説明

反射防止膜およびそれを有する光学装置

【課題】実現可能な高さの微細凹凸形状を光学素子の光学面に形成することで、広帯域で反射防止効果の高い光学素子を提供する。
【解決手段】反射防止機能を有する使用波長程度の微細凹凸形状11からなる構造体を光学面上に形成した光学素子であって、前記構造体は錐台形状、乃至は錐形状が接触して配列し、前記構造体における凹部の最下部から凸部の最上部までの平均高さをh0、前記凸部と隣接する凸部とが接触する部分から凸部の最上部までの平均高さをh1としたとき、0.1≦(h0-h1)/h0≦0.25を満たすことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学素子及びそれを有する光学系に関し、特に光学部材の表面(光入出射面)に反射防止機能を有する微細な凹凸形状からなる構造体を設け、反射防止を効果的に行った光学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学系に含まれるレンズ等の光学素子は、光学ガラスや光学プラスチック等の透明部材を用いて製作されている。このような透明部材は、屈折率が大きいため、反射率が高くなる。反射率が高いと、像面に到達する有効光量が少なくなってしまうとともに、不要な反射によってゴーストやフレアが生じる。このため、透明部材からなる光学素子は、反射防止機能を付与することが必要である。
【0003】
光学素子に反射防止機能を付与する手法として、一般的には、光学干渉の理論に従って、透明部材の表面に薄膜の誘電体膜を複数層重ねた多層の反射防止膜が知られている。このような反射防止膜は、蒸着法やスパッタリング法などのドライ法(真空成膜法)、ディッピング法やスピンコート法等のウエット法(湿式成膜法)により形成される。このような光学干渉の理論に従って作製される反射防止膜は、高屈折率薄膜と低屈折率薄膜の種類とそれぞれの膜厚を的確に選択することで仮想的に中間屈折率を得て、反射防止膜を形成する方法が提案されている(特許文献1)。
【0004】
一方、このような反射防止膜よりもさらに反射防止効果が高い手法として、入射する光の波長(以下、使用波長という)程度の微細な凹凸形状を面上に複数形成した微細構造体の提案がなされている(特許文献2)。
【0005】
使用波長よりも細かい凹凸形状では、入射光はその凹凸形状を認識できずに一様な媒質であるかのように振る舞う。つまり、微細な凹凸形状からなる構造体は、凹凸形状を構成する材料の体積比に準じた屈折率を有し、通常の材料では得られないような低い屈折率を示す。このため、このような凹凸構造体を用いれば、高屈折率材料と低屈折率材料から形成される反射防止膜と比べて、より高い反射防止性能が得られる。
【0006】
微細凹凸形状による反射防止構造体として、たとえば、特許文献2では、円錐状の突起が波長以下のピッチで光学素子表面に並んだような反射防止構造体を提案している。また、非特許文献1では、円錐状の突起が波長以下のピッチで、正方に配列し、また、それぞれの突起は、隣り合う突起と重なり合っているような反射防止構造体を報告している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭61−51283号公報
【特許文献2】特開2001−272505号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Optics & Photonics Japan 2008 講演予稿集,4pAS1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら特許文献1に開示されている内容では、反射防止膜に高屈折率材料を用いているために、広帯域の特性には劣るという問題点があった。また、このような反射防止膜は、膜厚に大きく依存し、実際の膜厚が設計膜厚からずれると有効な反射防止効果が得られないため、高精度の膜厚制御が必要となり、製造コストの低減に制約があるという問題があった。
【0010】
特許文献2で、提案された微細な凹凸形状は、円錐形状の突起が光学面上に配列したような構造である。円錐形状は、空気側から基材側に向けて徐々に太くなるため、部材表面の屈折率は滑らかに変化する。これにより、表面からの光の反射を防止することができる。しかしながら、突起と突起の間には平面部が存在する。この平面部で、屈折率が急激に変化し、平面部で反射が発生するため、高い反射防止効果を得ることができない。
【0011】
非特許文献1では、円錐状の突起を正方に重ね合わせるように配列することで、突起と突起の間に平面部が存在しないような構造とした。これにより、部材表面の屈折率は、連続的に滑らかに変化するため、効果的に反射率を低減できる。しかしながら、このような形状では、高さを使用波長程度まで高くしなければ、長波長側の反射防止効果を得ることができないことがわかった。微細凹凸形状の高さを高めるには、製造上の課題が多くあり、容易に製造することができない。
【0012】
そこで、本発明の目的は、実現可能な高さの微細凹凸形状を光学素子の光学面に形成することで、広帯域で反射防止効果の高い光学素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は、反射防止機能を有する使用波長程度の微細凹凸形状からなる構造体を光学面上に形成した光学素子であって、前記構造体は錐台形状、乃至は錐形状が接触して配列し、前記構造体における凹部の最下部から凸部の最上部までの平均高さをh0、
前記凸部と隣接する凸部とが接触する部分から凸部の最上部までの平均高さをh1としたとき、
0.1 ≦ (h0-h1)/h0 ≦ 0.25
を満たすことを特徴とする。
【0014】
乃至は、反射防止機能を有する使用波長程度の微細凹凸形状からなる構造体を光学面上に形成した光学素子であって、前記光学素子において
前記構造体における平均高さをh0、高さ 0.1h0における断面での凸部の面積占有率をF(0.1h0)、高さ 0.25h0における断面での凸部の面積占有率をF(0.25h0)、高さ 0.7h0における断面での凸部の面積占有率をF(0.7h0)としたとき、
76% ≦ F(0.1h0) ≦ 98%
50% ≦ F(0.25h0) ≦ 84%
8% ≦ F(0.7h0) ≦ 28%
を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、広帯域で反射防止効果の高い光学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例である光学素子の基本構成を示す断面図
【図2】本発明の実施例1における微細凹凸形状の模式図
【図3】(a)本発明の実施例1における微細凹凸形状の等高線図、(b)断面図
【図4】本発明の実施例における微細凹凸形状の高さと面積占有率の関係の模式図
【図5】本発明の実施例1〜4、および従来例1〜2における微細凹凸形状の高さと面積占有率の関係を示す図
【図6】本発明の実施例1における反射率特性を示す図
【図7】本発明の実施例2における微細凹凸形状の模式図
【図8】(a)本発明の実施例2における微細凹凸形状の等高線図、(b)断面図
【図9】本発明の実施例2における反射率特性を示す図
【図10】本発明の実施例3における微細凹凸形状の模式図
【図11】(a)本発明の実施例3における微細凹凸形状の等高線図、(b)断面図
【図12】本発明の実施例3における反射率特性を示す図
【図13】本発明の実施例4における微細凹凸形状の模式図
【図14】(a)本発明の実施例4における微細凹凸形状の等高線図、(b)断面図
【図15】本発明の実施例4における反射率特性を示す図
【図16】本発明の実施例5である撮像光学系の構成を示す断面図
【図17】本発明の従来例1における微細凹凸形状の模式図
【図18】(a)本発明の従来例1における微細凹凸形状の等高線図、(b)断面図
【図19】本発明の従来例1における反射率特性を示す図
【図20】本発明の従来例2における微細凹凸形状の模式図
【図21】(a)本発明の従来例2における微細凹凸形状の等高線図、(b)断面図
【図22】本発明の従来例2における反射率特性を示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を、添付の図面に基づいて詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの記載に何ら限定されるものではない。
【0018】
図1は、本発明の一実施例である光学素子の断面を模式的に表した図である。実施例の光学素子は、透明部材(ベース部材)12の光学面上に微細凸形状11を有する。図2は、微細凹凸形状11を3次元的に示した模式図である。本実施例では、微細凹凸形状を円錐形状として表現しているが、本発明における微細凹凸形状は、どのような錐形状であってもかまわない。また、錐台形状でもかまわない。さらに、錐、および錐台形状も、厳密なものだけでなく、断面図が湾曲しているものも含んでいる。そして、本発明では、これらの微細凹凸形状が、光学素子面上に、使用波長程度の間隔で配列し、また、隣接する凹凸形状は重なり合っている。
【0019】
光は、使用波長程度の微細な凹凸形状においては、その凹凸形状を認識できずに一様な媒質であるかのように振る舞う。さらに、その反射は屈折率が大きく変化する界面で生じる。よって、光は、波長程度の微細な錐および錐台形状内では、屈折率が連続的に変化する媒質と認識し、高い反射防止効果を示す。
【0020】
図3(a)は、上面から観察した場合の等高線を示す。同図(a)において点線Cは等高線を示す。Pは近接する微細凹凸形状同士の間隔である。同図(b)-1は、同図(a)に示した直線Aにおける断面図、同図(b)-2は、(a)に示した直線Bにおける断面図を示す。θは、本実施例の微細凹凸形状の断面における頂角を示す。本発明における構造体は、一つ一つの微細凹凸形状が、近接する凹凸形状と重なり合って、並んだような形状である。このため、図2(a)および(b)において、凸部の最上部(以後、最凸部)であるT1、T2、T3、およびT4、凹部の最下部(以後、最凹部)となるO1、O2、O3、O4,およびO5だけでなく、最凸部T1とT2に挟まれた凹部S1、最凸部T1とT3に挟まれたS2,最凸部T3とT4にはさまれたS3、および、最凸部T2とT4に挟まれたS4が存在する。このとき、斜線部Dは、それぞれ最凹部O1からO5を含んだ平面である。図3において、h0は最凹部から最凸部までの高さ、h1は最凸部に挟まれた凹部から最凸部までの高さである。
【0021】
高さhにおける凸部の面積占有率をF(h)とする。高さh0と間隔Pが一定の場合、θを変化させると、S1の位置、つまりh1の大きさは変化するが、面積占有率F(h1)は一定である。図4に、本実施例における高さと面積占有率の関係を模式的に示す。本実施例を実線1、θを小さくした場合が点線2、θを大きくした場合が点線3である。図4から、基材側の面積占有率は、θ(あるいは、h1)が小さくなるほど急激に変化し、大きくなるほど緩やかに変化することがわかる。ローレンツ-ローレンツの関係から、微細凹凸形状の屈折率の変化は、高さ方向での面積占有率の変化に、ほぼ比例する。h1が小さすぎると、入射光が微細凹凸形状から光学素子面に達した際の屈折率が大きく変化し、反射が生じる。よって、高い反射防止効果が得られない。一方、h1が大きすぎると、微細凹凸形状の光学素子側付近での屈折率変化が緩やかになるため、微細凹凸形状の真ん中あたりでの屈折率変化が急になる。この場合、高さを高くしなければ、長波長の反射防止効果を向上することが出来ない。
【0022】
よって、h1の大きさを適度に設定すれば、広帯域で高い反射防止効果を得ることが出来る。以上から、
[数式1] 0.1 ≦ (h0-h1)/h0 ≦ 0.25
を満たすのがよい。
【0023】
もしくは、高さ 0.1h0における断面での凸部の面積占有率をF(0.1h0)、高さ 0.25h0における断面での凸部の面積占有率をF(0.25h0)、高さ 0.7h0における断面での凸部の面積占有率をF(0.7h0)としたとき、
[数式2] 76% ≦ F(0.1h0) ≦ 98%
[数式3] 50% ≦ F(0.25h0) ≦ 84%
[数式4] 8% ≦ F(0.7h0) ≦ 28%
を満たすのがよい。数式2の範囲外である場合、微細凹凸形状の光学素子付近での屈折率変化が大きくなり、高い反射防止効果が得られない。一方、数式3の範囲外では、微細凹凸形状の真ん中あたりでの屈折率変化が急であることを示し、長波長側において、高い反射防止効果を得ることが出来ない。数式4は、本実施例が成立する錐乃至は錐台形状を規定している。
【0024】
使用中心波長をλとしたとき、高さh0が0.3×λより小さい場合、微細凹凸形状の高さが小さくなりすぎ、高い反射防止効果は期待できない。また、1.0×λより大きい形状では、形状による反射防止効果の優位性がほとんどなくなる。よって、
[数式5] 0.3 ≦ h0/λ ≦ 1.0
を満たすのがよい。
【0025】
本発明における光学素子は、型を用いた成形により形成されるものであれば、ガラスあるいは樹脂のいずれであっても構わない。
【0026】
微細凹凸形状を材料の屈折率をn、微細凹凸形状の間隔をPとする。Pがλ/6nより小さいと、作製が困難である。また、P が使用波長λより大きいと、回折光が発生して不具合が生じる。よって、
[数式6]λ/6n≦ P ≦λ
を満たすのがよい。
【0027】
本発明における光学素子が使用する波長は、可視域および赤外域であるのがよい。
【0028】
以下に、具体的な実施例を示す。各実施例での使用波長域は400〜700nmであり、使用中心波長は550nmである。ただし、これらは例に過ぎず、本発明の実施例はこれらの条件に限定されるものではない。
【0029】
[実施例1]
本発明の実施例1は、ガラスからなり、光学面に微細凹凸形状を形成した光学レンズである。光学レンズ作製方法は特に限定しない。本実施例では、電子線リソグラフィーとドライエッチングにより作製した金型を用いて、モールド成形機にて作製した。
【0030】
得られた光学レンズの光学面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、微細凹凸形状は、先に示した図2、および図3のような形状であった。実施例1は、微細な円錐形状の突起が正方方向に配列しており、それぞれの突起が重なりあった構成である。表1に、光学素子を構成する硝材の波長が550nmでの屈折率、微細凹凸形状間の間隔P、最凹部から最凸部までの高さh0、最凸部と最凸部に挟まれた凹部から最凸部までの高さh1、(h0-h1)/h0を示す。また、図5に高さと面積占有率の関係を示す。表1に示すように、(h0-h1)/h0は[数式1]を満たしている。さらに、図5に示すように、それぞれの高さにおける面積占有率は、[数式2]、[数式3]、および[数式4]を満たしている。
【0031】
図6は、400〜700nmの波長域において、入射角が0度、15度、30度、および45度における反射率特性を示す。図6から、実施例1の光学素子の0度入射における反射率は、400〜700nmの波長域において0.1%以下であり、非常に良い結果を示した。また、15度、30度、および45度入射の反射率においても、0.3%以下と非常に良い結果を示した。
【0032】
以上から、実施例1の光学素子は、広帯域で高性能な反射防止効果を有しているといえる。
【0033】
[実施例2]
本発明の実施例2は、OHARA社製L-BAL42からなり、光学面に微細凹凸形状を形成した光学レンズである。光学レンズ作製方法は特に限定しない。本実施例では、電子線リソグラフィーとドライエッチングにより作製した金型を用いて、モールド成形機にて作製した。
【0034】
得られた光学レンズの光学面を走査型電子顕微鏡で観察した。図7は実施例2の微細凹凸形状を3次元的に表した図である。実施例2は微細な円錐形状の突起が六方方向に配列しており、それぞれの突起が重なりあっているような構成である。図8(a)は、上面から観察した場合の等高線、(b)-1は、同図(a)に示した直線Aにおける断面図、同図(b)-2は、(a)に示した直線Bにおける断面図を示す。T1からT3は最凸部、O1からO4は最凹部、S1からS2は最凹部に挟まれた凹部である。表1に、光学素子を構成する硝材の波長が550nmでの屈折率、微細凹凸形状間の間隔P、最凹部から最凸部までの高さh0、最凸部と最凸部に挟まれた凹部から最凸部までの高さh1、(h0-h1)/h0を示す。図5に高さと面積占有率の関係を示す。表1に示すように、(h0-h1)/h0は[数式1]を満たしている。さらに、図5に示すように、それぞれの高さにおける面積占有率は、[数式2]、[数式3]、および[数式4]を満たしている。
【0035】
また、図9は、400〜700nmの波長域において、入射角が0度、15度、30度、および45度における反射率特性を示す。図9から、実施例2の光学素子の0度入射における反射率は、400〜700nmの波長域において0.3%以下であり、非常に良い結果である。さらに、15度、30度、および45度入射の反射率においても、0.5%以下と非常に良い結果を示した。以上から、実施例2の光学素子は、広帯域で高性能な反射防止効果を有しているといえる。
【0036】
[実施例3]
本発明の実施例3は、OHARA社製L-BAL42からなり、光学面に微細凹凸形状を形成した光学レンズである。光学レンズ作製方法は特に限定しない。本実施例では、電子線リソグラフィーとドライエッチングにより作製した金型を用いて、モールド成形機にて作製した。
【0037】
得られた光学レンズの光学面を走査型電子顕微鏡で観察した。図10は実施例3の微細凹凸形状を3次元的に表した図である。実施例3は微細な円錐台形状の突起が六方方向に配列しており、それぞれの突起が重なりあっているような構成である。図11(a)は、上面から観察した場合の等高線、(b)-1は、同図(a)に示した直線Aにおける断面図、同図(b)-2は、(a)に示した直線Bにおける断面図を示す。T1からT3は最凸部であり、斜線部Eは、最凸部を含む平面部を示す。O1からO4は最凹部、S1からS2は、最凸部に挟まれた凹部を示す。表1に、光学素子を構成する硝材の波長が550nmでの屈折率、微細凹凸形状間の間隔P、最凹部から最凸部までの高さh0、最凸部と最凸部に挟まれた凹部から最凸部までの高さh1、(h0-h1)/h0を示す。図5に高さと面積占有率の関係を示す。表1に示すように、(h0-h1)/h0は[数式1]を満たしている。さらに、図5に示すように、それぞれの高さにおける面積占有率は、[数式2]、[数式3]、および[数式4]を満たしている。
【0038】
また、図12は、400〜700nmの波長域において、入射角が0度、15度、30度、および45度における反射率特性を示す。図12から、実施例3の光学素子の0度入射における反射率は、400〜700nmの波長域において0.2%以下であり、非常に良い結果である。さらに、15度、30度、および45度入射の反射率においても、0.2%以下と非常に良い結果を示した。以上から、実施例3の光学素子は、広帯域で高性能な反射防止効果を有しているといえる。
【0039】
[実施例4]
本発明の実施例4は、OHARA社製L-BAL42からなり、光学面に微細凹凸形状を形成した光学レンズである。光学レンズ作製方法は特に限定しない。本実施例では、電子線リソグラフィーとドライエッチングにより作製した金型を用いて、モールド成形機にて作製した。
【0040】
得られた光学レンズの光学面を走査型電子顕微鏡で観察した。図13は実施例4の微細凹凸形状を3次元的に表した図である。実施例4は円錐台形状の微細凹凸形状が正方配列で重なり合った構成である。図14(a)は、上面から観察した場合の等高線、(b)-1は、同図(a)に示した直線Aにおける断面図、同図(b)-2は、(a)に示した直線Bにおける断面図を示す。T1からT3は最凸部であり、斜線Eは最凸部を含む平面部を示す。O1は最凹部であり、斜線Dは最凹部を含む平面図を示す。S1は最凸部に挟まれた凹部を示す。表1に、光学素子を構成する硝材の波長が550nmでの屈折率、微細凹凸形状間の間隔P、最凹部から最凸部までの高さh0、最凸部と最凸部に挟まれた凹部から最凸部までの高さh1、(h0-h1)/h0を示す。図5に高さと面積占有率の関係を示す。表1に示すように、(h0-h1)/h0は[数式1]を満たしている。さらに、図5に示すように、それぞれの高さにおける面積占有率は、[数式2]、[数式3]、および[数式4]を満たしている。
【0041】
また、図15は、400〜700nmの波長域において、入射角が0度、15度、30度、および45度における反射率特性を示す。図15から、実施例4の光学素子の0度入射における反射率は、400〜700nmの波長域において0.15%以下であり、非常に良い結果である。さらに、15度、30度、および45度入射の反射率においても、0.15%以下と非常に良い結果を示した。以上から、実施例4の光学素子は、広帯域で高性能な反射防止効果を有しているといえる。
【0042】
[実施例5]
図16には、実施例1〜4に示した光学素子を用いた撮像光学系(結像光学系)を示している。この撮像光学系は、デジタルカメラ、ビデオカメラ及び交換レンズ等の光学機器に用いられる。
【0043】
図16において、163は撮像面であり、CCDセンサ又はCMOSセンサ等の固体撮像素子(光電変換素子)が配置される。162は絞りである。
【0044】
164は光学素子としてのレンズであり、その入射面及び射出面のうち少なくとも一方に、実施例1〜4に示した微細凹凸形状11により構成される反射防止構造161(図中に多数のドットで示す)を有する。
【0045】
本実施例の撮像光学系の使用波長領域は可視域であり、使用波長域における中心波長を550nmとしている。
【0046】
本実施例における最凸部に挟まれた凹部の高さh1は、
0.1≦(h0-h1)/h0≦0.25
を満たすことが好ましい。
【0047】
あるいは、
76% ≦ F(0.1h0) ≦ 98%
50% ≦ F(0.25h0) ≦ 84%
8% ≦ F(0.7h0) ≦ 28%
を満たすことが好ましい。
【0048】
以上説明した各実施例は代表的な例にすぎず、本発明の実施に際しては、各実施例に対して種々の変形や変更が可能である。
【0049】
[従来例1]
本発明の従来例1は、OHARA社製L-BAL42からなり、光学面に微細凹凸形状を形成した光学レンズである。光学レンズ作製方法は特に限定しない。本実施例では、電子線リソグラフィーとドライエッチングにより作製した金型を用いて、モールド成形機にて作製した。
【0050】
得られた光学レンズの光学面を走査型電子顕微鏡で観察した。図17は従来例1の微細凹凸形状を3次元的に表した図である。従来例1は円錐形状の微細凹凸形状が正方配列でした構成である。図18(a)は、上面から観察した場合の等高線、(b)-1は、同図(a)に示した直線Aにおける断面図、同図(b)-2は、(a)に示した直線Bにおける断面図を示す。図T1からT3は最凸部である。O1は最凹部であり、S1は最凸部に挟まれた凹部である。斜線部Dは、最凹部O1を含み、従来例1では、凹部S1も含む平面部である。表1に、光学素子を構成する硝材の波長が550nmでの屈折率、微細凹凸形状間の間隔P、最凹部から最凸部までの高さh0、最凸部と最凸部に挟まれた凹部から最凸部までの高さh1、(h0-h1)/h0を示す。図5に高さと面積占有率の関係を示す。表1に示すように、(h0-h1)/h0は[数式1]を満たしていない。さらに、図5に示すように、それぞれの高さにおける面積占有率は、[数式2]、[数式3]、および[数式4]を満たしていない。
【0051】
また、図19は、400〜700nmの波長域において、入射角が0度、15度、30度、および45度における反射率特性を示す。図19から、従来例1の光学素子の0度入射における反射率は、400〜600nmの波長域においては0.3%以上である。実施例1から4の光学素子では、0度入射での反射率特性は、400〜700nmの波長域において、0.3%以下を示しており、従来例1は、本発明の実施例と比較して、反射防止効果が劣るといえる。
【0052】
[従来例2]
本発明の従来例2は、OHARA社製L-BAL42からなり、光学面に微細凹凸形状を形成した光学レンズである。光学レンズ作製方法は特に限定しない。本実施例では、電子線リソグラフィーとドライエッチングにより作製した金型を用いて、モールド成形機にて作製した。
【0053】
得られた光学レンズの光学面を走査型電子顕微鏡で観察した。図20は従来例2の微細凹凸形状を3次元的に表した図である。従来例2は円錐形状の微細凹凸形状が正方配列でした構成である。図21(a)は、上面から観察した場合の等高線、(b)-1は、同図(a)に示した直線Aにおける断面図、同図(b)-2は、(a)に示した直線Bにおける断面図を示す。図T1からT3は最凸部、O1は最凹部、S1は最凸部に挟まれた凹部である。表1に、光学素子を構成する硝材の波長が550nmでの屈折率、微細凹凸形状間の間隔P、最凹部から最凸部までの高さh0、最凸部と最凸部に挟まれた凹部から最凸部までの高さh1、(h0-h1)/h0を示す。また、図5に高さと面積占有率の関係を示す。表1に示すように、(h0-h1)/h0は[数式1]を満たしていない。さらに、図5に示すように、それぞれの高さにおける面積占有率は、[数式2]、[数式3]、および[数式4]を満たしていない。
【0054】
また、図22は、400〜700nmの波長域において、入射角が0度、15度、30度、および45度における反射率特性を示す。図22から、従来例2の光学素子の0度入射における反射率は、650〜700nmの波長域においては0.3%以上である。一方、実施例1から4の光学素子では、0度入射での反射率特性は、400〜700nmの波長域において、0.3%以下である。また、従来例2の光学素子の45度入射における反射率特性は、650〜700nmの波長域において、0.5%以上であり、一方、実施例1から4における光学素子では、0.5%以下である。
【0055】
以上から、従来例2の反射防止効果は、実施例1から4と比較して劣るといえる。
【0056】
【表1】

【符号の説明】
【0057】
T1,T2,T3 微細凹凸形状における凸部の最上部
O1,O2,O3,O4 微細凹凸形状における凹部の最下部
S1,S2 微細凹凸形状における隣接する凸形状に挟まれた凹部
A 微細凹凸形状における凸部の最上部同士をつないだ直線
B 微細凹凸形状における凸部の最上部と凹部の最下部をつないだ直線
C 等高線
D 平面部
θ 微細な円錐形状の頂角


【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射防止機能を有する
使用波長程度の微細凹凸形状からなる構造体を
光学面上に形成した光学素子であって、
前記構造体は錐台形状、乃至は錐形状が接触して配列し、
前記構造体における凹部の最下部から凸部の最上部までの高さをh0、
前記凸部と隣接する凸部とが接触する部分から凸部の最上部までの高さをh1としたとき、
0.1 ≦ (h0-h1)/h0 ≦ 0.25
を満たすことを特徴とする光学素子。
【請求項2】
反射防止機能を有する
使用波長程度の微細凹凸形状からなる構造体を
光学面上に形成した光学素子であって、
前記光学素子において
前記構造体における平均高さをh0、
高さ 0.1h0における断面での凸部の面積占有率をF(0.1h0)、
高さ 0.25h0における断面での凸部の面積占有率をF(0.25h0)、
高さ 0.7h0における断面での凸部の面積占有率をF(0.7h0)としたとき、
76% ≦ F(0.1h0) ≦ 98%
50% ≦ F(0.25h0) ≦ 84%
8% ≦ F(0.7h0) ≦ 28%
を満たすことを特徴とする光学素子。
【請求項3】
前記使用波長の中心波長をλとしたとき、
0.2 ≦ h0/λ ≦ 0.7
を満たすことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記光学素子は、型を用いた成形により形成されていることを
特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の光学素子。
【請求項5】
隣接する微細凹凸形状間の距離をP、
前記微細凹凸形状を形成する材料の屈折率をnとしたとき、
λ/6n≦ P ≦λ
を満たすことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の光学素子。
【請求項6】
前記光学素子は、ガラスあるいはプラスチックを材料とすることを
特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の光学素子。
【請求項7】
前記所定の波長は可視域および赤外域であることを
特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の光学素子。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の光学素子を搭載したことを特徴とする光学系。
【請求項9】
請求項8に記載の光学系を有することを特徴とする光学装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2013−105054(P2013−105054A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249338(P2011−249338)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】