説明

反磁性物質の磁気駆動装置、方法およびシステム

【課題】反磁性物質を、非接触で磁気浮上および/または三次元駆動する磁気駆動装置、方法およびシステムを提供する。
【解決手段】磁場のポテンシャル壁を形成するように配置された複数の永久磁石からなる磁石配列11と、この磁石配列上に載置された感温磁性体配列20と、この感温磁性体配列を選択的に加熱する加熱手段31とを有し、加熱手段により発生した磁場の変化から、反磁性物質からなる駆動対象物40を磁気浮上および/または駆動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反磁性物質からなる駆動対象物を磁気浮上および/または三次元駆動させる磁気駆動装置、方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
駆動対象物を非接触で移動させる手法として、磁気浮上によるものがある。たとえば、搬送車を浮上させる磁力を永久磁石により得るようにし、浮上装置を搬送車に搭載した装置(特許文献1)、ほぼ一様に帯磁させた、上、中、下の板磁石が互いに反発しあうように、非磁性体充填接着剤で間隙を持って接着し、浮遊板磁石が宙に浮く構成の磁気浮上装置により、外部から回転磁界などを加えた場合に、浮遊板磁石を回転させて、スイッチ等のアクチュエータとしての機能をもたせる技術(特許文献2)が提案されている。
【0003】
また、回転軸がステータ磁石とロータ磁石による反発する磁力により浮上、軸支され、交流電流で駆動する駆動用コイルと磁性リングにより回転軸を振動させて、物品を移動させる反発形磁気浮上ユニット(特許文献3)、さらに感温フェライトの磁気吸着力に注目した二次元アクチュエータ(非特許文献1)がある。
【0004】
一方、本発明者らは、先に行った特許出願(特願2007−45687号)に開示した図7に示すような永久磁石からなる駆動体を磁気浮上させる装置を発明している。これは、永久磁石80と感温磁性体81の組み合わせによりグラファイトの反磁性の性質を利用して駆動体82(永久磁石)を磁気浮上させ、これを光照射による温度変化で磁場を変化させて三次元駆動するものである。
【0005】
【特許文献1】特開昭61−15557号公報
【特許文献2】特開2004−242447号公報
【特許文献3】特開2004−347097号公報
【特許文献4】特願2007−45687号明細書
【非特許文献1】水谷康弘・大谷幸利・梅田倫弘「感温磁性体による光熱変換方式2次アクチュエータ」電学論E,126、No4,(2006)170.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特願2007−45687号明細書に記載された磁気浮上装置には、駆動体82が永久磁石であること、および駆動対象物が2枚の板状の反磁性物質83,84で挟まれなければならないという制約がある。
このため、金ナノ粒子、カーボンナノチューブのような反磁性物質からなる駆動対象物を三次元駆動することには適さない。
【0007】
本発明は、反磁性物質からなる駆動対象物を、非接触で磁気浮上および/または三次元駆動させることが可能な反磁性物質の磁気駆動装置、方法およびシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の反磁性物質の磁気駆動装置は、反磁性物質からなる駆動対象物を浮上および/または駆動させる磁気駆動装置において、磁場のポテンシャル壁を形成するように配置された複数の永久磁石からなる磁石配列と、前記磁石配列に載置された感温磁性体と、前記感温磁性体を選択的に加熱する加熱手段とを有し、前記加熱手段により発生した磁場の変化から、反磁性物質からなる駆動対象物を磁気浮上および/または駆動させることを特徴とする。
【0009】
本発明の反磁性物質の磁気駆動方法は、反磁性物質からなる駆動対象物を浮上および/または駆動させる磁気駆動方法において、複数の永久磁石からなる磁石配列を磁場のポテンシャル壁を形成するように配置するステップと、前記磁石配列上に感温磁性体が載置されるステップと、前記感温磁性体を選択的に加熱するステップと、加熱により発生する磁場の変化から、前記反磁性物質からなる駆動対象物を磁気浮上および/または駆動させるステップとを特徴とする。
【0010】
本発明の反磁性物質の磁気駆動システムは、反磁性物質からなる駆動対象物を浮上および/または駆動させる磁気駆動システムにおいて、磁場のポテンシャル壁を形成するように配置された複数の永久磁石からなる磁石配列と、前記磁石配列上に載置された感温磁性体と、前記感温磁性体を加熱する加熱手段とを有し、前記加熱手段により発生した磁場の変化から、前記反磁性物質からなる駆動対象物を磁気浮上およびまたは駆動させることを特徴とする。
【0011】
本発明の一実施形態において、前記磁石配列がハルバッハ配列であることを特徴とする。
また、前記感温磁性体が、前記磁石配列上の一面に載置されることを特徴とする。また、前記感温磁性体が、前記磁石配列上に所定の間隔で載置されることを特徴とする。
また、前記加熱手段が、前記感温磁性体を選択的に照射する光であることを特徴とする。前記加熱手段が、前記感温磁性体の所定位置に載置したペルチェ素子であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、感温磁性体を加熱することにより発生する磁場の変化により、反磁性物質からなる駆動対象物を、簡単な装置で容易に、非接触で三次元浮上および/または駆動することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明による磁気浮上駆動装置の一実施形態を説明する。図1は、磁気浮上駆動装置の断面を示している。図1において、磁石配列11は、永久磁石11a,11b,11c,11d,11eからなり、これらがハルバッハ配列に配置されている。矢印の向きは磁石の極性の方向を示し、始点がS極、終点がN極である。感温磁性体配列20は、感温磁性体20a、20b、20cからなり、磁石配列の1つおきに、すなわちそれぞれ永久磁石11a、11c,11eの上部に載置されている。本実施例では感温磁性体は所定間隔をあけて配置しているが、感温磁性体配列は、永久磁石配列の上部全体に載置されていてもよい。
【0014】
反磁性物質からなる球体40(駆動対象物)は、この磁気浮上装置により、浮上させられ、駆動される対象物である。
反磁性とは、物質が置かれている磁場と反対の極性の磁極を発生する特性である。たとえば、金ナノ粒子、カーボンナノチューブなどのナノ粒子が反磁性を有するとされている。また、反磁性物質としては、金や銅の金属や、グラファイトやシリコンやガラスのような無機物質、又はプラスチックのような有機物質などがある。本実施例の球体40の材料はグラファイトである。
【0015】
感温磁性体は、載置される永久磁石の磁場を大きく変化させる物質が好ましい。感温磁性体は、キュリー温度を境に、飽和磁束密度が急激に変化する材料であり、相転移によって磁化率が変化し、強磁性体となったり常磁性体になったりする性質を持つ磁性体である。感温磁性体は相転移温度であるキュリー温度が室温付近の物質である。感温磁性体を構成している基本の組成比率を変えることにより、その動作温度を決めるキュリー温度を所望の値に設定できる。例えば、MnCuZn系感温磁性体はキュリー温度が40℃であり、室温で強磁性を示すが35〜45℃で磁化率が低下し常磁性を示す物質である。このような感温磁性体では、磁力線は、室温では強磁性材のように磁化率は高いが、キュリー温度以上で、常磁性体となり磁化率は低くなり、磁力線は感温磁性体のN極に磁化された側から出射するのではなく、載置されている永久磁石のN極から直接出射することになる。
【0016】
本発明における感温磁性体は、キュリー温度が使用環境温度に近いものが好ましく、室温の使用環境であれば、40℃〜60℃位のキュリー温度を持つ材料が好ましい。
感温磁性体を加熱する手段として、レーザ光のような光を直接感温磁性体に照射し、光エネルギーを熱に変換する方法や、ペルチェ素子を感温磁性材料に載置させ、加熱する方法等がある。
【0017】
本実施例では、光源31より光を照射して感温磁性体を加熱する。光の種類はレーザ光を用い、感温磁性体20a、20b、20cにそれぞれ光を照射できるように設けられている。光源31からの光を感温磁性体20a、20b、20cに選択的に照射するために、例えばガルバノミラーを用いてもよい。
感温磁性体が永久磁石配列の上部全体に載置されている場合、光源は感温磁性体に対し部分的に照射する。
感温磁性体20a、20b、20cの温度変化の緩急は、光源31から出射する光の強さに依存する。感温磁性体の温度変化は、駆動対象物の動作にも影響する。
【0018】
永久磁石11a,11b,11c,11d,11eは、フェロ磁性体で作製した板で、鉄を主成分とする合金磁石、酸化物磁石であるフェライト磁石、あるいは、希土類元素(周期律表のランタニドと称される一連の元素)とコバルトあるいは鉄からなる金属間化合物を主成分とする希土類磁石で製作が可能である。本実施例では、ネオジウムを用いている。
【0019】
ここで、反磁性物質のパッシブ磁気浮上の原理を図2により説明する。図2(A)は、パッシブ磁気浮上の一次元モデルを示し、図2(B)は、3つの反磁性物質(ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン)について、永久磁石を420mTにした場合の、その磁化率と釣り合いの位置(永久磁石110から駆動対象物400までの距離)の関係を示す。図2(A)において、反磁性物質からなる駆動対象物400は、それにかかる重力mgと永久磁石110からの反発力Fmagとが釣り合うことにより、その位置にとどまることができ、したがって磁気浮上することになる。
【0020】
この現象は次式で表すことができる。釣り合いは、磁束密度の変化にのみ依存し、極性は関係がない。図2(B)に示すように、反磁性物質の種類により磁化率が異なるので、釣り合い位置は、ポリカーボネイトは8.29cm、ポリスチレンは9.7cm、ポリエチレンは11.0cmと、各物質で異なる。
【0021】
【数1】

【0022】
図3は、球体40の駆動原理を示す。感温磁性体20に光を照射していない場合、ポテンシャル壁は、図中の破線(a)に示す状態にあり、球体40は、そのポテンシャルエネルギーが最小の場所(白丸の位置)で安定する。感温磁性体20a〜20cに光を照射すると、ポテンシャル壁は、図中の実線(b)で示すように移動する(黒丸の位置)。球体40は、実線(b)のポテンシャルエネルギーが最小の位置に移動することになり、図中の右方向に移動する。
【0023】
図4は、永久磁石の極性の配列を変更した場合の磁束密度およびポテンシャルエネルギーの分布図である。永久磁石の極性の配列が同方向の場合、磁束密度およびポテンシャルの分布は配列の両端に強く表れており、駆動対象物の動作が水平方向に不安定となる。また、永久磁石の極性の配列が反対方向の場合、磁束密度およびポテンシャルの分布は、磁石の境界上、垂直方向にのみ小さく表れており、駆動対象物が永久磁石から遠ざかると、釣り合い位置が定まらない。
一方、ハルバッハ配列の場合、磁束密度およびポテンシャルの分布は、永久磁石配列の上部のみ、かつ、他の極性配列と比較して垂直方向に格段に大きく表れ、大きなポテンシャル壁が作成されていることが判る。よって、ポテンシャル壁の間に駆動対象物を配置すると、駆動対象物が水平、垂直方向に安定し、釣り合い位置が定まる。これにより、永久磁石の極性の配列は、ハルバッハ配列が最適であることがわかる。図1に示した実施形態における永久磁石の配列は、ハルバッハ配列を採用している。
【0024】
本装置の、磁場が変化して球体40が浮上して駆動する動作について、図5のフローチャートを用いて説明する。
光源31は、ハルバッハ配列で配置された永久磁石11a〜11eの上部に載置した感温磁性体20a〜20cに光を照射する(ステップS1)。
感温磁性体20a〜20cは、照射された光から、光熱変換により自身の温度が上昇する(ステップS3)。感温磁性体20a〜20cがキュリー温度以上に上昇した場合(ステップS5で「Yes」)、載置している永久磁石11a、11c、11eの磁化率が低下する(ステップS7)。そして永久磁石周辺の磁場の分布が変化し(ステップS9)、球体40が磁気で浮上し、駆動する(ステップS11)。
【0025】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0026】
例えば、本実施形態では、永久磁石11a〜11eが密着して磁石配列を形成しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、永久磁石間に隙間を持たせて配置させても良い。図6は、永久磁石配列に隙間が無い場合と、1mmの隙間がある場合について、磁束密度分布と磁力線分布を示したものである。両者とも、磁力の強さは殆ど変わらない。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の反磁性物質の磁気浮上駆動装置、方法およびシステムにより、ナノオーダー物質の形状選別が実現でき、ナノオーダー物質を使用した次世代センサーなどの新デバイスの高品質、大量生産が可能となる。ナノ粒子の選別は、粒子の質量により、粒子に働く重力が異なるので、その浮上高さが異なることを利用することで実現できる。ナノ粒子は、とくに質量が小さいために容易に浮上させることができ、磁場の影響を受けやすいためにその位置変化も容易となる。
【0028】
本発明による反磁性物質の磁気浮上駆動装置、方法およびシステムでは、電磁コイルを使用せず、完全なパッシブ磁気浮上を行うことができる。本発明による反磁性物質の磁気浮上駆動装置は、反磁性物資を非接触で摩擦なく三次元駆動することができ、省エネルギーの駆動が可能である。また、図8に示す装置に比べ装置構成が簡素化され、駆動対象物周辺に装置の構成要素を設ける必要がない。
【0029】
また、本発明による磁気浮上駆動装置、方法およびシステムが浮上駆動の対象とする反磁性物質には、高分子や水などの一般的な物質が含まれるため、本発明は極めて汎用性の高いものである。たとえば、質量分析、形状分析などの分析方法としての展開、顕微鏡下のミクロな領域で駆動することで、マイクロ粒子のサイズ均一化に貢献できる。さらに、アミューズメント分野、ディスプレイ装置分野への応用も可能である。駆動対象物は、ナノ粒子などに限られず、ポリスチレン、グラファイトなどの反磁性物質で平板状の駆動体を作成し、これをステージとして利用することも考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態による反磁性物質の磁気浮上駆動装置の構成を示す模式図である。
【図2】反磁性物質のパッシブ磁気浮上の原理を示す図であり、(A)はその一次元モデルを示し、(B)は磁化率と釣り合いの位置を示す。
【図3】駆動対象物の水平方向への駆動原理を示す説明図である。
【図4】磁石配列の違いによる磁束密度とポテンシャルの分布を示す解析図である。
【図5】同上の実施形態における、磁場が変化して球体が浮上して駆動する動作を示すフローチャートである。
【図6】永久磁石配列に隙間が無い場合と隙間がある場合について、磁束密度と磁力線の分布を示す図である。
【図7】本発明者らが先に提案した磁気浮上駆動装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
11 磁石配列
11a〜11e 永久磁石
20 感温磁性体配列
20a〜20c 感温磁性体
31 光源
40 球体
80 永久磁石
81 感温磁性体
82 駆動体
83,84 反磁性物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反磁性物質からなる駆動対象物を浮上および/または駆動させる磁気駆動装置において、
磁場のポテンシャル壁を形成するように配置された複数の永久磁石からなる磁石配列と、前記磁石配列に載置された感温磁性体と、
前記感温磁性体を選択的に加熱する加熱手段とを有し、
前記加熱手段により発生した磁場の変化から、前記反磁性物質からなる駆動対象物を磁気浮上および/または駆動させる
ことを特徴とする反磁性物質の磁気駆動装置。
【請求項2】
前記磁石配列は、ハルバッハ配列であることを特徴とする請求項1および2記載の反磁性物質の磁気駆動装置。
【請求項3】
前記感温磁性体が、前記磁石配列上の一面に載置される
ことを特徴とする請求項1記載の反磁性物質の磁気駆動装置。
【請求項4】
前記感温磁性体が、前記磁石配列上に所定の間隔で載置される
ことを特徴とする請求項1記載の反磁性物質の磁気駆動装置。
【請求項5】
前記加熱手段は、前記感温磁性体を選択的に照射する光であることを特徴とする請求項1〜3記載の反磁性物質の磁気駆動装置。
【請求項6】
前記加熱手段は、前記感温磁性体の所定位置に載置したペルチェ素子であることを特徴とする請求項1または2記載の反磁性物質の磁気駆動装置。
【請求項7】
反磁性物質からなる駆動対象物を浮上および/または駆動させる磁気駆動方法において、
複数の永久磁石からなる磁石配列を磁場のポテンシャル壁を形成するように配置するステップと、
前記磁石配列上に感温磁性体が載置されるステップと、
前記感温磁性体を選択的に加熱するステップと、
加熱により発生する磁場の変化から、前記反磁性物質からなる駆動対象物を磁気浮上および/または駆動させるステップと
からなることを特徴とする反磁性物質の磁気駆動方法。
【請求項8】
反磁性物質からなる駆動対象物を浮上および/または駆動させる磁気駆動システムにおいて、
磁場のポテンシャル壁を形成するように配置された複数の永久磁石からなる磁石配列と、
前記磁石配列上に載置された感温磁性体と、
前記感温磁性体を加熱する加熱手段とを有し、
前記加熱手段により発生した磁場の変化から、前記反磁性物質からなる駆動対象物を磁気浮上および/または駆動させる
ことを特徴とする反磁性物質の磁気浮上駆動システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−68603(P2010−68603A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−231521(P2008−231521)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)