説明

反芻家畜用飼料

【課題】反芻家畜の第一胃内で分解されずに第四胃や十二指腸で消化されるタンパク質を豊富に含む反芻家畜用飼料を提供すること。
【解決手段】チェストナット、ミラボラムの幹、樹皮、実、葉、莢、種の抽出成分または粉砕物からなる群から選んだ1もしくは2以上を付加した反芻家畜用飼料。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は反芻家畜に第一胃内での微生物による分解を効率的に抑え、続く第四胃や十二指腸で効率的に消化され吸収されるタンパク質量を増やした反芻家畜用飼料を調製し、乳用牛、肉用牛、山羊などの反芻家畜の乳生産増加と発育向上を促進させるものである。
【背景技術】
【0002】
反芻家畜は、形態的に異なる四つの胃からなる複胃を持つ動物であり、これらの胃は第一胃、第二胃、第三胃そして第四胃である。前二者は食道の末端部から派生したものであり、第四胃が単胃動物の胃と考えられる。第一胃と第二胃には微生物が生息しており、採食した飼料はこれらの微生物によって分泌されるプロテアーゼ、アミラーゼ、セルラーゼ等で消化される。そして第一胃、第二胃で分解され粒度が小さくなったものは、続く第三胃、第四胃に流下する。第四胃ではペプシンによりタンパク質が消化される。さらに続く十二指腸では膵液、胆汁に含まれるパンクレアチンなど多くの消化酵素により消化されていく。第四胃以降の消化管を下部消化管と呼ぶ。
【0003】
反芻家畜において、摂取されたタンパク質は第一胃内において微生物による分解を受けるが(分解性タンパク質)、一部のタンパク質は微生物による分解を受けずに第一胃を通過し、下部消化管まで流下する(非分解性タンパク質)。反芻動物が摂取した分解性タンパク質は第一胃内で微生物によりアンモニアに分解され、さらに微生物体タンパク質の合成に利用される。合成された微生物体タンパク質は下部消化管へ流下し、消化吸収され宿主のタンパク質源として利用される。しかし第一胃内での微生物体タンパク質の合成量には限界があり、下部消化管へ流下する微生物体タンパク質量も限られてくるため、反芻家畜にとって第一胃内で分解されない非分解性タンパク質は重要である。第一胃内での微生物体タンパク質の合成に使われる以上の分解性タンパク質を給与すると、微生物体の合成に利用されない過剰のアンモニアが発生し、それらの大部分は肝臓および腎臓を経て尿として排泄され、栄養素として利用されず損失となる。そのため第一胃内での微生物体の合成量を超える量の分解性タンパク質の給与は生産効率の向上に繋がらない。
【0004】
タンパク質要求量が多く、第一胃内で合成される微生物体タンパク質だけではタンパク質が不足する高泌乳牛や育成牛において非分解性タンパク質は特に必要とされる。経産牛1頭当たりの乳量は昭和40年度の4250kgから平成14年度の7459kgへと順調に増加しており、さらなる生産効率の向上のため一層利用効率の高いタンパク質飼料が求められている。飼料中タンパク質の利用効率の向上には、分解性タンパク質と非分解性タンパク質の給与量のバランスが重要であるが、乳量の増加に伴い高い割合の非分解性タンパク質が必要となっている。特に、タンパク質の吸収は小腸で行われるため、非分解性タンパク質においても、第一胃を通って第三胃に達する間に微生物により分解されず、確かに第四胃や十二指腸といった下部消化管で消化されるタンパク質が必要である。
【0005】
しかし通常流通している反芻家畜用の飼料原料で、タンパク質含量の高い飼料として、大豆粕やアルファルファなどが挙げられるが、これらは分解性タンパク質を豊富に含んでいる。他の飼料原料で非分解性タンパク質含量が高いものもあるが、その代表的なのは動物性タンパク質飼料である魚粉や肉骨粉で、これらは良質のタンパク質飼料として使われてきた。しかし動物性飼料は狂牛病の発生以後反芻家畜に対しての使用は禁止となっている。つまり、植物性で、かつ非分解性タンパク質を豊富に含む飼料原料の必要度は高い。
【0006】
これまで反芻家畜の第一胃内での微生物による分解を抑えるために、飼料原料を加熱処理、加熱加圧処理(エクストルーダ処理)、脂肪族化合物やタンニンによるコーティング処理が考案されてきた。コーティング処理等による第一胃内でのタンパク質分解を抑えるための技術に関しては、特開昭58−175449、63−317053、60−168351、59−198946、特開平2−027950、2−128654、2−128655、3−056755、3−155756、3−155757、4−079844および5−023114もここに引用して本明細書の一部とする。
【0007】
タンニンには植物タンニンや合成タンニンがあるが、これらのタンニンはタンパク質と結合することが知られている。またタンニンはその分子構造から加水分解型タンニンと縮合型タンニンに大きく二分されるが、それぞれのタンニンも詳細にはさらに構成分子により分けられ多種多様である。タンニンによるタンパク質結合力はそのような構成分子によることが多いが、構造が多様であるため厳密な分子構造とタンパク質結合力との関係は不明な点が多い。また分子構造を明らかにすることも、タンニンの多くが高分子であるためそれらを難解にしている。タンニンがタンパク質と結合することを利用して、タンニンを飼料に付着させて反芻家畜の第一胃内の微生物によるタンパク質の分解から保護することが可能である(J.Agric.Sci.2000.p101−108、同p305−310)。これまで縮合型タンニンであるケブラチョ由来のタンニンや化学試薬であるタンニン酸を用いた技術があったが、高い非分解率を得るためには高濃度での添加が不可欠であった。具体的にはケブラチョ由来のタンニンを飼料原料に10%、25%の割合で添加した場合、その飼料の第一胃内における非分解率はそれぞれ51%、61%であった。また化学試薬のタンニン酸では9%、20%の割合で添加した場合に同非分解率はそれぞれ53%、62%であった。化学試薬用タンニン酸は加水分解型タンニンに分類され、その構成分子はガロタンニン、没食子酸が主である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
反芻家畜の第一胃内で微生物によるタンパク質分解を抑えるために考案されてきた加熱処理、加熱加圧処理(エクストルーダ処理)、脂肪族化合物によるコーティングの方法では、第一胃内での分解を抑え、第四胃や十二指腸で確かに消化される効果は低かった。また、第一胃内での非分解率が高く、第四胃や十二指腸で確かに消化される技術として、天然物由来で安全性の高い成分を用いた技術はなかった。またタンニンによるコーティング処理は前述の通り、高い効果を得るためには、タンニンの添加量が多くなるという欠点があり、産業上の利点はなかった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、環境に優しく、かつ良質な反芻家畜用飼料を調製する観点から鋭意研究を行った結果、チェストナットとミラボラムの抽出物が上述の効果を発揮することを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明の要旨はチェストナット、ミラボラムの幹、樹皮、実、葉、莢、種の抽出成分または粉砕物からなる群から選んだ1もしくは2以上を含ませて、反芻家畜の第一胃内で分解されずに第四胃や十二指腸で消化されるタンパク質を豊富に含む反芻家畜用飼料に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の技術により処理された反芻家畜用飼料は、反芻家畜の第一胃内におけるタンパク質の非分解率が高く、さらに下部消化管で消化されるタンパク質の割合が高い。このように処理された飼料は乳用牛、肉用牛、山羊などの反芻家畜に対して、消化管内および体内で効率的に利用できるタンパク質を供給することが可能である。つまり反芻家畜の乳生産増加と発育向上を促進できることから産業上の利用価値は多大であるといえる。また、本発明による処理方法は、食品添加物として認められているチェストナットやミラボラムの抽出成分あるいは粉砕物であることから、安全性も確認され、かつ環境を汚染することのないものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、給与する飼料の乾物当たり少なくとも0.01%のチェストナット、ミラボラムの幹、樹皮、実、葉、莢、種の抽出成分または粉砕物からなる群から選んだ1もしくは2以上を含むことにより乳用牛、肉用牛、山羊などの反芻家畜の乳生産増加と発育向上を促進できる。チェストナットとミラボラムといった樹木由来の成分あるいは粉砕物を用いることで人体や家畜にも安全である。
【0012】
本発明に用いるチェストナットあるいはミラボラムからの抽出物は水、アルコール、酢酸エチル、石油エーテル等の有機溶媒による溶剤抽出、水蒸気蒸留、圧搾、油脂吸着、液化ガス抽出、超臨界抽出又は乾留により得られる。好ましくは抽出効率の観点から、溶剤抽出、最も好ましくは水及び酢酸エチルによる溶剤抽出である。チェストナットとミラボラムには加水分解型タンニンが多く含まれるが、主な構成分子はチェストナットがエラグ酸と没食子酸のエステル結合体、ケブリン酸、ガロイルグルコース、ミラボラムがケブリン酸、グリコガリン、没食子酸、コリラギン、ガロイルグルコース、ケブラグ酸、ケブリン酸、エラグ酸を含む。
【0013】
チェストナットあるいはミラボラムの抽出物または粉砕物を添加、混合する反芻家畜用飼料原料としては、通常の牛用配合飼料に用いられる、とうもろこし、大麦、小麦、ライ麦、ソルガム、大豆類とその副産物、エクストルーダ大豆、とうもろこし副産物などの穀類、脱脂米糠、麦糠、ふすま、ホミニーフィードなどの糟糠類、大豆粕、菜種粕、アマニ粕、ヤシ粕、パーム粕、豆腐粕、コーングルテンミールなどの植物性油粕類、オカラ、トウフ粕、パン屑、ビール粕、焼酎粕、酒粕、リンゴ粕、ミカンジュース粕などの食品製造工程中に廃棄される食品産業廃棄物、ヘイキューブ、アルファルファミール、綿実、ビートパルプ、アミノ酸、酪農家にて使用している粗飼料などを単独あるいは組み合わせたものを用いればよい。このような飼料原料を反芻家畜に必要な栄養素量を設計して組み合わせ反芻家畜用配合飼料に用いることも可能である。チェストナットあるいはミラボラムの抽出物または粉砕物の添加量としては、通常用いられる飼料に乾物当たり0.01%以上の割合、好ましくは5〜20%、より好ましくは5〜10%で添加するのが望ましい。
【0014】
本発明の反芻家畜用飼料は、前記の飼料原料にチェストナットあるいはミラボラムの抽出物または粉砕物を添加、混合する方法としては特に限定されない。例えば、チェストナットあるいはミラボラムの抽出物を水にけん濁あるいは溶かした溶液を大豆粕に振りかけ、30分程度放置して抽出物を大豆粕によく浸透させる。その後温風を吹きかけることにより水分を15%以下に低下させ、乾燥させる。
【実施例】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、実施例のみに特に限定されるものではない。
【0015】
チェストナットの幹あるいはミラボラムの実6kgに約90Lの水を加え撹拌し、80℃で3時間抽出した。濾過により得られる抽出液を噴霧乾燥し抽出物とした。得られた抽出物の総ポリフェノール含量や総タンニン含量、加水分解型タンニン含量、縮合型タンニン含量をMakkar and GoodChildの方法により測定した(Quantification of tannins: a laboratory manual,ICARDA,1996)。総ポリフェノール含量がチェストナットで78.4%、ミラボラムで77.0%、総タンニン含量がチェストナットで63.2%、ミラボラムで61.3%、加水分解型タンニン含量がチェストナットで72.8%、ミラボラムで76.9%、縮合型タンニン含量はチェストナットで0.56%、ミラボラムで0.01%であった。
【0016】
前記抽出物2.5g、5g、10gを水20mLに溶かした溶液を、大豆粕50gに全量噴霧した。その後、室温で約30分間放置した。その後、100℃の温風乾燥機で30分時間乾燥させ、水分を15%以下まで低下させた。
【0017】
このようにして得られたチェストナットあるいはミラボラム付加大豆粕を500mg試験管内にいれ、そこへ培養液(シバヤギの第一胃より採取した微生物を含む第一胃液10mL、人工唾液40mL(J.Br.Grassl.Soc.1969.p104−111))を投入し、さらに試験管内を二酸化炭素で充満させ栓をした。人工唾液の組成は1L中、炭酸水素ナトリウム9.8g、リン酸水素ナトリウム十二水和物9.3g、塩化カリウム0.57g、塩化ナトリウム0.47g、硫酸マグネシウム七水和物0.12g、塩化カルシウム0.04gを含む。
【0018】
前記付加大豆粕と培養液を含む試験管を39℃の湯中で培養した。24時間後、試験管の中身(培養残渣1)を遠心分離により回収し、ケルダール法(Association of Official Analytical Chemists,1984.Official Methods of Analysis)によりタンパク質量を測定した。第一胃内におけるタンパク質の非分解率は100−(付加大豆粕のタンパク質量−培養残渣1のタンパク質量)/(付加大豆粕のタンパク質量)x100により求めた。
【0019】
[0018]と同法により得られた培養残渣1を新たな試験管に移し、そこへペプシン(Sigma P−7012)を1g/Lの割合で含むpH1.9、0.1規定の塩酸溶液を10mL加えて、39℃で1時間培養した。これにより反芻家畜の第四胃における消化を行った。その後、1規定の水酸化ナトリウムを0.5mL加えて中和し、さらにパンクレアチン(Sigma P−7545)を3g/Lの割合で含むpH7.8のリン酸緩衝液を13.5mL加えて、39℃で培養した。これにより反芻家畜の十二指腸における消化を行った。24時間後、試験管の中身(培養残渣2)を遠心分離により回収し、ケルダール法によりタンパク質量を測定した。下部消化管、すなわち第四胃および十二指腸における培養残渣1のタンパク質消化率は{(培養残渣1のタンパク質量−培養残渣2のタンパク質量)/(培養残渣1のタンパク質量)x100}により求めた。
【0020】
第一胃内で分解されず下部消化管で消化されるタンパク質の割合は、飼料中のタンパク質当たりとして{(第一胃内におけるタンパク質の非分解率)x(下部消化管におけるタンパク質消化率)/100}として求めた。
【0021】
【表1】

【0022】
表1に示したように、チェストナット抽出物により処理した大豆粕は、通常の大豆粕と比べて第一胃内の非分解率を64.0〜94.8%と顕著に高めた。下部消化管における消化率はチェストナット処理によりある程度低下するが、最終的に重要となるところの、第一胃内で分解されずに、下部消化管で消化されるタンパク質の割合が、飼料中タンパク質あたり52%以上と向上し、家畜に有効に利用されるタンパク質の割合が高まった。
【0023】
【表2】

【0024】
表2に示したように、ミラボラム抽出物により処理した大豆粕は、通常の大豆粕と比べて第一胃内の非分解率を60.5〜82.9%と顕著に高めた。下部消化管における消化率はミラボラム処理によりある程度低下するが、最終的に重要となるところの、第一胃内で分解されずに、下部消化管で消化されるタンパク質の割合が、飼料中タンパク質あたり47%以上と向上し、家畜に有効に利用されるタンパク質の割合が高まった。
【0025】
表1、2に示したように本発明によりチェストナットあるいはミラボラムを5%の割合で処理した大豆粕は第一胃内におけるタンパク質の非分解率がそれぞれ64.0%、60.5%となった。ケブラチョ由来のタンニンや化学試薬用タンニン酸では、飼料原料に対して20%以上添加した場合のみタンパク質の非分解率が61〜62%を示している(J.Agric.Sci.2000.p101−108、同p305−310)。つまり、ケブラチョやタンニン酸の技術と同程度の効果を得るためには、本発明では抽出物の添加量が従来の4分の1量で可能である。これらのことはケブラチョやタンニン酸と比較して、本発明のチェストナットやミラボラムはタンパク質の分解性を抑える効率が既知の技術よりも高いためである。すなわちチェストナットやミラボラムのタンニンの構成分子が極めて効果的にタンパク質の分解を抑えているものである。
【0026】
【表3】

【0027】
表3に示したように、非分解性を増加させる既存の方法(加熱処理やエクストルーダ処理)では、第一胃内におけるタンパク質の非分解率の増加は小さかった。また脂肪族化合物を用いたコーティングによるタンパク質の非分解率は最高の場合でも56.7%であった(特許公開2004−254530)。それらと比べて本発明による飼料は第一胃内におけるタンパク質の非分解率は66.1%以上と上回り、さらには80%以上の非分解率を示す場合もあった。結果として第一胃内で分解されず、下部消化管で消化されるタンパク質の割合が向上し、家畜に有効に利用されるタンパク質の割合が高まった。
【0028】
本発明によるタンニンを含む反芻家畜用飼料は、第一胃内で分解されず、下部消化管で消化されるタンパク質の割合を向上させるだけでなく、先行研究例にあるように(Brit.J.Nutr.2001.p697−706、Livest.Prod.Sci.2001.p217−229)、消化管内の抗線虫効果や腸内細菌叢の改善などが期待されるため、これまでの非分解性タンパク質を高める技術(加熱処理、エクストルーダ処理、脂肪酸によるコーティング処理)とは異なる利点を有していると考えられる。すなわち、本発明はタンパク質の利用性改善に加えて、上記のように家畜生産の場において副次的な効果を有している飼料として考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反芻家畜に与える飼料原料あるいは配合飼料に、乾物当たり少なくとも0.01%のチェストナット、ミラボラムの幹、樹皮、実、葉、莢、種の抽出成分または粉砕物からなる群から選んだ1もしくは2以上を含ませた反芻家畜用飼料。

【公開番号】特開2007−202541(P2007−202541A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−51148(P2006−51148)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(506067811)
【Fターム(参考)】