説明

収穫された茶葉用ポリフェノール増加剤、樹脂ペレット、収穫された茶葉保存用シートおよびその製造方法

【課題】葉物野菜や茶葉といった植物の葉の保存性を高めることができる植物の葉用ポリフェノール増加剤、植物の葉用ポリフェノールおよびアミノ酸増加剤、樹脂ペレット、植物の葉保存用シートならびに植物の葉保存用シートの製造方法を提供する。
【解決手段】植物の葉用ポリフェノール増加剤が、プロアントシアニジンとトレハロースとを含む。植物の葉用ポリフェノール増加剤は、プロアントシアニジンとトレハロースとが1:15乃至1:60の重量比で含まれていることが好ましい。植物の葉保存用シートが、植物の葉用ポリフェノール増加剤を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の葉用ポリフェノール増加剤、植物の葉用ポリフェノールおよびアミノ酸増加剤、樹脂ペレット、植物の葉保存用シートならびに植物の葉保存用シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品として使用される植物の葉として、セリやキャベツ、レタス、ほうれん草、大根の葉、茶葉、桑葉などがある。このうち、セリやキャベツ、レタス、ほうれん草などの葉物野菜を、生の状態で長期保存する方法として、複数の孔を有するフィルムから成る袋に入れて保存する方法がある(例えば、特許文献1参照)。また、緑茶やウーロン茶、紅茶の茶葉は、一般的には乾燥して保存されている。これまで主として養蚕に利用されてきた桑の葉も、近年、桑葉茶として生産されており(例えば、特許文献2参照)、生の桑葉を蒸した後、乾燥させて保存されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−199385号公報
【特許文献2】特開2006−101732号公報
【特許文献3】特開平9−206019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
葉物野菜を生の状態で保存する場合、流通等を考慮すると保存期間が長いほど好ましいため、特許文献1に記載の袋よりもさらに長期間保存することができる方法が望まれている。また、茶葉の場合、従来の乾燥させて保存する方法は、お茶として加工した後の保存性を高めるものであり、加工前の茶葉の保存性を高める方法はこれまで知られていなかった。
【0005】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、葉物野菜や茶葉といった植物の葉の保存性を高めることができる植物の葉用ポリフェノール増加剤、植物の葉用ポリフェノールおよびアミノ酸増加剤、樹脂ペレット、植物の葉保存用シートならびに植物の葉保存用シートの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る植物の葉用ポリフェノール増加剤は、プロアントシアニジンとトレハロースとを含むことを特徴とする。
【0007】
本発明に係る植物の葉用ポリフェノール増加剤は、トレハロースが植物の葉から放出されるエチレンを吸収し、プロアントシアニジンが過剰に生成されたエチレン酸化物による酸化作用を抑制することにより、植物の葉の腐食を抑制することができる。また、腐敗を抑制することにより乳酸菌を増やすことができ、その結果、乳酸発酵を促進して植物の葉に含まれるポリフェノールを増やすことができる。このように、本発明に係る植物の葉用ポリフェノール増加剤は、葉物野菜や茶葉といった植物の葉の保存性を高めることができる。
【0008】
本発明に係る植物の葉用ポリフェノールおよびアミノ酸増加剤は、プロアントシアニジンとトレハロースとを含むことを特徴とする。本発明に係る植物の葉用ポリフェノールおよびアミノ酸増加剤は、乳酸発酵を促進して植物の葉に含まれるポリフェノールを増やすことができるとともに、植物の葉に含まれる分岐鎖アミノ酸や必須アミノ酸などを増やすことができ、植物の葉の長期貯蔵、高機能性および栄養分の増強を図ることができる。
【0009】
本発明に係る植物の葉用ポリフェノール増加剤および本発明に係る植物の葉用ポリフェノールおよびアミノ酸増加剤は、前記プロアントシアニジンと前記トレハロースとが1:15乃至1:60の重量比で含まれていることが好ましい。この場合、特にポリフェノールの増加促進効果が高く、植物の葉の保存性が高い。
【0010】
本発明に係る植物の葉用ポリフェノール増加剤ならびに植物の葉用ポリフェノールおよびアミノ酸増加剤は、植物の葉を保存するためであれば、どのように使用されてもよい。例えば、葉を包むためのシートや葉を収納するための容器に塗布するなどして使用される。本発明に係る植物の葉用ポリフェノール増加剤ならびに植物の葉用ポリフェノールおよびアミノ酸増加剤で、トレハロースは、3種類の異性体、α,α体、α,β体およびβ,β体のいずれであってもよい。また、プロアントシアニジンの原料は、ブドウの種子、黒大豆、その他、原料を問わないが、特にブドウ種子由来のプロアントシアニジンが好ましい。
【0011】
本発明に係る植物の葉保存用シートは、本発明に係る植物の葉用ポリフェノール増加剤、または本発明に係る植物の葉用ポリフェノールおよびアミノ酸増加剤を含んでいることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る植物の葉保存用シートは、本発明に係る植物の葉用ポリフェノール増加剤、または本発明に係る植物の葉用ポリフェノールおよびアミノ酸増加剤を含んでいるため、葉物野菜や茶葉といった植物の葉の包装等に使用することにより、その植物の葉の保存性を高めることができる。また、植物の葉に含まれるポリフェノールやアミノ酸を増加させることができる。より保存性を高めるため、植物の葉を包んだ後、内部の空気を抜いてもよい。本発明に係る植物の葉保存用シートは、袋状、箱状、折り畳まれた形状、ロール状、その他、いかなる形状から成っていてもよい。
【0013】
本発明に係る植物の葉保存用シートは、本発明に係る植物の葉用ポリフェノール増加剤、または本発明に係る植物の葉用ポリフェノールおよびアミノ酸増加剤を含む樹脂ペレットを、150乃至200℃で融解した後、厚さ20乃至50μmのシート状に加工して製造されてもよい。樹脂ペレットは、本発明に係る植物の葉用ポリフェノール増加剤または植物の葉用ポリフェノールおよびアミノ酸増加剤と、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、エチレン−酢酸共重合体およびABS樹脂のうちの1または複数から成る樹脂とを混合して形成されていることが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る植物の葉保存用シートは、本発明に係る植物の葉用ポリフェノール増加剤、または本発明に係る植物の葉用ポリフェノールおよびアミノ酸増加剤を、通気性を有するシートに含有させて成っていてもよい。この場合、植物の葉用ポリフェノール増加剤または植物の葉用ポリフェノールおよびアミノ酸増加剤は、それらの水溶液に通気性を有するシートを浸漬させる方法、またはそれらの溶液を通気性を有するシートに噴霧させる方法などによりシートに含有させることができる。また、通気性を有するシートは、例えば、ティッシュペーパー・段ボール紙・その他の紙、不織布、繊維製品、食物繊維などから成り、天然素材であっても人工素材であってもよい。本発明に係る植物の葉保存用シートは、食塩その他のミネラル、抗菌剤、防カビ剤、脱臭剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0015】
本発明に係る植物の葉保存用シートは、プロアントシアニジンとトレハロースとを通気性を有するシートに含有させて成り、プロアントシアニジンはシートに250乃至300mg/mの割合で含有されており、トレハロースはシートに5g/mの割合で含有されていてもよい。さらに、本発明に係る植物の葉保存用シートは、プロアントシアニジンを含有する植物由来水溶性抽出ポリフェノール3gと、トレハロース5gとを、1000mlの蒸留水に溶解させて水溶液を調製し、その水溶液に、プロアントシアニジンの含有量が不織布あたり300mg/m、トレハロースが5g/mになるようにメッシュ状不織布(目付50g/m)を浸した後、熱風乾燥機内で120℃で2時間乾燥させて作製されていてもよい。
【0016】
なお、茶葉の収穫期は短期間であり、収穫後の加工作業も茶葉が腐食しないうちに短期間で行う必要がある。このため、特定の期間に作業が集中し、年間を通じた安定した労働力の確保が難しかった。また、年間を通じて安定した労働力を確保するためには、年間を通じてコンスタントにお茶の加工・生産を行う必要があり、加工前の茶葉を腐食させることなく保存しておく必要がある。本発明に係る植物の葉用ポリフェノール増加剤、植物の葉用ポリフェノールおよびアミノ酸増加剤、ならびに植物の葉保存用シートによれば、茶葉の保存性を高めることができるため、保存した茶葉を利用して、年間を通じてコンスタントにお茶の加工・生産を行うことができる。また、これにより、年間を通じて安定した労働力の確保を図ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、葉物野菜や茶葉といった植物の葉の保存性を高めることができる植物の葉用ポリフェノール増加剤、植物の葉用ポリフェノールおよびアミノ酸増加剤、樹脂ペレット、植物の葉保存用シートならびに植物の葉保存用シートの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態の植物の葉保存用シートで茶葉を包んで保存した試料(1/2濃度本発明シート、標準濃度本発明シート)、および他の方法で保存した試料(初発、不織布コントロール、ソルビトールシート)の総アミノ酸量を測定した結果を示すグラフである(各試料の測定は3回(N=3)行い、グラフ中の数値がその平均値を示す)。
【図2】本発明の実施の形態の植物の葉保存用シートで桑葉を包んで保存したシート被覆試料、および、桑葉を包まずそのままの状態で保存したコントロール試料の水分量を測定した結果を示すグラフである(各試料の測定は2回(N=2)行い、グラフ中の数値がその平均値を示す)。
【図3】本発明の実施の形態の植物の葉保存用シートで桑葉を包んで保存したシート被覆試料、および、桑葉を包まずそのままの状態で保存したコントロール試料のポリフェノール含有量を測定した結果を示すグラフである(各試料の測定は3回(N=3)行い、グラフ中の数値がその平均値を示しており、*は「有意差あり(P<0.05)」を示す)。
【図4】本発明の実施の形態の植物の葉保存用シートで桑葉を包んで保存したシート被覆試料、および、桑葉を包まずそのままの状態で保存したコントロール試料のDPPHラジカル消去活性(DPPH消去活性)を測定した結果を示すグラフである(各試料の測定は3回(N=3)行い、グラフ中の数値がその平均値を示しており、*は「有意差あり(P<0.05)」を示す)。
【図5】本発明の実施の形態の植物の葉保存用シートで桑葉を包んで保存したシート被覆試料および桑茶の、アミノ酸分析用試料の作成方法を示すフローである。
【図6】図5に示すアミノ酸分析用試料の作成方法の内、Sep−Pak C18処理手順を示すフローである。
【図7】生桑葉のアミノ酸分析用試料の作成方法を示すフローである。
【図8】本発明の実施の形態の植物の葉保存用シートで桑葉を包んで保存したシート被覆試料、桑茶および生桑葉の、GABA代謝系のアミノ酸含有量を示すグラフである。
【図9】本発明の実施の形態の植物の葉保存用シートで桑葉を包んで保存したシート被覆試料、桑茶および生桑葉の、分岐鎖アミノ酸の含有量を示すグラフである。
【図10】本発明の実施の形態の植物の葉保存用シートで桑葉を包んで保存したシート被覆試料、桑茶および生桑葉の、必須アミノ酸の含有量を示すグラフである。
【図11】本発明の実施の形態の植物の葉保存用シートから成る袋に桑葉を入れて保存した試料(処理PE、処理PP)、および市販の袋で保存した試料(無処理PE、無処理PP)の総アミノ酸量を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施例に基づき本発明の実施の形態の植物の葉用ポリフェノール増加剤、植物の葉用ポリフェノールおよびアミノ酸増加剤、樹脂ペレット、植物の葉保存用シートならびに植物の葉保存用シートの製造方法について説明する。
【実施例1】
【0020】
本発明の実施の形態の植物の葉保存用シートによる、茶葉に対する保存性およびアミノ酸の変化に関する試験を行った。ここで使用する植物の葉保存用シートは、プロアントシアニジンとトレハロースとを含む植物の葉用ポリフェノール増加剤(植物の葉用ポリフェノールおよびアミノ酸増加剤)を、通気性を有するシートに含有させて成っている。植物の葉保存用シートは、以下の方法で製造されている。まず、ブドウ種子由来水溶性抽出ポリフェノール(プロアントシアニジン含有量95重量%、商品名「ロイコセレクト」、インデナ社製)3gと、トレハロース5gとを1000mlの蒸留水に溶解させて水溶液を調製し、その水溶液に、メッシュ状不織布(大きさ40cm×40cm、目付50g/m)を浸した後、熱風乾燥機内で120℃で2時間乾燥させた。
【0021】
植物の葉保存用シートは、プロアントシアニジンの含有量が不織布あたり250mg/m、トレハロースが5g/mになるようにしたもの(以下、「標準濃度本発明シート」という)、および、プロアントシアニジンが125mg/m、トレハロースが2.5g/mになるようにしたもの(以下、「1/2濃度本発明シート」という)の2種類を用意した。また、試験に使用する茶葉として、2009年度4月下旬に収穫された静岡県産の茶葉を用いた。
【0022】
[茶葉の保存試験]
植物の葉保存用シートで茶葉を包み、チャック付きの袋に入れて、4℃で15日間冷蔵保存した。また、比較試験として、茶葉を包まずそのままの状態でチャック付きの袋に入れたもの(以下、「初発」という)、茶葉を不織布で包んでチャック付きの袋に入れたもの(以下、「不織布コントロール」という)、標準濃度本発明シートのトレハロースの代わりにソルビトールを配合した不織布のシートで茶葉を包み、チャック付きの袋に入れたもの(以下、「ソルビトールシート」という)を、同じ条件で保存した。
【0023】
その結果、初発および不織布コントロールでは、褐変している茶葉の一部が腐敗して溶けた状態になっており、腐ったぞうきんの様な匂いを発していることが確認された。これに対し、1/2濃度本発明シートおよび標準濃度本発明シートでは、褐変した茶葉が混じっているが、褐変した茶葉にも弾力性がある状態であり、うっすらと茶葉の匂いに、何か別の匂いが混じっていることが確認された。この匂いから、植物の葉保存用シートを使用して保存した茶葉は、乳酸発酵が進んでいると考えられる。また、ソルビトールシートでは、褐変した茶葉が混じっているが、褐変した茶葉にも弾力性がある状態であり、茶葉の匂いのみがすることが確認された。この結果から、乳酸発酵にはトレハロースが必要であり、保存性を向上させる物質としてプロアントシアニジンが作用していると考えられる。
【0024】
[総アミノ酸量の測定]
保存試験を行った各試料について、ニンヒドリン反応法にてアミノ酸測定を行った。ニンヒドリン試薬は、L−8900用ニンヒドリン発色溶液セット(和光純薬工業株式会社製)を用いた。測定試料の調製は、96Wellマルチプレートに、試料50μl、発色溶液A 50μl、発色溶液B 50μlをそれぞれ加えて撹拌後、80℃のオーブンにて5分間加熱した。これをマルチプレートリーダー(製品名「MTP−450」、コロナ電気株式会社製)を用い、550nmにて測定した。検量線は、アミノ酸混合標準液AN−II型とB型とを混合した物(40種類のアミノ酸各2nmol含有)を用いて作成した。
【0025】
各試料は、ニンヒドリン反応にて測定した値と水分計にて測定した水分量とを元に、茶葉乾燥重量1g当たりの総アミノ酸量を算出した。測定結果を、図1に示す。図1に示すように、総アミノ酸含有量は、標準濃度本発明シートが最も多く、初発値に対し34%増加していることが確認された。トレハロースの代わりに同量のソルビトールを配合した場合(ソルビトールシート)には、総アミノ酸の増加は認められなかった。
【実施例2】
【0026】
本発明の実施の形態の植物の葉保存用シートによる、桑葉に対する保存性ならびに、貯蔵熟成による付加価値の検証としてポリフェノールの増加およびアミノ酸の変化に関する試験を行った。ここで使用する植物の葉保存用シートは、実施例1の植物の葉保存用シートと同様の製造方法で、プロアントシアニジンの含有量が不織布あたり300mg/m、トレハロースが5g/mになるように製造したものから成っている。また、試験試料として、岩手県北上市で生産された、2009年度10月産の桑葉を用いた。
【0027】
[桑葉の保存性]
植物の葉保存用シートで桑葉を包み、気温が4℃の場所で40日間保存した(以下、「シート被覆試料」という)。また、比較試験として、桑葉を包まずそのままの状態のもの(以下、「コントロール試料」という)を、気温が4℃の場所で40日間保存した。
【0028】
その結果、保存前の初期状態に比べて、コントロール試料、シート被覆試料ともに茶色に変色しているものが観察された。また、コントロール試料では、カビのようなものが付着し、柔軟性がない腐敗した桑葉が混在していたが、シート被覆試料では、カビのようなものが付着したものはほとんどなく、桑葉自体も柔軟性を有していることが観察された。
【0029】
このように、植物の葉保存用シートは、桑葉を包むことにより、桑葉の腐食を抑制し、加工前の桑葉の保存性を高めることができることが確認された。植物の葉保存用シートは、トレハロースが桑葉から放出されるエチレンを吸収し、プロアントシアニジンが過剰に生成されたエチレン酸化物による酸化作用を抑制することにより、桑葉の腐食を抑制するものと考えられる。植物の葉保存用シートで包んで保存した桑葉を利用して、年間を通じてコンスタントに桑葉茶の加工・生産を行うことにより、年間を通じた安定した労働力の確保を図ることができる。
【0030】
[ポリフェノールの測定]
シート被覆試料およびコントロール試料のそれぞれについて、桑葉の湿重量に対して4倍量のエタノールを加えて磨砕、攪拌し、これを遠心分離して得られた上清を、桑葉ポリフェノール抽出液とした。この桑葉ポリフェノール抽出液を用いて、比色検定法であるFolin Ciocalteu’s法によりポリフェノール含有量の測定を行った。
【0031】
測定手順は、まず、試験容器として96wellマルチプレートを用い、シート被覆試料およびコントロール試料の各桑葉ポリフェノール抽出液を10μリットル、2倍希釈したFolin Ciocalteu’sを10μリットル、試薬蒸留水を160μリットル、さらにデータ誤差を防ぐため最後に飽和炭酸ナトリウム水溶液を20μリットル加え、これらを攪拌後、30分間室温にて反応させた。測定機器としてマルチプレートリーダー(製品名「DTX−800」、Beckman Coulter,Inc.製)を用い、測定波長620nmで、ポリフェノール含有量を没食子酸相当量として算出した。
【0032】
まず、シート被覆試料およびコントロール試料のそれぞれの桑葉について、水分量の比較を行った。その結果を図2に示す。図2に示すように、シート被覆試料の方が、コントロール試料に比べて、初期状態よりもより多く水分を含有していたが、各水分含有量の統計学的有意差をTurkey−Kramerの多重比較解析法にて有意水準5%で解析した結果、有意差は認められなかった。
【0033】
次に、シート被覆試料およびコントロール試料のそれぞれの桑葉の、桑葉乾燥重量1g当たりのポリフェノール含有量を、−80℃を初期値として図3に示す。図3に示すように、シート被覆試料およびコントロール試料ともに、初期値よりもポリフェノールが増加していることが確認された。また、シート被覆試料の方が、コントロール試料に比べてポリフェノールの増加量が多く、初期値の1.8倍、コントロール試料の1.4倍に増加していることも確認された。各ポリフェノール含有量の統計学的有意差をTurkey−Kramerの多重比較解析法にて有意水準5%で解析した結果、初期値とシート被覆試料との間に有意差が認められた。
【0034】
このように、植物の葉保存用シートは、桑葉を包むことにより、桑葉に含まれるポリフェノールの増加を促進させることが確認された。この原因として、植物の葉保存用シートで腐敗菌を抑制することにより乳酸菌が増え、その結果、乳酸発酵が進んでポリフェノールが増加することが考えられる。
【0035】
[DPPHラジカル消去活性の測定]
ポリフェノールの抗酸化力を調べるために、DPPH法にて、DPPHラジカル消去活性の測定を行った。DPPHラジカル消去活性は、80%エタノール溶液を100%として算出した。測定は、測定容器として96wellマルチプレートを、測定機器としてマルチプレートリーダー(製品名「DTX−800」、Beckman Coulter,Inc.製)を用い、測定波長を520nmとして行った。
【0036】
測定は、まず、各wellに、シート被覆試料およびコントロール試料の各桑葉ポリフェノール抽出液を50μリットル(希釈が必要な場合は80%エタノールにて行う)、100mM Tris−HCl(pH7.5)を80μリットル、試薬蒸留水を40μリットル、最後にDPPHエタノール溶液(5mM DPPH、100%エタノール)を40μリットル加えて攪拌し、20分間反応させたものについて行った。ブランクには、抽出試料を80%エタノールで置き換えたものを用いた。
【0037】
シート被覆試料およびコントロール試料についてのDPPHラジカル消去活性の測定結果を、図4に示す。図4に示すように、桑葉1g当たりのDPPHラジカル消去活性は、シート被覆試料およびコントロール試料ともに、初期値より増加していることが確認された。また、シート被覆試料の方が、コントロール試料に比べてDPPHラジカル消去活性の増加量が多く、初期値の1.7倍、コントロール試料の1.2倍に増加していることも確認された。各DPPHラジカル消去活性の統計学的有意差をTurkey−Kramerの多重比較解析法にて有意水準5%で解析した結果、初期値とシート被覆試料との間に有意差が認められた。
【0038】
このように、DPPHラジカル消去活性を指標とした抗酸化能は、桑葉当りでシート被覆試料が最も高いことが確認された。このことから、植物の葉保存用シートは、桑葉を包むことにより、桑葉に含まれるポリフェノールの抗酸化能をより高めることができるといえる。
【0039】
[アミノ酸分析]
シート被覆試料についてアミノ酸分析を行った。比較のため、市販の桑茶(商品名「更木桑茶」)についてもアミノ酸分析を行った。また、初期状態を確認するため、冷凍保存した生桑葉についてもアミノ酸分析を行った。
【0040】
分析用の試料は、以下のようにして作成した。まず、シート被覆試料および桑茶は、図5に示すように、粗く粉砕してそれぞれ0.4gずつ分収し、それぞれ40mlの熱水を加えて撹拌した後、30分間静置した。これを遠心分離して得られた水溶性画分(上清)を熱水抽出物(HWS)とした。各HWSをそれぞれ30mlずつ分収し、120mlのエタノールを加えて撹拌した後、30分間静置した。これらを遠心分離して得られた上清をアルコール可溶画分(AS)とした。各AS画分130mlをそれぞれ減圧濃縮にて乾固し、13mlの蒸留水に溶解してアルコール可溶水解物(AWS)とした。
【0041】
次に、図6に示すように、各AWS画分2mlを、Sep−Pak C18 Plus(360mg)に供し、吸着したものを、エタノール:0.1%TFA=7:3の溶液2mlにて溶出した。この吸着画分を、図5に示すように、濃縮乾固して、0.02NのHClにて溶解し、0.22μmフィルター(MILLIPORE社製)にて濾過したものをアミノ酸分析試料とした。
【0042】
生桑茶は、図7に示すように、約8gを分収し、4倍量のエタノールと80%エタノール100ml(撹拌のため)とを加え、ミキサー(製品名「Force Mill」:株式会社島津ジーエルシー社製)にて磨砕・撹拌処理を行った。これを遠心分離して得られたアルコール可溶液をアルコール抽出物(AS)とした。このAS画分を2ml採り、30mlの蒸留水を加えて5%程度のアルコール濃度にし、Sep−Pak C18を用いて図6に示す操作を行った。この吸着画分を、図5と同様に、濃縮乾固して、0.02NのHClにて溶解し、0.22μmフィルター(MILLIPORE社製)にて濾過したものをアミノ酸分析試料とした。
【0043】
作成した各アミノ酸分析試料を用いて、ニンヒドリン反応法にてアミノ酸測定を行った。アミノ酸含有量の測定には、L−8900アミノ酸分析用ニンヒドリン試薬セットおよびアミノ酸分析計(製品名「L−8900」、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製)を用いた。反応条件は、分析試料0.1ml、ニンヒドリン試薬1ml、ニンヒドリンバッファー1mlを試験管にて混和し、沸騰水浴中にて3分間反応させた。これを570nmにて測定し、含有濃度を測定した。
【0044】
シート被覆試料、桑茶および生桑葉について、それぞれアミノ酸分析試料を2試料ずつ作成した。作成した試料について各種アミノ酸含有量の測定を行い、固形物1g当の含有量を求め、シート被覆試料(「本発明処理」)、桑茶および生桑葉のそれぞれについて、2試料の測定結果の平均値を求めた。その結果を、表1、図8、図9および図10に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
アミノ酸分析により、以下のことが確認された。表1、図8、図9および図10に示すように、桑葉を植物の葉保存用シートで包んで保存すること(本発明処理)により、保存前の初期状態を示すと考えられる生桑葉と比べて、GABA代謝の原料となるアスパラギン酸、グルタミン酸は増加したが、GABA(g−ABA)は減少した。抗酸化作用、生体のタンパクの代謝をコントロールする含硫アミノ酸は、生桑葉と本発明処理とでは大きな変化は見られなかった。エネルギー燃焼や筋肉繊維の合成を促進する機能を有する分岐鎖アミノ酸(BCAA:Branched Chain Amino Acid)であるバリン、ロイシン、イソロイシンは、本発明処理により増加した。必須アミノ酸であるヒスチジン、フェニルアラニン、スレオニン、リジンが、本発明処理により増加した。本発明処理した桑葉は、総アミノ酸含有量が生桑葉の約1.8倍になっていた。
【0047】
なお、茶葉および桑葉においては、アスパラギン酸からグルタミン酸が生成され、嫌気条件下でグルタミン酸が脱炭酸されてGABAが生成されることが知られている。表1および図8に示すように、植物の葉保存用シートで保存したとき、GABAは保存開始前に比べて減少しているが、原料となるアスパラギン酸およびグルタミン酸は増加している。GABAが減少する一つの可能性として、アミノ酸転移酵素による反応が進んだ可能性がある。すなわち、g−アミノ酪酸アミノトランスフェラーゼにより、GABA+α−ケトグルタル酸から、グルタミン酸+コハク酸セミアルデヒドを生成する反応が進んだ可能性が考えられる。しかし、GABAの減少量とアスパラギン酸、グルタミン酸の増加量とを比較すると、明らかに増加が多くなっている。また、植物の葉保存用シートを用いて保存した桑葉では、分岐アミノ酸、酸性アミノ酸、必須アミノ酸など、多くの種類のアミノ酸が増加している。この増加のメカニズムは明らかではないが、桑葉の発酵が進みタンパクが分解されて増加したもの、もしくは発酵の際に菌類が生成したものと考えられる。
【0048】
このように、桑葉を植物の葉保存用シートで保存することにより、長期貯蔵、高機能性および栄養分の増強を図ることができ、桑葉を、高機能を有するお茶の原料とすることができる。
【実施例3】
【0049】
本発明の実施の形態の植物の葉保存用シートによる、茶葉を保存したときのアミノ酸の変化に関する試験を行った。ここで使用する植物の葉保存用シートの原料には、プロアントシアニジンとトレハロースとを含む植物の葉用ポリフェノール増加剤(植物の葉用ポリフェノールおよびアミノ酸増加剤)と、150乃至200℃で融解したポリプロピレンまたはポリエチレンとを混合して形成された樹脂ペレットを用いた。植物の葉保存用シートは、この樹脂ペレットを150乃至200℃で融解した後、厚さ20乃至50μmのシート状に加工したものから成る。樹脂ペレットおよび植物の葉保存用シートは、トレハロース:プロアントシアニジンを20:1の重量比で含む植物の葉用ポリフェノール増加剤を、0.2重量%含有している。ポリプロピレンを使用した植物の葉保存用シートを袋にしたもの(以下、「処理PP」という)、および、ポリエチレンを使用した植物の葉保存用シートを袋にしたもの(以下、「処理PE」という)を試験に用いた。また、試験には、平成22年に収穫された岩手県北上産の桑葉を用いた。
【0050】
処理PPおよび処理PEのそれぞれの袋の中に桑葉約30gを入れる。また、比較試験として、市販のポリプロピレン製の袋(以下、「無処理PP」という)、および、市販のポリエチレン製の袋(以下、「無処理PE」という)の中に、桑葉約30gを入れる。これらの袋を、口を閉じず開放したままの状態で、4℃で冷蔵保存した。処理PPおよび無処理PPは保存期間を20日間、処理PEおよび無処理PEは保存期間を22日間とした。
【0051】
[アミノ酸分析]
アミノ酸分析用の試料は、実施例2と同様にして、以下のように作成した。まず、桑葉湿重量約7.5gに対して4倍量のエタノール(約30ml)と、80%エタノールを30mlとを加えて磨砕、攪拌し、これを遠心分離して得られた上清を、抽出液とする。これを、各試料について3検体ずつ調製した。
【0052】
次に、各抽出液のAWS画分1mlを、Sep−Pak C18 Plus(360mg)に供し、吸着したものをエタノール:0.1%TFA=7:3の溶液2mlにて溶出した。また、生桑葉のAS画分を2ml取り、30mlの蒸留水を加えて5%程度のアルコール濃度にし、Sep−Pak C18を用いて同様の操作を行った。これらの吸着画分を濃縮乾固して、0.02NのHClにて溶解し、0.22μmフィルター(MILLIPORE社製)にて濾過した物をアミノ酸分析試料とした。
【0053】
作成した各アミノ酸分析試料を用いて、ニンヒドリン反応法にてアミノ酸測定を行った。ニンヒドリン試薬は、L−8900用ニンヒドリン発色溶液セット(和光純薬工業株式会社製)を用いた。測定試料の調製は、96Wellマルチプレートに、試料50μl、発色溶液A 50μl、発色溶液B 50μlをそれぞれ加えて撹拌後、80℃のオーブンにて5分間加熱した。これをマルチプレートリーダー(製品名「MTP−450」、コロナ電気株式会社製)を用い、550nmにて測定した。検量線は、アミノ酸混合標準液AN−II型とB型とを混合した物(40種類のアミノ酸各2nmol含有)を用いて作成した。
【0054】
各試料は、ニンヒドリン反応にて測定した値と水分計にて測定した水分量とを元に、桑葉乾燥重量1g当たりの総アミノ酸量を算出した。測定結果を、図11に示す。総アミノ酸量は、3検体の平均値で示している。図11に示すように、総アミノ酸含有量は、処理PPの方が無処理PPよりも多く、処理PEの方が無処理PEよりも多くなっていることが確認された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロアントシアニジンとトレハロースとを含むことを特徴とする植物の葉用ポリフェノール増加剤。
【請求項2】
プロアントシアニジンとトレハロースとを含むことを特徴とする植物の葉用ポリフェノールおよびアミノ酸増加剤。
【請求項3】
前記プロアントシアニジンと前記トレハロースとが1:15乃至1:60の重量比で含まれていることを特徴とする請求項1記載の植物の葉用ポリフェノール増加剤または請求項2記載の植物の葉用ポリフェノールおよびアミノ酸増加剤。
【請求項4】
請求項1記載の植物の葉用ポリフェノール増加剤または請求項2記載の植物の葉用ポリフェノールおよびアミノ酸増加剤を含んでいることを特徴とする樹脂ペレット。
【請求項5】
請求項1記載の植物の葉用ポリフェノール増加剤または請求項2記載の植物の葉用ポリフェノールおよびアミノ酸増加剤を含んでいることを特徴とする植物の葉保存用シート。
【請求項6】
請求項4記載の樹脂ペレットを150乃至200℃で融解した後、厚さ20乃至50μmのシート状に加工することを特徴とする植物の葉保存用シートの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図11】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−213350(P2012−213350A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80379(P2011−80379)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【特許番号】特許第4997338号(P4997338)
【特許公報発行日】平成24年8月8日(2012.8.8)
【出願人】(595159264)
【Fターム(参考)】