説明

原子炉格納容器

【課題】信頼性の高い設計、評価を可能とする原子炉格納容器を提供する。
【解決手段】原子炉格納容器1は内側鋼板5及び外側鋼板7と、内側鋼板5と外側鋼板7の間に充填されるコンクリート3からなる躯体を有し、外側鋼板7により放射性物質の漏洩を防止する。外側鋼板7には中低温圧力容器用鋼板材や中常温圧力容器用炭素鋼鋼板材等の圧力容器用鋼材を、内側鋼板5には一般構造用圧延鋼材、溶接構造用圧延鋼材、建築構造用圧延鋼材等の構造用鋼材を用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は原子炉格納容器に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力施設において、原子炉圧力容器等の周囲には、原子炉格納容器が設けられる。原子炉格納容器は、万一の事故の際に、漏出した放射性物質を内部に閉じ込め、外部にこれを放出させない目的で設けられる。
【0003】
原子炉格納容器の多くには、鋼製の格納容器が用いられてきたが、現在では高出力並びに経済性の観点から、プレストレストコンクリート製格納容器(PCCV)や、鉄筋コンクリート製格納容器(RCCV)などの、コンクリート製格納容器が多く用いられている。
【0004】
将来的には、更に高性能で工期短縮が可能とされる構造形式である鋼板コンクリート製格納容器(SCCV)が考えられており、構造実現のため種々検討されている。
【0005】
上記の鋼板コンクリート製格納容器は、コンクリート部分の両側を鋼板で挟むサンドイッチ構造による。そして、容器内側の鋼板には事故時の放射性物質を閉じ込め、漏洩を防止する能力が期待される。
【0006】
例えば、特許文献1、2に記載の格納容器は、万一の事故時の圧力荷重や温度荷重に対して鋼板とコンクリートがスタッドボルトとタイバーで一体となって抵抗し、格納容器内に放射性を含む冷却材が放出された場合にこれらを格納容器内に閉じ込めるための機能を格納容器内側の鋼板に期待する構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−78256号公報
【特許文献2】特開平5−60891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、現在検討されているSCCVでは、万一の事故時の温度上昇を格納容器内側の鋼板が直接受けるものとなっているため、高温を受け更に圧力等に抵抗する状況で、放射性物質の閉じ込め機能も要求される過酷な設計条件となっている。
【0009】
また、格納容器内側の鋼板は所定の間隔で設けられたスタッドボルト等によりコンクリートに拘束されているため、格納容器内の急激な温度上昇に対して伸長しようとする鋼板が、温度上昇が緩やかであるコンクリートに拘束されることで圧縮座屈が生じやすい。
なお、高温による圧縮座屈の防止に関して、丹羽らは、鋼板厚tとスタッドボルト間隔Bの関係について、鋼板表面温度300℃の場合、圧縮座屈は、B/t=20では発生せず、B/t=40、50では発生したことを報告している(丹羽信之、松尾一平、宮本圭一、澤本佳和「SC構造の高温下における特性確認実験 その1 熱座屈実験」、日本建築学会大会学術講演梗概集(九州)、C−1、p.1257−1258、2007.8)。
【0010】
さらに、鋼板は、文献「EUROCODE IV (一般)鋼材の温度諸特性の関係」に示されるように、高温状況下では弾性限強度や引張り強度が急激に低下する性質がある。このため放射性物質の閉じ込め機能を発揮させるためには、設計上信頼性の高い評価法が要求される。
【0011】
また、格納容器内部には、床状の内部構造等が存在する場合があり、これらは格納容器と直接取合う構造となっている。該内部構造等の部材は、放射性物質の閉じ込め機能を要求される内部鋼板に取り付く形となり、設計・製作上の制約が多い。
【0012】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、信頼性の高い設計、評価を可能とする原子炉格納容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述の目的を達するための第1の発明は、内側鋼板及び外側鋼板と、前記内側鋼板と前記外側鋼板の間に充填されるコンクリートからなる躯体を有する原子炉格納容器であって、前記外側鋼板により放射性物質の漏洩を防止することを特徴とする原子炉格納容器である。
【0014】
前記外側鋼板には、圧力容器用鋼材が用いられる。前記圧力容器用鋼材は、例えば中低温圧力容器用鋼板材、または中常温圧力容器用炭素鋼鋼板材である。
【0015】
また、前記内側鋼板には、構造用鋼材を用いても良い。前記構造用鋼材は、例えば、一般構造用圧延鋼材、溶接構造用圧延鋼材、建築構造用圧延鋼材のいずれかである。
【0016】
上記の構成により、原子炉格納容器の外側鋼板により事故時等の放射性物質の漏洩を防止するものとする。外側鋼板としては中低温圧力容器用鋼板材、または中常温圧力容器用炭素鋼鋼板材等の圧力容器用鋼材を用いることができる。外側鋼板は、外気に接し、また内側にコンクリート層が存在するので、万一の事故時にも高温等の影響を受け難く、より信頼性の高い設計、評価が可能になる。
【0017】
また放射性物質の閉じ込め機能が要求されない内側鋼板に床状の内部構造等の部材が取り付く場合、過酷な条件下であるが、設計・製作上の制約が相対的に少なく、合理的なディテール(納まり構造)を採用することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、信頼性の高い設計、評価を可能とする原子炉格納容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】原子炉格納容器の例を示す図
【図2】原子炉格納容器の鋼板コンクリート構造の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図1、図2に基づいて本発明の実施形態に係る原子炉格納容器について詳細に説明する。
【0021】
図1は、原子炉格納容器1の一例を示す図である。原子炉格納容器1は原子炉建屋100内に設けられる。原子炉格納容器1の内部には、不図示の原子炉圧力容器や蒸気発生器等が設けられる。原子炉格納容器1は、例えば、図1に示すように、円筒状に形成された側壁部などの垂直部材2aと、その上部に設けられたトップスラブなどの水平部材2b等により構成されている。また、原子炉格納容器1には、内部構造として床状部材4などが設けられる。床状部材4は、例えばコンクリートを鋼板や鉄筋等の部材で補強した構造を有し、この際鋼板や鉄筋等の部材が後述する内側鋼板5に接続される。
なお、原子炉格納容器1の形状はこれに限ることはない。例えば側壁部の平面を矩形状に形成したものや、円筒状の側壁部に半球状の天井部を設けたもの、錐台形のもの等とすることができる。これらは、沸騰水型原子炉や加圧水型原子炉等の形式やその形態、安全性等に応じて適宜定めればよい。また、床状部材4等の内部構造も、必要に応じて設けられるものである。
【0022】
図2は原子炉格納容器1の鋼板コンクリート構造の例を示す図である。図2(a)は側壁部など垂直部材2aの例を示す水平方向断面図、図2(b)は垂直部材2aの例を示す垂直方向断面図、図2(c)はトップスラブなど水平部材2bの例を示す垂直方向断面図である。各図に示すように、原子炉格納容器1は、コンクリート3を内側鋼板5と外側鋼板7との間に充填して構成される鋼板コンクリート構造による構造躯体を有する。なお、内側とは原子炉格納容器1の内部に向かう側を指し、外側とは原子炉格納容器1の外部に向かう側を指す。また、コンクリート3は鉄筋により補強された鉄筋コンクリートである場合もあり、さらにはプレストレストコンクリート等でも構わない。
【0023】
内側鋼板5や外側鋼板7は所定の間隔で設けたスタッドボルト9によりコンクリート3に定着される。また、内側鋼板5と外側鋼板7を接続するタイバー11等が設けられ、補強がなされている。なお、鋼板コンクリート構造における補強はこれに限らず、鋼板等、目的に応じて適宜定めればよい。
【0024】
そして、本発明では、外側鋼板7に上記の放射性物質を閉じ込め、漏洩を防止する役割を持たせる。即ち、想定される万一の事故時にも、当該想定される(所定の)事故時における種々の環境条件に対して外側鋼板7に亀裂等が生じないように設計する。このため、外側鋼板7にはSPV材(中低温圧力容器用鋼板材)やSGV材(中常温圧力容器用炭素鋼鋼板材)等の圧力容器用鋼材を用いることができる。これらの圧力容器用鋼材は、高い強度と溶接性を有し、このような目的により適している。そして、その強度や厚さ等の形状、外側鋼板7間の接合方法等その他の条件を、上記の目的に応じて定める。
【0025】
外側鋼板7は、内側に断熱部材としてのコンクリート3が存在し、外側が外気に接しているため、万一の事故時にもほぼ常温であり、高温等の影響を受けず、前述した座屈現象等が生じることがない。従って、常温の鋼板の降伏点強度に基づき設計が可能であり、貫通ひびわれも生じず、鋼板の強度を十分活用できる信頼性の高い設計、評価が可能となる。
【0026】
そして、内側鋼板5は、死荷重や地震荷重等に対して原子炉格納容器1の構造体強度を満たす役割等を有するように設計する。内側鋼板5には、SS材(一般構造用圧延鋼材)やSM材(溶接構造用圧延鋼材)、SN材(建築構造用圧延鋼材)等の構造用鋼材を用いることができる。その強度や形状等は、上記の目的に応じて定める。内側鋼板5に放射性物質を閉じ込める役割を持たせない結果、SS材やSM材、SN材等の建築分野で使用される構造用鋼材を使用することができ、その他鋼板同士の接合方法等の設計の自由度も増す。また、床状部材4の鋼板や鉄筋等の部材を内側鋼板5に接続する際も、過酷な条件下であるが、内側鋼板5に放射性物質を閉じ込める役割を持たせる場合に比べ、設計・製作上の制約が相対的に少なく、合理的なディテール(納まり構造)を採用することが可能となる。
【0027】
以上説明したように、本発明の原子炉格納容器の実施形態によれば、原子炉格納容器の外側鋼板により事故時等の放射性物質の漏洩を防止するものとする。外側鋼板としては中低温圧力容器用鋼板材、または中常温圧力容器用炭素鋼鋼板材等の圧力容器用鋼材を用いることができる。外側鋼板は、外気に接し、また内側にコンクリート層が存在するので、万一の事故時にも常温付近に維持される。従って、高温等による影響を受けず、より信頼性の高い設計、評価が可能になる。
【0028】
また放射性物質の閉じ込め機能が要求されない内側鋼板に床状の内部構造等の部材が取り付く場合、過酷な条件下であるが、設計・製作上の制約が相対的に少なく、合理的なディテール(納まり構造)を採用することが可能となる。
【0029】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る原子炉格納容器の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0030】
1………原子炉格納容器
3………コンクリート
5………内側鋼板
7………外側鋼板
9………スタッドボルト
11………タイバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側鋼板及び外側鋼板と、前記内側鋼板と前記外側鋼板の間に充填されるコンクリートからなる躯体を有する原子炉格納容器であって、
前記外側鋼板により放射性物質の漏洩を防止することを特徴とする原子炉格納容器。
【請求項2】
前記外側鋼板には、圧力容器用鋼材が用いられることを特徴とする請求項1記載の原子炉格納容器。
【請求項3】
前記圧力容器用鋼材は、中低温圧力容器用鋼板材、または中常温圧力容器用炭素鋼鋼板材であることを特徴とする請求項2記載の原子炉格納容器。
【請求項4】
前記内側鋼板には、構造用鋼材が用いられることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の原子炉格納容器。
【請求項5】
前記構造用鋼材は、一般構造用圧延鋼材、溶接構造用圧延鋼材、建築構造用圧延鋼材のいずれかであることを特徴とする請求項4記載の原子炉格納容器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−184998(P2012−184998A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47498(P2011−47498)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(505374783)独立行政法人日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(307041573)三菱FBRシステムズ株式会社 (13)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)