説明

収穫機の引起し装置

【課題】引起し部本体に対して固定した引起しカバーが脱落することの防止を図ることが可能な収穫機の引起し装置を提供する。
【解決手段】引起しカバー30のフック部材32とボルト穴37a及びナット36の距離lを、引起し部本体20のピン状部材28及びボルト29の距離Lよりも短く構成し、引起しカバー30のフック部材32における弾性変形により、フック部材32からボルト穴37a及びナット36までの距離lを伸張した状態で、引起しカバー30を引起し部本体20のピン状部材28及びボルト29に対して固定する。フック部材32の弾性変形の付勢力が、ボルト29とナット36との固定部分に付与され、緩み難くなることで、引起しカバー30が脱落することの防止が図られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばコンバインやバインダ等の収穫機にあって刈取る穀稈を引起す引起し装置に係り、詳しくは引起し爪が装着された巻掛け体が張設された引起しフレームに、引起しカバーが着脱自在に固定される収穫機の引起し装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばコンバインやバインダ等の収穫機にあっては、走行機体の前方に穀稈の刈取りを行う前処理部が配置されており、該前処理部には、刈取る穀稈の引起しを行うための引起し装置が配置されている。特にコンバイン等の大型の収穫機にあっては、該引起し装置が所定間隔で複数配置されている。それら引起し装置の前面には、該引起し装置の機構部(引起し部本体)を覆う引起しカバー(化粧カバー)が配置されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3359786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記引起しカバーは、引起し部本体に対して上方側をフック等により引っ掛け、下方側を例えばノブ付ボルトや異径係合具で固定するものが一般的となっている。しかしながら、走行する土壌の状態や穀稈の衝突などにより生じる振動により、ノブ付ボルトや異径係合具が徐々に回転し、固定が外れてしまい、場合によっては引起しカバーが脱落する虞もあった。
【0005】
そこで本発明は、引起し部本体に対して固定した引起しカバーが脱落することの防止を図ることが可能な収穫機の引起し装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る本発明は(例えば図1乃至図7参照)、複数の引起し爪(25)が装着された巻掛け体(24)が張設される引起し部本体(20)の第1固定部(28)及び第2固定部(29)に、第1係着部(32)及び第2係着部(37a、36)を介して着脱自在に固定される引起しカバー(30)を備えた収穫機(1)の引起し装置(40)において、
前記引起しカバー(30)の第1係着部(32)及び第2係着部(37a、36)の距離(l)と、前記引起し部本体(20)の第1固定部(28)及び第2固定部(29)の距離(L)とが相異するように構成し、
前記引起しカバー(30)における弾性変形により前記第1係着部(32)及び第2係着部(37a,36)の距離を変長した状態で、前記引起しカバー(30)の第1係着部(32)及び第2係着部(37a,36)を前記引起し部本体(20)の第1固定部(28)及び第2固定部(29)に固定した、
ことを特徴とする収穫機の引起し装置(40)にある。
【0007】
請求項2に係る本発明は(例えば図3乃至図7参照)、前記引起し部本体(20)の第1固定部(28)に、前記引起しカバー(30)の第1係着部(32)を、該引起しカバー(30)が伸張する方向に対して引っ掛けるように構成し、
前記引起し部本体(20)の第2固定部をボルト(29)で構成し、
前記引起しカバー(30)の第2係着部をボルト穴(37a)及びナット(36)で構成した、
ことを特徴とする請求項1記載の収穫機の引起し装置(40)にある。
【0008】
請求項3に係る本発明は(例えば図3乃至図7参照)、前記引起しカバー(30)は、前記引起し部本体(20)の前面を覆うプレート部材(31)と、該プレート部材(31)の端部に取付けられるフック部材(32)と、有し、
前記引起しカバー(30)の第1係着部は、前記引起し部本体(20)の第1固定部(28)に引っ掛けられて固定される前記フック部材(32)からなり、
前記フック部材(32)が、弾性変形してなる、
ことを特徴とする請求項1または2記載の収穫機の引起し装置(40)にある。
【0009】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これは、発明の理解を容易にするための便宜的なものであり、特許請求の範囲の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る本発明によると、引起しカバーの第1係着部及び第2係着部の距離と引起し部本体の第1固定部及び第2固定部の距離とが相違するように構成し、引起しカバーにおける弾性変形により第1係着部及び第2係着部の距離が変長した状態で、引起しカバーの第1係着部及び第2係着部を引起し部本体の第1固定部及び第2固定部に固定したので、第1固定部と第1係着部との固定部分や第2固定部と第2係着部との固定部分に、弾性変形による付勢力を付与した状態で引起し部本体に引起しカバーを取付けることができ、振動等によりそれら固定部分が緩むことを防止して、引起し部本体から引起しカバーが脱落することの防止を図ることができる。
【0011】
請求項2に係る本発明によると、引起し部本体の第1固定部に引起しカバーの第1係着部を引っ掛けると共に、引起し部本体の第2固定部をボルトで構成し、引起しカバーの第2係着部をボルト穴及びナットで構成したので、引起し部本体に引起しカバーを取付ける際に、引起しカバーを引っ張りつつ第2固定部と第2係着部との位置合わせを行うことを不要とし、引起しカバーを引っ張りつつボルトをボルト穴に通すだけで足りるため、引起しカバーの取付けを容易にすることができる。
【0012】
請求項3に係る本発明によると、引起しカバーを、引起し部本体の前面を覆うプレート部材と該プレート部材の端部に取付けられるフック部材とで構成し、引起しカバーを引起し部本体に取付ける際に該フック部材が弾性変形するので、特にプレート部材を弾性変形し難い高剛性の部材により構成することができ、穀稈の衝突等に対する引起しカバーの耐久性向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】コンバインを示す側面図である。
【図2】前処理部の引起し装置を示す正面図である。
【図3】引起し装置の分解側面図である。
【図4】引起し装置の分解斜視図である。
【図5】引起し装置の上方部分を拡大して示す分解側面図である。
【図6】引起し装置の下方部分を拡大して示す分解側面図である。
【図7】引起し装置の下方部分を拡大して示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る実施の形態を図1乃至図7に沿って説明する。図1に示すように、コンバイン(収穫機)1は、一対のクローラ走行装置2、2に支持された走行機体3を有し、該走行機体3の左右方向の一側には、穀稈の脱穀を行うための脱穀装置5が支持され、該脱穀装置5には、刈取られた穀稈を該脱穀装置5に沿って搬送するフィードチェーン6が付設されている。
【0015】
上記走行機体3の左右方向の他側には、前部にエンジン室(図示せず)が支持され、その上部に座席シート(図示せず)が配置された運転席7が配置されている。該エンジン室の後方には、上記脱穀装置5で穀稈から脱穀された穀粒が一時的に貯蔵されるグレンタンク9が支持され、該グレンタンク9には、内部に貯留した穀粒を排出するためのオーガ8が付設されている。上記走行機体3の後部には、穀粒が脱穀された排藁を処理する排藁処理装置10が支持されている。
【0016】
上記走行機体3の前部には、穀稈を刈取り上記脱穀装置5へ搬送する前処理部11が昇降自在に支持されている。該前処理部11には、図2に示すように、その先端部に配置され圃場に植えられた穀稈の分草を行う複数のデバイダ12と、該前処理部11に所定の間隔で配置され、それらデバイダ12で分草された穀稈を引起す複数の引起し装置40と、該引起し装置40で引起された穀稈を刈取る刈刃装置15と、該刈刃装置15で刈取られた穀稈を掻き込む掻き込み装置(図示せず)と、該掻き込み装置で掻き込まれた穀稈の穂先位置を調整しつつ搬送する扱深さ搬送装置17(図1参照)と、該扱深さ搬送装置17から上記フィードチェーン6に穀稈を受け渡す受渡し搬送装置16(図1参照)を備えている。
【0017】
図2乃至図4に示すように、上記引起し装置40は、大まかに、引起し装置40の機構部分を構成する引起し部本体20と、該引起し部本体20の前面側を覆う引起しカバー30とを備えて構成されている。引起し部本体20は、引起しフレーム21、クッションガイド27、ピン状部材(第1固定部)28等を備えて構成されており、そのうちの引起しフレーム21は、前処理部11のフレーム(図示せず)に支持されたギヤケース41に対して取付けられていると共に、前後方向に所定の間隔で固定されて一対を成すように構成されている。それら一対の引起しフレーム21の間には、該ギヤケース41に回転自在に支持されると共に該ギヤケース41内の動力伝達係に接続されて駆動される駆動スプロケット22が配置されており、また、該駆動スプロケット22の斜め下方側には、該駆動スプロケット22にテンションを付与するテンションローラ23が配置されている。
【0018】
引起しフレーム21の下端部には、回転自在に支持された従動ローラ26(図3参照)が配置されており、上記駆動スプロケット22及び従動ローラ26には、チェーン24(巻掛け体)(図3参照)が巻掛けられて張設されている。該チェーン24には、所定の間隔で起伏自在に多数のタイン(引起し爪)25が装着されている。そして、引起しフレーム21の上方には、チェーン24の移動経路に沿って上方側に配置され、タイン25に当接して該タイン25が下向きとなる際に起立してしまうことを防止するクッションガイド27が設けられている。
【0019】
該クッションガイド27は、上記ギヤケース41に対して台座42を介して取付けられており、該台座42のさらに上方側には、詳しくは後述する引起しカバー30のフック部材(第1係着部)32を引っ掛けるための上記ピン状部材28が水平方向に掛渡される形で配置されている。また、上記引起しフレーム21の下方側にあって、上記従動ローラ26の中心軸上における前方側には、ボルト(第2固定部)29が該引起しフレーム21の前面より突出するように設けられている。なお、上記ピン状部材28の上端と該ボルト29の中心軸との距離を図3中の「L」で示す。
【0020】
以上のように構成された引起し部本体20は、不図示の伝動系により駆動される駆動スプロケット22によって回転されるチェーン24が、引起し装置40同士の間に形成される移送路にあってタイン25を下方から上方に移動し、不図示のガイド板により起立されたタイン25により穀稈を上方に引起す。タイン25は、不図示のガイド板によって移送路の下方部分だけにおいて起立され、該ガイド板から外れると倒伏して上方に移動される。また、倒伏した状態で移動されたタイン25は、クッションガイド27により起立が防止されつつ該チェーン24と連れ回って下方側に移動され、再び下方側から移送路に戻った際に、図示を省略したガイド板に案内されて起立されるように構成されている。
【0021】
一方、図2乃至図4に示すように、引起しカバー30は、大まかに、上記引起し部本体20の前面側の略々全体を覆うプレート部材31と、そのプレート部材31の上方端部に溶接等により固着されたフック部材32と、ボルト34によりプレート部材31に固着されたサイド板33とを備えて構成されている。これらプレート部材31、フック部材32、サイド板33は、金属製からなるが、樹脂材料等で構成しても構わない。
【0022】
上記サイド板33は、該引起しカバー30が引起し部本体20に固定・取付けされた際に、移送路と反対側の側面を覆うように構成されていると共に、特に2つの引起し装置40が隣り合う部分にあって(図2参照)、隣り合うサイド板33同士が貼り合わされる形で支え合うように構成されている。これにより、それら引起し装置40の支持強度を増強するように構成されている。
【0023】
上記フック部材32は、上記ピン状部材28に引っ掛けるための溝部32aが形成されていると共に、上下方向の力に対して弾性変形し得るように構成されている。該フック部材32の溝部32aの底部の深さは、図5に示すように、後述のボルト穴(第2係着部)37aとボルト29との中心軸を位置合わせした状態で、ピン状部材28の上端よりも長さd(数ミリ程度)だけ浅く形成されている。従って、図3に示すように、引起しカバー30におけるフック部材32の溝部32aの底部と後述するボルト穴37aの中心軸との距離は「l」であり、該距離lは、上述したピン状部材28の上端とボルト29の中心軸との距離Lよりも長さdだけ短く構成されていることになる。
【0024】
上記プレート部材31の下端部分には、図4及び図6に示すように、ナット(第2係着部)36を収納するナット収納穴35が形成されている。即ち、プレート部材31の背面側にはプレート37が溶接等により固着されており、該プレート37には、上記ボルト29を貫通して受け入れるボルト穴37aが形成されている。また、プレート部材31の前面側には、ナット36よりも大径な貫通孔35aが形成されており、つまりナット36を収納する空間としてナット収納穴35が形成されていることになる。
【0025】
以上のように構成された引起しカバー30を引起し部本体20に対して取付ける際は、まず、フック部材32の溝部32aをピン状部材28に上方側から引っ掛ける。その状態で、引起しカバー30を下方側に引っ張り、フック部材32を弾性変形させて該引起しカバー30を伸張させつつ、ボルト穴37aをボルト29に引っ掛けて、該ボルト29をボルト穴37aに貫通させる。そして、図7に示すように、ボルト29にナット36を螺合することで、引起しカバー30を引起し部本体20に対して固定する。なお、ナット36を外すことで、引起し部本体20から引起しカバー30を取外し、引起し部本体20のメンテナンスを行うことができるように構成されており、つまり引起し部本体20に対して引起しカバー30は着脱自在に固定される。
【0026】
このように引起しカバー30をフック部材32の弾性変形により伸張(変長)させつつボルト29とナット36とを締結することで、これらボルト29とナット36との間に弾性変形の付勢力(テンション)が付与されており、ナット36が緩み難くなるので、走行振動や穀稈の衝突などにより引起し装置40に振動や衝撃が加わったとしても、引起しカバー30が引起し部本体20から脱落することの防止を図ることができる。
【0027】
また、ナット36は、図7に示すように、ナット収納穴35内に完全に収納されており、言い換えると、ナット36が引起しカバー30の前面に突出していないので、穀稈がナット36に衝突することを防止することができ、より一層、ナット36の脱落を防いで、つまり、引起しカバー30が引起し部本体20から脱落することの防止を図ることができる。
【0028】
さらに、例えばボルトを引起しカバー30の前面側から通して引起し部本体20に取付けようとすると、引起しカバー30を下方に引っ張ってテンションが生じている状態でボルト穴の位置合わせが必要となってしまうが、本実施の形態のように、ボルト29が引起し部本体20から突出して配置されていることで、引起しカバー30を下方に引っ張りつつボルト穴37aをボルト29に引っ掛けて通すだけで位置合わせができるので、引起しカバー30の取付けを容易にすることができる。
【0029】
そして、引起しカバー30を、引起し部本体20の前面を覆うプレート部材31と該プレート部材31の端部に取付けられるフック部材32とで構成し、引起しカバー30を引起し部本体20に取付ける際に該フック部材32が弾性変形する構成であるので、特にプレート部材31を例えば金属製等の弾性変形し難い高剛性の部材により構成することができ、穀稈の衝突等に対する引起しカバーの耐久性向上も図ることができる。
【0030】
なお、以上説明した本実施の形態においては、引起しカバー30の上方においてフック部材32をピン状部材28に引っ掛ける構成のものを説明したが、上方側もボルトとナットとの螺合により固定するようにしてもよく、これらに限らず、引起し部本体20に対する引起しカバー30の固定手法において、上方側の固定手法と下方側の固定手法は、上方側の固定部分と下方側の固定部分との距離として引起しカバー30と引起し部本体20との距離が相異し、該引起しカバー30が弾性変形するものであれば、どのようなものであってもよい。
【0031】
また、本実施の形態では、フック部材32が弾性変形するものを説明したが、勿論、プレート部材31が弾性変形するものであってもよく、これらに限らず、引起しカバー30の何れかの部位が弾性変形するものであれば、どのようなものであってもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 収穫機(コンバイン)
20 引起し部本体
24 巻掛け体(チェーン)
25 引起し爪(タイン)
28 第1固定部(ピン状部材)
29 第2固定部、ボルト
30 引起しカバー
31 プレート部材
32 第1係着部、フック部材
36 第2係着部、ナット
37a 第2係着部、ボルト穴
40 引起し装置
l 距離
L 距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の引起し爪が装着された巻掛け体が張設される引起し部本体の第1固定部及び第2固定部に、第1係着部及び第2係着部を介して着脱自在に固定される引起しカバーを備えた収穫機の引起し装置において、
前記引起しカバーの第1係着部及び第2係着部の距離と、前記引起し部本体の第1固定部及び第2固定部の距離とが相異するように構成し、
前記引起しカバーにおける弾性変形により前記第1係着部及び第2係着部の距離を変長した状態で、前記引起しカバーの第1係着部及び第2係着部を前記引起し部本体の第1固定部及び第2固定部に固定した、
ことを特徴とする収穫機の引起し装置。
【請求項2】
前記引起し部本体の第1固定部に、前記引起しカバーの第1係着部を、該引起しカバーが伸張する方向に対して引っ掛けるように構成し、
前記引起し部本体の第2固定部をボルトで構成し、
前記引起しカバーの第2係着部をボルト穴及びナットで構成した、
ことを特徴とする請求項1記載の収穫機の引起し装置。
【請求項3】
前記引起しカバーは、前記引起し部本体の前面を覆うプレート部材と、該プレート部材の端部に取付けられるフック部材と、有し、
前記引起しカバーの第1係着部は、前記引起し部本体の第1固定部に引っ掛けられて固定される前記フック部材からなり、
前記フック部材が、弾性変形してなる、
ことを特徴とする請求項1または2記載の収穫機の引起し装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−10636(P2011−10636A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160051(P2009−160051)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】