説明

古紙再生用脱墨剤

【課題】 印刷古紙の種類に関わらずインキの剥離性と遊離インキの除去性がよく、高白度で残インキ量の少ない高品質のパルプが得られ、しかも低発泡性の古紙再生用脱墨剤の提供。
【解決手段】 下記一般式(1)で表されるアルケニルフェノールの1種または2種以上にアルキレンオキサイドを付加した化合物を含有することを特徴とする古紙再生用脱墨剤。


(式中、Rは炭素数13〜17のアルケニル基を表し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表す。nは1〜300の整数であって、n個のAOは同一であっても異なっていてもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は古紙再生用脱墨剤に関する。更に詳しくは新聞、雑誌、OA古紙などを現在主流となっているフローテーション法を用いた脱墨処理するに際し、高白色度で残インキの極めて少ない脱墨パルプを得るために用いる古紙再生用脱墨剤に関する。
【背景技術】
【0002】
新聞、雑誌、OA古紙等の印刷古紙から脱インキ処理し製造される脱墨パルプ(以下「DIP」とする。)の製紙原料として再生利用することは古くから行われているが、特に近年資源の有効利用や環境保護の点から古紙の再生はますます重要性を増し、再生パルプの用途も拡大してきている。古紙の更なる利用率の拡大に伴い雑誌古紙やオフィス古紙等の、これまでは利用率の低かった低級古紙の利用が進んでいる。また、原料古紙の主流である新聞古紙ではこれまでの酸性抄造から中性抄造への移行が進み、原料古紙自体もその性状が大きく変化しつつある。
【0003】
中性抄造された新聞古紙は酸性抄造された新聞古紙と比較し、使用される薬剤等の影響でインキ剥離性が低下する傾向があり、DIP中の未剥離インキ量が増加傾向となる。未剥離インキを減少させるためには機械応力を強める必要がある。しかし、古紙はインキ剥離性の良し悪しで分別される事無く混合され使用されるため、古紙原料中に混在する酸性抄造された新聞古紙においてはインキ剥離が過剰となり、更に遊離インキの微細化を進行する。インキの微細化が進行するとDIP製造工程内に遊離した微細インキが蓄積するため、DIP品質が低下する。また、機械応力の強化は設備の動力費等の増加に繋がり、コスト低下の問題も発生する。このため脱墨剤には未剥離インキ量を低減させるための強いインキ剥離性と且つ現在主流となっているフローテーション法においては遊離インキをフローテーションでより効率よく除去できる性能が要求される。
【0004】
従来からある高級アルコール系非イオン界面活性剤型脱墨剤(特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)ではインキの剥離が十分にできず、脱墨パルプの品質悪化に繋がるという問題点がある。また、フェノールまたはアルキルフェノールにアルキレンオキサイドまたはアルキレンオキサイド及びα−オレフィンオキサイド等の長鎖アルキレンオキサイドを付加させたアルキルフェノール系非イオン型脱墨剤(特許文献4、同5、同6参照)はフローテーション法による脱墨方法において遊離インキの除去性が低下する問題点がある。
【0005】
一方、フローテーション法においてフェノール系脱墨剤は高級アルコール系脱墨剤と比較し、発泡挙動が大きく異なる場合がある。例えばトリスチレン化フェノールのアルキレンオキサイド付加体はフローテーション時、発泡量が増加傾向となり、これに起因する流出フロス量の増加に伴うパルプ収率の低下という問題がある。さらに、脱墨剤は使用後に凝集沈澱処理や曝気槽での微生物処理などを施された後に排水として系外へ放出されるが、フェノール系脱墨剤の生分解性が不十分であると微生物処理などに時間を要し、充分に分解されないまま系外へ放出されてしまう問題もある。
【特許文献1】特開昭55−51891
【特許文献2】特開昭55−51892
【特許文献3】特開平8−284087
【特許文献4】特許2645208号
【特許文献5】特許2810477号
【特許文献6】特許2810477号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、印刷古紙の種類に関わらずインキの剥離性と遊離インキの除去性がよく、高白度で残インキ量の少ない高品質のパルプが得られ、しかも低発泡性の古紙再生用脱墨剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を達成するために鋭意検討を行った結果、上記課題に最適な古紙再生用脱墨剤を見いだし、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明は、下記一般式(1)で表されるアルケニルフェノールの1種または2種以上にアルキレンオキサイドを付加した化合物を含有することを特徴とする古紙再生用脱墨剤に関する。
【化1】

(式中、Rは炭素数13〜17のアルケニル基を表し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表す。nは1〜300の整数であって、n個のAOは同一であっても異なっていてもよい。)
【0008】
本発明の好ましい態様として、前記アルケニルフェノールの1種または2種以上がカルダノールである古紙再生用脱墨剤がある。
【発明の効果】
【0009】
フローテーション法による脱墨方法において、本願に係る古紙再生用脱墨剤(以下、「本発明品」ともいう)を脱墨工程に添加した場合、現在主流の高級アルコール系脱墨剤と比較し、インキの剥離性の大幅な向上が確認される。また、従来のフェノール、アルキルフェノールのアルキレンオキサイド付加体はフローテーション法による脱墨方法において遊離インキの除去性が大幅に低下するが本発明品ではそのような事例は確認されない。すなわち、本発明品は従来の脱墨剤と比較し、フローテーション法による脱墨後のDIPを水で完全に洗浄した完全洗浄DIP中の残インキ量が低減しており、パルプからの未剥離インキ量低減、及び遊離インキの除去性向上という2つの効果を併せ持つ。かかる効果を発揮する詳細な機構は不明であるが、一般にフェノール骨格を有する脱墨剤は高級アルコール系脱墨剤と比較し、完全洗浄DIPの未剥離インキ量が低減する傾向にあり、フェノール骨格が未剥離インキの低減効果に寄与していると考えられる。一方、本発明品の発泡量及び流出フロス量は高級アルコール系脱墨剤と同等レベルである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
前記一般式(1)において、Rは炭素数13〜17のアルケニル基を表す。Rの構造には特に限定はないが、不飽和結合数は1以上であればよく、直鎖構造であってもまた分岐構造であってもよいが、フローテーション性の向上の点から直鎖構造を有し、炭素数が15〜17であれば特に好ましい。
【0011】
本発明のアルケニルフェノールアルキレンオキサイド付加物はどのような方法で製造されたものであってもよい。通常は、アルケニルフェノールの1種または2種以上に塩基性触媒下アルキレンオキサイドを付加する方法で得ることが出来る。
【0012】
前記アルケニルフェノールには、工業的に製造された純品又は複数種の混合物のほか、植物等の天然物から抽出・精製された純品又は複数種の混合物として存在するものも含まれる。例えば、カシューナッツ殻等から抽出され、カルダノールと総称される、3−[8(Z),11(Z),14−ペンタデカトリエニル]フェノール、3−[8(Z),11(Z)−ペンタデカジエニル]フェノール、3−[8(Z)−ペンタデセニル]フェノール、3−[11(Z)−ペンタデセニル]フェノールや、いちょうの種子および葉、ヌルデの葉等から抽出される3−[8(Z),11(Z),14(Z)−ヘプタデカトリエニル]フェノール、3−[8(Z),11(Z)−ヘプタデカジエニル]フェノール、3−[12(Z)−ヘプタデセニル]フェノール、3−[10(Z)−ヘプタデセニル]フェノール等が挙げられる。これらの中で、分解性が良好であるカルダノールが好適に使用できる。
※出典:独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)ホームページ
【0013】
前記一般式(1)において、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表すが、具体的にはオキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基が挙げられる。nは1〜300の整数であって、アルキレンオキサイドの付加モル数を示す。本願に係る所望の性能を得る点でnは5〜200であれば好ましく、10〜100であればより好ましく、20〜50であれば特に好ましい。n個のAOは同種であっても異種であってもよいが、フローテーション性の向上の点でオキシエチレン基とオキシプロピレン基の双方を有するものが好ましい。複数種のオキシアルキレン基を有する場合はブロック付加、ランダム付加のいずれであってもよい。
【0014】
本発明の古紙再生用脱墨剤は、前記一般式(1)で表される化合物を含有してなるものであり、かかる古紙再生用脱墨剤は、古紙離解工程、漂白工程、フローテーション工程等の各脱墨工程の各工程に分割添加してもよく、また、古紙離解工程に一括添加してもよい。前記一般式(1)で表される化合物の使用量は、古紙に対して通常0.05〜3.0質量%の割合であれば好ましい。
【0015】
また、脱インキ性能を損なわない範囲で、フローテーションでの起泡性、抑泡性を調整する目的でアルキルエーテルサルフェートや脂肪酸石鹸等のアニオン性界面活性剤、フローテーションでのインキ捕集性を向上させる脂肪酸や溶剤、(テルペンアルコール類)を使用することもできる。さらに、苛性ソーダ、ケイ酸ソーダ、炭酸ソーダ及びリン酸ソーダ等のアルカリ類、EDTA等のキレート剤も使用することができる。また、過酸化水素等の漂白剤を併用し、DIPの白色度を上げることもできる。漂白剤を用いる場合は古紙に対して通常0.1〜20質量%、アルカリ剤を用いる場合は古紙に対して通常0.1〜10質量%の割合で用いられる。水は古紙のパルプの解織を容易にするため、古紙の100〜3000質量%の割合で用いられる。
【0016】
本発明の脱墨剤は、種々の印刷古紙、例えば、新聞、雑誌、書籍、OA複写古紙、ちらし等の印刷古紙に用いることができ、凸版印刷、オフセット印刷、グラビア印刷等各種印刷方法にも対応できる。
【0017】
(実施例用脱墨剤の合成)
次に実施例により本発明を更に詳しく説明する。
(カルダノールアルキレンオキサイド付加体の合成)
カルダノール(3−[8(Z),11(Z),14−ペンタデカトリエニル]フェノール 31質量%、3−[8(Z),11(Z)−ペンタデカジエニル]フェノール 20質量%、3−[8(Z)−ペンタデセニル]フェノール 45質量%の混合物。商品名;Distilled
Cashew Nut Shell Liquid(インド、SATYA CASHEW CHEMICALS社製))83.6g及び水酸化カリウム1.3gをステンレス製オートクレーブに投入し、系内を窒素置換した後、120±5℃を保つように昇温し、次いで系内を50mmHgの減圧にして1時間減圧脱水した。減圧脱水終了後、系内を窒素により常圧に戻し120±5℃、0.1〜0.5MPaを保つようにエチレンオキサイド243g(カルダノール1モルに対し20モル)の混合物を徐々に添加し付加反応を行った。付加反応終了後、120±5℃を2時間保持しながら熟成を行った。添加終了後、酢酸1.6gで触媒を中和し、表1に記載の化合物A−1を得た。
【0018】
以下同様の方法で表1に示すA−2〜A−10の化合物を得た。なお、以下の表中の構造式において、『/』はアルキレンオキサイドの付加形態がランダム付加であることを示し、『−』はブロック付加であることを示す。
【0019】
【表1】

【0020】
(比較例用脱墨剤)
従来からある高級アルコール系脱墨剤との性能比較を行う為、表2に示した比較例化合物を使用した。比較例化合物の合成方法は[0016]に記載の方法に準じた。
【0021】
【表2】

【0022】
(脱墨試験方法)
原料古紙を3cm×3cmに切断し、卓上離解機に入れ、苛性ソーダを1.5%(対古紙)、3号ケイ酸ソーダを3%(対古紙)、35%過酸化水素水を3%(対古紙)、脱墨剤を加えた後、水を加え、古紙濃度5%とし、55℃に昇温後15分間離解した。離解後同温度で1時間熟成してからパルプ濃度1%に希釈してフローテーターに移し、フローテーション処理を10分間行った。得られたパルプを0.5%濃度にした後、硫酸アルミニウムにてpH5.0に調整した後、JIS P−8209に規定したシートマシンにて手抄きした。さらにフローテーション処理を行ったパルプを200倍量のイオン交換水で3回洗浄を行った。このパルプについても同様に、JIS P−8209に規定したシートマシンにて手抄きした。
【0023】
(性能評価試験)
フローテーターでの発泡性:フローテーション1分後の液面からの泡高(mm)を測定した。また、手抄き紙は乾燥後、以下の測定を行い脱墨効果を評価した。
白色度:JIS P−8123に規定した方法に準じて測定を行った。
残インキ数及び面積率:完全洗浄パルプについて画像解析装置を使用し、視野100mm中に存在する径20μm以上のインキ個数及び全視野中におけるインキ総面積率(%)を測定した。
【0024】
(実施例1)
オフセット新聞古紙60%、折り込み広告40%からなる原料古紙を用いて脱墨試験方法に記載した方法で試験を行い、性能評価試験に記載した方法で評価を実施した。結果を表3に示す。
【0025】
【表3】

【0026】
本発明の古紙再生用脱墨剤を用いることにより、白色度が高く、残インキ量の少ない脱墨パルプが得られた。したがって、本発明により印刷古紙の種類に関わらず、インキの剥離性と脱離インキの除去性がよく、高白度で残インキ量の少ない高品質の再生パルプが得られる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるアルケニルフェノールの1種または2種以上にアルキレンオキサイドを付加した化合物を含有することを特徴とする古紙再生用脱墨剤。
【化1】

(式中、Rは炭素数13〜17のアルケニル基を表し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表す。nは1〜300の整数であって、n個のAOは同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項2】
前記アルケニルフェノールの1種または2種以上がカルダノールである請求項1に記載の古紙再生用脱墨剤。

【公開番号】特開2008−261080(P2008−261080A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−106553(P2007−106553)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【出願人】(000221797)東邦化学工業株式会社 (188)
【Fターム(参考)】