説明

口腔内細菌マップ作成支援システム

【課題】高度な専門知識も必要とせず、比較的短時間で口腔内細菌マップを作成するための支援システムを提供し、これにより有効活用することができるように提供する。
【解決手段】患者の口腔内の所定の部位から歯垢や唾液等の口腔内細菌を含んだサンプルを採取し、前記サンプルの一定量を位相差顕微鏡で撮影し、該撮影画像から該患者の口腔内細菌マップを作成する工程において、前記各部位のサンプルの細菌画像データと公知の細菌の画像データ、密度データ、活性度データを比較表示して、前記口腔内細菌マップの作成工程を支援する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は口腔内細菌マップの作成支援システムの技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
近年、口腔内の疾患、例えば、う蝕症(所謂、虫歯)や歯周病(所謂、歯槽膿漏)と口腔内細菌との関係が細菌学の研究、顕微鏡の発達により解明されてきた。また、歯科医者は患者の虫歯等の治療の他に、症状の説明、治療の方法、患者自身によるケアの方法についても説明する必要が生じてきた。また、このような口腔内疾患を予防するためにも、患者に容易に理解できる資料を示して説明する必要があった。このために、患者の口腔内の複数の部位から口腔内細菌を含んだサンプルを採取し、患者の口腔内細菌のマップを示すような資料を準備する必要があった。
【0003】
口腔内の衛生状態検査装置の従来装置を開示したものとしては特許文献1、特許文献2に記載されているように、電極間のインピーダンスの測定により試料中の微生物数を定量的に算出する装置があった。
【特許文献1】公開特許公報、特開2003−24350「口腔内衛生状態検査装置及び口腔内衛生状態検査方法」
【特許文献2】公開特許公報、特開2005−321406「口腔内衛生状態検査装置及び口腔内微生物数測定方法」
【0004】
ところで、口腔内の細菌による主な疾患は、う蝕症と歯周病である。う蝕症の発症は歯の表面の歯垢内に集まっている細菌が、食物の中の糖を発酵することで生産される高濃度の有機酸が歯の表面のエナメル質を脱灰することで始まる。さらに、う蝕症が進行すると歯髄炎が起こる。歯髄炎は脱灰が歯髄まで達し、歯の神経に炎症が生じた状態である。また、歯周病とは歯茎(歯肉)などの歯の周囲に起こった炎症である。歯茎の他に、歯槽骨、歯根膜、歯茎の下のセメント質部分に炎症が起こる。う蝕症と歯周病の炎症は細菌によって発症するが、炎症を起こす細菌は同一ではなく、異なる細菌によって発症することが知られている。更に、炎症の進行度によっても細菌は異なる。
【0005】
従って、口腔内に存在する細菌の菌種さえ検出できれば、口腔内の疾患については全てが理解できる様に思われる。しかし、口腔内にいる細菌は口腔内に常在する病原性の弱い弱毒菌であり、常に発症するというものではなく発症するための条件を満たさなければならない。
そこで、当該発明の発明者は細菌の菌種の他に、細菌の密度、細菌の活性度、及び細菌の採取部位を考慮した細菌マップを作成し、このマップに基づいて症状を説明する資料とした。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記したような口腔内細菌マップを全ての患者に対して作成することは、専門知識も必要であるし、多くの時間も必要である。また、従来は、患者の口腔内から細菌を採取して静止画像、動画像を撮影した場合でもそれらの写真を患者に見せるだけで終わり、今後の治療への応用、継続的な治療の管理に生かされていない。そこで、本願発明は高度な専門知識も必要とせず、比較的短時間で口腔内細菌マップを作成するための支援システムを提供し、これにより有効活用することができるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本願発明は以下の手段を採用している。
請求項1に記載の発明は、患者の口腔内の所定の部位から歯垢や唾液等の口腔内細菌を含んだサンプルを採取し、前記サンプルの一定量を位相差顕微鏡で撮影し、該撮影画像から該患者の口腔内細菌マップを作成する工程において、
前記各部位のサンプルの細菌画像データと公知の細菌の画像データ、密度データ、活性度データを比較表示して、前記口腔内細菌マップの作成工程を支援することを特徴としている。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記撮影画像は静止画像、動画像であることを特徴としている。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2の何れか1に記載の発明において、前記所定の部位は、頬粘膜、舌背、歯の表面、歯肉溝、唾液等の環境の異なる部位としたことを特徴としている。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3の何れか1に記載の発明において、前記公知の細菌の画像データはミュータンス菌、カンジダ菌、スピロヘータ菌、トリモコナス菌、ビフィドバクテリウム菌、トリパノソーマ菌、ギンバリス菌等の口腔内細菌の画像データであることを特徴としている。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4の何れか1に記載の発明において、前記細菌の密度データは前記細菌の菌種ごとに所定量のサンプル中に存在する細菌数によって複数のクラスに分類される画像データであることを特徴としている。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜請求項5の何れか1に記載の発明において、前記細菌の活性度データは前記細菌の菌種ごとに前記サンプル中に存在する細菌の動きの速さ、又は揺動の速さによって複数のクラスに分類される動画像データであることを特徴としている。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜請求項6の何れか1に記載の発明において、前記複数のクラスは2〜5のクラスとしたことを特徴としている。
【0014】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜請求項7の何れか1に記載の発明において、前記口腔内細菌マップは、前記口腔内のサンプルの採取部位、菌種、細菌の密度のクラス、細菌の動き速さ、又は揺動の速さのクラスに関するデータを含んでいることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本願発明に依れば、患者の口腔内細菌マップを容易に作成することができ、このマップを利用すれば、歯科医者は患者の虫歯等の治療の他に、症状の説明、治療の方法、患者自身によるケアの方法についても容易に説明することができ、また、口腔内疾患の予防するためにも適切な助言を与えることができるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は本願発明の実施形態の装置の構成図を示す。図1において、11(11a、11b、11c・・・)は採取したサンプルを入れた容器である。サンプルは頬粘膜、舌背、歯肉溝、歯の表面等の部位から採取する。これらの部位は口腔内の環境の異なる部位であり、種々の細菌が生息している。頬粘膜の表面から剥離した上表皮にはレンサ球菌が多く、舌背は凹凸の多い部位であるので種々の細菌が住みやすい環境にある。また、歯の表面は歯垢が付着しやすい。初期の歯垢にはレンサ球菌が生息し、ついで通気嫌気性のグラム陽性桿菌や偏性嫌気性のグラム陰性桿菌が定着する。歯肉溝にはスピロへータ等が生息し、歯周炎によって溝が深くなり、歯周ポケットが生じやすい。唾液は分泌された直後は無菌であるが、口腔内に分泌された唾液には多くの細菌が混入している。なお、サンプル部位は上記の部位に限定されず、う蝕症や歯周炎の生じやすい他の部位からサンプルを採取してもよい。
【0017】
12は細菌を観察する光学顕微鏡であり、位相差顕微鏡を使用する。採取した生きた細菌を薄手のスライドグラスに載せて、カバーグラスを置いて圧接し、余分な水分を吸い取り、周囲を封鎖し、位相差顕微鏡で見る。細菌の形態や配列、さらに固有運動をしている細菌が観察できる。また、細菌を染色(例えば、グラム染色)して見るとグラム陽性菌とグラム陰性菌との区別できる。
【0018】
13は計算機で、位相差顕微鏡の出力端が計算機13の入力端に接続されている。更に、計算機13の入力端には操作盤14が接続され、計算機13の出力端にはモニタ19が接続されている。モニタの表示部は患者データ表示部19aと基本データ表示部19bに区切られて表示する。患者データ表示部19aは患者のデータを表示し、基本データ表示部19bは患者の口内細菌マップを作成するためのデータベースのデータを表示する。また、患者のデータを記録するメモリ16とデータベースを記録するメモリ15が計算機13のデータパスに接続されている。患者用メモリ16,データベースメモリ15については後述する。
【0019】
図2は患者用メモリ16に位相差顕微鏡12で撮影した撮影画像を記録したデータの説明図である。患者メモリ16にはこの他に口腔内細菌マップのデータや症状に対するコメントのデータ、その他が記録される。ここでは、撮影画像を記録したデータを説明し、他は省略する。先ず、最初に患者の氏名と患者のIDが記録され、次に、サンプル(a)を採取した部位の画像データが記録される。即ち、サンプル(a)の静止画像データ21a、動画像データ22a、密度画像データ23aが記録される。静止画像データ21aはサンプル(a)の1匹〜数匹の細菌の静止撮影画像データで、動画像データ22aは1匹〜数匹の一定時間の連続画像データで、密度画像データはサンプルの所定量中の細菌の一群の静止画像データである。次にサンプル(b)の採取部位、画像データが記録される。同様にして全てのサンプル部位のデータが記録される。
【0020】
図3はデータベースメモリに記録された口腔内細菌の画像リスト31の説明図である。データベースメモリ15の画像リスト31には、図3に示すように、口腔内に生存する殆ど全種類の細菌の画像データと各画像データのボタンA、B、C、・・・を含んでいる。画像リスト31は基本データ表示部に表示した場合にスクロール(図示省略)によって全ての画像データを表示できるようにプログラムされている。
【0021】
また、データベースメモリ15には細菌別データベース領域が設けられる(図示されていない)。細菌別データベースは個々の口腔内細菌ごとに菌種名、静止画像、動画像、密度画像が記録されていると共にその菌種の属性や特徴の説明、口腔内の生息場所等が記録されている。動画像と密度画像は正常者の画像、初期又は中期段階の症状の患者の画像、重症患者の画像の3段階(或いは、2〜5の複数段階)の画像データを含んでいる。画像リスト31が基本データ表示部19bに表示されているときに、ボタンA、B、C、・・・の何れかをクリックすると押されたボタンに対応する細菌別データベースの画像が基本データ表示部19bに表示するようにプログラムされている。
【0022】
図4は口腔内細菌マップの作成手順を示すフローチャートである。ステップ1では、図5に示すように、患者のサンプル(a)の静止画像21aを患者データ表示部19aの上部に表示させる。ステップ2では、図3に示した口腔内細菌の画像リスト31を基本データ表示部19bに表示させる。ステップS3では、患者の静止画像21aと画像リスト31とを比較しながら、スクロールアップ又はスクロールダウンして、最も類似していると思われる画像を選択する。ステップ4では、画像リスト31のボタン(例えば、ボタンB)をクリックすると選択された画像の拡大画像が図5に示すように基本データ表示部19bの上部に表示される。同時に、基本データ表示部19bに表示された細菌の菌種名、属性、特徴の説明等が表示される。
【0023】
ステップS5では、基本データ表示部19bに表示された細菌の菌種名、属性、特徴等を読んで、患者データ表示部19aの菌種名が正しいと判断すれば、ステップS6へ進み、正しくないと判断したらステップS2へ戻る。ステップS6では患者データ表示部19a中の連続ボタンをクリックして連続画像を下側表示部に表示させる。一方、基本データ表示部19bの連続ボタンをクリックして上記した3段階の連続画像を連続表示させる。これによって活性度を決定する。次に患者データ表示部19a中の密度ボタンをクリックして密度画像を下側表示部に表示させる。同様に、基本データ表示部19bの密度ボタンをクリックして上記した3段階の密度画像を表示させる。これによって、菌種名、活性度、細菌密度が決定される。ステップS7では決定したデータを患者の口腔内細菌マップに記録させる。ステップS8ではステップS1〜ステップS7を全てのサンプルに対して行うまで繰り返す。
【0024】
図6は患者データ表示部19aに表示された静止画像に2種以上の細菌が含まれている場合の処理方法を説明する図である。細菌の静止画像中に未だ解析されていない細菌が存在する場合は、その部分の画像を枠30で囲み、静止ボタンをクリックすると下側に枠で囲んだ部分の画像が拡大表示される。又、連続ボタン、密度ボタンをクリックすると枠で囲んだ部分の連続画像、密度画像が拡大表示される。従って、図4で示したステップS2〜ステップS7の手順で行えば、枠30で囲んだ部分の細菌の菌種名、活性度、細菌密度が決定できる。
【0025】
以上に説明したように、本実施形態によれば、高度の熟練を必要としないで、口腔内細菌マップを作成することができる。この細菌マップに基づいて患者の将来起こり得る疾患や現在の疾患の進行状況を正しく判断できる。
以上に本発明の実施形態を図面に基づいて詳述してきたが、本発明の技術的範囲はこれに限られるものではない。例えば、細菌の活性度を解析する手段として、細菌の動き等を測定する特別の指標を設けて、決定する方法であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本願発明を実施した口腔内細菌マップ作成支援システムの装置を示す。
【図2】患者用メモリに記録する患者データの撮影画像の例を示す。
【図3】データベースメモリに記録される口腔内細菌の画像リストの例を示す。
【図4】口腔内細菌マップ作成の手順を示すフローチャート。
【図5】モニタに画像表示した例を示す。
【図6】細菌の複数の種類が存在する場合の解析方法を示す。
【符号の説明】
【0027】
11 サンプル
12 位相差顕微鏡
13 計算機
15 基本データベースメモリ
16 患者データベースメモリ
19 モニタ
19a 患者データ表示部
19b 基本データ表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の口腔内の所定の部位から歯垢や唾液等の口腔内細菌を含んだサンプルを採取し、前記サンプルの一定量を位相差顕微鏡で撮影し、該撮影画像から該患者の口腔内細菌マップを作成する工程において、
前記各部位のサンプルの細菌画像データと公知の細菌の画像データ、密度データ、活性度データを比較表示して、前記口腔内細菌マップの作成工程を支援することを特徴とする口腔内細菌マップ作成支援システム。
【請求項2】
前記撮影画像は静止画像、動画像であることを特徴とする請求項1に記載の口腔内細菌マップ作成支援システム。
【請求項3】
前記所定の部位は、頬粘膜、舌背、歯の表面、歯肉溝、唾液等の環境の異なる部位としたことを特徴とする請求項1又は請求項2の何れか1に記載の口腔内細菌マップ作成支援システム。
【請求項4】
前記公知の細菌の画像データはミュータンス菌、カンジダ菌、スピロヘータ菌、トリモコナス菌、ビフィドバクテリウム菌、トリパノソーマ菌、ギンバリス菌等の口腔内細菌の画像データであることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1に記載の口腔内細菌マップ作成支援システム。
【請求項5】
前記細菌の密度データは前記細菌の菌種ごとに所定量のサンプル中に存在する細菌数によって複数のクラスに分類される画像データであることを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1に記載の口腔内細菌マップ作成支援システム。
【請求項6】
前記細菌の活性度データは前記細菌の菌種ごとに前記サンプル中に存在する細菌の動きの速さ、又は揺動の速さによって複数のクラスに分類される動画像データであることを特徴とする請求項1〜請求項5の何れか1に記載の口腔内細菌マップ作成支援システム。
【請求項7】
前記複数のクラスは2〜5のクラスとしたことを特徴とする請求項1〜請求項6の何れか1に記載の口腔内細菌マップ作成支援システム。
【請求項8】
前記口腔内細菌マップは、前記口腔内のサンプルの採取部位、菌種、細菌の密度のクラス、細菌の動き速さ、又は揺動の速さのクラスに関するデータを含んでいることを特徴とする請求項1〜請求項7の何れか1に記載の口腔内細菌マップ作成支援システム。


【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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