説明

収縮低減剤の配合量の決定方法

【課題】コンクリートの施工者が、無配合を含めて3つ以上の異なる配合量の収縮低減剤を用いて作製されたコンクリートの各々について、乾燥収縮ひずみを測定しなくても、目標とする乾燥収縮ひずみに応じた収縮低減剤の適正な配合量を、高い信頼性を確保しつつ簡易に定めることのできる方法を提供する。
【解決手段】目標とする乾燥収縮ひずみを得るための収縮低減剤の適正な配合量は、下記の式(1)を用いて定められる。


(式中、ε2は、収縮低減剤を含むコンクリートの乾燥収縮ひずみの目標値を表し、ε1は、収縮低減剤を含まない基準コンクリートの乾燥収縮ひずみの実測値を表し、SRAは、収縮低減剤を含むコンクリートの単位体積中の収縮低減剤の配合量を表し、c及びdは、各々、コンクリートの材料組成及び乾燥期間に応じて定まる定数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、収縮低減剤を用いてコンクリートの乾燥収縮ひずみを低減させる場合における収縮低減剤の適正な配合量の決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、コンクリートの材料として、収縮低減剤、膨張材等の、収縮ひび割れを抑制するための材料を用いることによって、コンクリートの収縮ひび割れの発生を抑制することが行われている。
この際、構築されるコンクリートに要求されるひび割れ抑制性能を満たすとともに、収縮低減剤等の配合量が過度に大きいことによるコストの増大等を避けるべく、収縮ひび割れを抑制するための材料の配合量を適正な量に調整することが望まれている。
このように前記配合量を適正な量に調整するための技術として、例えば、施工現場で用いるコンクリートの配合のうち、少なくとも膨張材の配合割合を変えて作製した複数の評価用コンクリートについて、特定の測定を行ない、この測定データに基いて、膨張材の配合割合を決定する方法が、提案されている(特許文献1)。なお、この文献中の実施例では、評価用コンクリートとして、膨張材の配合割合が0kg/m3、10kg/m3、20kg/m3、の計3種のコンクリートを作製している。
【0003】
また、従来、収縮低減剤の配合量を適正な量に調整するために、予め、無配合を含めて3つ以上の異なる配合量の各場合について、コンクリートの乾燥収縮ひずみを測定し、得られた測定データに基いて、目標とする乾燥収縮ひずみを得るための収縮低減剤の配合量を定める方法が知られている。なお、3つ以上の異なる配合量の各場合について測定する理由は、収縮低減剤の配合量と、収縮低減剤の配合による乾燥収縮ひずみの低減量とが、正比例の関係になるとは限らないからである。
なお、乾燥収縮ひずみは、セメントの種類等による影響に比べて、粗骨材の種類による影響が大きいことが知られている。そのため、特定の種類の粗骨材を含むコンクリートについて、収縮低減剤の適正な配合量を定めた場合であっても、粗骨材の種類を変えた場合には、新たに、収縮低減剤の適正な配合量を定め直すことが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−290902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の収縮低減剤の配合量を定めるための従来の方法においては、コンクリートの施工者が、使用予定の種類の粗骨材を含むコンクリートを対象にして、無配合を含めて3つ以上の異なる配合量の収縮低減剤を用いてコンクリートを作製した各場合について、乾燥収縮ひずみを測定しなければならない。
本発明は、コンクリートの施工者が、無配合を含めて3つ以上の異なる配合量の収縮低減剤を用いて作製されたコンクリートの各々について、乾燥収縮ひずみを測定しなくても、目標とする乾燥収縮ひずみに応じた収縮低減剤の適正な配合量を、高い信頼性を確保しつつ簡易に定めることのできる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、特定の数式を用いれば、コンクリートの施工者が、使用予定の種類の粗骨材を含みかつ収縮低減剤を含まないコンクリート(基準コンクリート)の乾燥収縮ひずみを測定するだけで、目標とする乾燥収縮ひずみに応じた収縮低減剤の適正な配合量を、高い信頼性を確保しつつ定めることができることを見出し、本発明を完成した。
なお、前記と同様の数式を用いれば、収縮低減剤の配合量に基づいて、乾燥収縮ひずみを予測することもできる。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[5]を提供するものである。
[1] 目標とする乾燥収縮ひずみを得るための収縮低減剤の配合量を、下記の式(1)を用いて定めることを特徴とする収縮低減剤の配合量の決定方法。
【数1】

(式中、ε2は、収縮低減剤を含むコンクリートの乾燥収縮ひずみの目標値を表し、ε1は、収縮低減剤を含まない基準コンクリートの乾燥収縮ひずみの実測値を表し、SRAは、収縮低減剤を含むコンクリートの単位体積中の収縮低減剤の配合量を表し、c及びdは、各々、コンクリートの材料組成及び乾燥期間に応じて定まる定数を表す。)
[2] 下記の工程(a)〜工程(d)からなる方法によって、上記式(1)を定める、上記[1]に記載の収縮低減剤の配合量の決定方法。
工程(a):無配合を含めて3つ以上の異なる配合量で収縮低減剤を配合した複数のコンクリートの各々について、予め定めた乾燥期間の経過時の乾燥収縮ひずみを測定する工程
工程(b):粗骨材の種類を変える以外は工程(a)と同様にして乾燥収縮ひずみを測定する工程であって、工程(a)で用いる粗骨材以外に2種以上の粗骨材の各々の場合について乾燥収縮ひずみを測定する工程
工程(c):工程(a)及び工程(b)の測定結果に基づき、収縮低減剤の配合量と、収縮低減剤を含まない基準コンクリートの乾燥収縮ひずみに対する収縮低減剤を含むコンクリートの乾燥収縮ひずみの収縮比との関係を示すグラフを作成する工程
工程(d):工程(c)で得られた上記グラフに基づく回帰式として、上記式(1)を定める工程
[3] 工程(d)において、上記グラフにおける上記配合量毎の最も大きな収縮比の値のすべてに対して、大きな値となるように、上記式(1)を定める、上記[2]に記載の収縮低減剤の配合量の決定方法。
[4] 乾燥収縮ひずみを、下記の式(1)を用いて定めることを特徴とする乾燥収縮ひずみの予測方法。
【数2】

(式中、ε2は、収縮低減剤を含むコンクリートの乾燥収縮ひずみの予測値を表し、ε1は、収縮低減剤を含まない基準コンクリートの乾燥収縮ひずみの実測値を表し、SRAは、収縮低減剤を含むコンクリートの単位体積中の収縮低減剤の配合量を表し、c及びdは、各々、コンクリートの材料組成及び乾燥期間に応じて定まる定数を表す。)
[5] 下記の工程(a)〜工程(d)からなる方法によって、上記式(1)を定める、上記[4]に記載の乾燥収縮ひずみの予測方法。
工程(a):無配合を含めて3つ以上の異なる配合量で収縮低減剤を配合した複数のコンクリートの各々について、予め定めた乾燥期間の経過時の乾燥収縮ひずみを測定する工程
工程(b):粗骨材の種類を変える以外は工程(a)と同様にして乾燥収縮ひずみを測定する工程であって、工程(a)で用いる粗骨材以外に2種以上の粗骨材の各々の場合について乾燥収縮ひずみを測定する工程
工程(c):工程(a)及び工程(b)の測定結果に基づき、収縮低減剤の配合量と、収縮低減剤を含まない基準コンクリートの乾燥収縮ひずみに対する収縮低減剤を含むコンクリートの乾燥収縮ひずみの収縮比との関係を示すグラフを作成する工程
工程(d):工程(c)で得られた上記グラフに基づく回帰式として、上記式(1)を定める工程
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コンクリートの施工者が、収縮低減剤を含まない基準コンクリートの乾燥収縮ひずみを、特定の乾燥期間(例えば、6か月)の経過時に測定するだけで、目標とする乾燥収縮ひずみに応じた収縮低減剤の適正な配合量を、上記式(1)を用いて、高い信頼性(高い精度)を確保しつつ定めることができる。
なお、上記式(1)中の定数であるc及びdは、例えば、セメント、収縮低減剤等のコンクリート材料の製造会社等が実験によって定めて、コンクリート施工者等の関係業者に広く提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】粗骨材の種類及び収縮低減剤の配合量と、乾燥収縮ひずみの関係を表すグラフである。
【図2】図1中の石灰石及び砂岩Bの各々を用いた場合について、コンクリートの乾燥期間と、乾燥収縮ひずみの関係を表すグラフである。
【図3】図1中の各種粗骨材の各々を用いた場合について、収縮低減剤の添加量と、収縮低減剤を含まない基準コンクリートの乾燥収縮ひずみに対する収縮低減剤を含むコンクリートの乾燥収縮ひずみの収縮比の関係、及び、目標とする乾燥収縮ひずみを得るための収縮低減剤の適正な添加量を示す曲線を表すグラフである。
【図4】図1中の各種粗骨材の各々を用いた場合について、収縮低減剤の添加量と、収縮低減剤を含まない基準コンクリートの乾燥収縮ひずみに対する収縮低減剤を含むコンクリートの乾燥収縮ひずみの収縮比の関係、及び、収縮低減剤の配合量毎にプロットされている複数の点の平均値を通る曲線を表すグラフである。
【図5】乾燥収縮ひずみの予測値と実測値の関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の収縮低減剤の配合量の決定方法は、目標とする乾燥収縮ひずみを得るための収縮低減剤の配合量を、下記の式(1)を用いて定めるものである。
【数3】

(式中、ε2は、収縮低減剤を含むコンクリートの乾燥収縮ひずみの目標値を表し、ε1は、収縮低減剤を含まない基準コンクリートの乾燥収縮ひずみの実測値を表し、SRAは、収縮低減剤を含むコンクリートの単位体積中の収縮低減剤の配合量を表し、c及びdは、各々、コンクリートの材料組成及び乾燥期間に応じて定まる定数を表す。)
【0011】
本明細書中、「乾燥収縮ひずみ」とは、標準養生後に乾燥雰囲気下でコンクリートを保存した場合における、乾燥雰囲気下での保存開始時から所定の期間の経過時までの単位長さLの収縮割合を意味するものであり、下記の式(2)を用いて算出される。
乾燥収縮ひずみ=[(所定の期間の経過時の、単位長さLの変化後の長さ)−(保存開始時の単位長さL)]÷(保存開始時の単位長さL) ・・・(2)
乾燥収縮ひずみは、例えば、日本建築学会の「鉄筋コンクリート造建築物の収縮ひび割れ制御設計・施工指針(案)・同解説[2]」中の「使用するコンクリートの乾燥収縮ひずみ」の定義に従って、測定することができる。この定義は、「100×100×400mmの供試体を用い、材齢7日までの標準養生(20±1℃の水中での養生)の後に基長をとり、その後、温度20±3℃、相対湿度60±5%の室内に保存する条件下で、JIS A 1129の長さ変化試験を行った場合の乾燥期間6か月における測定値に基づいて規定される材料特性値」というものである。
乾燥収縮ひずみは、理論的には、水和に伴って生じる自己収縮と、乾燥に伴って生じる乾燥収縮の和であると考えられる。
本明細書中、「基準コンクリート」とは、収縮低減剤の適正な配合量を定めようとするコンクリートに対して収縮低減剤を含まないこと以外は同様に構成したコンクリートを意味する。
なお、収縮低減剤とは、コンクリートの乾燥による収縮を低減させる作用を有するものをいい、初期材齢に膨張ひずみを導入することによって、乾燥等による収縮を補償するものである膨張材とは区別される。
【0012】
本発明において、上記式(1)は、(a)乾燥収縮ひずみの目標値を定めた後に、この目標値を式(1)に代入し、収縮低減剤の適正な配合量を求める方法、(b)式(1)に、収縮低減剤の適宜に定めた配合量(例えば、典型的な配合量として知られている値)を代入して、乾燥収縮ひずみを求め、得られた乾燥収縮ひずみの値を考慮して、収縮低減剤の適正な配合量を定める方法、等の方法で用いることができる。なお、上記(b)の方法においては、必要に応じて、式(1)に代入する収縮低減剤の配合量を変えて、乾燥収縮ひずみを計算し、得られた2つ以上の乾燥収縮ひずみの値を考慮して、収縮低減剤の適正な配合量を定めることもできる。
また、上記式(1)を変形して、左辺を「ε2×100/ε1」(本明細書において、「収縮比」という。)とした場合、右辺は、「100−SRA/(c+d・SRA)」で表される。後述の収縮比を縦軸とするグラフ(図3)においては、回帰式を「100−SRA/(c+d・SRA)」で示している。
【0013】
上記式(1)中の定数c及びdは、例えば、セメント製造会社が、上記式(1)を定めるための後述の実験を行なうことによって、定めることができる。この場合、実験を行なうセメント製造会社等が、定数c及びdをコンクリート施工者等の関係業者に広く公表することによって、コンクリート施工者等は、収縮低減剤を含まない基準コンクリートの乾燥収縮ひずみを測定するだけで、上記式(1)を用いて、所望の乾燥収縮ひずみ(例えば、−800×10-6よりも小さなひずみ)を得るための収縮低減剤の適正な配合量を定めることができる。
【0014】
本発明で収縮低減剤の適正な配合量を定める対象となるコンクリートとしては、特に限定されず、任意の材料組成を有するコンクリートを用いることができる。
コンクリート中の粗骨材も、特に限定されず、砕石(例えば、石灰石や硬質砂岩等の砕石)、川砂利、山砂利、再生骨材、軽量骨材等が挙げられる。
本発明で用いられる収縮低減剤としては、特に限定されず、任意の収縮低減剤を用いることができる。
収縮低減剤の市販品名としては、「太平洋テトラガードAS20」、「太平洋テトラガードAS21」(以上、太平洋マテリアル社製)、「ヒビガード」(フローリック社製)等が挙げられる。
【0015】
次に、上記式(1)を定めるための方法について説明する。
式(1)を定めるための方法は、下記の工程(a)〜工程(d)からなるものである。
工程(a):無配合を含めて3つ以上の異なる配合量で収縮低減剤を配合した複数のコンクリートの各々について、予め定めた乾燥期間の経過時の乾燥収縮ひずみを測定する工程
工程(b):粗骨材の種類を変える以外は工程(a)と同様にして乾燥収縮ひずみを測定する工程であって、工程(a)で用いる粗骨材以外に2種以上の粗骨材の各々の場合について乾燥収縮ひずみを測定する工程
工程(c):工程(a)及び工程(b)の測定結果に基づき、収縮低減剤の配合量と、収縮低減剤を含まない基準コンクリートの乾燥収縮ひずみ(ε1)に対する収縮低減剤を含むコンクリートの乾燥収縮ひずみ(ε3)の収縮比(ε3/ε1)との関係を示すグラフを作成する工程
工程(d):工程(c)で得られた上記グラフに基づく回帰式として、上記式(1)を定める工程
【0016】
工程(a)において、収縮低減剤の配合量の異なる数は、上記式(1)の作成の精度を向上させる観点から、無配合を含めて3以上であり、好ましくは、無配合を含めて4以上である。該数の上限値は、特に限定されないが、作業の負担の軽減の観点から、好ましくは、無配合を含めて8であり、より好ましくは、無配合を含めて7である。
工程(a)における「予め定めた乾燥期間」とは、特に限定されないが、乾燥収縮ひずみの増大が頭打ちとなる傾向が見られる期間であれば、乾燥収縮ひずみの低減の効果をより正確に確認することができるという観点から、好ましくは8週(56日)以上、より好ましくは13週以上、さらに好ましくは18週以上、特に好ましくは23週以上である。該期間の上限は、特に限定されないが、上記式(1)を得るまでの期間の過度の長期化を避ける観点から、好ましくは40週である。
【0017】
工程(b)で用いる粗骨材の種類の数は、上記式(1)の作成の精度を向上させる観点から、好ましくは3以上、より好ましくは4以上、特に好ましくは5以上である。該数の上限値は、特に限定されないが、作業の負担の軽減の観点から、好ましくは15、より好ましくは12、特に好ましくは9である。
工程(a)及び工程(b)の好ましい実施形態としては、例えば、収縮低減剤の配合量の異なる数が、無配合を含めて3〜8であり、乾燥期間が13〜40週であり、工程(a)及び工程(b)を合わせた粗骨材の種類の数が、4〜10であるものが挙げられる。
なお、工程(a)と工程(b)は、時期をずらして行なってもよいが、通常、同時に行なわれる。
【0018】
工程(c)においては、通常、収縮低減剤の配合量を横軸とし、収縮低減剤を含まない基準コンクリートの乾燥収縮ひずみに対する収縮低減剤を含むコンクリートの乾燥収縮ひずみの収縮比を縦軸として、グラフを作成する。ただし、収縮比を横軸とし、収縮低減剤の配合量を縦軸として、グラフを作成してもよい。
工程(d)においては、工程(c)で得られたグラフに基づく回帰式として、上記式(1)を定める。この場合、上記式(1)を用いて収縮低減剤の適正な配合量を定めようとするコンクリート施工者等が、粗骨材として如何なる種類のものを使用しても、目的とする乾燥収縮ひずみを確実に得ることができるように、収縮低減剤の配合量毎の最も大きな収縮比の値のすべてに対して、大きな値となるように、上記式(1)を定めることが望ましい。例えば、前述のように、収縮低減剤の配合量を横軸とし、収縮比を縦軸として、グラフを作成する場合には、プロットされた点のすべてに対して、上方に位置する曲線として表されるように、上記式(1)を定めることが望ましい。
【0019】
本発明においては、上記式(1)を用いて、乾燥収縮ひずみを予測することもできる。
この場合、収縮ひび割れの発生の確実な防止等を目的として、乾燥収縮ひずみの過小な推測を避けるために、上記工程(d)における回帰式の作成に際し、前述の収縮低減剤の配合量の決定方法と同様に、グラフ中の収縮低減剤の配合量毎の最も大きな収縮比の値のすべてに対して、大きな値となるように、上記式(1)を定めることもできるが、乾燥収縮ひずみを高精度で予測することを目的とする場合には、例えば、図4中の曲線で示されるように、グラフ中の収縮低減剤の配合量毎にプロットされている複数の点の平均値を通る曲線として、回帰式を作成することが望ましい。この場合、上記式(1)中のc及びdは、この曲線に固有のものとして定め直す必要がある。
【実施例】
【0020】
以下、実施例に基いて本発明を説明する。
[1.材料]
(1)セメント:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
(2)粗骨材:石灰石砕石(以下、石灰石と略す。)及び硬質砂岩砕石A〜E(以下、砂岩A〜Eと略す。)の計6種の粗骨材
(3)細骨材:硬質砂岩砕砂と山砂を容積比6:4で混合してなる細骨材
(4)収縮低減剤:テトラガードAS21(商品名;太平洋マテリアル社製)
(5)水:水道水
【0021】
[2.コンクリートの調製]
(a)石灰石を含むコンクリートの調製
セメント100質量部と、石灰石290質量部と、細骨材239質量部を、強制パン形ミキサ(容量:55リットル)を用いて20秒間練り混ぜた後、水セメント比が50質量%となる量の水と、所定の量(無添加、3kg/m3、6kg/m3、または9kg/m3)の収縮低減剤を加えて、更に60秒間練り混ぜ、次いで、掻落しを行い、その後、60秒間練り混ぜることによって、収縮低減剤の添加量の異なる4種類のコンクリートを調製した。
(b)砂岩Aを含むコンクリートの調製
石灰石290質量部、細骨材239質量部に代えて、砂岩Aを271質量部、細骨材254質量部を用いた以外は、前記(a)の「石灰石を含むコンクリートの調製」と同様にして、収縮低減剤の添加量の異なる4種類のコンクリートを調製した。
(c)砂岩Bを含むコンクリートの調製
石灰石290質量部、細骨材239質量部に代えて、砂岩Bを267質量部、細骨材252質量部を用いた以外は、前記(a)の「石灰石を含むコンクリートの調製」と同様にして、収縮低減剤の添加量の異なる4種類のコンクリートを調製した。
(d)砂岩Cを含むコンクリートの調製
石灰石290質量部、細骨材239質量部に代えて、砂岩Cを282質量部、細骨材243質量部を用い、かつ、収縮低減剤の添加量を無添加または6kg/m3に定めた以外は、前記(a)の「石灰石を含むコンクリートの調製」と同様にして、収縮低減剤の配合量の異なる2種類のコンクリートを調製した。
(e)砂岩Dを含むコンクリートの調製
石灰石290質量部、細骨材239質量部に代えて、砂岩Dを275質量部、細骨材256質量部を用い、かつ、収縮低減剤の添加量を無添加または6kg/m3に定めた以外は、前記(a)の「石灰石を含むコンクリートの調製」と同様にして、収縮低減剤の配合量の異なる2種類のコンクリートを調製した。
(f)砂岩Eを含むコンクリートの調製
石灰石290質量部、細骨材239質量部に代えて、砂岩Eを268質量部、細骨材263質量部を用い、かつ、収縮低減剤の添加量を無添加または6kg/m3に定めた以外は、前記(a)の「石灰石を含むコンクリートの調製」と同様にして、収縮低減剤の配合量の異なる2種類のコンクリートを調製した。
【0022】
[3.乾燥収縮ひずみの測定]
調製されたコンクリートの各々について、型枠を用いて、100×100×400mmの供試体を作製した。この供試体を用い、材齢7日まで20±1℃の水中で養生した後に基長をとり、その後、温度20±3℃、相対湿度60±5%の気中雰囲気下(乾燥雰囲気下)で6か月保存した。石灰石及び砂岩Bについては、乾燥期間が28日(4週)、56日(8週)、91日(13週)、182日(26週;本明細書中、6か月ともいう。)の各時点において、また、砂岩A、C〜Eについては、乾燥期間が182日(26週;6か月)の時点において、JIS A 1129に規定する長さ変化試験を行ない、前記の各時点における乾燥収縮ひずみを得た。
図1に、乾燥期間が182日(26週;6か月)である場合の粗骨材毎の乾燥収縮ひずみを示す。図1から、粗骨材の種類によって、乾燥収縮ひずみの値が大きく異なることがわかる。なお、図1中、粗骨材の各種類について、左から右に向かって、収縮低減剤の量として、「無添加」、「3kg/m3」、「6kg/m3」、「9kg/m3」を表す。
また、図2に、石灰石及び砂岩Bを用いた各場合における、乾燥期間と乾燥収縮ひずみの関係を示す。図2から、粗骨材の種類によって異なるものの、概ね、乾燥期間が13〜26週程度であれば、乾燥収縮ひずみの増大が頭打ちになることがわかる。
【0023】
[4.回帰式の作成1]
図1に基いて、粗骨材の種類毎に、収縮低減剤の各添加量における、収縮低減剤を含まない基準コンクリートの乾燥収縮ひずみに対する収縮低減剤を含むコンクリートの乾燥収縮ひずみの収縮比(%)を算出した。そして、収縮低減剤の添加量(kg/m)を横軸にし、得られた収縮比(%)を縦軸にして、図3に示すグラフを作成した。その後、グラフ上にプロットされた各点のすべてに対して、大きな収縮比(%)(グラフの中では上方)になるとともに、乖離の程度がなるべく小さくなるように、回帰式を定めた。
【0024】
その結果、回帰式として、下記の式(3)が得られた。
収縮比(%)=100−SRA/(0.34+0.02・SRA)(式中、SRAは、収縮低減剤の添加量(kg/m3)を表す。) ・・・(3)
式(3)中の「収縮比(%)」は、前述のとおり、「ε2×100/ε1」(ただし、ε2は、収縮低減剤を含むコンクリートの乾燥収縮ひずみの目標値を表し、ε1は、収縮低減剤を含まない基準コンクリートの乾燥収縮ひずみの実測値を表す。)を表す。
コンクリート施工者等は、収縮低減剤を含まない基準コンクリートの乾燥収縮ひずみを、6か月の乾燥期間の経過時に測定して、上記のε1を定めるだけで、上記式(3)によって、目標とする乾燥収縮ひずみ(ε2)を得るための収縮低減剤の適正な配合量(SRA)を算出することができる。
【0025】
[5.回帰式の作成2]
図1に基いて、粗骨材の種類毎に、収縮低減剤の各添加量における、収縮低減剤を含まない基準コンクリートの乾燥収縮ひずみに対する収縮低減剤を含むコンクリートの乾燥収縮ひずみの収縮比(%)を算出した。そして、収縮低減剤の添加量(kg/m)を横軸にし、得られた収縮比(%)を縦軸にして、図4に示すグラフを作成した。その後、グラフ中の収縮低減剤の配合量毎にプロットされている複数の点の平均値を通る曲線として、回帰式を定めた。
【0026】
その結果、回帰式として、下記の式(4)が得られた。
収縮比(%)=100−SRA/(0.25+0.02・SRA)(式中、SRAは、収縮低減剤の添加量(kg/m3)を表す。) ・・・(4)
式(4)中の「収縮比(%)」は、前述のとおり、「ε2×100/ε1」(ただし、ε2は、収縮低減剤を含むコンクリートの乾燥収縮ひずみの予測値を表し、ε1は、収縮低減剤を含まない基準コンクリートの乾燥収縮ひずみの実測値を表す。)を表す。
コンクリート施工者等は、収縮低減剤を含まない基準コンクリートの乾燥収縮ひずみを、6か月の乾燥期間の経過時に測定して、上記のε1を定めるだけで、上記式(4)によって、収縮低減剤の配合量(SRA)に応じた乾燥収縮ひずみ(ε2)の予測値を算出することができる。
【0027】
[6.乾燥収縮ひずみの予測]
上記式(4)を用いて、以下の2種類のコンクリートの乾燥収縮ひずみを予測した。
(a)セメント100質量部、水50質量部、砕石(斑レイ岩)320質量部、細骨材239質量部、収縮低減剤4kg/m3を含むコンクリート
なお、収縮低減剤を含まない以外は該コンクリートと同様の材料組成を有する基準コンクリートの乾燥収縮ひずみは、−517×10−6であった。
(b)セメント100質量部、水50質量部、川砂利277質量部、細骨材231質量部、収縮低減剤8kg/m3を含むコンクリート
なお、収縮低減剤を含まない以外は該コンクリートと同様の材料組成を有する基準コンクリートの乾燥収縮ひずみは、−837×10−6であった。
上記式(4)を用いて算出した乾燥収縮ひずみの予測値と実測値の関係を図5に示す。
図5に示すように、本発明の方法では、収縮低減剤を含むコンクリートの乾燥収縮ひずみを精度良く予測できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標とする乾燥収縮ひずみを得るための収縮低減剤の配合量を、下記の式(1)を用いて定めることを特徴とする収縮低減剤の配合量の決定方法。
【数1】

(式中、ε2は、収縮低減剤を含むコンクリートの乾燥収縮ひずみの目標値を表し、ε1は、収縮低減剤を含まない基準コンクリートの乾燥収縮ひずみの実測値を表し、SRAは、収縮低減剤を含むコンクリートの単位体積中の収縮低減剤の配合量を表し、c及びdは、各々、コンクリートの材料組成及び乾燥期間に応じて定まる定数を表す。)
【請求項2】
下記の工程(a)〜工程(d)からなる方法によって、上記式(1)を定める、請求項1に記載の収縮低減剤の配合量の決定方法。
工程(a):無配合を含めて3つ以上の異なる配合量で収縮低減剤を配合した複数のコンクリートの各々について、予め定めた乾燥期間の経過時の乾燥収縮ひずみを測定する工程
工程(b):粗骨材の種類を変える以外は工程(a)と同様にして乾燥収縮ひずみを測定する工程であって、工程(a)で用いる粗骨材以外に2種以上の粗骨材の各々の場合について乾燥収縮ひずみを測定する工程
工程(c):工程(a)及び工程(b)の測定結果に基づき、収縮低減剤の配合量と、収縮低減剤を含まない基準コンクリートの乾燥収縮ひずみに対する収縮低減剤を含むコンクリートの乾燥収縮ひずみの収縮比との関係を示すグラフを作成する工程
工程(d):工程(c)で得られた上記グラフに基づく回帰式として、上記式(1)を定める工程
【請求項3】
工程(d)において、上記グラフにおける上記配合量毎の最も大きな収縮比の値のすべてに対して、大きな値となるように、上記式(1)を定める、請求項2に記載の収縮低減剤の配合量の決定方法。
【請求項4】
乾燥収縮ひずみを、下記の式(1)を用いて定めることを特徴とする乾燥収縮ひずみの予測方法。
【数2】

(式中、ε2は、収縮低減剤を含むコンクリートの乾燥収縮ひずみの予測値を表し、ε1は、収縮低減剤を含まない基準コンクリートの乾燥収縮ひずみの実測値を表し、SRAは、収縮低減剤を含むコンクリートの単位体積中の収縮低減剤の配合量を表し、c及びdは、各々、コンクリートの材料組成及び乾燥期間に応じて定まる定数を表す。)
【請求項5】
下記の工程(a)〜工程(d)からなる方法によって、上記式(1)を定める、請求項4に記載の乾燥収縮ひずみの予測方法。
工程(a):無配合を含めて3つ以上の異なる配合量で収縮低減剤を配合した複数のコンクリートの各々について、予め定めた乾燥期間の経過時の乾燥収縮ひずみを測定する工程
工程(b):粗骨材の種類を変える以外は工程(a)と同様にして乾燥収縮ひずみを測定する工程であって、工程(a)で用いる粗骨材以外に2種以上の粗骨材の各々の場合について乾燥収縮ひずみを測定する工程
工程(c):工程(a)及び工程(b)の測定結果に基づき、収縮低減剤の配合量と、収縮低減剤を含まない基準コンクリートの乾燥収縮ひずみに対する収縮低減剤を含むコンクリートの乾燥収縮ひずみの収縮比との関係を示すグラフを作成する工程
工程(d):工程(c)で得られた上記グラフに基づく回帰式として、上記式(1)を定める工程

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−107941(P2012−107941A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256069(P2010−256069)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)