説明

原子燃料集合体の燃料棒と支持格子の間の摩擦及び物理的接触の減少方法

【課題】原子炉の燃料集合体の燃料棒と支持格子との間の摩擦及び物理的接触を減少させる方法を提供する。
【解決手段】本発明の方法は、燃料集合体の組立て時に燃料棒の外側表面にポリアルキレングリコールより成る潤滑剤組成物を適用した後、燃料集合体を洗浄して潤滑剤組成物を除去するステップを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的に原子炉に係り、さらに詳細には、支持格子を用いる燃料集合体を備えた原子炉に係る。
【背景技術】
【0002】
大部分の水冷式原子炉では、炉心はおびただしい数の燃料集合体より成る。加圧水型原子炉のこれらの燃料集合体では通常、複数の燃料棒が燃料集合体の長さに沿って軸方向に離隔した複数の支持格子により整然としたアレイ状に保持され、複数の細長いシンブル管に固定されている。シンブル管は通常、制御棒または計測手段を内部に受容する。上部ノズル及び下部ノズルは燃料集合体の互いに反対の端部上にあり、燃料棒の端部のわずか上方及び下方に延びるシンブル管の端部に固定されている。
【0003】
関連技術分野において公知であるように、支持格子は炉心における燃料棒の間隔が正確に維持されるように支持し、燃料棒に横方向の支持を与え且つ冷却材の混合を誘発するものである。従来型設計の支持格子の1つのタイプには、複数の互いに差し込んだストラップが内部に個々に燃料棒を受容する複数のほぼ正方形のセルを形成する卵箱型のものがある。シンブル管の形状にもよるが、これらのシンブル管は燃料棒を受容するセルと同一サイズのセル内に受容されるか、または互いに差し込んだストラップにより画定される比較的大きいシンブルセル内に受容される。互いに差し込んだストラップはシンブル管に固定点を提供するため、燃料集合体の長さ方向に沿う離隔した位置でストラップを位置決めすることができる。
【0004】
燃料棒装荷プロセス時、燃料棒と格子の間の物理的接触及び動的摩擦が減少するかなくなるように入念な調整が行なわれる。原子燃料を製造する際、燃料棒と格子の燃料棒支持部分との界面にガルボール(gall-ball)が形成されることが明らかになっている。これらの界面にある大きなガルボールは、適当な流れ条件及びサイクル長の下で、燃料棒と燃料棒支持系統との間にギャップが形成される一因となる。例えば、大きなギャップが形成されると支持格子と燃料棒との間のフレッチング速度が増加し燃料棒の損傷が大きくなる。特に、少なくとも1つの原子炉において、ガルボールは燃料棒の摩耗痕が深くなる原因であることがわかった。
【0005】
従って、(i)燃料集合体の格子空間にガルボールが存在するために生じる支持格子と燃料棒との間のフレッチングの危険性を減少させ、及び/または、(ii)原子炉冷却材中の破片の量を少なくして実質的な流れ力及び破片の循環により生じる燃料集合体の損傷及び原子炉の他の内部損傷を減少させるために、燃料棒装荷及び組立て時にガルボールのサイズ及び量を減少または最小にする手段が望まれる。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、燃料集合体への燃料棒の組込み時に燃料棒と支持格子との間の摩擦及び物理的接触を減少する方法を提供することにより上記目的を達成する。この方法は、燃料棒の外側表面に潤滑剤組成物の薄膜を適用することを含む。潤滑剤組成物はポリアルキレングリコールを含む。燃料棒はジルコニウムを含み、支持格子はジルコニウム合金、インコネル合金及びそれらの混合物より成る群から選択された材料を含む。この方法はさらに、かかる薄膜が適用された燃料棒を燃料集合体の支持格子内に装荷することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、本発明の好ましい実施例による燃料集合体を、図示を明解にするために、垂直方向に短縮し、一部を破断、一部を断面で示す立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
添付図面を参照して、この図は参照番号22で総括表示する燃料集合体を垂直方向に短縮して示す立面図である。燃料集合体22は加圧水型原子炉に用いるタイプであり、下方端部に下部ノズル58を有する骨格構造を備えている。下部ノズル58は原子炉の炉心領域の下部炉心支持板60上に燃料集合体22を支持する。燃料集合体22の骨格構造は、下部ノズル58に加えて、上方端部の上部ノズル62及び多数の案内管またはシンブル54を有し、案内管は下部ノズル58と上部ノズル62との間を縦方向に延びて両端部が該ノズルに剛性的に固定されている。
【0009】
燃料集合体22はさらに、案内シンブル54(案内管とも呼ぶ)に沿って軸方向に離隔し該案内管に取付けられた複数の横方向格子64と、格子64により横方向に離隔支持される細長い燃料棒66の整列アレイとを含む。図1には示さないが、格子64は、直交するストラップを卵箱パターンを形成するように互いに差し込むことにより、4つのストラップの隣接する界面が内部に、燃料棒66を互いに横方向に離隔した関係で支持するほぼ正方形の支持セルを画定するようにした従来型の構成である。また、燃料集合体22はその中央部分に、下部ノズル58と上部ノズル62との間を延びて該ノズルに装着された計測管68を有する。部品をこのように組立て配置することにより、燃料集合体22は取扱いが便利で部品に損傷を与えることのない一体的なユニットを形成する。
【0010】
上述したように、燃料集合体22のアレイ状配置の燃料棒66は燃料集合体の長さ方向に沿って離隔した格子64により互いに離隔した関係に保持される。各燃料棒66は複数の原子燃料ペレット70を含み、両端部は上部端栓72及び下部端栓74により閉じられている。ペレット70は上部端栓72と積み重ねたペレットの頂部との間のプレナムばね76により積み重ねた状態を維持される。核分裂物質より成る燃料ペレット70は原子炉の反応エネルギーの生成源となるものである。ペレットと取囲む被覆は核分裂の副生成物が冷却材中に流入して原子炉系をさらに汚染させるのを阻止する隔壁として働く。
【0011】
核分裂プロセスを制御するために、燃料集合体22の所定の位置に配置された案内シンブル管54内を多数の制御棒78が往復運動可能である。詳説すると、上部ノズル62の上方に位置する燃料棒クラスタ制御機構80が燃料棒78を支持する。制御機構は内側にねじ山を設けた円筒形ハブ部材82に、それから半径方向に延びる複数のアーム52を取付けたものである。各アーム52は制御棒78に相互連結されているため、制御棒機構80は、全て公知の態様で、燃料棒ハブ部材に結合された制御棒駆動シャフト50の駆動力により制御棒を案内シンブル54内において垂直方向に移動させ、燃料集合体22内の核分裂プロセスを制御することができる。
【0012】
前述したように、燃料集合体は燃料棒の重量を超える液圧力を受けるため、燃料棒と燃料集合体に有意な力が掛かる。さらに、炉心内の冷却材には、多数の格子のストラップの上側表面上の混合翼により生ずる有意な乱流があり、これにより燃料棒の被覆から冷却材への熱伝達が促進される。実質的な流れ力と乱流により、燃料棒の運動が制限されない場合は、燃料棒の被覆が激しいフレッチングを起こすことがある。燃料棒の被覆にフレッチングが起こると、被覆が破損して冷却材が燃料棒内の放射性副生成物にさらされることになる。
【0013】
本発明は、原子炉に使用する燃料の組立て製造時に燃料棒と支持格子との間の摩擦及び物理的接触を減少させる方法を提供する。この方法は、原子炉の燃料集合体を製造するために燃料棒の外側表面に潤滑剤組成物の薄膜を適用することを含む。潤滑剤組成物は燃料
棒を骨格構造内に装荷する前に燃料棒に適用することができる。一実施例において、潤滑剤組成物は燃料組立て時、マガジンから骨格構造に引き込む際に燃料棒に適用可能である。任意特定の理論に拘束される意図はないが、乾燥した状態で装荷するのではなくて、引き込み装荷時に潤滑剤組成物を適用すると改善された結果が得られると思われる。原子炉は、原子力発電所において現在商業運転中の原子炉を含む種々の設計の原子炉を含むことができる。原子炉の種々の設計には沸騰水型原子炉及び加圧水型原子炉が含まれる。説明を容易にするために、本明細書中の記載はウエスチングハウス・エレクトリック・カンパニーによって製造される加圧水型原子炉に言及する。燃料棒の表面に適用される潤滑剤組成物の薄膜は、燃料棒組込み時の燃料棒と支持格子との間の動的摩擦及び物理的接触を減少させるか最小限に抑えることにより燃料棒と支持格子との界面におけるガルボールの形成を減少させるかまたは最小限に抑える作用をする。ガルボールは燃料棒を引っ掻いた痕の材料が再付着して形成されることがある。ガルボールの存在は運転中の原子力発電所で観察されている。例えば、骨格構造の製造後検査を2つの運転中の原子力発電所で行なったところ、燃料棒と中間の格子の燃料棒支持部分との間の界面にガルボールが形成されることがわかった。任意特定の理論に拘束される意図はないが、これらの界面に存在する大きなガルボールは、適当な流れ条件及びサイクル長の下で、燃料棒と燃料棒支持部分との間にギャップを形成させる一因であると思われる。ギャップがあると支持格子と燃料棒との間のフレッチング速度が増加する恐れがある。少なくとも1つの原子力発電所において、燃料の照射後検査(PIE)を行なったところ、2サイクル後の燃料棒の摩耗は20%またはそれ以下であり、最も深い摩耗痕がガルボールが燃料棒の表面上に存在する証拠を提供することがわかった。この傷痕の特長及び特性を詳細に検査した結果に基づき、ガルボールの存在が最も深い摩耗痕形成の1つの要因であるとの結論が下された。ガルボールの形成及びガルボールが存在する結果発生する可能性がある摩耗痕は、支持格子と燃料棒との間のフレッチングの危険性を増大すると思われる。さらに、燃料棒の外側表面上に本発明の潤滑剤の薄膜があると、形成されるガルボールのサイズ及び量が減少するか最小限に抑えられるため、支持格子と燃料棒との間のフレッチングの危険性が減少するか最小限に抑えられると思われる。
【0014】
燃料棒は通常、ジルコニウムまたはジルコニウム合金製であり、燃料棒が挿入される支持格子は通常、ジルコニウム、ジルコニウム合金、インコネル、インコネル合金またはそれらの混合物で作られている。
【0015】
本発明に用いる潤滑剤組成物は、燃料棒の外側表面に対して実質的な接着性を有する薄膜で燃料棒の外側表面の少なくとも一部を覆うことができる種々の組成物を含むことができる。一実施例において、燃料棒は外側表面全体が潤滑剤組成物で覆われる。潤滑剤組成物の選択はそれが適用される材料を考慮することが可能である。一実施例において、潤滑剤組成物の薄膜はジルコニウム合金より成る燃料棒に適用される。さらに、潤滑剤の選択は、原子炉容器内に配置されて、炉心を流れる原子炉冷却材に接触し、最終的に原子力発電所の原子炉冷却系に流れ込む、燃料棒上に残る潤滑剤組成物の残量の潜在的な影響を考慮することができる。潤滑剤組成物で覆われた燃料棒は燃料集合体製造後且つ燃料集合体を原子炉に挿入する前に洗浄を施される。しかしながら、洗浄後、洗浄済み燃料棒には潤滑剤組成物の残存する可能性がある。従って、原子炉に挿入された燃料集合体は残存する潤滑剤組成物を含むことがある。かくして、潤滑剤組成物は種々の調合物、例えば、原子炉冷却材や、原子炉容器及び関連系統のコンポーネントとの間で悪い相互作用をしないように選択される。一実施例において、潤滑剤組成物はポリアルキレングリコールを含む。本発明への使用に好適な潤滑剤組成物はポリアルキレングリコール系合成ポリマーを含む。本発明への使用に好適な潤滑剤組成物の非限定的な例は、ダウ・ケミカル・カンパニーにより市販される商品名UCONで知られた組成物を含む。UCON材料の一例は、UCON60H−5300を含むが、それに限定されない。通常、本発明に使用する潤滑剤組成物は温度に依存する粘性を有する。例えば、UCONはISO3448で1000等級
である。一実施例において、潤滑剤組成物の粘性は40℃で1050cSt、また、100℃で178cStである。さらに、燃料棒に適用される潤滑剤組成物の薄膜の膜厚は本発明にとって重要な特徴ではない。薄膜の膜厚は広い範囲に亘り、使用する特定の潤滑剤組成物及び薄膜が適用される特定の材料により異なる。一実施例において、潤滑剤組成物の薄膜の膜厚は約0.00127cm(0.0005インチ)乃至0.00381cm(0.0015インチ)である。別の実施例において、薄膜の膜厚はそれより小さくても大きくてもよく、ガルボールの形成を減少させるか最小限に抑えるように作用する。
【0016】
潤滑剤組成物はまた、組成物の被覆に使用するものとして当該技術分野で普通に知られたオプションとしての他の添加剤を含むことができる。一実施例において、潤滑剤組成物は溶剤を含む。溶剤は当該技術分野において知られた種々の溶剤から選択可能である。さらに別の実施例において、溶剤は水である。潤滑剤組成物はポリアルキレングリコールの水溶液を含むが、この溶液はポリアルキレングリコール(例えば、UCONの商品名で市販されているもの)が水に溶解可能なような温度に維持される。一実施例において、溶液は140°F未満の温度である。
【0017】
本発明では、潤滑剤組成物を、物を被覆するために当該技術分野で知られた種々の従来技術を用いて燃料棒の外側表面上に適用し、薄膜を形成することができる。非限定的な例として、噴霧(例えば、空気噴霧または無気噴霧)、はけ塗、布ぶき、浸漬、印刷、流線化(例えば、ウォーターホールカーテン)などを含むことができる。さらに、潤滑剤の薄膜は周囲条件(例えば、室温)下で乾燥または固まるように放置するか、もしくは別の実施例において、潤滑剤の薄膜を、被覆及び薄膜を固定または硬化させるために当該技術分野において知られた加熱または硬化条件にさらすことができる。
【0018】
さらに、本発明に用いる潤滑剤組成物は、燃料棒上に薄膜状の付着物を形成させた後、燃料棒を洗浄して、原子炉への挿入前に燃料棒の外側表面から潤滑剤組成物を実質的に除去できるように選択される。潤滑剤組成物の除去は種々の方法により実施可能である。潤滑剤組成物は比較的容易に除去できるのが好ましい。一実施例において、潤滑剤組成物は、被覆物の技術分野で従来から常用される水洗溶液、温度及び浸漬時間を用いて燃料棒または燃料集合体全体の外側表面を洗浄することにより除去される。別の実施例において、潤滑剤組成物は室温で水に溶解可能である。さらに別の実施例において、燃料集合体の組立て後、集合体全体を洗浄することにより原子炉への挿入前に潤滑剤組成物を除去することができる。前述したように、洗浄済みの燃料棒または集合体の上には潤滑剤組成物が依然として残留していることがある。潤滑剤組成物の残留量は被覆した燃料棒または集合体から余分の潤滑剤組成物を除去するために使用する洗浄用流体及び洗浄プロセスにより異なる可能性がある。一実施例において、燃料集合体全体を洗浄し、洗浄済みの燃料集合体の上に残留する潤滑剤組成物の量は燃料集合体当たり40g未満である。
【0019】
本発明の方法を使用すると、燃料棒の表面上の大きなガルボールを手で除去し、そして/または、支持格子と燃料棒との間のフレッチングの危険性を減少させて燃料サイクルの性能を改善するに通常必要とされる時間がかかり労働集約的なステップをなくすことができる。
【0020】
本発明を特定の実施例につき詳細に説明したが、当業者は、それら詳細事項に対する種々の変形例及び設計変更を本願の開示全体に照らして想到できることがわかるであろう。従って、図示説明した特定の実施例は例示的なものにすぎず、本発明の範囲を限定するものではなく、その範囲は添付した特許請求の範囲の幅及びその任意且つ全ての均等物の幅を与えられるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子燃料集合体において燃料棒組立て時に燃料棒と支持格子との間の摩擦及び物理的接触を減少させる方法であって、
燃料棒の外側表面に潤滑剤組成物の膜を適用し、
膜を適用した燃料棒を原子燃料集合体の支持格子に装荷するステップより成り、
潤滑剤組成物はポリアルキレングリコールより成り、燃料棒はジルコニウムより成り、支持格子はジルコニウム合金、インコネル合金及びその混合物より成る群から選択した材料より成る方法。
【請求項2】
潤滑剤組成物はさらに溶剤を含む請求項1の方法。
【請求項3】
溶剤は水である請求項2の方法。
【請求項4】
潤滑剤と水の混合物は140°F未満の温度に維持される請求項3の方法。
【請求項5】
潤滑剤の粘性は40℃で1050cSt、また、100℃で178cStである請求項1の方法。
【請求項6】
燃料棒上に形成されるガルボールが減少する請求項1の方法。
【請求項7】
原子炉は加圧水型原子炉である請求項1の方法。
【請求項8】
膜の厚さは0.00127cm(0.0005インチ)乃至0.00381cm(0.0015インチ)である請求項1の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−133481(P2011−133481A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284684(P2010−284684)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(501010395)ウエスチングハウス・エレクトリック・カンパニー・エルエルシー (78)