説明

反重力培養方法及び反重力培養装置

【課題】 細胞に対して新たな物理刺激を与えることにより、細胞の増殖を促進する新規培養方法の提供。
【解決手段】 培養基盤に固定された細胞に対して、前記細胞の定着した足場から細胞方向へと重力を作用させる反重力刺激を与えて細胞を培養する反重力培養方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞は生体の中では3次元の環境の中で、正常に増殖と分化を繰り返し、正常の組織に育成する。しかるに従来、細胞の培養の研究は、実験の便宜上、伝統的に、2次元平板の容器の中で行われてきた。その結果、最近になって、2次元平板だけでの培養の研究結果は、3次元の環境とは、かなりの差があり、数々の不都合が明らかになった。とくに幹細胞を従来型の平板で培養すると、ガン化(テラトーマ形成)することが明らかになった。そこで適正な3次元の構造をもった細胞培養基盤が急速に求められるようになった(非特許文献1)。しかし細胞をガン化させずに、正常に組織へと育成する3次元の細胞育成基盤の決定版が未だないのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Nature, 423: 21 August, (2003) p869-872
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、細胞に対して新たな物理刺激を与えることにより、細胞の増殖を促進する新規培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、細胞培養において、反重力刺激という新たな物理的な刺激を与えることにより、細胞培養が促進されることを見出して本発明を完成させた。
【0006】
本発明(1)は、培養基盤に固定された細胞に対して、前記細胞の定着した足場から細胞方向へと重力を作用させる反重力刺激を与えて細胞を培養する反重力培養方法である。
【0007】
本発明(2)は、細胞を培養基盤上に固定して、前記培養基盤を回転させて、細胞に対して重力刺激と反重力刺激を交互に与える、前記発明(1)の反重力培養方法である。
【0008】
本発明(3)は、前記培養基盤が多孔質の三次元培養基盤である、前記発明(2)の反重力培養方法である。
【0009】
本発明(4)は、前記培養基盤が二次元的な平板型培養皿である、前記発明(2)の反重力培養方法である。
【0010】
本発明(5)は、容器の中に前記培養基盤を入れて固定し、更に、培養液を導入して、前記容器を回転させる、前記発明(2)〜(4)のいずれか一つの反重力培養方法である。
【0011】
本発明(6)は、前記培養基盤の角度を調整する、前記発明(5)の反重力培養方法である。
【0012】
本発明(7)は、前記培養液が、1〜1000mlである、前記発明(5)又は(6)の反重力培養方法である。
【0013】
本発明(8)は、前記回転の速度が、1〜100rpmである、前記発明(2)〜(7)のいずれか一つの反重力培養方法である。
【0014】
本発明(9)は、前記培養基盤が、リン酸カルシウムを被覆した発泡ポリウレタンである、前記発明(3)の反重力培養方法である。
【0015】
本発明(10)は、容器と、前記容器を回転させる装置を用いて、
前記容器内に細胞を入れて、
前記容器を回転させて培養する、前記発明(1)〜(9)のいずれか一つの反重力培養方法である。
【0016】
本発明(11)は、細胞を培養基盤上に固定して、前記培養基盤を重力方向に対して上側に、前記細胞を重力方向下側に固定して、細胞に対して反重力刺激を与える、前記発明(1)の反重力培養方法である。
【0017】
本発明(12)は、前記培養基盤が二次元的な平板型培養皿である、前記発明(11)の反重力培養方法である。
【0018】
本発明(13)は、前記培養が培養液内で行なわれる、前記発明(11)又は(12)の反重力培養方法である。
【0019】
本発明(14)は、容器と、前記容器を回転させる装置を用いて、
前記容器内に細胞を入れて、
前記容器内に平板型培養皿を固定して、前記容器を回動させて、静止して反重力刺激を与えて培養する、前記発明(11)〜(13)のいずれか一つの反重力培養方法である。
【0020】
本発明(15)は、前記平板型培養皿が、内壁固定手段により固定して皿の角度を水平になるように調整し、平板型培養皿上に細胞を固定して、前記培養基盤を重力方向に対して上側に、前記細胞を重力方向下側に向けて培養する、前記発明(14)の反重力培養方法である。
【0021】
本発明(16)は、前記細胞が骨芽細胞であり、前記培養により増殖を促進する、前記発明(1)〜(15)のいずれか一つの反重力培養方法である。
【0022】
本発明(17)は、筒状容器を傾けて回転させる、筒状容器回転手段と、
前記筒状容器回転手段に対して回転減速手段を介して接続された、モータと、
を有することを特徴とする、反重力培養装置である。
【0023】
本発明(18)は、前記モータを駆動するための駆動電源を有することを特徴とする、前記発明(17)の反重力培養装置である。
【0024】
本発明(19)は、前記回転減速手段が、プラネタリーギアである、前記発明(17)又は(18)の反重力培養装置である。
【0025】
本発明(20)は、前記筒状容器回転手段が、
複数のロールを平行に回転軸を介して固定する枠体と、
前記枠体を斜めに固定する固定手段と、を有し、
前記複数のロールのうち少なくとも一つの回転軸と前記モータとが回転可能に接続されている、前記発明(17)〜(19)のいずれか一つの反重力培養装置である。
【0026】
本発明(21)は、前記回転軸と前記モータとが、フレキシブルジョイントにより回転可能に接続されている、前記発明(20)の反重力培養装置である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、前記細胞の定着した足場から細胞方向へと重力を作用させる反重力刺激によって細胞が活性化するため、当該細胞の増殖などが促進される効果を奏する。また、回転させて培養することによって、三次元培養基盤を使用した場合であっても、従来法では得られなかった高い効率で細胞を培養基盤にトラップさせることができる。また、培養液を使用することによって、当該培養液が三次元培養基盤の中を循環し、細胞の表面へ次々と新しい培養液が供給されることとなるため、細胞への栄養供給が好適に行なわれる。増殖・分化を終えた細胞は、トリプリン、またはコラーゲナーゼを使用する通常の方法によって、培養基盤から容易に遊離することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、本発明に係る反重力培養装置の概略斜視図である。
【図2】図2(a)は、本発明に係る反重力培養装置の概略平面図であり、図2(b)は、概略側面図である。
【図3】図3は、本発明に係る反重力培養装置に用いられる部品を示し、図3(a)は、三次元培養基盤を使用する場合に使用する部品の概略図であり、図3(b)は三次元培養基盤を用いることなく、単層又は重層の平面的に増殖した細胞を用いる場合に使用する部品の概略図である。
【図4】図4は、実施例及び比較例に係る培養方法により細胞を培養した際の実験結果を示すグラフである。
【図5】図5は、実施例及び比較例に係る培養方法により細胞を培養した際の実験結果を示すグラフである。
【図6】図6は、実施例及び比較例に係る培養方法により細胞を培養した際の実験結果を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例及び比較例に係る培養方法により細胞を培養した際の実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明に係る細胞培養方法は、細胞に対して、前記細胞の定着した足場から細胞方向へと重力を作用させる反重力刺激を与えながら培養する反重力培養方法である。本発明者は、反重力刺激を細胞に対して与えることによって、細胞の増殖が促進されることを見出した。
【0030】
ここで、「反重力刺激」とは、細胞の定着した足場から細胞方向へと重力を作用させることにより細胞に対して与えられる物理的な刺激を意味する。また、「重力刺激」とは、細胞から細胞の定着した足場方向へと重力を作用させることにより細胞に対して与えられる物理的な刺激を意味する。「重力変化刺激」とは、培養基盤に固定された細胞に加わる重力の作用方向を変化させることにより細胞に与えられる物理的な刺激を意味する。
【0031】
本発明に係る培養方法は、細胞に対して反重力刺激を与えることによって、細胞活動が活性化されることを見出して完成させた。すなわち、定着した培養基盤から細胞を吊り下げるようにして培養することによって、細胞に対して反重力刺激が与えられて、細胞増殖が活性化される。このように天井から吊り下げられるように配されることによって、細胞は、培養基盤に対する接着面でしがみつくようにして培養される。更に細胞自身の形状も下方向にふくらむので細胞は自身の形状を維持しようとして努力する。これらの要因が細胞増殖等の促進刺激となると考えられる。
【0032】
本発明に係る培養方法では、細胞に対して、反重力刺激を与える、又は、重力刺激と反重力刺激とを交互に与える、等の重力変化刺激を与えて細胞を培養することが好適である。反重力刺激を与えながら細胞を培養する方法としては、細胞を培養基盤上に固定して、前記培養基盤を重力方向に対して上側に、前記細胞を重力方向下側に固定する方法が挙げられる。すなわち、細胞が定着した基盤を反転させて細胞が逆さになった状態で培養する方法が挙げられる。このような状態で培養することによって、細胞の培養が促進されることを見出した。細胞を反重力状態に配することによって細胞を形成する骨格などの配置が重力によって変化するため、これが細胞培養を促す刺激となると推測される。
【0033】
重量刺激と反重力刺激とを交互に与えながら細胞を培養する方法としては、例えば、細胞を培養基盤等の基盤に固定した状態で回転させることが好適である。このような方法により培養することにより、例えば、培地内に浮遊させて回転させる場合とは異なり、基盤が回転することによって、その上に固定された細胞の視点から考えると、細胞は、自己の固定されている基盤の重力場が反転しているように感じられる。これが、細胞内の再配置等を引き起こし反重力刺激となり、細胞培養や分化を促進すると考えられる。
【0034】
尚、回転としては、断続回転と連続回転とが挙げられる。断続回転は、底面を下にして、細胞を一度定着させてから、一定時間後に、180度回転して底面を上にし、その後一定時間後培養を続け、細胞内の骨格を再配列させる。このようにして細胞骨格の再配列を必要に応じて繰り返し行わせる。細胞骨格の再配列刺激は、細胞にとって重大な刺激である、この刺激が細胞の分化と増殖に影響を与える。
【0035】
ここで、培養基盤としては、多孔質の三次元培養基盤であってもよいし、図3(b)に示すような皿のような二次元(平面)培養基盤であってもよい。例えば、皿を使用した場合には、回転によって特殊な効果を期待することが出来る。すなわち、180°回転させた場合、重力は細胞にとって培養基盤とは反対の自由面から作用することになり、細胞に増殖と同時に、特異分化を促す効果を与えることが出来る。
【0036】
本発明において使用する培養基盤は、多孔質の三次元培養基盤であることが好適である。ここで、三次元培養基盤とは、基盤の内部に気泡や間隙等の三次元の空間を有する基盤を意味する。
従来の方法によれば、細胞懸濁液を多孔質の三次元培養基盤に滴下するなどして細胞を播種すると、細胞は基盤をすり抜けて、殆どすべてが底面にまで落下するので、三次元培養の大きな技術的障害になっていた。これに対して本発明に係る方法のように基盤を回転させることによって、すり抜けて落下した細胞が再度、基盤と接触し、当該基盤上に定着する機会が増加することになる。したがって、細胞基盤と、細胞とを回転させることによって、従来法では得られなかった高い効率で細胞を培養基盤にトラップさせ、これによって骨芽細胞等の足場依存性細胞を、三次元培養基盤に播種し定着することができるという効果を有する。
【0037】
本発明に係る培養方法において、容器の中に前記培養基盤を入れて、更に、培養液を導入して、前記容器を回転させることにより、細胞に対して反重力刺激を与えながら培養することが好適である。このように培養液を導入することによって、当該培養液が三次元培養基盤の中を循環し、細胞の表面へ次々と新しい培養液が供給されることとなるため、細胞への栄養供給が好適に行なわれる。このような環境に配されることによって、細胞培養に適した環境を提供することができる。培養液を用いる場合、細胞を懸濁した細胞懸濁液を培養基盤と共に、容器内に導入することが好適である。
【0038】
ここで培養基盤としては、特に限定されないが、ポリマー、セラミックス等の多孔体や、チタンメッシュなどの繊維集合体材料等の多孔質の三次元培養基盤を使用することが好適である。ポリマーの多孔質基盤としては、ウレタン等の生体適合性材料の発泡体や、これらの表面にコラーゲンを被覆したものが使用できる。また、チタンメッシュとしては、チタン繊維の不織布などが挙げられる。セラミックスの多孔質基盤としては、セラミックス単体からなる多孔質基盤であってもよいし、ポリマーなどの多孔質材料の表面にセラミックスを被覆した基盤を用いることができる。また、発泡ポリウレタンの表面をリン酸カルシウムで被覆した多孔質細胞培養基盤を使用することが好適である。リン酸カルシウムが被覆されている状態でも、内部にセル(気泡、コンパートメント)を有し、当該セルが連通している状態であることが、細胞が成長しやすくなるため好適である。リン酸カルシウムとしては、特に限定されないが、ハイドロキシアパタイトあるいは、βトリカルシウムリン酸(βTCP)を使用することが好適である。また、発泡ポリウレタンは公知のポリウレタンの中からとくに細胞培養に適した幾何形体と化学的性質を具備した製品を使用することが好適である。ここで、発泡体のセルは200〜600μmの前後左右の広がりを有することが好適である。発泡ポリウレタンは、親水性を有するものであることが好適であり、3分以内に100μLのダルベッコウのリン酸緩衝生理食塩水を、表面に残さず吸い込む親水性と吸水性を示すものであることがより好適である。
【0039】
多孔質培養基盤の製造方法は特に限定されないが、例えば、連続気泡を有する発泡体と処理溶液とを混合し、二酸化炭素をバブリングして、塩化カルシウムと第二リン酸化カリウムとを加えるアパタイト析出工程により製造することが出来る。ここで前記処理溶液は、塩化ナトリウムを含むことが好適である。このような製造方法により、多孔質細胞培養基盤を得ることにより、発泡ポリウレタンの表面に球状結晶の集合した被覆面が形成される。このように球状結晶が得られることによって、細胞の増殖がより促進される。
【0040】
ここで、本発明に係る回転の速度は、1〜100rpmが好適であり、3〜20rpmがより好適である。このような回転速度で培養することにより、特に細胞の増殖が促進される。
【0041】
本発明に係る培養方法において、反重力刺激のみを与える場合、培養基盤は二次元的な平板型培養皿であることが好適である。例えば、平板型培養皿上で細胞を培養して、定着させた後に、当該培養皿を反転させて、天井に細胞がぶら下がった状態で培養することが好適である。このように培養することにより細胞に対して反重力刺激を与えることができる。また、所定時間経過した後に基盤を再度反転させてもよい。
【0042】
更に、上記に平板培養皿を用いた方法の場合、前記培養が培養液内で行なわれることが好適である。培養液内で反転することにより、定着した細胞が落下することを防止することができる。更に、液体中で反転させることとなるため、空気中で反転させるよりも、反重力刺激がより穏和な刺激となる。
【0043】
本発明において培養可能である細胞は、特に限定されないが、例えば、骨芽細胞、象牙芽細胞、歯根膜細胞、軟骨細胞、線維芽細胞、心筋細胞、肝細胞、膵臓由来細胞、ES細胞、並びにiPS細胞等の足場依存性細胞が挙げられる。
【0044】
本発明において用いられる培養液は、培養する細胞に応じて適宜選択することが可能であり、特に限定されないが、例えば、炭素源、ビタミン、無機塩類などの栄養素を含む液体が好適である。培養液の量は、特に限定されないが、1〜1000mlが好適であり、1〜10mlがより好適である。
【0045】
本発明に係る反重力培養方法の培養期間は、培養対象の細胞に応じて適宜設定可能であり特に限定されないが、1日〜5週が好適であり、2〜4週がより好適であり、3週が特に好適である。
【0046】
その他、細胞培養環境は、公知の環境を適宜設定変更して適用できるので、特に限定されないが、培養器などの恒温条件で培養することが好ましい。
【0047】
以下、本発明において好適に使用される反重力培養装置について説明し、更に、当該装置を用いた培養方法について詳細に説明する。
【0048】
《反重力培養装置》
図1は、本発明に係る反重力培養装置1の概略斜視図であり、図2(a)は、当該反重力培養装置の概略平面図であり、図2(b)は、当該反重力培養装置の概略側面図である。
【0049】
反重力培養装置1は、筒状容器を傾けて回転させる筒状容器回転手段11と、前記筒状容器回転手段11に対して回転減速手段12を介して接続されたモータ13と、前記モータを駆動するための駆動電源14と、を有する。当該装置を用いることにより、筒状容器内に配置された細胞は、当該容器の回転によって反重力刺激を受けることができる。先述の各構成は、基板15上に設置されていることが好適である。このように一枚の基板上に設置することにより持ち運びが容易になる。回転減速手段12及びモータ13は、ゴム製のクッション台座17の上に設置されていてもよい。クッション台座17の高さを調整することによってフレキシブルジョイントの位置関係を調整できる。また、本発明に係る装置には駆動電源(例えば、電池)14が設けられていることにより、別途、外部から電源を導入する必要がなく、当該装置をそのまま培養装置内に入れて扉を閉めて、培養を行なうことができるため、好適である。また、必要に応じ、通法のように平型リード線を用いて、培養装置のドアの隙間から外部電源を導入することが可能である。
【0050】
筒状容器回転手段11は、複数のロール111a〜cを平行に回転軸112a〜cを介して固定する枠体113とを有する(図2(a))。これらの複数のロール111a〜cは、枠体113の内部に回転可能に固定されている。また、ロールは、例えば、中心に丸い形状の棒等の芯棒1111を使用して、その周囲を発泡ウレタンや、ゴムなどの軟質でありながら適度な摩擦性を有するクッション材料1112で覆った構成を有することが好適である(図2(a))。また、複数のロール111は回転軸が平行になるように配され、隣接するロールの間に筒状容器が載置できる程度の間隔d(ロールの間隔dは円筒状容器の直径よりも狭い間隔である)を有していることが好適である(図2(a))。
【0051】
枠体113の回転軸を固定する辺のいずれか一方には、筒状容器が滑り落ちないようにするための、保持部1131が設けられていることが好適である。また、当該枠体113を斜めに固定する固定手段114を有することが好適である。当該固定手段を有することにより、筒状容器を斜めに傾けて回転させることができるので、円筒容器内に配置された細胞に対して反重力刺激を与えることができる。更に当該固定手段は枠体の傾き角度を調整可能に構成することが好適である。より具体的には、例えば、上部に固定孔1142を有する板状体1141を枠体113の左右に垂直に配し、前記固定孔1142に対して枠体113を固定する螺子1143を設ける。更に、前記固定孔1142の両脇にワッシャ1144を設けることが好適である。ここで、固定孔1142の形状は、垂直方向に対して細長く形成されていることが好適であり、このように細長く形成することにより枠体を上下に移動させることができるので、傾けることによって枠体が基板15と干渉する場合であっても、当該干渉を防ぐことができる。また、上下に移動することができるので、回転軸112a〜cのいずれかとモータの回転を伝達するためのフレキシブルジョイントとの距離調整が容易になる。
【0052】
前記複数のロールのうち少なくとも一つは、その回転軸とモータと回転可能に接続されている。少なくとも一つの回転軸がモータに接続されていることにより、ロールの間に筒状容器を載置することにより筒状容器を回転させることができ、更に、筒状容器に接触している隣接するロールも回転するため、当該筒状容器を安定に回転させることができる。
【0053】
回転軸とモータの接続は、回転減速手段12を介して、フレキシブルジョイント16により接続されていることが好適である。フレキシブルジョイント16としては、例えば、ゴム、プラスチック等の樹脂チューブを用いることができる。このようにフレキシブルジョイントを用いることにより、枠体113の傾斜を自由に設定することが可能となる。尚、フレキシブルジョイントの中心が、回転軸112bと回転減速手段回転軸の二つの軸の延長の交点になるように両者の位置関係を調整することが好適である。
【0054】
回転減速手段12としては、特に限定されないが、プラネタリーギアを用いることが好適である。プラネタリーギアを用いることにより、減速機構をよりコンパクトにすることができるので、装置全体でかさばらなくすることができる。プラネタリーギアによって例えば、モータの回転速度を1/400まで減速することができる。
【0055】
駆動電源14は、独立に電源を供給することができれば特に限定されないが、一次電池や、バッテリーなどの二次電池を使用することができ、例えば、図に示すように電池ボックスが設けられていてもよい。このように独立に電源供給できる駆動電源を有することにより、培養器のような密閉系の中に入れてもモータを駆動させることができる。
【0056】
図3(a)は、三次元培養基盤を使用する場合に用いる容器及び培養基盤の概略構成図であり、図3(b)は、平板型培養皿を使用する場合に用いる容器及び内壁固定手段の概略構成図である。
【0057】
図3(a)に示すように三次元培養基盤を使用する場合、容器はガラス製の円筒容器21であることが好適であり、更に、円筒容器の開口部は通気性のアルミキャップ23で覆われていることが好適である。当該ガラス容器内には、円形状の三次元培養基盤25が備えられており、当該三次元培養基盤25が、円筒容器21の内壁に固定されている。ここで、三次元培養基盤25は、角度を調整することが好適である。円筒容器内21には、培養液lが導入されている。
【0058】
図3(b)に示すように平板型培養皿でも、三次元培養基盤を使用する場合と同様に、容器はガラス製の円筒容器21であることが好適であり、更に、円筒容器の開口部は通気性のアルミキャップ23で覆われていることが好適である。ここで、平板培養皿28は、円筒容器の内径よりも小さな径を有している円形状であることが好適である。平板型培養皿は、特に限定されないが、チタン又はプラスチック製であることが好適である。更に、平板培養皿の周縁には、O−リング(例えば、シリコン製)等の内壁固定手段29が設けられていることが好適である。内壁固定手段によって、角度を調整することが好適であり、例えば、円筒容器21を反重力培養装置で回転させる際の傾きに傾斜させた場合に、水平方向になるように固定されることが好適である。
【0059】
《反重力培養方法》
上記の装置を用いる反重力培養方法の例を挙げて説明する。本発明に係る反重力培養方法の具体例として、容器を回転させる装置を用いて、当該容器内に細胞を播種して、当該容器を回転させて培養する方法が挙げられる。このように容器を回転させることにより細胞に対して反重力刺激を与えながら培養する。回転させる筒状容器内壁に、培養基盤を固定して回転させて、細胞に対する重力の方向を反転させつつ培養することが好適である。
【0060】
容器としては、特に限定されないが、上述の筒状容器が好適であり、更に好適には試験管が挙げられる。すなわち、筒状容器回転手段11の上に筒状容器を載置することによって、当該容器が回転し、細胞に対して反重力刺激を与えることができる。尚、筒状容器の傾きは、特に限定されないが、水平に対して0〜80°が好適であり、5〜60°がより好適であり、10〜40°が更に好適である。
【0061】
三次元培養基盤を用いる場合には、各種細胞が定着したディスク状の三次元培養基盤25は、筒状容器21の内壁に固定されたのち、反重力装置の上で回転を受けつつ培養される。セルの開口部は通気性のアルミキャップ23で覆われる。
【0062】
平板培養基盤を用いる場合には、各種細胞は、先ず、平板培養皿26の中で単層細胞層として培養される。この平板培養皿26は、周囲に備えられたO−リング29を介して円筒状容器21の内部に固定される。このO‐リングの存在によって、平板培養皿の底面が重力の方向に垂直になるよう、自在の角度でガラスセル内壁に固定できる。これによって平板培養皿を重力方向に垂直に、しかも上下を180°反転して固定することができ、その結果、細胞に対して、重力と反重力の動力学的効果を、それぞれ与えることができる。
【実施例】
【0063】
実施例1:反重力培養方法
反重力培養装置1を用いて、細胞の培養を行なった。骨芽細胞MC3T3−E1を三次元培養基盤(ハイドロキシアパタイト被覆発泡ポリウレタン:多孔質培養基盤)にコラーゲン被覆した培養基盤に対して、50,000個ずつ播種して、当該培養基盤および培養液5ml(イーグルの最小必須培地)を、試験管内に入れて、水平に対して25°傾けたロール上に載置して、4rpmの速度で回転させて、培養器中で培養試験を行なった。2日後、2週後、4週後の細胞数をミトコンドリアの酵素活性を測定する呈色反応(MTS測定法)を行い450nmで吸光度を測定することにより観察した。2週後に細胞数が顕著に増加した。その結果を図4の実線で示す。
【0064】
比較例1:静置培養方法
対照実験である従来型の静置培養の結果を図4の点線で示す。上記の実施例1と、調製した骨芽細胞が播種された三次元培養基盤を96ウエルディッシュに載置して静置培養した以外は同様の条件で細胞培養試験を行なった。2日後、2週後、4週後の細胞数を呈色反応を行い450nmで吸光度を測定した結果、従来型の静置の細胞数は、時間と共に細胞は増殖するが、反重力装置で培養した場合と比較すると、2〜4週においては約2分の1に留まっている。
【0065】
実施例2、比較例2
三次元培養基盤として、コラーゲンのみを被覆したポリウレタンを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2に係る培養を行なった。また、回転を行なわなかったこと以外は、実施例2と同様の条件で、比較例2に係る培養を行った。これら実施例2及び比較例2に係る培養の結果を、1週後、2週後、3週後、6週後の細胞数にて観察し、図5に示す。いずれの時点でも反重力培養の例は、従来法で培養した比較例よりも高い細胞数を示した。
【0066】
実施例3、比較例3
三次元培養基盤として、市販のチタンメッシュを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、実施例3に係る培養を行なった。また、回転を行なわなかったこと以外は、実施例3と同様の条件で、比較例3に係る培養を行った。これら実施例3及び比較例3に係る培養の結果を、3日、2週後、3週後、4週後、5週後、7週後の細胞数にて観察し、図6に示す。いずれの時点でも反重力培養の例は、従来法で培養した比較例よりも高い細胞数を示した。とくに2週目から4週目にかけては、1.4〜1.6倍高い値を示した。
【0067】
実施例4、比較例4
反重力培養装置1を用いて、細胞の培養を行なった。二次元の平板培養基盤(内径13mm、深さ2mmのチタン製培養皿)の上に骨芽細胞MC3T3−E1を12.5万個ずつ播種して、4時間培養した。その後、実施例4においては、培養液(イーグルの最小必須培地)を、試験管内に入れて、皿を反転させて、培養皿を重力方向に対して上側に、細胞を重力方向下側に向けて配置して反重力刺激を与えながら48時間培養した。比較例4においては、培養液(イーグルの最小必須培地)を、試験管内に入れて、皿を反転させずに(4時間の培養と同じ向きで)重力の方向に垂直に配置して48時間培養した。48時間後の細胞数をミトコンドリアの酵素活性を測定する呈色反応(MTS測定法)を行い450nmで吸光度を測定することにより観察した。結果、反重力刺激を与えた実施例4においては、細胞数が顕著に増加した。その結果を図7で示す。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係る反重力培養方法及び反重力培養装置は、反重力刺激によって細胞が活性化されるという新たな発見に基づき完成された。従来の培養方法によれば、単に培養基盤上で細胞を定着させて培養を行なっていたが、細胞定着後の基盤を裏返せば細胞増殖を促進できることを示している。これは非常に簡単な作業によって、細胞が活性化されることを意味し、細胞培養全体に応用できることが期待される。
【0069】
本発明に係る反重力培養方法及び反重力培養装置は、複雑で高価な装置を用いることなく、三次元培養基盤に汎用的に応用可能ならしめる。応用の1例としては、現在、iPS細胞が、従来の平板培養では、ガン化するなどの困難に局面するが、本装置によって、3次元の細胞の家と同時に、重力という自然の動力学的刺激を与えることで、新しい展開が十分期待できる。
【0070】
本発明に係る反重力培養装置によれば、宇宙に行かなくても、机の上で細胞に対する重力の効果を調べることが出来る。要するに、今までの細胞培養装置では、細胞を床の上に静かに寝かせていたが、本発明に係る反重力培養装置により、天井の下側の面に、ヤモリや、忍者のように張り付けて生活させる。それが刺激(反重力刺激)になって細胞が、床の上とは異なった活動をすることになり、それがガンの薬の効き方などにも、違った影響を与えると推測される。細胞は、一人の体に60兆個(10の12乗個)存在する。体の中では、平板の上に静かに生きているのではなく、上下左右から力を受け、動いている。反重力培養装置によって交互に、上から下からの重力を繰り返し加えることより、少しだけ生体に近い状態に近づけて、体の外で培養が可能となる。
【符号の説明】
【0071】
1:反重力培養装置
11:筒状容器回転手段
12:回転減速手段
13:モータ
14:駆動電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養基盤に固定された細胞に対して、前記細胞の定着した足場から細胞方向へと重力を作用させる反重力刺激を与えて細胞を培養する反重力培養方法。
【請求項2】
細胞を培養基盤上に固定して、前記培養基盤を回転させて、細胞に対して重力刺激と反重力刺激を交互に与える、請求項1記載の反重力培養方法。
【請求項3】
前記培養基盤が多孔質の三次元培養基盤である、請求項2記載の反重力培養方法。
【請求項4】
前記培養基盤が二次元的な平板型培養皿である、請求項2記載の反重力培養方法。
【請求項5】
容器の中に前記培養基盤を入れて固定し、更に、培養液を導入して、前記容器を回転させる、請求項2〜4のいずれか一項記載の反重力培養方法。
【請求項6】
前記培養基盤の角度を調整する、請求項5記載の反重力培養方法。
【請求項7】
前記培養液が、1〜1000mlである、請求項5又は6記載の反重力培養方法。
【請求項8】
前記回転の速度が、1〜100rpmである、請求項2〜7のいずれか一項記載の反重力培養方法。
【請求項9】
前記培養基盤が、リン酸カルシウムを被覆した発泡ポリウレタンである、請求項3記載の反重力培養方法。
【請求項10】
容器と、前記容器を回転させる装置を用いて、
前記容器内に細胞を入れて、
前記容器を回転させて培養する、請求項1〜9のいずれか一項記載の反重力培養方法。
【請求項11】
細胞を培養基盤上に固定して、前記培養基盤を重力方向に対して上側に、前記細胞を重力方向下側に固定して、細胞に対して反重力刺激を与える、請求項1記載の反重力培養方法。
【請求項12】
前記培養基盤が二次元的な平板型培養皿である、請求項11記載の反重力培養方法。
【請求項13】
前記培養が培養液内で行なわれる、請求項11又は12記載の反重力培養方法。
【請求項14】
容器と、前記容器を回転させる装置を用いて、
前記容器内に細胞を入れて、
前記容器内に平板型培養皿を固定して、前記容器を回動させて、静止して反重力刺激を与えて培養する、請求項11〜13記載のいずれか一項記載の反重力培養方法。
【請求項15】
前記平板型培養皿が、内壁固定手段により固定して前記平板型培養皿の角度を水平になるように調整し、前記平板型培養皿上に細胞を固定して、前記培養基盤を重力方向に対して上側に、前記細胞を重力方向下側に向けて培養する、請求項14記載の反重力培養方法。
【請求項16】
前記細胞が骨芽細胞であり、前記培養により増殖を促進する、請求項1〜15のいずれか一項記載の反重力培養方法。
【請求項17】
筒状容器を傾けて回転させる、筒状容器回転手段と、
前記筒状容器回転手段に対して回転減速手段を介して接続された、モータと、
を有することを特徴とする、反重力培養装置。
【請求項18】
前記モータを駆動するための駆動電源を有することを特徴とする、請求項17記載の反重力培養装置。
【請求項19】
前記回転減速手段が、プラネタリーギアである、請求項17又は18記載の反重力培養装置。
【請求項20】
前記筒状容器回転手段が、
複数のロールを平行に回転軸を介して固定する枠体と、
前記枠体を斜めに固定する固定手段と、を有し、
前記複数のロールのうち少なくとも一つの回転軸と前記モータとが回転可能に接続されている、請求項17〜19のいずれか一項記載の反重力培養装置。
【請求項21】
前記回転軸と前記モータとが、フレキシブルジョイントにより回転可能に接続されている、請求項20記載の反重力培養装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−90584(P2012−90584A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241528(P2010−241528)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000127307)株式会社イノアック技術研究所 (73)
【Fターム(参考)】