説明

卵白を含まない起泡性組成物、メレンゲ様起泡物及び食品

【課題】卵白を使用しないメレンゲ様起泡物及びこれを含む食品を提供し、例えば、卵アレルギーの患者が、マシュマロやシフォンケーキ等の従来メレンゲを使用して作られるものと同様の食感を有する食品を食することができるようにする。
【解決手段】水に溶解した非イオン性水溶性セルロースエーテルと甘味料を少なくとも含み、卵白を含有しない起泡性組成物、この起泡性組成物を起泡させた、卵白を使用しないメレンゲ様起泡物、及びこの卵白を使用しないメレンゲ様起泡物を少なくとも含んでなる食品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非イオン性水溶性セルロースエーテルを含む卵白を含まない起泡性組成物、メレンゲ様起泡物及びこれを含む食品に関する。
【背景技術】
【0002】
卵白を起泡して作られるメレンゲと呼ばれる泡を含有する組成物は、ゼラチンや寒天を加えて固めたマシュマロや淡雪、メレンゲを加熱乾燥して作られる焼きメレンゲ菓子、粉類を加えて焼成したシフォンケーキ、スフレケーキ、マカロン、ダックワーズなどの焼き菓子類、アイシングあるいはフロスティングと呼ばれるスポンジケーキ類のデコレーションなどの食品に用いられている。
従って、卵白に含まれるタンパク成分にアレルギーを示す患者は、卵白を含むメレンゲを使用する前記の菓子類や食品を食することができない。
【0003】
食品に使用される卵白以外のメレンゲ様起泡物として、特許文献1では、大豆タンパクから得られるポリペプチドと水溶性多糖類及び熱凝固性タンパクを含有する起泡剤組成物が紹介されている。一方、乳清タンパクの起泡性を利用した例では、乳清タンパクと増粘多糖類を併用したり(特許文献2)、乳清タンパクにカルシウムを添加したりすることでそれぞれ起泡物を得ている(特許文献3)。
【0004】
メチルセルロースなどに代表される非イオン性水溶性セルロースエーテル類は、食品用として熱可逆ゲル化性が利用される他、増粘剤として使用されている。しかしながら、非イオン性水溶性セルロースエーテルの起泡性を利用し、メレンゲ様起泡物を得た例は報告されていない。特許文献4では、卵を使用したケーキの泡沫安定をはかり風味を改善するためにメチルセルロースを添加する方法が提案されているが、卵を使わずに起泡を安定化させる手法に関してはなんら開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−165568号公報
【特許文献2】特開2008−99650号公報
【特許文献3】特開2009−000091号公報
【特許文献4】特開2009−95246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、卵白を使用しない、起泡性組成物、メレンゲ様起泡物及びこれを含む食品を提供し、卵アレルギーの患者が、マシュマロやシフォンケーキ等の従来メレンゲを使用して作られるものと同様の食感を有する食品を食することができるようにするものである。また、植物由来のセルロースを原料とした非イオン性水溶性セルロースエーテルを使用することにより、卵白を使用した場合よりもカロリーの低い食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意研究した結果、水に溶解した非イオン性水溶性セルロースエーテルと甘味料を少なくとも含む起泡性組成物を、例えば撹拌して起泡させることで卵白を使用することなく卵から作られるメレンゲと同様の起泡物ができることを見出し、本発明を完成した。
具体的には、水に溶解した非イオン性水溶性セルロースエーテルと甘味料を少なくとも含み、卵白を含有しない起泡性組成物、この起泡性組成物を起泡させた、卵白を使用しないメレンゲ様起泡物、及びこの卵白を使用しないメレンゲ様起泡物を少なくとも含んでなる食品を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、卵を使用することなくメレンゲ様起泡物が得ることができ、卵アレルギーの患者も安心してメレンゲを含んだ食品を食することができるようになる。また、植物由来のセルロースを原料とした非イオン性水溶性セルロースエーテルを使用しているため、卵白を使用した場合よりもカロリーの低い食品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に使用される非イオン性水溶性セルロースエーテルは、食品添加物として第8版食品添加物公定書に記載されているメトキシル基が25〜33質量%のメチルセルロース、メトキシル基を19〜30質量%、ヒドロキシプロポキシル基を4〜12質量%有するヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロポキシル基を53.4〜77.5質量%有するヒドロキシプロピルセルロースが好適である。これらのセルロースエーテルは疎水性のメトキシル基または親水性のヒドロキシプロポキシル基を分子内に有し、界面活性を示すため起泡性と泡安定性が優れるものである。これらのセルロースエーテルの置換度は、J.G.Gobler,E.P.Samscl,and G.H.Beaber,Talanta,9,474(1962)に記載されたZeisel−GCによる手法、第8版食品添加物公定書に記載の方法および第14改正日本薬局方D945〜D966に記載の置換度測定方法の手法に準じて測定できる。これらのセルロースエーテルは2質量%の水溶液にして20℃での粘度が好ましくは50mPa・s以下、さらに好ましくは3〜50mPa・sである。この範囲より低いと泡保持性が悪く、高すぎると起泡しにくくなる。
【0010】
本発明に使用される甘味料としては、和三盆、黒糖、三温糖等を含む砂糖や蜂蜜、メープルシロップ、糖蜜、水飴、果糖、麦芽糖、エリスリトール、トレハロース、マルチトール、甘草抽出物、ステビア加工の甘味料、羅漢果抽出物、ソーマチンならびに食品添加物とされているサッカリンナトリウム、チクロと称するサイクラミン酸、ズルチン、アセスルファムカリウム、スクラロース、キシリトール、ソルビトール、パラチノース、ネオテームなどの他、グリセリン、蔗糖など、甘味性を示す全てのものが使用できる。
【0011】
非イオン性水溶性セルロースエーテルと甘味料と水の組成としては、非イオン性水溶性セルロースエーテルは水100質量部に対して好ましくは0.1〜30質量部、より好ましくは1〜10質量部、甘味料は100質量部水に対して好ましくは10〜100質量部、より好ましくは20〜50質量部とする。この組成はセルロースエーテルと砂糖などの甘味料との相溶性によるものであり、これらの範囲を各々の組成物がはずれてしまうと相溶が悪くなって、起泡の寿命が短くなることがある。
甘味料は一般に水分子との親和性が強く、甘味料を添加することで、非イオン性水溶性セルロースエーテルの溶媒となっている水分子の一部が甘味料に吸い取られたイメージとなり、みかけの非イオン性水溶性セルロースエーテルの濃度が高くなるため、起泡した泡の皮膜が強くなって一層の泡の安定化が図れるものと考えられる。
【0012】
水に溶解した非イオン性水溶性セルロースエーテルと甘味料を少なくとも含む起泡性組成物を起泡させる方法としては、特に限定しないが、非イオン性水溶性セルロースエーテルの水溶液を調製し、ハンドミキサーなどの高速撹拌装置を用いて起泡させた後に甘味料を混合溶解し、さらに撹拌してメレンゲ様になるまで起泡させる方法が容易に起泡を作り安定化する方法として好ましい。また、非イオン性水溶性セルロースエーテルを溶解する際に、水の代わりに、豆乳や牛乳などの水分を多量に含む溶液や、脱脂粉乳などの水に分散しやすい粉末の水溶液を用いてもよい。
【0013】
本発明の、卵白を含有しない起泡性組成物、この起泡性組成物を起泡させたメレンゲ様起泡物及びこのメレンゲ様起泡物を用いて作られた食品には、必要において各種の香料や味付け剤、食品添加物として認可されている界面活性剤、起泡皮膜の補強としてアルギン酸、ザンタンガム、ジュランガム、ラムザンガム、ウェランガムなどの天然増粘剤、カルボキシメチルセルロースなどの半合成増粘剤を本発明の目的を阻害しない範囲であれば添加することが可能である。また、湿式の対抗高圧衝突や湿式摩砕によってゲル状としたセルロース粉末の添加や第14改正の日本薬局方記載の微結晶セルロースの添加も差し支えない。ヒドロキシプロポキシル基を5〜16質量%有する低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの添加も食品添加物として認可されている場合には使用できる。
各種添加剤を加えるタイミングとしては特に限定しないが、添加剤が水溶性粉末である場合は、非イオン性水溶性セルロースエーテルを溶解する前の水や水溶液、または調製した非イオン性水溶性セルロースエーテルの水溶液に加えて溶解した後に起泡させる方法が好ましい。
【0014】
このようにして得られたメレンゲ様起泡物を用いて、マシュマロ、淡雪、焼きメレンゲ菓子、ケーキ、焼き菓子、又はケーキのデコレーション等の種々の食品を作ることができる。
例えば、起泡物にゼラチン水溶液または寒天水溶液を均一に混合した後、所望に応じて各種の香料や味付け剤を添加し、型に流しこんで25℃以下に冷却してマシュマロ状にすることができる。
このマシュマロを加熱してゼラチンないしは寒天を一部溶解させたいわゆる焼きマシュマロとして食することも可能となる。これは加熱により熱可逆ゲル化性の非イオン性水溶性セルロースエーテルがゲル化し成形した形状を崩すことなく保持し、食する温度になると溶液状態となって食感を所望の状態に保つことによる効果が発揮されるものである。
【0015】
熱可逆ゲル化性の非イオン性水溶性セルロースエーテルと甘味料と水で作られた起泡物に所望の香料や味つけ剤を添加したのち、これをオーブンレンジなどに入れて100〜180℃程度で加熱乾燥して泡の入った乾燥菓子状物を得ることができる。これも熱可逆ゲル化性の非イオン性水溶性セルロースエーテルが加熱により乾燥に至るまでゲル化して材料中の泡を保持する性能を発揮することにより可能となる製法である。
【0016】
また、非イオン性水溶性セルロースエーテルと甘味料と水の混合物で作られる起泡を含む食材に小麦粉や米粉などの粉類を混合してケーキ生地を調製することも可能となる。例えば、メレンゲ様起泡物100質量部に対して好ましくは10〜60質量部、特に20〜50質量部の小麦粉又は米粉を混合すればよい。ケーキ生地は、好ましくは100〜180℃程度で焼成してケーキとして食することができる。焼成段階で熱可逆ゲル化性非イオン性水溶性セルロースエーテルがゲル化して生地中の起泡を維持する。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
[実施例1]
メトキシル基29質量%、ヒドロキシプロポキシル基9質量%、2質量%水溶液の20℃での粘度が3mPa・sの信越化学工業社製のヒドロキシプロピルメチルセルロースの8質量%水溶液を調製し、この水溶液25gを2Lの金属ボウルに入れ家庭用小型ハンデイ泡立て装置にて室温下で30秒間泡立てし、砂糖5gを添加後に家庭用小型ハンデイ泡立て装置で混合溶解した後、さらに4分30秒間撹拌してメレンゲ様起泡物を調製した。この起泡物を10cm径のシャーレに移しそのシャーレ中の高さを刻字して後10分放置することで泡の安定性を評価した。その高さに変化はなく起泡は安定していた。
【0018】
[実施例2]
メトキシル基30質量%、2質量%水溶液の20℃での粘度が25mPa・sの信越化学工業社製のメチルセルロースを用いて実施例1と同様の起泡物を調製しその泡の保持安定性を評価した。起泡は安定していた。
【0019】
[実施例3]
ヒドロキシプロポキシル基65質量%、2質量%水溶液の20℃での粘度が50mPa・sに調製したヒドロキシプロピルセルロースを用いて実施例1と同様の起泡物を調製しその泡の保持安定性を評価した。起泡は安定していた。
【0020】
[実施例4]
ゼラチン7gに水25gと砂糖35gを加えて60℃で加熱溶融した溶液を、実施例1で調製した起泡物に混合し、縦12cm横15cm厚さ4cmの金属製バットに入れ冷蔵庫にて5℃で1時間冷却した。得られたマシュマロ状の起泡含有物を食したところ、卵白からのメレンゲ状物で調製したマシュマロと同様の食感と味のマシュマロ状食材であることが確認できた。
【0021】
[実施例5]
寒天7gに水25gと砂糖35gを加えて100℃で煮沸溶融した溶液を、実施例1で調製した起泡物に混合し、縦12cm横15cm厚さ4cmの金属製バットに入れ冷蔵庫にて5℃で1時間冷却した。得られた淡雪状の起泡含有物を食したところ、卵白からのメレンゲ状物で調製した淡雪と同様の食感と味の淡雪状食材であることが確認できた。
【0022】
[実施例6]
実施例1で調製した起泡物を約2gずつクリーム絞り出し器にてテフロン(登録商標)シート上に絞り出し、100℃オーブンにて90分間加熱乾燥した。乾燥物は泡を含有した食材になっており、食したところ卵白メレンゲから同様に調製されるものと同様の食感と味であることが確認できた。
【0023】
[実施例7]
実施例2で調製した起泡物を約1gずつクリーム絞り出し器にてテフロン(登録商標)シート上にしぼりだし、家庭用冷凍庫にて−15℃にて2時間冷凍した。起泡を含有したシャーベット状の食材であることが食して確認できた。
【0024】
[比較例1]
2質量%水溶液の20℃での粘度が50mPa・sに調製したカルボキシメチルセルロースを用いて実施例1と同様の起泡物を調製し、その泡の保持安定性を評価した。起泡は10分で無くなっていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に溶解した非イオン性水溶性セルロースエーテルと甘味料を少なくとも含み、卵白を含有しない起泡性組成物。
【請求項2】
上記非イオン性水溶性セルロースエーテルが、メトキシル基が25〜33質量%のメチルセルロース、メトキシル基を19〜30質量%とヒドロキシプロポキシル基を4〜12質量%有するヒドロキシプロピルメチルセルロース、又はヒドロキシプロポキシル基を53.4〜77.5質量%有するヒドロキシプロピルセルロースである請求項1に記載の起泡性組成物。
【請求項3】
上記非イオン性水溶性セルロースエーテルが、上記水溶液中の水100質量部に対して0.1〜30質量部であり、上記甘味料が、上記水溶液中の水100質量部に対して10〜100質量部である請求項1又は請求項2に記載の起泡性組成物。
【請求項4】
上記甘味料が、砂糖、蜂蜜、メープルシロップ、糖蜜、水飴、果糖、麦芽糖、エリスリトール、トレハロース、マルチトール、甘草抽出物、ステビア加工の甘味料、羅漢果抽出物、ソーマチン、サッカリンナトリウム、サイクラミン酸、ズルチン、アセスルファムカリウム、スクラロース、キシリトール、ソルビトール、パラチノース、ネオテーム、グリセリン、及び蔗糖からなる群から選ばれる請求項1〜3のいずれかに記載の起泡性組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の起泡性組成物を起泡させた、卵白を使用しないメレンゲ様起泡物。
【請求項6】
請求項5に記載のメレンゲ様起泡物を少なくとも含んでなる食品。
【請求項7】
マシュマロ、淡雪、焼きメレンゲ菓子、ケーキ、焼き菓子、又はケーキのデコレーションである請求項6に記載の食品。