説明

可撓性コンクリート

【課題】コンクリートの引張応力による脆性破壊を防止するため、コンクリートに可撓性を付加することを課題とする。
【解決手段】表面にコンクリートを付着させない非接着表面を備えた小星型十二面体形状の骨材1をセメントに対して所定の割合で混入する。骨材1の充填率は骨材の混入が可能な最大量である最密状態に対して50%以上とし、骨材1をコンクリートと付着性のない材料により成形すること又は骨材1の表面に皮膜7を設けることによって、骨材1は非接着表面を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は引張変形による脆性破壊を防止する可撓性コンクリートに関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは耐久性と経済性を兼ね備え、構造物の建設等に欠かすことのできない重要な材料であり、圧縮応力に対して強い強度を示す。しかし引張応力に対しては強度が弱く、脆性破壊を起こしやすいという欠点を有する。
【0003】
上記欠点を補う従来技術として、圧縮応力に強いコンクリートと引張応力に強い鉄筋を組み合わせる鉄筋コンクリートに関する技術、鋼材等を用いてコンクリートに圧縮応力を常にかけた状態にして引張応力を発生しないようにするプレストレスト・コンクリート(PC)に関する技術、炭素繊維等を混入してコンクリート自体を曲げ変形可能にする技術等が公知となっている。また特許文献1に示されるように、突起が形成された骨材をコンクリートに混入し、各骨材の突起の絡み合い等によりコンクリートの強度を高める技術も公知となっている。
【特許文献1】特開平7−41344号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、鉄筋コンクリートは、ひび割れが発生した場合にそれが急速に進展する欠点がある。またプレストレスト・コンクリートは、高強度鋼を引張り力が発生した状態を維持してコンクリートに用いることにより圧縮応力を付加するため、製造コストが非常に高くなる傾向があり、その形状も制限される。一方、炭素繊維等を混入してコンクリート自体を曲げ変形可能にして引張応力に対する強度を高める技術は、炭素繊維等が非常に高価で非経済的である。
【0005】
また特許文献1に示された骨材は、コンクリートにランダムに混入され、互いの突起が絡み合わない位置で固定されると、コンクリートの強度を向上させない。またコンクリートの任意の箇所に亀裂が生じた場合、亀裂伝播を抑制する位置に上記骨材が存在する保証はないほか、亀裂伝播を抑制する位置に上記骨材が存在してもコンクリートに接着されているため、強度が低いと骨材そのものに亀裂が生じてコンクリートの亀裂伝播を抑制できない。よって上記骨材を用いてもコンクリートの引張応力に対する強度はそれほど高まらない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明は、第1に表面にコンクリートを付着させない非接着表面を備え小星型十二面体形状の骨材1をセメントに対して所定の割合で混入した混入したことを特徴としている。
【0007】
第2に、骨材1の充填率を骨材の混入が可能な最大量である最密状態に対して50%以上としたことを特徴としている。
【0008】
第3に、非接着表面が、骨材1をコンクリートと付着性のない材料により成形することによって得られることを特徴としている。
【0009】
第4に、非接着表面が、骨材1の表面に皮膜7を設けることによって得られることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
以上のように構成される本発明によれば、骨材をコンクリートにランダムに混入することにより、自然と互いが密接し三次元的に噛み合い均等に位置決めされるため、引張応力による亀裂がコンクリート内部の任意の箇所で生じても、その荷重方向への亀裂の伝播を抑制するように骨材が存在する。そして骨材の表面へのコンクリート付着を防止することにより、骨材とコンクリートの境界面での滑りが亀裂伝播又は応力集中よりも優先的に発生し、引張応力によるコンクリートの脆性破壊を防止する。
【0011】
また骨材にはコンクリートと付着性のない材料を用いることにより上記効果が発揮され、安価な材料で製造することが可能で経済性が高い。さらにコンクリートと付着性のない皮膜を施すことによっても上記効果を発揮させることができるため、その場合には材料自体を選ばず、製造が容易になり経済性もさらに向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下図示する本発明の実施形態につき説明する。
この発明に関する骨材1は図1に示すように小星型十二面体又はそれに近似した形状に成型されている。
小星型十二面体は各面が合同である正五角形からなる正十二面体を芯体とし、各面と合同の正五角形の底面を有する五角錐を各面に突出させたもので、五角錐の各面は底辺(正五角形の一辺)に対する他の2辺の比が1.618(黄金比)の二等辺三角形である。骨材1はコンクリートと付着性のない材料を用いており、セメントペーストと同程度の比重であり、そのサイズはコンクリートの断面等により許容される大きさから決定される。また骨材1の充填率は骨材の混入が可能な最大量である最密状態に対して概ね50〜100%とする。
【0013】
上記骨材1は小星型十二面体であるから、骨材1の各突起2の周面(三角面2a)が、隣接突起2の三角面2aとそれぞれ底辺2b(谷線)において交差するV字形の谷角をθとし、各突起2の隣接する三角面2a同士が稜線2cにおいて交差する外角(山角)をθとすると、θ=θ≒120°となる。2dは、隣接し合う各突起2の底辺2bと稜線2c及び底辺2b同士、稜線2c同士が交わる交点である。
【0014】
また、1つの突起2の5個の底辺(谷線)2bより外方に星型に突出する5個12組の三角面2aは各組においてすべて同一平面上にある。したがってこの各組において星型に並んだ5個の三角面2aのうち、隣接し合う3個の三角面2aの中央の三角面2aの底辺2bと、その両端に延びるように接続する両側の三角面2aの稜線2cとは、2つの交点2dを介して全体として一直線状に接続する。
【0015】
上記のように構成される多数の骨材1をランダムに積重ねると、部分的には例えば図2に示すように、隣接する骨材間で互いの骨材1の突起2同士の接触と係合、三角面2a同士の摺動案内、隣接突起2間の谷角θ部分と、他の骨材1の突起2の山角θ部分の嵌合及び互いの骨材1の三角面2a同士の重なり合い等の多様な挙動により、骨材同士が互いに係合し合って一定の密度で重なり合うことになる。
【0016】
よって図3に示すように骨材1をコンクリート3に一定割合以上で混入すると、自然に骨材同士が密着し三次元的に噛み合い均等に位置決めされるため、引張応力による亀裂4がコンクリート内部の任意の箇所で生じても、その亀裂伝播を抑制するように骨材1が存在する。そして骨材1にコンクリートと付着性のない材料を用いることにより、骨材1とコンクリート3の境界面6での滑りが亀裂伝播又は応力集中よりも優先的に発生するため、亀裂4はコンクリート3と骨材1の境界面6に沿ってジグザク状に形成され、結果として急激な割れの進行による脆性破壊が防止され、骨材1が混入されたコンクリート3には可撓性が付加される。
【0017】
なお骨材1が積重なった状態は、骨材間の接触度合、骨材の密度、接触面積、三次元的な噛合度合等により集合体表面に対する垂直方向の荷重に対して高い強度を発揮するため、骨材1とコンクリート3の境界面6で滑りを生じさせても、コンクリート3の強度を維持又は増強させることが可能である。
【0018】
さらに骨材1をランダムに混入してもコンクリート3に可撓性を付加しつつその強度を維持・増強できるので、施行面のメリットも大きく、通常のコンクリート工事にも容易に用いることができる。
【0019】
ちなみに骨材1はコンクリートと付着性のない材料を用いることにより上記効果を発揮するので、コンクリート1を軽量化する必要があればプラスチック等用いればよく、その必要がなければ製造が容易な焼成粘土等を用いてもよい。但し骨材はセメントと均等に混合する必要があるため、材料の比重はセメントペーストと略同等のものが望ましい。このように用途に応じて安価な材料を用いることが可能であるため、汎用性及び経済性に優れている。
【0020】
次に上記実施形態に基づいて発明者が行った実験の結果により、骨材1を用いた可撓性コンクリートについて説明する。
【0021】
<実験1>
本実施例の骨材1を用いたコンクリート3と通常のコンクリートで3点曲げ試験を行った。コンクリートに曲げ応力を負荷すると引張応力と圧縮応力が発生して、そのうちの引張応力によりコンクリートが脆性破壊を起こす可能性が高い。
<方法>
骨材1の形状は小星型十二面体とし、寸法は最長差し渡し長さが25mmであり、材料にはコンクリートと付着性のない焼成粘土を用いた。セメントには普通ポルトランドセメントを用い、コンクリート3の水セメント比は0.5とし、骨材1は最密充填状態とした。実験に用いた本発明に係るコンクリート及び通常のコンクリートは、断面形状が60mm×100mmの長方形で、スパンが140mmのものである。
【0022】
<結果及びその考察>
結果を図4に示す。
通常のコンクリートは歪みが0.01%程度で曲げ応力が3.2[N/mm]程度の最大値を示し、脆性破壊を起こした。一方、本発明に係るコンクリート3は、歪みが1.3%程度で曲げ応力が1.7[N/mm]程度の最大値を示し、さらに歪みが2.5%を超えても脆性破壊を生じずに塑性変形して撓められた様子が観察され、骨材1を用いることにより可撓性が付加されたことを確認できた。
【0023】
なお図4に示されたコンクリート3の応力−歪特性においては、最大応力値Pを発生させる歪みよりも大きな歪みが生じると応力値は低下した値P(低下応力値)を示すが、その値は0にはならない。一方、同図に示された通常のコンクリートの応力−歪特性においては、最大応力値Pを発生させる歪みよりも大きな歪みが生じると、内部の亀裂が一気に進展し脆性破壊が生じて低下応力値Pは0を示す。本発明のコンクリート3の低下応力値Pが0にならないのは、コンクリート内部における亀裂伝播が抑制され、脆性破壊が防止されたことが原因であると考えられる。
【0024】
<実験2>
上記実験においては骨材1を最密状態としてコンクリートに混入した。次の実験では、骨材1の混入が可能な最大量を充填率100%として、骨材1の充填率を0〜100%の範囲で変化させて各種値を測定する実験を行った。
<方法>
各充填率におけるコンクリート3の最大応力値P及び低下応力値Pを測定した。また、その際の実験方法は骨材1の混入量以外、実験1と同様である。
【0025】
<結果及びその考察>
結果を図5に示す。
同図から、骨材1の充填率が50%程度を超えることにより低下応力値Pが0以外の値を示している。よって、本実験の設定条件においては、少なくとも骨材1の充填率を概ね50%以上としてコンクリートに混入することにより、コンクリートに可撓性を付加できることが示されている。また同図においては、骨材1の充填率が増えると最大応力値Pが多少低下しているが、その低下も最小限に抑えられており、コンクリート3の強度が維持されている様子も確認できた。ちなみにコンクリートに可撓性を付加するために必要な骨材1の充填率は、構造物の大きさや断面形状、骨材の大きさやその表面の滑りやすさによって変化するものと考えられる。
【0026】
なお上記実施形態ではコンクリートと付着性のない材料を用いた骨材1の例につき説明したが、骨材1の表面をコンクリートと付着性のない皮膜7で覆う方法もある。
上記方法によって骨材1とコンクリート3との境界面6で滑りが生じ、コンクリート3に可撓性が付加される。さらに、この方法によれば骨材1そのものは材料を選ばす、産業廃棄物等を用いて資源の有効利用を図ることも可能であり、汎用性及び経済性はさらに高まる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に関する小星型十二面体形状の骨材の正面図である。
【図2】本発明に関する小星型十二面体形状の骨材の三次元噛み合い構造を示す斜視図である。
【図3】本発明に関する小星型十二面体形状の骨材を用いたコンクリートの曲げ荷重付与時の亀裂発生状態の例を示す断面図である。
【図4】通常のコンクリート及び本発明に関するコンクリートの応力−歪特性を表わすグラフである。
【図5】本発明に関するコンクリートの充填率−最大応力値特性及び充填率−低下応値特性を表わすグラフである。
【符号の説明】
【0028】
1 ブロック
2 突起
2a 三角面(突起周面)
2b 谷線(底辺)
2c 稜線
2d 交点
3 コンクリート
4 亀裂
6 境界面
7 皮膜
θ 谷角
θ 山角
最大応力値
低下応力値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にコンクリートを付着させない非接着表面を備え小星型十二面体形状の骨材(1)をセメントに対して所定の割合で混入した可撓性コンクリート。
【請求項2】
骨材(1)の充填率を骨材の混入が可能な最大量である最密状態に対して50%以上とした請求項1の可撓性コンクリート。
【請求項3】
非接着表面が、骨材(1)をコンクリートと付着性のない材料により成形することによって得られる請求項1又2の可撓性コンクリート。
【請求項4】
非接着表面が、骨材(1)の表面に皮膜(7)を設けることによって得られる請求項1,2又は3の可撓性コンクリート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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