説明

反応性アゾ化合物の製造方法と反応性アゾ化合物及びその反応物

【課題】本発明は反応性の高い官能基であるイソシアネート基を有した反応性アゾ化合物の製造方法とその製造方法により得られる新規な反応性アゾ化合物、及びその反応物の提供を目的とする。
【解決手段】各種芳香族ジアゾ二ウム塩のテトラフルオロホウ酸塩とフェニルイソシアネート類を非水系溶媒中でジアゾカップリング反応させて得る。また、得られたイソシアネート基を有する反応性アゾ化合物を活性水素基を有する化合物と反応させて化合物を得る。
【化4】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応性の高い官能基であるイソシアネート基を有した反応性アゾ化合物の製造方法、及びその製造方法で得られた反応性アゾ化合物とその反応物である。
【背景技術】
【0002】
ジアゾニウム塩の合成化学的な利用という観点では、ジアゾニウム塩は親電子剤であり、各種の親核剤と反応することはよく知られており、特に、電子供与基を持つ芳香族化合物と容易にジアゾカップリング反応が起こり、各種有機染料や医農薬品などの製造に非常に優れた反応として一般的に知られている。
ジアゾカップリング反応によって得られるアゾ化合物は構造の多様性と合成が容易なこと、色調が豊富なことから多くの色素の中でもっとも多量に合成され、応用されてきた色素である。
【0003】
また、機能化色素の分子設計や開発に関わる方法として、反応性基を有した色素による機能化が重要な方法として挙げられる。
【0004】
これまで反応性色素は、水酸基やアミド基などの反応性基を持つ一般ポリマー(セルロースや羊毛繊維など)に共有結合で色素を結合させるために、古くから色素側に反応基を持たせる試みがなされているが、その多くの反応性色素の反応基はアミノ基やカルボン酸基、スルホン酸基などの反応基であり、反応性が乏しい欠点がある。
【0005】
これらの反応性アゾ染料として、例えば、特許文献1において、スルホン酸基を有して、ヒドロキシ基又は窒素原子を有する有機支持体を染色又はプリントするための反応性アゾ染料が提案されている。
【0006】
また、特許文献2において、塩化シアヌル基やスルホン酸基を有して、水酸基やアミド基を含む材料、特にセルロースやポリアミドを染色するのに適した反応性アゾ染料が提案されている。
【0007】
これらの反応は、反応性が低い官能基によるもので、イオン結合的なものか、酸やアルカリ条件下で脱離基を伴う部分的な置換反応に期待するものと考えられる。
【0008】
上記以外の反応性アゾ化合物として注目されるのが、イソシアネート基を有するアゾ化合物である。イソシアネート基は、活性水素基を有するもの対して高い反応性を有し、脱離基などの副生成物の発生がない付加反応が出来、且つ反応条件も容易である優位性を持っている。
【0009】
しかし、これまでに発案されたイソシアネート基を有するアゾ化合物の合成法は、イソシアネート基の反応性が高く、特に水と反応してしまう為、一般的に水系中で行うジアゾカップリング反応が不可能なことから、出発原料からイソシアネート基を持たせる事ができず、多段階反応で複雑な合成手順になる。その為か、大変に有用な機能性色素でありながら市販製品はなく、活用検討された報文や特許などは非常に少ない。
【0010】
これまでに発案されているイソシアネート基を有するアゾ化合物の合成法としては、アミノ基をp位に有するアミノアゾベンゼン類を前もって合成、若しくは市販品を使用し、そのアミノ基をイソシアネート基に変換させる方法のみである。
【0011】
p−アミノアゾベンゼン類のアミノ基をイソシアネート基に変換させる方法としては、ホスゲンを使った方法が非特許文献1で提案されている。
【0012】
その他には、トリクロロ蟻酸トリクロロメチルを使った方法が非特許文献2で提案されている。
【0013】
しかしながら、これらの方法はどれも反応操作が複雑であり、ホスゲンは猛毒なので取り扱いが難しい問題もある。また、アミノ基をイソシアネート基に変換させる反応は、温和な反応条件とは言えず、アミノ基以外に他の置換基構造がある場合、置換基によっては反応副生成物や分解物等が発生してしまい、反応可能な置換基構造も限られる。さらに、p−アミノアゾベンゼン類を前もって合成するか市販品を使用する為、製造コストもかかってしまい、必然的に付加価値の高い材料にしか利用できない制限が出てくる。
【0014】
前記のようなイソシアネート基を有するアゾ化合物の活用例としては数が少ないものの、非線形光学効果を有するアゾ色素を水酸基等の活性水素を有する化合物やポリマーに導入させて、波長変換材料や電気光学材料を検討する例が非特許文献3で見られる。
【0015】
その他、具体例として例示されてないが、特許文献3等でソシアネート基を有するアゾ化合物を活用するという概念で前記と同様な用途に活用した特許が見られる。
【0016】
以上の様に、活性水素を有するものであれば容易にアゾ基を導入できる利点を持つイソシアネート基を有するアゾ化合物は、その興味深い特性を有しながら、これまで余り活用検討されてない疑問が感じられる。その原因としては、製造方法が複雑であり製造コストもかかってしまう等の課題がある為と推測された。
【特許文献1】特開平8−269349号公報
【特許文献2】特開平6−49380号公報
【特許文献3】特開平8−277309号公報
【非特許文献1】“日本化学雑誌、第70巻、198頁(1949年)”
【非特許文献2】“Chemistry of Materials、第7巻、第5号、904頁”
【非特許文献3】“Chemistry of Materials、第7巻、第5号、904頁”
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上記の技術的背景を考慮してなされたものであり、活性水素基を有するもの対して容易な反応条件で高収率に反応できる利点を持ったイソシアネート基を有する反応性アゾ化合物を温和な反応条件で簡便に製造できる方法とその製造方法により得られる反応性アゾ化合物及びその反応物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の目的を達成するための解決手段として、
請求項1記載の発明は、
下記式(1)
【0019】
【化5】

(式中、Dは、モノアゾ色素、ポリアゾ色素の残基を表し、nは1、又は2の数である)をジアゾ化させた下記式(2)
【0020】
【化6】

(式中、Dとnは前記と同じ、Xは、塩酸、テトラフルオロホウ酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、過塩素酸その他の酸の陰イオンを表す。)のジアゾニウム塩を下記式(3)
【0021】
【化7】

(式中、pは0〜2の数で、〔N=C=O〕は、ベンゼン環上の3位か、3位と5位に位置する。qは0〜2の数で、〔Y〕は、電子供与性の置換基が、3位か、3位と5位に位置する)
のp位にジアゾカップリング反応を非水系の溶媒中で行なって、下記式(4)
【0022】
【化8】

(式中、Dとn、Y、p、qは前記と同じ)のイソシアネート基を有するアゾ化合物を得ることを特徴とする反応性アゾ化合物の製造方法である。
【0023】
また、請求項2記載の発明は、
前記Dが、フェニル系、ジフェニル系、又はナフタレン系、ナフトキノン系、或いは含硫黄複素環系、含窒素複素環系、含酸素複素環系、又は、これら硫黄や窒素、酸素の複合の複素環系等の環状構造であることを特徴とする請求項1記載の反応性アゾ化合物の製造方法である。
【0024】
また、請求項3記載の発明は、
前記Dの環状構造に電子吸引性を与える置換基(特に、ニトロ基、シアノ基、アルデヒド基、ハロゲン基、ハロゲン化炭素、或いは、スルホン酸基、カルボン酸基やそれらの金属塩)が置換されていることを特徴とする請求項1又は2記載の反応性アゾ化合物の製造方法である。
【0025】
にまた、請求項4記載の発明は、
前記請求項1乃至3のいずれか1項に記載の反応性アゾ化合物の製造方法において、式(3)のジアゾニウム塩が、特に、テトラフルオロホウ酸塩であることを特徴とする請求項1記載の反応性アゾ化合物の製造方法である。
【0026】
また、請求項5記載の発明は、
前記請求項1乃至4のいずれか1項に記載の反応性アゾ化合物の製造方法で得られることを特徴とする反応性アゾ化合物である。
【0027】
また、請求項6記載の発明は、
前記請求項5記載の反応性アゾ化合物が、イソシアネート基と反応し得る活性水素基(例えば、1級、或いは、2級アミノ基や水酸基など)を有する化合物や高分子の活性水素基に付加反応したことを特徴とする反応物である。
【発明の効果】
【0028】
以上の様に、本発明の製造方法により得られた反応性アゾ化合物は、簡便な方法により合成されるものなので、特に付加価値の高い用途に制限されること無く幅広い用途に活用できる。また、本発明の製造方法は温和な反応条件によるものなので、従来方法では製造できなかった構造の反応性アゾ化合物も製造することが可能である。
【0029】
本発明に係わる反応性アゾ化合物が反応可能な化合物は、イソシアネート基が反応できる官能基を有するものであれば制限なく、活性水素基(例えば、1級、或いは2級アミノ基や水酸基など)を有する化合物や高分子であれば容易に付加反応させアゾ基を導入させることができる特徴を有し、各種機能性化合物の創生に寄与することができる。
【0030】
例えば、染色という面においても優れた特性を有し、従来の染色観察用色素に比べて染色の選択性が高く、基材上の化学構造(活性水素基の有無など)の差を明確に示すことができ、色調変化によるラベル化等も可能と考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。本発明に関わる式(3)のフェニルイソシアネート類のイソシアネート基の置換基効果については、ジアゾカップリング反応を行なう場合、イソシアネート基が電子供与性であることが好ましい。芳香族化合物における置換基効果を論ずる場合、Hammett則やN位のpKa値等で予測できるが、イソシアネート基の置換基効果に関して検討された文献は見当たらなかった。しかし、一般的に、N元素の方が酸素元素よりも親核性が高いため、イソシアネート基のN=C結合中の二重結合が立ち上がり、以下の様な極限構造式が考えられる。
【0032】
下記式(5)
【0033】
【化9】

また、イソシアネート基の有無による芳香族化合物の1H−NMRスペクトルにおけるケミカルシフトの差から判断すると、イソシアネート基は電子供与性であることが裏付けられる。
“The Aldrich Library of NMR Spectra EditionII(Aldrich Chemical Company、INC.(1983年度))”を参照。
○トルエン
1H−NMR(クロロホルム−d,σppm):メチル基…2.35(s.3H)
○トルエン−2,6−ジイソシアネート
1H−NMR(クロロホルム−d,σppm):メチル基…2.20(s.3H)
○トルエン−2,4−ジイソシアネート
1H−NMR(クロロホルム−d,σppm):メチル基…2.30(s.3H)
以上のように、イソシアネート基が芳香環上のメチル基に対してo位とp位に位置した場合、メチル基の1Hのケミカルシフトが高磁場側にシフトし電子密度が高くなっていることから、イソシアネート基は電子供与基であると考えられる。
【0034】
従って、上記の式(5)からイソシアネート基のN位とNのp位の芳香環上に親核性がある。このため、ジアゾニウムイオンは芳香環上で親電子的な置換反応が起こり、安定なアゾ化合物を与えると考えられる。また、Nのo位の芳香環上にも親核性があるが、イソシアネート基の一置換体の場合は、立体的な影響でp位への置換反応が優先されるが、Nのm位にもイソシアネート基があるニ置換体や三置換体の場合は、Nのo位に置換反応が起こる。
【0035】
また、イソシアネート基のN位にも親核性があるためジアゾニウムイオンが付加するが、反応系に水が存在すると加水分解からジアゾアミノ化合物が生成する。しかし、本発明では非水系の溶媒中で反応させる特徴があるため、可逆的にジアゾニウムイオンを再生し芳香環上で置換反応させることができる。
【0036】
本発明に係わるジアゾニウム塩は、下記式(1)の1級アミノ基を含有する化合物を公知の方法によりジアゾ化反応させたものであり、下記式(1)
【0037】
【化10】

で式中Dは、モノアゾ色素、ポリアゾ色素の残基を表し、フェニル系、ジフェニル系、又はナフタレン系、ナフトキノン系、或いは含硫黄複素環系、含窒素複素環系、含酸素複素
環系又は、これら硫黄や窒素、酸素の複合の複素環系等の環状構造の群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする。さらにまた、前記Dの環状構造に電子吸引性を与える置換基(特に、ニトロ基、シアノ基、アルデヒド基、ハロゲン基、ハロゲン化炭素、或いはスルホン酸基、カルボン酸基やそれらのアルカリ金属塩基)が置換されているもので、式中Dに一級アミノ基が1個又は2個有することを特徴とする。
【0038】
モノアゾ染料でジアゾニウム基を1個生成させる場合、即ち式中n=1で一級アミノ基が1個の場合の具体例として特に限定されないが、o−,p−ニトロアニリン、3−ニトロ−4−アミノトルエン、2−ニトロ−4−メトキシアニリン、2,4−ジニトロアニリン、テフチオン酸、1−ナフチラミン、2,6−ジクロルアニリン、2,4−ジクロルアニリン、p−トルイジン−m−スルホン酸、2−クロロ−p−トルイジン−5−スルホン酸、トビアス酸、アンスラニール酸、またアミノベンゼンスルホン酸類として、スルファニル酸、オクタニル酸、メタニル酸、2−アミノ−4−メチルベンゼンスルホン酸、2−アミノ−4−メトキシベンゼンスルホン酸、4−アミノ−3−メトキシベンゼンスルホン酸、4−アミノ−5−メトキシ−2−メチルベンゼンスルホン酸、2−アミノ−1,4−ベンゼンスルホン酸、4−アミノ−1,3−ベンゼンスルホン酸、2−アミノ−5−メチル−1,4−ベンゼンスルホン酸、またアミノスルホン酸類として、2−アミノ−1−ナフタレンスルホン酸、2−アミノ−1,5−ナフタレンスルホン酸、2−アミノ−1,5,7−ナフタレンスルホン酸、3−アミノ−2,5,7−ナフタレントリスルホン酸、3−アミノ−1,5−ナフタレンジスルホン酸等が挙げられる。また、ジアゾニウム基を2個生成させる場合、即ち式中n=2で一級アミノ基が2個の場合の具体例として特に限定されないが、p、p’−ジアミノジフェニルエーテル、3、3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル等が挙げられる。
【0039】
含硫黄複素環系、含窒素複素環系、含酸素複素環系又は、これら硫黄や窒素、酸素の複合の複素環系等の一級アミノ化合物としては特に限定されないが、チオフェン類やオキサゾール類、イソオキサゾール類、チアゾール類、イソチアゾール類、イミダゾール類等があり、具体的にはチオフェン類として、2−アミノチオフェン等が、チアゾール類として、2−アミノチアゾール、2−アミノ−1,3,4−チアゾール等が、チアジアゾール類として、2−アミノ−1,3,4−チアジアゾール等が挙げられる。
【0040】
ポリアゾ色素の場合は、文献で公知の方法により生成する。代表的な方法としては、p−ニトロアニリンをジアゾ化し、それと例えばアミノヒドロキシナフタレンスルホン酸類又はその塩とをジアゾカップリングさせてビスアゾ体又はその塩を生成させる。そして、生成したビスアゾ体の両末端にあるニトロ基を還元させて1級アミノ基に変換し、その1級アミノ基をジアゾ化し、本発明に関わるフェニルイソシアネート類とジアゾカップリングさせトリスアゾ体やテトラゾ体のポリアゾ色素を生成させる方法が挙げられる。還元剤としては、硫化ナトリウムや硫化水素ナトリウム、水硫化ナトリウム、多硫化ナトリウム等が挙げられる。
【0041】
また、本発明に係わるジアゾニウム塩は、下記式(2)の
【0042】
【化11】

式中、Xは、塩酸、テトラフルオロホウ酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、過塩素酸その他の酸の陰イオンである特徴を有し、その中でもジアゾニウム−テトラフルオロホウ酸塩は安定でジアゾニウム塩として単離することが可能である為、特に好ましい。
【0043】
さらに、本発明では、ジアゾニウム−テトラフルオロホウ酸塩とフェニルイソシアネート類とのジアゾカップリング反応を非水系溶媒中の条件下で行う特徴があり、この場合の溶媒としては特に制限は無いが、ジアゾニウム塩とフェニルイソシアネート類を溶解しイ
ソシアネートと反応しないものが好ましく、例えばアセトニトリルやDMF等が適している。また、これらの有機溶媒は、予めモレキュラーシーブス等の脱水・乾燥剤で水分を除去しておくことが好ましい。有機溶媒中に含まれる水分量は好ましくは1重量%以下で、より好ましくは0.1重量%以下である。
【0044】
以上の様なジアゾニウム塩とカップリングさせる本発明に係わる成分は、下記式(3)の
【0045】
【化12】

式中、pは0〜2の数で、〔N=C=O〕は、ベンゼン環上の3位か、3位と5位に位置する。qは0〜2の数で、〔Y〕は、電子供与性の置換基で、3位か、3位と5位に位置するフェニルイソシアネート類であることを特徴とする。
【0046】
すなわち、pは0〜2の数で、〔N=C=O〕は、ベンゼン環上の3位か、3位と5位に位置するフェニルイソシアネート類としては、例えば、フェニルイソシアネートや1,3−フェニレンジイソシアネート、1,3,5−フェニレントリイソシアネートが挙げられる。また〔Y〕が電子供与性の置換基で、3位か、3位と5位に位置するフェニルイソシアネート類としては特に制限されないが、例えば、3−メチルフェニルイソシアネート、3,5−メチルフェニルイソシアネート、3−メトキシフェニルイソシアネート、3,5−メトキシフェニルイソシアネート等が挙げられる。
【0047】
以上の様なフェニルイソシアネート類の各種置換基による置換基効果は何れも、ジアゾカップリング反応の進行において障害にはならず、カップリング反応を促進させる効果も有する置換基が好ましい。
【0048】
また、ジアゾ化反応は公知の方法で行うことができ、溶媒としては、水、アルコール類などが使用できるが、通常は水が好適である。反応温度は、−20℃〜室温で行うことができ、好ましくは−5〜10℃程度である。ジアゾ化反応は、無機酸(塩酸など)の存在下で行うことができ、ジアゾ化には、通常、亜硝酸塩などが使用できる。亜硝酸塩としては、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム等が挙げられる。この反応で芳香族モノ第1級アミンと亜硝酸塩の反応仕込み割合は、芳香族モノ第1級アミン1モル当たり、亜硝酸塩1.00〜1.5モル、中でも余剰の亜硝酸塩を少なくするため当モルが好ましい。芳香族ジ第1級アミンと亜硝酸塩の反応仕込み割合は、芳香族ジ第1級アミン1モル当たり、亜硝酸塩2.00〜3.00モルで中でもやはり当モルが好ましい。一般的に反応の進行状態(ジアゾニウムイオンの有無)は、アミノナフトール誘導体であるH酸のアルカリ水溶液を少量の反応溶液と混ぜて、色の変化を見ることにより追跡することが出来る。
【0049】
本発明に係わるジアゾニウム塩は、非水系溶媒中でジアゾカップリング反応を行う特徴があるため、一度、ジアゾニウム塩を単離する必要がある。特にテトラフルオロホウ酸塩がジアゾニウム塩の安定性、及び反応操作性において特に好ましく、この場合、前記ジアゾ化反応で亜硝酸塩を加えた後、テトラフルオロホウ酸を加えると、テトラフルオロホウ酸塩を析出させることが出来る。析出したテトラフルオロホウ酸塩は、濾紙などで吸引濾過し、溶解可能な溶媒に溶かしてエーテル等で再沈殿し精製することが出来る。テトラフルオロホウ酸は市販のもので良く、通常は水溶液である。加える量は、ジアゾ化反応させる芳香族モノ第1級アミン化合物の場合はアミン化合物1モルに対して、テトラフルオロホウ酸のモル濃度で1.5〜2.5モル、好ましくは2モル程度が好ましい。芳香族ジ第1級アミン化合物の場合はアミン化合物1モルに対して、テトラフルオロホウ酸のモル濃度換算3.5〜4.5モル、好ましくは4モル程度が好ましい。
【0050】
次いで、本発明の前記で合成したジアゾニウム塩と、カップラー成分であるフェニルイ
ソシアネート類をジアゾカップリング反応させる製造方法により、本発明に係わる反応性アゾ化合物を得る。この反応において、本発明では非水系溶媒中で行う特徴があり、前述の様に特に制限は無いが、ジアゾニウム塩とフェニルイソシアネート類を溶解しイソシアネートと反応しないものが好ましく、例えばアセトニトリルやDMF等が適している。反応性アゾ化合物は、用いたジアゾ成分が芳香族第モノ1級アミンのジアゾニウム塩の場合には、芳香族モノアゾ化合物となり、一方、用いたジアゾ成分が芳香族第ジ1級アミンのジアゾニウム塩である場合には、芳香族ビスアゾ化合物となる。
また、本発明に係わる反応性アゾ化合物は、公知の方法で精製することができ、例えば、カラムクロマトグラフィーや再結晶法、再沈殿法などが挙げられる。特に、再結晶法は操作の簡便性と精製度から見て好ましい。その際、ジアゾニウム塩を形成していた陰イオンを確実に除去して遊離型のものを得る場合は、本発明の反応性アゾ色素の再結晶させる溶液中に有機塩基を添加し、生成した塩を濾過しても良い。有機塩基としては、第3級アミンが好ましく、例えば、トリエチルアミンやトリメチルアミン、ピリジン等が挙げられる。
【実施例】
【0051】
次に本発明を、具体的な実施例を挙げて以下に説明するが、本発明はこれらに限定
するものではない。まず、本発明の参考例について説明する。
【0052】
<参考例1>(p−ニトロベンゼンジアゾニウム−テトラフルオロボレート)
常法により、水(500ml)中にp−ニトロアニリン10.0g(72.4mol)と市販の濃塩酸12.1ml(0.145mol)を混ぜて、完全に溶解するまで加温する。次に、この溶液を5〜10℃まで冷却し、この際p−ニトロアニリンの塩酸塩が若干析出するが、この溶液に亜硝酸ナトリウム5.0g(72.4mmol)をかき混ぜながら少しずつ加えジアゾ化した。その溶液にホウフッ化水素酸を約30ml加えるとテトラフルオロホウ酸塩が析出し、それを濾過してさらにアセトニトリルに溶かし、エーテルで再沈殿したものをデシケーター中で乾燥させた。
【0053】
<参考例2>(ベンゼンジアゾニウム−テトラフルオロボレート)
常法により、水(500ml)中にアニリン6.7g(72.4mol)と市販の濃塩酸12.1ml(0.145mol)を混ぜて、完全に溶解するまで加温する。次に、この溶液を5〜10℃まで冷却し、この際アニリンの塩酸塩が若干析出するが、この溶液に亜硝酸ナトリウム5.0g(72.4mmol)をかき混ぜながら少しずつ加えジアゾ化した。その溶液にホウフッ化水素酸を約30ml加えるとテトラフルオロホウ酸塩が析出し、それを濾過してさらにアセトニトリルに溶かし、エーテルで再沈殿したものをデシケーター中で乾燥させた。
【0054】
<参考例3>(p−スルホニルベンゼンジアゾニウム−テトラフルオロボレート)
常法により、水(500ml)中にスルファニル酸10.0g(57.7mmol)と市販の濃塩酸9.6ml(0.115mol)を混ぜて、完全に溶解するまで加温する。次に、この溶液を5〜10℃まで冷却し、この際スルファニル酸の塩酸塩が若干析出するが、この溶液に亜硝酸ナトリウ4.0g(57.7mmol)をかき混ぜながら少しずつ加えジアゾ化した。その溶液にホウフッ化水素酸を約24ml加えるとテトラフルオロホウ酸塩が析出し、それを濾過してさらにアセトニトリルに溶かし、エーテルで再沈殿したものをデシケーター中で乾燥させた。
【0055】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0056】
<実施例1>
参考例1で得たp−ニトロベンゼンジアゾニウム−テトラフルオロボレート2.0g(
8.97mmol)を乾燥したMeCN(40ml)に溶かし、この中にフェニルイソシアネート1g(8.97mmol)を含むMeCN(30ml)溶液を、氷冷下(0〜5℃)注加した。そして、24時間放置し、反応溶剤をエバポレーターで濃縮(30ml)した後、赤色の沈殿物を吸引濾過、さらに再結晶法(溶媒:アセトニトリル)で精製した。反応の進行状態(ジアゾニウムイオンの有無)は、アミノナフトール誘導体であるH酸のアルカリ水溶液を少量の反応溶液と混ぜて、色の変化を見ることにより追跡した。
IR(KBr):2260cm-1に(N=C=O)、1765cm-1(C=O)、1600cm-1(Ar ring)、1345cm-1と1530cm-1にニトロ基由来の吸収を確認。
ラマン:1360cm-1にアゾ基由来と推定される強い吸収を確認。
mp:109−110℃
収率は、約72%であった。
【0057】
<実施例2>
参考例2で得たベンゼンジアゾニウム−テトラフルオロボレート1.6g(8.97mmol)を乾燥したMeCN(40ml)に溶かし、この中にフェニルイソシアネート1g(8.97mmol)を含むMeCN(30ml)溶液を、氷冷下(0〜5℃)注加した。そして、24時間放置し、反応溶剤をエバポレーターで濃縮(30ml)した後、赤色の沈殿物を吸引濾過、さらに再結晶法(溶媒:アセトニトリル)で精製した。反応の進行状態(ジアゾニウムイオンの有無)は、アミノナフトール誘導体であるH酸のアルカリ水溶液を少量の反応溶液と混ぜて、色の変化を見ることにより追跡した。
IR(KBr):2260cm-1に(N=C=O)、1765cm-1(C=O)、1600cm-1(Ar ring)
ラマン:1360cm-1にアゾ基由来と推定される強い吸収を確認。
mp:97−98℃
収率は、約70%であった。
【0058】
以上の様に、本発明によれば、イソシアネート基を有する反応性アゾ化合物を簡便な方法で温和な反応条件の製造方法で得ることが出来た。
【0059】
<実施例3>
参考例3で得たp−スルホルニルベンゼンジアゾニウム−テトラフルオロボレート2.0g(7.73mmol)を乾燥したMeCN(40ml)に溶かし、この中にフェニルイソシネート0.92g(7.73mmol)を含むMeCN(30ml)溶液を、氷冷下(0〜5℃)注加した。そして、35時間放置し、反応溶剤をエバポレーターで濃縮(30ml)した後、橙色沈殿物を吸引濾過、さらに再結晶法(溶媒:アセトニトリル)で精製した。反応進行状態(ジアゾニウムイオンの有無)は、アミノナフトール誘導体であるH酸のアルカリ水溶液を少量の反応溶液と混ぜて、色の変化を見ることにより追跡した。
IR(KBr):2260cm-1に(N=C=O)、1765cm-1(C=O)、1600cm-1(Ar ring)、1180cm-1と1040cm-1、650cm-1にスルホン酸由来の吸収を確認。
ラマン:1360cm-1にアゾ基由来と推定される強い吸収を確認。
mp:102−103℃
収率は、約57%であった。
【0060】
なお、前記実施例3記載の本発明に係わる反応性アゾ化合物は、従来の製造方法の反応条件ではスルホン酸基が均一な反応の障害となり、副反応物や分解物などが生じて製造できないため、これまでの既存物質にはない新規なアゾ化合物である。
【0061】
<実施例4>
比較のため、染色観察に良く使用される塩基性染料のメチレンブルー(市販品)を使った。
【0062】
次に、本発明に係わる反応性アゾ化合物の染色性を調べるために以下の試験した。
【0063】
[染色性試験]
富士写真フィルム(株)の厚さ80μmのTAC(トリアセチルセルロース)フィルムを5×10cmに裁断したものを、30℃の温浴中300mlガラスビーカーに約10wt%のNaOH水溶液を約150ml入れたものへ約5分間浸漬させた。その後、フィルムを取り出し水で十分に洗浄し乾燥させて、試験用フィルムを作製した。この際、約10wt%のNaOH水溶液に浸漬させたフィルム部分は鹸化による脱アセチル化が起こり、水酸基に変化していると考えられる。これらの水接触角を測定すると、未浸漬部分:約30度、浸漬部分:約10度だった。次に、実施例1の反応性アゾ化合物をアセトニトリル300mlに約5wt%溶解させたもの、実施例2の反応性アゾ化合物をアセトニトリル300mlに約5wt%溶解させたもの、実施例3の反応性アゾ化合物を水300mlに約5wt%溶解させたもの、実施例4のメチレンブルーを水300mlに約5wt%溶解させたものを作製し、それらの各溶液に試験用フィルムを約5分間浸漬させた。その後、試験用フィルムを取り出し水で洗浄して乾燥させた。これらの各試験サンプルの未鹸化部分と鹸化部分の染色の具合を比較した。
【0064】
以上の試験した結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
表1に示すように、実施例1、2、3に係わる本発明に係わる反応性アゾ化合物は、実施例4に係わる比較のための一般的な染色観察用の色素に比べて、水酸基に対する染色性に優れていることが確認された。
【0067】
<実施例5>
アセトニトリル50ml中にジエチレングリコール1.0g(9.4mmol)と実施例4の反応性アゾ化合物4.3g(18.8mmol)を加えて、室温中24時間放置し反応させ、反応溶剤をエバポレーターで濃縮した後、濃赤色の沈殿物を吸引濾過、さらに再結晶法(溶媒:アセトニトリル)で精製し、濃赤色化合物が得られた
IR:1220cm-1と1700cm-1、1540cm-1、3300cm-1にそれぞれウレタン結合由来と考えられる吸収を確認した。その他1600cm-1(Ar ring)、1180cm-1と1040cm-1、650cm-1にスルホン酸由来の吸収を確認。
ラマン:1360cm-1にアゾ基由来と推定される強い吸収を確認した。
【0068】
実施例5により、実施例4に係る本発明の反応性アゾ化合物は、容易に活性水素基を有する化合物に対して付加反応し、新たにアゾ化合物を合成することが出来ることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式中、Dは、モノアゾ色素、ポリアゾ色素の残基を表し、nは1、又は2の数である)をジアゾ化させた下記式(2)
【化2】

(式中、Dとnは前記と同じ、Xは、塩酸、テトラフルオロホウ酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、過塩素酸その他の酸の陰イオンを表す。)のジアゾニウム塩を下記式(3)
【化3】

(式中、pは0〜2の数で、〔N=C=O〕は、ベンゼン環上の3位か、3位と5位に位置する。qは0〜2の数で、〔Y〕は、電子供与性の置換基が、3位か、3位と5位に位置する)
のp位にジアゾカップリング反応を非水系の溶媒中で行なって、下記式(4)
【化4】

(式中、Dとn、Y、p、qは前記と同じ)のイソシアネート基を有するアゾ化合物を得ることを特徴とする反応性アゾ化合物の製造方法。
【請求項2】
前記Dが、フェニル系、ジフェニル系、又はナフタレン系、ナフトキノン系、或いは含硫黄複素環系、含窒素複素環系、含酸素複素環系、又は、これら硫黄や窒素、酸素の複合の複素環系等の環状構造であることを特徴とする請求項1記載の反応性アゾ化合物の製造方法。
【請求項3】
前記Dの環状構造に電子吸引性を与える置換基(特に、ニトロ基、シアノ基、アルデヒド基、ハロゲン基、ハロゲン化炭素、或いは、スルホン酸基、カルボン酸基やそれらの金属塩)が置換されていることを特徴とする請求項1又は2記載の反応性アゾ化合物の製造方法。
【請求項4】
前記請求項1乃至3のいずれか1項に記載の反応性アゾ化合物の製造方法において、式(3)のジアゾニウム塩が、特に、テトラフルオロホウ酸塩であることを特徴とする請求項1記載の反応性アゾ化合物の製造方法。
【請求項5】
前記請求項1乃至4のいずれか1項に記載の反応性アゾ化合物の製造方法で得られることを特徴とする反応性アゾ化合物。
【請求項6】
前記請求項5記載の反応性アゾ化合物が、イソシアネート基と反応し得る活性水素基(例えば、1級、或いは、2級アミノ基や水酸基など)を有する化合物や高分子の活性水素基に付加反応したことを特徴とする反応物。