説明

合成樹脂製板状部材の強化方法

【課題】軽量でありながら強度も担保されており、車両用ドアの外板としても使用可能な合成樹脂製板状部材の強化方法を提供する。
【解決手段】合成樹脂製の板状部材11の内部に、シート状の繊維織物20をインサート成形により配している。繊維織物20の裏面側には、板状部材11の縦方向中央部において横方向に延在する中空筒部20aが一体的に織成されており、板状部材11の裏面側縦方向中央部に、横方向に延在する突条部11aを形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ドアの外板としても使用可能な合成樹脂製板状部材の強化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、図3に示すように、自動車のドア100の内部には、当該ドア100の強度を高めて側突時に車内空間をできるだけ保護するため、外板101とインナーパネル102との間の空間に、一般的にサイドビームと称される棒状や板状の金属製の補強部材110が配されている。このような技術として、例えば下記特許文献1や特許文献2がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−267632号公報
【特許文献2】特開平6−183258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、自動車においては燃費の向上や排気ガス低減等のために、従来から軽量化が求められている。これに対し特許文献1や特許文献2では、サイドビームを設けることで側突時の衝撃に対する強度は向上するが、その分ドアの重量延いては車両の重量が増大してしまう。また、サイドビームを設置する手間も要する。しかも、ドアのインナーパネルは樹脂製であることが多いが、外板は金属製なので、サイドビームを廃したとしてもドアの絶対的な重量を軽減することはできない。
【0005】
これを解決するには、単純には車両用ドアを合成樹脂製とすることが考えられる。しかし、合成樹脂製の板状部材は金属板に比べて剛性が劣るため、そのままでは自動車など衝撃に対する一定の強度が要求されるような外板としては使用することができない。
【0006】
そこで、本発明は上記課題を解決するものであり、軽量でありながら強度も担保されており、車両用ドアの外板としても使用可能な合成樹脂製板状部材の強化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのための手段として、本発明の合成樹脂製板状部材の強化方法は、合成樹脂製の板状部材の内部に、シート状の繊維織物をインサート成形により配している。当該繊維織物の裏面側には、中空筒部が一体的に織成されている。これによって、前記板状部材の裏面側に突条部が形成されている。当該中空筒部及びこれを覆う突条部は、前記板状部材の縦方向中央部において横方向に延在していることが好ましい。このような合成樹脂製板状部材は、車両用ドアの外板としても好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、金属板と比べて剛性が劣る合成樹脂製の板状部材の内部に、補強材としてシート状の繊維織物を配しているので、剛性を高めることができる。そのうえ、繊維織物の裏面側には中空筒部が形成され、これを覆う板状部材の裏面側には突条部が形成されていることで、車両用ドアの外板としても使用可能な程度に剛性をより向上することができる。詳しくは、ドアの断面係数が向上して強度が増すので、衝突の衝撃に対する強度も担保することができる。また、繊維織物は板状部材の成形時にインサート成形により配されているので、製造も容易である。
【0009】
このような板状部材を車両用ドアに適用すれば、ドア全体の絶対的な重量を軽減することができ、延いては車両全体の重量を軽減することができる。このとき、突条部の内部は繊維織物の筒部によって中空となっていることで、突条部を設けることによる重量増加を抑えることができる。当該突条部は従来のサイドビームと同様の機能を奏する部位であるが、板状部材にインサート成形された繊維織物の中空筒部によって必然的に形成されているので、突条部材を別途組み付ける等の手間を要さず製造も容易である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ドア外板の正面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】従来のドアの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の合成樹脂製板状部材は、種々の分野において特に制限無く使用可能であるが、優れた剛性を有することから、従来では使用不可能であった分野に適用することが好ましい。例えば、衝突に対する一定の強度が求められる車両用ドアの外板としても、好適に使用できる。
【0012】
車両用ドアとしては、典型的には自動車のドアが挙げられるが、他にも農業用車両や工業用車両などの特殊車両に適用することもできる。ドアとしては、車両の側面に配される一般的なサイドドアの他、車両の後面に配されるリアドアでもよい。サイドドアとして適用した場合は、車両側突に対して対応する。リアドアとして適用した場合は、車両後突に対して対応する。以下には、自動車のサイドドアに本発明のを適用した例を挙げて、本発明の具体的な実施の形態について説明する。
【0013】
ドア10の基本的構成は従来から公知の自動車用のドアと同様であり、図1に示すように、車両外面側に配される外板11と、これの裏面(車室側)に配されるインナーパネルとを有する。外板11とインナーパネルとは、ボルト留めやクリップ留め等により固定される。そのうえで、図1,2に示すように、外板11の内部には、シート状の繊維織物20が配されている。
【0014】
外板11は合成樹脂製であり、射出成形、圧縮成形、又は射出・圧縮成形等適当な成形法によって所定形状に成形される。合成樹脂としては、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリブチレンテレフタレート(PBT),ポリ(エチレン−2,6−ナフタレート)等のポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂(PE)、プロピレン−エチレン共重合体、ポリスチレン樹脂(PS)、芳香族ビニル系単量体と低級アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの共重合体,テレフタル酸−エチレングリコール−シクロヘキサンジメタノール共重合体,ポリメチルメタクリレート等の(メタ)アクリル樹脂、ポリアミド樹脂(PA)、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル・エチレン−プロピレン−ジエン・スチレン共重合体(AES)、アクリロニトリル・スチレン・アクリレート共重合体(ASA)、及びこれらのブレンド樹脂などを挙げることができる。
【0015】
繊維織物20を構成する繊維としては、織成できる程度の柔軟性を有する繊維であれば特に限定されず、金属繊維、合成樹脂繊維、天然繊維などを使用できる。中でも、軽量化を図る観点からは、合成樹脂繊維や天然繊維が好ましい。さらに環境負荷低減の観点からは、天然繊維が好ましい。天然繊維としては、綿、カポック、ケナフ、ラミー(苧麻)、リネン(亜麻)、アバカ(マニラ麻)、ヘネケン(サイザル麻)、ジュート(黄麻)、ヘンプ(大麻)、ヤシ、パーム、コウゾ、ワラ、バガスなどの繊維が挙げられる。合成樹脂繊維を使用する場合は、外板11を構成する合成樹脂よりも融点の高い樹脂を使用する。後述のように繊維織物20はインサート成形により配されているので、インサート成形時における溶融を避けるためである。
【0016】
繊維織物20は、外板11のほぼ全体に亘って配される程度の外形寸法(面積)を有していることが好ましい。これにより、外板11延いてはドア10の剛性を全体的に向上できるからである。繊維織物20の上下寸法は少なくとも外板11の1/2程度以上あればよいが、繊維織物20の左右幅寸法は外板11の左右両端部に至る寸法とする。
【0017】
さらに繊維織物20の裏面側には、中空な筒部20aが一体的に織成されている。これに伴い、外板11の裏面側には、筒部20aを覆う突条部11aが形成されている。なお、中空筒部は図1では当該繊維織物20の上下中央部(縦方向中央部)において左右(横方向)両端に亘って延在しているが、前記板状部材の補強であれば、中空な筒部20aが複数または、左右だけでなく上下又は斜めでも良く、前記板状部材の強度解析や破壊試験、生産性、コスト等を考慮して適宜に配置することが出来る。
【0018】
繊維織物20は、外板11を成形する際に、インサート成形により外板11の内部へ一体的に配される。具体的には、外板11を成形する際に、金型内へ予め繊維織物20を配しておく。このとき、筒部20aの型崩れを防止するため、当該筒部20aの中空空間内へ棒部材を挿通させておく。そのうえで、溶融樹脂を金型のキャビティ内へ注入し固化させることで、繊維織物20がインサートされており、且つ突条部11aを有する外板11を得ることができる。その後、棒部材を筒部20aから抜き出す。したがって、棒部材の表面には適宜離型剤等を塗布しておくことが好ましい。または、エアーや不活性ガス等の気体を筒部20aの中空空間内へ注入しながら成形したり、筒部20a内へエアバックを装填しておき、樹脂注入後にエアバックを膨らませて中空構造を形成することもできる。
【符号の説明】
【0019】
10 ドア
11 外板
11a 突条部
20 繊維織物
20a 筒部




【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製の板状部材の内部に、シート状の繊維織物をインサート成形により配し、
前記繊維織物の裏面側に中空筒部が一体的に織成されていることで、前記板状部材の裏面側に突条部を形成している、合成樹脂製板状部材の強化方法。
【請求項2】
前記中空筒部及びこれを覆う突条部は、前記板状部材の縦方向中央部において横方向に延在している、請求項1に記載の合成樹脂製板状部材の強化方法。
【請求項3】
前記合成樹脂製板状部材は車両用ドアの外板である、請求項1または請求項2に記載の合成樹脂製板状部材の強化方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−214200(P2012−214200A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150745(P2011−150745)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(308031108)内浜化成株式会社 (18)