説明

原子炉格納容器の冷却装置及びその冷却方法

【課題】冷却用の水源を低い位置に設定することができる原子炉格納容器の冷却技術を提供することを目的とする。
【解決手段】原子炉格納容器の冷却装置10は、格納容器21とその表面に接するエアとが熱交換して発生する上昇気流28をエア出口27へ案内するエア流路24に対しこの上昇気流28に乗る液滴を供給するノズル15と、エア出口27の近傍において未気化の液滴17を捕捉して格納容器21の表面に落下させる液滴捕捉部を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉格納容器とその表面に接するエアとが熱交換して発生する上昇気流を利用する原子炉格納容器(以下、「格納容器」という)の冷却技術に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントにおいて、配管の破断等により冷却材が格納容器内に放出した場合、減圧された冷却材が高温蒸気となるために、その内部圧力が上昇する。
このような事故が発生した場合、高温蒸気を格納容器内の圧力抑制プールに誘導したり、格納容器スプレイで上部から内部散水したりすることにより、この高温蒸気を冷却して凝縮し、内部圧力の上昇を抑制して格納容器の健全性を確保する技術が知られている。
係る技術において、高温蒸気と熱交換して圧力抑制プール又はスプレイ水に蓄積された熱は、ポンプ等の動的機器により、熱交換器を介して最終的に外部放出される。
【0003】
近年、前記したような動的機器を用いるのではなく、重力等の自然に存在する受動的な力を駆動力として、格納容器の除熱を行う方法が提案されている。これにより、事故発生時に格納容器の内部圧力が上昇することを抑制する技術の信頼性の向上が達成される。
例えば、次のような公知技術が存在する。格納容器の上部に水を貯蔵するタンクを設け、このタンクから水を格納容器の上部表面に散水する。水は重力によってそのまま格納容器の側面を流れ落ちるが、その流れ落ちる過程でこの側面と熱交換して蒸発し、空気とともに上昇して上部出口から排出される。
そして、タンク内の貯蔵水が枯渇した後も、外部から自然に取り込まれて加熱されたエアの上昇気流により、格納容器の除熱が維持される(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5049353号明細書
【特許文献2】米国特許第5345482号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記した公知技術では、数日間にわたり継続的に格納容器を冷却するのに必要な水量を、格納容器の頂部に設置したタンクに貯めておく必要があった。このため、タンクの容量が大型化して重心が高くなり、原子力プラントの耐震面やコスト面において設計上不利となる課題があった。また、タンク内の水が枯渇した後も、水冷の継続が必要な状態が続く場合は、タンクへの注水に困難を伴う課題があった。
【0006】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、冷却用の水源を低い位置に設定することができる原子炉格納容器の冷却技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
原子炉格納容器の冷却装置において、原子炉格納容器とその表面に接するエアとが熱交換して発生する上昇気流をエア出口へ案内するエア流路に対し前記上昇気流に乗る液滴を供給するノズルと、前記エア出口の近傍において未気化の前記液滴を捕捉して前記原子炉格納容器の表面に落下させる液滴捕捉部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、冷却用の水源を低い位置に設定することができる原子炉格納容器の冷却技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る原子炉格納容器の冷却装置の第1実施形態を示す縦断面図。
【図2】第1実施形態に係る原子炉格納容器の冷却装置の拡大断面図。
【図3】第2実施形態に係る原子炉格納容器の冷却装置の拡大断面図。
【図4】(A)は第3実施形態に係る原子炉格納容器の冷却装置の部分縦断面図、(B)はその部分上面図。
【図5】(A)は第4実施形態に係る原子炉格納容器の冷却装置の部分縦断面図、(B)はその部分上面図。
【図6】第5実施形態に係る原子炉格納容器の冷却装置の部分縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に示すように、第1実施形態に係る原子炉格納容器の冷却装置10(以下、「冷却装置10」という)は、格納容器21とその表面に接するエアとが熱交換して発生する上昇気流28をエア出口27へ案内するエア流路24に対しこの上昇気流28に乗る液滴17(図2)を供給するノズル15を備えている。
【0011】
格納容器21は、原子炉圧力容器(図示略)及び一次冷却系の設備(図示略)をすべて格納することにより、過酷事故が発生した場合、放射性物質の放散に対する障壁を形成している。そして、この格納容器21は、遮蔽建屋22に囲われている。
【0012】
遮蔽建屋22は、その側壁23と格納容器21の側面との間に隔壁25を備えている。そして、側壁23の上部に設けられた給気孔26から遮蔽建屋22の天辺に設けられたエア出口27に通じるエア流路24が形成されている。格納容器21の放熱により加熱されたエアは、膨張し、上昇気流28を発生する。
【0013】
図2に示すように、冷却装置10は、ノズル15よりも高い位置において液滴17の原料となる冷却液12を収容する収容槽11を備えている。なお、図2において図1と同一又は相当する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0014】
ノズル15は、配管14を介して冷却液12の収容槽11に連通し、高低差に基づく供給圧力により、この冷却液12を飛沫状の液滴17にして散布するものである。この液滴17は、サイズが小さい程、落下速度が小さくなるために、上昇気流28に乗って上方に移動し易くなる。
事故発生時においてエア流路24における上昇気流28の風速を5m/sとした場合、サイズを1mm程度にすることで、液滴17は、落下しないと見積もられている。
【0015】
配管14に設けられる開閉弁16は、常閉弁であるが、原子炉格納容器の冷却要請に従って開放し、所定圧力の冷却液12をノズル15に供給する。この開閉弁16の開閉動作は、手動操作又は遠隔操作による場合に他に、雰囲気温度により自動的に開放する溶融弁を用いることもできる。
【0016】
また、収容槽11には、冷却液12を加圧してノズル15にかかる圧力を上昇させる加圧部(図示略)を設ける場合がある。この加圧部は、具体的には、高圧ガスを供給するガスボンベ、バネ等の弾性部材、又はポンプで構成することができる。このように、ノズル15にかかる圧力を上昇させることにより、液滴17のサイズを小さくしたり、その供給量を増やしたりして、格納容器21の冷却能力を向上させることができる。
また、冷却液12に界面活性剤を混入し、液滴17の破砕を促進し、サイズを小さくすることができる。
【0017】
また、格納容器21の表面に、液滴17の濡れ性を向上させる表面処理を行うことにより、液滴17が付着した際の水膜の形成を促すとともに、形成した水膜の均質化を図り、格納容器21の冷却能力を向上させることができる。このような、表面処理は、例えば、格納容器21に表面にナノスケールの微細構造を設けることにより実現できる。
【0018】
次に、図1及び図2を参照して冷却装置10の動作説明を行う。
格納容器21の内部で高温水蒸気の発生を伴う事故が発生した場合、この高温水蒸気により、この内部の温度及び圧力が上昇する。すると、格納容器21の表面に接するエア流路24の内部を昇温させ、上昇気流28を生じさせる。
この上昇気流28により、エア流路24の内部エアはエア出口27から排出されるとともに、給気孔26から遮蔽建屋22の周辺エアが取り込まれる。これにより、エア流路24にエアの循環が生じ、格納容器21の表面が冷却される。
【0019】
この上昇気流28に乗るように、ノズル15から液滴17を供給すると、この液滴17が格納容器21の表面に付着して蒸発することと、エア流路24の内部の熱容量が増大することにより、冷却性能が向上する。このため、遮蔽建屋22の周辺から取り込んだエアのみがエア流路24を流動する場合と比較して、より効率的に格納容器21の内部を冷却することができる。
【0020】
なお、液滴17の噴霧を開始するには、配管14に設けられた開閉弁16を閉状態から開状態に切り替える。この開閉弁16の切替動作は、格納容器21の内部の温度や圧力の信号が異常であることを検知して行われるが、溶融弁が採用されている場合は、エア流路24の内部温度が高くなると自動的に開状態となる。
また、加圧部(図示略)が設けられている場合は、冷却液12が加圧されてノズル15にかかる圧力が上昇し、液滴17がさらに勢いよく供給される。
【0021】
(第2実施形態)
図3に示すように、第2実施形態に係る冷却装置10は、ノズル15が配置されるエア流路24の部分を絞る絞り部29を備えている。なお、図3において図2と同一又は相当する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
この絞り部29は、ベンチュリー効果に基づき、ノズル15における液滴17の供給能力を向上させるものである。
【0022】
ベンチュリー効果とは、エア流路24の一部を絞ることによって、絞り部29における上昇気流28の流速が増加すると、この絞り部29の前後に比べて、この絞り部29における流体圧力が低下するという効果である。
【0023】
これにより、事故が発生してエア流路24に上昇気流28が生じると、絞り部29において気流の流速が増し流体圧力が低下して、ノズル15に向かう冷却液12の供給圧力が増大する。さらに、流速が増した上昇気流28により、ノズル15から出力される液滴17は、砕かれてさらにサイズが小さくなる。
【0024】
このように、この絞り部29が設置されることにより、ノズル15に対する冷却液12の供給圧力がアシストされるので、収容槽11の位置を低く設定することができる。さらに、冷却液12を、専用の収容槽11とは異なる水源、例えばノズル15よりも低い位置に配置されている周辺の水供給配管又はタンク等から融通することが容易になる。
【0025】
(第3実施形態)
図4(A)に示すように、第3実施形態に係る冷却装置は、エア出口27の近傍において未気化の液滴17(図2)を捕捉して格納容器21の表面に落下させる液滴捕捉部30を備えている。そして、この液滴捕捉部30は、図4(B)に示すように、エア出口27に設けられた複数の孔部32を有するフィルタ31で構成されている。
【0026】
格納容器21の内部で高温の水蒸気の発生を伴う事故が発生した際に、上昇気流28に含まれる液滴17(図2)の一部は気化せずにエア出口27に到達する。このエア出口27に到達した液滴17は、それまで格納容器21の冷却に寄与しておらず、液滴捕捉部30により捕捉された後に落下して格納容器21の上部を冷却する。
【0027】
フィルタ31は、液滴のうち気化した成分を上昇気流28とともに孔部32から遮蔽建屋22の外に逃がし、未気化の液滴を捕捉し重力落下させて格納容器21の上部に供給する。
【0028】
このように、液滴捕捉部30(フィルタ31)が設けられることにより、冷却に寄与することなく外部放出される液滴17の量を低減して、効率よく格納容器21の表面を冷却することができる。さらに、格納容器21の上部に冷却液12(図2)が供給され、その表面を流れ落ちるために、その全体が均等に除熱され、効率良く冷却が進み、内部の圧力および温度の上昇が抑制される。
【0029】
(第4実施形態)
図5(A)(B)に示すように、第4実施形態に係る冷却装置は、液滴捕捉部30が、エア出口27を通過するエアに回転流36を生じさせる翼33で構成されている。なお、図5において図4と同一又は相当する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0030】
翼33は、未気化の液滴を含む上昇気流28を回転流36にすることにより、この未気化の液滴に遠心力を付与して周壁面35に衝突させて、この未気化の液滴を捕捉し、重力落下させて格納容器21の上部に供給する。
【0031】
(第5実施形態)
図6に示すように、第4実施形態に係る冷却装置は、液滴捕捉部30が、エア流路24の内壁に設けられる障壁37で構成されている。なお、図6において図4と同一又は相当する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0032】
障壁37は、上昇気流28に衝突して、含まれる未気化の液滴を捕捉し、重力落下させて格納容器21の上部に供給する。そして、液滴のうち気化した成分を上昇気流28とともにエア出口27から遮蔽建屋22の外に逃がす。
【0033】
以上述べた少なくともひとつの実施形態の原子炉格納容器の冷却装置によれば、事故発生時に、冷却水を格納容器の表面全体に噴霧することができるために、効率的な冷却により格納容器内部の圧力および温度の上昇を抑制する。また、低い位置に収容されている冷却液を利用することができるために、原子力プラントの設計上、有利に働くとともに、冷却液の補充又は融通も容易となる。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0035】
10…原子炉格納容器の冷却装置、11…収容槽、12…冷却液、14…配管、15…ノズル、16…開閉弁、17…液滴、21…原子炉格納容器、22…遮蔽建屋、23…側壁、24…エア流路、25…隔壁、26…給気孔、27…エア出口、28…上昇気流、29…絞り部、30…液滴捕捉部、31…フィルタ(液滴捕捉部)、32…孔部、33…翼(液滴捕捉部)、35…周壁面、36…回転流、37…障壁(液滴捕捉部)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉格納容器とその表面に接するエアとが熱交換して発生する上昇気流をエア出口へ案内するエア流路に対し前記上昇気流に乗る液滴を供給するノズルと、
前記エア出口の近傍において未気化の前記液滴を捕捉して前記原子炉格納容器の表面に落下させる液滴捕捉部と、を備えることを特徴とする原子炉格納容器の冷却装置。
【請求項2】
請求項1に記載の原子炉格納容器の冷却装置において、
前記ノズルよりも高い位置において前記液滴の原料となる冷却液を収容する収容槽を備えることを特徴とする原子炉格納容器の冷却装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の原子炉格納容器の冷却装置において、
前記ノズルが配置される前記エア流路の部分を絞る絞り部を備えることを特徴とする原子炉格納容器の冷却装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の原子炉格納容器の冷却装置において、
前記液滴捕捉部は、前記エア出口に設けられた複数の孔部を有するフィルタであることを特徴とする原子炉格納容器の冷却装置。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の原子炉格納容器の冷却装置において、
前記液滴捕捉部は、前記エア出口を通過するエアに回転流を生じさせる翼であることを特徴とする原子炉格納容器の冷却装置。
【請求項6】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の原子炉格納容器の冷却装置において、
前記液滴捕捉部は、前記エア流路の内壁に設けられる障壁であることを特徴とする原子炉格納容器の冷却装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の原子炉格納容器の冷却装置において、
前記液滴の冷却液を前記ノズルへ輸送する配管に溶融弁が設けられることを特徴とする原子炉格納容器の冷却装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の原子炉格納容器の冷却装置において、
前記液滴の冷却液を加圧して前記ノズルにかかる圧力を上昇させる加圧部を備えることを特徴とする原子炉格納容器の冷却装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の原子炉格納容器の冷却装置において、
前記原子炉格納容器の表面に前記液滴の濡れ性を向上させる表面処理がなされていることを特徴とする原子炉格納容器の冷却装置。
【請求項10】
原子炉格納容器とその表面に接するエアとが熱交換して発生する上昇気流をエア出口へ案内するエア流路に対し前記上昇気流に乗る液滴を供給し、
前記エア出口の近傍において未気化の前記液滴を捕捉して前記原子炉格納容器の表面に落下させることを特徴とする原子炉格納容器の冷却方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−104816(P2013−104816A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249845(P2011−249845)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)