説明

反転機構付枚葉印刷機

【課題】反転機構付枚葉印刷機の反転胴における固定ギヤと可動ギヤの固定力をより増大させることである。
【解決手段】 固定装置10は、複数の皿バネ21により付勢され外周にテーパ面24aが形成される可動部材24と、固定ギヤ14側に設けられた支軸33に回動自在に支持され、一端側にテーパ面24aに当接する当接部36と他端側に可動ギヤ16を固定ギヤ14側に押圧する押圧部39を有する押圧部材35とを備えることで、固定ギヤ14と可動ギヤ16の固定力をより増大させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反転機構付枚葉印刷機において、特に反転胴における固定ギヤと可動ギヤの固定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、一台で片面印刷と両面印刷が可能な反転機構付枚葉印刷機が実用化されている。この反転機構付枚葉印刷機は、片面印刷と両面印刷の切替において、反転胴より上流側の印刷装置と下流側の印刷装置との位相を調節するために、反転胴の軸部に固定された固定ギヤと、この固定ギヤに対して固定および固定解除可能に設けられた可動ギヤが備えられている。位相の調節は、上流側の印刷装置とギヤのかみ合いにより連結された可動ギヤと、下流側の印刷装置とギヤのかみ合いにより連結された固定ギヤとの固定を解除し、使用する用紙の天地寸法により、所望の位相差となるよう調節した後、固定ギヤと可動ギヤを固定することで行われている。
【0003】
この後印刷運転を行うが、印刷機を駆動するための駆動部が上流側に設けられている場合、下流側の印刷装置を駆動するための負荷が固定ギヤと可動ギヤの固定部にかかるため、これに耐えうるだけの固定力が必要になる。このため従来より、固定ギヤと可動ギヤの固定力を増大させる固定装置が提案されている(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭61−85436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1においては、バネの弾性力をてこの原理により増大させ、これにより可動ギヤ(特許文献1においては「環状ギヤ」)を固定ギヤ(特許文献1においては「ギヤ」)側に押圧することで大きな固定力が得られる固定装置が提案されている。
【0006】
ところが、近年の印刷機の高速化・多色化により、印刷機の運転においてより大きな駆動力が必要になってきた。さらに、高付加価値印刷への流れにより、下流側にニス装置や乾燥装置等の付属装置を装備する場合が多くあり、これにより、一層大きな駆動力が必要になってきた。これに伴い、反転機構付枚葉印刷機においては、固定ギヤと可動ギヤの固定力をより増大させる必要があった。
【0007】
本発明は、上述した課題の存在に鑑みてなされたものであって、その目的は、固定ギヤと可動ギヤの固定力をより増大させることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る反転機構付枚葉印刷機は、反転胴の軸部に固定される固定ギヤと、前記固定ギヤと隣接し、前記固定ギヤに対して位相変更可能に配置される可動ギヤと、前記固定ギヤと前記可動ギヤを固定する固定装置と、を備えた反転機構付枚葉印刷機において、前記固定装置は、弾性部材により付勢され、外周にテーパ面が形成される可動部材と、前記固定ギヤ側に設けられた支軸に回動自在に支持され、一端側に前記テーパ面に当接する当接部と、他端側に前記可動ギヤを前記固定ギヤ側に押圧する押圧部を有する押圧部材と、を備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る反転機構付枚葉印刷機は、反転胴の軸部に固定される固定ギヤと、前記固定ギヤと隣接し、前記固定ギヤに対して位相変更可能に配置される可動ギヤと、前記固定ギヤと前記可動ギヤを固定する固定装置と、を備えた反転機構付枚葉印刷機において、前記固定装置は、弾性部材により付勢される可動部材と、前記固定ギヤ側に設けられた支軸に回動自在に支持され、一端側が前記可動部材とリンクにより連結され、他端側に前記可動ギヤを前記固定ギヤ側に押圧する押圧部を有する押圧部材からなり、前記可動部材と前記リンクと前記押圧部材からなる機構が前記押圧部材の回動力を増大させるトグル機構として構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、固定ギヤと可動ギヤの固定力をより増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第一の実施形態に係る固定装置周辺の断面図であり、固定ギヤと可動ギヤを固定した状態を表している。
【図2】第一の実施形態に係る固定装置の右側面図である。
【図3】第一の実施形態に係る固定装置周辺の断面図であり、固定ギヤと可動ギヤの固定を解除した状態を表している。
【図4】第二の実施形態に係る固定装置周辺の断面図であり、固定ギヤと可動ギヤを固定した状態を表している。
【図5】第二の実施形態に係る固定装置の右側面図である。
【図6】第二の実施形態に係る固定装置周辺の断面図であり、固定ギヤと可動ギヤの固定を解除した状態を表している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0013】
[第一の実施形態]
まず、図1乃至図3を用いて、第一の実施形態に係る反転機構付枚葉印刷機の固定装置10について説明する。本実施形態に係る反転機構付枚葉印刷機は、フレーム1に軸受け部を介して回動自在に支持された反転胴の軸部11に、ギヤホルダ12がボルト13により固定されている。さらに、ギヤホルダ12には固定ギヤ14がボルト15により固定されている。また、固定ギヤ14に隣接するように可動ギヤ16が設置されており、可動ギヤ16はギヤホルダ12の外周面12aに回動自在に嵌合している。ここで、固定ギヤ14の右側面14aと可動ギヤ16の左側面16aは対向して当接しており、可動ギヤ16の右側面16bと、後述する押圧部材35の押圧部39の間には、耐久性向上のため熱処理により硬度が高められたスペーサ17が設けられている。
【0014】
ギヤホルダ12の中心部には孔12bが形成されており、孔12bに小径部22dを挿嵌することで位置決めされた軸部材22が、フランジ22aのボルト23によりギヤホルダ12に立設して固定されている。軸部材22の軸部22bには、フランジ22a側より、熱処理により硬度が高められた座金28、複数の皿バネ21、可動部材24、及び、熱処理により硬度を高めたプレート25が遊嵌状態で挿入されており、軸部材22の端部に形成された雄ネジ部22cには、軸部22bの外径より大きい外径を有する座金26がナット27により固定されている。また、可動部材24の外周面は、テーパ面24aとして形成されており、耐久性向上のため熱処理により硬度が高められている。
【0015】
ギヤホルダ12の右側面にはボルト32,32によりブラケット31が固定されており、ブラケット31には、凸部31a、31aが所定の間隔を持って形成されている。この凸部31a、31aには、共通の中心線を持つ孔31b、31bが形成されており、孔31b、31bには支軸33が挿入され、止めネジ34により固定されている。凸部31a、31aの間には、一端側にテーパ面24aに当接する当接部36がスペーサ37を介してボルト38,38で固定され、他端側にスペーサ17を介して可動ギヤ16を固定ギヤ14側に押圧する押圧部39が形成された押圧部材35が、支軸33に対して回動可能に嵌合して設置されている。なお、押圧部材35は、支軸33による回動中心から押圧部39までの距離に対して、支軸33による回動中心から当接部36までの距離が大きくなるように形成されている。また、押圧部39は、耐久性向上のため、熱処理により硬度が高められている。
【0016】
次に、固定ギヤ14と可動ギヤ16の固定を解除するための解除装置50の構成について説明する。図1に示すように、図示しないスタッドによりフレーム1から所定の間隔をもって設置されたサブフレーム41には、反転胴の軸部11の中心線上に孔41aが形成されており、孔41aには、ハウジング51がその外周面が嵌合した状態で、図示しないボルトによりサブフレーム41に固定されている。また、ハウジング51の内周面には雌ネジ51aが形成されており、この雌ネジ51aには、解除部材52が外周部に形成された雄ネジ52aを螺入させることにより設置されている。解除部材52は、雄ネジ52aの右側に軸52cが形成されており、この軸52cには、ギヤ56がキー53、座金54及びボルト55により回動不能に固定されている。さらに、ギヤ56には、図示しない駆動部からの駆動により回転する駆動ギヤ57が噛み合っている。また、解除部材52には、雄ネジ52aの左側に中央に逃がし凹部が設けられた大径部が形成されており、大径部の左端部52bは、プレート25に近接している。なお、左端部52bは、耐久性向上のため、熱処理により硬度が高められている。
【0017】
このような構成において、軸部材22の軸部22bに遊嵌状態で挿入された複数の皿バネ21の付勢力は、可動部材24のテーパ面24aにより増大させられて当接部36に働くことで、押圧部材35は大きな回動力を生み出し、その結果、押圧部39が強大な押圧力で、スペーサ17を介して可動ギヤ16を固定ギヤ14側に押すことで、固定ギヤ14の右側面14aと可動ギヤ16の左側面16aの間の摩擦力により、固定ギヤ14と可動ギヤ16の強固な固定が可能となる。
【0018】
次に、固定の解除について図3を用いて説明する。固定の解除は、図示しない駆動部からの駆動力により駆動ギヤ57を回転させることで、駆動ギヤ57に噛み合うギヤ56が固定された解除部材52を回転させる。この回転により、ハウジング51の雌ネジ51aと解除部材52の雄ネジ52aの螺合により解除部材52をプレート25に向けて移動させ、解除部材52の左端部52bにより、プレート25を複数の皿バネ21の付勢力に抗して押圧し、可動部材24と共に左方向に移動させることで、テーパ面24bによる当接部36の押圧状態が解除されることで、固定ギヤ14と可動ギヤ16の固定が解除される。このように、ネジによる進退を利用することにより少ない駆動力で固定の解除が可能となる。
【0019】
[第二の実施形態]
次に、図4乃至図6を用いて、第二の実施形態に係る反転機構付枚葉印刷機の固定装置60について説明する。なお、第一の実施形態と同じ内容については、説明を省略する。
【0020】
第二の実施形態に係る反転機構付枚葉印刷機の固定装置60は、図4及び図5に示すように、軸部材22の軸部22bには、フランジ22a側より、熱処理により硬度が高められた座金28、複数の皿バネ21、熱処理により硬度が高められた座金72、可動部材61、及び、熱処理により硬度を高めたプレート25が遊嵌状態で挿入されており、軸部材22の端部に形成された雄ネジ部22cには、軸部22bの外径より大きい外径を有する座金26がボルト27により固定されている。また、可動部材61は、図5に示すように、4ヶの腕部61aが形成された略+字形状をしており、腕部61aには孔61bが形成されている。孔61bには、リンク軸62が、腕部61aの両側面から突出させた状態で、止めネジ63により固定されており、そこには、後述する押圧部材66と連結するリンク64、64の一端側が回動可能に嵌合した状態で設けられている。また、リンク64、64がリンク軸62から脱落しないように止め輪65、65がリンク軸62に設置されている。
【0021】
押圧部材66は、第一の実施形態と同様に、支軸33に対して回動可能に嵌合して設置されている。押圧部材66の一端側には、孔66aが形成され、リンク軸67が押圧部材66の両側面から突出させた状態で、止めネジ68により固定されており、そこには、可動部材61と連結するリンク64、64の他端側が回動可能に嵌合した状態で設けられている。また、リンク64、64がリンク軸67から脱落しないように止め輪69、69がリンク軸67に設置されている。押圧部材66の他端側には、スペーサ17を介して可動ギヤ16を固定ギヤ14側に押圧する押圧部71が形成されている。なお、押圧部材66は、支軸33による回動中心から押圧部71までの距離に対して、支軸33による回動中心から孔66aまでの距離が大きくなるように形成されている。また、押圧部71は、耐久性向上のため、熱処理により硬度が高められている。
【0022】
また、上記の構成においては、可動部材61の右方向への移動に伴い、リンク64、64を介して押圧部材66の押圧部71がプレート17に接近する回動方向から離反する回動方向へ転ずるようになるが、この転ずる直前の可動部材61の位置で、押圧部71がプレート17に当接するように設定している。すなわち、可動部材61とリンク64、64と押圧部材66からなるリンク機構が、トグル機構として構成されている。
【0023】
このように設定することで、複数の皿バネ21の付勢力は、このトグル機構により増大されて押圧部材66の回動力となり、その結果、押圧部71が強大な押圧力で、スペーサ17を介して可動ギヤ16を固定ギヤ14側に押すことで、固定ギヤ14の右側面14aと可動ギヤ16の左側面16aの間の摩擦力により、固定ギヤ14と可動ギヤ16の強固な固定が可能となる。
【0024】
なお、固定ギヤ14と可動ギヤ16の固定を解除するための解除装置50については、第一の実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0025】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態の技術的範囲に限定されない。上記実施形態には、多様な変更又は改良を加えることが可能である。
【0026】
例えば、上記実施形態においては、可動部材61へ付勢力を与えるための複数の皿バネ21を用いたが、上記実施形態は、本発明が取り得る一形態を示したに過ぎない。例えばコイルバネを用いてもよい。
【0027】
上記のような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0028】
1 フレーム、10 固定装置、11 軸部、12 ギヤホルダ、12a 外周面、12b 孔、13 ボルト、14 固定ギヤ、14a 右側面、15 ボルト、16 可動ギヤ、16a 左側面、16b 右側面、17 スペーサ、21 皿バネ、22 軸部材、22a フランジ、22b 軸部、22c 雄ネジ部、22d 小径部、23 ボルト、24 可動部材、24a テーパ面、25 プレート、26 座金、27 ナット、28 座金、31 ブラケット、31a 凸部、31b 孔、32 ボルト、33 支軸、34 止めネジ、35 押圧部材、36 当接部、37 スペーサ、38 ボルト、39 押圧部 41 サブフレーム、41a 孔、50 解除装置、51 ハウジング、51a 雌ネジ、52 解除部材、52a 雄ネジ、52b 左端部、52c 軸部、53 キー、54 座金、55 ボルト、56 ギヤ、57 駆動ギヤ、60 固定装置、61 可動部材、61a 腕部、61b 孔、62 リンク軸、63 止めネジ、64 リンク、65 止め輪、66 押圧部材、66a 孔、67 リンク軸、68 止めネジ、69 止め輪、71 押圧部、72 座金

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反転胴の軸部に固定される固定ギヤと、
前記固定ギヤと隣接し、前記固定ギヤに対して位相変更可能に配置される可動ギヤと、
前記固定ギヤと前記可動ギヤを固定する固定装置と、
を備えた反転機構付枚葉印刷機において、
前記固定装置は、弾性部材により付勢され、外周にテーパ面が形成される可動部材と、
固定ギヤ側に設けられた支軸に回動自在に支持され、一端側に前記テーパ面に当接する当接部と、他端側に前記可動ギヤを前記固定ギヤ側に押圧する押圧部を有する押圧部材と、
を備えることを特徴とする反転機構付枚葉印刷機。
【請求項2】
反転胴の軸部に固定される固定ギヤと、
前記固定ギヤと隣接し、前記固定ギヤに対して位相変更可能に配置される可動ギヤと、
前記固定ギヤと前記可動ギヤを固定する固定装置と、
を備えた反転機構付枚葉印刷機において、
前記固定装置は、弾性部材により付勢される可動部材と、
前記固定ギヤ側に設けられた支軸に回動自在に支持され、一端側が前記可動部材とリンクにより連結され、他端側に前記可動ギヤを前記固定ギヤ側に押圧する押圧部を有する押圧部材からなり、
前記可動部材と前記リンクと前記押圧部材からなる機構が前記押圧部材の回動力を増大させるトグル機構として構成されていることを特徴とする反転機構付枚葉印刷機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−96489(P2012−96489A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247600(P2010−247600)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(000006943)リョービ株式会社 (471)
【Fターム(参考)】