油性に基づいて、非印刷領域からのニスや洗浄液の浸透による印刷用ブランケット1の不均一な膨潤と、それに伴う厚みの不均一化とを長期間に亘って抑制して、耐久性を向上することができる。
【0039】
また前記撥水撥油性に基づいて、前記基布15と表面印刷層3との界面Sを、前記表面印刷層3の、支持体層2からのはく離を補助するはく離境界面として機能させることができる。
前記両層は、先の図1の例と同様に構成される。基布15の厚みも先の図1の例と同様の範囲とすることができる。
【0040】
一方、表面印刷層3については、先に説明した好適範囲の中でも厚みを大きくすることで、印刷用ブランケット1の全体の厚みを、先に説明した範囲内となるように調整するのが好ましい。
前記圧縮層5の厚みは1.5mm以上、特に1.6mm以上であるのが好ましく、2.0mm以下、特に1.8mm以下であるのが好ましい。
【0041】
本発明は、以上で説明した各図の例に限定されるものではない。
例えば、図1〜図3の例において圧縮層5を省略しても良い。その場合は、印刷用ブランケット1の全体の厚みが先に説明した範囲内となるように、表面印刷層3や基布の厚みを調整したり、基布の枚数を調整したりすればよい。
繊維間にフッ化アルキル樹脂を含ませた基布の位置は、各図の例には限定されない。また複数の基布のうち2層以上の基布を、繊維間にフッ化アルキル樹脂を含ませた基布としてもよい。
【0042】
その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で任意の設計変更を施すことができる。
【実施例】
【0043】
以下の実施例、比較例における印刷用ブランケットの製造、および試験を、特記した以外は温度23±1℃、相対湿度55±1%の環境下で実施した。
〈実施例1〉
(表面印刷層用ゴム糊の調製)
基材ゴムとしてのNBR、補強剤としてのシリカ、加硫促進助剤としての亜鉛華とステアリン酸、可塑剤としてのジオクチルアジペート、顔料としてのイプシロンブルー、加硫剤としての硫黄、加硫促進助剤DM〔大内新興化学工業(株)製のノクセラー(登録商標)DM、ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド〕、および加硫促進助剤TET〔大内新興化学工業(株)製のノクセラーTET、テトラエチルチウラムジスルフィド〕を、下記表1に示す割合で配合するとともに、その合計量の2倍量(=276質量部)のトルエンに溶解させて、表面印刷層用ゴム糊を調製した。
【0044】
【表1】

【0045】
(圧縮層用ゴム糊の調製)
基材ゴムとしてのNBR、補強剤としてのカーボンブラックHAF、加硫促進助剤としての亜鉛華とステアリン酸、可塑剤としてのジオクチルアジペート、中空微小球、加硫剤としての硫黄、加硫促進助剤DM〔大内新興化学工業(株)製のノクセラー(登録商標)DM、ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド〕、および加硫促進助剤TET〔大内新興化学工業(株)製のノクセラーTET、テトラエチルチウラムジスルフィド〕を、下記表2に示す割合で配合するとともに、その合計量の2倍量(=321.4質量部)のトルエンに溶解させて、圧縮層用ゴム糊を調製した。
【0046】
【表2】

【0047】
(プライマ層用ゴム糊の調製)
基材ゴムとしてのNBR、補強剤としてのシリカ、加硫促進助剤としての亜鉛華とステアリン酸、可塑剤としてのジオクチルアジペート、軟化剤としてのクマロン樹脂、加硫剤としての硫黄、加硫促進助剤DM〔大内新興化学工業(株)製のノクセラー(登録商標)DM、ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド〕、および加硫促進助剤TET〔大内新興化学工業(株)製のノクセラーTET、テトラエチルチウラムジスルフィド〕を、下記表3に示す割合で配合するとともに、その合計量の2倍量(=290質量部)のトルエンに溶解させて、表面印刷層用ゴム糊を調製した。
【0048】
【表3】

【0049】
(印刷用ブランケットの製造)
図1に示す7層構造の印刷用ブランケット1を製造することとし、基布として、綿布にフッ化アルキル樹脂を含浸させた厚み0.4mmの含浸基布と、前記フッ化アルキル樹脂を含浸させていない綿布(通常基布)とを用意した。通常基布は、厚み0.3mmのものと0.4mmのものとを用意した。
【0050】
次いで、前記厚み0.4mmの通常基布の片面に前記プライマ層用ゴム糊を糊引きし、その上に前記含浸基布を貼り合わせて第1積層体を形成した。この第1積層体のうち含浸基布は中層基布7、プライマ層用ゴム糊の層は下層プライマ層8、通常基布は下層基布9となる。
また、厚み0.3mmの通常基布の片面に前記圧縮層用ゴム糊を糊引きし、連続加硫機を通して加硫させて、上層基布4と厚み0.4mmの多孔質の圧縮層5とからなる第2積層体を形成した。加硫条件は下記のとおり。
【0051】
圧力:19.61kPa
温度:140℃
時間:30分間
次いで、前記第1積層体のうち中層基布7となる含浸基布側の表面に前記プライマ層用ゴム糊を糊引きし(上層プライマ層6)、その上に、前記第2積層体を、圧縮層5側の表面が接触するように重ね合わせて支持体層2の前駆体を形成した。
【0052】
そして前記前駆体のうち上層基布4側の表面に前記表面印刷層用ゴム糊を糊引きし、連続加硫機を通して全体を加硫させた後、前記表面印刷層用ゴム糊からなる表面印刷層3の表面を仕上げ研磨して、前記図1に示す7層構造を有し、全体の厚みが1.96mmである印刷用ブランケット1を製造した。加硫条件は下記のとおり。
圧力:196.1kPa
温度:150℃
時間:30分間
また各層の厚みは下記のとおり。
【0053】
表面印刷層3:0.3mm
上層基布4:0.3mm
圧縮層5:0.4mm
上層プライマ層6:0.08mm
中層基布7:0.4mm
下層プライマ層8:0.08mm
下層基布9:0.4mm
〈実施例2〉
図2に示す9層構造の印刷用ブランケット1を製造することとし、基布として、綿布にフッ化アルキル樹脂を含浸させた厚み0.24mmの含浸基布と、前記フッ化アルキル樹脂を含浸させていない綿布(通常基布)とを用意した。通常基布は、厚み0.24mmのものと0.3mmのものとを用意した。
【0054】
次いで、前記厚み0.24mmの通常基布2枚を、実施例1で調製したのと同じプライマ層用ゴム糊によって貼り合わせ、その片面に同じプライマ層用ゴム糊を糊引きした上に前記含浸基布を貼り合わせて第1積層体を形成した。この第1積層体のうち含浸基布は中層基布7、プライマ層用ゴム糊の層は下層プライマ層8、通常基布は下層基布9、プライマ層用ゴム糊の層は最下層プライマ層11、通常基布は最下層基布12となる。
【0055】
また、厚み0.3mmの通常基布の片面に、実施例1で調製したのと同じ圧縮層用ゴム糊を糊引きし、連続加硫機を通して加硫させて、上層基布4と厚み0.4mmの多孔質の圧縮層5とからなる第2積層体を形成した。加硫条件は下記のとおり。
圧力:19.61kPa
温度:140℃
時間:30分間
次いで、前記第1積層体のうち中層基布7となる含浸基布側の表面に前記プライマ層用ゴム糊を糊引きし(上層プライマ層6)、その上に、前記第2積層体を、圧縮層5側の表面が接触するように重ね合わせて支持体層2の前駆体を形成した。
【0056】
そして前記前駆体のうち上層基布4側の表面に、実施例1で調製したのと同じ表面印刷層用ゴム糊を糊引きし、連続加硫機を通して全体を加硫させた後、前記表面印刷層用ゴム糊からなる表面印刷層3の表面を仕上げ研磨して、前記図2に示す9層構造を有し、全体の厚みが1.96mmである印刷用ブランケット1を製造した。加硫条件は下記のとおり。
【0057】
圧力:196.1kPa
温度:150℃
時間:30分間
また各層の厚みは下記のとおり。
表面印刷層3:0.3mm
上層基布4:0.3mm
圧縮層5:0.4mm
上層プライマ層6:0.08mm
中層基布7:0.24mm
下層プライマ層8:0.08mm
下層基布9:0.24mm
最下層プライマ層11:0.08mm
最下層基布12:0.24mm
〈実施例3〉
図3に示す5層構造の印刷用ブランケット1を製造することとし、基布として、綿布にフッ化アルキル樹脂を含浸させた厚み0.4mmの含浸基布と、前記フッ化アルキル樹脂を含浸させていない厚み0.3mmの綿布(通常基布)とを用意した。
【0058】
次いで、厚み0.3mmの通常基布の片面に、実施例1で調製したのと同じ圧縮層用ゴム糊を糊引きし、連続加硫機を通して加硫させて、上層基布4と厚み0.88mmの多孔質の圧縮層5とからなる第1積層体を形成した。加硫条件は下記のとおり。
圧力:19.61kPa
温度:140℃
時間:30分間
次いで、下層基布14となる前記含浸基布の片面に、実施例1で調製したのと同じプライマ層用ゴム糊を糊引きし(プライマ層13)、その上に、前記第1積層体を、圧縮層5側の表面が接触するように重ね合わせて支持体層2の前駆体を形成した。
【0059】
そして前記前駆体のうち上層基布4側の表面に、実施例1で調製したのと同じ表面印刷層用ゴム糊を糊引きし、連続加硫機を通して全体を加硫させた後、前記表面印刷層用ゴム糊からなる表面印刷層3の表面を仕上げ研磨して、前記図3に示す5層構造を有し、全体の厚みが1.96mmである印刷用ブランケット1を製造した。加硫条件は下記のとおり。
【0060】
圧力:196.1kPa
温度:150℃
時間:30分間
また各層の厚みは下記のとおり。
表面印刷層3:0.3mm
上層基布4:0.3mm
圧縮層5:0.88mm
プライマ層13:0.08mm
下層基布14:0.4mm
〈実施例5〉
図4に示す2層構造の印刷用ブランケット1を製造することとし、基布として、綿布にフッ化アルキル樹脂を含浸させた厚み0.3mmの含浸基布を用意した。
【0061】
そして単層で支持体層2を構成する基布15となる前記含浸基布の片面に、実施例1で調製したのと同じ表面印刷層用ゴム糊を糊引きし、連続加硫機を通して全体を加硫させた後、前記表面印刷層用ゴム糊からなる表面印刷層3の表面を仕上げ研磨して、前記図4に示す2層構造を有し、全体の厚みが1.96mmである印刷用ブランケット1を製造した。加硫条件は下記のとおり。
【0062】
圧力:196.1kPa
温度:150℃
時間:30分間
また各層の厚みは下記のとおり。
表面印刷層3:1.66mm
基布16:0.3mm
〈比較例1〉
従来の印刷用ブランケットを製造することとし、基布として、フッ化アルキル樹脂を含浸させていない綿布(通常基布)を用意した。通常基布は、厚み0.3mmのものと0.4mmのものとを用意した。
【0063】
また、基材ゴムとしてのNBR、補強剤としてのシリカ、加硫促進助剤としての亜鉛華とステアリン酸、可塑剤としてのジオクチルアジペート、中空微小球、加硫剤としての硫黄、加硫促進助剤DM〔大内新興化学工業(株)製のノクセラー(登録商標)DM、ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド〕、および加硫促進助剤TET〔大内新興化学工業(株)製のノクセラーTET、テトラエチルチウラムジスルフィド〕を、下記表4に示す割合で配合するとともに、その合計量の2倍量(=311.4質量部)のトルエンに溶解させて、ピーリング層用ゴム糊を調製した。
【0064】
【表4】

【0065】
次いで、厚み0.4mmの通常基布の片面に、前記ピーリング層用ゴム糊を糊引きし、連続加硫機を通して加硫させて、中層基布と厚み0.04mmのピーリング層とからなる第1積層体を形成した。加硫条件は下記のとおり。
圧力:19.61kPa
温度:140℃
時間:30分間
また、厚み0.3mmの通常基布の片面に、実施例1で調製したのと同じ圧縮層用ゴム糊を糊引きし、連続加硫機を通して加硫させて、上層基布と厚み0.4mmの多孔質の圧縮層とからなる第2積層体を形成した。加硫条件は下記のとおり。
【0066】
圧力:19.61kPa
温度:140℃
時間:30分間
次いで、前記第1積層体のうちピーリング層側の表面に、実施例1で調製したのと同じプライマ層用ゴム糊を糊引きし(上層プライマ層)、その上に、前記第2積層体を、圧縮層側の表面が接触するように重ね合わせるとともに、前記第1積層体のうち中層基布側の表面に、同じプライマ層用ゴム糊を糊引きし(下層プライマ層)、下層基布となる厚み0.4mmの通常基布を重ね合わせて支持体層の前駆体を形成した。
【0067】
そして前記前駆体のうち上層基布側の表面に、実施例1で調製したのと同じ表面印刷層用ゴム糊を糊引きし、連続加硫機を通して全体を加硫させた後、前記表面印刷層用ゴム糊からなる表面印刷層の表面を仕上げ研磨して、全体の厚みが1.96mmである印刷用ブランケット1を製造した。加硫条件は下記のとおり。
圧力:196.1kPa
温度:150℃
時間:30分間
また各層の厚みは下記のとおり。
【0068】
表面印刷層:0.3mm
上層基布:0.3mm
圧縮層:0.4mm
上層プライマ層:0.04mm
ピーリング層:0.04mm
中層基布:0.4mm
下層プライマ層:0.08mm
下層基布:0.4mm
〈ピーリング性評価〉
実施例、比較例で製造した印刷用ブランケットから表面印刷層をはく離する際の180°はく離力を測定した。
【0069】
〈耐久性評価〉
実施例、比較例で製造した印刷用ブランケットの表面印刷層の一部を、1cmに亘ってはく離して非印刷領域とし、前記非印刷領域に洗浄液を接触させて24時間経過後に、その周囲の印刷領域の、前記非印刷領域と接する縁辺部分の厚みの増加量を求めた。そして下記の基準で、印刷用ブランケットの耐久性を評価した。
【0070】
○:厚みの増加分が0.08mm未満、耐久性良好。
×:厚みの増加分が0.08mm以上、耐久性不良。
以上の結果を表5に示す。
【0071】
【表5】

【0072】
表5より、支持体層中に、フッ化アルキル樹脂を含浸させた含浸基布を設けた実施例1〜4の印刷用ブランケットは、従来の、ピーリング層を設けた比較例1の印刷用ブランケットとほぼ同等程度のはく離力で表面印刷層をはく離することができる上、前記比較例1のものに比べて洗浄液等に対する耐久性を向上できることが判った。
【符号の説明】
【0073】
1 印刷用ブランケット
2 支持体層
3 表面印刷層
4 上層基布
5 圧縮層
6 上層プライマ層
7 中層基布
8 下層プライマ層
9 下層基布
10 中間層
11 最下層プライマ層
12 最下層基布
13 プライマ層
14 下層基布
15 基布
S 界面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1枚の基布を含む支持体層と、前記支持体層の片面に積層した表面印刷層とを備え、前記少なくとも1枚の基布は、前記基布を形成する繊維間にフッ化アルキル樹脂を含んでいることを特徴とする印刷用ブランケット。
【請求項2】
前記支持体層は、繊維間にフッ化アルキル樹脂を含む1枚の基布を備え、前記基布の片面に直接に、または中間層を介して表面印刷層が積層されており、前記基布と表面印刷層、または基布と中間層との界面が、前記表面印刷層の、支持体層からのはく離を補助するはく離境界面とされている請求項1に記載の印刷用ブランケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−91341(P2012−91341A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238684(P2010−238684)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】