説明

印褥具及びその印褥具を利用した印面の製造方法及びその印面の捺印方法

【課題】印褥具を携帯しているだけで、必要時に即座に捺印できる経済的な方法を提供する。
【解決手段】印褥体2を収納する底容器1と、前記底容器に蓋容器3を被装した印褥具であって、印褥具の一部に、文字及び模様の少なくとも一方を刻設して版下32とする。前記版下に柔軟性のある印材を押圧して捺印用の印面を製造する。前記柔軟性のある印材として指先を用いると、印材すら用意する必要がなく、自らの指先を印面として利用することができるため、即座にインキを付着させ、捺印することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印面にインキを付着させて捺印する印褥具に関するものである。さらに詳しくは、前記印褥具の一部に刻設した文字や模様を版下とし、前記版下に柔軟性のある印材を押圧して捺印用の印面を製造する製造方法と、前記製造方法により得られた印面に前記印褥具に収納した印褥体のインキを付着させて捺印する捺印方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
印面にインキを付着させる印褥具としては、スタンプ台や朱肉が従来からよく知られている。また、従来の印面は、印材としてゴム、木、石、角等を用い、それを彫刻して製版している。
また、前記印面以外として指紋や掌紋を捺印するための印褥具も従来からよく知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1には、印褥体として綿布、不織布、紙、多孔質ゴム、合成樹脂多孔質体、海綿等の材料を採用し、採紋用印褥具とする旨記載がある(特許文献1、第3頁に記載)。
【特許文献1】実開昭51−24414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来の印面は、印材としてゴム、木、石、角等を用い、それを彫刻して製版するため、その製造には時間がかかる。また、印面を自分で作製しない場合には、市販品を別途購入する必要があり、手間と費用がかかる。
また、特許文献1に記載の印褥具は、指紋や掌紋を捺印する記載はあるが、指先に印面を製造する記載はない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の課題を解決するために完成された第1の発明の印褥具は、印褥体を収納する底容器と、前記底容器に蓋容器を被装した印褥具であって、印褥具の一部に、文字及び模様の少なくとも一方を刻設して版下とすることを特徴とする。
また、第2の発明は、第1の発明に記載の印褥具の版下から印面を製造する製造方法であって、前記版下に柔軟性のある印材を押圧して捺印用の印面を製造することを特徴とする前記印面の製造方法である。
また、第3の発明は、第2の発明に記載の柔軟性のある印材が指先であることを特徴とする第2の発明に記載の印面の製造方法である。
また、第4の発明は、第2の発明または第3の発明に記載の方法により得られた印面を捺印する方法であって、前記印面に前記印褥体のインキを付着させて捺印することを特徴とする捺印方法である。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、印褥具の一部に文字や模様を刻設した版下を設けているため、前記版下に柔軟性のある印材を押圧すると、捺印用の印面を製造することが簡単にできる。所望の版下を複数刻設した印褥具を用意しておけば、別途印面が彫刻された印判を用意しておく必要がない。印材は、柔軟性のある材料であればよいため、家庭や職場等、身の回りにある品物も適宜利用でき、その場合印材を新たに購入する必要がなく経済的である。また、前記柔軟性のある印材として指先を用いると、印材すら用意する必要がなく、自らの指先を印面として利用することができるため、経済的であると同時に、前記印褥具には、印褥体を収納しているため、本発明の印褥具を携帯しているだけで、必要時に即座にインキを付着させ、捺印することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に、本発明の好ましい実施の形態を図1、図2に基づいて詳細に説明する。
本発明の印褥具としては、印面に朱油やスタンプインキを適切に付着させ、鮮明な捺印を可能にするものであれば適宜採用可能であるが、特にスタンプ台や朱肉をいう。
底容器1は、ポリブチレン-テレフタレート(PBT)樹脂、ABS樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等の合成樹脂製や、真鍮やステンレスのような金属や、木等であり、その形状は上面が開口した略直方体の箱型である。底容器1には略直方体の印褥体2が収納されている。ここで、底容器1の形状は、略直方体の箱型に限定されるものでなく、必要に応じてその底面を円形や他の多角形にすることも可能である。
印褥体2には、単層のシート体や、複数の材料を積層したフェルトの表面を表布で覆ったもの等が適宜採用可能である。
まず、単層のシート体としては、連続多孔質体を採用可能である。この連続多孔質体は、連続気泡を有するオレフィン系樹脂の粉末燒結体で、気孔率30〜80%、気孔径5〜30μmを採用可能である。また、連続気泡を有するポリウレタンフォーム、連続気孔を有する多孔質ゴム材、ポリビニルホルマールの多孔質体、金属多孔質体、プラスチゾル等の材料を用いてもよい。
複数の材料を積層したフェルトとしては、下からクッション材、タンクフェルトを順に積層し刺し加工により一体品としたもので、タンクフェルトを必要に応じて多層にしたものを採用可能である。クッション材の材質としては、発泡ポリエチレンや発泡ポリスチレン等が挙げられ、タンクフェルトの材質としては、羊毛等の天然繊維または、合成繊維(ポリエステル、ポリアミド、アクリル等)からなるインキを含浸(吸蔵)保持出来るフェルトが挙げられる。特に材質はインキを含浸保持出来るものであれば問わない。
積層したフェルトの表面を覆う表布に使用できる繊維は、天然繊維や化学繊維が種々採用可能である。例えば、天然繊維としては、綿、麻等の植物繊維や、絹、羊毛等の動物繊維が採用可能であり、また、化学繊維の内、合成繊維としては、ポリエステル、アクリル、ナイロン、ビニロン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ビニリデン、ポリウレタン、アラミド等が採用可能であり、また、再生繊維としては、レーヨン、ポリノジック、キュブラ等が採用可能であり、また、半合成繊維としては、アセテート、ポリアセテート、プロミックス等が採用可能である。それぞれ単独で紡いだ単紡や、種類の異なる繊維を紡いだ混紡を適宜採用可能である。また、表布は前記繊維を使用して織った織物で、平織、綾織、捩り織、朱子織等、織り方は適宜選択可能である。
前記印褥体2に含浸させるインキは、顔料系、染料系、油性系、水性系を問わず、印判用インキとして知られているもの全てが適宜採用可能である。印材として指先を使用する場合は、アクリル樹脂エマルジョン配合水性顔料インキを採用することが好ましい。インキ成分として、顔料、スチレン/アクリル酸エステル共重合体樹脂、及び添加剤としてグリセリン、多価アルコールを水に分散、溶解してなるもので、粘度は使用される連続多孔質体の気孔径に応じて10〜100mPasに調整したものを採用できる。アクリル樹脂エマルジョン配合水性顔料インキは、指先に付着しても、石鹸で簡単に洗い流すことが可能である。
【0007】
印褥体2の上面に蓋容器3を被装する。ここで被装とは、被せるように取付けることを意味する。蓋容器3の材質は、前記底容器1と同様、ポリブチレン-テレフタレート(PBT)樹脂、ABS樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等の合成樹脂製や、真鍮やステンレスのような金属や、木等であり、その被装方法は、螺着、嵌着、蝶着、枢着等必要に応じて採用可能である。
【0008】
蓋容器3の天板31の内面には、文字及び模様の少なくとも一方を刻設して版下32とする。版下32は、通常印面や版面を作成するときの原稿のことを意味し、本発明では、刻設した文字や模様のことを指す。そして、この版下32は、通常の印面のように左右が逆に書かれたいわゆる鏡文字とは異なり、その文字や模様はそのまま判読可能な正文字となる。
ここで、刻設とは、刻んで設けること、あるいは彫って設けることを意味するが、必ずしも、手作業で刻んだり彫ったりすることのみを意味するものではない。刻設の具体的な方法としては、材質として合成樹脂を採用した場合、金型を使用する射出成形(インジェクション成形)や圧縮成形等を採用可能であり、また、金属を採用した場合は、刻印等を採用可能であり、また、木等を採用した場合は、彫刻刀等で彫刻することも勿論可能である。版下32は、凸状、凹状のどちらでもよいが、印材を押圧して印面を製造する関係上、凸状が好ましく、その位置は、蓋容器3の天板31の内面だけでなく、蓋容器3の外面は勿論のこと、底容器1に設けてもよいものである。
また、文字及び模様の少なくとも一方とは、文字のみ、模様のみ、文字及び模様の組合わせを意味する。文字や模様には、図2に示したものの他にも、例えば、様々な顔の模様や絵文字、年賀状で使用する十二支等、従来から印面として採用しているものを採用可能である。
【0009】
本発明の印褥具は以上のような構成であり、次に前記印褥具の版下32から印面を製造する製造方法について、詳細に説明する。
本発明の印面の製造方法は、前記版下32に、柔軟性のある印材を押圧して製造するものであり、その柔軟性のある印材としては、天然ゴム、アクリロニトリルーブタジエンゴム、スチレンーブタジエンゴム、シリコーンゴム等のゴム類や、ポリオレフィン、プラスチックエラストマー、塩化ビニール等の樹脂類、ジャガイモやサツマイモ等の天然素材、工作用粘土類、人の指先等、を使用できるが、これらに限定されるものではなく、材質の硬度が、デュロメータ硬さ5〜20(JIS K6253 加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの硬さ試験方法 タイプA)である材質が採用可能であるし、さらに好ましくは、前記材質の硬度が、デュロメータ硬さ10〜15であるとよい。
これらの印材を使用して印面を製造する方法は、印材を前記版下32に強く押圧して印材を凹ませ、印材に凹版の印面を形成させる。版下32が凹状の場合は、印材の印面は凸版となる。印面の維持時間は、材質によって異なるが、印材を人の指先とした場合であっても、少なくとも1分以上持続するため、捺印用の印面として十分に機能するものである。
【0010】
次に、前記方法により得られた印面を捺印する方法について、図3に基づいて詳細に説明する。
図3は、印材として指先を用いた実施例を示すものである。まず、前記方法の通り、指先を前記版下32に強く押圧して印面を形成する(図3a)。このとき、版下32に指先を、短時間に強く押し付けると(約1秒間で2.0〜3.0kgf)、印面をより的確に形成できる。次に、指先に形成した印面を印褥体2に軽く接触させてインキを付着させる(図3b)。そして、インキを付着させた印面(指先)を、紙等の被捺印物へ押圧して捺印が完了する(図3c、図3d)。ここで、印面を印褥体2に接触させてインキを付着させるときと、印面を被捺印物へ押圧するときは、それぞれ0.5〜1.0kgf程度で軽く押し付けるようにすると、より鮮明な捺印印影を得ることができる。
【0011】
尚、本発明を前記実施例により説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明印褥具の断面図
【図2】本発明印褥具の蓋容器を開いた図
【図3】本発明で製造した印面を捺印する方法を示す参考図
【符号の説明】
【0013】
1 底容器
2 印褥体
3 蓋容器
31 天板
32 版下

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印褥体を収納する底容器と、前記底容器に蓋容器を被装した印褥具であって、印褥具の一部に、文字及び模様の少なくとも一方を刻設して版下とすることを特徴とする印褥具。
【請求項2】
請求項1に記載の印褥具の版下から印面を製造する製造方法であって、前記版下に柔軟性のある印材を押圧して捺印用の印面を製造することを特徴とする前記印面の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の柔軟性のある印材が指先であることを特徴とする請求項2に記載の印面の製造方法。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の方法により得られた印面を捺印する方法であって、前記印面に前記印褥体のインキを付着させて捺印することを特徴とする捺印方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−126074(P2009−126074A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−304013(P2007−304013)
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年6月5日 株式会社 美術出版社発行の「デザインの現場 2007年6月号(vol.24 no.153)」に発表
【出願人】(390017891)シヤチハタ株式会社 (162)