説明

原子炉

【課題】原子炉圧力容器内における溶融炉心中の金属量をより確実に増加させることができ、IVRの信頼性を高めた原子炉を提供する。
【解決手段】内部に炉心を有する原子炉圧力容器10と、前記炉心を取り囲む炉心槽13と、前記炉心を下方から支持するサポートプレート11と、原子炉圧力容器10下部に立設され、サポートプレート11を下方から支持するサポート12とを備え、サポート12が溶融した場合に、サポートプレート11が落下するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酷事故の発生時に原子炉圧力容器内で溶融した炉心溶融物を冷却して保持する機能を備えた原子炉に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉における過酷事故の発生時に、原子炉圧力容器内で炉心部の燃料などが溶融し、その溶融状態が進展し、上記炉心部から下部ヘッドに溶融物が落下したとしても、注水により原子炉圧力容器の外部を冷却するか、あるいは原子炉圧力容器の内部を冷却することによって、上記炉心溶融物が下部ヘッド内で冷却されるとともに、保持される方法を容器内保持(In Vessel Retention、以下IVRと略称する)方法といい、有力な事故収束のための対策の一つとして注目されている。また、このように原子炉圧力容器内において溶融炉心を冷却する機能を有することは、世界的な規制や運用上から原子炉における基本要件となりつつある。
【0003】
これを図7に基づいて具体的に説明する。図7は従来のIVR機能を有する原子炉圧力容器の立断面を示す構成図である。
【0004】
図7に示すように、原子炉圧力容器1は外部に保温材2を有する。この保温材2と原子炉圧力容器1の圧力容器壁1aとの間には、ギャップ4が形成される。
【0005】
このように構成された原子炉圧力容器1では、燃料が溶融して内部に溶融デブリ3が堆積すると、その熱は圧力容器壁1aを通して外部に伝達され、この圧力容器壁1aと保温材2との間に形成されるギャップ4の中の水が加熱されて沸騰し、蒸気の浮力によってギャップ4内を上昇する流れが形成される。
【0006】
このギャップ4内で沸騰した気液二相流体は、上部のギャップ4に形成された流出口4aから排出される一方、新たな水が下部のギャップ4に形成された流入口4bから流入する。このギャップ4内の沸騰による自然循環流によって、溶融デブリ3を除熱することにより、その溶融デブリ3は、原子炉圧力容器1内において冷却されるとともに、保持される。
【0007】
上記IVRでは、原子炉圧力容器1の外面で十分な除熱が行われ、原子炉圧力容器1の外面での熱の伝達し易さを高めることや、局所的な高熱負荷に耐えられるようにする必要がある。
【0008】
例えば、非特許文献1には、炉心溶融時にコアサポートプレートが溶融することで厚い金属層が形成されることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Analysis of In-Vessel Retention and Ex-Vessel Fuel Coolant Interaction for AP1000 (2004年8月発行)EXECUTIVE SUMMARY (Xi) U.S. Nuclear Regulatory Commission
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上記IVRの成功率、すなわち溶融デブリ3が原子炉圧力容器1内に冷却および保持される確率を評価するには、あらゆる事象を考慮する必要がある。例えば、溶融物の金属量や、原子炉圧力容器1の下部への堆積および上部での成層化の状態により、IVRの成功率は大きく変化してくる。
【0011】
特に、IVRの成功率が低くなるのは、図8に示すように、金属量が少ないため、溶融酸化物層5の上面に薄い溶融金属層6が層状に堆積して成層化し、この溶融金属層6を通して熱が原子炉圧力容器1の圧力容器壁1aを伝達する場合である。ここで、溶融酸化物層5の上面に薄い溶融金属層6が層状に堆積するのは、溶融金属層6の比重が溶融酸化物層5より軽いためである。
【0012】
この場合は、溶融金属層6の熱伝導率が良好であることから、事故時に発生する熱が、この薄い溶融金属層6が接触する箇所の圧力容器壁1aに集中し、局所的に高熱負荷(高熱流束)がかかるため、圧力容器壁1aが破損して溶融デブリ3を原子炉圧力容器1内に保持することができなくなることがある。その結果、IVRの成功率が低くなる。
【0013】
本発明は上述した事情を考慮してなされたものであり、原子炉圧力容器内における溶融炉心中の金属量をより確実に増加させることができ、IVRの信頼性を高めた原子炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明に係る原子炉は、内部に炉心を有する原子炉圧力容器と、前記炉心を取り囲む炉心槽と、前記炉心を下方から支持するサポートプレートと、前記原子炉圧力容器下部に立設され、前記サポートプレートを下方から支持するサポートと、を備え、前記サポートが溶融した場合に、前記サポートプレートが落下するように構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、サポートが溶融した場合にサポートプレートが落下することにより、溶融炉心中の金属量を確実に増加させ、IVRの信頼性を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る原子炉の第1実施形態における原子炉圧力容器の立断面を示す構成図である。
【図2】図1のサポートの配置態様を示す平面図である。
【図3】本発明に係る原子炉の第2実施形態における原子炉圧力容器の立断面の一部を拡大して示す構成図である。
【図4】第2実施形態の第1変形例の立断面における一部を拡大して示す構成図である。
【図5】第2実施形態の第2変形例の立断面における一部を拡大して示す構成図である。
【図6】本発明に係る原子炉の第3実施形態における原子炉圧力容器の立断面の一部を拡大して示す構成図である。
【図7】従来のIVRを有する原子炉圧力容器の立断面を示す構成図である。
【図8】過酷事故時の原子炉圧力容器内の立断面を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係る原子炉の各実施形態について、図面を参照して説明する。
【0018】
(第1実施形態)
図1は本発明に係る原子炉の第1実施形態における原子炉圧力容器の立断面を示す構成図である。図2は図1のサポートの配置態様を示す平面図である。なお、従来の構成と同一の部分には、図7と同一の符号を用いて説明する。
【0019】
図1に示すように、原子炉内においては、内部に炉心(図示せず)を有する原子炉圧力容器10が設置されている。この原子炉圧力容器10は、外部に保温材2を有し、この保温材2と原子炉圧力容器10の圧力容器壁10aとの間には、ギャップ4が形成される。このギャップ4の上部は、流出口4aが形成される一方、その下部には流入口4bが形成されている。
【0020】
一方、原子炉圧力容器10の内部には、上記炉心の外周を取り囲む炉心槽13と、この炉心槽13の下部に溶接され、上記炉心の燃料を下方から支持する下部サポートプレート11と、原子炉圧力容器10に立設され、下部サポートプレート11を下方から支持する複数のサポート12と、を備えている。ここで、下部サポートプレート11の荷重は、炉心槽13と複数のサポート12により双方で分散して受けている。炉心槽13は、例えば溶接によって下部サポートプレート11と接続されており、炉心槽13だけでは下部サポートプレートの全荷重を支持しきれないように構成されている。換言すると、サポート12が喪失した場合に、炉心槽13と下部サポートプレート11の接続部が破損して下部サポートプレート11が落下するように構成されている。
【0021】
下部サポートプレート11および複数のサポート12は、それぞれステンレス鋼などの金属から構成されている。複数のサポート12は、本実施形態では、図2に示すように原子炉圧力容器10の炉底部10bに一定間隔をおいて放射状に8本配置されている。なお、これらのサポート12の本数、配置、長さおよび太さについては特に制限なく、施工性および溶融性などの諸条件に基づいて決定される。
【0022】
このように構成された本実施形態では、過酷事故時に上記燃料が溶融して溶融デブリ14が原子炉圧力容器10の炉底部10bに落下することによって、まず複数のサポート12が溶融された後、これらのサポート12と炉心槽13とで荷重を分散して固定していた下部サポートプレート11が炉底部10bに落下することによって溶融される。この場合、上記のようにサポート12が喪失すると下部サポートプレート11が落下する構成であることから、複数のサポート12が溶融すると、下部サポートプレート11が炉底部10bに迅速に落下することとなる。
【0023】
そして、炉底部10bに溶融デブリ14が堆積すると、その熱は圧力容器壁10aを通して外部に伝達され、この圧力容器壁10aと保温材2との間に形成されるギャップ4の中の水が加熱されて沸騰し、蒸気の浮力によってギャップ4内を上昇する流れが形成される。
【0024】
このギャップ4内で沸騰した気液二相流体は、上部の流出口4aから排出される一方、新たな水が下部の流入口4bから流入する。このギャップ4内の沸騰による自然循環流によって、溶融デブリ14を除熱することにより、その溶融デブリ14は、原子炉圧力容器10内において冷却されるとともに、保持される。
【0025】
したがって、本実施形態では、過酷事故時にサポート12が溶融され、さらに下部サポートプレート11が確実かつ迅速に落下して溶融することにより、溶融物の金属量が増加して成層化した金属を厚く形成させることができる。これにより、溶融デブリ14上部に金属が薄い層として形成されて原子炉圧力容器10が破損する事象を防止することができ、炉心溶融物を保持するIVRの成功確率を高めることができる。
【0026】
このように本実施形態によれば、サポート12が溶融した場合に下部サポートプレート11が落下することにより、溶融炉心中の金属量を確実に増加させ、IVRの信頼性を大幅に向上させることができる。
【0027】
(第2実施形態)
図3は本発明に係る原子炉の第2実施形態における原子炉圧力容器の立断面の一部を拡大して示す概略図である。なお、本実施形態では、前記第1実施形態と同一または対応する部分に同一の符号を付して、重複する説明は省略する。その他の実施形態および変形例も同様とする。
【0028】
図3に示すように、原子炉圧力容器10の内部には、図示しない炉心の外周を取り囲み、下部の壁面を内側から切り欠いて厚さが薄く形成された薄肉部13aを有する炉心槽13と、この炉心槽13の下部に溶接され、上記炉心の燃料を下方から支持する下部サポートプレート11と、原子炉圧力容器10に立設され、下部サポートプレート11を下方から支持する複数のサポート12と、を備えている。ここで、下部サポートプレート11は、上部の炉心槽13と下部の複数のサポート12との双方で支持しており、第1実施形態と同様、サポート12が喪失すると下部サポートプレート11が落下する構成である。また、炉心槽13の薄肉部13aの厚さおよび長さは、溶接の加工性などの諸条件によって決定される。
【0029】
このように構成された本実施形態では、炉心槽13の下部が薄く形成された薄肉部13aを有し、この薄肉部13aと下部サポートプレート11とが接続されるため、サポート12が喪失した場合に下部サポートプレート11が、より迅速に落下しやすい構成とすることができる。したがって、複数のサポート12が溶融されると、即座に下部サポートプレート11を炉底部10bに落下させ、溶融させることができる。
【0030】
したがって、本実施形態では、前記第1実施形態と同様に、過酷事故時にサポート12が溶融され、さらに下部サポートプレート11が確実かつ迅速に落下して溶融することにより、溶融物の金属量が増加して成層化した金属を厚く形成させることができる。これにより、溶融デブリ14上部に金属が薄い層として形成されて原子炉圧力容器10が破損する事象を防止することができ、炉心溶融物を保持するIVRの成功確率を高めることができる。
【0031】
このように本実施形態によれば、前記第1実施形態に効果に加えて、炉心槽13下部の壁面厚みを薄く形成した薄肉部13aを有することにより、サポート12が溶融されると、下部サポートプレート11を炉底部10bに確実かつ迅速に落下させることができる。
【0032】
なお、薄肉部13aに関して、例えば図4に示すように下部の壁面を外側から切り欠いて形成された薄肉部13b、あるいは図5に示すように壁面を両側から切り欠いて厚さが薄く形成された薄肉部13c、とすることも可能である。
【0033】
(第3実施形態)
図6は本発明に係る原子炉の第3実施形態における原子炉圧力容器の立断面の一部を拡大して示す構成図である。
【0034】
図6に示すように、原子炉圧力容器10の内部には、図示しない炉心の外周を取り囲む炉心槽13と、この炉心槽13の下部に固定プラグ31によって固定された下部サポートプレート11と、原子炉圧力容器10に立設され、下部サポートプレート11を下方から支持する複数のサポート12と、を備えている。なお、固定プラグ31としては、例えばボルトを用いる。
【0035】
この固定プラグ31は、炉心槽13の下部に下部サポートプレート11を、一定間隔をおいて複数本配置することにより固定している。また、固定プラグ31は、下部サポートプレート11およびサポート12の使用金属であるステンレス鋼より低融点の金属であって、原子炉圧力容器10の通常運転温度より高い融点の材料であることが望ましい。
【0036】
また、本実施形態は、炉心槽13のみでは下部サポートプレート11の荷重を支えきれず、サポート12が喪失した場合に、固定プラグ31自身の破損、または固定プラグ31の炉心槽13ないし下部サポートプレート11からの脱落により、サポートプレート11が落下するように構成されている。
【0037】
このように構成された本実施形態では、過酷事故時に溶融デブリ14が原子炉圧力容器10の炉底部10bに落下することによって、まず下部サポートプレート11のサポート12が溶融された後、固定プラグ31が低融点の材質であれば、輻射熱によって溶融され、固定プラグ31を介した炉心槽13とサポート12とで荷重を分散して固定していた下部サポートプレート11が炉底部10bに落下することによって溶融される。
【0038】
また、固定プラグ31はステンレス鋼よりも低融点の材料でなくともよく、過酷事故時の輻射熱により昇温して機械的強度が低下するような材料であれば、過酷事故の発生によって固定プラグ31が破損しやすくなり、下部サポートプレート11がより落下しやすくなる。
【0039】
このように本実施形態によれば、前記第1実施形態の効果に加えて、炉心槽13の下部に下部サポートプレート11が低融点の固定プラグ31によって固定されたことにより、サポート12が溶融された後、固定プラグ31が輻射熱によって溶融され、下部サポートプレート11を炉底部10bに確実かつ迅速に落下させることができる。
【0040】
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることなく、種々の変更が可能である。例えば、上記各実施形態では、下部サポートプレート11の荷重を炉心槽13と複数のサポート12により互いに分散して受けるようにしたが、これに限らず複数のサポート12で下部サポートプレート11の全荷重を受けるようにしてもよい。このように構成すれば、サポート12が溶融された後には、下部サポートプレート11を一段と確実かつ迅速に落下させることができる。
【0041】
また、上記第2実施形態では、炉心槽13の下部に下部サポートプレート11を溶接により固定するようにしたが、これ以外に上記第3実施形態のように固定プラグにより固定するようにしてもよい。
【0042】
さらに、上記第2実施形態およびその各変形例では、炉心槽13の下部の壁面を片側または両側から直角に切り欠いて薄肉部としたが、これ以外に炉心槽13の下端にいくに従って薄くなるようなテーパ状の薄肉部に形成してもよい。
【符号の説明】
【0043】
1…原子炉圧力容器
1a…圧力容器壁
2…保温材
3…溶融デブリ
4…ギャップ
5…溶融酸化物層
6…溶融金属層
7…下部サポートプレート
10…原子炉圧力容器
11…下部サポートプレート
12…サポート
13…炉心槽
13a…薄肉部
14…溶融デブリ
31…固定プラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に炉心を有する原子炉圧力容器と、
前記炉心を取り囲む炉心槽と、
前記炉心を下方から支持するサポートプレートと、
前記原子炉圧力容器下部に立設され、前記サポートプレートを下方から支持するサポートと、を備え、
前記サポートが溶融した場合に、前記サポートプレートが落下するように構成されたことを特徴とする原子炉。
【請求項2】
前記炉心槽が前記サポートプレートの荷重の一部を受けており、前記炉心槽の下部に、壁面厚さが薄く形成された薄肉部を有すること、
を特徴とする請求項1に記載の原子炉圧力容器。
【請求項3】
前記炉心槽が前記サポートプレートの荷重の一部を受けており、前記炉心槽と前記サポートプレートとを固定する固定プラグを有すること、
を特徴とする請求項1または2に記載の原子炉圧力容器。
【請求項4】
前記固定プラグは、前記サポートプレートよりも低融点の材料からなること、
を特徴とする請求項3に記載の原子炉圧力容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−232089(P2011−232089A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101028(P2010−101028)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】