説明

受信機及び受信方法

【課題】STBC方式又はDSTBC方式を用いた通信システムにおいて、受信機による周波数偏差の検出を効果的に行えるようにする。
【解決手段】 STBC方式又はDSTBC方式により符号化された信号を受信する受信機において、参照信号メモリ152が、STBC方式又はDSTBC方式により符号化された所定の同期信号を表すデータを記憶し、チャネル応答算出器152が、前記受信した信号における前記同期信号に対応するデータと参照信号メモリ152に記憶されたデータとを比較して伝搬路応答を推定し、周波数偏差算出器153−1,153−2が、それぞれ、一連の伝搬路応答の算出値から周波数偏差を検出し、選択器154が、2つの周波数検出値から一つを選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時空間ブロック符号化(STBC:Space−Time Block Coding)方式又は差動時空間ブロック符号化(DSTBC:Differential Space−Time Block Coding)方式により通信を行う受信機や受信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
移動通信システムにおいて、フェージングへの耐性を高めて通信品質を向上させる手段として、MIMO(Multi Input Multi Output)技術の一つであるSTBCを用いた送信ダイバーシチ方式がある。
例えば、複数の送信アンテナを用いてダイバーシチ効果を得るために送信機側において伝搬路応答(チャネル応答)に応じた信号の重み付けを行う通信システムでは、送信機側が事前に伝送路状態情報(CSI:Channel State Information)を知る必要がある。ここで、CSIとは、具体的には、送信アンテナと受信アンテナとの間の応答特性を意味する。
【0003】
これに対し、STBC方式の場合は送信機側でCSIを知る必要が無く、容易に送信ダイバーシチ効果を得ることが可能であるという利点がある。しかしながら、受信機側においては、他のMIMO方式と同様にSTBCの復号を行う際にCSIが必要であり、この目的のために、予めパターンを定めたパイロットと呼ばれる既知信号を周期的に配置する方法が一般的にとられている。パイロットの適切な配置周期は、対応すべき伝搬路の時間変動の速さ、つまりフェージング周波数によって定められ、フェージング周波数が高くなるほど配置周期を短くする必要がある。すなわち、高速フェージングの場合は情報の伝送効率が著しく損なわれる場合がある。
そこで、受信機側でもCSIが不要な方式として、DSTBCを用いた送信ダイバーシチ方式が提案されている。DSTBC方式は、受信機側における差動変換のために対雑音特性を犠牲にするという欠点があるものの、パイロット等が不要であり、高速フェージングへの対応が容易であるという利点がある。
【0004】
ところで、移動通信システムで使用される受信機に備えるべき基本的機能として自動周波数制御(AFC:Automatic Frequency Control)がある。これは、送信周波数と受信周波数の偏差(誤差)を検出し、受信周波数を送信周波数に一致するように制御するものである。このAFCの精度は周波数偏差の検出精度に強く依存する。
周波数偏差検出方法としては、或る時間間隔を置いてCSIを複数回に亘り観測し、フェージングに伴うCSIの変動が十分に緩やかであるという仮定の下、CSIの位相変化から周波数偏差を求めることが一般的に行われている。特にOFDM(Orthogonal Frequency Domain Multiplex)伝送では、挿入されるガードインターバルを利用してOFDMシンボル内での位相変化から周波数偏差を求める方法なども用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−303086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のように、周波数偏差を検出するには或る時間間隔を置いてCSIを観測することが有効である。現在STBC方式が適用されるシステムはOFDM伝送に基づくものが多く、他のMIMO方式と同様に、個々の送信アンテナからのCSIを観測するためにパイロットを伝送する際には、他の送信アンテナからのパイロットと干渉しないように、周波数軸上或いは時間軸上で分離して送信している。シングルキャリア伝送の場合は周波数軸上の分離は不可能であり、また時間軸で分離するためには、一つのパイロットを送信するために2つのシンボル時間を要することになり、伝送効率が低下する。すなわち、シングルキャリア伝送において、STBC方式又はDSTBC方式に適した周波数偏差検出方式は乏しいのが現状である。
【0007】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて為されたものであり、STBC方式又はDSTBC方式を用いた通信システムにおいて、受信機による周波数偏差の検出を効果的に行えるようにする技術を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、STBC方式又はDSTBC方式により所定の同期信号を含む信号を符号化して受信機により受信させるにあたり、前記受信機が、前記受信した信号における前記同期信号に対応するデータと予め記憶している符号化された前記同期信号を表すデータとを比較して伝搬路応答を推定するように構成した。
すなわち、STBC方式又はDSTBC方式により符号化された信号を受信する受信機に、STBC方式又はDSTBC方式により符号化された所定の同期信号を表すデータを記憶する記憶手段と、前記受信した信号における前記同期信号に対応するデータが入力され、当該入力されたデータと前記記憶手段に記憶されたデータとを比較して伝搬路応答を推定する推定手段と、を備えた。
【0009】
このように、本発明では、STBC方式又はDSTBC方式により通常は符号化されない同期信号を符号化して送信させる構成において、受信信号における同期信号に対応するデータ部分と参照信号(記憶手段に記憶されたデータ)とが一定の関係を持つことに着目し、これを利用して伝搬路応答を推定できるようにしている。
これにより、伝搬路応答の推定値から送信周波数と受信周波数の偏差(誤差)を求めることが可能になり、例えば、シングルキャリア伝送においても周波数偏差の検出を効果的に行えるようになる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、STBC方式又はDSTBC方式を用いた通信システムにおいて、受信機による周波数偏差の検出を効果的に行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施例に係るSTBC伝送システムの構成例を示す図である。
【図2】周波数偏差検出器の構成例を示す図である。
【図3】周波数偏差算出器の構成例を示す図である。
【図4】フレーム構成の一例を示す図である。
【図5】本発明の一実施例に係るDSTBC伝送システムの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施例について図面を参照して説明する。
図1には、STBC方式を用いた通信システムであるSTBC伝送システムの構成例を示してある。本例では、変調方式としてQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)を用いる場合を仮定するが、他の変調方式を用いてもよい。
STBC方式は、送信したい時系列データに対して、2シンボルを1つの処理単位として演算し、2本のアンテナから時間領域と空間領域で信号を組み換えて伝送する方式であり、2本のアンテナからそれぞれ直交する2種の系列を出力する。
本例のSTBC伝送システムは、伝送対象の時系列データをSTBC方式により符号化して送信する送信機、及び、STBC方式により符号化された信号を受信して復号し、伝送対象の時系列データを得る受信機を有する。
【0013】
本例の送信機は、入力部101、シリアル−パラレル変換器102、シンボルマッパ103、STBC符号器104、送信ベースバンド部105−1,105−2、送信RF部106−1,106−2、周波数発振器107、送信アンテナ108−1,108−2を備える。
本例の受信機は、受信アンテナ121、受信RF部122、周波数発振器123、受信ベースバンド部124、シリアル−パラレル変換器125、STBC復号器126、シンボルデマッパ127、パラレル−シリアル変換器128、出力部129を備え、更に、周波数偏差検出器130、周波数制御部131を備える。
【0014】
本例の送信機では、概略的に、以下のような処理を行う。
すなわち、伝送対象となる時系列データのビット列(伝送ビット列)が入力部101に与えられると、シリアル−パラレル変換器102は、入力部101から入力される伝送ビット列を4ビット毎に束ねてシンボルマッパ103に出力する。シンボルマッパ103は、シリアル−パラレル変換器102から入力される4ビットの伝送ビット列に対して、2ビット毎にQPSK変調によるシンボルマッピングを行い、2シンボル(1シンボル:2ビット)ずつをまとめたシンボルセットにしてSTBC符号器104に出力する。STBC符号器104は、入力されるシンボルセットに対してSTBC符号化を行い、その結果を送信ベースバンド部105−1,105−2に出力する。
STBC符号器104では、具体的には、入力されるシンボルセットをs,sとした場合に、送信ベースバンド部105−1に対してs,−sの順序のシンボル系列を出力し、送信ベースバンド部105−2に対してs,sの順序のシンボル系列を出力する。ここで、xはxの共役複素である。
【0015】
送信ベースバンド部105−1は、STBC符号器104から入力されるシンボル系列に対して、波形整形等の処理を行い、ベースバンド信号を生成して送信RF部106−1に出力する。送信RF部106−1は、送信ベースバンド部105−1から入力されるベースバンド信号に対して、周波数変換、電力増幅等の処理を行い、その結果を送信アンテナ108−1に出力する。送信アンテナ108−1は、送信RF部106−1から入力される信号を無線により受信機に送信する。
【0016】
送信ベースバンド部105−2は、STBC符号器104から入力されるシンボル系列に対して、波形整形等の処理を行い、ベースバンド信号を生成して送信RF部106−2に出力する。送信RF部106−2は、送信ベースバンド部105−2から入力されるベースバンド信号に対して、周波数変換、電力増幅等の処理を行い、その結果を送信アンテナ108−2に出力する。送信アンテナ108−2は、送信RF部106−2から入力される信号を無線により受信機に送信する。
【0017】
ここで、送信RF部106−1,106−2による周波数変換は、周波数発振器107の出力である周波数fTXの信号を基準として行われる。周波数変換の結果であるRF信号の送信周波数は、送信RF部106−1,106−2で同一のものであり、これをFTXとする。
【0018】
本例の受信機では、概略的に、以下のような処理を行う。
すなわち、送信機から送信された信号が受信アンテナ121を介して受信されると、受信RF部122は、受信アンテナ121により受信された信号に対して、増幅、周波数変換、帯域制限等の処理を行い、ベースバンド信号を生成して受信ベースバンド部124に出力する。受信ベースバンド部124は、受信RF部122から入力されるベースバンド信号に対して、帯域制限等を含む波形整形等の処理を行ったのち、シンボル周期の複素離散信号としてシリアル−パラレル変換器125に出力する。シリアル−パラレル変換器125は、受信ベースバンド部124から入力される信号を2シンボルずつまとめてSTBC復号器126に出力する。STBC復号器126は、シリアル−パラレル変換器125から入力される2シンボルずつの信号に対して、STBC符号化に対応する復号処理を行い、その結果をシンボルデマッパ127に出力する。
【0019】
STBC復号器126では、具体的には、2シンボルずつ入力される信号の値をそれぞれr,rとした場合に、(式1)を用いて復号処理を行い、復号結果の信号q,qをシンボルデマッパ127に出力する。
【数1】

ここで、(式1)において、hは送信アンテナ108−1から受信アンテナ121に至る伝搬路についての伝搬路応答であり、hは送信アンテナ108−2から受信アンテナ121に至る伝搬路についての伝搬路応答であり、パイロットや同期ワード等を用いて伝搬路応答推定器(図示せず)により求められる。
シンボルデマッパ127は、STBC復号器126から入力される信号q,qに対して、QPSK変調に対応したビット判定を行い、4ビット分の信号をまとめてパラレル−シリアル変換器128に出力する。パラレル−シリアル変換器128は、シンボルデマッパ127から入力される4ビット分の信号をシリアル変換して出力部129に出力する。
【0020】
ここで、受信RF部122で行う周波数変換は、周波数発振器123から出力される周波数fRXの信号を基準として行われる。周波数変換の結果であるRF信号の受信周波数をFRXとする。
送信機と受信機との間における通信が適切に行われるには、受信周波数FRXが送信周波数FTXに一致する、或いはその差が或る一定の許容値内にある必要がある。これを実現する機能、すなわちAFCを具備するために、本例の受信機では、シリアル−パラレル変換器125の出力を周波数偏差検出器130に入力して推定周波数偏差を求め、その結果を周波数制御部131に出力する。そして、周波数制御部131が、周波数偏差検出器130から入力される推定周波数偏差を基準として、周波数偏差(送信周波数FTXと受信周波数FRXとの誤差(偏差))がより小さくなるように周波数発振器123の出力周波数fRXを制御する。
【0021】
次に、周波数偏差検出器130の構成について説明する。
なお、以下では、図4に例示する構造のフレームを用いる場合について説明する。すなわち、伝送される1つのフレーム501の中に、所定の同期信号の一例として、既知のシンボル系列である同期ワード(SW:Synchronous Word)の信号列502が10シンボル分挿入されているものとする。すなわち、本例のフレーム501は、データの信号列、同期ワードの信号列502、データの信号列の順に並べた構造となっており、同期ワードを含むフレーム全体がSTBC符号化される。同期ワードは、同期対象となる送信機及び受信機において共通の固定化されたビットパターンとなっている。
本例では、フレームの先頭以外の位置(先頭より後ろの箇所)に同期ワードを配置するフレームフォーマットを用いているが、フレームの先頭の位置に同期ワードを配置するフレームフォーマットを用いてもよい。
【0022】
ここで、2シンボル時間毎に変化する時系列番号n(n=0,1,2,3,4)について、同期ワードの信号列502をa(2n),a(2n+1)で表すと、STBC符号化により得られる送信アンテナ108−1側の同期ワード部分の出力503はa(2n),−a(2n+1)となり、STBC符号化により得られる送信アンテナ108−2側の同期ワード部分の出力504はa(2n+1),a(2n)となる。また、受信アンテナ121により受信される信号における同期ワードに対応する部分の信号列505をr(2n),r(2n+1)とする。
【0023】
図2には、周波数偏差検出器130の構成例を示してある。
本例の周波数偏差検出器130は、チャネル応答算出器151、参照信号メモリ152、周波数偏差算出器153−1,153−2、選択器154を備えている。
【0024】
ここで、本例の周波数偏差検出器130には、シリアル−パラレル変換器125から出力される信号の内、同期ワード502に対応する部分の信号列505が2シンボルずつ入力される。
また、参照信号メモリ152には、参照信号として、STBC符号化された既知の同期ワード502を表すデータが予め格納(記憶)されている。以下の例では、参照信号メモリ152に、参照信号として、同期ワードの信号列502(a(2n),a(2n+1))に対してSTBC符号化を施した後の信号列、すなわち、STBC符号化により得られる送信アンテナ108−1側の同期ワード部分の出力503(a(2n),−a(2n+1))を表すデータ、及び、STBC符号化により得られる送信アンテナ108−2側の同期ワード部分の出力504(a(2n+1),a(2n))を表すデータが格納されているものとする。ここで、a(2n)とa(2n+1)の組み合わせを状態として定義し、各状態に状態番号等の識別情報を付して記憶するようにしてもよい。
【0025】
チャネル応答推定器151は、シリアル−パラレル変換器125から入力される信号列505(r(2n),r(2n+1))と、参照信号メモリ152に保持された参照信号(同期ワードの信号列502に対してSTBC符号化を施した後の信号列503(a(2n),−a(2n+1))及び信号列504(a(2n+1),a(2n)))とに基づき、(式2)を用いて伝搬路応答(チャネル応答)の推定値h(2n)、h(2n)を算出し、送信アンテナ108−1側の伝搬路応答の推定値h(2n)を周波数偏差算出器153−1に出力し、送信アンテナ108−2側の伝搬路応答の推定値h(2n)を周波数偏差算出器153−2に出力する。
【数2】

ここで、(式2)において、スカラ部については、後に伝搬路応答の振幅成分は破棄されるため、省略して“1”とすることが可能である。
また、(式2)において、a(2n),−a(2n+1)は信号列503(a(2n),−a(2n+1))の共役複素であり、a(2n+1),a(2n)は信号列504(a(2n+1),a(2n))の共役複素であり、参照信号メモリ152に保持された参照信号から演算により求められて(式2)に代入される。また、例えば、a(2n)とa(2n+1)の組み合わせを状態として参照信号メモリ152に記憶しておき、これをチャネル応答推定器151に与え、チャネル応答推定器151において上記の各共役複素を求めるようにしてもよい。すなわち、参照信号メモリ152に保持する情報から上記の各共役複素が得られればよい。
【0026】
このように、本例の受信機では、送信機から送信される信号に含まれる予定のSTBC符号化された既知の同期ワード(参照信号)と、実際に送信されてきた信号における同期ワードに対応する部分とが、伝搬路応答に関して一定の関係(参照信号と受信信号の同期ワード部分とに基づいて(式2)により伝搬路応答を推定可能な関係)を持つことを利用して、伝搬路応答の推定値を取得できるようにしている。
なお、例えば、参照信号メモリ152に、参照信号として、同期ワードの信号列502に対してSTBC符号化を施した後の信号列503及び504についての共役複素を表すデータを格納しておき、(式2)にそのまま代入するようにしてもよい。
【0027】
周波数偏差算出器153−1は、チャネル応答推定器151から入力される送信アンテナ108−1側の伝搬路応答の推定値h(0),h(2),h(4),h(6),h(8)を用いてその位相を求め、位相変化量から周波数偏差Δfを算出して選択器154に出力する。
周波数偏差算出器153−2は、チャネル応答推定器151から入力される送信アンテナ108−2側の伝搬路応答の推定値h(0),h(2),h(4),h(6),h(8)を用いてその位相を求め、位相変化量から周波数偏差Δfを算出して選択器154に出力する。
なお、周波数偏差算出器153−1,153−2により求められる周波数偏差Δf,Δfは本質的に同じものであるが、本例の受信機では、選択器154において、より確度の高い方を選択して周波数制御部131に出力する。
【0028】
選択器154は、例えば、周波数偏差算出器153−1,153−2から入力される周波数偏差Δf,Δfに基づいて、(式3)により伝搬路応答電力p,pをそれぞれ算出し、p≧pならばΔfを、それ以外ならばΔfを選択する。なお、この選択基準は一例であり、他の選択基準により選択する方法を採用してもよい。
【数3】

【0029】
周波数偏差算出器153−1,153−2内部の動作について図3を参照して説明する。
図3には、周波数偏差算出器153−1,153−2の構成例を示してある。
本例の周波数偏差算出器153−1,153−2は、入力される伝搬路応答の推定値の位相を求め、位相変化量から周波数偏差を算出する機能を有しており、乗算器161、遅延メモリ162、複素共役取得部163、位相算出器164、加算器166と遅延メモリ167で構成される積分器165、周波数偏差算出部168を備えている。
【0030】
本例の周波数偏差算出器153−1,153−2では、チャネル応答算出器151から入力される伝搬路応答の推定値h(2n)と、遅延メモリ162により1タイミング分を遅延させた伝搬路応答の推定値h(2(n−1))について複素共役取得部163により得られる共役複素の値h(2(n−1))とを乗算器161で乗算し、その位相φ(2n)を位相算出器164により算出する。位相算出器164による出力(位相φ(2n))は、(式4)で表すことができる。
【数4】

ここで、(式4)において、arg(x)は、複素数xの位相であり、単位を[rad]とする。
【0031】
次に、加算器166と遅延メモリ167で構成される積分器165により、位相変化量Φ(2n)を算出する。積分器165による出力(位相変化量Φ(2n))は、(式5)で表すことができる。
【数5】

この位相変化量Φ(2n)、すなわち時刻経過に対する傾きは、伝搬路応答hの時間変化が十分緩やかであるという条件の下では、周波数偏差の大きさに対応する。
【0032】
これを利用して、周波数偏差算出部168では、(式6)を用いて周波数偏差を算出することができる。
【数6】

ここで、式(6)において、βは、位相変化量Φ(2n)の時刻n=0,1,2,3,4に対する傾きである。また、fはシンボル伝送速度(周波数)である。
【0033】
傾きβを求める具体的手段としては、例えば、一次の最小2乗近似法を用いて(式7)から算出される。
【数7】

【0034】
更に、n=0,1,2,3,4であることを考慮すると、(式8)の計算式を用いることで、傾きβを容易に算出することができる。
【数8】

【0035】
なお、周波数偏差算出器153−1,153−2では、入力される伝搬路応答推定値の傾きを直接求めることも可能であるが、この場合は、伝搬路応答推定値の位相の巻き(wrapping)に留意する必要がある。
【0036】
以上の例は、STBC方式に対して本発明を適用したものであったが、本発明はDSTBC方式に対しても有効である。以下、DSTBC方式に対して本発明を適用する場合について説明する。
STBC方式では、本来、伝搬路応答推定を行うためにパイロット等が信号に挿入されており、必ずしも本発明が有効であるとは言えない。一方、DSTBC方式では、本来、伝搬路応答推定を行うことを想定しておらず、このため、パイロット等が信号に挿入されていない。そこで、本発明では、フレーム同期等をとる目的で挿入されているDSTBC符号化された同期ワードを用いて伝搬路応答を推定できるようにし、伝搬路応答の推定値から周波数偏差を検出するようにしている。
【0037】
図5には、DSTBC方式を用いた通信システムであるDSTBC伝送システムの構成例を示してある。
本例の送信機は、図1に例示した送信機におけるSTBC符号器104をDSTBC符号器201に置き換えたものである。また、本例の受信機は、図1に例示した受信機におけるSTBC復号器126をDSTBC復号器202に置き換えたものである。
すなわち、本例の送信機及び受信機は、STBC方式に代えてDSTBC方式を用いるように構成されている。なお、他の構成及び動作(後述する同期ワードのDSTBC符号化結果を固定化する部分を除く)については、STBC方式について説明した内容と概略的に同様であるため、その説明を割愛する。
【0038】
ここで、上述したSTBC方式の例では、図4に例示したように既知のシンボル系列である同期ワードを用いているが、これをそのままDSTBC方式に適用することはできない。これは、単純にDSTBC符号化を行うだけでは、フレーム中の符号化対象のデータより前のデータに依存して符号化結果のパターンが変化するので、フレーム中の同期ワードに先行するデータ部分の変化に応じて同期ワードの符号化結果が変化することから、同期ワードに対してDSTBC符号化を施した後の信号パターンを確定できないためである。このため、受信機側に参照信号を予め格納しておくための工夫が必要となる。
【0039】
そこで本例では、同期ワード直前のビット列をDSTBC符号化した結果を固定化する技術を用いることで、上記の問題を解決している。
同期ワード直前のビット列をDSTBC符号化した結果の固定化は、概略的に、DSTBC方式により信号を送信する送信機について、次のような技術を用いることで実現される。
すなわち、先頭より後ろの所定箇所に同期ワードが配置されるフレームが用いられる。
そして、送信機では、初期値制御手段が、フレームの先頭から同期ワードより前の値に基づいて、送信対象を処理するDSTBC符号器において同期ワードの直前に対応する信号点が一定の点になるように、前記送信対象を処理するDSTBC符号器で前記フレームを処理するときの差動符号化の初期値を設定する。
【0040】
従って、送信対象を処理するDSTBC符号器(本線のDSTBC符号器)において同期ワードの直前に対応する信号点が一定の点になるようにすることにより、例えば、フレームの先頭から同期ワードより前の値(例えば、その一部)が送信対象のデータ内容により変化するような場合においても、同期ワードのマッピング配置を固定されたマッピングパターンとすることができ、送信機と受信機との間で、DSTBC方式により効率的に通信を行うことができる。
【0041】
ここで、フレームとしては、種々なものが用いられてもよく、例えば、先頭から同期ワードより前に送信対象となる音声などの変化し得るデータが配置されるフレームが用いられる。
また、同期ワードの直前に対応する信号点(シンボル値)が一定の点になるようにすることに関して、当該一定の点としては、種々な点が用いられてもよく、例えば、予め設定される。
【0042】
上記固定化に係る送信機の初期値制御手段は、一構成例として、次のような構成が用いられる。
すなわち、フレームの先頭から同期ワードより前の値について、S/P変換手段がシリアル/パラレル変換を行い、シンボルマッピング手段が当該シリアル/パラレル変換結果についてシンボルマッピングを行い、差動符号化手段が当該シンボルマッピング結果について所定の初期値を用いて差動符号化を行い、初期値更新手段が当該差動符号化結果に基づいて前記送信対象を処理するDSTBC符号器で前記フレームを処理するときの差動符号化の初期値を更新して設定する。
【0043】
また、上記固定化に係る送信機は、次のような構成として把握することもできる。
すなわち、DSTBC方式により信号を送信する送信機において、所定の初期値を用いてフレームの先頭から同期ワード直前の値に対して差動符号化を行う第1の差動符号化手段と、前記第1の差動符号化手段による同期ワード直前の差動符号化結果に基づいて初期値を設定する初期値設定手段と、前記初期値設定手段により設定された初期値を用いて前記フレームを送信対象とした差動符号化を行う第2の差動符号化手段とを備える。
【0044】
また、更に、前記初期値設定手段は、前記フレームの先頭から同期ワード直前の値に対して差動符号化を行ったときに取り得る前記同期ワード直前の差動符号化結果に対応させて初期値を設定したテーブルを備え、前記第1の差動符号化手段による同期ワード直前の差動符号化結果と前記テーブルに従って前記第2の差動符号化手段の差動符号化に用いる初期値を設定する。
【0045】
上記固定化は、以下のようなDSTBC方式の特性を利用したものである。
1)DSTBC方式では、所定の初期値を用いて所定の演算式により信号値を差動符号化した符号化結果は、この信号値がどのようなビット列の信号値であっても、有限個に分類される。すなわち、あらゆる信号値は、それらの符号化結果が有限個の状態として分類されるから、これら有限個の信号値であらゆる信号値を代表することができる。
2)そして、上記有限個の信号値を上記と同じ所定の演算式により差動符号化した符号化結果が所定の目標値になる初期値が分かれば、任意の信号値について符号化結果を所定の目標値とすることができるから、DSTBC符号化により目標とする符号化結果を得ることができる。
【0046】
したがって、DSTBC方式において、第1段の符号化処理で、フレームの先頭から同期ワード直前までの信号値を差動符号化した符号化結果に基づき、当該符号化結果に予め対応付けられた初期値をテーブル参照により特定し、当該特定した初期値を第2段の符号化における初期値としてフレーム全体の符号化処理を行なうことにより、当該フレームの同期ワード部分について目標となる所定の符号化結果を得ることができる。
【0047】
以上のような構成により、本例の受信機では、上述したSTBC方式の例と同様に、送信機から送信される信号に含まれる予定のDSTBC符号化された既知の同期ワード(参照信号)と、実際に送信されてきた信号における同期信号に対応する部分とが、伝搬路応答に関して一定の関係((式2)の関係)を持つことを利用して、パイロット等を用いることなく伝搬路応答の推定値を取得できるようにしている。
【0048】
以上のように、各構成例では、STBC方式又はDSTBC方式を用いる通信システムの受信機において、同期ワードを格納する参照信号メモリ152と、同期ワードに対応する受信信号と参照信号から伝搬路応答を算出するチャネル応答算出器151と、一連の伝搬路応答の算出値から周波数偏差を検出する2つの周波数偏差算出器153−1,153−2と、2つの周波数検出値から一つを選択する選択器154とを有する周波数偏差検出器130を設けた構成とし、前記周波数偏差算出器153−1,153−2のそれぞれにおいて、STBC方式又はDSTBC方式により符号化された同期ワード列を利用して伝搬路応答を算出するようにした。
【0049】
同期ワードを符号化する利点について説明する。
STBC或いはDSTBCを採用するシステムにおいては、同期ワードに対してはSTBC或いはDSTBCの符号化を行わず、同期ワードのシンボル列をそのままフレームに埋め込む方法が一般的である。これに対し、本発明では、敢えて同期ワードに対して他のデータと同様にSTBC或いはDSTBC符号化を連続して行うことを前提としているが、この手法には次に述べる利点がある。
【0050】
第一の利点は、受信機において2つの送信機から伝送される同期ワードを分離するための直交性が確保されていることである。
STBC/DSTBC符号化されない同期ワードを用いる場合、2つの送信機から各々伝送される同期ワード伝送には、受信機での分離が可能なように互いに干渉し合わない手段が講じられる必要がある。この目的のためには、一方の送信機が同期ワードを伝送している時刻には他方の送信機は送信を停止する方法、或いはOFDM伝送などの場合は、一方の送信機が同期ワードを伝送しているサブキャリアでは、他方の送信機は送信を停止する方法等がとられる。以上の方法は、同期ワードを伝送するために必要な送信時間、或いは周波数(サブキャリア)の利用効率に難点がある。また、上記目的のためには、予め互いに直交する2つの同期ワード列を設定し、各送信機が各々の同期ワード列を同時に送信することも可能である。本発明で用いる同期ワードのSTBC或いはDSTBC符号化手法によれば、符号化出力として各送信機から送信される2つの同期ワード信号が、STBC符号化により互いに直交していることが保証されているので、上記手段を講じる必要が無い。
【0051】
第二の利点は、特にDSTBC符号化に関するものである。DSTBCは、一時刻前の信号を参照信号として伝送情報4ビットを送信する方法であるので、例えばフレーム先頭などで符号器の動作が一旦途切れる場合には、最初の4ビットが復号できない。一般的なフレーム構成では、その先頭にプリアンブルなど復号の必要がないビット列が配置されているので支障がない。しかしながら、フレームの中に同期ワード列が配置され、ここでDSTBC符号器の動作が一旦途切れる場合には、同期ワード直後の4ビットも復号できないことになる。本発明で用いる同期ワードの符号化は、このような事態を回避し、いわゆる冗長ビットを必要としない点で伝送効率に寄与するものである。
【0052】
ここで、本発明に係るシステムや装置などの構成としては、必ずしも以上に示したものに限られず、種々な構成が用いられてもよい。また、本発明は、例えば、本発明に係る処理を実行する方法或いは方式や、このような方法や方式を実現するためのプログラムや当該プログラムを記録する記録媒体などとして提供することも可能であり、また、種々なシステムや装置として提供することも可能である。
また、本発明の適用分野としては、必ずしも以上に示したものに限られず、本発明は、種々な分野に適用することが可能なものである。
また、本発明に係るシステムや装置などにおいて行われる各種の処理としては、例えばプロセッサやメモリ等を備えたハードウエア資源においてプロセッサがROM(Read Only Memory)に格納された制御プログラムを実行することにより制御される構成が用いられてもよく、また、例えば当該処理を実行するための各機能手段が独立したハードウエア回路として構成されてもよい。
また、本発明は上記の制御プログラムを格納したフロッピー(登録商標)ディスクやCD(Compact Disc)−ROM等のコンピュータにより読み取り可能な記録媒体や当該プログラム(自体)として把握することもでき、当該制御プログラムを当該記録媒体からコンピュータに入力してプロセッサに実行させることにより、本発明に係る処理を遂行させることができる。
【符号の説明】
【0053】
101:入力部、 102:シリアル−パラレル変換器、 103:シンボルマッパ、 104:STBC符号器、 105−1,105−2:送信ベースバンド部、 106−1,106−2:送信RF部、 107:周波数発振器、 108−1,108−2:送信アンテナ、
121:受信アンテナ、 122:受信RF部、123:周波数発振器、 124:受信ベースバンド部、 125:シリアル−パラレル変換器、 126:STBC復号器、 127:シンボルデマッパ、 128:パラレル−シリアル変換器、 129:出力部、 130:周波数偏差検出器、 131:周波数制御部、
151:チャネル応答算出器、 152:参照信号メモリ、 153−1,153−2:周波数偏差算出器、 154:選択器、
161:乗算器、 162:遅延メモリ、 163:複素共役取得部、 164:位相算出器、 166:加算器、 167:遅延メモリ、 165:積分器、 168:周波数偏差算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
STBC方式又はDSTBC方式により符号化された信号を受信する受信機において、
STBC方式又はDSTBC方式により符号化された所定の同期信号を表すデータを記憶する記憶手段と、
前記受信した信号における前記同期信号に対応するデータが入力され、当該入力されたデータと前記記憶手段に記憶されたデータとを比較して伝搬路応答を推定する推定手段と、
を備えたことを特徴とする受信機。
【請求項2】
STBC方式又はDSTBC方式により所定の同期信号を含む信号を符号化して、受信機により受信させる受信方法であって、
前記受信機が、前記受信した信号における前記同期信号に対応するデータと予め記憶している符号化された前記同期信号を表すデータとを比較して伝搬路応答を推定する、
ことを特徴とする受信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−231227(P2012−231227A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97071(P2011−97071)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】