説明

卵黄加培地

【課題】微生物や細胞の増殖を促進するとともに、卵黄反応の有無を明確に識別することができる卵黄加培地を提供しようとする。
【解決手段】本発明の卵黄加培地は、鶏卵由来の卵黄を用いて調製される従来公知の卵黄加培地において、かかる鶏卵由来の卵黄を水鳥の卵由来の卵黄に代えて構成される。前記水鳥は、アヒル、合鴨、鵜から選択される少なくとも一種であり得る。また、前記卵黄は、前記卵黄加培地1L中に0.001g以上50g未満含まれ得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物や細胞の培養あるいは試験等に用いられる、卵黄を加えて調製される卵黄加培地に関する。
【背景技術】
【0002】
食中毒は日本において一定の頻度で発生し、人体に重大な影響を及ぼす。このため、食中毒起炎菌や、食中毒の原因菌として知られる黄色ブドウ球菌やセレウス菌等の食中毒菌の検出は、食品衛生上重要な項目となっている。
【0003】
かかる食中毒起炎菌や食中毒菌は、卵黄を加えて調製される卵黄加培地で培養すると、発現した集落の周囲に白濁環(培地によっては透明環)を形成する、いわゆる卵黄反応を示すことが知られている。このため、一般的な食中毒起炎菌や食中毒菌の検出は、卵黄を加えて調製され、かつ、食中毒起炎菌や食中毒菌以外の細菌の増殖を抑制する抗生剤を添加した卵黄加培地を用いて行なわれる。かかる卵黄加培地としては、例えば、卵黄加マンニット食塩寒天培地、卵黄加ブドウ球菌110培地、食塩卵黄寒天培地、ポアメディア・エッグヨーク食塩寒天培地、ベアード・パーカー寒天培地、フォーゲル・ジョンソン寒天培地、食塩加トリプトケース・ソイブイヨン培地、NGKG寒天培地、クロストリジウム・ウェルシュ寒天培地、MRSA用培地等が知られている。
【0004】
しかしながら、かかる従来公知の卵黄加培地では、そこに食中毒起炎菌や食中毒菌を接種して培地上に集落を発現させても、その集落の周囲に形成される白濁環が小さいために、卵黄反応の有無を十分に識別することができない場合があった。このため、検体中の食中毒起炎菌や食中毒菌の検出を高精度に行なうことができない場合があった。
【0005】
また、かかる従来公知の卵黄加培地は、卵黄加培地1L当り25g〜50g含んで構成されることが多く、その結果培地が濁って透明度が低下することとなっていた。このため、かかる従来公知の卵黄加培地を用いた食中毒起炎菌や食中毒菌の検出において、発現した集落の周囲に形成される白濁環が培地の濁りによってかき消されて、白濁環を明瞭に認識することができない場合があった。特に、培地上での黄色色素の産生能力が低く、集落が白色に近い色を呈色する食中毒起炎菌や食中毒菌を従来公知の卵黄加培地に接種した場合には、発現した集落と白濁環とのコントラストを十分に得ることができずに、卵黄反応の有無の識別をより一層困難なものとしていた。
【0006】
これまで、明瞭な卵黄反応を短時間で生じさせて、検体培養後の食中毒菌の検出を迅速に行なう方法や、卵黄反応を見やすくした培地が開示されている(例えば、特許文献1乃至3参照)。
【特許文献1】特開2003−174899号公報
【特許文献2】特開2003−174866号公報
【特許文献3】特開平11−9262号公報
【0007】
しかしながら、ここで開示される方法及び培地は、菌体接種後の培地の保存方法であったり、培地に添加する抗生剤を適宜調整して構成されるものであり、かかる培地に添加される卵黄の組成については何らの考察もなされてこなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、微生物や細胞の増殖を促進するとともに、卵黄反応の有無を明確に識別することができる卵黄加培地を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨とするところは、少なくとも卵黄を加えて調製される卵黄加培地であって、前記卵黄が水鳥の卵から採取される卵黄加培地にある。
【0010】
水鳥の卵から採取される卵黄の組成が、鶏卵から採取される卵黄の組成と如何なる点において相違するのかは定かではないが、水鳥の卵由来の卵黄は、鶏卵由来の卵黄に比して、細胞の培養や微生物の増殖に必要とされる栄養素を多く含有していると考えられる。このため、かかる構成によって、本発明の卵黄加培地は、細胞や微生物の代謝を促進することとなる。
【0011】
また、本発明の要旨とするところは、前記水鳥が、アヒル、合鴨、鵜から選択される少なくとも一種であることにある。
【0012】
かかる構成により、本発明の卵黄加培地に用いる卵黄は、家畜化された水鳥の卵から採取されることとなる。
【0013】
また、本発明の要旨とするところは、前記卵黄が、前記卵黄加培地1L中に0.001g以上50g未満含まれることにある。
【0014】
かかる構成によって、卵黄加培地の透明度が高く維持されることとなる。
【0015】
また、本発明の要旨とするところは、さらにゲル化剤を加えて調製されることにある。
【0016】
かかる構成によって、本発明の卵黄加培地は固体培地となり得る。このため、培地が固化する前に検体が接種された場合には、その後の培地の固化により培地中での検体の位置が固定されて、検体が浮遊・流動することが防がれることとなる。また、培地が固化した後に検体が接種された場合には、検体の位置が培地表面に固定されることとなる。
【0017】
また、本発明の要旨とするところは、前記卵黄加培地が培養器に注いで用いられることにある。
【0018】
かかる構成によって、本発明の卵黄加培地は固定培地となり得る。
【発明の効果】
【0019】
本発明の卵黄加培地は、細胞や微生物の代謝を促進することから、微生物や細胞の培養や試験のための有用な培地となることができるのみならず、食中毒起炎菌や食中毒菌の卵黄反応を活性化することができる。このため、本発明の卵黄加培地に食中毒起炎菌や食中毒菌を接種した場合には、培地がより一層白濁することとなって、検体中の食中毒起炎菌や食中毒菌の有無を高感度に検知することができる。
【0020】
本発明の卵黄加培地に用いられる卵黄が家畜化された水鳥の卵から採取される場合には、安定した卵黄の供給が容易となることから、本発明の卵黄加培地の製造コストを抑えることができる。
【0021】
水鳥の卵から採取される卵黄は、鶏卵から採取される卵黄に比して栄養価に優れていると考えられる。このため、本発明の卵黄加培地は、そこに含まれる卵黄量が、鶏卵由来の卵黄を用いて構成される従来公知の卵黄加培地に含まれる卵黄量より少なく構成されても、従来公知の卵黄加培地と同様か、若しくは優れた細胞・微生物の代謝活性能を示すことができる。
【0022】
また、一般に、卵黄加培地に含まれる卵黄量が増加する程、卵黄加培地の透明度が低下することが知られているが、本発明の卵黄加培地は、そこに含まれる卵黄量が鶏卵由来の卵黄を用いて構成される従来公知の卵黄加培地に含まれる卵黄量より少なく構成されても、従来公知の卵黄加培地と同様か、若しくは優れた代謝活性能を示すことができることから、本発明の卵黄加培地は、従来公知の卵黄加培地と同程度若しくはそれ以上の卵黄反応活性を保持しながら、その透明度を高くすることができる。そしてその結果、本発明の卵黄加培地は、卵黄反応によって生じた培地の白濁が培地自体の濁りによってかき消されることが防がれるため、卵黄加培地の白濁をより精密に検知することができる。すなわち、検体中の食中毒起炎菌や食中毒菌の有無の検出感度を上げることができる。
【0023】
本発明の卵黄加培地は、固体培地となり得ることから、ここに接種される検体中に食中毒起炎菌や食中毒菌が含まれていた場合には、発現する集落の周囲には白濁環が形成されることとなる。このため、本発明の卵黄加培地は、食中毒起炎菌や食中毒菌の検出・単離を容易に行なうことができる。なお、本発明の卵黄加培地は、そこに含まれる卵黄量を調整して、その透明度を高くすれば、食中毒起炎菌や食中毒菌から構成される集落と、その集落の周囲に形成される白濁環とのコントラストを十分に得ることができることから、食中毒起炎菌や食中毒菌の検出・単離をより一層容易に行なうことができる。
【0024】
本発明の卵黄加培地は、これを平板の固定培地として用いれば、本発明の卵黄加培地の透明度をより一層上げることができる。また、本発明の卵黄加培地は、その表面全体に菌株を塗り拡げることが可能となるため、検体中に含まれる食中毒起炎菌や食中毒菌の識別が容易になるとともに、検体の中に含まれる食中毒起炎菌や食中毒菌の個数を計測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の卵黄加培地について、少なくとも炭水化物、窒素源、塩化ナトリウム、ゲル化剤、及び卵黄を含んで構成される、黄色ブドウ球菌検出用の卵黄加培地を一例にして説明する。
【0026】
本発明の卵黄加培地に含まれる炭水化物は、黄色ブドウ球菌がエネルギー源として資化して、その生育に利用されるものであれば特に限定されるものでなく、例えば、グルコースやマンニトール等を挙げることができる。また、本発明の卵黄加培地に含まれる炭水化物は、複数種の炭水化物を適宜組み合わせて構成されてもよい。
【0027】
本発明の卵黄加培地に含まれる窒素源は、黄色ブドウ球菌がエネルギー源として資化して、その生育に利用されるものであれば特に限定されるものでなく、例えば、乳蛋白などの動物性蛋白の加水分解物、大豆蛋白等の植物性蛋白の加水分解物、酵母等の微生物蛋白の加水分解物等の蛋白加水分解物や、ペプトン、酵母エキス、獣肉エキス、魚肉エキス等を挙げることができる。また、本発明の卵黄加培地に含まれる窒素源は、複数種の窒素源を適宜組み合わせて構成されてもよい。
【0028】
本発明の卵黄加培地に含まれる塩化ナトリウムは、市販品を用いることができる。本発明の卵黄加培地中の塩化ナトリウムの含有量については、黄色ブドウ球菌の食塩耐性を利用して黄色ブドウ球菌を選択的に培養することができて、かつ黄色ブドウ球菌による卵黄反応を抑制しない範囲内であれば特に限定されるものではなく、例えば、卵黄加培地1L中に40g〜75g含まれていればよい。
【0029】
本発明の卵黄加培地に含まれるゲル化剤は、卵黄加培地を固定培地とし得るものであれば特に限定されるものではなく、例えば、寒天、ゼラチン、ジェランガム、カラギーナン等を挙げることができる。また、本発明の卵黄加培地に含まれるゲル化剤は、複数種のゲル化剤を適宜組み合わせて構成されてもよい。
【0030】
本発明の卵黄加培地に含まれる卵黄は、水鳥の卵から採取されて構成されるものであれば、いずれの水鳥の卵から採取されてもよい。かかる水鳥としては、例えば、アビ目、カイツブリ目、ペリカン目(ペリカン、ウ)、コウノトリ目(サギ、コウノトリ、トキ、フラミンゴ)、ガンカモ目(ガン、カモ、アヒル、ハクチョウ)、ツル目、クイナ目(オオバン、クイナ)、チドリ目(シギ、チドリ、カモメ、アジサシ)に属する水鳥を挙げることができる。本発明の卵黄加培地の製造コストの観点から、家畜化されて卵の入手が容易となっている水鳥、例えば、アヒルや合鴨や鵜であることが特に好ましい。なお、本発明の卵黄加培地に含まれる卵黄は、複数種の水鳥の卵から採取される卵黄を適宜組み合わせて構成されてもよい。
【0031】
本発明の卵黄加培地は、水鳥の卵由来の卵黄を含んで構成されることから、鶏卵由来の卵黄を含んで構成される従来公知の卵黄加培地に黄色ブドウ球菌を接種した場合に比べて、その増殖を促進することができる。また、黄色ブドウ球菌の卵黄反応を活性化することができる。
【0032】
本発明の卵黄加培地に含まれる卵黄量は、培地に接種される黄色ブドウ球菌を十分に増殖させ、また十分な卵黄反応を起こさせることができ、さらに、卵黄加培地の透明度を低下させない範囲内あれば特に限定されるものではないが、卵黄加培地1L中に、0.001g以上50g未満含まれていることが好ましく、1g以上20g以下含まれていることがより好ましく、1g以上15g以下含まれていることがさらに好ましい。卵黄量が0.001g未満の場合には、培地中の卵黄量が少なすぎて、培地に接種される黄色ブドウ球菌の増殖を十分に促すことができない場合がある。また、十分な卵黄反応を起こすことができない場合がある。また、卵黄量が50g以上の場合には、得られる卵黄加培地の透明度が低下する場合がある。
【0033】
水鳥の卵から採取される卵黄は、鶏卵由来の卵黄に比して黄色ブドウ球菌の増殖や卵黄反応に対して好適な栄養素を多く含んでいると考えられる。このため、鶏卵由来の卵黄を含んで構成される従来公知の卵黄加培地においては100%卵黄液で培地1000mlにつき25ml以上の卵黄液添加が必要であり、一般には50mlの添加のケースが多いのに対して、本発明の卵黄加培地は、鶏卵由来の卵黄を含んで構成される従来公知の卵黄加培地と同程度の黄色ブドウ球菌の増殖促進効果や卵黄反応活性を示すためには、本発明の卵黄加培地1L中に、水鳥の卵由来の卵黄が5g程度含まれていれば十分である。9gであれば従来公知の卵黄加培地に比べて飛躍的な性能改善となる。このように、食中毒菌の検査や臨床検査において、目的菌の発育が速く、より早い検査結果と、通常の検査では見付けにくいMRSAのような弱い菌も、高効率で検出できる。
【0034】
本発明の卵黄加培地の調製方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の卵黄加培地の調製方法を用いることができる。例えば、先ず卵黄以外の配合成分(炭水化物、窒素源、塩化ナトリウム、ゲル化剤)から構成される基礎培地を調製し、これを滅菌する。また、これとは別に、水鳥が産んだ卵の外殻を消毒用アルコール綿を用いて洗浄し、殺菌処理したピンセットで割卵し、卵黄を無菌的に取り出す。なお、採取した卵黄は、無菌フィルターに通したり、採取した卵黄に電子線などを照射して、卵黄が変性しない条件下で除菌操作を行なっても良い。そして、滅菌済みの基礎培地に、無菌化された卵黄を添加して本発明の卵黄加培地とすればよい。卵黄は水あるいは食塩水を加えて卵黄液となして基礎培地に添加してもよい。
【0035】
本発明の卵黄加培地を用いた黄色ブドウ球菌の検出は、従来公知の卵黄加培地を用いた黄色ブドウ球菌の検出方法を用いて行なうことができる。具体的には、無菌的に調製された本発明の卵黄加培地を液状にしてシャーレに必要量分注し、卵黄加培地を固化させて固定培地とした後、その表面に検体を塗沫して行なう。この際、培地表面上に水分が残らない程度にまで十分に検体を拡散させることが好ましい。
【0036】
以上、本発明の卵黄加培地の実施態様を詳述したが、本発明は上述の態様に限定されるものではなく、その他の態様でも実施し得るものである。
【0037】
本発明の卵黄加培地は、鶏卵由来の卵黄を用いて調製される従来公知の卵黄加培地において、かかる鶏卵由来の卵黄を水鳥の卵由来の卵黄に代えて調製されていればよい。このため、卵黄加培地を構成する卵黄以外の配合成分は、上述の態様に限定されるものではなく、培地の用途に応じて適宜調整されうる。したがって、本発明の卵黄加培地は、従来公知の卵黄加培地、例えば、卵黄加マンニット食塩寒天培地、卵黄加ブドウ球菌110培地、食塩卵黄寒天培地、ポアメディア・エッグヨーク食塩寒天培地、ベアード・パーカー寒天培地、フォーゲル・ジョンソン寒天培地、食塩加トリプトケース・ソイブイヨン培地、NGKG寒天培地、クロストリジウム・ウェルシュ寒天培地、MRSA用培地において、これまで用いられてきた鶏卵由来の卵黄に代えて、水鳥の卵由来の卵黄を用いて構成されてもよい。
【0038】
本発明の卵黄加培地が、上述の従来公知の卵黄加培地において、これまで用いられてきた鶏卵由来の卵黄に代えて、水鳥の卵由来の卵黄を用いて構成されることにより、本発明の卵黄加培地は、一般に卵黄加培地中で卵黄反応を示す細菌、例えばセレウス菌やウェルシュ菌等の検出にも好適に用いられることとなる。
【0039】
また、本発明の卵黄加培地は、卵黄反応を示す細菌を検出するために最適化された上述の従来公知の卵黄加培地において、そこに含まれる鶏卵由来の卵黄に代えて、水鳥の卵由来の卵黄を用いて構成される態様に限定されるものではなく、一般に卵黄を含んで構成され、微生物や動物細胞を培養するのに用いられる従来公知の卵黄加培地において、そこに含まれる鶏卵由来の卵黄に代えて、水鳥の卵由来の卵黄を用いて構成されてもよい。
【0040】
本発明の卵黄加培地は、検体中の食中毒起炎菌や食中毒菌の有無のみを検知したり、動物細胞の培養に用いる場合には、液状培地であってもよい。このため、本発明の卵黄加培地は、ゲル化剤を含まずに構成されてもよい。
【0041】
本発明の卵黄加培地は、シャーレ等の培養器に分注されて平板培地として用いられる態様に限定されるものでなく、試験管等の培養器に分注されて斜面培地として用いられてもよい。
【0042】
その他、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内で、当業者の知識に基づき種々なる改良、修正、変形を加えた態様で実施しうるものである。
【0043】
以下に本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0044】
(卵黄加培地の調製)
次に示す配合で基礎培地を調製した。
肉エキス 2.5g
ペプトン 10.0g
マンニット 10.0g
塩化ナトリウム 75.0g
フェノールレッド 0.025g
寒天 15.0g
(pH 7.4±0.2)
【0045】
得られた基礎培地に精製水1Lを加え、よく振り混ぜて均等浮遊液とした後、加熱溶解して121℃下、15〜20分間高圧滅菌した。滅菌後の培地を十分混和して50℃に保った。次いで、ここに、無菌的に採取された以下の成分を無菌的に加えてよく混和して、本発明にかかる卵黄加培地を調製した。なお、実施例1における30%卵黄液とは、卵黄に滅菌3%食塩水を加えて、卵黄含有率を30%(重量比)に調整した食塩水を意味する。
30%卵黄液(アヒルの卵由来) 30g
【0046】
(卵黄加培地を用いた平板培地の調製)
得られた本発明にかかる卵黄加培地は、滅菌シャーレに約20mlずつ分注し、平板に固めた。培地を固めた後、培地の表面を十分に乾燥させた。
【0047】
(検体試料の調整)
食品工場の従業員の検便検査より検出された黄色ブドウ球菌について、標準寒天培地の平板に0.1ml塗沫し、35℃で48時間培養した場合に、黄色ブドウ球菌のほぼ100個の集落が得られるように、黄色ブドウ球菌の希釈液を調製した。
【0048】
(黄色ブドウ球菌の育成)
各卵黄加培地を用いた平板培地に、前記の黄色ブドウ球菌の希釈液0.1ml塗沫した後、35℃で18〜48時間培養し、黄色ブドウ球菌の育成状態を肉眼で観察した。得られた平板培地の透明度と、黄色ブドウ球菌育成状態についての育成状態の写真を、それぞれ図1、図2に示す。卵黄加培地は、従来公知の卵黄加培地と同等以上に細胞や微生物の代謝活性能を保持しつつ、その透明度は従来公知の卵黄加培地よりも高く保持できることがわかった。
【実施例2】
【0049】
アヒルの卵に代えて合鴨の卵を用いた以外は実施例1と同様にして、卵黄加培地を用いた平板培地の調製を行なった。卵黄加培地は、従来公知の卵黄加培地と同等以上に細胞や微生物の代謝活性能を保持しつつ、その透明度は実施例1の平板培地と同等であり従来公知の卵黄加培地よりも高く保持できることがわかった。
【0050】
(比較例1)
30%卵黄液(アヒルの卵由来)30gに代えて、50%卵黄液(鶏の卵由来)50gを50℃に保たれた滅菌後の培地に加えた以外は実施例1と同様にして、卵黄加培地を用いた平板培地の調製を行なった。また、この培地を用いる以外は実施例1と同様にして、検体中の黄色ブドウ球菌の育成を行なった。得られた平板培地の透明度と、黄色ブドウ球菌育成状態についての結果を、それぞれ図1及び図2に示す。図3は図2の一部(実施例1、比較例1)拡大写真である。なお、比較例1における50%卵黄液とは、卵黄に滅菌3%食塩水を加えて、卵黄含有率を50%(重量比)に調整した食塩水を意味する
【0051】
(比較例2)
鶏の卵に代えてウズラの卵を用いた以外は比較例1と同様にして、卵黄加培地を用いた平板培地の調製を行い、また、検体中の黄色ブドウ球菌の育成を行なった。得られた平板培地の透明度と、黄色ブドウ球菌育成状態についての結果を、それぞれ図1及び図2に示す。
【0052】
図2に示す結果から、水鳥の卵由来の卵黄を用いて調製した、本発明にかかる卵黄加培地は、従来公知の卵黄加培地に比して、そこに含まれる卵黄量が少ないにも関わらず、これを用いて黄色ブドウ球菌を培養した場合に、集落の周囲に形成される白濁環を大きくできるのみならず、これを明瞭にすることができることがわかった。
【0053】
また、図1に示す結果から、ウズラの卵由来の卵黄を用いて調製した卵黄加培地は、従来公知の卵黄加培地に比して、その透明度に劣ることがわかった。
【0054】
その他、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内で、当業者の知識に基づき種々なる改良、修正、変更を加えた態様で実施し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】アヒル、鶏、ウズラの卵の卵黄を用いて調製された各卵黄加培地の透明度を示す写真である。
【図2】アヒル、鶏、ウズラの卵の卵黄を用いて調製された各卵黄加培地を用いて黄色ブドウ球菌を培養した際の卵黄反応を示す写真である。
【図3】図2の一部拡大写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも卵黄を加えて調製される卵黄加培地であって、前記卵黄が水鳥の卵から採取される卵黄加培地。
【請求項2】
前記水鳥が、アヒル、合鴨、鵜から選択される少なくとも一種である請求項1に記載の卵黄加培地。
【請求項3】
前記卵黄が、前記卵黄加培地1L中に0.001g以上50g未満含まれる請求項1又は2に記載の卵黄加培地。
【請求項4】
さらにゲル化剤を加えて調製される請求項1乃至3のいずれかに記載の卵黄加培地。
【請求項5】
培養器に注いで用いられる請求項4に記載の卵黄加培地。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−300880(P2007−300880A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−134645(P2006−134645)
【出願日】平成18年5月15日(2006.5.15)
【出願人】(506163940)有限会社 アイサイエンス (1)
【Fターム(参考)】