説明

原子力発電所ベント用フィルター

【課題】、原子力発電所の原子炉格納容器内の圧力が高騰したとき、放射性物質を含む前記原子炉格納容器内のガスを外部に放出して減圧するために設けられたベント管に接続して、放射性ヨウ素はもとより、放射性セシウム、プルトニウム等の水溶性の放射性物質をも除去可能にする原子力発電所ベント用フィルターの提供を課題とする。
【解決手段】該ベント用フィルターは、内部に放射性物質吸着材(好ましくは琉球石灰岩粒よりなる放射性物質吸着材)と水とを収容するフィルター容器本体と、前記ベント管から吐出された放射性物質を含むガスを前記フィルター容器本体内に収容された水中に細泡として放出するブロー管と、前記フィルター容器本体の上面を覆い放射性物質が除去されたガスを排気管に導く蓋体とで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所の原子炉格納容器内の圧力が高騰したとき、放射性物質を含む前記原子炉格納容器内のガスを外部に放出して減圧するために設けられたベント管に接続して、前記ガス中に含まれる放射性物質を除去するフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所においては、発電によって生じる放射性物質の取り扱いは重要な課題であり、放射性物質の除去に係わる発明は数多く見られる。その中でベント装置に係わるものとしては、例えば、特開平9−1970086号公報がある。
同公報に記載されたベント装置は、
「主復水器の抽気ガスから粒子状またはガス状の放射性物質を除去する気体廃棄物処理系を備えた原子力プラントにおいて、過酷事故対策として、格納容器のドライウエルおよびウエットウエルに一端側が開口するベント配管の他端側を前記気体廃棄物処理系の排ガス復水器よりも上流側に接続され(請求項3)、
気体廃棄物処理系は、水の放射性分解で発生した水素と酸素を再び結合させる再結合器と、水蒸気を水に戻す排ガス復水器と、気体廃棄物を予冷する予冷器と、湿分を除湿する除湿器と、活性炭を保護する前置フィルターと、核分裂により生成した放射性希ガスを保持して減衰させる活性炭吸着塔と、この活性炭吸着塔にて活性炭が崩壊して生成した粒子を捕集する粒子フィルターと、気体廃棄物処理系を負圧に保つ排ガス真空ポンプとを備えており、前記排ガス復水器の出口側配管と、それよりも下流側の機器の出口側配管との間には、バイパスライン切替え弁を介してバイパスラインが配置されている(請求項5)」
等を特徴としたものである。
このフィルター装置においては、ベント管からの水蒸気に含まれて排出される気体廃棄物を排ガス復水器、予冷器、除湿器を通過させることによって乾燥させた後に活性炭吸着塔に導き、ヨウ素等の放射性物質を、前記活性炭に吸着させて、放射性物質の大気への拡散を防止するものとなっている。
しかし、このフィルター装置においては、セシウム、プルトニウム等の水溶性の放射性物質は、排ガス復水器や除湿器からの排水に含まれたまま処理されずに放出されるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−1970086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記背景技術に鑑みてなされたもので、ヨウ素はもとより、放射性セシウム、プルトニウム等の水溶性の放射性物質をも除去可能とする原子力発電所ベント用フィルターを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題を下記の手段により解決した。
(1)原子力発電所の原子炉格納容器内の圧力が高騰したとき、前記原子炉格納容器内のガスを外部に放出して減圧するベント管に接続して、前記ガス中に含まれる放射性物質を除去するフィルター装置であって、
内部に放射性物質吸着材と水とを収容するフィルター容器本体と、前記ベント管から吐出された放射性物質を含むガスを前記フィルター容器本体内に収容された水中に細泡として放出するブロー管と、前記フィルター容器本体の上面を覆い放射性物質が除去されたガスを排気管に導く蓋体とで構成されてなることを特徴とする原子力発電所ベント用フィルター。
(2)前記放射性物質吸着材が、琉球石灰岩粒であることを特徴とする前項(1)に記載の原子力発電所ベント用フィルター。
(3)前記フィルター容器本体が、収容した水の水面上に位置する部分に有孔板、又はメッシュ板からなる棚板を備え、前記棚板上に琉球石灰岩粒層、活性炭粒層、及び琉球石灰岩粒層の3層からなる放射性物質吸着層を設け、フィルター容器本体内の水中に捕捉されず、水面から放散されるガス中に残存して排出される放射性物質を吸着・除去可能にしてなることを特徴とする前項(1)又は(2)に記載の原子力発電所ベント用フィルター。
(4)前記琉球石灰岩が、短径3cm〜5cmの砕石であることを特徴とする前項(2)又は(3)に記載の原子力発電所ベント用フィルター。
なお、前記フィルター容器本体内の琉球石灰岩粒層は、例えば容器底面から0.8〜1.2mの厚みを有するよう収容され、その上に蓄えられる水の量は、水深で1.6〜2.4mであることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明の原子力発電所ベント用フィルターによって下記の効果が発揮される。
〈1〉本発明の原子力発電所ベント用フィルターが、内部に放射性物質吸着材と水とを収容するフィルター容器本体と、前記ベント管から吐出された放射性物質を含むガスを前記フィルター容器本体内に収容された水中に細泡として放出するブロー管と、前記フィルター容器本体の上面を覆い放射性物質が除去されたガスを排気管に導く蓋体との簡単な構造でなるので、製造が容易で量産性に富み低廉な価格で提供できる。
〈2〉本発明の原子力発電所ベント用フィルターが、フィルター容器本体内に放射性物質吸着材と水とを収容し、前記ベント管から吐出された放射性物質を含むガスをブロー管を介して前記フィルター容器本体の水中に細泡として放出して冷却するので、ガス中の水蒸気の復水に伴って、ガス中の水蒸気に含まれていた放射性セシウム、プルトニウム等の水溶性の放射性物質もフィルター容器内の水中に捕捉させることができ、かつ、フィルター容器本体の底部に収容されたマイナスイオンを有する多孔質の琉球石灰岩が、水中に捕捉されたプラスイオンを有する放射性物質を効率よく吸着するので、原子炉格納容器からベント管を介して吐出されたガスに含まれていた放射性物質を前記琉球石灰岩に吸着でき、大気中に放出拡散する危険性が防止できる。
また、フィルター容器本体内に収容された水も、琉球石灰岩が水中の放射性物質を吸着することによって浄化されるので長期間交換する必要がなく、取り扱いが容易で経済性に富んだ原子力発電所ベント用フィルターが提供できる。
〈3〉前記フィルター容器本体が、収容した水の水面上に位置する部分に有孔板、又はメッシュ板からなる棚板を備え、前記棚板上に琉球石灰岩粒層、活性炭粒層及び琉球石灰岩粒層の3層からなる放射性物質吸着層を設けているので、フィルター容器本体内の水中に捕捉されず、水面から放散されるガス中に残存して排出されヨウ素等の放射性物質を、該放射性物質吸着層で吸着・除去するので、排気管を介して大気中に放出されるガスによる大気汚染の危惧は払拭される。
〈4〉前記琉球石灰岩が、短径3cm〜5cmの砕石であるので、その多孔質と相まって前記琉球石灰岩と水との接触面積が大きくなり、水中の放射性物質の吸着効率が高く、除染効果も高まる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の原子力発電所ベント用フィルターの構成を示す断面図、(a)ベント管の手前から見た横断面図、(b)図(a)に示すA−A’から見た横断面図
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の原子力発電所用ベントフィルターを実施するための形態を、実施例の図に基づいて説明する。
図1は本発明の原子力発電所ベント用フィルターの構成を示す断面図であり、図(a)はベント管の手前から見た横断面図、図(b)は図(a)に示すA−A’から見た横断面図である。
図において1はフィルター容器本体、2は蓋体、3はベント管、4は排気管、5は棚板、10は放射性物質吸着材、20は水、30は放射性物質吸着層、31は琉球石灰岩粒層、32は活性炭粒層を示す。
【0009】
まず、本発明に用いる放射性物質吸着材としては、ゼオライト、活性炭、琉球石灰岩等が使用されるが、琉球石灰岩が特に好ましく使用される。
琉球石灰岩は、サンゴ石灰岩の一種であり、日本の琉球列島に分布する石灰岩であり、第四紀洪積世(130〜40万年前頃)に形成されたと推定され、炭酸カルシウムの含有率が高く、かつ微細な多孔質空隙を多く含むものである。
琉球石灰岩の化学組成 CaO、SiO2、Al23、Fe23、MgO、その他希土類元素等であり、その起原由来の微生物成分の有機物も含有している。
沖縄県では、この琉球石灰岩は古くから建築用資材として多く用いられており、外壁材、外構材、路盤材や墓石材などとして現在も用いられている。
【0010】
琉球石灰岩は粗粒ないし細粒として使用されるが、琉球石灰岩原石を破砕するには、任意の破砕装置、例えば、衝撃型粉砕機を用いてもよく、そして複数の粉砕機を用いて段階的に粒度を細かくするようにしてもよい。
【0011】
また、破砕した琉球石灰岩を300〜825℃で仮焼してなる仮焼琉球石灰岩粒を用いて、ベント管から排出された放射能物質を含むガスあるいは放射能物質溶解した水に接触させて吸着・除去することもできる。
この仮焼琉球石灰岩粒は、加熱処理によって同石灰岩中の細孔中の水が完全に排出されて孔がすべて開口するため、放射能成分を高効率で有効に吸着・除去することができる。
なお、焼成温度が825℃を超えると主要構成成分の炭酸カルシウム(CaCO3)が熱分解してアラゴナイト結晶構造が破壊するため、また、300℃未満であると有機物が消失しないおそれがあって、内部有効多孔容積を増大させることができない。
【0012】
本発明の原子力発電所用ベントフィルターは、図1に示すように、内部に放射性物質吸着材(好ましくは琉球石灰岩粒)10と水20とを収容するフィルター容器本体1と、前記ベント管から吐出された放射性物質を含むガスを前記フィルター容器本体1内に収容された水中に細泡として放出するブロー管3と、前記フィルター容器本体1の上面を覆い放射性物質が除去されたガスを排気管4に導く蓋体2とで構成されている。
そして前記放射性物質吸着材10として粒径が3〜5cmの琉球石灰岩の砕石が好ましく使用される。
【0013】
また、前記フィルター容器本体1に収容した水20の水面の上に有孔板、又はメッシュ板でなる棚板5を備え、前記棚板5上に琉球石灰岩粒層31、活性炭粒層32及び琉球石灰岩粒層31の3層からなる放射性物質吸着層30を設け、フィルター容器本体1内の水20に捕捉されず、水面から放散されるガス中に残存して排出される放射性ヨウ素等の放射性物質を吸着・除去可能にしている。
この琉球石灰岩粒層31、活性炭粒層32に使用される琉球石灰岩粒、活性炭の粒径も3〜5cmのものが望ましく、したがって棚板5を構成する有孔板の孔径、メッシュ板のメッシュ間隔は、大きさ3cmの砕石が落下せず、かつガスが十分流通する値に設定されることが好ましい。
さらに、前記琉球石灰岩粒層31と活性炭粒層32との間に布又はメタルプレートを設けて、層間の目詰まりを防止するよう構成されている。
前記蓋体2は、中央に排気管4が装着される排気口が設けられ、該排気口に向けて排気ガスがスムーズに流れるよう中央部が高められた屋根形をなしている。
【0014】
本発明の原子力発電所ベント用フィルーターの作用は、下記の通りである。
a.原子炉格納容器内の圧力が所定値を超えベントバルブが開いた際に放出される高温・高圧のガスを、ベント管を介してブロー管3に導入し、前記ブロー管3の下面に穿設された多数の小孔からフィルター容器本体1内に収容された水20内に細泡として放出し、前記高温のガスを冷却することによってガス中に含まれた水蒸気を復水して除去する。
b.水蒸気の復水化に伴って水蒸気に混入して排出された放射性セシウムやプルトニウム等の水溶性の放射性物質はフィルター容器本体1内の水20に捕捉され溶解される。
c.フィルター容器本体1内の水20に捕捉された放射性物質は琉球石灰岩粒中の細孔部に入って吸着除去される。
また、放射性セシウム、プルトニウム等の放射性物質はプラスイオンを帯びているので、フィルター容器本体1の底部に収容されたマイナスイオンを帯びた琉球石灰岩粒に吸着され水中より除去される。
d.水蒸気が除去されたガスは、水面から前記蓋体2の内側に放散されるが、フィルター容器本体1内の水面上に位置する部分に備えられた棚板5の上に設けられた琉球石灰岩粒層31、活性炭粒層32及び琉球石灰岩粒層31の3層からなる放射性物質吸着層30によって放射性ヨウ素等残存する放射性物質を吸着・除去し、その後排気管を介して大気中に放出される。
なお、上記作用は、原子炉格納容器内の圧力がベントにより所定値以下となり、ベントバルブが閉じることで終了するのはいうまでもない。
【符号の説明】
【0015】
1:フィルター容器本体
2:蓋体
3:ブロー管
4:排気管
5:棚板
10:放射性物質吸着材
20:水
30:放射性物質吸着層
31:琉球石灰岩粒層
32:活性炭粒層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力発電所の原子炉格納容器内の圧力が高騰したとき、前記原子炉格納容器内のガスを外部に放出して減圧するベント管に接続して、前記ガス中に含まれる放射性物質を除去するフィルター装置であって、
内部に放射性物質吸着材(10)と水(20)とを収容するフィルター容器本体(1)と、前記ベント管から吐出された放射性物質を含むガスを前記フィルター容器本体(1)内に収容された水中に細泡として放出するブロー管(3)と、前記フィルター容器本体(1)の上面を覆い放射性物質が除去されたガスを排気管(4)に導く蓋体(2)とで構成されてなることを特徴とする原子力発電所ベント用フィルター。
【請求項2】
前記放射性物質吸着材(10)が、琉球石灰岩粒であることを特徴とする請求項1に記載の原子力発電所ベント用フィルター。
【請求項3】
前記フィルター容器本体(1)が、収容した水(20)の水面上に位置する部分に有孔板、又はメッシュ板からなる棚板(5)を備え、前記棚板(5)上に琉球石灰岩粒層(31)、活性炭粒層(32)及び琉球石灰岩粒層(31)の3層からなる放射性物質吸着層(30)を設け、前記フィルター容器本体(1)内の水(20)に捕捉されず水面から放散されるガス中に残存した放射性物質を吸着・除去可能にしてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の原子力発電所ベント用フィルター。
【請求項4】
前記琉球石灰岩粒が、短径3cm〜5cmの砕石であることを特徴とする請求項2又は3に記載の原子力発電所ベント用フィルター。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−88402(P2013−88402A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232163(P2011−232163)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(508271218)株式会社ワールド設計 (1)