説明

反芻動物の健康管理システム、反芻動物の健康管理方法および反芻動物の健康管理システム用首輪

【課題】牛などの反芻動物の健康状態、発情や分娩のタイミングをこの反芻動物に負担を掛けないで簡便に把握することができる反芻動物の健康管理システム、反芻動物の健康管理方法および反芻動物の健康管理システム用首輪を提供する。
【解決手段】反芻動物の健康管理システムは、反芻動物11の首11aにはめる首輪13に取り付けられた、反芻動物11から見て前後方向の加速度を計測する加速度センサおよび/または反芻動物11の下顎部11cおよび体部11dの温度を計測する温度センサを有する。加速度センサおよび/または温度センサにより計測された加速度データおよび/または温度データに基づいて反芻動物11の健康状態、発情や分娩のタイミングを把握する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、反芻動物の健康管理システム、反芻動物の健康管理方法および反芻動物の健康管理システム用首輪に関し、例えば、牛の健康状態、発情や分娩のタイミングの把握などに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
酪農において、牛の健康状態、発情や分娩のタイミングの把握は重要であるが、フリーストール(牛舎内での放し飼い)や放牧地に放牧する場合には個体ごとの管理は困難であり、タイストール(繋ぎ飼い)の場合でも個体観察には労力を要する。
そこで、この状況を改善するために、従来より多くの提案がなされている(例えば、特許文献1〜6参照。)。
【0003】
特許文献1には、運動検知センサを含む牛採食量計測装置を牛の首にベルトにより吊り下げ、この運動検知センサにより採食運動を検知し、この採食運動の検知回数からこの牛の採食量を演算して記録する技術が開示されている。
特許文献2には、放牧された動物に装着される放牧動物管理装置において、動物の背骨に対する脚の反対側へ装着され、加速度を検知して加速度データを出力する加速度センサと、加速度データを時系列で記憶するデータメモリと、このデータメモリと接続されて加速度データを解析した歩数データを所定時間ごとに出力する解析部とを備えた構成とすることが開示されている。
【0004】
特許文献3には、反芻動物の咀嚼状況を調査するための装置において、調査対象反芻動物に装着されてその調査対象反芻動物の咀嚼動作を検出する咀嚼動作検出手段と、この咀嚼動作検出手段の検出結果を記録する咀嚼動作記録手段とを備えた構成とすることが開示されている。
特許文献4には、草食家畜の下顎部にこの草食家畜が喫食することによって生じる上下動を感知し、その回数をカウントする度数計を取り付け、その度数計からの信号を経時的に記録し、草食家畜の採食時間、採食時間帯、採食量などの採食行動を検出することが開示されている。
【0005】
特許文献5には、牛などの反芻動物の首に音センサ、喉に吐き戻しセンサを設置して咀嚼行動を検出し、反芻動物の生理的状態あるいは飼料の好適性を監視する方法が開示されている。この場合、音センサは採食時および反芻時の単位時間内における咀嚼行動数の数によって区分し、吐き戻しセンサは補助とする。
特許文献6には、牛の首に装着し発情行動の頻度を計測する発情行動計測手段と、発情牛を発情行動計測手段の計測結果に基づき検知する発情牛検知手段とを有する発情検知装置であって、発情行動計測手段は、首輪と、体の傾きに基づき乗駕回数を計測する加速度センサおよび角度センサと、乗駕した際に超音波を発信する超音波発信部と、乗駕された際に乗駕した牛の超音波発信部からの超音波を受信し、被乗駕回数を計測する受信側超音波センサと、各センサの計測結果と自らの識別情報とを発情牛検知手段へ送信する乗駕情報送信部とを有し、発情牛検知手段は、発情行動計測手段が送信する計測結果に基づき発情牛を選定する第一解析部および第二解析部と、各解析部の解析結果を出力する出力部を有するものが開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2002−262712号公報
【特許文献2】特開平11−56146号公報
【特許文献3】特開2003−219757号公報
【特許文献4】特開平10−262498号公報
【特許文献5】特表2004−504051号公報
【特許文献6】特開2005−210927号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜6に開示されたいずれの技術も、牛などの反芻動物の健康状態、発情や分娩のタイミングをこの反芻動物に負担を掛けないで簡便に把握することは困難であった。
そこで、この発明が解決しようとする課題は、牛などの反芻動物の健康状態、発情や分娩のタイミングをこの反芻動物に負担を掛けないで簡便に把握することができる反芻動物の健康管理システム、反芻動物の健康管理方法および反芻動物の健康管理システム用首輪を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、牛などの反芻動物は採食時には頭部を下げ、反芻時には頭部を上げる現象に着目し、反芻動物にはめる首輪に加速度センサあるいは温度センサを取り付け、反芻動物から見て前後方向の加速度を加速度センサにより計測し、あるいは、反芻動物の下顎部および体部の温度や下顎部の温度と体部の温度との差を温度センサにより計測することで採食/反芻の状況を簡便に把握することができ、この把握結果に基づいて反芻動物の健康状態、発情や分娩のタイミングなどの把握が可能であることを見出した。この方法では、加速度センサや温度センサを取り付けた首輪を反芻動物にはめればよいので、使用者の労力を要さないばかりでなく、頭絡(ハーネス)を装着する必要がないので反芻動物に負担を与えないで済む。
【0009】
この発明は、以上の検討に基づいてさらに検討を行った結果案出されたものである。
すなわち、上記課題を解決するために、第1の発明は、
反芻動物の首にはめる首輪に取り付けられた、前記反芻動物から見て前後方向の加速度を計測する加速度センサおよび/または前記反芻動物の下顎部および体部の温度を計測する温度センサを有することを特徴とする反芻動物の健康管理システムである。
【0010】
この反芻動物の健康管理システムは、典型的には、加速度センサおよび/または温度センサにより計測された加速度データおよび/または温度データを記録するメモリと、このメモリに記録された加速度データおよび/または温度データを外部に出力する外部出力手段とをさらに有する。メモリとしては、半導体メモリ、磁気メモリなどの各種のものを用いることができる。外部出力手段は、好適には、無線電波通信であり、この場合には加速度センサおよび/または温度センサにより計測された加速度データおよび/または温度データを電波として送信する。外部出力手段が無線電波送信である場合、この反芻動物の健康管理システムは、典型的には、無線電波で送信されたデータを受信する受信装置と、受信装置に接続して送信されたデータを記録するメモリと、メモリに記録されたデータについて所定のアルゴリズムで演算を行う解析装置とを有する。
【0011】
首輪は反芻動物の頭部の垂直方向の動きに応じて可動であり、反芻または採食時に首輪が移動することにより発生する、反芻動物から見て前後方向の加速度を首輪に取り付けた加速度センサにより計測する。この反芻動物の健康管理システムでは、例えば、加速度センサにより計測された加速度データが、一定時間継続して所定の値を上回る正の値を示す場合は反芻動物が採食状態、一定時間継続して所定の値を下回る負の値を示す場合は反芻動物が反芻状態、一定時間所定の範囲内の値を示す場合は反芻動物が休息状態と判定することができる。この所定の値は個体ごとに異なることがある。また、加速度センサにより計測された加速度データのパターンと、同一個体の同一時間帯における累積加速度データのパターンとが互いに異なる場合は反芻動物が異常状態と判定することができる。言い換えれば、加速度センサにより計測された加速度データのパターンが、ある期間にわたって累積した加速度データのパターンと異なる場合には何らかの異常が生じていると判定することができる。さらに、この加速度データと累積加速度データとの差が所定の値を上回るようなパターンを示す場合は反芻動物が発情状態と判定することができる。この所定の値は個体ごとに異なることがある。
【0012】
また、首輪は、反芻動物の頭部が垂直方向に上がった時に温度センサが反芻動物の体部に接近し、反芻動物の頭部が垂直方向に下がった時に温度センサが反芻動物の下顎部に接近するように取り付けられる。例えば、温度センサにより計測された反芻動物の体部の温度に対する反芻動物の下顎部の温度の差が、正の値を示す場合は反芻動物は採食状態、負の値を示す場合は反芻動物は反芻状態と判定することができる。また、温度差データのパターンと、同一個体の同一時間帯における累積温度差データのパターンとが互いに異なる場合は反芻動物が異常状態と判定することができる。さらに、温度差データと累積温度差データとの差が所定の値を上回るようなパターンを示す場合は反芻動物は発情状態と判定することができる。この所定の値は個体ごとに異なることがある。さらにまた、温度差データと累積温度差データとの差が所定の値を下回るようなパターンを示す場合は反芻動物は体調不良状態または分娩直前状態と判定することができる。この所定の値は個体ごとに異なることがある。温度差データを用いることにより、外気温の影響を排除することができ、正確な判定を行うことができる。
【0013】
第2の発明は、
反芻動物の首に、前記反芻動物から見て前後方向の加速度を計測する加速度センサおよび/または前記反芻動物の下顎部および体部の温度を計測する温度センサを取り付けた首輪をはめ、前記加速度センサおよび/または前記温度センサにより計測される加速度データおよび/または温度データに基づいて前記反芻動物の健康を管理するようにしたことを特徴とする反芻動物の健康管理方法である。
【0014】
第3の発明は、
反芻動物から見て前後方向の加速度を計測する加速度センサおよび/または前記反芻動物の下顎部および体部の温度を計測する温度センサが取り付けられていることを特徴とする反芻動物の健康管理システム用首輪である。
第2および第3の発明においては、第1の発明に関連して説明したことが成立する。
【0015】
反芻動物は、一度嚥下した食物を再び口に戻して咀嚼(細かく破砕)した後、再嚥下する脊椎動物偶蹄類であり、具体的には、例えば、牛(乳牛、肉牛を含む)、水牛、ジャワ牛、バンテーン、ヤク、ヒツジ、ヤギ、アンテロープ、シカ、ガゼル、キリン、ラクダ、リャマ、アルパカ、グアナコ、ビクーニャ、マメジカ、ネズミジカなどであるが、これに限定されるものではない。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、牛などの反芻動物の健康状態、発情や分娩のタイミングをこの反芻動物に負担を掛けないで簡便に把握することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1はこの一実施形態による反芻動物の健康管理システムの全体構成を示す。
図1に示すように、この反芻動物の健康管理システムにおいては、管理する反芻動物11の首11aに、加速度/温度計測モジュール12を取り付けた首輪13をはめる。この首輪13は、反芻動物11の採食時および反芻時に頭部11bの垂直方向の動きが生じたときに可動な大きさに構成されており、これに伴いこの首輪13の下部に取り付けられた加速度/温度計測モジュール12が反芻動物11から見て前後方向に可動になっている。この加速度/温度計測モジュール12は、反芻動物11の頭部11bの垂直方向の動きに応じて発生する反芻動物11から見て前後方向の加速度を計測するとともに、反芻動物11の下顎部11cおよび体部11dの温度を計測するためのものである。
【0018】
加速度/温度計測モジュール12で計測された加速度データおよび温度データは、例えばこの加速度/温度計測モジュール12に内蔵されたメモリ(図示せず)に記録され、このメモリから無線電波通信により送信され、管理センター14に備えられた受信装置15により受信される。この受信装置15により受信された加速度データおよび温度データはデータ処理装置16のメモリに格納され、この加速度データおよび温度データに対して所定のアルゴリズムに従った解析が行われ、その結果に基づいて反芻動物11の健康管理が行われる。
【0019】
図2に首輪13および加速度/温度計測モジュール12の詳細を示す。図2に示すように、加速度/温度計測モジュール12は反芻動物11の首11aに首輪13をはめたときのこの首輪13の最下部の位置に取り付けられている。この加速度/温度計測モジュール12は加速度センサ17および温度センサ18を有している。この加速度/温度計測モジュール12の外部には温度センサ18のセンサ部18a、18bが設けられている。センサ部18aは反芻動物11の下顎部11cの温度の計測に用いられ、センサ部18bは反芻動物11の首に連なる体部11dの温度の計測に用いられる。
【0020】
首輪13の直径および幅は、反芻動物11の首11aの太さなどに応じて適宜決められるが、加速度センサ17および温度センサ18による計測を良好に行う観点からは、一般的には首輪13はきつく締めない方が良く、これは反芻動物11の管理上も都合が良い。具体的には、首輪13の直径は、好適には、反芻動物11が頭を持ち上げた状態で、首輪13を上に引っ張り上げた場合に首11aと首輪13との間に例えば6〜9cmの隙間ができるように選ぶが、これに限定されるものではない。
【0021】
図3は反芻動物11が頭部11bを上げても下げてもいない起立時を示す。図3に示すように、この状態では、加速度/温度計測モジュール12のセンサ部18a、18bとも反芻動物11と接触していない。
図4は反芻動物11が頭部11bを下げて採食を行っている時を示す。図4に示すように、この状態では、加速度/温度計測モジュール12の温度センサ18のセンサ部18aは反芻動物11の下顎部11cに接触し、この下顎部11cの温度が計測される。
図5は反芻動物11が頭部11bを上げて反芻を行っている時を示す。図5に示すように、この状態では、加速度/温度計測モジュール12のセンサ部18bは反芻動物11の首に連なる体部11dに接触し、この体部11dの温度が計測される。
【0022】
この反芻動物の健康管理システムの具体的な構成例を図6に示す。図6に示すように、加速度/温度計測モジュール12の加速度センサ17および温度センサ18により計測される加速度データおよび温度データはデータ収集・送信ユニット51により収集され、反芻動物11の各個体に付与された個体IDや時間データなどとともに管理センター14に送信される。加速度/温度計測モジュール12には、必要に応じてデータプロセッサー、クロックカウンター、メモリ、電源などが内蔵され、あるいは接続される。データ収集・送信ユニット51から送信されたデータは管理センター14の受信ユニット61により受信され、コンピュータ62のメモリに格納される。コンピュータ62でこれらのデータの解析が所定のアルゴリズムに従って行われ、その結果に応じてコンピュータ62によりアラームを発生する。コンピュータ62にはサーバー63が接続され、上述の送信されたデータや処理後のデータなどを蓄積することができるようになっている。コンピュータ62はまた、モニター64と接続されている。そして、モニター64によるモニター結果に応じて警報器65により警報を発し、あるいは、表示灯66により表示することができるようになっている。
【0023】
次に、この反芻動物の健康管理システムの使用方法について説明する。
図1に示すように、管理する反芻動物11の首11aにはめた首輪13に取り付けられた加速度/温度計測モジュール12により加速度データおよび/または温度データを計測する。このとき、加速度データは、加速度/温度計測モジュール12の加速度センサ17の前後動より計測される。一方、温度データは、加速度/温度計測モジュール12の温度センサ18のセンサ部18a、18bがそれぞれ下顎部11cおよび体部11dと接触することにより計測される。メモリには、加速度/温度計測モジュール12により計測される加速度データおよび/または温度データのうち例えば単位時間当たりの最大値のみを取り込む。これにより、不必要なデータをスクリーニングすることができるとともに、データ数の節約ができ、メモリ容量の節約ができる。加速度および温度の計測間隔は、例えば1秒ごとに行ってもよいが、メモリへの取り込みは、具体的には、例えば、1分ごと、2分ごとであってもほとんど差はなく、採食および反芻行動を検出することができるが、判定をする際に例えば5〜10分ごとの移動平均を取ると加速度および温度の変化が滑らかになり、一目で採食および反芻行動を判定できるので、より正確な測定には1分ごとの方が望ましい。こうしてメモリに取り込まれた加速度データおよび温度データは、無線電波通信により、管理センター14に備えられた受信装置15により受信され、データ処理装置16により所定のアルゴリズムに従った解析が行われ、その結果に基づいて反芻動物11の健康状態、発情や分娩のタイミングの把握などが行われる。
【0024】
〈実施例1〉
加速度/温度計測モジュール12の加速度センサ17として3軸加速度センサを用い、加速度の計測を行った。この3軸加速度センサとしては、株式会社スリック製の3軸加速度センサ(G−MEN DR 02)を用いた。この3軸加速度センサの1軸を反芻動物11から見て前後方向に合わせ、この1軸のみ使用した。この3軸加速度センサの外形寸法は高さ75mm、幅60mm、奥行き32mmであり、重さは電池を含めて115gである。この3軸加速度センサには温度センサも付属している。
反芻動物11として酪農学園大学所有の4頭の健常牛(牛No.1〜No.4)および2頭の発情期前後の牛(牛No.5、No.6)を用いた。
【0025】
図7および図8は牛No.1および牛No.2の加速度の24時間の計測結果を示し、縦軸は計測された加速度(重力加速度G(9.8m/s2 )を単位とする値)、横軸は時刻である。加速度は、1分間隔で計測した加速度の最大加速度である。また、これらの牛を目視観察して行動を観察した。図7および図8には、反芻を行っている時間帯および採食を行っている時間帯をそれぞれ示している。図7および図8より、牛は、加速度が正である時は採食を行っており、加速度が負である時は反芻を行っているか休息状態を示す傾向が認められる。また、反芻と休息との区別は、加速度の絶対値の大きさで判定可能であり、絶対値が大きいと反芻、小さいと休息であると判定することができる。図7および図8には、3軸加速度センサに付属している温度センサによる温度の計測結果も併せて示してあるが、この温度センサと反芻動物との接触の有無にかかわらず、この温度はこの温度センサの付近の温度である。この温度の計測結果より、反芻時には温度が高く、採食時には低い傾向があることが分かる。
【0026】
図9は、図8に示す牛No.2について計測された加速度の移動平均のグラフである。また、図10は、図8に示す牛No.2について計測された加速度の二重移動平均のグラフである。図9に示すグラフは、図8に示すデータの5分ごとの移動平均をとり、その5分間の移動平均の移動平均を図示したものである。5分間の移動平均だけでも良いが、二重移動平均をとることにより、図10に示すように、より滑らかなグラフとなり見やすくなる。図9および図10より、加速度の移動平均、さらには二重移動平均をとると、反芻か採食かの判定をより明確に行うことができることが分かる。
【0027】
図11は、図8に示す牛No.2について計測された加速度の前後移動平均のグラフである。図11より、移動平均を取ると、反芻か採食かの判定をより明確に行うことができることが分かる。
図12は、牛No.1について24時間計測された加速度の計測結果を示す。
図13は、牛No.3について24時間計測された加速度の計測結果を示す。
図14および図15は、牛No.4について24時間計測された加速度の移動平均のグラフを示す。図14および図15は時間的に連続している。
【0028】
図16および図17は、発情期の牛No.5についての発情前後の加速度の計測結果を示す。図16および図17は時間的に連続している。図16および図17より、発情に伴って採食時間や反芻時間が明らかに少なくなることが分かる。
図18は、図16および図17に示す牛No.5について計測された加速度の移動平均のグラフである。図18より、移動平均を取ると、発情行動の判定をより明確に行うことができることが分かる。
図19および図20は、発情期の牛No.6の発情中および発情後の加速度の計測結果を示す。図19および図20は時間的に連続している。
図21は、図19および図20に示す牛No.6について計測された加速度の移動平均のグラフである。図21より、移動平均を取ると、発情行動の判定をより明確に行うことができることが分かる。
これらの結果より、加速度の計測により、発情や分娩のタイミングの把握が可能であることが分かる。最適な人工授精のタイミングは発情開始後4〜12時間、遅くとも16時間、あるいは発情開始後4時間から発情終了後8時間(発情の持続時間は約12時間)までに授精することが望ましいので、人工授精のタイミングを逃さないようにすることができる。
【0029】
以上のことから分かるように、加速度センサにより計測された加速度データが、一定時間継続して所定の値を上回る正の値を示す場合は反芻動物が採食状態、一定時間継続して所定の値を下回る負の値を示す場合は反芻動物が反芻状態、一定時間所定の範囲内の値を示す場合は反芻動物が休息状態と判定することができる。また、加速度センサにより計測された加速度データのパターンと、同一個体の同一時間帯における累積加速度データのパターンとが互いに異なる場合は反芻動物が異常状態と判定することができる。さらに、この加速度データと累積加速度データとの差が所定の値を上回るようなパターンを示す場合は反芻動物が発情状態と判定することができる。
【0030】
〈実施例2〉
加速度/温度計測モジュール12の温度センサ18として株式会社ティアンドデイ製の2チャンネル温度データロガー(RTR−71)を用い、温度の計測を行った。この温度データロガーの外形寸法は高さ92mm、幅66mm、奥行き35mmであり、重さは電池を含めて約120gである。
反芻動物11として酪農学園大学所有の5頭の牛(牛No.7〜No.11)を用いた。
【0031】
図22は、放牧地に放牧された健常な牛No.7の顎側温度および体側温度ならびに外気温を計測した結果を示し、24時間の計測データである。また、図23は図22の牛No.7の顎側温度から体側温度を引いた温度差をプロットしたものである。図23にはこの牛No.7の行動を肉眼観察した結果も併せて示す。図23より、採食時には顎側の温度が上昇し、横臥時には体側温度が上昇し、起立時には顎側温度および体側温度とも変化しないことが分かる。
図24は発情前後の牛No.8の顎側温度および体側温度を計測した結果を示し、60時間の計測データである。また、図25は図24の牛No.8の顎側温度から体側温度を引いた温度差をプロットしたものである。図25にはこの牛No.8の行動を肉眼観察した結果も併せて示す。図25より、1日目と粘液の分泌が観察される2日目と発情が起きている3日目とは温度変化のパターンに特徴的な差が見られることが分かる。
図26は分娩前の牛No.9の顎側温度および体側温度ならびに外気温を計測した結果を示し、24時間の計測データである。また、図27は図26の牛No.9の顎側温度から体側温度を引いた温度差をプロットしたものである。図26から分かるように、5時〜18時の間は体温の変化が見られなくなった。分娩は22時54分であった。
【0032】
図28は病気の牛No.10の顎側温度および体側温度ならびに外気温を計測した結果を示し、24時間の計測データである。また、図29は図28の牛No.10の顎側温度から体側温度を引いた温度差をプロットしたものである。図29にはこの牛No.10の行動を肉眼観察した結果も併せて示す。図29から分かるように、採食時には顎側の温度が上昇し、横臥時には体側温度が上昇し、起立時には顎側温度および体側温度とも変化しない。
図29から分かるように、病牛では、採食が12%、起立反芻が16%、横臥反芻が2%、起立休息が39%、横臥休息が31%であり、体調の悪さからじっと起立していることが多く、休息の割合が70%を占め、また、病牛は起立状態にあることが多かった。
【0033】
図30は高泌乳牛の牛No.11の顎側温度および体側温度ならびに外気温を計測した結果を示し、24時間の計測データである。また、図31は図30の牛No.11の顎側温度から体側温度を引いた温度差をプロットしたものである。図31にはこの牛No.11の行動を肉眼観察した結果も併せて示す。図31から分かるように、採食時には顎側の温度が上昇し、横臥時には体側温度が上昇し、起立時には顎側温度および体側温度とも変化しない。
図31から分かるように、高泌乳牛では、採食が29%、起立反芻が6%、横臥反芻が28%、起立休息が10%、横臥休息が27%であり、反芻の割合は34%、休息の割合は37%でほぼ同じであり、また、横臥にあることが多かった。
図32に上記の発情牛(牛No.8)、分娩牛(牛No.9)、病牛(牛No.10)および高泌乳牛(牛No.11)の各個体の温度差を示す。
【0034】
以上の温度計測により、次のようなことが分かった。
採食時には顎側の温度が上昇し、反芻・休息時には体側の温度が上昇した。温度差データではこの傾向はさらに明確になり、外気温の影響を排除することができる。また、牛の採食、起立、横臥の行動をこの温度差データから予測することができる。
発情期には採食・反芻が少なくなるため温度差データのパターンが変化し、また、乗駕の場合は温度センサーが体に押し付けられるため、温度の著しい上昇が見られた。
分娩前には温度差が非常に小さくなった。これは分娩前は体を動かさなくなるためと考えられる。
体調不良の牛は興奮状態で立ち続けるため、温度差のふれ幅が健常時に比べて小さかった。
高泌乳牛の温度差データのパターンは健常牛と同様であった。これは、高泌乳牛の行動は健常牛と変わらないためと考えられる。
【0035】
以上のことから分かるように、温度センサにより計測された反芻動物の体部の温度に対する反芻動物の下顎部の温度の差が、正の値を示す場合は反芻動物は採食状態、負の値を示す場合は反芻動物は反芻状態と判定することができる。また、温度差データのパターンと、同一個体の同一時間帯における累積温度差データのパターンとが互いに異なる場合は反芻動物が異常状態と判定することができる。さらに、温度差データと累積温度差データとの差が所定の値を上回るようなパターンを示す場合は反芻動物は発情状態と判定することができる。さらにまた、温度差データと累積温度差データとの差が所定の値を下回るようなパターンを示す場合は反芻動物は体調不良状態または分娩直前状態と判定することができる。
【0036】
以上のように、この一実施形態による反芻動物の健康管理システムによれば、次のような種々の利点を得ることができる。すなわち、加速度/温度計測モジュール12を取り付けた首輪13を反芻動物11の首11aにはめるだけで管理することができるので、使用者の労力を要さず、簡便であり、また、反芻動物11に負担を掛けないで済む。また、採食時間と反芻時間との比を見ることができるので、牛の健康状態や発情・分娩前状態などの把握が可能である。また、反芻動物の採食順番を見ることで、集団における個体の強さも把握できる。また、飼育方式によらず、すなわちフリーストールでも放牧でもタイストールでも、採食/反芻の状況を把握することができる。
より具体的には、例えば、採食量が低下する諸症状を伴う全ての疾病(消化器障害、ケトーシスなどの代謝病、乳房炎、肢蹄障害など)、粗飼料不足に伴う第一胃発酵異常や乳牛にあっては乳脂率低下予測、牛群などの反芻動物の群内における社会的位置(闘争・敵対行動による飼料摂取不足)、分娩の切迫、発情などの異常を早期に発見することができるため、反芻動物の健康管理や発情サイクル管理などを簡便に行うことができる。
【0037】
以上、この発明の一実施形態および実施例について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施形態および実施例に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
例えば、上述の実施形態および実施例において挙げた数値、構造、形状などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構造、形状などを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】この発明の一実施形態による反芻動物の健康管理システムの全体構成を示す略線図である。
【図2】この発明の一実施形態による反芻動物の健康管理システムにおいて用いられる加速度/温度計測モジュールが取り付けられた首輪を示す略線図である。
【図3】この発明の一実施形態による反芻動物の健康管理システムにおいて首輪をはめた反芻動物が起立状態にある時を示す略線図である。
【図4】この発明の一実施形態による反芻動物の健康管理システムにおいて首輪をはめた反芻動物が採食を行っている時を示す略線図である。
【図5】この発明の一実施形態による反芻動物の健康管理システムにおいて首輪をはめた反芻動物が反芻を行っている時を示す略線図である。
【図6】この発明の一実施形態による反芻動物の健康管理システムの構成例を示す略線図である。
【図7】この発明の一実施形態による反芻動物の健康管理システムにおいて加速度を計測した結果を示す略線図である。
【図8】この発明の一実施形態による反芻動物の健康管理システムにおいて加速度を計測した結果を示す略線図である。
【図9】この発明の一実施形態による反芻動物の健康管理システムにおいて計測した加速度の移動平均を示す略線図である。
【図10】この発明の一実施形態による反芻動物の健康管理システムにおいて計測した加速度の二重移動平均を示す略線図である。
【図11】この発明の一実施形態による反芻動物の健康管理システムにおいて計測した加速度の前後移動平均を示す略線図である。
【図12】この発明の一実施形態による反芻動物の健康管理システムにおいて加速度を計測した結果を示す略線図である。
【図13】この発明の一実施形態による反芻動物の健康管理システムにおいて加速度を計測した結果を示す略線図である。
【図14】この発明の一実施形態による反芻動物の健康管理システムにおいて計測した加速度の移動平均を示す略線図である。
【図15】この発明の一実施形態による反芻動物の健康管理システムにおいて計測した加速度の移動平均を示す略線図である。
【図16】この発明の一実施形態による反芻動物の健康管理システムにおいて加速度を計測した結果を示す略線図である。
【図17】この発明の一実施形態による反芻動物の健康管理システムにおいて反芻動物の加速度を計測した結果を示す略線図である。
【図18】この発明の一実施形態による反芻動物の健康管理システムにおいて計測した加速度の移動平均を示す略線図である。
【図19】この発明の一実施形態による反芻動物の健康管理システムにおいて加速度を計測した結果を示す略線図である。
【図20】この発明の一実施形態による反芻動物の健康管理システムにおいて加速度を計測した結果を示す略線図である。
【図21】この発明の一実施形態による反芻動物の健康管理システムにおいて計測した加速度の移動平均を示す略線図である。
【図22】この発明の一実施形態による反芻動物の健康管理システムにおいて温度を計測した結果を示す略線図である。
【図23】この発明の一実施形態による反芻動物の健康管理システムにおいて温度を計測した結果を示す略線図である。
【図24】この発明の一実施形態による反芻動物の健康管理システムにおいて温度を計測した結果を示す略線図である。
【図25】この発明の一実施形態による反芻動物の健康管理システムにおいて温度を計測した結果を示す略線図である。
【図26】この発明の一実施形態による反芻動物の健康管理システムにおいて温度を計測した結果を示す略線図である。
【図27】この発明の一実施形態による反芻動物の健康管理システムにおいて温度を計測した結果を示す略線図である。
【図28】この発明の一実施形態による反芻動物の健康管理システムにおいて温度を計測した結果を示す略線図である。
【図29】この発明の一実施形態による反芻動物の健康管理システムにおいて温度を計測した結果を示す略線図である。
【図30】この発明の一実施形態による反芻動物の健康管理システムにおいて温度を計測した結果を示す略線図である。
【図31】この発明の一実施形態による反芻動物の健康管理システムにおいて温度を計測した結果を示す略線図である。
【図32】この発明の一実施形態による反芻動物の健康管理システムにおいて温度を計測した結果を示す略線図である。
【符号の説明】
【0039】
11…反芻動物、11a…首、11b…頭部、11c…下顎部、11d…体部、12…加速度/温度計測モジュール、13…首輪、14…管理センター、15…受信装置、16…データ処理装置、17…加速度センサ、18…温度センサ、18a、18b…センサ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反芻動物の首にはめる首輪に取り付けられた、前記反芻動物から見て前後方向の加速度を計測する加速度センサおよび/または前記反芻動物の下顎部および体部の温度を計測する温度センサを有することを特徴とする反芻動物の健康管理システム。
【請求項2】
前記加速度センサおよび/または前記温度センサにより計測された加速度データおよび/または温度データを記録するメモリと、前記メモリに記録された前記加速度データおよび/または前記温度データを外部に出力する外部出力手段とをさらに有することを特徴とする請求項1記載の反芻動物の健康管理システム。
【請求項3】
前記加速度センサにより計測された加速度データが、一定時間継続して所定の値を上回る正の値を示す場合は前記反芻動物が採食状態、一定時間継続して所定の値を下回る負の値を示す場合は前記反芻動物が反芻状態、一定時間所定の範囲内の値を示す場合は前記反芻動物が休息状態と判定することを特徴とする請求項1記載の反芻動物の健康管理システム。
【請求項4】
前記加速度センサにより計測された前記加速度データのパターンと、同一個体の同一時間帯における累積加速度データのパターンとが互いに異なる場合は前記反芻動物が異常状態と判定することを特徴とする請求項1記載の反芻動物の健康管理システム。
【請求項5】
前記加速度データと前記累積加速度データとの差が所定の値を上回るようなパターンを示す場合は前記反芻動物が発情状態と判定することを特徴とする請求項4記載の反芻動物の健康管理システム。
【請求項6】
前記首輪は、前記反芻動物の頭部が垂直方向に上がった時に前記温度センサが前記反芻動物の体部に接近し、前記反芻動物の頭部が垂直方向に下がった時に前記温度センサが前記反芻動物の下顎部に接近するように取り付けられていることを特徴とする請求項1記載の反芻動物の健康管理システム。
【請求項7】
前記温度センサにより計測された前記反芻動物の体部の温度に対する前記反芻動物の下顎部の温度の差が、正の値を示す場合は前記反芻動物は採食状態、負の値を示す場合は前記反芻動物は反芻状態と判定することを特徴とする請求項1記載の反芻動物の健康管理システム。
【請求項8】
前記温度センサにより計測された前記反芻動物の体部の温度に対する前記反芻動物の下顎部の温度の温度差データのパターンと、同一個体の同一時間帯における累積温度差データのパターンとが互いに異なる場合は前記反芻動物が異常状態と判定することを特徴とする請求項1記載の反芻動物の健康管理システム。
【請求項9】
前記温度差データと前記累積温度差データとの差が所定の値を上回るようなパターンを示す場合は前記反芻動物は発情状態と判定することを特徴とする請求項8記載の反芻動物の健康管理システム。
【請求項10】
前記温度差データと前記累積温度差データとの差が所定の値を下回るようなパターンを示す場合は前記反芻動物は体調不良状態または分娩直前状態と判定することを特徴とする請求項8記載の反芻動物の健康管理システム。
【請求項11】
前記外部出力手段が無線電波送信であり、前記無線電波で送信されたデータを受信する受信装置と、前記受信装置に接続して送信されたデータを記録するメモリと、前記メモリに記録されたデータについて所定のアルゴリズムで演算を行う解析装置とを有することを特徴とする請求項2記載の反芻動物の健康管理システム。
【請求項12】
反芻動物の首に、前記反芻動物から見て前後方向の加速度を計測する加速度センサおよび/または前記反芻動物の下顎部および体部の温度を計測する温度センサを取り付けた首輪をはめ、前記加速度センサおよび/または前記温度センサにより計測される加速度データおよび/または温度データに基づいて前記反芻動物の健康を管理するようにしたことを特徴とする反芻動物の健康管理方法。
【請求項13】
反芻動物から見て前後方向の加速度を計測する加速度センサおよび/または前記反芻動物の下顎部および体部の温度を計測する温度センサが取り付けられていることを特徴とする反芻動物の健康管理システム用首輪。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【公開番号】特開2008−228573(P2008−228573A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−68041(P2007−68041)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年1月17日 酪農学園大学、酪農学園短期大学部主催の「酪農学園大学酪農学科(第44期)・酪農学園大学短期大学部酪農学科(第56期)卒業論文・卒業研究発表会」に文書をもって発表
【出願人】(000103921)オリオン機械株式会社 (450)
【出願人】(800000024)北海道ティー・エル・オー株式会社 (20)