説明

合成有機粘土物質

本発明は、合成カチオン性有機スティーブンサイト粘土物質、それをナノ複合体に使用する方法およびその製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘土および有機化合物に基づく合成有機粘土物質、それらを製造する方法並びにそれらを各種の用途に使用する方法に関する。該物質は、広く様々な重合体、プラスチックおよび樹脂のマトリクスに加えられて、高められた構造強度を有する本発明のナノ複合体物質を形成することができる。該物質は、レオロジー添加剤として、難燃化添加剤として、または水精製用途に使用されることもできる。
【背景技術】
【0002】
合成粘土物質
粘土鉱物は固形物質であり、実質的に金属および酸素の原子からつくられており、その結晶格子は層状構造を持つ。この層状構造は、3の繰り返し層からなる。この基本3層構造の中央に位置するのは、実質的に3価または実質的に2価の金属イオン(カチオン)の層である。実質的に3価のイオンを持つ粘土鉱物の例は、モンモリロナイトおよびベイデライトであり、実質的に2価のイオンを持つ粘土鉱物の例は、ヘクトライトおよびサポナイトである。中央層に存在する金属イオンは、酸素および水酸基のイオンによって八面体状に取り囲まれている。3価イオンを持つ粘土鉱物では、3の八面体の位置のうち2は、金属イオンによって占有されている。それ故に、これは2八面体粘土鉱物といわれる。2価金属イオンを持つ粘土鉱物では、3の八面体の位置のすべては、金属イオンによって占有されており、これは3八面体粘土鉱物といわれる。八面体状に取り囲まれた金属イオンのこの層の両側には、四面体状に取り囲まれたイオンの層が存在する。四面体状に取り囲まれたこれらのイオンは、一般にケイ素イオンであるが、とはいえケイ素の一部はゲルマニウム、アルミニウム、ホウ素等によって任意的に置換されることができる。
【0003】
四面体状に取り囲まれたケイ素イオンの単位は、Si20(OH)である。これに関連して、四面体および八面体の層中で電荷が位置している実際の点は、必ずしも常に同等に明確には示されることができないことが注記される。この文脈で使用される「イオン」の語は、したがって原子が、完全にイオン構造であるとして、酸化状態に対応した静電荷を持つべき状態に関している。
【0004】
粘土鉱物に必須なのは、存在するカチオンの一部が、より低い原子価のイオンで、または空位すなわちカチオンの不存在によって置換されていることである。したがって、製造の間に、八面体層中の3価または2価の金属イオンの一部をそれぞれ2価および1価の金属イオンによって置換すること、または空位を生成することが可能である。
【0005】
実質的に3価の金属イオンを用いると、この置換はモンモリロナイトを与え、また実質的に2価の金属イオンを用いると、ヘクトライトを与える。物質が八面体層中に2価金属イオンを空位とともに含む場合には、粘土はスティーブンサイトである。
【0006】
四面体層中の4価ケイ素イオンを3価のアルミニウム、ゲルマニウムまたはホウ素のイオンによって置換することも可能である。八面体層中にほとんど専ら3価イオンを持つ粘土鉱物では、結果物はその場合にはベイデライトであり、また八面体層中にほとんど専ら2価イオンを持つ粘土鉱物では、結果物はサポナイトである。
【0007】
もちろん、より低原子価のイオンによる置換またはイオンの欠失は、板状結晶の正電荷の不足をもたらす。この正電荷の不足は、板状結晶間にカチオンを含めることによって補償される。一般に、これらのカチオンは水和された形態で含められ、これは粘土の膨潤をもたらす。3層板状結晶間の距離は、水和されたカチオンを含めることによって増加される。水和されたカチオンを取り込むことによって膨潤するこの能力は、粘土鉱物の特徴である。
【0008】
単位格子当たり0.4〜1.2の負電荷を持つ膨潤性粘土鉱物は、スメクタイトとして知られている。膨潤した粘土鉱物の層間のカチオンは、強く水和している。その結果、これらのイオンは、移動性であり容易に交換されることができる。
【0009】
天然粘土鉱物を使用する際の大きい問題の1つは、これらの物質は非常に安価でありうるけれども、特性がその調節をするのが非常に困難であることである。現在の技術水準に従って粘土鉱物を合成することは、技術的に困難である。慣習的に、長期間(数週間)の水熱処理が、比較的に高い温度および圧力で水性懸濁物の撹拌下に使用される。一般に、わずか数グラムまたはわずか数十ミリグラムさえの粘土鉱物が、一度に合成されることができる。この技術を大(工業的)規模に適用することは、不可能ではないにしても非常に困難である。その結果、合成粘土鉱物は高価である。
【0010】
天然粘土鉱物の不十分に調節可能な特性および合成粘土鉱物の高価格の故に、粘土鉱物の触媒目的への使用は、極めて限られたままであった。1980年頃の特許文献は、(柱状)粘土鉱物の触媒反応の分野での多くの研究活動を証明しているけれども、その技術的応用は非常にわずかに留まっていた。
【0011】
国際特許出願公開第96−07613号には、合成膨潤性粘土鉱物を製造する方法が記載されている。
【0012】
有機粘土物質
有機的に変性された粘土は、有機粘土とも呼ばれ、長年の間、溶媒に基づいた系へのレオロジー添加剤として使用されてきた。天然産のフィロケイ酸塩粘土、普通にはスメクタイト粘土の水分散物をつくり、そしてこれに長鎖脂肪酸の第4級アンモニウム塩を加えて、カチオン交換反応および吸着によって有機的に変性された粘土を製造することによって、有機粘土は通常製造される。
【0013】
該反応は、水分散物からの有機粘土の凝集を引き起こすことができ、ろ過および洗浄によってその単離を許す。同様に、スメクタイト粘土および一若しくは複数の第4級アンモニウム化合物を、水または他の溶媒が存在することなく熱およびせん断を用いて押出混合することによって、有機粘土は水無しにつくられることができる。しかし、この方法は通常、より低品質の有機粘土を製造する。というのは、数ある理由の中でたとえば、有機粘土から洗い出されまたは容易に分離されることができない塩反応副生物を最終生成物が依然として持つから、および他の理由からである。
【0014】
該粘土は、典型的には層状フィロケイ酸塩であるスメクタイト粘土である。スメクタイト粘土は、もっと周知の鉱物タルクおよびマイカと同様のいくつかの構造上の特徴を有する。これらの結晶構造は、2のシリカ四面体シートをアルミナ(たとえば、モンモリロナイト)かあるいはマグネシア(たとえば、ヘクトライト)の端部が共有された2八面体または3八面体シートと縮合することによって形成された2次元の層からなり、種々のスメクタイト粘土のそれぞれはいくぶん異なった構造を持つ。
【0015】
粘土添加剤を含有する重合体、樹脂およびプラスチックは、より重い鋼鉄および他の金属製品の代替物として、特に自動車製造の分野において最近広く使用されるようになった。これらは、増加する数多くの他の分野、たとえば橋梁構成部材として、および造船における、より重い鋼鉄部品の代替物としての用途も見出している。押出および射出成形を使用して、ナイロン基体が、たとえばその中に分散されたスメクタイトタイプの粘土(並びにスメクタイト粘土に基づいた有機粘土、ベントナイトおよびヘクトライト)で強化されて、ナイロンと微細分散されたケイ酸塩粘土の板状結晶層との分子複合体を形成することが成功している。このような製品は、しばしばナノ複合体と呼ばれ、高められた構造、引張、衝撃および曲げ強度を持つ。
【0016】
得られたプラスチック/粘土生成物(すなわち、ナノ複合体)の挙動は、プラスチック、重合体または樹脂単独によって示される挙動とは定性的に異なっており、当分野の何人かの研究者によって、マトリクスの分子鎖が粘土の何百万もの顕微鏡的な層の間に封じ込められたことにその原因が帰せられた。ベントナイトおよびヘクトライトは、約1ナノメートルを超えない厚さの平らなケイ酸塩板状結晶からなる粘土であることは古くから知られている。
【0017】
有機粘土物質は、プラスチック添加剤としてレオロジーおよび/若しくは難燃化添加剤として、または水精製に広範に使用されてきた。
【0018】
ナノ複合体の調製に有機粘土を使用する初期の研究は、米国特許第2,531,396号に反映されている。1947年に出願されたこの特許は、有機的に変性されたベントナイトを使用してエラストマー、たとえばゴム、ポリクロロプレンおよびポリビニル化合物に構造強化を付与することを教示する。一世代を超えた後に、さらなる特許が現れ始める。トヨタ社によって得られた1984年に始まる数多くの特許、すなわち米国特許第4,472,538号、第4,739,007号、第4,810,734号、第4,889,885号および第5,091,462号は、プラスチック用に有機粘土添加剤を使用し、商業的に使用される、たとえば自動車の鋼鉄構成部材を代替するプラスチック構造体を記載する。
【0019】
スメクタイト粘土、第4級アンモニウム化合物および有機アニオンの反応生成物を含むレオロジー添加剤として有用な有機粘土組成物であって、第4級−有機アニオン錯体がスメクタイト粘土に層間挿入されているものが、たとえば米国特許第4,412,018号に記載されている。有機アニオンとして、使用された第4級物と反応する能力のある非常にさまざまな有機化合物、たとえばカルボン酸が記載されている。
【0020】
ナノ複合体物質のこれまでの製造はしばしば、有機粘土を重合体粉体と混合し、混合物をプレスしてペレットにし、そして適当な温度で加熱することを含んでいた。たとえば、ポリスチレンをアルキルアンモニウムモンモリロナイトと混合しそして真空中で加熱することによって、ポリスチレンが層間挿入されていた。加熱の温度は、重合体の溶融を確実にするポリスチレンのバルクのガラス転移温度より上であるように選ばれる。
【0021】
米国特許第5,514,734号および第5,385,776号は全体として、非標準的な有機変性を使用する6ナイロン基体および粘土に関する。これに関連して、Vaiaら著の「Synthesis and Properties of Two−Dimensional Nano Structures By Direct Intercalation of Polymer Melts in Layered Silicates」との表題の論文、Chemistry of Materials誌、1993年、第5巻、1694〜1696頁も参照せよ。
【0022】
General Electric社の米国特許第5,530,052号は、少なくとも1の複素環式芳香族カチオンを用いて変性されそして特定された重合体への添加剤として使用されて、ナノ複合体をつくるケイ酸塩物質、たとえばモンモリロナイト粘土について記載する。
【0023】
他の従来技術は、粘土の存在下に単量体の反応によって直接に重合体−粘土層間化合物をつくることを示す。「Interfacial Effects On The Reinforcement Properties Of Polymer Organoclay Nanocomposites」、H.Shi,T.Lan,T.H.Pinnavaia著、Chemistry of Materials誌、1996年、88頁以降を参照せよ。
【0024】
しかし、これらの物質はすべて、純度および組成の変動という本質的な不利点を持つ天然産の粘土鉱物に基づいている。
【0025】
有機ヘクトライト粘土物質の合成は、K.A.Corradoら著、「A study of organo−hectorite clay crystallization」、Clay Minerals誌、(1997年)第32巻、29〜40頁に記載された。いくつかの他の刊行物は、最初に粘土を合成し引き続いて金属イオンをカチオン性有機化合物と交換することによる有機ヘクトライトまたは有機モンモリロナイトの多段合成について述べている。
【特許文献1】国際特許出願公開第96−07613号公報
【特許文献2】米国特許第2,531,396号公報
【特許文献3】米国特許第4,472,538号公報
【特許文献4】米国特許第4,739,007号公報
【特許文献5】米国特許第4,810,734号公報
【特許文献6】米国特許第4,889,885号公報
【特許文献7】米国特許第5,091,462号公報
【特許文献8】米国特許第4,412,018号公報
【特許文献9】米国特許第5,514,734号公報
【特許文献10】米国特許第5,385,776号公報
【特許文献11】米国特許第5,530,052号公報
【非特許文献1】Vaiaら著、「Synthesis and Properties of Two−Dimensional Nano Structures By Direct Intercalation of Polymer Melts in Layered Silicates」、Chemistry of Materials誌、1993年、第5巻、1694〜1696頁
【非特許文献2】「Interfacial Effects On The Reinforcement Properties Of Polymer Organoclay Nanocomposites」、H.Shi,T.Lan,T.H.Pinnavaia著、Chemistry of Materials誌、1996年、88頁以下
【非特許文献3】K.A.Corradoら著、「A study of Organo−hectorite clay crystallization」、Clay Minerals誌、(1997年)第32巻、29〜40頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
ナノ複合体および他の用途での使用に適している新規な有機粘土物質を提供することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0027】
最初の実施態様では、本発明は、合成カチオン性有機スティーブンサイト粘土物質に関する。
【0028】
さらなる実施態様では、有機粘土物質は3の繰返し層の基本膨潤性スティーブンサイト粘土構造を含み、該3の繰返し層が、この基本3層構造の中央に、酸素および/または水酸基イオンによって八面体状に取り囲まれた実質的に2価の金属カチオンの層並びに当該八面体状に取り囲まれた層の両側に、四面体状に取り囲まれた4価のカチオンの層から成り、ここで八面体状に取り囲まれた層中のカチオンのサイトの少なくとも一部が占有されていなくて、それによって空位を生成し、かつ当該基本3層構造が、該3層構造の層間にまたは基礎的表面上に一般的に位置した1以上の有機カチオンをさらに含有している。
【0029】
四面体状に取り囲まれた4価イオン、たとえばケイ素を含有する2の層(四面体層)によって取り囲まれた、酸素によって八面体状に取り囲まれた金属イオンの中央層(八面体層)からなる基本3層板状結晶から、粘土物質はつくられており、かつ、数多くのこのような基本板状結晶は任意的に積層している。粘土板状結晶の大きさは、一般に0.01μm〜1μmで色々であり、積層された基本3層板状結晶の数は1の板状結晶から平均20の板状結晶まで色々であり、一方、八面体層中で好ましくは最大でも30原子%の金属イオンが空位によって置換されている。したがって、これらの層は、空位の故に正電荷が不足している。
【0030】
この正電荷の不足は、板状結晶間に存在するプロトンおよび/またはカチオン、たとえば有機カチオンによって補償される。
【0031】
2価イオンとして、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、コバルト(II)、鉄(II)、マンガン(II)、および/またはベリリウムが、好ましくは八面体層中に存在する。四面体層中には、ケイ素および/またはゲルマニウムが、4価の成分として存在する。板状結晶中に存在する水酸基の一部は、フッ素によって部分的に置換されることができる。
【0032】
本発明において、合成有機粘土物質は、八面体層中にZn、Mg、Co、Niまたはこれらの組み合わせを持つスティーブンサイトである。スティーブンサイトNX/ZZ+[M2+6−X*X][Si]O20(OH).nHOは、3八面体スメクタイトの種類に属し、空位を持ち、八面体状に配位された2価金属イオンからなり、両側をSiO四面体の四面体シートで覆われている。層間カチオンが電荷の補償のために存在する。
【0033】
これらの物質の利点はとりわけ、おそらく比較的低い電荷密度の故である、よりよい分散性およびずっとより容易な合成にある。
【0034】
本発明に従う合成スティーブンサイト粘土鉱物の調製は、驚くほど簡単である。もっとも広い意味において、本発明の合成に要求される成分、すなわち四面体層のためのケイ素(ゲルマニウム)の酸化物および八面体層のための2価イオンが、任意的にカチオン性有機化合物と組み合わされて、水性媒体中に与えられ、所望のpHに設定される。0.5〜2.5の初期pHが好まれる。この範囲を超えると、本発明のスティーブンサイトの調製は、より低度に最適な生成物をもたらす。この物質は、pHを所望の範囲内に維持しながら60〜350℃の温度にしばらくの間維持される。反応時間は温度、及びしたがって圧力に強く依存し、より高い温度はより短い反応時間を可能にする。実際には、比較的低い温度、すなわち60〜125℃では1〜72時間の程度までの反応時間が見出され、一方、150℃以上の範囲の温度では数分間〜約2.5時間の程度までの反応時間が十分であることができる。マグネシウムに基づいた物質の調製は、亜鉛に基づいた物質よりも長い反応時間を要求する。
【0035】
このようなプロセスは、成分の性質および所望の結果に応じて数多くの様式で実施されることができる。
【0036】
第1の変法に従って、調製のための出発物が、カチオン性有機物質を含む溶液として混合され、そして調製が起きる範囲にpHが調節される。調製のもっと後の段階でカチオン性有機化合物を加えることも可能である。
【0037】
引き続く加熱操作の間、たとえば尿素の加水分解を介して、よく撹拌された液体の表面下への中和剤の注入によって、または電気化学的手段を用いて、pHは実質的に一定に保たれる。
【0038】
しかし、迅速かつ適切な調製を達成するためには、2酸化ケイ素の存在下に八面体層中に取り込まれるべき金属イオンの溶液のpHを均等に増加することが好まれる。2酸化ケイ素の源として水ガラスを使用することが好まれる。その他の金属イオンの源は、非常に重要というほどではない。この選択は、コストおよび特定のアニオンの側面から主として決定され、特定のアニオンのあるものは、最終生成物から洗い出すのがより低度に容易であり、あるいは該物質の特定の用途を妨げるかも知れない。
【0039】
2の異なった金属イオンの存在下では、これらの金属イオンは八面体層中に一緒に取り込まれる。典型的な膨潤性粘土構造が、八面体層中に2価および空位が一緒に存在することによってもたらされる。pHが均等に増加されるときの温度は、形成される粘土板状結晶の大きさに影響する。比較的高い温度では、比較的大きい粘土板状結晶が形成される。八面体層中の金属の選択も板状結晶のサイズに影響する。たとえば、マグネシウムの使用は、亜鉛が使用されるときよりも小さいサイズ(長さ、厚さ)の板をもたらす。これらの金属の組み合わせを使用することによって、板のサイズは容易に調節されることができる。しかし、1段階合成では、亜鉛およびマグネシウムは両方とも、大きい板状結晶サイズを持つ同等の生成物をもたらすことが注記されるべきである。
【0040】
基本粘土板状結晶の積層化、すなわち基本3層系の数は、それから沈殿が生じる溶液のイオン強度によって決定される。たとえば硝酸ナトリウムの添加によって達成されることができる比較的高いイオン強度では、基本粘土板状結晶は比較的多く積層される。基本粘土板状結晶の積層化は、したがって粘土鉱物をもたらす反応が実施される溶液のイオン強度を設定することによって調節される。
【0041】
八面体層中に実質的に亜鉛イオンを持つ粘土鉱物の基本板状結晶の大きさは、約0.05〜0.2μmであり、一方、八面体層中に実質的にマグネシウムイオンを持つ場合の対応する大きさは、0.01〜0.03μmである。
【0042】
カチオン性有機物質は、最終物質が5〜35重量%の当該物質を含有するような量で出発溶液中に存在する。有機物質の量は、八面体層中の電荷不足分およびカチオン性有機物質の分子量によって主として決定される。
【0043】
好適なカチオン性有機物質は、各種のプロトン化されたアルキル−アリール−、アラルキル−およびアルカリール−アミン(第1級および第2級)、アルキルアリール−、アラルキル−およびアルカリール−ホスホニウム化合物並びにアルキルアリール−、アラルキル−およびアルカリール−スルホニウム化合物である。これらの化合物は、任意的に置換されていることができる。有機部分の性質は、最終物質の疎水性/親水性バランスを決定し、より重い部分は、より疎水性の特性をもたらす。アルキル−アリール−、アラルキル−およびアルカリール−部分は、任意的に置換されていることができることが注記されるべきである。
【0044】
好まれる実施態様では、本発明の方法は、(上述の)亜鉛またはマグネシウムスティーブンサイトを製造するのに使用され、この方法では溶液中の尿素の均等な分解によってpHが製造の間、調整される。カチオン性有機物質は好ましくは、プロトン化された形で使用されるオクタデシルアミンである。
【0045】
調製が終わった後、任意的に洗浄および乾燥の後で、生成物は水性相から分けられる。
【0046】
カチオン性有機物質の粘土への取り込みについては、色々な可能性が存在する。好まれる実施態様では、有機物質は出発溶液中に既に存在する。スティーブンサイトについては、これは非常に速い合成、有機物質が存在することなしの通常のスティーブンサイト合成よりも速い合成という驚くべき利点を持つ。
【0047】
しかし、合成の間のある時に、たとえば開始後ではあるが合成時間の約75%が経過してしまう前に有機物質を加えることも可能である。最後に、有機粘土スティーブンサイトの調製のために、該粘土が合成された後で、イオン交換技術を使用してスティーブンサイト中に有機物質を含めることも可能であることが注記されるべきである。
【0048】
有機粘土物質の特定の用途
上述のように、有機粘土物質は工業上種々の用途を持ち、より特には該物質は広く様々な重合体、プラスチックおよび樹脂のマトリクスに加えられて、高められた構造強度を有する本発明のナノ複合体物質を形成することができる。これらは、レオロジー添加剤として、難燃化添加剤として、または水精製用途に使用されることもできる。
【0049】
本発明の有機スティーブンサイト粘土物質は、極めて均質でありかつ信頼できる様式で製造するのが容易であるという有利な特性を持ち、それによってずっとより均質な最終製品または用途をもたらす。さらに、該物質の該特性は、これらがたとえば重合体中に、多分これらのより最適な電荷および電荷分布、疎水特性、層剥離特性並びにより最適なサイズおよび積層の故に、より容易に分散可能であるようなものである。
【0050】
本発明の粘土物質がその中に使用される好適な重合体は、ポリオレフィン、たとえばPPおよびPE、ナイロン、スチレン重合体、重縮合重合体、たとえばポリエステルおよびポリアミド(ナイロン)並びに塩化ビニル重合体から選ばれる。
【0051】
もっと特定すると、本発明の有機スティーブンサイト粘土物質は、各種の用途に、たとえばポリエチレン、より特にはLDPEのような重合体の熱的安定性を改善することにはっきりとした利点を持つことは注記されるべきである。さらなる利点は、各種ナイロンの遮水特性の改善である。
【0052】
本発明の有機スティーブンサイト粘土物質は、さらにカチオン染料および顔料を重合体組成物中に定着するのに使用されることができる。
【0053】
他の実施態様では、本発明の物質は、特定の物質中に調節された多孔度をつくり出すのに使用されることができる。有機スティーブンサイト粘土を物質中に分散させ、引き続いて(熱)処理をして粘土中の有機物質を除いて、調節された多孔度を得ることによって、これは達成されることができる。
【0054】
プラスチック用の添加剤としての使用では、プラスチックがその中で加工される装置、たとえば押出機に、有機粘土物質は直接加えられることができる。しかし、本発明の物質を最初にマスターバッチへと加工し、そのマスターバッチがその後にプラスチック加工装置に加えられることも可能である。
【0055】
理想的には、加工の間、個々の板状結晶は、重合体中に均一に分散して(層剥離)、(衝撃強度を維持しながら、引張強度、曲げ弾性率および熱変形温度を増加する)所望の有益な特性を与えるだろう。
【0056】
詳細な実施態様
【実施例】
【0057】
300グラムの水ガラス溶液(SiO27重量%)に2.5リットルの体積になるまで、水が加えられた。300グラムのZn(NO*6HOおよび尿素の両方が加えられ(体積3.3リットル)、そしてpHが濃硝酸で約1.5の値に調節された。該溶液は、バッフルの装備された撹拌された鋼鉄製反応器に加えられ、そして65〜70℃まで加熱された。酸性にされたジメチルオクタデシルアミンの熱い溶液(1リットル中にACROS社製87%品が90グラム。25mlの濃硝酸が多かれ少なかれ清澄な溶液を得るために使用された。)が、該溶液中に注ぎ込まれた。混合物が90℃まで加熱され、そして16〜20時間500rpmで撹拌された。洗浄および乾燥後、白い微細な粉体が得られ、性質は疎水性であった。収量230〜250g。
【0058】
表1は、異なった量のオクタデシルアミンを持つ実験室規模の2の生成物の元素分析から計算された結果を示す。いくつかの結論がこれらのデータから導かれることができる。すなわち、層間に電荷の補償のためのZn2+が存在しない故にZn/Si比は減少した。見出されたC/N比は約19〜20であり、層間中および板状結晶表面上のジメチルオクタデシルアンモニウム分子(C18N)と関連している。最初に存在したすべてのSiは収得物中に回収されたが、一方、約20%のZn2+は反応していなかった。しかし、このZn2+は、電荷の補償のために現に存在するC18Nと相関付けられることができる。各1のZn2+の不存在は、2分子のC18Nを要求し、したがって2のN/ΔZn2+比が予想されなければならない(表の注1を参照せよ)。これは実際にそうであり、その上、層間Zn2+を持つスティーブンサイトに対してZn/Si比を「計算し直す」と、0.75の理論値に近い値を与えた。すなわち、本発明者らは、純粋な相の有機スティーブンサイトを合成し、計算されたZn/Si比は、空位の存在によって低められた真の層比を反映している。1の結晶相のみを示すSEMおよびTEMは、これを裏付けた。
【0059】
【表1】

【0060】
18Nの量もZn/Si比に影響する。より多くのC18Nが存在すると、より多くの空位が生成される。最後に、計算されたカチオン交換容量(CEC)は約30〜50であり、モンモリロナイトの値(典型的には80〜120ミリ当量/粘土100グラム)よりもかなり低い。より長い合成時間が要求されるけれども、Zn2+の代わりにMg2+を使用して本発明の合成手順が適用されることもできる。
【0061】
TEMおよびSEMの結果は、増加された層間隔を持つ板状結晶の形態(モルホロジー)を示す。サイズは40〜100nmで色々であり、積層は低い。暗視野TEMは、高い結晶化度を裏付ける。
【0062】
興味深いことに、図1のXRDパターンは、市販のナノ粘土、たとえばSomatif(商標)およびCloisite(商標)と比較して低い強度を持つ広い001面反射を示し、これは(「厚さ」または積層数を表示する)c面の配列が有機スティーブンサイトではずっと低いことを表し、このことは最終ナノ複合体中での層剥離を達成するのに有利でありうる。層間にZn2+の代わりにC18Nが存在すると、001面反射の14Åから46Å(約2°の2θにおける広いピーク)への移動がもたらされた。初期pHの影響も示され、pH3では17〜20Åに広い肩が存在し、これは異なった層間挿入を表す。同様に、種々の積層された板状結晶の存在は、より広いPSDの一因となり、不十分なろ過特性をもたらす。BET表面積は、典型的には40〜80m/gであり、4nmの孔が存在する。合成混合物中の初期濃度が高ければ高いほど、より大きい凝集が観察され、より大きい孔の数の増加をもたらす。
【0063】
TGA/DSC測定の結果は図2に示される。800℃まで加熱すると、約30%が失われ、これは分解する層間C18N分子に帰せられることができる。
【0064】
最初の重量損失および対応する200〜280℃の熱放出は、吸着された弱く結合されたC18Nに帰せられることができ、これは多分微結晶の基礎的表面に位置している。もっと高められた/高い温度では、強く結合された化学種が分解し始める。365℃および380℃にDSCの極大値を持つ2のピークは、必ずしも常に2の別々のピークとしては存在せず(結果は示されていない)、これらはより強く結合されたアルキルアンモニウム種に対応する。
【図面の簡単な説明】
【0065】
本発明の合成有機粘土物質の小角XRDパターンおよびTGA/DSCの結果
【図1】異なった出発のpHを持つ有機スティーブンサイトおよび比較のためのZn−スティーブンサイトの小角XRDパターン
【図2】Zn−有機スティーブンサイトのTGA/DSCの結果

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成カチオン性有機スティーブンサイト粘土物質。
【請求項2】
3の繰返し層の基本膨潤性粘土構造を含み、該3の繰返し層が、この基本3層構造の中央に、酸素および/または水酸基イオンによって八面体状に取り囲まれた実質的に2価の金属カチオンの層、並びに当該八面体状に取り囲まれた層の両側に、四面体状に取り囲まれた4価のカチオンの層から成り、ここで八面体状に取り囲まれた層中のカチオンのサイトの少なくとも一部が占有されていなくて、それによって空位を生成し、かつ当該基本3層構造が1以上の有機カチオンをさらに含有する、請求項1に従う有機粘土物質。
【請求項3】
有機化合物が、プロトン化されたアルキル−アリール−、アラルキル−およびアルカリールアミン(第1級および第2級)、アルキル−アリール−、アラルキル−およびアルカリール−ホスホニウム化合物並びにアルキル−アリール−、アラルキル−およびアルカリール−およびスルホニウム化合物、より特にはC〜C18のn−アルキルアミンから選ばれてなる、請求項1〜2のいずれか1項に従う有機粘土物質。
【請求項4】
有機カチオン、好ましくはアルキルアミンを含有しているZn−またはMg−スティーブンサイト。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に従う合成有機スティーブンサイト粘土物質をその中に分散させているマトリクス物質を含んでいるナノ複合体物質。
【請求項6】
当該マトリクス物質が、ナイロン、ポリオレフィン、たとえばポリプロピレンおよびポリエチレン、重縮合重合体、たとえばポリエステルおよびポリアミド、スチレン重合体並びに塩化ビニル重合体から選ばれてなる、請求項5に従う物質。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に従う合成カチオン性有機粘土物質を製造する方法において、当該方法が、粘土構造またはその前駆体の無機イオンを含有する水性液体を用意すること、必要であれば該液体のpHを調整することそして該液体を粘土構造を生成するのに十分な温度でおよび時間にわたって加熱することを含み、当該方法が、有機粘土物質の製造プロセスの初めにまたはその間に、有機カチオン性物質を該水性液体に加えることをさらに含む、上記方法。
【請求項8】
溶液の初期pHが0.5〜2.5である、請求項7に従う方法。
【請求項9】
カチオン性有機物質が、粘土構造またはその前駆体の無機イオンを含有する当該水性液体中に存在する、請求項7〜8のいずれか1項に従う方法。
【請求項10】
カチオン性有機物質が、合成の開始後に、好ましくは合成時間の75%が経過してしまう前に加えられる、請求項7〜8のいずれか1項に従う方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−505806(P2007−505806A)
【公表日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526036(P2006−526036)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【国際出願番号】PCT/NL2004/000636
【国際公開番号】WO2005/026049
【国際公開日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(500586141)エンゲルハード コーポレーション (12)
【Fターム(参考)】