説明

反強誘電性液晶素子

【課題】温度変化に依存せずに、透過状態から遮断状態に高速に切り換えられる反強誘電性液晶素子を提供する。
【解決手段】第1安定状態での反強誘電性液晶分子の平均的長軸方向に一方の透過軸を一致させて配置し、第1極性の駆動電圧の印加時に遮断状態とするとともに、第2極性の駆動電圧の印加時に透過状態とし、駆動手段は、Ton時間と第2極性の駆動電圧の積分値と、Toff時間と第1極性の駆動電圧との積分値との和がほぼ0となるように、駆動電圧を制御する。極性の異なる駆動電圧を印加して透過状態と遮断状態とするので、透過率のリバウンドを考慮せずに、高い逆極性の駆動電圧を印加して速やかに遮断状態に遷移させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反強誘電性液晶を液晶層とする反強誘電性液晶素子に関し、更に詳しくは、透過状態とするTon時間と遮断状態とするToff時間を固定デューティ比で連続させる反強誘電性液晶素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶を用いた表示分野では、反強誘電性液晶(ANTIFERRO-ELECTRIC LIQUID CRYSTAL)を液晶層とした反強誘電性液晶素子が、広視野角を有し、高速応答が可能であることから着目されている。反強誘電性液晶は、分子が多層構造をとり、充分に高い一方の極性(例えば、負)と逆極性(例えば、正)の電圧を印加したときに、それぞれ飽和自発分極を示す強誘電相の第1安定状態と第2安定状態に遷移することが知られ、この第1、第2安定状態で、液晶分子の平均的長軸方向は、配向膜のラビング処理方向(ラビング軸という)に対して互いに逆の角度に傾いた方向となっている。また、電圧を印加しない印加電圧0Vでは、自発分極がゼロとなる反強誘電相の第3安定状態に遷移し、この第3安定状態で、液晶分子の平均的長軸方向は、配向膜のラビング方向となっている。
【0003】
このような反強誘電性液晶を液晶層とする従来の反強誘電性液晶素子は、クロスニコル配置した一対の偏光板の一方の透過軸方向をラビング軸に一致させ、印加電圧を加えない第3安定状態で一対の偏光板によって透過光を遮断(以下、黒表示という)し、±いずれかの極性の電圧を印加した第1、第2安定状態で透過率を最大(以下、白表示という)とする印加電圧制御を行っている(特許文献1)。このとき、印加電圧と透過率との関係は、図5に示すように、ヒステリシス特性を示し、負極性若しくは正極性の飽和電圧以上の電圧を印加して第1安定状態若しくは第2安定状態に遷移した後は、印加電圧を充分に低下させない限り第3安定状態に遷移しない。
【0004】
一方、反強誘電性液晶には、長く直流電極を印加したり、同極性の電圧を印加し続けて、液晶分子の自発分極を同じ方向に留めておくと、液晶層の内部に電荷の偏りが生じ、上記ヒステリシス特性が変化して正確な白黒表示制御ができなくなったり、劣化の原因となる。
【0005】
そこで、上述構成の従来の反強誘電性液晶素子では、図6に示すように、黒表示するToff時間には、電圧を印加しないか、飽和電圧以下の低電圧の交流電圧を駆動電圧として印加し、連続して白表示させるTon時間には、逆極性の駆動電圧を所定周期で交互に印加して、帯電する電荷の偏りを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−321555号公開公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
クロスニコル配置した一対の偏光板の一方の透過軸方向をラビング軸に一致させた上述の従来の反強誘電性液晶素子は、ラビング軸と第1若しくは第2安定状態での液晶分子の平均的長軸方向との角度(ティルト角という)がπ/4(rad)であるときに、白表示と黒表示の透過率の差が大きく、すなわち、高コントラストとなるが、反強誘電性液晶はティルト角が30度以下の素材が多く、充分なコントラストが得られない。
【0008】
また、従来の反強誘電性液晶素子は、上述したように、印加電圧と透過率の関係が図5に示すヒステリシス特性をもち、白表示から黒表示への応答速度が遅く、反強誘電性液晶の材料によっては10乃至100msecを要するものとなっていた。従って、通常の電圧印加方法では、高速応答性が要求される表示装置には使用できず、例えば、60Hz以上の高フレームレートで透過光の透光と遮断を制御する必要のある3D動画再生用眼鏡のシャッターに用いることができなかった。
【0009】
そこで、図7に示すように、白表示から黒表示へ移行させる場合に、それまで白表示とするために印加していた電圧と逆極性のバイアス電圧を短時間加えて、第1、第2安定状態から第3安定状態への遷移を促進し、その後、印加電圧を0V付近の低電圧として黒表示となる第3安定状態に保持している。しかしながら、白表示から黒表示へ高速応答させる最適な逆バイアス電圧の印加条件は、温度変化などによる液晶の状態によって異なり、温度変化にもかかわらず同条件で逆バイアス電圧を印加させていると、応答が遅れたり、飽和電圧を超えた逆極性の高いバイアス電圧により、透過率のリバウンド現象が発生する問題があった。
【0010】
この問題を解決するには、温度センサーで検出した温度に応じて逆バイアス電圧の印加条件を変化させる必要があるが、余分なセンサーと制御回路を設けることとなり、特に、交互に異なる極性の電圧を印加している間に、温度変化に応じて逆バイアス電圧の電圧と印加時間を調整する制御は極めて煩雑であるという問題があった。
【0011】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたもので、液晶の電荷バランスを崩さずに、高コントラストで透過状態と遮断状態を交互に切り換える反強誘電性液晶素子を提供することを目的とする。
【0012】
また、温度変化に依存せずに、単純な駆動電圧波形で透過状態から遮断状態に高速に切り換えられる反強誘電性液晶素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の目的を達成するため、請求項1の反強誘電性液晶素子は、第1極性の駆動電圧を印加して強誘電相となる第1安定状態と、第1極性と異なる第2極性の駆動電圧を印加して強誘電相となる第2安定状態の少なくとも2種類の安定状態間で遷移する反強誘電性液晶を挟持する一対の基板と、一対の基板の対向面に配置された電極間に第1極性と第2極性の駆動電圧を選択的に印加し、反強誘電性液晶を異なる安定状態間へ遷移させる駆動手段と、反強誘電性液晶の異なる安定状態で、光の透過量が異なる透過状態と遮断状態のいずれかとなるように、前記一対の基板を挟んでクロスニコル配置した一対の偏光板とを備え、透過状態となるTon時間と遮断状態となるToff時間とからなる一周期のTon時間が固定デューティ比となるように、駆動手段が駆動電圧を制御し、透過状態と遮断状態を交互に切り換える反強誘電性液晶素子であって、
一対の偏光板は、第1安定状態での反強誘電性液晶分子の平均的長軸方向に一方の透過軸を一致させて配置し、第1極性の駆動電圧の印加時に遮断状態とするとともに、第2極性の駆動電圧の印加時に透過状態とし、駆動手段は、Ton時間と第2極性の駆動電圧の積分値と、Toff時間と第1極性の駆動電圧との積分値との和がほぼ0となるように、駆動電圧を制御することを特徴とする。
【0014】
クロスニコル配置した一対の偏光板の一方の透過軸を、第1安定状態での反強誘電性液晶分子の平均的長軸方向に一致させるので、ティルト角が30度以下の反強誘電性液晶を用いても、透過状態となる第2安定状態での液晶分子の平均的長軸方向となす角度を45度近傍とすることができ、遮断状態と透過状態の透過率の差を増大させることができる。
【0015】
遮断状態となる駆動電圧の第1極性は、透過状態となる駆動電圧の第2極性と異なるので、充分に高い第1極性の駆動電圧をある程度長い時間印加しても透過率のリバウンド現象が発生することなく、速やかに透過状態から遮断状態へ移行する。
【0016】
請求項2の反強誘電性液晶素子は、駆動手段は、Toff時間の開始時に第1安定状態に遷移する飽和電圧を超えた第1極性のバイアス電圧を印加した後、Toff時間の終了時まで、第1安定状態を保持する前記飽和電圧以下の保持電圧を印加することを特徴とする。
【0017】
Toff時間の開始時に飽和電圧を超えた第1極性のバイアス電圧を印加することにより、速やかに第1安定状態に遷移し、その後は反強誘電性液晶がヒステリシス特性を有するので、第1安定状態に遷移した飽和電圧より絶対値が小さい保持電圧であっても遮断状態とする第1安定状態を保持する。
【0018】
請求項3の反強誘電性液晶素子は、第1安定状態と第2安定状態との反強誘電性液晶分子の平均的長軸方向のなす角度がほぼπ/4であることを特徴とする。
【0019】
第2安定状態での反強誘電性液晶分子の平均的長軸方向と一方の透過軸との角度がπ/4(rad)となるので、透過光量は最大となる。
【0020】
請求項4の反強誘電性液晶素子は、ディスプレーに高フレームレートで再生される動画を立体視する3D動画再生用眼鏡のシャッターに用いられ、動画の再生周期に対して固定デューティ比のTon時間に動画を目視可能な透過状態とすることを特徴とする。
【0021】
透過状態と遮断状態が高速に切り換えられ、動画を目視可能なTon時間が温度変化があっても変化しない。
【発明の効果】
【0022】
請求項1の発明によれば、温度変化を考慮することなく、充分に高い逆バイアス電圧を長時間印加して、透過状態から遮断状態へ高速に切り換えることができる。従って、温度変化によって透過状態とするTon時間のデューティ比が変化することない。
【0023】
また、通常入手可能な反強誘電性液晶を用いて、透過状態と遮断状態の間で高コントラストが得られる。
【0024】
また、透過状態と遮断状態を繰り返しても、液晶層の電荷のバランスがくずれない。
【0025】
請求項2の発明よれば、Toff時間の全体で飽和電圧を超えた駆動電圧を印加しないので、液晶層の内部に電荷の偏りが生じにくく、消費電力を低下する。
【0026】
請求項3の発明よれば、遮断状態と透過状態の間で最大のコントラストが得られる。
【0027】
請求項4の発明よれば、温度変化があっても動画の再生に同期して正確にシャッターが開閉される。
【0028】
また、駆動電圧を印加していない状態で、反強誘電性液晶は、透過率が遮断状態と透過状態の中間となる第3安定状態にあり、起動する前の3D動画再生用眼鏡の装着時であっても、シャッターが半透明で目視可能であり、装着時の違和感がない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施の形態に係る反強誘電性液晶素子10の平面図である。
【図2】反強誘電性液晶素子10の駆動電圧と透過率の関係を示す波形図である。
【図3】反強誘電性液晶素子10の駆動電圧波形と透過率の関係を示す波形図である。
【図4】他の実施の形態に係る駆動電圧波形と透過率の変化の関係を示す波形図である。
【図5】従来の反強誘電性液晶素子の印加電圧と透過率の関係を示す波形図である。
【図6】従来の反強誘電性液晶素子の駆動電圧波形と透過率の関係を示す波形図である。
【図7】従来の駆動電圧波形と透過率の変化の関係を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の一実施の形態に係る反強誘電性液晶素子10のついて、図1乃至図3を用いて詳細に説明する。図1は、反強誘電性液晶素子10の平面図であり、対向面に透明電極が形成された二枚の透明ガラス基板の間に反強誘電性液晶が挟持され、2枚の透明ガラス基板の両外側(紙面に直交する方向の両外側)に、更にクロスニコル配置された一対の偏光板が配置されている。少なくとも一方の透明電極上には、水平配向処理した高分子配硬膜が形成され、これにより、反強誘電性液晶のラビング軸は、図1のO方向となっている。
【0031】
反強誘電性液晶は、透明電極間に充分に高い負極性と正極性の駆動電圧を印加すると、上述したように、それぞれ飽和自発分極を示す強誘電相の第1安定状態と第2安定状態に遷移し、図1に示すように、液晶分子の平均的長軸方向は、第1安定状態で、ラビング軸(O方向)に対してティルト角−θをなす進相軸O(−)の方向に、第2安定状態で、ラビング軸(O方向)に対してティルト角+θをなす遅相軸O(+)の方向に傾いている。
【0032】
また、駆動電圧を印加しない駆動電圧0Vの場合には、偶数層と奇数層内の分子の長軸方向は、互いに反平行の向きとなり、互いの自発分極の総和をキャンセルする第3安定状態で安定する。このときの分子間の距離は可視光の波長に比較して微小であるので、光学軸方向は、層間の分子配光方向の平均であるO(−)とO(+)の中間のラビング軸方向(O方向)となっている。
【0033】
光源から偏光板を透過した偏光は、液晶層で角度φ回転し、その回転した偏光のクロスニコル配置した透過光強度Tは、偏光板の透過軸と反強誘電性液晶の光軸となす角度をφ、液晶層の屈折率をΔn、液晶層の厚みをd、入射光の波長をλとして、
T=sin(2φ)・sin(Δn・d・π/λ)・・・(1)
で表される。
【0034】
この(1)式から、偏光板の透過軸と反強誘電性液晶の光軸とがなす角度φが、π/4(rad)であるときに、透過光強度Tは最大となり、偏光板の透過軸と反強誘電性液晶の光軸が平行であるとき(φ=0)に、透過光強度Tは0、すなわち、入射光は液晶層によって完全に遮断されることが示される。そこで、本実施の形態では、図1に示すように、第1安定状態での進相軸O(−)の方向に、偏光板の透過軸方向P1を一致させて、一対の偏光板をクロスニコル配置する。また、ティルト角+θがπ/8(rad)近傍となる反強誘電性液晶の液晶材料を選択し、第2安定状態での遅相軸O(+)の方向と透過軸方向P1とのなす角度φを約π/4(rad)とし、第2安定状態での透過光強度Tが最大となるようにしている。
【0035】
図2は、図1に示す方向に一対の偏光板を配置した反強誘電性液晶素子10の駆動電圧と液晶透過率の関係を示す波形図であり、正極飽和電圧を超えた図中「ア」に示す正極性の駆動電圧を加えると、反強誘電性液晶素子10は、液晶透過率が最大で「白表示」となる第2安定状態に遷移する。反強誘電性液晶素子10の液晶透過率は、駆動電圧の変化に対してヒステリシス特性を示し、正極飽和電圧より充分に低い正極性の「イ」の駆動電圧としても第2安定状態第2安定状態を維持する。「イ」の駆動電圧から逆極性の負極飽和電圧を超えた図中「ウ」に示す負極性の駆動電圧を加えると、反強誘電性液晶素子10は、液晶透過率が0の「黒表示」となる第1安定状態に遷移する。同様に、「ウ」に示す駆動電圧から、負極飽和電圧の絶対値より小さい負極性の「エ」の駆動電圧を印加しても第1安定状態を維持する。従って、黒表示と白表示は、(1)式に示す透過光強度Tの最低値と最大値となり、高コントラストが得られる。尚、上記第1安定状態と第2安定状態間を遷移する間は、徐々に遷移する安定状態の方向を長軸方向とする液晶の分子が増加し、液晶透過率はその中間の半透明の値を示す。
【0036】
本実施の形態では、図2の特性に示す反強誘電性液晶素子10を、3D動画再生用眼鏡のシャッターに用いている。薄型テレビでの立体動画再生は、60Hzのフレームレートで切り換えられる一枚の動画画像を、左目用と右目用の画像から表示するので、左右用の各画像はそれぞれ交互に120Hzのレートで切り換えられる。ここで、液晶ディスプレーによる動画画像の表示は、画面の上方から画素を順に書き換え、次の書き換え時まで同じ表示を維持するホールド表示方式を採用するので、この画像の書き換え中に3D動画再生用眼鏡のシャッターが開いている(白表示の状態)と、2枚の画像が混在して見えるクロストーク現象が生じる。そこで、左右用の各画像の書き換え中には、左右いずれのシャッターも閉じている状態(黒表示の状態)とする必要があり、各シャッターに用いる反強誘電性液晶素子10は、1/60秒の周期に対して白表示とするTon時間を25%の固定デューティ比として白表示と黒表示を切り換え制御する。
【0037】
この反強誘電性液晶素子10の切り換え制御は、電圧波形成形回路(図示せず)により反強誘電性液晶素子10の透明電極間に図3に示す駆動電圧波形の駆動電圧を1/60秒の周期で印加する。すなわち、白表示とするTon時間を1/4・1/60秒の1/240秒としてTon時間に+6Vの駆動電圧を印加した後、黒表示とするToff時間を3/4・1/60秒の1/80秒として、Toff時間に逆極性の−2Vの駆動電圧を印加し、Ton時間とToff時間を1/60秒周期で交互に切り換え制御する。
【0038】
このように、各周期でのTon時間と印加する駆動電圧の積(1/40V・S)と、Toff時間と駆動電圧の積(−1/40V・S)との和が0となるように駆動電圧波形を成形することにより、反強誘電性液晶の電荷バランスが一方の極性に偏ることが無く、また、Ton時間とToff時間で異なる極性の駆動電圧を印加して交流駆動するので、ヒステリシス特性が変化したり、反強誘電性液晶素子10の劣化することがない。
【0039】
また、白表示するTon時間から黒表示するToff時間への切り換え時に、白表示と逆極性の駆動電圧を印加するので、温度変化に依存せずに速やかに黒表示に移行し、固定デューティ比とするTon時間が変化しない。その結果、シャッターが開いている時間を表示時間に同期させて正確に制御できる。
【0040】
また、3D動画再生用眼鏡のシャッターに用いる反強誘電性液晶素子10は、不使用時の駆動電圧を印加していない間(駆動電圧が0V)に、光軸が偏光板の吸収軸に対してπ/8(rad)傾いた第3安定状態にあり、ある程度シャッターを通して周囲を目視可能な半透明であるので、3D動画再生用眼鏡を装着した後に、薄型テレビの画面に向いたり、3D動画再生用眼鏡やテレビの電源入力を操作できる。
【0041】
反強誘電性液晶に印加する駆動電圧波形は、1周期に対するTon時間を所定の固定デューティ比とし、Ton時間に印加する駆動電圧とTon時間との積分値と、Toff時間に印加する駆動電圧とToff時間との積分値との和がほぼ0となる波形であれば、種々の駆動電圧波形とすることができる。図4は、図3の駆動電圧波形に対して更に大きな逆バイアス電圧を印加して、白表示から黒表示へ速やかに切り替え制御する他の実施の形態に係る駆動電圧波形を示している。
【0042】
この他の実施の形態も、1/60秒の1周期の白表示とするTon時間を1/240秒、黒表示とするToff時間を1/80秒として、25%の固定デューティ比でTon時間を制御する点は、上述の実施の形態と同一である。図4に示すこの実施の形態に係る駆動電圧波形は、Ton時間の始めのδs1時間に、+8Vの逆バイアス電圧を印加して、反強誘電性液晶を、図2の「ア」に示す第2安定状態(白表示)に遷移させた後、Ton時間の残るδs2時間に駆動電圧を正極飽和電圧以下の+1.5Vまで低下させて、図2の「イ」に示す第2安定状態を維持する。その後、Ton時間からToff時間に切り替わった直後のδs3時間に、−8Vの逆バイアス電圧を印加して、反強誘電性液晶を、図2の「ウ」に示す第1安定状態(黒表示)に急速に遷移させた後、Toff時間の残るδs4時間に駆動電圧を負極飽和電圧の絶対値より小さい−1.5Vまで低下させて、図2の「エ」に示す第1安定状態を維持し、各周期で同様の駆動電圧波形の印加を繰り返す。
【0043】
ここでも、Ton時間の積分値(δs1時間・+8V+δs2時間・+1.5V)とToff時間の積分値(δs3時間・−8V+δs4時間・−1.5V)の和が0となるように、δs1時間乃至δs4時間を設定する。その結果、各周期での電荷バランスが一方の極性に偏ることがない。
【0044】
本実施の形態のように駆動電圧を印加すると、正極飽和電圧及び負極飽和電圧の絶対値より充分に大きい逆バイアス電圧を第1、第2安定状態間の遷移の際に印加するので、白表示と黒表示間が速やかに切り替わり、Ton時間の固定デューティ比を変化させずにより正確なタイミングでシャッターを開閉制御できる。
【0045】
また、各周期中に、飽和電圧以上の駆動電圧を印加せずに安定状態を保持する時間(δs2とδs4)を設けるので、動作中の消費電力を低下させることができる。
【0046】
上記各実施の形態では、Ton時間とToff時間からなる各周期を同一時間として固定周波数で透過状態と遮断状態を切り換えているが、変化する一周期に対してTon時間が固定デューティ比で制御されるものであってもよい。
【0047】
また、上述の実施の形態において、透明電極間に負極飽和電圧を超える負極性の駆動電圧を印加して遮断状態とする第1安定状態としたが、正極性の駆動電圧を印加して第1安定状態としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、透過状態と遮断状態が固定デューティ比で交互に切り換えられる反強誘電性液晶素子に適している。
【符号の説明】
【0049】
10 反強誘電性液晶素子
ラビング軸方向
P1 偏光板の透過軸方向
P2 偏光板の透過軸方向
(−) 進相軸
(+) 遅相軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1極性の駆動電圧を印加して強誘電相となる第1安定状態と、第1極性と異なる第2極性の駆動電圧を印加して強誘電相となる第2安定状態の少なくとも2種類の安定状態間で遷移する反強誘電性液晶を挟持する一対の基板と、
一対の基板の対向面に配置された電極間に第1極性と第2極性の駆動電圧を選択的に印加し、反強誘電性液晶を異なる安定状態間へ遷移させる駆動手段と、
反強誘電性液晶の異なる安定状態で、光の透過量が異なる透過状態と遮断状態のいずれかとなるように、前記一対の基板を挟んでクロスニコル配置した一対の偏光板とを備え、
透過状態となるTon時間と遮断状態となるToff時間とからなる一周期のTon時間が固定デューティ比となるように、駆動手段が駆動電圧を制御し、透過状態と遮断状態を交互に切り換える反強誘電性液晶素子であって、
一対の偏光板は、第1安定状態での反強誘電性液晶分子の平均的長軸方向に一方の透過軸を一致させて配置し、第1極性の駆動電圧の印加時に遮断状態とするとともに、第2極性の駆動電圧の印加時に透過状態とし、
駆動手段は、Ton時間と第2極性の駆動電圧の積分値と、Toff時間と第1極性の駆動電圧との積分値との和がほぼ0となるように、駆動電圧を制御することを特徴とする反強誘電性液晶素子。
【請求項2】
駆動手段は、Toff時間の開始時に第1安定状態に遷移する飽和電圧を超えた第1極性のバイアス電圧を印加した後、Toff時間の終了時まで、第1安定状態を保持する前記飽和電圧以下の保持電圧を印加することを特徴とする請求項1に記載の反強誘電性液晶素子。
【請求項3】
第1安定状態と第2安定状態との反強誘電性液晶分子の平均的長軸方向のなす角度がほぼπ/4であることを特徴とする請求項1に記載の反強誘電性液晶素子。
【請求項4】
ディスプレーに高フレームレートで再生される動画を立体視する3D動画再生用眼鏡のシャッターに用いられ、動画の再生周期に対して固定デューティ比のTon時間に動画を目視可能な透過状態とすることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の反強誘電性液晶素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−141488(P2012−141488A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−432(P2011−432)
【出願日】平成23年1月5日(2011.1.5)
【出願人】(000102500)SMK株式会社 (528)
【Fターム(参考)】