説明

吊り下げ装置

【課題】電動機を備えなくとも、電動機を備えるホイスト装置の特徴である重量物の上下動および任意位置での停止を可能とする吊り下げ装置を提供する。
【解決手段】吊り下げ装置1の外部入力機構60は、外部入力をドラム30に伝達する構成である。遊星歯車65は、太陽歯車64に噛合され、太陽歯車64の廻りに公転可能に支持され、内蔵するワンウェイクラッチの作用によって反時計回りには回転するが時計回りには回転しないようになっており、太陽歯車64が時計回りに回転すると太陽歯車64の廻りを時計回りに公転して減速歯車66に当接して噛合してそれ以降は反時計回りに回転し、一方、太陽歯車64が反時計回りに回転すると太陽歯車64の廻りを反時計回りに公転することで減速歯車66から離間して減速歯車66との噛合が解消される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊り下げた物体を上下方向に移動させる吊り下げ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車用ドアなどの重量物を吊り下げて上下方向に移動させる吊り下げ装置が知られている。
例えば、吊り下げ装置の一例としてホイスト装置が挙げられる。
【0003】
この種のホイスト装置は、電動機に回転駆動される巻胴と、巻胴を囲う枠体と、一端が巻胴に係合するとともに他端が枠体に支持部材を介して吊持されるワイヤロープに吊持されるフックブロックと、を備え、巻胴の正転および逆転によってフックブロックが上下動するよう構成され、重量物をフックブロックに吊り下げて上下動させるとともに任意の位置で停止させることができるようになっている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−148192号公報(第1頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述のようなホイスト装置においては、重量物をフックブロックに吊り下げて上下動させるとともに任意の位置で停止させるために、巻胴を回転駆動する電動機を備えるため、次の(1)〜(3)のような問題があった。
【0006】
(1)電動機を作動させるために電力が必要であり、電動機に電力を供給する電源、電動機を操作するための操作スイッチなども必要であった。
(2)電動機や、電源、操作スイッチなどを備えるために、製造費用や設置費用、電気代、維持費用などのコストが高くなっていた。
【0007】
(3)操作スイッチを作業者の手元に配置するため、操作スイッチを枠体から吊り下げておく必要があった。
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、電動機を備えなくとも、電動機を備えるホイスト装置の特徴である重量物の上下動および任意位置での停止を可能とする吊り下げ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた請求項1に係る吊り下げ装置は、物体を吊り下げて上下方向に案内可能な案内部と、前記物体を上昇させる付勢力を前記案内部に入力する付勢部と、を備える吊り下げ装置であって、第一の入力および第二の入力を入力可能な入力部と、前記入力部への前記第一の入力によって前記案内部に係合して前記物体の上昇を阻止するとともに前記第一の入力を前記物体を下降させる力として前記案内部に伝達し、一方、前記入力部への前記第二の入力によって前記案内部から離間して前記第二の入力を前記案内部に伝達せず前記物体の上下方向の移動を許容する伝達部と、を特徴とする。
【0009】
このように構成された本発明の吊り下げ装置によれば、次のような作用効果を奏する。
すなわち、入力部へ第二の入力が入力されると、伝達部が、第二の入力によって案内部から離間して、第二の入力を案内部に伝達せず、物体の上下方向の移動を許容する。つまり、重量物が上下動可能な状態となる。このとき、物体の重量と付勢部による付勢力とが均衡するまで物体が案内部に案内されて上下動する。
【0010】
なお、物体を下降させるには、入力部へ第一の入力が入力されると、伝達部が、入力部への第一の入力によって案内部に係合して第一の入力を物体を下降させる力として案内部に伝達する。したがって、物体を下降させることができる。
【0011】
また、入力部へ第一の入力が入力されると、伝達部が、入力部への第一の入力によって案内部に係合して物体の上昇を阻止する。このとき、付勢部が物体を上昇させる付勢力を案内部に入力しているので、物体をその位置で停止させることができる。なお、この位置から物体を上昇させるには第二の入力を入力部へ入力すればよく、下降させるには第一の入力を入力部へ入力すればよい。
【0012】
したがって、本発明の吊り下げ装置によれば、電動機を備えなくとも、電動機を備えるホイスト装置の特徴である重量物の上下動および任意位置での停止を可能とすることができる。
【0013】
請求項2に係る吊り下げ装置は、請求項1に記載の吊り下げ装置において、前記案内部は、前記物体を吊り下げ可能なロープが巻回され、前記ロープを引き出す前記引出方向および前記ロープを巻き取る巻取方向へ回転可能なドラムを有し、前記付勢部は、前記巻取方向へ前記ドラムを付勢して回転させることで前記物体を上昇させる付勢力を発揮し、前記伝達部は、前記入力部への前記第一の入力によって前記ドラムに係合して前記ドラムの前記巻取方向への回転を阻止するとともに前記第一の入力を前記ドラムを前記引出方向へ回転させる力として前記ドラムに伝達し、前記入力部への前記第二の入力によって前記ドラムから離間して前記第一の入力を前記ドラムに伝達せず前記ドラムの前記引出方向への回転および前記巻取方向への回転を許容することを特徴とする。
【0014】
このように構成された本発明の吊り下げ装置によれば、案内部が物体を吊り下げ可能なロープをドラムに巻回する構成となり、例えば案内部が物体を吊り下げ可能なフックを直線状のレールで上下方向に案内する構成である場合に比べて、案内部の上下方向の長さ寸法を小さくできるなど案内部がコンパクトとなり、装置の設置に有利となる。
【0015】
請求項3に係る吊り下げ装置は、請求項1または請求項2の何れか1項に記載の吊り下げ装置において、前記入力部は、回転可能であり、前記第一の入力が一方の方向への回転として入力されるとともに前記第二の入力が他方の方向への回転として入力されることを特徴とする。
【0016】
このように構成された本発明の吊り下げ装置によれば、入力部が回転可能な構成となるので、例えば入力部が上下方向に移動する構成である場合に比べて、入力部の上下方向の長さ寸法を小さくできるなど入力部がコンパクトになり、装置の設置に有利である。
【0017】
また、例えば入力部に取り付けたプーリをボールチェーンなどで回転させるようにすれば、操作性も良い。
請求項4に係る吊り下げ装置は、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の吊り下げ装置において、前記伝達部は、前記第一の入力を所定の比率で減速して前記案内部に伝達する入力減速部を有することを特徴とする。
【0018】
このように構成された本発明の吊り下げ装置によれば、小さい入力で物体を下降させることができるので、利用者の負担を更に軽減することができる。
請求項5に係る吊り下げ装置は、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の吊り下げ装置において、前記物体の上昇速度が大きくなると制動力を発揮して減速させる遠心式ブレーキを備えることを特徴とする。
【0019】
このように構成された本発明の吊り下げ装置によれば、付勢部の付勢力によって物体が勢い良く上昇することがなくなり、当該吊り下げ装置や周囲の構造物に衝突するなど物体に衝撃が加わって破損することを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】吊り下げ装置1を正面から見た外観図である。
【図2】図1におけるAA断面図である。
【図3】吊り下げ装置1の外部入力機構60を示す概略構成図(1)である。
【図4】吊り下げ装置1の外部入力機構60を示す概略構成図(2)である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の実施形態を図面とともに説明する。なお、本発明は下記実施形態に限定されるものではなく、様々な態様にて実施することが可能である。
[1.吊り下げ装置1の構成の説明]
図1に示すように、本実施形態の吊り下げ装置1は、ケース10内にて、固定軸20の軸回りに回転可能なドラム30にワイヤーロープ40を巻回するとともにぜんまいばね50(図1では省略、図2参照)でバランス用回転力を与え、ワイヤーロープ40の端部41に吊り下げた自動車用ドアなどの物体(以下、自動車用ドアS、図3および図4で図示)を任意の位置に停止できるように構成されている。また、吊り下げ装置1は、外部入力をドラム30に伝達する構成である外部入力機構60を内蔵している(図3および図4参照)。
【0022】
以下、吊り下げ装置1の構成を順に説明する。
[1.1.ケース10の構成の説明]
ケース10は、ケース本体11、蓋部12、フック14、などで構成される。このうちケース本体11は、その一部が開口する箱形状に形成されている。一方、蓋部12は、その一部が開口するとともにその内部に空間が形成された箱形状に形成され、ケース本体11の開口部を塞ぐことが可能である。なお、蓋部12はビス(図示省略)によってケース本体11に固定されている。
【0023】
また、ケース10の上部には、吊り下げ装置1を吊り下げるための鉤状のフック14が回動可能に取り付けられている。
また、ケース10の上部には、吊り下げ装置1の落下防止用の補助孔15がケース本体11および蓋12を貫通するよう形成されている。
【0024】
さらに、蓋部12の下面には、ワイヤーロープ40を挿通するための長孔状の開口部12aが下方に向けて形成されている。この開口部12aにはワイヤーロープ40が挿通される。
【0025】
[1.2.固定軸20の構成の説明]
また、図2に示すように、ケース本体11の底部11fの中央部には、円柱状の固定軸20がケース本体11の底部11fに対して垂直な姿勢で取り付けられている。
【0026】
[1.3.ドラム30、ワイヤーロープ40およびぜんまいばね50の構成の説明]
また、ケース10の内部では、固定軸20の中央部20dにドラム30が回転可能に支持されている。具体的には、ドラム30は略円錐台形状に形成され、蓋部12の円錐台形に形成された部分に沿うようにケース10の内部に収納され、固定軸20の中央部20dに回転可能に取り付けられている。
【0027】
また、ドラム30の周面30aには螺旋状の溝30bが正面から見て(ケース10の蓋部12側から見て)右巻きに形成されている。この溝30bの外端部(図示省略)にはワイヤーロープ40の一方の端部に取り付けられたエンド(図示省略)が引っ掛けられ、溝30bにはワイヤーロープ40が巻回されている。そして、上述のように溝30bに巻回されるワイヤーロープ40の他方の端部41は、ケース10の蓋部12に形成された長孔状の開口部12a(図1参照)に挿通される。
【0028】
なお、ワイヤーロープ40の他方の端部(図示省略)には、自動車用ドアSを吊り下げるための取付金具が取り付けられている(図1参照)。
また、ドラム30の周面30aは、ぜんまいばね50のばね定数に相応した傾斜になっており、ワイヤーロープ40が繰り出されてぜんまい50のばね力が強くなったとき、ワイヤーロープ40の巻回されている箇所の半径が大きくなって、自動車用ドアSのどの昇降位置においても、ぜんまいばね50のばね力によるドラム30に対するトルクと、自動車用ドアSの重力によるドラム30に対するトルクとがバランスするようになっている。
【0029】
また、ドラム30の内部には空間が形成されており、ドラム30の後側には円形の開口部30cが形成されている。そして、ドラム30の内部には、ぜんまいばね50が内装されている。このぜんまいばね50は、薄板状のばね材を渦巻き状に巻いた構成を有している。そして、ぜんまいばね50は、正面から見て左巻きとなる状態で、内端部が固定軸20の中央部20dに接続されるとともに外端部がドラム30に接続されており、ドラム30をワイヤーロープ40を巻き取る方向である巻取方向に付勢して、自動車用ドアSとバランスするばね力を有している。
【0030】
[1.4.外部入力機構60の構成の説明]
また、ケース10の内部では、固定軸20の後端付近に外部入力機構60が取り付けられている。
【0031】
具体的には、外部入力機構60は、図3に示すように、外部入力をドラム30に伝達する構成であり、入力軸61と、入力軸側歯車62と、ドラム側歯車63と、太陽歯車64と、遊星歯車65と、減速歯車66と、から構成される。
【0032】
入力軸61は、中心軸が固定軸20およびドラム30の回転軸と平行な姿勢でケース10に回転可能に支持されている。
なお、入力軸61を回転させる方法として、例えば入力軸61の先端に、ケース10の外部でプーリ(図示省略)を取り付け、プーリに係合させたボールチェーン(図示省略)などを操作することが考えられる。このようにすれば、小さな力で入力軸61を回転させることができる。また、このようにボールチェーンを採用することで、作業者の手の届かない高所への取り付けが可能となる。
【0033】
なお、以下の説明では、入力軸61を回転させる構成として上述のプーリおよびボールチェーンを用いた例を挙げる。プーリおよびボールチェーンの図示は省略する。
入力軸側歯車62は、入力軸61に取り付けられ、入力軸61と一体回転するようになっている。
【0034】
ドラム側歯車63は、ドラム30の回転軸と同軸上でドラム30の裏側に取り付けられ、ドラム30と一体回転するようになっている。なお、ドラム側歯車63の歯数は、入力軸側歯車62の歯数に対して所定の比率で大きく設定されており、入力軸61および入力軸側歯車62の回転に対する減速効果を発揮することができる。
【0035】
太陽歯車64は、入力軸側歯車62に噛合され、ケース10に回転可能に支持されている。
遊星歯車65は、太陽歯車64に噛合され、太陽歯車64の廻りに公転可能に支持されている。また、遊星歯車65には、公知のワンウェイクラッチが内蔵されており、反時計回りには回転するが時計回りには回転しないようになっている。
【0036】
そして、遊星歯車65は、太陽歯車64が時計回りに回転すると、太陽歯車64の廻りを時計回りに公転して減速歯車66に当接して噛合し、それ以降は反時計回りに回転する。また、遊星歯車65は、太陽歯車64が反時計回りに回転すると、太陽歯車64の廻りを反時計回りに公転することで減速歯車66から離間して、減速歯車66との噛合が解消される。
【0037】
減速歯車66は、ドラム側歯車63に噛合され、ケース10に回転可能に支持されている。なお、減速歯車66の歯数は、遊星歯車65の歯数に対して所定の比率で大きく設定されており、遊星歯車65の回転に対する減速効果を発揮することができる。また、減速歯車66には、公知の遠心式ブレーキ66aが内蔵されており、減速歯車66の回転速度が大きくなると制動力を発揮して減速歯車66の回転速度を減速させるようになっている。
【0038】
なお、本実施形態では、ドラム30およびワイヤーロープ40が案内部に相当し、入力軸61が特許請求の範囲の入力部に相当し、入力軸側歯車62、ドラム側歯車63、太陽歯車64、遊星歯車65および減速歯車66が特許請求の範囲の伝達部に相当する。
【0039】
[2.吊り下げ装置1の動作の説明]
次に、吊り下げ装置1の動作について説明する。
(1)吊り下げ装置1の設置
図1に示す吊り下げ装置1を使用するには、吊り下げ装置1をフック14や天井や壁などに吊り下げる。このとき、落下防止用の補助孔15を用いて、天井や壁などにワイヤーなどで取り付けておくとよい。
【0040】
(2)自動車用ドアSの取り付け
続いて、吊り下げ装置1に自動車用ドアSを吊り下げる。具体的には、自動車用ドアSに専用の取付金具(図示省略)を用いて自動車用ドアSをワイヤーロープ40の端部41に取り付けて吊り下げると、自動車用ドアSの自重によってワイヤーロープ40が引かれ、ワイヤーロープ40が引き出される引出方向へドラム30が回転する。ドラム30が引出方向に回転すると、これに伴ってぜんまいばね50が巻き締まっていく(ぜんまいばね50については図2を参照)。そして、自動車用ドアSの自重によるドラム30の引出方向への回転力と、ぜんまいばね50のばね力とがバランスすると、ドラム30の引出方向への回転が停止する。
【0041】
なお、吊り下げ装置1が高所に設置されている場合には、入力軸61の先端に取り付けられたボールチェーンを操作して入力軸61を反時計回りに回転させると、入力軸61に取り付けられた入力軸側歯車62が入力軸61とともに反時計回りに回転するとともに、入力軸側歯車62に噛合する太陽歯車64が時計回りに回転し、太陽歯車64に噛合する遊星歯車65が太陽歯車64の廻りを時計回りに公転して減速歯車66に当接して噛合し(図3参照)、以降は反時計回りに回転する。そして、遊星歯車65に噛合する減速歯車66が時計回りに回転するとともに、減速歯車66に噛合するドラム側歯車63が反時計回りに回転し、ドラム側歯車63が取り付けられるドラム30も反時計回りに回転して、ワイヤーロープ40がドラム30から引き出される。
【0042】
ワイヤーロープ40の端部41および取付金具が所望の位置になったら、ボールチェーンの操作を止めて入力軸61への回転入力を停止し、自動車用ドアSを吊り下げる。
なお、遊星歯車65にはワンウェイクラッチが内蔵されており、遊星歯車65が時計回りに回転しないようになっているため、減速歯車66が反時計回りへ回転せず、ドラム側歯車63およびドラム30も時計回りへ回転しない。このため、遊星歯車65が減速歯車66に噛み合っている間は、ワイヤーロープ40がドラム30に巻き取られず、ワイヤーロープ40の下端の取付金具41に取り付けられた自動車用ドアSが急に上昇することはない。
【0043】
(3)自動車用ドアSの停止
ここで、自動車用ドアSを現在の位置に停止させておくには、遊星歯車65が減速歯車66に噛合されていれば、入力軸61の反時計回りへの回転を停止することで、自動車用ドアSを現在の位置に停止させておくことができる。
【0044】
一方、遊星歯車65が減速歯車66に噛合していない場合には、上述のように入力軸61の先端に取り付けられたボールチェーンを操作して入力軸61を反時計回りに回転させることで、遊星歯車65を太陽歯車64の廻りを時計回りに公転させて減速歯車66に噛合させる(図3参照)。そして、入力軸61の反時計回りへの回転を停止すれば、自動車用ドアSを現在の位置に停止させておくことができる。
【0045】
(4)自動車用ドアSの上昇
また、ワイヤーロープ40の端部41に取付金具を用いて取り付けられた自動車用ドアSを上昇させることが可能な状態にするためには、ぜんまいばね50のばね力が自動車用ドアSの重量よりも大きい状態であることが前提となるが、入力軸61の先端に取り付けられたボールチェーンを操作して入力軸61を時計回りに回転させると、入力軸61に取り付けられた入力軸側歯車62が入力軸61とともに時計回りに回転するとともに、入力軸側歯車62に噛合する太陽歯車64が反時計回りに回転し、太陽歯車64に噛合する遊星歯車65が太陽歯車64の廻りを反時計回りに公転して減速歯車66から離間し(図4参照)、減速歯車66との噛合が解消される。すると、減速歯車66が反時計回りへ回転可能となり、ドラム側歯車63およびドラム30も時計回りへ回転可能となるので、ぜんまいばね50の付勢力によってドラム30が時計回りに回転して、ワイヤーロープ40がドラム30に巻き取られ、ワイヤーロープ40の端部41に取付金具を用いて取り付けられた自動車用ドアSが上昇することが可能となる。
【0046】
(5)自動車用ドアSの下降
自動車用ドアSを下方に移動させるには、自動車用ドアSに手が届く場合には、吊り下げられた自動車用ドアSを下方へ引き下げればよい。
【0047】
このとき、ワイヤーロープ40が引かれ、ワイヤーロープ40が引き出される引出方向へドラム30が回転する。また、ドラム30が引出方向に回転するに従ってぜんまいばね50が巻き締まっていき、ぜんまいばね50がドラム30を巻取方向に回転させようとする付勢力が増加する。よって、自動車用ドアSを引き下げる力を弱めると、ぜんまいばね50による付勢力によってドラム30が巻取方向へ回転し、自動車用ドアSの自重とバランスするまでワイヤーロープ40がドラム30に巻き取られ、自動車用ドアSが上昇する。
【0048】
なお、減速歯車66には、公知の遠心式ブレーキ66aが内蔵されており、減速歯車66の回転数が大きくなると制動力を発揮して減速歯車66の回転を減速させるので、ワイヤーロープ40がドラム30に巻き取られる回転速度が低減され、ワイヤーロープ40の下端の取付金具41に取り付けられた自動車用ドアSが上昇する速度も低減される。
【0049】
一方、自動車用ドアSに手が届かない場合には、上述のように入力軸61の先端に取り付けられたボールチェーンを操作して入力軸61を反時計回りに回転させることで、遊星歯車65を太陽歯車64の廻りを時計回りに公転させて減速歯車66に噛合させる(図3参照)。そして、更にボールチェーンを操作して入力軸61を反時計回りに回転させることで、ドラム30が反時計回りに回転してワイヤーロープ40がドラム30から引き出され、自動車用ドアSが下降する。このとき、ドラム30が引出方向に回転するに従ってぜんまいばね50が巻き締まっていき、ぜんまいばね50がドラム30を巻取方向に回転させようとする付勢力が増加する。
【0050】
なお、遊星歯車65が減速歯車66に噛合しているので、自動車用ドアSから手を離してもドラム30が巻取方向には回転しない。
(6)自動車用ドアSの取り外し
自動車用ドアSを取り外すと、遊星歯車65が減速歯車66に噛合していない場合には、ぜんまいばね50による付勢力によってドラム30が巻取方向へ急激に回転することになるが、上述の減速歯車66に内蔵される遠心式ブレーキ66aの作用により、減速歯車66の回転数が大きくなると制動力を発揮して減速歯車66の回転速度を減速させるので(図4参照)、ワイヤーロープ40がドラム30に巻き取られる回転速度が制限される。
【0051】
一方、遊星歯車65が減速歯車66に噛合している場合には、自動車用ドアSを取り外しても、ドラム30が巻取方向には回転しない。
[3.実施形態の効果]
(1)このように本実施形態の吊り下げ装置1によれば、吊り下げた自動車用ドアSの上下動および任意位置での停止が可能であるので、電動機を備えなくとも、電動機を備えるホイスト装置の特徴である重量物の上下動および任意位置での停止を可能とすることができる。
【0052】
(2)また、本実施形態の吊り下げ装置1によれば、自動車用ドアSを吊り下げ可能なワイヤーロープ40をドラム30に巻回する構成となり、例えば物体を吊り下げ可能なフックを直線状のレールで上下方向に案内する構成に比べて、当該吊り下げ装置1の上下方向の長さ寸法を小さくできるなど当該吊り下げ装置1がコンパクトとなり、当該吊り下げ装置1の設置に有利となる。
【0053】
(3)また、本実施形態の吊り下げ装置1によれば、入力部に相当する外部入力機構60の入力軸61が回転可能な構成となるので、例えば入力部が上下方向に移動する構成である場合に比べて、外部入力機構60の上下方向の長さ寸法を小さくできるなど外部入力機構60がコンパクトになり、当該吊り下げ装置1の設置に有利である。
【0054】
また、例えば外部入力機構60の入力軸61に取り付けたプーリをボールチェーンなどで回転させるようにすれば、操作性も良い。
(4)また、本実施形態の吊り下げ装置1によれば、外部入力機構60においてドラム側歯車63の歯数が入力軸側歯車62の歯数に対して所定の比率で大きく設定されているので、入力軸61および入力軸側歯車62の回転に対する減速効果を発揮することができ、小さい入力で自動車用ドアSを下降させることができ、利用者の負担を更に軽減することができる。
【0055】
(5)また、本実施形態の吊り下げ装置1によれば、外部入力機構60において減速歯車66の歯数が遊星歯車65の歯数に対して所定の比率で大きく設定されているので、遊星歯車65の回転に対する減速効果を発揮することができ、小さい入力で自動車用ドアSを下降させることができ、利用者の負担を更に軽減することができる。
【0056】
(6)また、本実施形態の吊り下げ装置1によれば、外部入力機構60の減速歯車66に遠心式ブレーキ66aが内蔵されており、減速歯車66の回転速度が大きくなると制動力を発揮して減速歯車66の回転速度を減速させるので、ぜんまいばね50の付勢力によって自動車用ドアSが勢い良く上昇することがなくなり、当該吊り下げ装置1や周囲の構造物に衝突するなど自動車用ドアSに衝撃が加わって破損することを防ぐことができる。
【0057】
(7)また、本実施形態の吊り下げ装置1によれば、ドラム30の大きさやワイヤーロープ40の強度、ぜんまいばね50のばね定数の設定内容を変更することにより自動車用ドアSだけでなく様々な重量物や作業工具といった比較的軽量の物体を吊り下げることができる。
【符号の説明】
【0058】
1…吊り下げ装置、10…ケース、11…ケース本体、12…蓋部、14…フック、15…補助孔、20…固定軸、30…ドラム、40…ワイヤーロープ、50…ぜんまいばね、60…外部入力機構、61…入力軸、62…入力軸側歯車、63…ドラム側歯車、64…太陽歯車、65…遊星歯車、66…減速歯車、66a…遠心式ブレーキ、S…自動車用ドア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体を吊り下げて上下方向に案内可能な案内部と、
前記物体を上昇させる付勢力を前記案内部に入力する付勢部と、
を備える吊り下げ装置であって、
第一の入力および第二の入力を入力可能な入力部と、
前記入力部への前記第一の入力によって前記案内部に係合して前記物体の上昇を阻止するとともに前記第一の入力を前記物体を下降させる力として前記案内部に伝達し、一方、前記入力部への前記第二の入力によって前記案内部から離間して前記第二の入力を前記案内部に伝達せず前記物体の上下方向の移動を許容する伝達部と、
を特徴とする吊り下げ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の吊り下げ装置において、
前記案内部は、前記物体を吊り下げ可能なロープが巻回され、前記ロープを引き出す前記引出方向および前記ロープを巻き取る巻取方向へ回転可能なドラムを有し、
前記付勢部は、前記巻取方向へ前記ドラムを付勢して回転させることで前記物体を上昇させる付勢力を発揮し、
前記伝達部は、前記入力部への前記第一の入力によって前記ドラムに係合して前記ドラムの前記巻取方向への回転を阻止するとともに前記第一の入力を前記ドラムを前記引出方向へ回転させる力として前記ドラムに伝達し、前記入力部への前記第二の入力によって前記ドラムから離間して前記第一の入力を前記ドラムに伝達せず前記ドラムの前記引出方向への回転および前記巻取方向への回転を許容すること
を特徴とする吊り下げ装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2の何れか1項に記載の吊り下げ装置において、
前記入力部は、回転可能であり、前記第一の入力が一方の方向への回転として入力されるとともに前記第二の入力が他方の方向への回転として入力されること
を特徴とする吊り下げ装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の吊り下げ装置において、
前記伝達部は、
前記第一の入力を所定の比率で減速して前記案内部に伝達する入力減速部を有すること
を特徴とする吊り下げ装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の吊り下げ装置において、
前記物体の上昇速度が大きくなると制動力を発揮して減速させる遠心式ブレーキを備えることを特徴とする吊り下げ装置。
【請求項6】
物体を吊り下げて上下方向に案内可能な案内部と、
前記物体を上昇させる付勢力を前記案内部に入力する付勢部と、
を備える物体吊下装置であって、
第一の入力によって前記物体の下降を阻止するとともに前記第一の入力を前記物体を上昇させる力として前記案内部に伝達し、一方、第二の入力によって前記物体の上下方向の移動を許容すること
を特徴とする吊り下げ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−201441(P2012−201441A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65931(P2011−65931)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(592159966)中発販売株式会社 (10)