説明

原子間力顕微鏡用プローブ

【構成】 原子間力顕微鏡用のプローブ(22)は、試料(14)が走査されるとき、プローブを試料の方に向けるバイアス力Fdirectを受けるようにされている。これによって試料表面を追跡するプローブが改良され、より速い走査が可能となる。これは、外部から加えられる力に応答し、プローブ(22)上にあるバイアス素子(24、50)を含むこと、および/または支持梁のQ値を減少させることによって達成される。バイアス素子は、例えば磁石(24)または導電性の素子(50)である。Q値は支持梁を機械的なエネルギ散逸材料で被覆することによって減少させることができる。
【効果】プローブは、試料が走査されているとき、試料上のプローブによって働く復元力kxよりもかなり大きなバイアス力を受けるので、より良く試料の表面を追跡することができ、そしてより速い走査が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は原子間力顕微鏡の分野、そのような顕微鏡に使用されるプローブ、およびそのような顕微鏡の操作方法に関する。特に、プローブの高さについての従来のフィードバック制御を利用しない原子間力顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
原子間力顕微鏡(AFM)、または走査型力顕微鏡(SFM)は、ビニヒ(Binnig)、クウェート(Quate)およびゲーバー(Gerber)によって1986年に発明された。すべての他の走査型プローブ顕微鏡のように、AFMは試料の“相互作用マップ(interaction map)”を得るために、試料表面の上方でナノメートル・スケールの(nanometric)プローブを機械的に走査する原理に基づいている。この場合の相互作用力は単に、試料とカンチレバーのばねに取り付けられた鋭いプローブ先端との間の分子間相互作用である。プローブ先端が試料の近傍に持ってこられると、カンチレバーは相互作用力に応答して曲がる。画像は、プローブに対して試料を走査し、横方向の位置の関数としてカンチレバーの偏差を測定することによって収集される。この曲がりを測定するために、通常光てこ技術が使用される。カンチレバーは小さい変位に対してフックの法則に従うので、先端と試料との間の相互作用力が推定できる。
【0003】
AFMは通常2つのモードのうちの1つのモードで操作される。一定力モードでは、フィードバックにより、位置決め圧電ドライバは、検出された相互作用力のいかなる変化にも応答して試料(またはプローブ)を上または下に移動させる。このようにして、相互作用力は比較的安定に保たれ、かなり忠実な形状の試料の画像が得られる。あるいは、AFMは一定高モードで操作される。試料またはプローブの垂直方向の高さの調整は、走査中に全くまたはほとんどされない。このような状況では、垂直方向の高さの調整は、並進移動がカンチレバーのプローブに接続されたアクチュエータまたは試料それ自身のいずれか一方に適用されることを意味する。このため、カンチレバーの曲がりの程度が変化するにつれて、プローブ先端が上下に動く自由度の程度が変わる。一定高モードでは、そのいずれか一方あるいは両方がカンチレバーのばねの曲げを引き起こすことについて、試料に対する形状の変化は相互作用力の変化と区別できない。
【0004】
これらの異なった複数のフィードバック状態(regime)に加えて、画像のコントラストは通常3つの異なった方法のうちの1つによって得られる。接触モードでは、走査されているとき、先端と試料が接近して接触している状態、すなわち分子間相互作用の反発状態にある。タッピングモードでは、アクチュエータはそれの共振周波数で“タッピング(tapping:軽くたたく)”運動するようにカンチレバーを駆動する。このため、プローブ先端は振動(タッピング)周期のうちの非常に短い間のみ表面と接触する。この接触時間を劇的に短縮することは、試料上の横方向の力が非常に減少され、そのため走査が行われているとき、プローブが試料をより破壊しなくなることを意味する。その結果、傷つきやすい生物学的試料の画像化のためによく使用される。振動の振幅は、一般的にフィードバック機構を使用することによって一定に保たれる。非接触動作では、カンチレバーは、分子間相互作用力がもはや反発的でないそのような距離で試料の上方で振動する。しかし、動作のこのモードは実際問題として実現することが大変難しい。
【0005】
プローブ顕微鏡の最近の進歩により、データの収集時間がより早くなった。走査技術が速くなるにつれて、例えばPCT特許出願公開番号WO02/063368に記載されているように、有限のプローブの応答性は、ますます画像収集時間における制限因子になってきている。プローブは試料の特性の変化に瞬時に応答することはできず、例えば高さが高くなる試料表面の領域に出くわすプローブとそれに応答するシステムとの間の固有の時間遅延がある。この不利な点は、AFM操作における一定力モードと一定高モードの両方にあてはまる。それは、一定高モードではあまり厳しくない。このため、一定高モードは高速走査技術のための動作に好ましいモードである。しかし、まだ、高速走査型プローブ顕微鏡の現世代(current generation)の走査速度を過度に制限するには十分である。
【0006】
一定力AFMモードでは、平均相互作用力を一定に保つために電子的なフィードバック機構が通常利用される。走査中に、相互作用力(例えば試料の高さの変化によって引き起こされる)の変化がある場合、これは検出電子回路によって検出されるプローブの応答の変化として最初に観測され、誤差が発生し(例えば設定値から偏差を引いたもの)、フィードバックループが、プローブまたは試料の位置を調整することによって誤差信号を最小にするために使用される。フィードバックループは、全体画像走査が収集される最高の速度を制限する時定数を有する。
【0007】
一定高モードで動作する場合、課題はそれほど制限的でない。一定高モードでは、電子的なフィードバックは、それが一定力モードでのAFMにおいて使用されるほど、通常利用されない。しかし正確に測定された相互作用力のために、可能な限りプローブ先端は試料表面の形状を追跡すべきである。これは、カンチレバーが試料の表面によって曲がるにつれて大きくなる応答力を利用することによって保証される。すなわち、試料の高い領域が走査されるにつれて、カンチレバーはだんだん上側に曲がり、そしてばねに蓄積されたエネルギが増加する。高さが減少するにしたがって、復元力はカンチレバーをその平衡(まっすぐな)位置の方へ押し戻し、そして表面との接触を維持する。しかし、走査速度があまりに速い場合、プローブは表面を追跡せずに、表面から隆起部(protuberance)の上方に事実上投げ出され、そして共振または“鳴り”始める。次にこれによって、画像化された相互作用力により振動が引き起こされる。同様に、高さが減少するときに、復元力はプローブ先端が表面と接触を保てるほど十分に大きくはなく、そして画像領域における表面についての情報は失われる。
【0008】
上で引用したWO02/063368には、試料またはプローブのいずれかを備えた走査型プローブ顕微鏡が共振器に取り付けられ、さらに共振周波数またはそれに近い周波数で共振器を駆動することによって、試料はプローブに対して相対的に走査されることが記載されている。共振器は典型的に数10kHzの共振周波数を有し、そしてそれはプローブの共振周波数とほぼ同じである。したがって、画素間の典型的な時間間隔は、1/fよりも短い。ここで、fはプローブの共振周波数である。他方、試料表面の形状の変化に応答するために必要とされる時間(τres)は、プローブの有効質量とカンチレバーのばね定数に基づく。τres>1/fである場合、明らかに相互作用力は画素から画素まで正確には測定されない。
【0009】
認識されている必要性は、試料の表面形状の変動または相互作用力の変化に対する応答性が改良されたプローブを与えること、そして、例えばプローブの鳴りまたは表面の不十分な追跡によって引き起こされる実体のない画像(image artefact)が画像の品質を下げ始める前に、AFM顕微鏡がより速い走査速度で実現できるようにすることである。
【0010】
この発明は、原子間力顕微鏡における使用またはナノリソグラフィのためのプローブを提供する。このプローブは、先端半径が100nmあるいはそれ以下のプローブ先端に接続された力検知部材を含み、外部から加えられる力を受け易いとき、試料にプローブが近づくにつれて、プローブ先端の変位に起因する復元力よりも大きな大きさで、バイアス力がプローブ先端および試料のいずれか一方または両方を互いに近づけることに特徴がある。
【0011】
この発明の範囲を正しく認識する際に、典型的な、カンチレバーのプローブが従来技術の原子間力顕微鏡において試料の表面と接触するときに含まれる力について考察することは役に立つ。したがって、このことについて図1を参照して説明する。
【0012】
原子間力顕微鏡(AFM)のプローブによって走査されている試料1が図1に示されている。プローブは、そこからカンチレバー3が延びる基板2を備え、カンチレバー3は、基板2から遠く離れた端部に取り付けられ、先端半径が100nmまたはそれ以下の、鋭いナノメートル・スケールのプローブ先端4を有する。走査の準備において、下向きの力(Fexternal)が、AFMに取り付けられた基板2の端部のプローブに加えられ、プローブ先端4を試料1と接触するように移動させる。走査中に接触を維持するため、力Fexternalは、単に先端4を試料1と接触させるために必要とされる力よりも大きい。その結果、試料が走査されている間、カンチレバー3は本来の位置5から上方に曲がる。
【0013】
単純化されたモデルでは、カンチレバー3は小さい変位に対してフックの法則に従わせることができる。したがって、試料に押し付けるとき、曲がりの程度は次のように決まる。先端4を本来の位置から垂直な方向に距離x移動させ、そしてカンチレバーのばね定数がkであれば、カンチレバーによって働く復元力はkxである。先端4によって働き、表面を追跡する位置に保っている下向きの力は、したがってkxに比例する。
【0014】
明らかに、プローブ先端4の応答性したがってAFM技術の分解能は、試料1上のカンチレバー3によって働く力kxの程度に依存する。プローブと表面との間の力が大きくなればなるほど、表面の変化に対する応答性も大きくなる。このことは、特に走査が速く行われるとき、大きなばね定数が望ましいことを示している。他方、力がより大きくなると、プローブは試料により多くの損傷を与えやすくなる。したがって、従来のAFMカンチレバーのプローブは、プローブの応答性と試料の損傷の可能性との間で基本的に折り合わなければならない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0015】
しかしこの発明に従ったプローブは、試料が走査されているとき、試料上のプローブによって働く復元力kxよりもかなり大きなバイアス力を受けるようにされている。このことにより、プローブはより良く試料の表面を追跡することができ、そしてより速い走査が可能となる。後でより詳細にわかるように、復元力を上回るバイアス力を備えることは、この発明によって要求されるように、外部から加えられる力に応答するバイアス素子をプローブ上に含むこと、および/またはカンチレバーの支持梁のばね定数を減らすことのいずれかによって達成される。
【0016】
この発明では、画像収集に30秒以上かかっていた従来のAFMと異なり、試料の画像化がミリ秒でできる。たとえば、先端の速度が22.4cms−1であれば、128×128画素を有する、4.4×4.4平方ミクロンの面積では14.3ミリ秒で画像化され、1.5×1.5平方ミクロンの面積では8.3ミリ秒で画像化される。その上、柔らかい重合体の表面では、この速度でさえ、横方向に10nmおよび垂直方向に1nmの分解能よりも良い画像を得ることができる。
【0017】
この発明の一実施例において、バイアス素子は、たとえば、外部から加えられる磁力に応答する磁気素子、または電源の一方端子に接続され、電圧がプローブと試料との間で発生する導電体素子であってもよい。いずれの場合も、バイアス力(磁気的または静電的)の極性は、プローブと試料とを互いに近づける向きである。さらに、プローブにかかるバイアス力の大きさはプローブの偏差の程度に依存しない。このような方法によれば、プローブの梁(beam)は非常に低いばね定数を有するので、曲がり/偏差の復元力はバイアス力に比べて非常に小さい。そのため、表面上の先端の力は事実上偏差に依らない。
【0018】
従来技術のAFMプローブは、特に、外部のバイアス力に応答するように組み立てられている。例えば、EP872707には、圧電素子を含むカンチレバーのプローブが記載されている。引きつける力に打ち勝って、プローブを試料から離して上方に向けるため、制御信号が圧電素子に送信される。同様に、US5,515,719には、ソレノイドによって制御された磁界に応答して試料表面からプローブを引き離す磁気粒子を含むプローブが記載されている。前述のように、この特許の要点は、プローブが試料の表面に引っぱられて試料に損傷を与えないようにすることである。
【0019】
特許出願公開番号WO99/06793に開示されているカンチレバーのプローブもまた磁気素子を含む。しかし、この構成における磁界は、プローブと試料との距離を制御するために使用され、そして望ましい分離に応じて変化する。これは、この発明に使用される磁界の構成と対比されるべきである。走査中においては、この例で先端に加えられる力は一定であり、それは単に先端が試料の表面の方へ戻ることを速める目的のためだけであって、接触が失われるようにされる。調整可能な磁界に応答するプローブを含む別のシステムは、米国特許番号5,670,712に記載されている。磁界の大きさは、カンチレバーの偏差を一定のレベルに維持するため設定されたフィードバックループによって制御される。再び、これは偏差の程度が変わることを本質とするこの発明のAFMプローブと対比される。この動きの自由度がなければ、試料表面の輪郭を追跡することができず、相互作用力を測定することができない。それはこの発明の全体の目的に反する。
【0020】
別の方法では、カンチレバーの梁は、低いQ値(quality factor:Q)を有するように設計されている。高いQ値の梁と比較すると、これは機械的エネルギが散逸される割合を増加させる。走査中に、そのような梁上にあるプローブが表面からはじき飛ばされると、いかなる機械的な振動も減少して、プローブは試料の表面を追跡するためにすばやく戻る。1つの実施例において、カンチレバーの梁のQ値は梁を被覆することによって減少する。そして、被覆は、1つまたはそれ以上の振動モードの励起によって支持梁に機械的に蓄積されたエネルギを消費するようにされている。したがって、支持梁は被覆されていない梁のQ値と比較すると、その振動モードの1つまたはそれ以上において低くなる。被覆は、好ましくは例えば重合体薄膜(フィルム)などのエネルギ吸収材料から成り、少なくともプローブの片側に施される。
【0021】
明らかに、プローブが外部の直接的な力に従うとともに低いQ値を有するようにされている場合、この発明のプローブによる試料の追跡は最もよく達成される。しかしある状況では、これらの特徴のうちの1つだけが必要となる。プローブを試料の近傍に持ってくると、キャピラリネック(capillary neck)がその2つを接続して形成されると思われる。特に、プローブのQ値が十分低ければ、キャピラリネックから生じるバイアス力が支配的な復元力を形成することがわかる。同様に、より強いバイアス力が加えられた場合、梁のQ値はそれほど低い必要はない。この例では、機械的エネルギの散逸はプローブの試料表面との相互作用を介して生じていると思われる。
【0022】
AFMの被覆されたカンチレバーは従来技術に開示されているが、いずれも機械的振動の減衰に適した材料で被覆されていない。前述のUS5,515,719は、カンチレバーに力を加える磁気被覆を開示している。US6,118,124とUS6,330,824の両者は、放射線を検出するために被覆されたカンチレバーについて記載している。したがって、被覆は放射線によって影響を受け、放射線の強度はカンチレバーの特性の量的変化によって測定される。これをこの発明の被覆材料と比較すると、この発明の被覆材料は内部放射によって影響を受けないが、機械的エネルギを吸収する。
【0023】
別の局面では、この発明は、試料とプローブとの間の相互作用力に応じて試料を画像化するための原子間力顕微鏡を提供し、顕微鏡は、プローブと試料表面との間の相対的な走査運動を与えるように構成され、検出可能な相互作用がそれらの間で確立されるのに十分なほど、試料とプローブとを近づけることができる駆動手段、および
プローブの偏差および/または変位を測定するように構成されたプローブ検出機構を含み、
上述のプローブを含む顕微鏡であることを特徴とする。
【0024】
あるいは、顕微鏡は、動作時に、プローブを試料の方に向けたり、または逆に試料をプローブの方に向けたりするために方向づけられた力(Fdirect)で、試料およびプローブまたは試料とプローブとの間のいずれか一方または両方に力(Fdirect)が加わるように構成された力(Fdirect)発生手段を含むことによって特徴づけられる。
【0025】
さらに他の局面では、この発明は、ナノメートル・スケールの特徴とともに試料の走査領域から画像データを収集する方法を提供する。この方法は、
(a)プローブと試料との間で相互作用力が確立されるように先端半径が100nmまたはそれ以下である先端を備える支持梁を有するプローブを試料の近傍まで移動させるステップ、
(b)プローブが試料の方へ移動させられたり、逆に試料がプローブの方へ移動させられたりするように、試料とプローブとの間で力(Fdirect)を確立させるステップ、
(c)走査ラインの配列が走査領域をカバーするようにプローブと試料表面との間で相対的な動きを与えている間、試料の表面を横切ってまたはプローブの下の試料のいずれか一方を走査するステップ、
(d)プローブの偏差および/または変位を測定するステップ、および
(e)試料のナノメートル・スケールの構造に関する情報を抽出するため、ステップ(d)で得られた測定値を処理するステップ
を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
添付図面を参照して、単なる例示としてこの発明の各実施例を説明する。
【0027】
図2を参照して、全体的に10で、この発明のある局面に従って構成されたプローブの第1実施例を利用するAFMの概略的な実現方法が示されている。図示されたAFM装置10は、試料14を受けるようにされたプレート12を含み、プレート12は音叉16の1つのまた(prong)の上に組み立てられている。音叉16は圧電トランスデューサ18および粗動用駆動手段20に接続されている。圧電トランスデューサ18は試料14(プレート14と音叉16とともに)を3次元すなわちx、yおよびz方向に駆動するため使用される。この分野では通常、直交座標系のz軸は、試料14によって占有された平面に対して直交するようにとられる。すなわち、相互作用力は試料14(プローブが画像化を行っている画素)の上方のプローブ22のxy位置および試料14の上方の高さの両方に依存する。音叉制御部(図示しない)は、正弦波電圧を音叉16に印加するように構成されており、xy平面内で共振または共振に近い振動を励起する。プレート12および音叉16は、顕微鏡の他の部分から音叉16の振動を切り離すために、防振台(vibration isolating mount)32上で支持されてもよい。しかし、このプローブを利用する顕微鏡によって観察された画像周波数では、外部からのノイズはより低い画像周波数よりも問題とならない。そのため、防振台はなくてもよい。プローブ22は小さい質量のAFMのプローブである。そして走査中に、相互作用力がプローブ先端22aと試料表面との間で形成される。プローブ検出機構28は、相互作用力の強さを示すプローブ先端22aの変位または先端を支持する梁22bの曲がりを測定するように構成される。プローブ検出機構28によって集められたデータは解析されてディスプレイ30に出力される。
【0028】
一般的に、従来技術のカンチレバーのプローブは、シリコンまたは窒化シリコンから製作される。それは成熟したシリコン微細加工技術を用いて製造することができる。しかし、従来技術のカンチレバーのプローブと異なって、この発明に従うプローブ22は、プローブの支持梁22bに塗られた重合体被覆(ポリマーコーティング)22cを有する。後で詳細に説明するように、この被覆22cは、振動モードの励起を介してプローブに機械的に蓄積されたエネルギを散逸させ、その結果被覆22cの存在しない同じ梁と比較して、1またはそれ以上の振動モードのための支持梁のQ値を下げる。
【0029】
装置10を使用することによって画像を取得する際に、まず粗動用駆動手段20を使用して試料14をプローブ22に接触させる。プローブ検出機構28がプローブ22と試料14との相互作用力の結果としてのプローブの曲がりを測定している間に、精密な高さおよび初期開始位置の調整が圧電ドライバ18によって行われる。測定された曲がりが望ましいレベルに一度達すると、試料表面はプローブ22の下で走査される。プローブ22の下で試料14を走査するとき、音叉16は図の平面(y軸)内に入ったり平面外に出たりするような振動をするように設定される。これによって、試料が載せられた試料台が振動する。同時に圧電トランスデューサ18は試料14を垂直(x)方向に並進移動させる。試料の振動は、数ミクロンのオーダの比較的大きな振幅である。走査中に、プローブ検出機構28によって読み取りが連続的に行われる。それはこの技術分野において標準であるように、プローブからの反射レーザ光を使用してプローブの曲がりを測定する光てこ技術に基づく。プローブ検出機構28からの出力信号は直接プロセサとディスプレイ30に与えられる。
【0030】
前述のように、図2に示されたプローブ22は重合体材料22cで被覆されたという点で従来技術のそれらと異なっている。被覆22cは、プローブに蓄積されたエネルギを散逸させるのに適した材料それ自身が片側または両側に施される。
【0031】
Q値は単位次元のない量であり、それは振動の散逸(または減衰)を定量化するために使用される。それは次の特性を有する。
【0032】
Q=振動器に蓄積されたエネルギ/弧度あたりの散逸されたエネルギ
大きく減衰するシステムは、その中では蓄積されたエネルギが急速に散逸されるが、低いQを有し、少し減衰するシステムは高いQを有する。SiおよびSiN材料からなる振動器は内部損失がほとんどなく、その結果最も商業的に利用可能なAFMのカンチレバーは、典型的には空気中で5〜500のオーダの高いQを有する。さらに、タッピングモードでの使用のために設計された場合、カンチレバーが高いQを有することは有利となる。このモードでは、カンチレバーは共振でかつ振動の多くのサイクルに亘って測定される相互作用力で駆動される。振動サイクルにおけるエネルギ損失を最小にすることによって、高いQはメカニカルフィルタとして作用する。
【0033】
機械的な振動器は、振動の多くの共振モードを持つ。そしてこれらのモードの各々のQ値は異なっており、材料の特性の周波数依存性と振動器の形状とに依存している。ここでQ値に言及するとき、われわれはこれらのモードのいずれか1つについてのプローブの1つのQ値、あるいは一組のモードの複数のQ値について言及する。
【0034】
しかしこの発明の場合には、高速原子間力顕微鏡においては、低いQを有するプローブを使用することが望ましい。プローブが高いQを有する場合、変化に応答する長い時間が必要となる。そして、例えば試料表面上の高いつくりを横切って走査するような刺激が与えられると、プローブは共振モードの組み合わせで鳴る。この発明のプローブは、それの上の被覆22cによって低いQを有するように設計されている。Q値は、理想的には十分低いので、いかなる誘発された振動も決定的に減衰する。低いQ値の使用は、プローブの支持梁にエネルギがほとんど蓄積されておらず、そして試料表面の高い領域の上方を走査するときのような衝撃が与えられても、プローブは長くは“鳴らない”ことを意味する。このことにより、走査中に試料表面への迅速な復帰が可能となり、そしてより良い追跡が可能となる。
【0035】
プローブ上の被覆は、プローブに蓄積された機械的なエネルギを散逸させるように作用する。被覆されたプローブは、被覆されていないプローブよりも少ない機械的エネルギを蓄積し、特定の時間における被覆されたプローブの動きは、被覆が存在しなかったときのプローブの動きよりもその特定の時間にプローブ先端の下の表面とより密接に関係する。
【0036】
画像化された試料および選択された走査速度に依存し、画像化している間に第1または基本モードよりもより高いモードが励起されやすい。この場合、被覆はこのモードのQ値がかなり減少するように選択される。被覆のエネルギを吸収したり散逸したりする特性を調整することによって、プローブの質量の変化を最小にする一方、最も画像の品質を下げるプローブの振動を減少させたり除去したりすることができる。
【0037】
多くの重合体(ポリマー)材料が、被覆22cのために使用され得る。そして特別な選択の機会は当業者にとって明らかである。材料は、その粘性‐弾性特性によって選ばれる。すなわち、機械的エネルギを散逸させるという仕事を実行している間、カンチレバーを被覆する薄膜として、その形状を維持するために十分な弾性を保持していなければならない。機械的エネルギの散逸は、主として、分子スケールに、および重合体鎖とその周囲との間の摩擦係数に依存する粘性機構を介して生じる。理想的な被覆は、低い架橋密度を有するゴムであり、その程度はちょうど被覆の均一性を維持するのに十分であればよい。架橋は、従来のゴムに見られる化学的なもの、または熱可塑性のエラストマに見られる物理的なもののいずれかである。多数成分が室温よりも低いガラス転移温度を有するアモルファスゴム、および少数成分が室温よりも高いガラス転移温度を有するアモルファス重合体からなり、AFMの支持梁の両側に被覆されたブロック(block)共重合体材料は、室温で使用されるとき明らかに追跡能力を改善することがわかる。共重合体は、溶液流延法(solution casting)によって施される。すなわち、重合体を含む溶液の滴(drop)が、溶媒を揮発させるために高温で支持梁に置かれる。また他の熱可塑性のエラストマを使用してもよい。このような構成では、例えばWO02/063368に記載されている共振振動速度でさえ、試料表面を追跡できることがわかった。
【0038】
重合体材料および採用された利用方法に関する考察は、ある程度まで利用可能な選択を狭める。基本的な考えは、理想的には、質量、先端の鋭さ等のようなプローブの他の特性に過度の影響を及ぼさないエネルギ吸収する材料で被覆することである。支持梁に前述の共重合体を溶液流延することは、許容できる質量の増加を伴ったエネルギ散逸を増すことがわかった。しかし、他の被覆方法を使用することもできる。これらは、次の処理を含む。すなわち、支持梁上に帯電した重合体を電気分解槽の中に“引き込み(dragging)”、重合体(例えばチオールグループ(thiol group))に化学的にタグを付ける(chemically tagging)。そして、支持梁の材料との反応を利用し、または支持梁上の金属被覆(例えばチオール化学では金)との反応を利用して、支持梁に重合体を付着させる。
【0039】
前述のように、AFMのカンチレバー上の重合体被覆は公知である。しかし、そのような従来技術の被覆材料は内部の放射線を検出できるようにするために、それらの化学的性質によって選択される。すなわち、材料は特定の周波数でのエネルギを選択的に吸収する化学結合を有していなければならない。そのような材料は、高速顕微鏡の使用に適した効率を有する機械的エネルギの散逸には適していない。
【0040】
被覆22cを小型の支持梁の両側に施すことは、実際には、片側だけを被覆するよりも幾分容易に行うことができる。しかし、試料により近い支持梁の側面が被覆されずに残されていることが好ましい。片側の被覆は、プローブに蓄積された機械的エネルギを減少させるに十分であり、プローブが接触するときに試料を汚染するいかなる被覆材料の可能性も減らす。
【0041】
理想的には、被覆22cに使用される重合体材料は、プローブの予想された使用の温度でのエネルギ損失スペクトルでかつ支持梁の主要な共振モードの周波数範囲においてピークを有する。それゆえ、典型的には、それは弾性のある重合体でなければならない。あるいはまた、弾性のある重合体の成分比が高い共重合体または他の合成物が使用される。
【0042】
ポリマー被覆がカンチレバーの隙間を横切って施されれば、その被覆のエネルギ散逸は増加する。すなわち、薄い重合体膜がカンチレバーの穴の橋渡しをする場合、薄膜は内部でエネルギを散逸させるとともに例えば空気などの周囲の流体媒質との相互作用領域を増加させる。粘性によるエネルギの散逸はこのルートによって増加し、同時にカンチレバーのばね定数を最小にする。
【0043】
図3は、全体として10で、この発明に従って構成されるプローブの第2の実施例を利用するAFMの概略的な実現方法を示す。AFM装置10は図2に示されるそれと非常に類似しており、両方のシステムに共通の構成要素は同様に参照される。前述の場合と同様に、試料14を載せるプレート12は、xy平面内で共振または共振に近い振動によって駆動される音叉16の1つのまたの上に取り付けられる。試料14(プレート12および音叉16とともに)は、試料14(プローブが画像化を行っている画素)の上のプローブ22のxy位置および試料からの高さとの両方に依存して形成される相互作用力を伴いながら、3次元、すなわちx、yおよびz方向に走査される。プローブ22のカンチレバー部は、重合体薄膜によって両側を覆われており、1Nm−1以下の低いばね定数を有するように形成される。しかし図2に示されるカンチレバーと異なって、この発明のこの実施例に従ったプローブ22は、先端22aの上方に取り付けられた磁気素子24(ビーズ(bead)は図3に描かれている)を備えている。また、磁石は、磁気ビーズ24に力を及ぼすのに十分な強さの磁界を与えために、例えばプレート12の下などのAFM内に組み込まれている。力は、磁気トルクを介してプローブに加えられるか、または磁気勾配(magnetic gradient)を通して加えられる。図3に示される装置10に関して、プローブ検出機構28は、プローブ22の曲がりを測定するように構成される。プローブ検出機構28によって集められたデータは、解析されてディスプレイ30に出力される。
【0044】
装置10を使用して画像を取得する場合、相互作用力を確立する接触機構および走査技術は、実質的に図2の装置10に関連して記載されている。一度相互作用力の望ましいレベル、およびそれゆえプローブの支持梁22bの曲がりが確立されると、図2の装置10にはない磁石26は、スイッチを入れられ、そして磁界Bがプローブ先端22aの近くに発生する。磁気ビーズ24はこの磁界と相互作用する。この磁界は、結果として生じる磁力がビーズ24を試料14の方へ下向きに引っぱる方向である。このためプローブ先端22aは、この磁力の直接的な作用によって試料14との接触を保つ。磁界Bとともに試料表面は振動し(音叉と試料台との共振周波数で)、そしてプローブの下を走査され、前述の場合と同様に出力信号が処理される。
【0045】
図4〜7は、全体として10で、この発明に従って構成されるプローブのさらに他の実施例を利用する、別の代替形態であるAFMの概略的な実現方法を示す。各々の場合において、AFM装置10は図2および3に示されるそれと非常に類似している。そして、全ての装置に共通の構成要素は同様に参照される。前述の場合と同様に、試料14はプレート12上に載せられている。図2および3に示される実施例と異なり、図4、5、6および7では、プローブは音叉16の1つのまたの上に取り付けられ、試料に対するプローブの接近および粗動位置決めと微動位置決めの両者は、例えば圧電トランスデューサ18、20によって制御される。それらはプレート12よりもむしろプローブ2と音叉16の移動を制御する。この構成によって、固定されたプローブの下方で試料が走査されるよりもむしろ、共振走査法を使用して試料の上方でプローブを走査できる。図4に関して、共振器16およびプローブ22はx−y−z圧電トランスデューサ18を使用してx軸方向に走査される。一方図5および6において、走査中に走査方向(x方向)における相対的なプローブ/試料の移動の制御は、プレート12に接続されたトランスデューサ70によって行われる。このように、プローブが固定されている間に試料が両方の軸方向に走査されるか、または試料が固定されている間にプローブが走査されるか、または他方の動きによって他の軸方向に走査されているとき、プローブあるいは試料の一方または他方が1つの軸方向に走査されるかのいずれかである。図7の場合、相対的なプローブ/試料の走査移動の制御は、共振器16およびプローブ22に接続されたトランスデューサ70によって与えられる。そして、走査を開始する位置のそのような正確さはすべての場合において要求されないように、微動位置決め制御ははずされている。これは、共振走査方法と関連して記載された発明を用いることによって得られる、非常に速い走査速度の追加の利点を強調する。画像化速度は、機械的なノイズに対する共通の周波数より高く、粗動位置決め方法に一般に存在する動きの不安定性よりも高い。したがって、通常要求される高精度の圧電トランスデューサによって散逸させることができる。
【0046】
図4、5および7において、プローブ先端22aには、先端22aを試料14の方へ向ける力が加えられる。図4の例示において、力は、引きつける力で、プローブ先端22aとプレート12との間に印加されるバイアス電圧によって生じる。それゆえ、プローブ先端22aとプレート12は電源60の端子を介して直列に接続される。プローブ先端22aとプレート12との間で必要な引きつける力を確立するため、プローブが低いQ値を有するようにするため、プローブに、減衰させる被覆22cに加えて導電性の被覆50が施される。図6の場合には、試料14とプローブ先端22aは、例えば液体環境のような密閉された高い粘性の環境80の中に置かれる。この実施例において、電源60は導電性の被覆50および、試料プレート12の下で粘性の高い環境の外部に位置する第2プレート90に接続されている。プローブを液体環境に置くことは、1に近い低いQ値を有するプローブにすることとなるので、プローブを液体(生物学的試料の場合に望ましい)の中に浸すことによって、減衰させる被覆22cがプローブから除かれる。
【0047】
この発明に必要な特徴を正しく認識するために、走査が行われている間に含まれる力の図解表現を見ることは役に立つ。これは図8に描かれており、それは図1と同じ装置を示しており、同じような構成要素が同様に参照されている。図8を参照して、この発明の原子間力顕微鏡(AFM)のプローブによって走査される試料1が示されている。プローブは、それから支持梁3が延びる基板2を含み、支持梁3は基板2から離れた端部に取り付けられた鋭いプローブ先端4を有する。走査の準備のため、プローブ先端4を試料1に接触させて移動させるように下方向の力(Fexternal)がAFMに取り付けられた基板2の端部のプローブに加えられる。走査中の接触を保つために、力Fexternalは、先端4を試料1に単に接触させるために要求される力よりも大きい。その結果、支持梁3は、試料が走査されるとき、力Fdirectの存在により本来の位置(rest position)5から上方に曲がる。前述の場合と同様に、kxに比例する力は、支持梁の曲がりの結果として生じ、プローブ先端4を試料表面の方へ下向きに向ける。
【0048】
この発明に従って設計されたプローブが、たとえば隆起した部分とぶつかることによって試料表面からそれる場合、2つの因子がプローブを接触する方向に戻す手助けをする。このことにより、高速走査においてさえ、より良い表面の追跡を行うことができる。第1に、図3〜7に示される実施例において最も明確に見られるように、プローブを試料の方に近づけるように作用する第2の力Fdirectは、プローブを表面に接触させるために戻す時間を最小にするように調整される。この力は、ほとんど表面形状に依存しないが、プローブの応答時間を短くさせる。第2に、プローブはエネルギ吸収材料で被覆されて(または液体に浸されたて)いる。エネルギ吸収材料や液体は、プローブに蓄積された機械的なエネルギを減少させ、そしてさらに表面と接触した安定状態に速くなるようにするために、前述の衝撃(impulse)がその動きにおいて有する効果を減少させる。
【0049】
プローブを表面に保持する復元力の合計は、数1による。
[数1]
direct+kx
理想的には、追加の力Fdirectはカンチレバーが曲がる力kxよりも大きい。さらに、その大きさはプローブを表面に接触させるために十分な大きさであり、ほぼ1つの画素内で接触を失うべきである。
【0050】
図3に描かれた実施例では、追加の力Fdirectは、磁界が、例えばビーズまたは磁気被覆のような磁気素子を組み込んだプローブ先端に与えられることによって生じる磁力である。そのため明らかに、AFM内の磁石の位置は臨界的でなく、プローブ先端4を試料1の方に引っぱる下向きの力成分が生じるように単に構成されなければならない。次の実施例では、追加の力Fdirectは静電気力である。
【0051】
図2に描かれた実施例において、追加の力Fdirectはプローブの追跡性能に寄与するが、その発生源(origin)は複雑である。プローブと試料は近接しているので、キャピラリネックは、その2つを接続するように形成すると一般的に思われている。このキャピラリネックは、プローブ−試料の接触を強くする空気中において画像化されるとき、試料環境に必ず存在する流体から生じると考えられている。通常の動作において、キャピラリネックから生じる直接的な力Fdirectは十分に大きいので、Fdirect>kxである低いQのプローブに支配的な復元力を早く形成することがわかる。これは特に親水性の表面に対して正しい。例えば窒化シリコンのように、親水性を有するプローブを選択することによって、プローブと試料との間にキャピラリネックが形成される。
【0052】
追加の直接的な力Fdirectの発生源に関係なく、支持梁がまっすぐになるにつれて、プローブの低いQは蓄積されたエネルギを急速に散逸させる。そしてプローブの試料表面との接触は直接的な力Fdirectの作用によって回復する。したがって、プローブによる試料表面の追跡は,カンチレバーの曲がり力kxに依存する従来技術の追跡機構よりも早く作用する、ある種の機械的なフィードバックループによって達成される。
【0053】
ここに記載された顕微鏡では、プローブの端部は、振動の第1モードよりもかなり高い周波数で応答する。このため、プローブの曲がりと垂直な位置との間に簡単な関係はもはやなく、曲がりの程度が垂直方向の位置でどれくらいになるかに依存する。このため、分割されたフォトダイオード上にあるプローブの背面からのレーザの反射に基づく方法を使用して得られた画像は、表面の形状に一致しないが、形状と傾きの組み合わせにかなり一致する。形状に一致する画像を得るために、プローブの変位は例えば干渉測定法を使うことによって監視される。例えば、ファイバ干渉計は、ファイバに対するプローブの端部の位置を監視するために使用される。またはウォラストンプリズム(Wollaston prism)に基づく干渉計が、他の点に対するプローブの端部の位置を監視するために使用される。または干渉顕微鏡はプローブの端部の位置を監視するために使用され、その場合、顕微鏡の視野内のプローブの端部に一致する位置における光学的な強度は垂直方向の位置によって変わる。いずれの方法が使用されても、計測学のための特定の応用例とともに、表面の形状に一致する画像が得られる。
【0054】
direct>kxを達成できるようにするために、プローブは比較的小さいばね定数を有するようにさらに設計されるべきである。典型的には、これは1Nm−1以下となるべきであり、それは適切に形作られたプローブを使用することによって達成することができる。この発明において、カンチレバーの偏差はプローブが存在する空間の位置、すなわちプローブと試料との間の相互作用力を決めるため、そして画像が収集されるためにのみ役に立つ。
【0055】
1つのプロトタイプのプローブ設計において、カンチレバーは0.01と0.06Nm−1との間の典型的なばね定数を有する。許容できる範囲は、画像化されるべき形状の高さに依存する。形状が50nmの高さである場合、プロトタイプのプローブは0.5nNと3nNとの間の復元力を働かせる。先端にかかる直接的な力は、図4、5および7に示された装置によって発生するキャピラリネックからの力と静電気力との組み合わせの結果、1〜100nNのオーダであると見積もられる。静電気力の大きさは、画像が最大となるように制御される。これによって、最も速く要求された応答、およびそれゆえに最大先端速度に対して設定され、操作中に表面を損傷したり壊したりしない、可能な限り最も大きな力が先端に与えられる。
【0056】
試料の追跡においてカンチレバーの力に頼ることと対比すると、直接的な復元力Fdirectを利用する能力は従来技術に対して重要な改良を表す。機械的エネルギを蓄える能力が減少したプローブを提供することによって、プローブに働く本質的な力は、直接的な力Fdirectと表面によるプローブの急速な曲がりによる力であり、ここで直接的な力Fdirectが支配的な力である。これは、直接的な力が“自然の(natural)”力であるか否かにかかわらず、キャピラリネックによって発生し、例えば磁気ビーズを介して加えられる追加の外部からの力に適用される。いずれの場合でも、復元力はプローブの位置に実質的に依存しない大きさを有する。対照的に、従来技術の復元力kxの大きさは本来の位置からのカンチレバーの変位xに比例する。したがって、高い復元力は試料の特に高い領域で発生する。このようにして復元力が変化すれば、試料が損傷されないということを常に保証することは非常に難しい。この発明により実現された復元機構は試料の高さにほとんど依存しない大きさを有する。
【0057】
図示されているように、加えられた力が磁力であることは重要ではないが、大きさが試料の高さに依存しない力が好ましい。プローブに存在する振動モードからのいかなる力もプローブを表面から離すことがないようにするため、表面の方に向かう正味の力があることが要求される。したがって、直接的な力Fdirectが大きくなればなるほど、被覆によるエネルギ吸収や散逸に対する要求は厳密でなくなる。この点に関し、Fdirectの源であるキャピラリネックに依存する低いQのカンチレバーによってこの発明を実現することが可能であるが、かつ偏差に依存しない外部からの力が加えられることが好ましい。ここに記載された実施例に図示されているように、静電気力または磁力を受けるプローブは、より制御しやすく、また最も品質が高い画像を形成するためにより多くの選択肢を与える。
【0058】
図9a〜9fは、従来のAFM装置に対するこの発明のプローブの性能の改良を明瞭に図示している。図9a、9bおよび9cは全て同じ表面領域の画像である。そして、図9d、9eおよび9fは同様に全て他の表面領域の画像である。すべての場合において、縮尺棒(scale bar)は1ミクロンを表している。画像化されている表面の材料は、ガラス基板上に載せられた、結晶化されたポリエチレン酸化物(poly(ethylene-oxide))(PEO)である。図9aおよび9dはこの発明のプローブを使用することによって得られた画像であり、図9bおよび9eはプローブの高さの変化を監視する従来のAFMを使用することによって得られた画像であり、そして図9cおよび9fは偏差の変化を監視する従来のAFMを使用することによって得られた画像である。図9aおよび9dの画像を得るために、薄い重合体膜で被覆された商業的に利用可能なカンチレバーを有するナノスコープ(商標)IV制御器(NanoscopeTMIV controller)付きのビーコディメンジョン3100(商標)AFM(Veeco Dimension 3100TM AFM)が使用されている。試料は、水晶共振器および5ミクロンの圧電層(ドイツのフィジックインスツルメンツ社(Physik Instrument)のP−802およびE−505)から構成される小型の共振スキャナに載せられている。図9aおよび9dのデータを収集するために、インフィニテシマ有限会社(Infinitesima Ltd)の共振走査制御器(Resonant Scanning Controller)が使用された。
【0059】
図9aおよび9dは、128×128画素配列から構成され、わずか14.3ミリ秒で得られたものである。各画像の中央におけるプローブ先端の速度はそれぞれ22.4cms−1および16.8cms−1である。
【0060】
このようにこの発明では、画像の収集に30秒以上かかる従来のAFMと異なり、数平方ミクロンの面積の画像がミリ秒で得られる。図示された実施例は、従来のAFM顕微鏡による検査で現在使用されているものと等価の先端速度で走査されているが、実施例では、0.1cms−1以上の先端速度が可能であり、試料表面の平坦性に依存して50.0cms−1を超える先端速度が達成される。例えば、先端速度22.4cms−1で4.4×4.4平方ミクロンの面積は14.3ミリ秒で画像化され、1.5×1.5平方ミクロンの面積は8.3ミリ秒で画像化される。さらにこの速度ですら、柔らかい重合体表面によって、横方向に10nm、垂直方向に1nmの以上の分解能を有する画像が得られる。
【0061】
さらにこれらのプローブ先端の速度では、試料がより低速度の場合よりも損傷を受けにくいと思われることが観測された。各点でプローブ先端はほとんど時間を費やさないので、試料はほとんど変形せず、このため塑性変形を開始するポイントに達しにくい。この発明における試料の表面は剪断率が約10ms−1であり、それは例えば多くの重合体がガラスの特性を示す剪断率である。一般的に、より高い周波数が粘弾性液体をガラス転移温度を通過して押し下げるので、プローブが“見る”表面の特性を、試料への損傷がより少なくなるように変えることがわかっている。
【0062】
この発明のプローブは低いQを有するものが選択されるので、その結果理想的にはいかなる誘起された振動も決定的に減衰する。ここに記載されたように、最も好しく、そしてキャピラリネックによる自然の復元力によって改良された追跡が可能となるのに十分効果的である構成は、プローブの支持梁の片側または両側を、例えば重合体薄膜のようなエネルギ吸収材料で被覆することである。別の代替形態は、特に大きな磁力(または他の追加の力)が加えられる場合、プローブの形状の注意深い選択によって低いQを保証することを意味する。さらに別の代替形態は、走査中に単に粘性の高い液体環境の中にプローブを浸すことによって低いQ値を与えることである。さらに別の代替形態は、プローブの支持梁の特性を電気的に変えることである。例えば支持梁は、より低い効果的なQ値を与えるために選択された電気的に応答する材料から形成されていたり、それを含んでいたりする。
【0063】
支持梁、プローブ先端、および磁気ビーズのようないかなる追加構成要素は、理想的には小さい質量である。このことにより、与えられた復元力のために表面に戻る先端の加速が自然に増加し、その結果プローブが表面をより良く追跡することができる。
【0064】
支持梁は、理想的な応答を促すために特注設計である。すなわち、プローブが試料を追跡するときに曲がることによる方向依存性のある復元力を最小化し、そして振動を減衰させるため、応答はプローブを表面から離すべきである(低いQ値)。ここではしばしばカンチレバーの設計について言及してきたが、これは、単に使用が従来技術のAFMをこの新しい目的に適合させることにあるからである。従来技術のAFMは、カンチレバーのプローブを使用する。この発明に要求されるすべてのものは、プローブ先端が試料に対して定義可能な横方向の位置(xy平面)と、z軸方向の自由な動きを有することである。従来技術のAFMのカンチレバーのプローブは容易にこの機能を実現することができるが、それは唯一の解決策ではない。
【0065】
プローブ先端のための支持梁を含む実施例に戻り、図10は、上方から見た図で、復元力を減らし、そしてQ値を低くすることができ、様々な可能性がある、より複雑な梁の設計の特徴を図示している。ここで述べたように、重合体の被覆は、さらに応答に合わせた各設計とともに使用される。図10(c)は、より従来型の梁の形を示している。しかし、図10(a)および(b)は別の可能性を示している。各設計において、領域1〜4は強調され、各領域は特定の特性を有するように設計される。各図(a)〜(c)は基板の前方に伸びる1つまたはそれ以上の支持梁を図示している。
【0066】
すべての場合において、領域1は旋回点(pivot point)である。すなわち、カンチレバーがそのまわりに弧を描くように振動する領域である。したがって、領域1は、z軸に沿って非常に小さいばね定数(理想的には<0.01Nm−1)を有し、xy平面で非常に大きなばね定数を有する。先端の横方向の位置は、基板の位置に対して決められるが、小さい偏差であるため試料の表面に垂直な方向には自由に動くことができる。
【0067】
領域2は基礎的な梁の構造を形成する。それは、高い基本的な共振周波数では曲がりにくくなっていなければならない。
【0068】
領域3は曲げ領域であり、それによって先端を上下に移動させることができ、梁を先端領域に接続している。この領域のばね定数は、先端の共振周波数がプローブの応答時間よりも高くなるように選択される。すなわち、機械的なフィードバックループのバンド幅よりも大きくなるように選択される。この領域は、空気中で減衰するように被覆された重合体であるべきである。液体中で画像化する場合、被覆の必要性は、液体環境におけるエネルギ散逸特性によってほとんどなくなる。
【0069】
領域4は先端領域である。プローブ先端はより低い表面の部分に取り付けられるか、またはより低い表面の部分を形成する。領域の面積は、光学てこおよび他の光学的システムのような、本質的に数平方ミクロンよりも大きな横方向の面積となる位置検出システムによって位置が決められるのに十分な大きさでなければならない。
【0070】
表面の方に向かせるために外部の直接的な力がプローブに加えられる実施例では、この力に応答する素子は、先端領域4、梁領域2またはその両方に位置する。しかし、それは先端領域に位置することが好ましい。
【0071】
図11および12は、小さくて制御されたばね定数を梁に形成する例示を図示する。
本質的には、図11に示されているように、これは支持梁の要求された位置に穴を形成することを含む。図11(b)および(c)に示される設計は、図11(a)のそれと比較して横方向の安定性が増すように行われている。図12に示される例示のように、重合体被覆の特性を制御するために、穴の形状が変化する。すなわち、丸い、四角い、あるいは他の形の穴は、重合体被覆が梁の表面に形成される方法に異なった影響を与え、次にカンチレバーの減衰特性に影響を与える。
【0072】
プローブ支持梁を特注設計する利点は、振動の減衰と復元力に依存する偏差の減少とに対する明確な要求の分離ができることである。特に、試料表面の高い領域にぶつかることによって唯一の支配的なモードが励起されるように設計される。したがって、従来技術のカンチレバーの梁が複数モードを必要とするのとは対照的に、このモードでは例えば被覆によって、支持梁が低いQ値を有することを保証することのみが必要である。
【0073】
図2〜7に示される装置は、単に典型的なAFMを図示しているだけであることに留意する必要がある。画像を得るための主要な方法としてプローブの高さを制御する従来のフィードバック制御をはずした、この発明が実現されるAFMの多数の異なる実施例がある。例えば、音叉のような共振器が取り付けられることは必要ではない。この構成は、共振振動を利用する高速走査技術へのこの発明の適用可能性を単に例示するためにこれらの実施例で使われている。それは同じように低速走査方法に適用できる。試料14に代わりにプローブ22が振動する。この別の実施例では、光学的技術がプローブの変位を監視するために使用され、画像化のための支持梁は、速い走査軸を取り巻くのに十分広いことが考えられる。
【0074】
プローブの偏差/変位は光学てこ技術以外の方法によって測定される。この技術分野においてよく知られた別の技術は、干渉計による測定および圧電的に被覆されたプローブならびに熱せられたプローブの放射出力(radiant output)における熱変化の検出を含む。プローブの偏差/変位を監視する干渉計による測定を行うことによって、プローブの偏差データから試料表面の形状データを純粋に抽出することができる。そのデータは、プローブが応答する周波数のために、試料表面の形状と空間的な特徴の周波数の両方を表す。また、試料プレート/プローブの動きを制御する圧電アクチュエータの使用が好ましいが、例えば制御棒の熱膨張を含む他のアクチュエータも考えられる。
【0075】
プローブのQ値の制御は、プローブの支持梁をエネルギ吸収材料で被覆することによって特徴づけられ、プローブのQ値を制御するための他の手段は電気的な制御を含むと考えられている。
【0076】
プローブの走査領域よりも大きな表面領域を画像化するために、異なった、通常隣接する領域の分離された、連続的な画像が生成され、そしてより大きな面積にわたる画像を組み立てるために結合される。個々の像の位置決め微調整の前に、分離された画像間でプローブおよび/または試料プレートを移動させるためにステッパモータまたは他のアクチュエータが使用される。理想的には、個々の画像の整合性を視覚によって確認できるように、個々の走査領域は重複するように選択される。
【0077】
音叉16が使用される場合、それは多くの市販の音叉の1つ、または振動の所望の周波数を発生させるために特注設計によって作られた1つであってもよい。適切な例示は、共振周波数が32kHzである水晶音叉である。音叉は、高い異方性のある、機械的な特性を有するように設計されているので、この応用例に適している。このため、共振は独立していて、個々に励起され、試料の平面内におけるそれ(またはそれら)のみに限定される。重要なことは、モード間に生じる結合がなくても、音叉16は1つの方向に共振しそして別の方向に走査される。このため、プローブ22によって試料が調べられるので、試料14の安定した速い動きが可能となる。横方向と垂直方向の共振がよく分離された類似の能力を有する機械的な共振器が音叉の代わりに使用されることができる。
【0078】
この発明は、プローブと試料表面との間の相互作用力があることが要求されるが、純粋なAFMの操作に限定されない。しかし、操作のこのモードは、他の相互作用またはプローブと試料との間の相互作用指標を監視するために設計された顕微鏡の構成要素と組み合わせることができる。他の相互作用の例は、光学的な力、静電容量的な力、磁気的な力、剪断力あるいは熱的な相互作用を含む。他の指標は、振動振幅、タッピングまたは剪断力のいずれか、静電容量または誘導電流を含む。一般的なプローブ顕微鏡の操作のこれらのいろいろなモードは、例えば英国特許出願番号0310344.7に記載されている。
【0079】
AFMにおいて利用されるプローブと試料表面との相互作用は、表面の特性に影響を与え、そして試料に情報を慎重に“書き込む”。この技術はナノリソグラフィとして知られており、AFMはこの目的のために広く使用されている。例えば、導電性のカンチレバーに電圧をかけることによって、試料ウエハの金属層の領域が酸化される。2フォトン吸収とフォトレジストの重合を利用する他の例示がXiaobo Yinその他による“Near−field two−photon nanolithography using an apertureless optical probe”、 Appl. Phys Lett.、81(19)、3663頁、2002年、に記載されている。両方の例示において、プローブの非常に小さいサイズによって情報が極端に高密度に書き込まれる。この発明のAFMとカンチレバーはまたナノリソグラフィにおける使用に適合されている。この発明の表面の追跡を改良する能力は、以前に達成されたよりもより速い書き込み時間の可能性を提供するだけでなく、書き込み密度のように増加した画像の分解能を高める可能性も提供する。ナノリソグラフィでの使用により適合させるようにするため、プローブ先端は導電性であり、表面との光学的な相互作用を増大させるために金属で被覆されている。または、プローブ先端は浸されたリソグラフィの応用例に使用される選択された分子種(molecular species)で覆われている。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】図1は従来技術の原子間力顕微鏡において、カンチレバーのプローブが試料表面と接触するときに含まれる力の概略図である。
【図2】図2はこの発明の第1実施例に従ったプローブを含む原子間力顕微鏡の概略的な実現方法を示す。
【図3】図3はこの発明の第2実施例に従ったプローブを含む原子間力顕微鏡の概略的な実現方法を示す。
【図4】図4はこの発明の第3実施例に従ったプローブを含む原子間力顕微鏡の概略的な実現方法を示す。
【図5】図5はこの発明の第4実施例に従ったプローブを含む原子間力顕微鏡の概略的な実現方法を示す。
【図6】図6はこの発明の第5実施例に従ったプローブを含む原子間力顕微鏡の概略的な実現方法を示す。
【図7】図7はこの発明の第6実施例に従ったプローブを含む原子間力顕微鏡の概略的な実現方法を示す。
【図8】図8は図2〜7のAFMにおいて、プローブが試料表面と接触するときに含まれる力の概略図である。
【図9】図9aおよび9dはこの発明に従ったプローブを使用して、製造された結晶化ポリエチレン酸化物(PEO)試料の2つに分離された表面領域のAFMによる画像である。図9b、9c、9eおよび9fは図9aおよび9dと同じ表面領域の従来のAFMによる画像である。
【図10】図10はこの発明のプローブのために注文されたカンチレバーの設計の例示を示す。
【図11】図11は注文されたカンチレバーにおいて、小さい、制御されたばね定数の領域の形成を示す。
【図12】図12は注文されたカンチレバーにおいて、小さい、制御されたばね定数の領域の形成を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子間力顕微鏡における使用またはナノリソグラフィのためのプローブ(22)であって、100nmまたはそれ以下の先端半径を有するプローブ先端に接続された力検知部材を含むプローブにおいて、実質的に偏差に依存せず、プローブ先端と試料のいずれか一方または両方を互いに近づけるために外部から加えられる力に応答するバイアス素子(24、50)を含むことを特徴とするプローブ。
【請求項2】
バイアス素子は外部から加えられる磁力に応答する磁気素子(24)を含むことを特徴とする、請求項1記載のプローブ。
【請求項3】
磁気素子(24)は先端に隣接する力検知部材に取り付けられていることを特徴とする、請求項2記載のプローブ。
【請求項4】
バイアス素子は、プローブ(22)と試料との間に電圧を印加する電源(60)の1つの端子に接続するように適合された導電性部材(50)を含むことを特徴とする、請求項1記載のプローブ。
【請求項5】
バイアス素子はプローブ先端に隣接して配置されることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載のプローブ。
【請求項6】
原子間力顕微鏡における使用またはナノリソグラフィのためのプローブ(22)であって、100nmまたはそれ以下の先端半径を有するプローブ先端に接続された力検知部材を含むプローブにおいて、外部から力が加えられるとき、試料にプローブが近づくにつれて、バイアス力によって、プローブ先端の変位から生じる復元力よりも大きな大きさでプローブ先端と試料のいずれか一方または両方が互いに近づくようにされていることを特徴とする、プローブ。
【請求項7】
力検知部材は、力検知部材の1つまたはそれ以上の振動モードのために低いQ値を有することを特徴とする、請求項1ないし6のいずれかに記載のプローブ。
【請求項8】
力検知部材は、1またはそれ以上の振動モードの励起を介して、力検知部材に別の方法で機械的に蓄積されたエネルギを散逸させるように適合された減衰素子(22c)を含むことを特徴とする、請求項7記載のプローブ。
【請求項9】
減衰素子(22c)は、力検知部材の少なくとも片側に機械的エネルギ吸収材料の被覆を含むことを特徴とする、請求項8記載のプローブ。
【請求項10】
エネルギ吸収材料は重合体薄膜であることを特徴とする、請求項9記載のプローブ。
【請求項11】
重合体薄膜は、多数成分がアモルファスゴムそして少数成分が水晶またはガラス成分である共重合体から形成されることを特徴とする、請求項10記載のプローブ。
【請求項12】
力検知部材は溶液流延法によって重合体で被覆されることを特徴とする、請求項10または11記載のプローブ。
【請求項13】
減衰素子(22c)は、制御されたばね定数を有する力検知部材(3)の領域(領域3)によって与えられることを特徴とする、請求項8記載のプローブ。
【請求項14】
試料とプローブ(22)との間の相互作用力に応じて試料を画像化するための原子間力顕微鏡(10)であって、
プローブ(22)と試料表面との間の相対的な走査運動を与えるように構成され、検出可能な相互作用がそれらの間で確立されるのに十分なほど、試料とプローブ(22)とを近づけることができる駆動手段(16、18、20、70)、および
プローブ(22)の偏差および/または変位を測定するように構成されたプローブ検出機構(28)を含む顕微鏡において、
請求項1ないし13のいずれかに記載されたプローブ(22)を含むことを特徴とする、顕微鏡。
【請求項15】
プローブ(22)と試料との間で相対的な振動運動を引き起こすために、プローブ(22)または試料台のいずれかに機械的に結合された共振振動器をさらに含む、請求項14の記載の原子間力顕微鏡。
【請求項16】
試料とプローブ(22)との間の相互作用力に応じて試料を画像化するための原子間力顕微鏡(10)であって、
プローブ(22)と試料表面との間の相対的な走査運動を与えるように構成され、検出可能な相互作用がそれらの間で確立されるのに十分なほど、試料とプローブ(22)とを近づけることができる駆動手段(16、18、20、70)、および
プローブ(22)の偏差および/または変位を測定するように構成されたプローブ検出機構(28)を含む顕微鏡において、
動作中に、力(Fdirect)が試料とプローブ(22)のいずれか一方または両方、または試料とプローブとの間で、プローブ(22)を試料の方に向けたり、逆に試料をプローブ(22)の方に向けたりするように力(Fdirect)が加えられる、力(Fdirect)発生手段(24、26、50、60)を含むことを特徴とする、顕微鏡。
【請求項17】
力(Fdirect)は、プローブ(22)の偏差の程度に実質的に依存しない大きさを有することを特徴とする、請求項16記載の顕微鏡。
【請求項18】
プローブ(22)はばね定数kを有し、プローブ(22)の特性と加えられた力(Fdirect)は、少なくとも所定の時間尺度の範囲内で、試料の表面を走査するときに力(Fdirect)が、プローブ(22)に偏差xによって与えられる復元力kxよりも大きくなるように選択されることを特徴とする、請求項17に記載の顕微鏡。
【請求項19】
プローブ(22)は1Nm−1以下のばね定数kを有することを特徴とする、請求項18記載の顕微鏡。
【請求項20】
力(Fdirect)発生手段は、磁石(26)およびプローブ(22)に組み込まれた磁気素子(24)を含むことを特徴とする、請求項16ないし19のいずれかに記載の顕微鏡。
【請求項21】
力(Fdirect)発生手段は、プローブ先端と試料との間で引きつけるバイアス電圧を印加する手段(50、60)を含むことを特徴とする、請求項16ないし19のいずれかに記載の顕微鏡。
【請求項22】
力(Fdirect)発生手段はプローブ(22)と試料との間でキャピラリネックの形成を促進する試料環境を含み、キャピラリネックは加えられた力(Fdirect)を与えることを特徴とする、請求項16記載の顕微鏡。
【請求項23】
力(F)発生手段はプローブ(22)上に親水性の表面をさらに含むことを特徴とする、請求項22記載の顕微鏡。
【請求項24】
プローブ(22)は低いQ値を有することを特徴とする、請求項16ないし23のいずれかに記載の顕微鏡。
【請求項25】
顕微鏡の操作中に、液体中にプローブ(22)と試料とを浸す手段(80)をさらに含むことを特徴とする、請求項24記載の顕微鏡。
【請求項26】
プローブ(22)の力検知部材(3)は、1またはそれ以上の振動モードの励起を介して、力検知部材に別の方法で機械的に蓄積されたエネルギを散逸させるように適合された減衰素子(22c)を含むことを特徴とする、請求項24記載の顕微鏡。
【請求項27】
減衰素子は力検知部材の少なくとも片側に重合体材料の被覆を含むことを特徴とする、請求項26記載の顕微鏡。
【請求項28】
プローブ(22)と試料との間で相対的な振動運動を引き起こすためにプローブ(22)と試料台のいずれか一方に機械的に結合された共振振動器をさらに含むことを特徴とする、請求項16ないし27のいずれかに記載の原子間力顕微鏡。
【請求項29】
ナノメートル・スケールの特徴を有する試料の走査領域から画像データを収集する方法において、
(a)プローブ(22)と試料との間で相互作用力が確立されるように先端半径が100nmまたはそれ以下である先端を取り付けた力検知部材を有するプローブ(22)を試料の近傍まで移動させるステップ、
(b)プローブ(22)が試料(14)の方へ移動させられたり、逆に試料(14)がプローブ(22)の方へ移動させられたりするように、試料とプローブ(22)との間で確立される実質的に偏差に依存しない力(Fdirect)を引き起こすステップ、
(c)走査ラインの配列が走査領域をカバーするようにプローブ(22)と試料表面との間で相対的な動きが与えられている間、試料の表面を横切ってまたはプローブ(22)の下の試料のいずれか一方を走査するステップ、
(d)プローブ(22)の偏差および/または変位を測定するステップ、および
(e)試料のナノメートル・スケールの構造に関する情報を抽出するため、ステップ(d)で得られた測定値を処理するステップを含むことを特徴とする、方法。
【請求項30】
ステップ(c)において振動モードの励起によって力検知部材に別の方法で蓄積されたエネルギを散逸させるステップをさらに含むことを特徴とする、請求項29記載の方法。
【請求項31】
ステップ(c)におけるプローブ(22)と試料表面との間の相対的な動きは共振振動器によって与えられることを特徴とする、請求項29または30記載の方法。
【請求項32】
試料とAFMのカンチレバーのプローブ(22)との間の相互作用によって試料に情報を書き込むための走査型プローブ顕微鏡において、
プローブ(22)と試料表面との間で相対的な走査運動を与え、そして試料とプローブ(22)とを近づけることができるように構成された駆動手段(16、18、20、70)、
典型的に1本の走査ラインよりも短い時間尺度で、プローブと試料との間の相互作用の強さを断続的に変え、そしてプローブの位置で試料の特性を断続的に変化させるように構成されたプローブ書き込み機構を含み、
顕微鏡(10)は、動作時に、実質的に偏差に依存しない力(Fdirect)が試料およびプローブ(22)または試料とプローブ(22)との間のいずれか一方または両方に加えられ、力(Fdirect)がプローブ(22)を試料の方に向けたり、逆に試料をプローブ(22)の方に向けたりするように構成された力(Fdirect)発生手段(24、26、50、60)を含むことを特徴とする、顕微鏡。
【請求項33】
プローブ(22)と試料表面との間の相対的な動きは共振振動器によって与えられることを特徴とする、請求項32記載の顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2007−530915(P2007−530915A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−520002(P2006−520002)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【国際出願番号】PCT/GB2004/003065
【国際公開番号】WO2005/008679
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(301046765)ユニバーシティ・オブ・ブリストル (3)