説明

卵母細胞の回収および成熟のための方法

本発明は、生殖補助技術による卵母細胞からの胚の生産方法に関する。該方法は、(a) 第1のホスホジエステラーゼインヒビターおよび、卵母細胞の細胞内cAMP濃度を増加させる物質を含む回収培地中で被験体の卵巣から卵母細胞を回収するステップ、(b) 第2のホスホジエステラーゼインヒビターを含む成熟培地中で卵母細胞を培養するステップ、および(c) 生殖補助技術によって卵母細胞から胚を生産するステップを含む。本発明はまた、卵成熟を誘発する方法に関する。例えば、上記ステップ(a)および(b)を含む卵母細胞のin vitro成熟方法が記載される。本発明はまた、ホスホジエステラーゼインヒビターおよび、卵母細胞の成熟を誘発するためのリガンドを含む卵成熟培地に関する。上で言及される卵母細胞回収物および成熟培地を含む複合製品もまた記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本国際特許出願は、2009年5月14日出願の米国仮特許出願61/178,318の優先権を主張する。該米国仮特許出願の内容はこの参照によりここに組み入れられる。
【0002】
発明の属する分野
本発明は、概して、卵母細胞の回収および成熟のための方法に関する。特に、本発明は、受精前の卵母細胞の成熟を促進する、向上した回収および成熟培地を利用するin vitro法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
哺乳類では、未成熟な卵(卵母細胞)は卵巣内の卵胞中で育ち発達する。未成熟卵母細胞は体細胞性顆粒膜細胞と代謝的に共役する。体細胞性顆粒膜細胞は卵母細胞を囲み、排卵まで卵母細胞の発達を促進する。本質的に、卵母細胞の成熟は、付随する体細胞性顆粒膜細胞との結び付きに依存し、該体細胞性顆粒膜細胞は、その成長および発達を支持するだけでなく、減数分裂の進行を調節する。
【0004】
排卵前の発達期の卵母細胞の細胞質および核の成熟は、受精の成功、胚の発達、およびおそらく胚が着床する能力にも欠かせない、密接に関連するが、区別して分類されるプロセスであり、最終的に妊娠の結果に影響する。
【0005】
細胞質発達期には、卵母細胞の直径は約15から100μmに実質的に増加し、それは容積の300倍増加に相当する。この段階で、卵母細胞は転写的にも翻訳的にも非常に活発である。例えば、成熟マウス卵母細胞は平均的体細胞の約200倍のRNAおよび約50〜60倍のタンパク質を含む。卵母細胞のmRNA含量も、体細胞中の約2〜3%のmRNA含量と比較して高く、約15〜20%である。
【0006】
卵母細胞の核成熟はゴナドトロピン黄体形成ホルモンサージ後に生じ、それには、核膜の溶解、染色体縮合およびその後の赤道板での定位(orientation)、および紡錘体での微小管の構成が関与する。
【0007】
西側諸国のかなりの割合の子供が今や、体外受精(IVF)の使用を含む生殖補助技術を使用して生まれている。IVFは、概して、女性の卵巣を刺激して複数の発育卵胞を生じさせ、排卵の準備をしている、これらの大きい発育卵胞から卵を回収し、回収された卵を精子とin vitroで接触させ、得られた胚を子宮内に導入する形式をとる。卵母細胞のin vitro成熟(IVM)はIVFの補助療法であり、それは治療中のゴナドトロピン投与の必要量を大きく減少させる。IVMは、低レベルのゴナドトロピンの投与を受けるかまたはさらにはゴナドトロピンの投与を受けない患者での小さい卵胞からの卵の取り出しを必要とする。卵の取得に使用される手順は、改変された患者管理システムおよび卵採取手順(ova pick-up procedure)を必要とする。
【0008】
標準IVF手順で使用される大用量のゴナドトロピンは卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の症状を生じさせうる。それはIVFサイクルを受けている女性の約5%で生じる。OHSSは通常軽度であり、自己限定的である。一部の症例では、緊急治療が必要である。重度の場合、該症状は生死にかかわる可能性があり、入院、静脈内輸液、鎮痛、および他の投薬を必要とする。脚の血餅から生じる肺塞栓症または重度の脱水の合併症がまれに生じる。
【0009】
多嚢胞性卵巣症候群の症状を有する女性は、ゴナドトロピン、または任意の他の卵胞刺激薬の投与に起因する卵巣過剰刺激を回避するためにIVFに優先してIVMを必要とする。IVMはまた、優先性が不妊治療中に卵胞刺激を最小にすることである女性に適用される。IVMはまた、少ない薬物投与しか必要とせず、該投与が通常患者自身によって実施されるので、患者に好都合である。IVMはまた、薬物使用のコストが最小になるのでコスト優位性を有する。
【0010】
それにもかかわらず、妊娠の確立および出産に関するIVMの効率はIVFと比較して減少する。近年において患者管理の改善があったが、臨床技術(laboratory techniques)はほとんど進歩していない。
【0011】
動物胚のin vitro生産(IVP)は、家畜および飼い慣らされた品種(domesticated breeds)の遺伝的改善、珍しい品種(rarer breeds)の遺伝的救出、ならびに有性精子(sexed sperm)からの有性胚(sexed embryos)の生産、または体細胞核移植によるクローニングなどの操作のプラットフォームテクノロジーとして、などの種々の目的を有する。in vitroでの胚の生産に必須の技術は、in vitroでの卵母細胞の成熟(IVM)である。IVPは、(ヒト臨床応用と同様に)ゴナドトロピン処置が必要とされる、過剰排卵および胚移植(MOET)などの現行の慣用技術に取って代わる可能性を有する。しかし、育種および他の用途でのIVPの採用は、移植可能な段階の胚の、不十分な生産効率、そのような胚の胚移植後の不十分な結果、およびそのような胚の凍結および解凍(保存)後の不十分な結果によって阻まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、卵母細胞を培養するための新規方法および培地があれば、望ましい。特に、生殖補助技術を向上させる、卵母細胞の回収および成熟のための新規方法および培地があれば、特に望ましい。
【0013】
本明細書中の任意の先行技術への参照は、任意の国でこの先行技術が周知の一般知識の部分を構成することの承認またはいかなる形式の示唆でもなく、そう解されるべきではない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明の要旨
本発明は、卵巣から採取された後の卵母細胞の成熟を促進する、卵母細胞のin vitro培地、およびその構成成分の研究から生じている。
【0015】
一態様では、本発明は、生殖補助技術による卵母細胞からの胚の生産方法であって、以下のステップ:
(a) 第1のホスホジエステラーゼインヒビターおよび、卵母細胞の細胞内cAMP濃度を増加させる物質を含む回収培地中で被験体の卵巣から卵母細胞を回収するステップ;
(b) 第2のホスホジエステラーゼインヒビターを含む成熟培地中で卵母細胞を培養するステップ; および
(c) 生殖補助技術によって卵母細胞から胚を生産するステップ
を含む方法を提供する。
【0016】
別の態様では、本発明は、卵母細胞のin vitro成熟の方法であって、以下のステップ:
(a) 第1のホスホジエステラーゼインヒビターおよび、卵母細胞の細胞内cAMP濃度を増加させる物質を含む回収培地中で被験体の卵巣から卵母細胞を回収するステップ; および
(b) 第2のホスホジエステラーゼインヒビターを含む成熟培地中で卵母細胞を培養するステップ
を含む方法を提供する。
【0017】
別の態様では、本発明は卵成熟(oocyte maturation)培地であって、以下の成分:
(a) ホスホジエステラーゼインヒビター; および
(b) 卵母細胞の成熟を誘発するためのリガンド
を含み、ここで、卵成熟培地中のリガンドの濃度は卵母細胞のcAMP誘発型減数分裂停止に打ち勝つ濃度である、培地を提供する。
【0018】
別の態様では、本発明は、以下の成分:
(a) 第1のホスホジエステラーゼインヒビターおよび、卵母細胞の細胞内cAMP濃度を増加させる物質を含む卵母細胞回収培地; および
(b) 第2のホスホジエステラーゼインヒビターおよび、卵母細胞の成熟を誘発するためのリガンドを含む卵成熟培地;
を含み、ここで、卵成熟培地中のリガンドの濃度は卵母細胞のcAMP誘発型減数分裂停止に打ち勝つ濃度である、複合製品を提供する。
【0019】
別の態様では、本発明は、卵母細胞の成熟を誘発する方法であって、ホスホジエステラーゼインヒビターおよび、卵母細胞の成熟を誘発するためのリガンドを含む成熟培地中で卵母細胞を培養するステップを含み、ここで、成熟培地中のリガンドの濃度が卵母細胞のcAMP誘発型減数分裂停止に打ち勝ち、それにより卵母細胞を成熟させる、方法を提供する。
【0020】
別の態様では、本発明は、減数分裂停止の状態である卵母細胞の成熟を誘発する方法であって、減数分裂停止に打ち勝つために十分な濃度のリガンドと卵母細胞を接触させるステップを含む方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、プレIVMの終わりの時点の全COC (卵丘層(cumulus vestments)が無傷である卵母細胞)のcAMP含量に対する、プレIVM期の(A) IBMXを伴わないかまたは(B) IBMX (500μM)を伴う漸増用量のフォルスコリンの効果を示すグラフである。
【図2】図2は、漸増濃度のフォルスコリンおよびIBMXとともにインキュベートされた場合のCOC cAMPに対するプレIVM持続期間の効果を示すグラフである。
【図3】図3は、卵母細胞内cAMP含量に対するプレIVM持続期間の効果を示すグラフであり、該卵母細胞は卵丘層が無傷のまま(COC)で回収およびインキュベートされてアッセイ前に裸化される(DO)。
【図4】図4は、2つの異なるタイプの卵母細胞: (A) 卵丘層が無傷のままで回収およびアッセイされた卵母細胞(COC); および(B) COCとして回収されたが、アッセイ前に卵丘層が剥離された卵母細胞(DO)の、cAMP含量に対する経時的な種々のプレin vitro成熟(プレIVM)期処置の効果を示すグラフである。
【図5】図5は、種々のプレin vitro成熟(プレIVM)およびIVM期培地での卵丘-卵母細胞複合体のインキュベーション後の自然卵成熟(GV/GVBD)に対する効果を示すグラフである。
【図6】図6は、種々のプレIVMおよびIVM期培地中で培養された卵丘-卵母細胞複合体の卵核胞(GV)構成に対する効果を示す一連のグラフである。
【図7】図7は、種々のプレIVMおよびIVM期培地中での卵母細胞のインキュベーション後の卵母細胞-卵丘細胞ギャップ結合コミュニケーションに対する効果を示すグラフである。
【図8】図8は、種々のプレIVMおよびIVM期培地に曝露された卵丘-卵母細胞複合体(COC)の減数分裂成熟の誘発に対する卵胞刺激ホルモン(FSH)の効果を示すグラフである。
【図9】図9は、種々のプレIVMおよびIVM期培地に曝露された卵母細胞の細胞内cAMP濃度を示すグラフである。
【図10】図10は、3型PDEインヒビターの存在下での卵胞刺激ホルモン(FSH)誘発型卵成熟に対する上皮細胞成長因子受容体(EGFR)インヒビターの効果を示すグラフである。
【図11】図11は、卵母細胞がIVM期に20μMシロスタミドの存在下で成熟した場合の卵母細胞の発達能に対するプレIVM期のIBMXおよび漸増用量のフォルスコリンの効果を示すグラフである。
【図12】図12は、卵母細胞発達能(すなわち卵割および胚盤胞期への発達)に対する、種々のプレIVMおよびIVM期培地中に存在するcAMP調節物質の存在の効果の概要を示す2つのグラフを示す。
【図13】図13は、胚盤胞細胞数に対する、種々のプレIVMおよびIVM期培地中に存在するcAMP調節物質の存在の効果を示すグラフである。
【図14】図14は、卵母細胞in vitro成熟(IVM)前のプレIVM期(2時間(COC回収および選択を含む))のin vitroで培養されたCOC中のcAMP濃度(B)と比較した、ウマ絨毛性ゴナドトロピン(eCG)およびヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)誘発型卵成熟によって誘発された卵胞発育後のマウス卵丘-卵母細胞複合体(COC)のin vivo cAMP濃度(A)間の比較を示すグラフである。
【図15】図15は、3型PDEインヒビター(シロスタミド; 1μM (A)または0.1μM (B))の存在下で成熟した卵丘-卵母細胞複合体(COC)の減数分裂成熟を誘発するための漸増用量のFSHの効果を示すグラフである。
【図16】図16は、卵母細胞減数分裂成熟を完了するためにかかる時間に対するプレIVMおよびIVM期のcAMPモジュレーターの効果を示すグラフである。
【図17】図17は、18および22時間の培養後の誘発型IVMまたは自然IVM (spontaneous IVM)のいずれかで成熟させたマウスCOCの減数分裂成熟を示すグラフである。
【図18】図18は、卵割率(2日目)(A)および胚盤胞率(5日目)(B)によって測定された卵母細胞発達能に対するマウス卵母細胞in vitro成熟(自然または誘発型IVMで18または22時間のIVM)の効果を実証する2つのグラフを示す。
【図19】図19は、マウス胚盤胞の質に対する誘発型IVMと比較した自然IVMの効果を示すグラフを含む。
【図20】図20は、マウス卵母細胞発達能に対する、プレIVMおよびIVM期に異なるcAMPモジュレーターを使用する効果を示すグラフである。
【図21】図21は、in vivoで、誘発型IVMまたは自然IVMによって成熟させたマウス卵母細胞の発達能を示すグラフである。
【図22】図22は、in vivoで、誘発型IVMまたは自然IVMによって成熟させた卵母細胞由来の胚を移植されたマウスの妊娠の結果(A〜C)および胎児発達(D〜E)に対する誘発型IVMの効果を示すグラフを提供する。
【図23】図23は、従来型IVF (in vivo成熟卵母細胞)および標準的な自然IVMと比較した誘発型IVMの主要な考え方および胎児発生でのこれらの3つの手順の相対的効率の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明の概要
本明細書(特許請求の範囲を含む)中で用語「含む(comprise)」、「comprises」、「comprised」または「comprising」が使用される場合、それらは、記載される特徴、整数、ステップまたは成分の存在を指定するが、1以上の他の特徴、整数、ステップ、成分またはそれらの群の存在を排除しないと解釈されるものとする。
【0023】
本明細書中で使用される単数形「a」、「an」および「the」は、文脈により明らかに指定されない限り、複数の態様を含む。
【0024】
値の範囲が表現される場合、この範囲が該範囲の上限および下限、およびこれらの境界の間のすべての値を包含することが明らかに理解される。
【0025】
本発明は、in vitroでの卵母細胞の回収および成熟の、改善された方法に関する。ヒトおよびウシ種を含むいくつかの種の卵巣から採取された卵母細胞の成熟は、採取された卵母細胞を、ホスホジエステラーゼインヒビターおよび、卵母細胞および/または、卵母細胞に付随する卵丘細胞の細胞内cAMP濃度を増加させる物質を含む回収培地に入れ、次いでホスホジエステラーゼインヒビターをやはり含む成熟培地中で卵母細胞を培養すると、大きく改善されることが報告された。生殖補助技術に関して、改善された方法論によって、卵母細胞の成熟度が生殖周期中に天然に生じる成熟度に(既知の培地中で回収された卵母細胞の成熟度と比較して、より)近づくまで卵母細胞の受精を遅らせることが可能になる。
【0026】
したがって、第1の態様では、本発明は、生殖補助技術による卵母細胞からの胚の生産方法であって、以下のステップ:
(a) 第1のホスホジエステラーゼインヒビターおよび、卵母細胞の細胞内cAMP濃度を増加させる物質を含む回収培地中で被験体の卵巣から卵母細胞を回収するステップ;
(b) 第2のホスホジエステラーゼインヒビターを含む成熟培地中で卵母細胞を培養するステップ; および
(c) 生殖補助技術によって卵母細胞から胚を生産するステップ
を含む方法を提供する。
【0027】
さらに、第2の態様では、本発明は、卵母細胞のin vitro成熟の方法であって、以下のステップ:
(a) 第1のホスホジエステラーゼインヒビターおよび、卵母細胞の細胞内cAMP濃度を増加させる物質を含む回収培地中で被験体の卵巣から卵母細胞を回収するステップ; および
(b) 第2のホスホジエステラーゼインヒビターを含む成熟培地中で卵母細胞を培養するステップ
を含む方法を提供する。
【0028】
上で考察されるように、生殖補助技術の成功は受精前の卵母細胞の成熟度に大きく依存する。卵巣から採取された卵母細胞は、典型的に、培養下におかれると減数分裂の自然再開を経験し、すなわち核成熟へ進む。この核成熟は、卵母細胞が完全な細胞質成熟を経験する前に生じることがよくある。これは、受精およびおそらく後の胚移植および発達の成功に最終的に影響すると考えられる。
【0029】
この関連で、用語「卵母細胞」は、単独の卵母細胞または1種以上の他の細胞と結び付いた卵母細胞、例えば卵丘卵母細胞複合体の部分である卵母細胞を含むことが理解される。
【0030】
したがって、本発明の第1および第2の態様に記載の方法は、被験体の卵巣から卵母細胞を回収するための培地を利用し、該培地は、本明細書中で「卵母細胞回収培地」、「回収培地」、またはそのバリエーションとも称され、第1のホスホジエステラーゼインヒビターおよび、卵母細胞の細胞内cAMP濃度を増加させる物質を含む。
【0031】
さらに、本発明の第1および第2の態様に記載の方法は、回収された卵母細胞の後の培養および成熟のための培地を利用し、該培地は、本明細書中で「卵成熟培地」、「成熟培地」、またはそのバリエーションとも称され、第2のホスホジエステラーゼインヒビターを含む。
【0032】
上記のように、回収および成熟培地はともにホスホジエステラーゼインヒビターを含む。回収および成熟培地中のホスホジエステラーゼインヒビターの存在、およびさらに、回収培地中の卵母細胞の細胞内cAMPを増加させる物質の存在は、採取された卵母細胞が減数分裂の自然再開を経験することを妨げる利点を提供する。したがって、それぞれの培地は、核成熟および後の受精過程が始まる前に卵母細胞の細胞質成熟を促進する。
【0033】
「ホスホジエステラーゼインヒビター」は、ホスホジエステラーゼ(PDE)を直接または間接的にブロックまたは阻害する物質を意味すると理解されるものとする。その作用は3'-リン酸ジエステル結合の加水分解切断による環状ヌクレオチド標的(例えばcAMPおよびcGMP)の不活性化を生じさせ、その結果、特定の環状ヌクレオチドが受動的に蓄積する。インヒビターはすべてのホスホジエステラーゼアイソフォームに非選択的であるかまたは特定のアイソフォームに選択的であってよい。
【0034】
「ホスホジエステラーゼアイソフォーム」とは、細胞内二次メッセンジャー、cAMPおよびcGMPの代謝または分解に関与するアイソザイムまたはアイソフォームのファミリーを表す。特定のアイソフォームは高度に選択的な細胞局在性および細胞下局在性を有しうる。ホスホジエステラーゼアイソフォームの例には、PDE3およびPDE4が含まれる。
【0035】
本発明の方法で使用できるPDEインヒビターには、性質が選択的であるか非選択的であるかにかかわらず、任意の無毒のPDEインヒビターが含まれる。PDEインヒビターは、タンパク質、抗体、アプタマー、アンチセンス核酸、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、ポリペプチド、ペプチド、小分子、薬物、多糖、糖タンパク質、および脂質の形式であってよい。例えば、好適なPDEインヒビターには、非限定的に、イソブチルメチルキサンチン(IBMX)、シロスタミド、テオフィリン、AH-21-132、Org-30029 (Organon)、Org-20241 (Organon)、Org-9731 (Organon)、Zardaverine、ビンポセチン、EHNA (MEP-1)、Milrinone、Siguazodan、Zaprinast、SK+F 96231、Tolafentrine (Byk Gulden)、およびFilaminast (Wyeth-Ayerst Pharmaceuticals)が含まれる。他のPDEインヒビターも当技術分野で公知である。
【0036】
回収培地中のPDEインヒビター(「第1のPDEインヒビター」)は成熟培地中のPDEインヒビター(「第2のPDEインヒビター」)と同一でも、異なってもよい。
【0037】
一実施形態では、回収培地中のPDEインヒビターはIBMXである。
【0038】
別の実施形態では、成熟培地中のPDEインヒビターはシロスタミドである。
【0039】
特定の一実施形態では、回収培地中のPDEインヒビターはIBMXであり、かつ成熟培地中のPDEインヒビターはシロスタミドである。
【0040】
上記のように、回収培地はまた、回収された卵母細胞の細胞内cAMPの濃度またはレベルを増加させかつ/または卵母細胞に付随する卵丘細胞のcAMPの濃度またはレベルを増加させる物質を含む。該物質は、卵母細胞および/または卵母細胞に付随する卵丘細胞内でcAMP合成または生産を増加させるか、またはその分解を減少させるか、またはその両方によって直接または間接的にそれを行う。cAMP合成、生産または分解のレベルを測定するための方法は当技術分野で公知である。
【0041】
一実施形態では、cAMP合成または生産は、無処置卵母細胞と比べて、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、2倍、5倍、10倍、20倍、50倍、または100倍増加する。同様に、別の実施形態では、cAMP分解は、無処置卵母細胞と比べて、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100減少する。
【0042】
細胞内cAMPの濃度またはレベルを増加させる物質は、タンパク質、抗体、アプタマー、アンチセンス核酸、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、ポリペプチド、ペプチド、小分子、薬物、多糖、糖タンパク質、および脂質の形式であってよい。例えば、cAMPの合成または生産を増加させる物質には、アデニルシクラーゼのアクチベーター、例えばフォルスコリンが含まれる。cAMP分解を減少させるモジュレーターの例には、ホスホジエステラーゼのインヒビター、例えばテオフィリンが含まれる。一実施形態では、細胞内cAMPの濃度またはレベルを増加させる物質は1以上のフォルスコリン、侵襲性アデニル酸シクラーゼおよびプロスタグランジンE2である。
【0043】
本発明の第1および第2の態様に記載の方法は、卵母細胞の核成熟を誘発するリガンドに卵母細胞を曝露するステップをさらに含んでよい。一実施形態では、リガンドの濃度は卵母細胞のcAMP誘発型減数分裂停止に打ち勝つために十分な濃度である。
【0044】
リガンドは卵成熟培地の成分として含ませるか、または別個の成分もしくは、卵母細胞を接触させる対象の別個の培地の部分であってよい。後者の場合、本発明の第1および第2の態様に記載の方法のステップ(b)の後にリガンドを加えることができる。
【0045】
リガンドは、タンパク質、抗体、アプタマー、アンチセンス核酸、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、ポリペプチド、ペプチド、小分子、薬物、多糖、糖タンパク質、および脂質の形式であってよい。例えば、リガンドには、非限定的に、卵胞刺激ホルモン(FSH)、上皮細胞成長因子(EGF) (EGF様ペプチドであるアンフィレグリンおよびエピレグリンを含む)、またはそれらの機能的アイソフォームが含まれる。本発明の方法で1種以上のリガンドを使用することが想定される。
【0046】
一実施形態では、リガンドはFSHである。
【0047】
一実施形態では、FSHの濃度は10 mIU/mlより高い。例えば、FSHの濃度は10〜200 mIU/mlの範囲である。
【0048】
別の実施形態では、リガンドはEGFである。
【0049】
一実施形態では、EGFの濃度は1 ng/mlより高い。
【0050】
本発明の第1の態様は「生殖補助技術」を考慮する。明細書の至る所で使用される用語「生殖補助技術」は、単離された卵母細胞および/または単離された精子が関与するヒトおよび動物での任意の受精技術を意味すると理解されるものとし、それには、in vitroで培養された卵母細胞または胚を使用する技術(例えば卵母細胞のin vitro成熟)、in vitro受精(IVF; 卵母細胞の吸引、実験室での受精およびレシピエントへの胚の移植)、配偶子卵管内移植(GIFT; ファロピウス管への卵母細胞および精子の配置)、接合子卵管内移植(ZIFT; 受精した卵母細胞のファロピウス管への配置)、卵管胚移植(tubal embryo transfer) (TET; 卵割中の胚のファロピウス管への配置)、腹膜卵母細胞および精子移植(peritoneal oocyte and sperm transfer) (POST; 骨盤腔への卵母細胞および精子の配置)、卵細胞質内精子注入(ICSI)、精巣内精子採取(TESE)、および顕微手術による精巣上体精子吸引(MESA); またはヒトおよび/または動物において胚を生産するための任意の他のin vitro技術、例えば核移植、単為生殖(parthenogenic)活性化および全能細胞の使用が含まれる。
【0051】
一実施形態では、生殖補助技術を使用してヒト胚を生産する。
【0052】
別の実施形態では、生殖補助技術を使用してウシ胚を生産する。
【0053】
本発明の第1および第2の態様に記載の方法では、卵母細胞をまず採取するか、または被験体の卵巣から回収する。卵母細胞回収は、当技術分野で古くから知られている標準的技術にしたがって実施することができる。例えば、Textbook of Assisted Reproduction: Laboratory and Clinical Perspectives (2003) Editors Gardner, D.K., Weissman, A., Howles, C.M., Shoham, Z. Martin Dunits Ltd, London, UK; およびGordon, I. (2003) Laboratory Production of Cattle Embryos 2nd Edition CABI Publishing, Oxon, UKを参照のこと。
【0054】
ほとんどの卵母細胞回収技術は、経膣超音波を使用する卵胞への吸引用針の挿入を必要とする。吸引用針を管によって物質回収トラップにつなぎ、次に回収トラップを吸引ソース、例えば手動操作式シリンジまたは電気機械的真空ソースにつなぐ。卵母細胞は、典型的に、複数の卵胞から単離される。そのようなものとして、採取された卵母細胞はその発生能に関して不均一な集団である。
【0055】
本発明の方法の一実施形態では、生殖補助技術はIVFを含む。IVFはin vitroでの卵母細胞の受精に関し、IVFでは、卵母細胞を被験体から単離し、液体培地中でインキュベートして卵母細胞を受精させる。
【0056】
上記のように、好適な女性から卵母細胞を回収し、in vitroで卵母細胞を受精させるための方法は当技術分野で周知である。卵母細胞の成熟度が、IVF手順の後のステップの成功を最大にするために十分な段階にあるように、卵母細胞の受精は、理想的には、卵母細胞回収ステップ後24時間以上であるが60時間以内で行われることが想定される。
【0057】
典型的に、35〜39℃で15〜120分、回収培地中で卵母細胞を維持する。そして、典型的に好適なガス混合物を含む37〜39℃インキュベーター中で20〜60時間、成熟培地中で卵母細胞をインキュベートする。好適なガス混合物の例には、非限定的に、生物学的活性を持続する割合で空気またはO2およびN2の混合物でバランスされたCO2 (1〜10容量%)を含むガス混合物が含まれる。
【0058】
そして、16〜60時間の範囲の成熟、典型的に24〜50時間の範囲の成熟および場合により28〜44時間の範囲の成熟の間、成熟培地中で卵母細胞を維持する。
【0059】
理解されるように、成熟期間は種間で異なる。一般に、成熟期間は、前記系での減数分裂の中期II期に達する期間であり、そのようなものとして、成熟期間は、典型的に、減数分裂の中期II期に達するまでの中央値期間の12時間前〜18時間後である。好適な期間は減数分裂の中期II期に達する3時間前〜6時間後である。例えばウシ環境では、IVM期間は、概して、中期IIへの減数分裂進行を特異的に阻害する化合物の不存在下で18〜24時間の範囲である。
【0060】
ヒト環境では、IVM期間は概して30時間より長く、最も通常には、30〜50時間の範囲である。
【0061】
一実施形態では、ヒトのIVM期間は36時間以上であり、例えば36〜48時間の範囲である。
【0062】
特定の一実施形態では、ヒトのIVM期間は40時間以上であり、例えば40〜48時間の範囲である。
【0063】
特定の一実施形態では、ヒトのIVM期間は48時間以上であり、例えば48〜50時間の範囲である。
【0064】
本明細書の至る所で使用される用語「被験体」は、ヒト女性または雌性哺乳類を含む任意の雌性被験体を含むと理解されるものとする。好適な哺乳類の例には、霊長類、家畜動物(例えばウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、またはヤギ)、コンパニオンアニマル(例えばイヌまたはネコ)、実験室検査動物(例えばマウス、ラット、またはモルモット)、または獣医学的もしくは経済的意義を有する任意の動物が含まれる。
【0065】
一実施形態では、被験体はBos indicus(ウシ)である。別の実施形態では、被験体はBos taurus(ウシ)である。
【0066】
本発明の前記および他の態様では、卵母細胞は、例えば、卵胞の部分、卵丘卵母細胞複合体(COC)の部分である卵母細胞であるか、または裸化卵母細胞であってよい。
【0067】
本発明の方法の一実施形態では、被験体はヒト女性であり、卵母細胞はヒト卵母細胞であり、かつ胚はヒト胚である。
【0068】
本発明の方法の別の実施形態では、被験体はウシであり、卵母細胞はウシ卵母細胞であり、かつ胚はウシ胚である。
【0069】
ホスホジエステラーゼインヒビター、卵母細胞の細胞内cAMP濃度を増加させる物質、および卵母細胞の核成熟を誘発するリガンドは、卵成熟培地を含む卵母細胞培養培地の補充物質として使用してよいことが理解される。
【0070】
したがって、第3の態様では、本発明は、以下の成分:
(a) ホスホジエステラーゼインヒビター; および
(b) 卵母細胞の核成熟を誘発するためのリガンド
を含む卵母細胞培養培地を提供する。
【0071】
一実施形態では、卵母細胞培養培地は卵成熟培地である。
【0072】
第4の態様では、本発明は、以下の成分:
(a) ホスホジエステラーゼインヒビター; および
(b) 卵母細胞の核成熟を誘発するためのリガンド
を含み、ここで、卵成熟培地中のリガンドの濃度は卵母細胞のcAMP誘発型減数分裂停止に打ち勝つ濃度である、卵成熟培地を提供する。
【0073】
一部の実施形態では、本発明の第3または第4の態様に記載の成熟培地中のホスホジエステラーゼインヒビターは上に記載される通りである。特定の一実施形態では、ホスホジエステラーゼインヒビターはシロスタミドである。
【0074】
一部の実施形態では、本発明の第3または第4の態様に記載のリガンドは上に記載される通りである。特定の実施形態では、リガンドはFSHまたはEGFである。各リガンドの濃度は上に記載される通りである。
【0075】
本発明の第3および第4の態様の一部の実施形態では、卵成熟培地はヒト卵成熟培地またはウシ卵成熟培地である。
【0076】
第5の態様では、本発明は、以下の成分:
(a) 第1のホスホジエステラーゼインヒビターおよび、卵母細胞の細胞内cAMP濃度を増加させる物質を含む卵母細胞回収培地; および
(b) 第2のホスホジエステラーゼインヒビターおよび、卵母細胞の成熟を誘発するためのリガンドを含む卵成熟培地;
を含み、ここで、卵成熟培地中のリガンドの濃度は卵母細胞のcAMP誘発型減数分裂停止に打ち勝つ濃度である、複合製品を提供する。
【0077】
本発明のこの態様の一実施形態では、上記物質は卵母細胞の細胞内cAMP生産を増加させる。例えば、上記物質はフォルスコリンである。別の実施形態では、上記物質は卵母細胞の細胞内cAMP分解を減少させる。
【0078】
一部の実施形態では、成熟培地中のリガンドはFSHまたはEGFである。FSHの濃度は概して10 mIU/mlより高く、EGFの濃度は概して1 ng/mlより高い。
【0079】
本発明の第5の態様の一部の実施形態では、第1のホスホジエステラーゼインヒビターと第2のホスホジエステラーゼインヒビターは異なる。例えば、第1のホスホジエステラーゼインヒビターはIBMXであり、第2のホスホジエステラーゼインヒビターはシロスタミドである。
【0080】
一部の実施形態では、第1のホスホジエステラーゼインヒビターと第2のホスホジエステラーゼインヒビターは同一である。
【0081】
一部の実施形態では、本発明の卵母細胞回収および成熟培地、またはそれらの複合製品を、本発明の方法のいずれか1つにしたがって使用する。例えば、ヒトまたはウシ卵母細胞の回収および成熟にそれらを使用する。
【0082】
本発明の卵母細胞回収培地は、被験体の卵巣からの卵母細胞の採取プロセス中の卵母細胞の洗い流し、洗浄および保持に使用することもできる。
【0083】
卵母細胞回収培地は、NaCl、KCl、Mg2SO4、KH2PO4、Ca[乳酸塩]、NaHCO3、アミノ酸および誘導体、タンパク質、例えば血清アルブミン、グルコース、ピルビン酸および抗生物質の1種以上からなってよい。該培地は、上記のように、PDEインヒビターおよび、卵母細胞の細胞内cAMP濃度を増加させる物質を含む。
【0084】
一部の実施形態では、卵母細胞回収培地中のPDEインヒビターはIBMXである。一実施形態では、IBMXの濃度は5〜5000μMの範囲である。一般に、該濃度は50〜1000μMの範囲である。
【0085】
一部の実施形態では、卵母細胞の細胞内cAMP濃度を増加させる物質はフォルスコリンである。一実施形態では、フォルスコリンの濃度は1〜2000μMの範囲である。一般に該濃度は10〜200μMの範囲である。
【0086】
本発明の卵成熟培地は、in vivoで生殖周期の排卵期に卵巣によって放出される卵母細胞の成熟度を模倣する、受精前の性的段階(physical stage)への回収された卵母細胞の成熟を可能にする。
【0087】
この培地の適用が所望である状況の一例は、そのようなホルモンについての被験体の不耐性のせいで、被験体から回収された卵母細胞をin vitroで卵成熟ホルモンで処置することが必要な場合に生じる。本発明は、卵母細胞の回収後、少なくとも24時間で60時間以内の期間、成熟培地中で卵母細胞を維持して、受精前に発達を促進することを想定する。
【0088】
卵成熟培地は、NaCl、KCl、Mg2SO4、KH2PO4、Ca[乳酸塩]、NaHCO3、アミノ酸および誘導体、タンパク質、例えば血清アルブミン、グルコース、ピルビン酸および抗生物質の1種以上からなってよく、かつPDEインヒビターを含む。成熟培地は、卵母細胞の核成熟を誘発するためのリガンドを含んでもよく、ここで、培地中のリガンドの濃度は卵母細胞のcAMP誘発型減数分裂停止に打ち勝つ濃度である。しかし、上記のように、卵成熟培地はリガンドを含む必要はなく、リガンドは別個の成分または別個の培地の部分であってよいことが理解される。
【0089】
PDEインヒビターおよびリガンドは上記の通りである。
【0090】
一実施形態では、成熟培地中のPDEインヒビターはシロスタミドである。一般に、0.01〜100μMの範囲の濃度のシロスタミドを使用し、典型的には、0.01〜50μMの範囲である。例えばウシ環境では、好適な濃度は10〜30μMの範囲であり、ヒト環境では、0.1〜1.0μMの範囲である。
【0091】
別の特定の実施形態では、卵母細胞の核成熟を誘発するリガンドはFSHおよび/またはEGFであり、FSHおよびEGFの濃度はそれぞれ10mIU/mlおよび1 ng/mlより高く、かつそれぞれ500 mIUおよび50 ng/ml未満であり、好ましくはそれぞれ50mIUおよび5ng/mlより高く、かつそれぞれ200mIUおよび20ng/ml未満である。
【0092】
本発明の卵母細胞回収および成熟培地、およびそれらの複合製品の成分は、複数回使用または単位剤形で、好適な容器(好ましくは滅菌されている)、例えばアンプル、ビン、またはバイアル中で別々にパッケージすることができる。容器を充填後に密封する。成分は、単離された形式であるか、または精製もしくは半精製形式であってよく、成分の安定性および/または使用のための追加の添加物を含んでよい。種々の成分のパッケージング方法は当技術分野で公知である。
【0093】
本発明の回収および成熟培地、およびそれらの複合製品は、ヒトでの使用だけでなく、他の哺乳類由来の卵母細胞および胚の培養にも好適である。ゆえに、本発明はヒトでの生殖補助技術に関する適用を有するだけでなく、非ヒト哺乳類の生殖補助技術、および非ヒト哺乳類で胚を生産する他のテクノロジー、例えば、単為生殖活性化の使用、体細胞核移植および全能性幹細胞の使用にも適用可能である。
【0094】
第6の態様では、本発明は、卵母細胞の成熟を誘発する方法であって、ホスホジエステラーゼ(PDE)インヒビターおよび、卵母細胞の成熟を誘発するためのリガンドを含む成熟培地中で卵母細胞を培養するステップを含み、ここで、成熟培地中のリガンドの濃度は卵母細胞のcAMP誘発型減数分裂停止に打ち勝ち、それにより卵母細胞を成熟させる、方法を提供する。
【0095】
本発明のこの態様に記載のPDEインヒビターおよびリガンド、およびそれらの濃度は、上に記載される通りである。本発明のこの態様の一実施形態では、ホスホジエステラーゼインヒビターはシロスタミドである。一部の実施形態では、リガンドはFSHまたはEGFである。一般に、FSHの濃度は10 mIU/mlより高く、EGFの濃度は1 ng/mlより高い。
【0096】
第7の態様では、本発明は、減数分裂停止の状態である卵母細胞の成熟を誘発する方法であって、減数分裂停止に打ち勝つために十分な濃度のリガンドと卵母細胞を接触させるステップを含む方法を提供する。
【0097】
本発明のこの態様の一実施形態では、減数分裂停止はcAMP誘発型である。本発明のこの態様に記載のリガンド、およびその濃度は、上に記載される通りである。一部の実施形態では、リガンドはFSHまたはEGFである。一般に、FSHの濃度は10 mIU/mlより高く、EGFの濃度は1 ng/mlより高い。
【0098】
本発明の第2、第6および第7の態様の一実施形態では、該方法は生殖補助技術の一部である。例えば、生殖補助技術はin vitro受精を含む。
【0099】
ここで、上記の本発明の一般的原理を具体化する以下の実験例に言及する。しかし、以下の説明は上記説明の一般性を制限するためのものではないことが理解されるものとする。ゆえに、本発明は、本明細書中で提供される教示の結果、明らかになる任意およびすべてのバリエーションを包含する。
【実施例1】
【0100】
ウシ卵成熟キネティクスに対する卵母細胞回収および成熟培地中のcAMP調節物質の効果
卵母細胞の質は胚発達に重要な役割を果たす。例えば、発明者らは、in vivoで成熟させた卵母細胞はin vitroで成熟させた卵母細胞より高い胚盤胞パーセンテージをもたらすことを示している。
【0101】
残念ながら、現行のin vitro成熟技術は最適に達しない。in vivoでの卵母細胞発達能は卵胞の成長および発達中に徐々に獲得される。しかし、発明者らは、卵胞から回収された卵母細胞が減数分裂停止に自然に打ち勝つことが可能であり、それにより、細胞質が完全な成熟を達成する前に中期IIに進行することを示している。
【0102】
未成熟な卵母細胞は卵胞からの単離後に減数分裂を再開することができるが、細胞質成熟は核成熟に遅れをとる。発明者らは、未成熟な卵母細胞が細胞質成熟を完了するためのより長い時間を可能とすることで、in vitroでの卵母細胞発達能が向上すると推測する。
【0103】
卵母細胞の発達能を向上させるストラテジーの候補は、それらに減数分裂を再開させるのではなく、in vitroで長期間、それらを減数分裂が停止された状態にしておくことである。理論によって拘束されることを望まないが、発明者らは、この遅延は、細胞質改変(例えばmRNAおよびタンパク質の保存、形態学的変化、超微細構造のリモデリング)を経験する時間を卵母細胞に与え、下流の生殖補助適用に使用される未成熟な卵母細胞の出発集団の同期化を促進するかもしれないと仮定する。
【0104】
この関連で、発明者らは、卵成熟キネティクス、例えば細胞内cAMPレベル、卵母細胞-卵丘細胞ギャップ結合コミュニケーション、ウシ卵母細胞の核成熟および胚発生に対する、回収および操作(handling)(成熟)培地中にcAMP調節物質を含ませることの効果を試験した。
【0105】
材料および方法
特に指定しない限り、すべての化学物質および試薬をSigma (St. Louis, MO, USA)から購入した。
【0106】
卵母細胞の回収および選択 - プレin vitro成熟(プレIVM)期
地域の屠殺場からウシの卵巣を回収し、温かい生理食塩水(30〜35℃)中で実験室に輸送した。1日に回収したすべての卵巣をプールし、ランダムに使用した。18ゲージ針および10 mlシリンジを使用した吸引には胞状卵胞(直径2〜8 mm)を選択した。
【0107】
卵母細胞を卵丘層が無傷のまま吸引した(COC)。アッセイ前にCOCのサブセットの卵丘層を剥離した(DO)。吸引およびその後の選択手順(プレIVM期)を2時間実施し、その際、卵母細胞(COCおよびDO)を種々の培地(「プレIVM期培地」または「プレIVM培地」と称される)中で処理した。これらの処理は、卵胞液、または2つのタイプの回収培地中での卵母細胞の処理を含んだ。卵母細胞の吸引および選択のための回収培地は、(1) 50μg/mlゲンタマイシン(gentamycin)および0.2 mg/ml脂肪酸不含ウシ血清アルブミン(FAF-BSA; ICPbio Ltd, Auckland, NZ)を補充したウシ卵母細胞回収培地(「Bovine VitroMat」と称される, Cook Australia, Eight Mile Plains, Qld, Australia); または(2) 2種のcAMPモジュレーター、すなわちアデニル酸シクラーゼアクチベーター、フォルスコリン(100μM)、および非特異的PDEインヒビター、3-イソブチル1-メチルキサンチン(IBMX) (500μM)を補充した同一の培地を含んだ。
【0108】
cAMPモジュレーターのミリモル濃縮原液(stock concentrations)を無水ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解して-20℃で保存した。モジュレーターを含む溶液を各実験ごとに新たに希釈した。
【0109】
プレIVM期の最後に、5細胞層より多層のコンパクトな卵丘層およびむらなく着色された細胞質を有する無傷のCOCを解剖顕微鏡下で選択した。in vitro成熟(IVM)前に、COCを、該当するプレIVM期培地で2回洗浄した後、IVM培地で2回洗浄した(下記参照のこと)。
【0110】
卵母細胞のin vitro成熟(IVM)期
IVM期に使用される基本卵成熟培地(「IVM培地」または「IVM期培地」とも称される)はウシ成熟培地(Bovine VitroMatと称される, Cook Australia)であった。該培地は、ウシ卵胞液のイオン組成に近いイオン組成を再現するように処方されたものである。特に記載しない限り、3型PDE特異的インヒビターであるシロスタミド(20μM; Biomol Plymouth Meeting, PA)または上皮細胞成長因子受容体(EGFR)キナーゼインヒビターであるAG1478 (Alexis Biochemicals, San Diego, CA)を、DMSOに溶解されて-20℃で保存されたミリモル原液からIVM培地に加えた。すべてのIVM処置に0.1 IU/ml卵胞刺激ホルモン(FSH) (Puregon, Organon, Oss, Netherlands)を補充した。鉱油を重層したあらかじめ平衡化された300μl液滴中でCOCを培養し、加湿空気中5% CO2で39℃でインキュベートした。
【0111】
in vitro受精および胚培養
IVMの24または30時間後に、Bovine VitroWash (Cook Australia)を使用してCOCを2回洗浄し、ペニシラミン(0.2 mM; Sigma)、ヒポタウリン(hypotaurine) (0.1 mM; Sigma)、およびヘパリン(2 mg/ml; Sigma)を補充したin vitro受精(IVF)培地(Bovine VitroFert, Cook Australia)を含む授精皿(insemination dishes)に移した。証明された生殖能力を有する単独の雄ウシ由来の凍結された精液を媒精に使用した。簡潔に言えば、解凍した精液を不連続(45%: 90%)パーコール勾配(Amersham Bioscience)に重層し、700 gで20〜25分遠心した。上清を除去し、500μl Bovine VitroWashで精子ペレットを洗浄し、200 gでさらに5分遠心した。精子をIVF培地(Bovine VitroFert)で再懸濁し、次いで、1 x 106精子/mlの終濃度で受精培地液滴(Bovine VitroFert;0.01 mMヘパリン、0.2 mMペニシラミンおよび0.1 mMヒポタウリンを補充)に加えた。加湿空気中6% CO2で39℃で24時間、10μlのIVF培地/COCの密度でCOCに媒精した。媒精23〜24時間後に穏やかにピペッティングしてCOCを取り出し、あらかじめ平衡化されたCook Bovine VitroCleave培地(Cook Australia)の20μl液滴に5つの推定接合体を移し、7% O2、6% CO2、バランス量のN2中で38.5℃で5日間(1日目〜5日目)、鉱油下で培養した。5日目に、5〜6の群の胚を、鉱油を重層した38.5℃のあらかじめ平衡化されたBovine VitroBlast (Cook Australia)の20μl液滴に移し、8日目まで培養した。Stingfellow and Seidel, 1998, Manual of the International Embryo Transfer Society. In. (IETS: Savoy, IL, USA)で提唱される定義にしたがって8日目に胚の質を評価し、それは、経験を積んだウシ発生学者によって独立して盲検で実施された。
【0112】
胚盤胞分染
胚盤胞を37℃の0.5%プロナーゼに入れて透明帯(zona)を除去し、次いでリン酸緩衝生理食塩水中の4 mg/mlポリビニルアルコール(PVA) (PBS/PVA)で簡単に洗浄した。そして透明帯除去胚盤胞をPBS/PVA中の10 mMトリニトロベンゼンスルホン酸中で4℃で10分インキュベートした。次いで胚盤胞を0.1 mg/ml抗ジニトロフェノールBSA抗体(Molecular Probes, Eugene, OR, USA)とともに37℃で10分インキュベートし、そしてヨウ化プロポジウム(propodium iodide)を含むモルモット血清に37℃で5分入れた。胚盤胞を洗浄し、10μg/mlヨウ化プロピジウムとともに37℃で20分インキュベートし(て栄養外胚葉を染色し)、次いで100%エタノール中の4μg/mlビスベンジミド(Hoechst 33342; Sigma-Aldrich)と4℃で一晩インキュベートし(て内細胞塊(ICM)および栄養外胚葉をともに染色し)た。そして胚盤胞を顕微鏡スライド上のPBS中の80%グリセロール滴中にホールマウントし、カバーガラスをマニキュア液で密封した。そして総細胞数および区画細胞数を測定するために取り付けられている紫外線フィルターおよびデジタルカメラを装備した蛍光顕微鏡(Olympus, Tokyo, Japan)下で400xで胚盤胞を調査し、該調査では、内細胞塊(ICM)核はブルーに見え、栄養外胚葉(TE)核はピンクに染まった。
【0113】
細胞内cAMPの測定
COCおよび裸化卵母細胞(DO)、すなわちCOCとして培養されたがアッセイ前にその卵丘層が剥離された卵母細胞のサイクリックAMP含量を、以前に報告および実証されているラジオイムノアッセイ法(Reddoch et al., 1986, Endocrinology 119: 879-886)を使用して測定した。終了時点で、6〜10 COCおよび21〜24 DOをVitroCollect (Cook Australia)で洗浄し、0.5 mlのエタノール(100%)に移して-20℃で保存した。cAMP測定前に、サンプルをボルテックスで30秒攪拌し、次いで3000 gで4℃で15分遠心した。簡潔に言えば、上清を回収し、蒸発させ、アッセイバッファー(50 mM酢酸ナトリウム、pH 5.5)に再懸濁し、トリエチルアミン(AJAX Chemicals, Sydney, Australia)および無水酢酸(BDH Laboratory Supplies, Poole, England) 2:1 v/vを加えることによってアセチル化した。cAMPを適切な希釈後に重複して測定した。125I標識cAMP (比活性2175 Ci/mM)およびcAMP抗体(上記Reddoch et alによって製造)をサンプルに加え、一晩4℃で置いた。翌日、1 mlの冷100%エタノールを加え、サンプルを3000 gで遠心した。上清を除去し、ペレットを乾燥し、ガンマカウンターを使用してカウントした。既知の濃度サンプルの複製物を使用して標準曲線を作製した(4-1024 fmol cAMP)。
【0114】
卵母細胞核の形態的評価
インキュベーションの終了時点で、COCを裸化し、PBS (pH 7.4)中の4%パラホルムアルデヒド中で30分、卵母細胞を固定した。そして卵母細胞を0.1%クエン酸ナトリウム中の0.1%トリトンX-100で1時間、透過化処理し、次いで核物質の蛍光染料である0.001% 4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)に15分間移した。卵母細胞をPBS+0.03% BSAで3回すすぎ、スライドにマウントし、Olympus蛍光顕微鏡を使用して400xで核の状態を評価した。卵核胞(GV)および後の減数分裂発達のステージを公知技術に基づいて評価した(Chohan and Hunter, 2003, Anim. Reprod. Sci. 76: 43-51)。簡単には、ウシ卵母細胞のGVクロマチンを、GV I - 核小体および核膜の周囲の凝縮糸状クロマチン; GV II - 核小体の周囲の糸状クロマチン; GV III - 糸状クロマチン凝集塊が核に分布し、核小体が消失している; GV IV - クロマチンが凝集して密な凝集塊になっている; 早期移動期(Early diakenesis) - クロマチンが単一の塊に凝縮し始める; 移動期 - クロマチンが単一の塊に凝集している; 中期I - 四分子が紡錘体上に並ぶ; および中期II - 中期クロマチン、ならびに小さいクロマチンを含む極体がはっきりする、に分類した。
【0115】
卵母細胞-卵丘細胞ギャップ結合コミュニケーションアッセイ
以前に報告されるように、卵母細胞へのカルセイン(calcein)移動の定量的蛍光顕微鏡検査によって卵丘-卵母細胞ギャップ結合コミュニケーション(GJC)を測定した(Thomas et al., 2004, In "Biol. Reprod.", pp 1142-1149)。シロスタミド(20μM)を伴うか伴わずに2時間のプレIVM期の後またはその後の追加の3時間のIVMの後にGJCを測定した。4回の重複する実験のそれぞれの各処置群で平均数10〜12の卵母細胞を使用した。培養後、ポリビニルアルコール(PVA; 0.3 mg/ml)を補充したBSAフリーBovine VitroCollect (Cook Australia)中で新たに調製された1μMカルセイン-AM (3',6'-ジ(O-アセチル)-2',7'-ビス[N,N-ビス(カルボキシメチル)アミノメチル]-フルオレセイン、テトラアセトキシメチルエステル; C-3100; Molecular Probes; Eugene, OR, USA)の溶液にCOCを移した。COCを色素とともに15分培養し、次いで、カルセイン-AMフリーBovine VitroCollect (Cook Australia)中で3回洗浄して未取り込みの色素を除去し、さらに25分インキュベートして、卵丘細胞から卵母細胞に移動させた。蛍光顕微光度測定(fluorescence microphotometry)前に、強いピペッティングを使用してCOCの周囲の卵丘細胞を完全に剥離し、ギャップ結合を介する輸送後に裸化卵母細胞内に閉じ込められた色素のみが測定されるようにした。裸化の30分以内に、蛍光光度測定倒立顕微鏡(Leica, Wetzlar, Germany)を使用して卵母細胞中のカルセインの卵母細胞内蛍光発光を測定した。
【0116】
統計分析
Prism 5.00 GraphPad for Windows (GraphPad Software, San Diego, CA, USA)を使用して統計分析を行った。ANOVAおよびその後のDunnettまたはBonferroni多重比較post-hoc検定によって統計学的有意性を評価し、方法間の個別の差異を特定した。すべての値をその対応する平均値の標準誤差(SEM)とともに記載する。
【0117】
結果
プレIVM期のウシCOCおよびDOのcAMP含量
図1〜4は、COCおよび卵母細胞のcAMP含量に対する、経時的な種々のプレin vitro成熟(プレIVM)期処置の効果を示す。図1Aに示されるように、2時間のプレIVM後、フォルスコリンは用量依存的にCOC内のcAMPレベルを有意に上昇させた(P < 0.05)。卵胞液コントロールと比較して、最高濃度のフォルスコリン(100μM)のみが同様の値をもたらした。しかし、0.4μMおよび2μMフォルスコリンはいずれもcAMPレベルのいかなる増加も示さなかった。それはコントロール処置(cAMPモジュレーターを含まない回収培地)と大きく異ならなかった。IBMXと組み合わせると、漸増濃度のフォルスコリンは、IBMXの不存在下でかつフォルスコリンのみの存在下で観察されたレベルと比べて、用量依存的にcAMPの20倍増加を誘発した(図1B)。ゆえに、単独のフォルスコリンまたはIBMXはcAMPレベルを維持するが、コントロールより実質的に高く上昇させることはない。
【0118】
図2の実験の目的は、COCをIBMXおよび漸増用量のフォルスコリン(10〜100μM)とともにインキュベートした場合の、COC cAMPレベルに対するプレIVM持続時間の効果を調査することであった。図2に示されるように、コントロール群(cAMPモジュレーターを含まない回収培地)を除くすべての処置群間で、プレIVM期間中のCOC cAMPレベルは維持された。単独の回収培地中でCOCをインキュベートすると、cAMPレベルは30分後に14 fmol/COCから4 fmol/COCに大きく低下し(P < 0.05)、2時間までのインキュベーション時間の増加に伴って大きく低下し続けた(0.4 fmol/COC)。単独のIBMXまたはフォルスコリンでCOCを処置すると、cAMPレベルは2時間維持された。しかし、IBMXおよび漸増用量のフォルスコリンの存在下でCOCをインキュベートすると、cAMPレベルの20倍までの劇的な誘発が確認され、このcAMPレベルの増加はインキュベーション期間にかかわらず確認された。最高cAMPレベルは、COCをIBMXおよび50または100μMフォルスコリンの存在下でインキュベートした場合に確認された(約165 fmol/COC)。コントロール群(cAMPモジュレーターなし)の場合を除き、COC中のcAMPの増加に時間の効果はなかった。
【0119】
図3の実験の目的は、卵母細胞(プレIVM後に裸化されたCOC)中のcAMPレベル、およびプレIVM期のインキュベーション時間の延長に伴ってcAMPモジュレーターの存在下でこれらのレベルがどのように変化するかを調査することであった。図3に示されるように、30分のインキュベーション後、IBMXおよび10、50または100μMフォルスコリンの存在下でCOCをインキュベートすると、コントロール(0.5 fmol/卵母細胞)と比較してcAMPレベルは有意に高かった(12 fmol/卵母細胞) (P < 0.05)。2時間後、cAMPのレベルは、コントロール(0.1 fmol/卵母細胞)と比較して、さらに有意に34 fmol/卵母細胞まで増加する(P <0.05)。プレIVM期のインキュベーション時間を増加させると、IBMXおよび高濃度のフォルスコリンの存在下で卵母細胞内cAMPの実質的増加が徐々に導かれるようである。
【0120】
図4は、無傷のCOCおよび卵母細胞: (A) 卵丘層が無傷の状態で回収およびアッセイされた卵母細胞(COC); および(B) COCとして回収されたが、アッセイ前に卵丘層を剥離された卵母細胞(DO)内のcAMP含量に対する経時的な種々のプレin vitro成熟(プレIVM)期処置の効果を示す。2つのタイプの卵母細胞を回収し、純粋な卵胞液、回収培地、またはcAMPモジュレーター(フォルスコリンおよびIBMX)を補充した回収培地に選択した。重複処置あたり6〜10個のCOCまたは21〜24個のDOを使用する3回の重複処置の卵母細胞または複合体あたりのcAMPの平均濃度±SEMとして値を表す。同一グラフ/異なる文字(A、a、B、bまたはc)を伴う卵母細胞タイプ内の平均は、個別の処置または終了時点間で有意に異なるcAMP量を示す(2元配置ANOVA、P <0.05)。
【0121】
図4Aで観察されるように、5分間のプレIVM期後、cAMPモジュレーターの存在下で回収されたCOC中のcAMPレベルはコントロール群、すなわちcAMPモジュレーターの不存在または純粋な卵胞液の9倍であった(P<0.0001)。cAMPレベルの増加は、プレIVM期中(30分)、およびその終了時点(2時間)で反転した。卵胞液はCOC中のcAMPのレベルを30分間維持した; しかし、そのレベルは、プレIVM期の終了時点で低下した(20±3から10±3 fmol/COC) (P<0.05)。cAMPモジュレーターの不存在下で回収されたCOCでは、卵胞から卵母細胞を単離した直後にcAMPレベルは急速に低下した(15±4から2±1 fmol/COC) (P<0.05) (期間30分)。
【0122】
裸化卵母細胞(DO)を使用して、卵母細胞内cAMPレベルに対する周囲の卵丘細胞の効果を評価した(図4B)。卵母細胞内cAMPレベルは、卵胞からの単離の5分後、すべての処置で約0.9±0.1であった。プレIVM期培地中で30分の処理後、cAMPモジュレーターで処置された卵母細胞中のcAMPレベルはコントロール群より顕著に高く、プレIVM期の終了時点(2時間)までインキュベーション時間に伴って増加した(16±0.1)。卵胞液は、全プレIVM期間中、卵母細胞内cAMPレベルを維持したが、cAMPモジュレーターの不存在下で回収された卵母細胞では、細胞内cAMPレベルは30分以内に有意に低下し、プレIVM期の終了時点まで低下し続けた(0.3±0.2) (P<0.05)。
【0123】
自然卵成熟(GV/GVBD)に対するプレIVM期のcAMP調節物質および3型PDE阻害の効果
図5は、種々のプレin vitro成熟(プレIVM)およびIVM期培地での卵丘-卵母細胞複合体のインキュベーション後の自然卵成熟(GV/GVBD)に対する効果を示す。
【0124】
ウシCOCを上記のようにプレIVM期培地中で2時間インキュベートし、次いでFSHの存在下でかつシロスタミド(20μM)の存在または不存在下で7時間培養した。そして卵母細胞を固定し、減数分裂進行を評価し、GV (無傷の卵核胞(germinal vesical) - 依然として減数分裂停止下である)またはGVBD (卵核胞崩壊 - 減数分裂の再開)として分類した。4回の重複する実験由来の各処置群および時点で平均数45個の卵母細胞を使用した。各カラム上の文字の存在(aまたはb)は、ANOVA分析およびその後のBonferronni post hoc検定によって決定された平均値間の統計学的差異を示す(P<0.05)。
【0125】
図5に示されるように、IVM期の培養培地にFSHおよびシロスタミドを含ませると、コントロール(IVM中シロスタミド(-))と比較して、すべてのプレIVM処置間でGVBDの割合が顕著に低下した。しかし、培地中にシロスタミドが存在しないと、大多数の卵母細胞はGVBDを開始したが、プレIVM期にcAMPモジュレーターを含む回収培地中で処理された卵母細胞は例外であり、GVBDの有意な遅延が存在した(P<0.05)。これらの結果に導かれ、発明者らはプレIVM期の終了時点およびIVM期中のGV構成の変化を研究した(下記参照のこと)。
【0126】
卵母細胞の卵核胞構成に対するプレIVM期のcAMP調節物質および3型PDE阻害の効果
図6は、種々のプレIVMおよびIVM期培地中で培養された卵丘-卵母細胞複合体の卵核胞(GV)構成に対する効果を示す。純粋な卵胞液、回収培地、またはcAMPモジュレーター(フォルスコリンおよびIBMX)を補充した回収培地を含むプレIVM期培地に卵母細胞を曝露し(A)、次いで3型PDEインヒビターであるシロスタミド(20μM)、および卵胞刺激ホルモンの存在(C; E)または不存在(B; D)下で延長培養した。そして卵母細胞を固定し、2、5および9時間の時点でGV構成を評価した。4回の重複する実験由来の各処置群および時点で平均数40個の卵母細胞を使用した。
【0127】
図6Aで観察されるように、プレIVM期(2時間)の終了時点で、卵胞液中で培養されたか(61%±5)または、cAMPモジュレーターを補充した回収培地中で培養された(67%±5) (P<0.05)大多数の卵母細胞はGV II期であった。しかし、単独の回収培地中で処理された卵母細胞は低下したGV IIパーセンテージを有し(P<0.05)、GV IIIに進行していた(66%±5) (P<0.001)。
【0128】
5時間(2時間のプレIVMおよび3時間のIVM+シロスタミド)後、回収された卵母細胞は、IVMインキュベーション前に、予定のGV期ですでに停止した(図6C)。図6Bと比較すると、これは、IVMインキュベーションの最初の数時間に培養培地中にFSHおよびシロスタミドが存在すると、単独のFSHの存在下(IVM-シロスタミド)で培養されたCOCと比較してCOCのGV構成の進行が妨げられることを示す。図6Bで観察されるように、純粋な卵胞液中で処理された卵母細胞はGV IIIに進行中であり(58%±8)、cAMPモジュレーターの不存在下の培養培地中で処理されたほとんどの卵母細胞はGV III (41%±10)またはGV IV (52%±12)期であった(P<0.05)。驚くべきことに、IVM期に培養培地中にシロスタミドが存在しない場合でさえ、cAMPモジュレーターで処理されるとCOCは依然としてGV II期で停止した(55%±3) (図6B、右カラム)。
【0129】
図6Eの右カラムで観察されるように、9時間の卵母細胞培養(2時間のプレIVMおよび7時間のIVM+シロスタミド)後、cAMPモジュレーターを含む培地中で処理されたCOCの成熟は進行し、大多数のCOCはGV II (44±3%)またはGV III (42±3%)期であった。これを、大多数の卵母細胞がGV III期(63±6)である純粋な卵胞液中で選択された卵母細胞、および卵母細胞がGV IV (51%±10)に進行していた、cAMPモジュレーターを欠いている回収培地中で処理された卵母細胞と比較した(P<0.05) (それぞれ図6Eの左および中央カラム)。9時間後でかつ単独のFSHの存在下(IVM-シロスタミド)で、cAMPモジュレーターで処置されたほとんどの卵母細胞はGV III期(58%±4)に進行していた(図6D、右カラム)が、純粋な卵胞液中で処理された大多数の卵母細胞は移動期(40%±4)およびM I (38%±4)に進行した(図6D、左カラム)。対照的に、cAMPモジュレーターを欠いている回収培地で処理された卵母細胞のうち、23%±6は移動期であり、57%±5はM I期に進行していた(P<0.05) (図6D、中央カラム)。
【0130】
卵母細胞-卵丘細胞ギャップ結合コミュニケーションに対するプレIVMおよびIVM期のcAMP調節物質の効果
プレIVM期の終了時点および5時間の卵母細胞培養(2時間のプレIVMおよび3時間のIVM±シロスタミド)の終了時点で卵母細胞-卵丘ギャップ結合コミュニケーション(GJC)アッセイを実施した。図7のカラム1〜3で観察されるように、プレIVM期(2時間)の終了時点で、卵母細胞と卵丘細胞との間のギャップ結合コミュニケーションのレベルは、蛍光強度約1000 (cAMPモジュレーターを補充した回収培地中で卵母細胞を吸引および処理した場合)から約400および600 (それぞれ、卵胞液、またはcAMPモジュレーターを含まない回収培地中で卵母細胞を吸引および処理した場合)に有意に減少した(P<0.05)。
【0131】
さらに、純粋な卵胞液、またはcAMPモジュレーターを含まない回収培地中でCOCを回収した場合、ギャップ結合コミュニケーションのレベルは3時間のIVM培養後(ポストプレIVM期)に劇的に減少した。例外は、IVM期にシロスタミドが存在するかしないかにかかわらず、プレIVM期にcAMPモジュレーターを補充した回収培地中で処理されたCOCであった(P<0.05) (図7、カラム4〜9)。培養培地にFSHを含ませること(およびシロスタミドの存在または不存在)は、卵母細胞とその周囲の卵丘細胞との間のギャップ結合コミュニケーションのレベルの維持に効果を有さなかった。
【0132】
図7の各カラム上の文字の存在(a、b、g、hまたはx)は、ANOVA分析およびその後のBonferronni post hoc検定によって決定された平均値間の統計学的差異を示す。
【0133】
卵母細胞のMII期への減数分裂進行に対するプレIVM期のcAMP調節物質および3型PDE阻害の効果
図8は、種々のプレIVMおよびIVM期培地に曝露された卵丘-卵母細胞複合体(COC)の減数分裂成熟の誘発に対する卵胞刺激ホルモン(FSH)の効果を示す。上記のように、卵母細胞を吸引し、卵胞液、回収培地または、100μMフォルスコリン(FSK)および500μM IBMXを補充した回収培地中で2時間選択した。そしてFSHの不存在下(A)またはFSHの存在下(B)で2つの培地(+/-シロスタミド)中でCOCを培養した。そして卵母細胞を固定し、20、24および28時間の時点で減数分裂進行を評価した。4回の重複する実験由来の各処置群および時点で平均数45個の卵母細胞を使用した。
【0134】
図8Aで観察されるように、FSHの不存在下で、シロスタミド処置は、プレIVM培地中のcAMPモジュレーターの存在または不存在下で24時間のIVMの時点で卵母細胞のM II期(50%)への減数分裂進行を遅延させた。しかし20時間のIVMの時点で、cAMPモジュレーターを欠いている回収培地で卵母細胞が処理された場合に36%±4の卵母細胞がM I期であったことと比較して、プレIVM期にcAMPモジュレーターを補充した回収培地で卵母細胞を処理した場合に83%±7の卵母細胞がM I期であった(それぞれ図8Aのカラム9および3)。
【0135】
図8Bで観察されるように、FSHの存在下で、卵母細胞のM II期への進行の遅延に関するシロスタミドの阻害効果はIVM培地中に存在するFSHによって無効にされた。例えば、GV期の卵母細胞は、シロスタミドが存在しFSHが存在しない条件下で検出されたが(図8A)、IVM培地中にFSHが存在するとそのような卵母細胞は検出されなかった。興味深いことに、20時間のIVM+シロスタミド処置後、単独の回収培地で処理された場合の21%±4の卵母細胞(図8B、カラム3)と比較して、プレIVM期にcAMPモジュレーターを補充した回収培地中で処理された場合に72%±5の卵母細胞がM I期であった(図8B、カラム9)。
【0136】
プレIVMおよびIVM期後の卵母細胞の細胞内cAMP濃度
図9は、種々のプレIVMおよびIVM期培地に曝露された卵母細胞の細胞内cAMP濃度を示す。卵母細胞からアッセイ前にまずその卵丘層を剥離し(DO)、次いで回収して、3つの異なるプレIVM期培地(卵胞液、回収培地のみ、および100μMフォルスコリン(FSK)および500μM IBMXを補充した回収培地)中で取り扱い、その後、3型PDEインヒビターであるシロスタミド(20μM)の存在または不存在下で24時間延長培養した。データは4回重複のDOあたりの平均cAMPレベル±SEMを表す。24 DOで各測定を行った。各カラム上の文字の存在(a、b、cまたはd)は、ANOVA分析およびその後のDunnett post hoc検定によって決定された平均値間の統計学的差異を示す。
【0137】
図9で観察されるように、24時間の培養後、(純粋な卵胞液、またはcAMPモジュレーターを欠いている回収培地中で培養されたものと対照的に)プレIVM期にcAMPモジュレーターを補充した回収培地中で卵母細胞が回収および処理された場合に、培養培地中にさらにシロスタミドが存在すれば、DOの細胞内cAMP濃度は有意に高い(15倍まで) (P<0.05)ままであった。
【0138】
3型PDEインヒビター(シロスタミド)の存在下でのFSH誘発型卵成熟に対する上皮細胞成長因子受容体キナーゼインヒビターの効果
図10に示されるように、卵母細胞の減数分裂進行に対するシロスタミドの阻害効果は、培養物にFSHを加えることによって無効にされた。したがって、上皮細胞成長因子受容体(EGFR)に対する抗血清によってFSH誘発型成熟(減数分裂誘発)が抑制されるかどうかを、例えばEGFRキナーゼインヒビターであるAG1478がこの成熟パターンに影響するかどうか調査することによって調査することは興味深いことであった。
【0139】
この関連で、図10は、FSH (100 mIU)、PDEインヒビターであるシロスタミド(20μM)、および漸増用量のEGFRインヒビターであるAG1478の存在下での卵胞刺激ホルモン(FSH)誘発型卵成熟に対する上皮細胞成長因子受容体(EGFR)インヒビターの効果を示す。そして卵母細胞を固定し、24時間の時点で減数分裂進行を評価した。3回の重複する実験由来の各処置群および時点で平均数40の卵母細胞を使用した。各カラムまたはデータポイント上の文字の存在(a、bまたはc)は、ANOVA分析およびその後のDunnett post hoc検定によって決定された平均値間の統計学的差異を示す。
【0140】
図10で観察されるように、漸増用量のAG1478をIVM培地に加えると、成熟パーセンテージが有意に減少し(>80%から約5%) (P<0.05)、それにより、誘発反応が完全に抑制された。これは、FSH誘発型卵成熟にはEGFシグナル伝達が必要とされることを示す。
【0141】
卵割および胚盤胞期への発達に対するプレIVMおよびIVM期のcAMP調節物質の効果
表1に示されるように、プレIVM期に回収培地にcAMPモジュレーターを含ませると、モジュレーターの不存在下と比較して卵割率が向上し(それぞれ89±2.0% vs. 78±2%、P<0.05)、標準IVM培地中でFSHの存在下で24時間、卵母細胞を成熟させた場合に胚盤胞発達が向上する(32±3% vs. 26±3%、P<0.05)。
【表1】

【0142】
すでに図8に示されているように、プレIVM期にcAMPモジュレーターで卵母細胞を前処置し、かつIVM培地にシロスタミドを含ませると、FSHの共存下で卵母細胞でのM IIの開始が4時間遅延する。したがって、卵丘-卵母細胞複合体(COC)を吸引し、卵胞液、回収培地または、100μMフォルスコリン(FSK)および500μM IBMXを補充した回収培地中で2時間選択した。そしてシロスタミド(20μM)の存在下で24または30時間FSHの添加によってCOCを成熟させた。そしてin vitro受精後に卵母細胞発達能を評価し、8日目の卵割率および胚盤胞率によって胚発達を評価した。4回の重複する実験由来の各処置群で平均数45個の卵母細胞を使用した。各カラム上の文字の存在(a、b、x、yまたはz)は、ANOVA分析およびその後のBonferronni post hoc検定によって決定された平均値間の統計学的差異を示す。表2は胚盤胞形成パーセントに関するこの研究の結果を提供する。
【表2】

【0143】
図11Aは、IBMXおよび50または100μMフォルスコリンの存在下でIVM前に30〜60分インキュベートされた卵母細胞の卵割率が、IBMXのみまたはコントロール処置の存在下でインキュベートされた卵母細胞の卵割率より有意に高い(P< 0.05)ことを示す。胚盤胞期への発達(図11B)も同様に、IBMXおよび50または100μMフォルスコリンの存在下でIVM前に30〜60分インキュベートされた卵母細胞で、コントロール処置と比較して向上した(P< 0.05)。さらに、胚盤胞期への発達率は単独のIBMXまたはIBMXおよび10μMフォルスコリン群の間で有意には異ならなかったが、コントロール(cAMPモジュレーターなし)より有意に高かった(P< 0.05)。ゆえに、IVM前の卵母細胞内のcAMPレベルの増加は、COCがシロスタミドの存在下で成熟した場合に、発達の結果の実質的向上を導く。
【0144】
図12Aで観察されるように、24時間の時点で、卵胞液または、cAMPモジュレーターを補充した回収培地中で前処置された卵母細胞の卵割率は約80%であり、プレIVM期にcAMP調節物質の不存在下で回収された卵母細胞(67%)より有意に高かった(P<0.05)。さらに、図12Bで観察されるように、胚盤胞期への発達率もプレIVM培地中のcAMP調節物質の存在下で、その不存在下(22%)と比較して有意に高かった(48%)。
【0145】
しかし、30時間の時点で受精させた卵母細胞は、cAMP調節物質で前処置されかつFSH+シロスタミドで成熟させた場合に、cAMP調節物質の不存在下で回収されて取り扱われた卵母細胞(胚盤胞27%) (図12B、カラム5)と比較して、胚盤胞の劇的な増加をもたらした(胚盤胞42%から69%への増加) (それぞれ図12Bのカラム3および6) (P<0.05)。
【0146】
胚盤胞細胞数に対するプレIVMおよびIVM期のcAMP調節物質の効果
図13は、胚盤胞細胞数に対する、種々のプレIVMおよびIVM期培地中に存在するcAMP調節物質の存在の効果を示す。卵丘-卵母細胞複合体(COC)を吸引し、卵胞液、回収培地または、100μMフォルスコリン(FSK)および500μM IBMXを補充した回収培地中で2時間選択した。そしてシロスタミド(20μM)の存在下で30時間、FSHの添加によってCOCを成熟させた。拡張および孵化後胚盤胞の8日目のトータル、内細胞塊および栄養外胚葉の細胞の数(平均±SEM)を決定した。各処置群で平均数20〜30個の拡張または孵化後胚盤胞を使用した。各カラム上の文字の存在(a、b、h、I、xまたはy)は、ANOVA分析およびその後のBonferronni post hoc検定によって決定された平均値間の統計学的差異を示す。
【0147】
図13で観察されるように、IVM期培地中のシロスタミドの存在下で、純粋な卵胞液中またはプレIVM期培地中のcAMPモジュレーターの存在下で処理された卵母細胞は、プレIVM期にcAMPモジュレーターを欠いている培養倍地中で処理された卵母細胞と比較して、胚盤胞のトータルの細胞、栄養外胚葉および内細胞塊の数を有意に増加させた(P<0.05)。
【0148】
最近の研究では、回収直後および成熟過程中に卵母細胞の細胞内cAMPレベルを操作することによってin vitroでの卵成熟を誘発するための方法を開発すると、核および細胞質区画が同期化し、それにより、成熟中の卵母細胞の発達能が向上するという仮説を試験することに着手した。
【0149】
哺乳類での卵成熟の制御に関するcAMPの関与は過去数年間で示されている。それにもかかわらず、cAMPによって誘導される一連の協調イベントの分子機構は明らかになっていない。上記の実験データは、IVMに先行する期間にcAMPレベルを調節することによってPDEインヒビターの効力が向上することを示した。本研究の第1の部分(図1〜4)では、全COCまたはDO中のcAMPレベルの測定から得られた結果は、卵胞除去の時点のウシで以前に測定されたデータと一致した。特に、本実験から得られた結果は、卵胞からの卵母細胞の単離とin vitro成熟(IVM)の開始との合間の細胞内cAMP濃度が卵母細胞キネティクスおよび高度な発達能の達成に重要であると思われることを示した。実際、プレIVM期の卵母細胞cAMPレベルの調節は、培養物中のシロスタミドの存在下で24時間のIVM後に高い卵母細胞cAMPレベルを維持する点で長期の効果を有するようであった(図9)。
【0150】
本研究で使用された種々の回収条件は、卵母細胞の細胞内cAMPレベル、卵母細胞の減数分裂進行、卵母細胞-卵丘細胞ギャップ結合コミュニケーションおよび、最終的に、卵母細胞発達能に対して顕著な効果を発揮することが見出された。本結果は、COC単離時点から短期間のcAMPの調節が、卵丘細胞と卵母細胞との間のギャップ結合コミュニケーションを持続させることを示した(図7)。
【0151】
本研究で観察されたギャップ結合コミュニケーションの増加は、プレIVM期にcAMPレベルを調節した場合に、延長されたギャップ結合コンダクタンスおよび/または卵丘細胞由来の減数分裂調節因子から卵母細胞へのギャップ結合の移動の妨害に起因し、それにより、7時間の卵母細胞培養後のGV構成またはGVBDを遅延させる(図5および6)。
【0152】
興味深い疑問は、cAMPの外因性調節が胚および体細胞区画の刺激反応または阻害反応をどのように誘起できるかであった。上記実験では、他の処置と比べてプレIVMおよびIVM期に培養培地中にcAMPモジュレーターが存在すると卵母細胞内cAMPレベルは15倍高かった(図9)。これは、IVM期にEGFRキナーゼインヒビターであるAG1478を試験する実験によってさらに支持された(図10)。以前の研究では、上皮細胞成長因子(EGF)が卵巣細胞によって生産可能であり、いくつかの他の成長促進因子の中で、それは卵丘拡張および減数分裂再開の両者の最も強力な刺激因子であることが示されている。また、EGF様ペプチドは排卵前卵胞中のゴナドトロピンの作用を仲介することが示されている。したがって、EGF様ペプチドは、卵成熟および卵胞破裂を導く異なる細胞タイプの代謝経路間のパラクリンシグナル伝達において本質的役割を果たしうる。
【0153】
したがって、図10に結果が示される1つの実験の目的は、シロスタミド培養COCの卵胞刺激ホルモン誘発型成熟でのEGF様ペプチドの役割を調査することであった。以前に記載されるように、15倍までの卵母細胞内cAMPレベルの増加はM IIへの減数分裂進行を28時間まで遅延させる(図8)。興味深いことに、本研究での卵母細胞に対するシロスタミドの阻害効果は培養物にFSHを加えることによって無効にされた(図8B)。FSHの不存在下では、40〜50%のシロスタミド処置卵母細胞は24時間の培養後にM I期で停止したままである(図8A)。しかし、FSHの添加は、初期にGVBDを遅延させる(図5)が、最終的には、24時間の培養後に大多数のシロスタミド処置卵母細胞のM IIへの進行を誘発した(図8B)。例外は、プレIVM期にcAMPモジュレーターを補充した培地中で回収された卵母細胞であり、その場合は、FSHの存在下でさえ、GVBDの遅延が生じた。しかし、このように処置された卵母細胞は、最終的に、28時間の培養後にM II期に進行した(図8B)。これは、回収後にCOC cAMPレベルを調節することによってcAMPモジュレーターをIVM培地に含ませることの効力が向上し、それにより、培養物中のFSHの存在によって誘発されるさらなる減数分裂阻害が生じることを示す。
【0154】
この観察は、卵母細胞がその卵胞から機械的に取り出されると自然に減数分裂再開が生じる自然成熟とは対照的に、卵成熟の誘発に関する反芻動物種で報告される最初のモデルである。しかし、in vivoでは、ゴナドトロピンの排卵前サージに起因して減数分裂の再開が生じることが確立されているが、これが生じるメカニズム(群)は完全には理解されていない。
【0155】
シロスタミドの存在下で卵母細胞を培養すると、FSH処置は初期に阻害効果を生じさせた。該効果は後に刺激効果になる(図8)。FSHによって生成されたcAMPは、シグナルカスケードの下流の関係者が最終的に陽性の影響を発揮する前に初期に成熟をブロックする点で矛盾した効果を有すると提示されている。EGF様ペプチドがこの観察に関与するかどうかを試験するために、FSHで処置し、かつさらに漸増用量のEGFRチロシンキナーゼインヒビターであるAG1478に曝露して、IVMを誘発する実験を繰り返した。漸増用量のAG1478はFSHおよびシロスタミド処置COCの減数分裂回復を完全に妨げた。これは、EGF様ペプチドの合成および放出ならびにEGFシグナル伝達がFSH誘発型卵成熟に必要とされることを示す。
【0156】
ここに報告される実験はまた、プレIVMおよびIVM期の卵母細胞cAMPレベルの調節が初期発生を支持する能力を高めたことを示す。表2に示されるように、プレIVM期のみ、またはIVM期のみのcAMPの調節は、約30%の胚盤胞パーセンテージを生じさせた。しかし、両期でcAMPモジュレーターを含ませると、胚盤胞パーセンテージの顕著な増加が生じた(3倍まで) (69%)。プレIVMのcAMPモジュレーターの不存在下で、かつシロスタミドの存在下で卵母細胞を培養すると、プレIVM培地中にそれが存在する場合(69%)と比較して、胚盤胞パーセンテージが減少した(29%)ことに留意すると興味深い。これらの最新の結果は、動物が卵母細胞吸引の6時間前に黄体形成(leutinising)ホルモンの投与を受けた場合に80%の胚盤胞が発達していたin vivoでの惰走(coasting)に関する以前の報告とパラレルである。
【0157】
総合すると、本実施例に記載の証拠は、卵胞からのCOC取り出しから出発して成熟の終了まで、卵母細胞発達能および胚盤胞の質に対して、プレIVM期の細胞内cAMPレベルが顕著な効果を有することを初めて実証した。in vitro成熟中の卵母細胞および卵丘細胞での生理的範囲内の細胞内cAMPレベルの安定な調節により、ひいては高い発達能の獲得を導くin vitroでの成熟の誘発を生じさせることができる。
【実施例2】
【0158】
図14は、cAMPモジュレーターを伴わない卵母細胞in vitro成熟前のcAMPモジュレーターを伴わないプレIVM期(2時間(COC回収および選択を含む))のin vitro培養COC中のcAMP濃度(B)と比較した、ウマ絨毛性ゴナドトロピン(eCG)およびヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)誘発型卵成熟によって誘発された卵胞発育後のマウス卵丘-卵母細胞複合体(COC)のin vivo cAMP濃度(A)間の比較の結果を示す。データは4回重複のCOCあたりの平均cAMPレベル±SEMを表す。12個のCOCで各測定を行った。
【0159】
この図は、hCG処置後のin vivo成熟卵母細胞中でcAMP濃度の顕著な増加が存在する一方、自然成熟in vitro成熟卵母細胞は低レベルのcAMPしか有さなかったたことを示す。後者はさらに低下する。卵母細胞の自然成熟に伴うそのようなcAMPの減少は発達能の減少と関連していると思われた。
【実施例3】
【0160】
図15は、3型PDEインヒビター(シロスタミド; 1μM (A)または0.1μM (B))の存在下で成熟させたマウス卵丘-卵母細胞複合体(COC)の減数分裂成熟を誘発するための漸増用量のFSHの効果を示す。本実施例では、マウス卵母細胞回収に使用された基本培地(サイクリックAMPモジュレーターを含まない)は、3 mg/ml BSA、1 mg/mlフェチュインおよび、どの濃度のシロスタミドがIVMに使用されたかに応じて、1.0または0.1μMシロスタミドを補充したHEPES緩衝α-最小必須培地(HEPES-MEM)であった。COCを回収培地中で約30分維持した。IVMでは、基本成熟培地は、3 mg/ml BSA、1 mg/mlフェチュインを補充した重炭酸塩緩衝α-最小必須培地(MEM)であり、空気中の加湿6% CO2中で37℃でインキュベートした。種々のFSH濃度を使用した。24時間のIVMの間、MEM + シロスタミド(1μM (A)または0.1μM (B))および漸増用量のFSH (0.01〜200 mIU)中でCOCを培養した。そして卵母細胞を固定し、18、24および42時間の時点で減数分裂進行を評価した。4回の重複する実験由来の各処置群および時点で平均数40の卵母細胞を使用した。図15Aおよび15Bの棒グラフは以下の追加のコントロール群を表す。棒グラフ1: 50 mIU FSHのみで成熟させたCOC (18時間のIVM); 棒グラフ2: 1μM (A)または0.1μM (B)シロスタミドのみで成熟させたCOC (18時間のIVM); および棒グラフ3: (1μM (A)または0.1μM (B)シロスタミドおよび10 mIU FSHで24時間成熟させ、次いで50 mIU FSHで18時間のIVMの間、成熟させたCOC (二期性IVM)。
【0161】
この図は、両PDEインヒビターおよびFSHの濃度が一緒になって成熟誘発のタイミングを調節できることを実証する。
【実施例4】
【0162】
図16は、卵母細胞の減数分裂再開に対する両プレIVMおよびIVM期のcAMPモジュレーターの効果を示す。本実施例では、マウス卵母細胞回収に使用された基本培地(サイクリックAMPモジュレーターを含まない)は、3 mg/ml BSA、1 mg/mlフェチュインを補充したHEPES緩衝α-最小必須培地(HEPES-MEM)であった。IVMでは、基本成熟培地は、3 mg/ml BSA、1 mg/mlフェチュインを補充した重炭酸塩緩衝α-最小必須培地(MEM)であり、空気中の加湿6% CO2中で37℃でインキュベートした。COCを吸引し、0.1μMシロスタミドを補充した回収培地、または50μMフォルスコリン(FSK); および50μM IBMXを補充した回収培地中で1時間選択した。そして100 mIU FSHおよび0.1μMシロスタミドが存在する成熟培地中で18〜26時間、COCを成熟させた。そして卵母細胞を固定し、各時点で減数分裂進行を評価した。4回の重複する実験由来の各処置群および時点で平均数45の卵母細胞を使用した。したがってここに記載される成熟誘発条件下でマウス卵を受精させるための媒精に最適な期間は22時間であり、したがって「通常の慣行」である18時間から遅延した(図17の第1の棒グラフの観察によって示される)。
【実施例5】
【0163】
図17は、18および22時間の培養後の誘発型IVM (回収= HEPES-MEM+フォルスコリン+IBMX、成熟= MEM+シロスタミド+FSH)または自然IVM (回収= HEPES-MEM、成熟= MEM+FSH)のいずれかで成熟させたマウスCOCの減数分裂成熟を示すグラフである。そして卵母細胞の減数分裂進行を評価し、MII期として分類した。
【0164】
図17は、マウスCOCの減数分裂成熟が誘発型IVMで成熟させると18時間の時点で自然IVMと比べて遅延するが、MIIの割合は22時間成熟の時点で自然IVMと同じで等価であることを示す。これは、誘発型成熟がマウスにおいて成熟の進行を減速することを示す。
【0165】
図18に示されるように、これは、後に、卵母細胞の発達能(潜在能力(capacity))を向上させる。それは受精した接合体の発達の増加によって示される。in vitro受精および胚発達後に卵割率(2日目) (A)および胚盤胞率(5日目) (B)によって卵母細胞発達能を評価した。誘発型IVM (回収= HEPES-MEM+フォルスコリン+IBMX、成熟= MEM+シロスタミド+FSH)。自然IVM (回収= HEPES-MEM、成熟= MEM+FSH)。
【0166】
図18で観察されるように、卵割率(上グラフ)および胚盤胞収率(下グラフ)は誘発型成熟において、18時間の成熟後の両系または22時間の自然成熟と比較して、22時間成熟させた場合に最高であった。
【0167】
この卵母細胞発達能の向上は、図19に示されるように、胚盤胞の質にも反映される。18 (上グラフ)または22 (下グラフ)時間の誘発型または自然IVMを使用してCOCを成熟させた。そして成熟卵母細胞を受精させた。胚を5日間培養し、総細胞数(「総細胞」)および栄養外胚葉(TE)または内細胞塊(ICM)への細胞割り当てによって胚盤胞の質を定量した。誘発型IVM (回収= HEPES-MEM+フォルスコリン+IBMX、成熟= MEM+シロスタミド+FSH)。自然IVM (回収= HEPES-MEM、成熟= MEM+FSH)。
【0168】
図19からわかるように、総細胞、内塊細胞(inner mass cells) (ICM)の数、および総細胞に対する内塊細胞の割合は、誘発型成熟系での22時間の成熟後に、自然成熟系の値より高かった。この結果は、マウス卵母細胞では、回収培地がPDEインヒビターであるIBMXを含む場合にこれらの上記利益が生じることを示す。
【0169】
しかし、図20に示されるように、フォルスコリンおよびIBMXがともに回収培地に含まれる場合にこれらの利益はさらに向上する。COCを基本回収培地または50μM IBMX +/- 50μMフォルスコリン(FSK)を補充した回収培地中での1時間のインキュベーションに付した。そしてMEM+ 50 mIU FSH中でシロスタミドを含まずに18時間またはシロスタミド(0.1μM)の存在下でMEM+ 100 mIU FSH中で22時間COCを成熟させた。次いで、in vitro受精および胚発達後に、6日目の卵割率、胚盤胞率および孵化胚盤胞率によって卵母細胞発達能を評価した。
【0170】
図21は、誘発型IVM (回収= HEPES-MEM+フォルスコリン+IBMX、成熟= MEM+シロスタミド+FSH)または自然IVM (回収= HEPES-MEM、成熟= MEM+FSH)によってin vivoで成熟させた卵母細胞の発達能を示すグラフである。IVM後、COCを受精させ、胚を5日まで培養した(A)。総細胞数および栄養外胚葉(TE)または内細胞塊(ICM)への細胞の割り当てによって胚盤胞の質を定量した(B)。in vivo成熟コントロール卵母細胞= hCG投与の14時間後に卵管から回収されたCOC。
【0171】
図21は、自然IVMではなく誘発型IVMのみが、排卵された卵胞から得られ(かつ完全な発達能を獲得し)た卵母細胞(本明細書中でin vivo成熟卵母細胞と称される)をよく模倣する(卵母細胞発達能に関する)結果を生じさせることを示す。
【0172】
図22は、妊娠の結果および胎児パラメータに対する誘発型IVMの効果を示すグラフを提供する。誘発型IVM (回収= HEPES-MEM+フォルスコリン+IBMX、成熟= MEM+シロスタミド+FSH)または自然IVM (回収= HEPES-MEM、成熟= MEM+FSH)によってin vivoで成熟させたCOCから発達した4.5日胚盤胞を偽妊娠レシピエントに移植し、妊娠の18日目に結果を分析した。着床率= 総着床/移植された胚。胎児生存= 胎児の数/着床部位。in vivo成熟コントロール= hCG投与の14時間後に卵管から回収されたCOC。
【0173】
図22A〜Cで観察できるように、3つの異なる群の卵成熟系由来の胚を移植した場合、誘発型IVM由来の胚は、in vivo成熟卵母細胞から得られた移植後の発達結果を模倣し、自然成熟卵母細胞由来の胚の結果より高い。この観察は、図22D〜Eに示されるように、胎児のサイズ(頭殿長)および胎児:胎盤重量比にも反映される。
【実施例6】
【0174】
次いで、動物卵母細胞を使用して開発された誘発型IVMの発想をヒト卵母細胞を使用して調査した。
【0175】
該技術をヒトに適合させるには、(1) ヒトIVM期で使用するためのシロスタミドの最適濃度; (2) ヒトプレIVM期で使用するためのフォルスコリンおよびIBMXの最適濃度; (3) 卵成熟を完了するために必要とされる期間に対するこれらの物質の相互作用効果; および(4) 受精後の胚発達に対する裸化時間(体細胞除去)の効果の決定が必要とされる。
【0176】
材料および方法
未成熟ヒト卵丘-卵母細胞複合体(COC)を(IVF患者からではなく)若い健康な女性から回収した。これらの女性は、通常の臨床IVMサイクルの1バリエーションにおいて典型的に実施されるように、最小限の卵巣刺激(典型的に300〜500 IU FSH/サイクル、hCGなし)を受けた。リードする卵胞が12 mmに達したら、卵母細胞の採取を実施した。そして未成熟卵母細胞を、以下に詳細に示されるように、プレIVMまたはIVM期に種々の処置に階層化した。さらに、卵成熟期間中の卵母細胞からの体細胞の除去(裸化)の時間を調査した。以下の試験を行った:
・IVM期のPDE3インヒビター(シロスタミド)の用量: 0対0.1対1.0μM
・プレIVM期のcAMPモジュレーター: コントロール対IBMX対IBMX +フォルスコリン
・胚発達に対する卵母細胞裸化の時間の効果: 30対40対44〜48時間。
【0177】
卵母細胞の採取時点で、COCを回収してすぐにVitroCollect培地(Cook Australia, Brisbane, Australia)中でのプレIVM処置に入れ、1時間維持した。プレIVM後、COCを洗浄し、次いでVitroMat培地(Cook)中でのIVM処置(例えばシロスタミドの投与)に移し、標準条件下で成熟させた。裸化後の種々の時点で、卵母細胞の成熟(極体[PB]放出)をモニターした。成熟(48時間)の終了時点で、最終の減数分裂スコアを得た。卵母細胞が成熟したら、ドナー精子を使用する標準の細胞質内精子注入(ICSI)手順を使用してそれらを受精させた。24時間後に受精率を測定した。標準的手順を使用して発達停止まで6日までの間、胚を培養した。
【0178】
結果
ヒトIVM期のシロスタミドの投与
結果を以下の表3に示す。
【表3】

【0179】
卵核胞崩壊(GVBD)は卵母細胞が減数分裂を再開したことのマーカーである。これらの結果は、ヒト卵母細胞に関して1.0μMが阻害用量のシロスタミドであることを示す。0.1μMは非阻害性である。ゆえに、直下で報告される研究では、IVM期にこの用量を使用した。
【0180】
ヒトIVM期の0.1μMシロスタミドを用いるプレIVM cAMP調節物質の効果
結果を以下の表4〜6に示す。
【表4】

【0181】
【表5】

【0182】
【表6】

【0183】
これらの結果は、ヒト卵母細胞を使用する主要な誘発型IVMを示す。この結果は、FSHの存在下で0.1μMシロスタミドでIVM期に卵母細胞を処置すると、IBMX+FSKを含むプレIVMは、標準(コントロール; PB期41.7%)プレIVM卵母細胞回収条件と比較して成熟卵母細胞の割合を増加させる(PB期64.9%)ことを示す。
【0184】
IVM後のヒト胚発達に対する裸化時間の効果
結果を以下の表7に示す。
【表7】

【0185】
ここで、発明者らは、誘発型IVM系を使用して成熟させた卵母細胞からヒト胚を作製した。これまで少数ではあるが、該系は胚の作製に非常に効率的であると判明中であり、35〜40%の範囲が胚盤胞期に進行する。これは標準的な臨床の割合より実質的に高い。誘発型IVM系の重要な因子はIVMの持続時間または媒精の時間である。この結果は、44〜48時間の範囲の裸化が胚発達に負に影響することを示唆する。
【0186】
図23は、従来型IVF (in vivo成熟卵母細胞)および標準的な自然IVMと比較した誘発型IVMの主要な考え方および胎児発生でのこれらの3つの手順の相対的効率の概要を示す図である。
【0187】
最後に、本明細書中に記載の本発明の方法および組成物の種々の改変およびバリエーションが、本発明の範囲および思想から逸脱することなく当業者に自明であることが理解される。特定の実施形態に関連して本発明を記載してきたが、特許請求されている発明は、そのような特定の実施形態に不当に限定されるべきではないことが理解されるべきである。実際、当業者に自明の、本発明を実施するための上記様式の種々の改変は本発明の範囲内であるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生殖補助技術によって卵母細胞から胚を生産する方法であって、以下のステップ:
(a) 第1のホスホジエステラーゼインヒビターおよび、卵母細胞の細胞内cAMP濃度を増加させる物質を含む回収培地中で被験体の卵巣から卵母細胞を回収するステップ;
(b) 第2のホスホジエステラーゼインヒビターを含む成熟培地中で卵母細胞を培養するステップ; および
(c) 生殖補助技術によって卵母細胞から胚を生産するステップ
を含む、方法。
【請求項2】
前記物質が卵母細胞の細胞内cAMP生産を増加させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記物質がフォルスコリンである、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記物質が卵母細胞の細胞内cAMP分解を減少させる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
卵母細胞の成熟を誘発するためのリガンドに卵母細胞を曝露するステップをさらに含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
リガンドの濃度が卵母細胞のcAMP誘発型減数分裂停止に打ち勝つ濃度である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
リガンドが卵胞刺激ホルモン(FSH)である、請求項5または請求項6に記載の方法。
【請求項8】
FSHの濃度が10 mIU/mlより高い、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
リガンドが上皮細胞成長因子(EGF)である、請求項5〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
EGFの濃度が1 ng/mlより高い、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
第1のホスホジエステラーゼインヒビターと第2のホスホジエステラーゼインヒビターが異なる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
第1のホスホジエステラーゼインヒビターがIBMXである、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
第2のホスホジエステラーゼインヒビターがシロスタミドである、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
第1のホスホジエステラーゼインヒビターと第2のホスホジエステラーゼインヒビターが同一である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
生殖補助技術がin vitro受精を含む、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
胚がヒト胚である、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
卵母細胞回収の24時間後より後にin vitro受精が行われる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
胚がウシ胚である、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
卵母細胞のin vitro成熟の方法であって、以下のステップ:
(a) 第1のホスホジエステラーゼインヒビターおよび、卵母細胞の細胞内cAMP濃度を増加させる物質を含む回収培地中で被験体の卵巣から卵母細胞を回収するステップ; および
(b) 第2のホスホジエステラーゼインヒビターを含む成熟培地中で卵母細胞を培養するステップ
を含む、方法。
【請求項20】
前記物質が卵母細胞の細胞内cAMP生産を増加させる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記物質がフォルスコリンである、請求項19または請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記物質が卵母細胞の細胞内cAMP分解を減少させる、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
卵母細胞の成熟を誘発するためのリガンドに卵母細胞を曝露するステップをさらに含む、請求項19〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
リガンドの濃度が卵母細胞のcAMP誘発型減数分裂停止に打ち勝つ濃度である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
リガンドが卵胞刺激ホルモン(FSH)である、請求項23または請求項24に記載の方法。
【請求項26】
FSHの濃度が10 mIU/mlより高い、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
リガンドが上皮細胞成長因子(EGF)である、請求項23または請求項24に記載の方法。
【請求項28】
EGFの濃度が1 ng/mlより高い、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
第1のホスホジエステラーゼインヒビターと第2のホスホジエステラーゼインヒビターが異なる、請求項19〜28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
第1のホスホジエステラーゼインヒビターがIBMXである、請求項19〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
第2のホスホジエステラーゼインヒビターがシロスタミドである、請求項19〜30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
第1のホスホジエステラーゼインヒビターと第2のホスホジエステラーゼインヒビターが同一である、請求項19〜28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
卵成熟培地であって、以下の成分:
(a) ホスホジエステラーゼインヒビター; および
(b) 卵母細胞の成熟を誘発するためのリガンド
を含み、ここで、卵成熟培地中のリガンドの濃度は卵母細胞のcAMP誘発型減数分裂停止に打ち勝つ濃度である、卵成熟培地。
【請求項34】
ホスホジエステラーゼインヒビターがシロスタミドである、請求項33に記載の卵成熟培地。
【請求項35】
リガンドがFSHである、請求項33または請求項34に記載の卵成熟培地。
【請求項36】
FSHの濃度が10 mIU/mlより高い、請求項35に記載の卵成熟培地。
【請求項37】
リガンドがEGFである、請求項33または請求項34に記載の卵成熟培地。
【請求項38】
EGFの濃度が1 ng/mlより高い、請求項37に記載の卵成熟培地。
【請求項39】
ヒト卵成熟培地である、請求項33〜38のいずれか一項に記載の卵成熟培地。
【請求項40】
ウシ卵成熟培地である、請求項33〜38のいずれか一項に記載の卵成熟培地。
【請求項41】
複合製品であって、以下の成分:
(a) 第1のホスホジエステラーゼインヒビターおよび、卵母細胞の細胞内cAMP濃度を増加させる物質を含む卵母細胞回収培地; および
(b) 第2のホスホジエステラーゼインヒビターおよび、卵母細胞の成熟を誘発するためのリガンドを含む卵成熟培地;
を含み、ここで、卵成熟培地中のリガンドの濃度は卵母細胞のcAMP誘発型減数分裂停止に打ち勝つ濃度である、複合製品。
【請求項42】
回収培地および成熟培地がヒト卵母細胞の回収および成熟に使用される、請求項41に記載の複合製品。
【請求項43】
回収培地および成熟培地がウシ卵母細胞の回収および成熟に使用される、請求項41に記載の複合製品。
【請求項44】
卵成熟を誘発する方法であって、ホスホジエステラーゼインヒビターおよび、卵母細胞の成熟を誘発するためのリガンドを含む成熟培地中で卵母細胞を培養するステップを含み、ここで、成熟培地中のリガンドの濃度が卵母細胞のcAMP誘発型減数分裂停止に打ち勝つ濃度であり、それにより卵母細胞を成熟させる、方法。
【請求項45】
減数分裂停止の状態である卵母細胞の成熟を誘発する方法であって、減数分裂停止に打ち勝つために十分な濃度のリガンドと卵母細胞を接触させるステップを含む、方法。
【請求項46】
生殖補助技術の一部である、請求項19〜32、44および45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
生殖補助技術がin vitro受精を含む、請求項46に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公表番号】特表2012−526520(P2012−526520A)
【公表日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−510073(P2012−510073)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【国際出願番号】PCT/AU2010/000569
【国際公開番号】WO2010/130008
【国際公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.WINDOWS
【出願人】(511082573)アデレード リサーチ アンド イノベーション ピーティーワイ リミテッド (1)
【Fターム(参考)】