説明

吊り天井

【課題】地震時に生じる天井の揺れを抑えて、天井を構成する部材の損傷を防ぐ、簡易で低コストの吊り天井を提供する。
【解決手段】外乱によって天井に発生する慣性力を構造躯体24へ伝えるように斜め部材20が設けられ、連結手段42によって斜め部材20と天井を支持する支持梁14とが連結されている。連結手段42は、保持部材46、48とエネルギー吸収手段50とを有する。外乱により天井に発生した慣性力は、支持梁14、エネルギー吸収手段50、保持部材46、48、斜め部材20、構造躯体24の順に伝達され、連結手段42に力が集中して支持梁14と保持部材46、48とが水平方向に相対移動する。この相対移動を生じさせている振動エネルギーは、エネルギー吸収手段50によって吸収される。よって、外乱によって生じる天井の応答変位及び応答加速度(慣性力)を低減し、天井を構成する部材の損傷を防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振機能を有する吊り天井に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、建物の天井には、工期短縮や品質確保が可能なシステム天井が用いられる。
【0003】
図13のシステム天井200に示すように、通常のシステム天井は、メインTバー202、クロスTバー204、孫Tバー206、吊りボルト208、ブレース材210、及び天井板212で構成されている。
【0004】
吊りボルト208は、上層の構造躯体214から垂下されている。また、この吊りボルト208の下端部にメインTバー202が吊りボルトハンガー216によって取り付けられている。
【0005】
吊りボルトハンガー216は、図14、15に示すように、対向するアルミ製の板部材222、224によってメインTバー202を挟み込む。これにより、板部材222とメインTバー202との間、及び板部材224とメインTバー202との間に摩擦力を生じさせて、メインTバー202を保持する構造になっている。
【0006】
メインTバー202を挟み込む力は、メインTバー202上端部の上方の位置で、板部材222、224にそれぞれ形成された貫通孔に貫通させたボルト226をナット232に螺合し、ボルト226を締め付けることによって与える。
【0007】
メインTバー202の上部220は中空加工されており、その外形厚さは中間部252よりも厚くなっている。また、板部材222、224は、このメインTバー202の外形に概ね沿う形状になっている。これによって、ボルト226を締め付けたときに、メインTバー202が吊りボルトハンガー216に確実に保持される。
【0008】
板部材224は板部材222よりも上方に長く延びており、板部材224の上部は水平な支持部228を形成するように折り曲げられている。そして、この支持部228に形成された貫通孔に吊りボルト208を貫通させて、吊りボルト208に螺合したナット230により支持部228の上下両側から締め付ける。これによって、吊りボルト208に吊りボルトハンガー216を固定する。
【0009】
また、図13に示すように、クロスTバー204がメインTバー202間に橋渡されるように設置され、孫Tバー206がクロスTバー204間に橋渡されるように設置されている。
【0010】
そして、天井板212は、その外周縁部がメインTバー202、クロスTバー204、孫Tバー206の底部に設けられた鍔部202A、204A、206Aに支持されて天井面を形成している。
【0011】
システム天井200の天井の外周縁部と側壁234との間には、地震時に天井の外周縁部と側壁234との間に生じる相対変位を吸収する間隙部236が形成されている。側壁234は、図13に示すように、構造躯体214の側壁であってもよいし、間仕切り壁等の非構造躯体であってもよい。
【0012】
システム天井200の耐震性は、ブレース材210を一方の吊りボルト208の上方から他方の吊りボルト208の下方に渡って斜めに配置し、ブレース材210と吊りボルト208を溶接等で接合することで、システム天井200全体の水平剛性を高めて確保している。
【0013】
また、ブレース材210の下端部を吊りボルトハンガー216に接合したり、吊りボルトハンガー216と同様の構造の取付金物によってブレース部材210の下部と、メインTバー202、クロスTバー204、又は孫Tバー206とを接合してシステム天井200全体の水平剛性を高めている場合もある。
【0014】
しかし、システム天井200の構造では、地震等により発生する振動エネルギーをほとんど吸収することができない。
【0015】
よって、大地震が発生した場合には、システム天井200の天井に過大な慣性力が作用するために天井が大きく揺れて、吊りボルトハンガー216の緩み、ブレース材210の座屈等が起こる。
【0016】
さらには、間隙部236がシステム天井200の天井の外周縁部と側壁234との間に生じる相対変位を吸収しきれなくなったときには、天井の外周縁部が側壁234に当たって外周縁部や側壁234が損傷することも考えられる。
【0017】
特許文献1の吊り天井の制振構造では、図16に示すように、上層の構造躯体238から垂下された支承部材240によって天井部材242が支持されている。
【0018】
また、天井部材242と構造躯体238の側壁244との間に、間隙部246が形成され、この間隙部246に伸縮可能な変形吸収部材248が設けられている。
【0019】
さらに、天井部材242と構造躯体238との間には、水平方向の振動を吸収する制振ダンパー250が設置されている。
【0020】
天井部材242と構造躯体238の側壁244との間に間隙部246を形成しているので、地震時に天井部材242は水平方向に大きく振動するが、制振ダンパー250によってこの振動が効果的に低減される。
【0021】
また、地震時に天井部材242の外周縁部と構造躯体238の側壁244との間に生じる水平方向の相対変位を間隙部246によって吸収することができる。
【0022】
しかし、従来のシステム天井にはなかった制振ダンパー250を新たに多数設置する必要があり、コスト高になってしまう。
【0023】
また、改修工事において、既にブレース材が設置されている場所に制振ダンパー250を設ける必要がある場合にはブレース材を取り外す必要があり、不要となったブレース材の廃棄作業も行わなければならない。
【特許文献1】特開2005−240538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明は係る事実を考慮し、地震時に生じる天井の揺れを抑えて、天井を構成する部材の損傷を防ぐ、簡易で低コストの吊り天井を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
請求項1に記載の発明は、構造躯体から吊下されて、天井を形成する天井板及び設備機器の少なくとも一方を支持する支持梁と、前記天井の外周縁部と壁との間に形成された間隙部と、外乱により前記天井に発生する慣性力を前記構造躯体へ伝えるように設けられた斜め部材と、前記斜め部材に設けられて、前記斜め部材と前記支持梁とを連結する連結手段と、を備え、前記連結手段は、前記支持梁を両側から挟み込む保持部材と、前記支持梁と前記保持部材との間に設けられて、振動エネルギーを吸収するエネルギー吸収手段と、を有することを特徴としている。
【0026】
請求項1に記載の発明では、構造躯体から支持梁が吊下されている。そして、支持梁は、天井を形成する天井板及び設備機器の少なくとも一方を支持する。
【0027】
天井の外周縁部と壁との間には間隙部が形成されている。また、外乱によって天井に発生する慣性力を構造躯体へ伝えるように斜め部材が設けられている。
【0028】
斜め部材には連結手段が設けられており、この連結手段によって斜め部材と支持梁とが連結されている。
【0029】
連結手段は、保持部材とエネルギー吸収手段とを有する。保持部材は支持梁を両側から挟み込み、エネルギー吸収手段は支持梁と保持部材との間に設けられて振動エネルギーを吸収する。
【0030】
ここで、吊り天井の耐震要素は斜め部材のみなので、外乱により天井に発生する慣性力のほとんどは斜め部材を介して構造躯体へ伝えられる。
【0031】
すなわち、外乱により天井に慣性力が発生すると、この慣性力は、支持梁、エネルギー吸収手段、保持部材、斜め部材、構造躯体の順に伝達される。このようにして、斜め部材に設けられた連結手段(エネルギー吸収手段、保持部材)に力が集中して、支持梁と保持部材とが水平方向に相対移動する。
【0032】
そして、支持梁と保持部材との間に相対移動を生じさせている振動エネルギーは、エネルギー吸収手段によって吸収される。
【0033】
これにより、外乱によって生じる天井の応答変位及び応答加速度(慣性力)を低減し、天井を構成する部材の損傷を防ぐことができる。
【0034】
また、力が最も集中する連結手段にエネルギー吸収手段を設けることによって、外乱により天井に発生する振動エネルギーを効率よく吸収させることができ、優れた減衰効果を発揮させることができる。
【0035】
また、斜め部材の下部と支持梁とが、従来の吊りボルトハンガーと同様の構造の取付金物によって連結されている吊り天井の場合、この取付金物にエネルギー吸収手段を設けるだけで本発明の連結手段になる。よって、このような吊り天井の場合には、施工手間がほとんど増えることはなく、簡易かつ低コストの方法で既存の吊り天井に制振機能を与えることができる。
【0036】
また、このような改修工事の際には、既に設置されている斜め部材を取り外して、別のダンパー部材等を設ける必要がないので、既に設置されている斜め部材を有効活用することができる。
【0037】
さらに、新築工事の場合には、従来の吊り天井よりも少ない本数の斜め部材で十分な制振機能を有することができるので、低コスト化及び施工性向上を図ることができる。
【0038】
請求項2に記載の発明は、前記エネルギー吸収手段は、粘弾性体であることを特徴としている。
【0039】
請求項2に記載の発明では、支持梁と保持部材とが水平方向に相対移動したときに、エネルギー吸収手段としての粘弾性体にせん断変形が生じて振動エネルギーが吸収される。そして、吸収された振動エネルギーは熱や音となって放出される。
【0040】
これにより、外乱によって生じる天井の応答変位及び応答加速度(慣性力)を低減し、天井を構成する部材の損傷を防ぐことができる。
【0041】
また、エネルギー吸収手段として粘弾性体を用いているので、小さな振幅の振動でも振動エネルギーの吸収効果を発揮することができる。
【0042】
また、一般に製品化されている材料を用いることができるので、低コスト化が図れる。
【0043】
請求項3に記載の発明は、前記エネルギー吸収手段は、前記支持梁と前記保持部材とが接触する面の少なくとも一方に形成された粗面層であることを特徴としている。
【0044】
請求項3に記載の発明では、支持梁と保持部材とが接触する面の少なくとも一方に形成された粗面層をエネルギー吸収手段としている。
【0045】
ここで、支持梁と保持部材とが水平方向に相対移動したときに、支持梁と保持部材との接触面同士が擦れ合う。このとき、支持梁及び保持部材の少なくとも一方の面には粗面層が形成されているので、支持梁と保持部材との接触面に摩擦熱が発生して振動エネルギーが吸収される。
【0046】
これにより、外乱によって生じる天井の応答変位及び応答加速度(慣性力)を低減し、天井を構成する部材の損傷を防ぐことができる。
【0047】
粗面層は、例えば、一般に用いられている表面処理方法(例えば、鉄骨工事で行われているブラスト処理、薬剤処理等)や自然発錆などによって形成することができる。
【0048】
よって、特別な部品を設ける必要はなく、工場等にて支持梁及び保持部材の少なくとも一方の面に表面処理を行えばよいので、現場での作業手間を減らすことができる。
【0049】
請求項4に記載の発明は、前記保持部材の下部は弾性を有し、前記保持部材の下部を弾性変形させて前記支持梁を挟み込むことを特徴としている。
【0050】
請求項4に記載の発明では、保持部材が支持梁を挟み込んだときに、保持部材の下部の弾性による復元力で、支持梁と保持部材との接触面の摩擦抵抗が増大する。
【0051】
よって、大きな摩擦熱を発生させることができ、振動エネルギーの吸収効果を高めることができる。
【発明の効果】
【0052】
本発明は上記構成としたので、地震時に生じる天井の揺れを抑えて、天井を構成する部材の損傷を防ぐ、簡易で低コストの吊り天井を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る吊り天井を説明する。
【0054】
まず、本発明の第1の実施形態に係る吊り天井について説明する。
【0055】
図1の側面図及び図2の平面図に示すように、吊り天井10はシステム天井となっており、メインTバー14、クロスTバー12、孫Tバー16、吊りボルト18A、18B、ブレース部材20、天井板22で構成されている。
【0056】
吊りボルト18A、18Bは、上層の構造躯体24から垂下されている。また、この吊りボルト18A、18Bの下端部にメインTバー14が吊りボルトハンガー26によって取り付けられている。
【0057】
また、図2の平面図に示すように、クロスTバー12がメインTバー14間に橋渡されるように設置され、孫Tバー16がクロスTバー12間に橋渡されるように設置されている。
【0058】
天井板22は、その外周縁部がメインTバー14、クロスTバー12、孫Tバー16の底部に設けられた鍔部14A、12A、16Aに支持されて天井面を形成している。また、照明器具や空調機器等の設備機器28も天井板22と同様に、メインTバー14、クロスTバー12、孫Tバー16に支持されて天井面を形成している。設備機器28の重量が重い場合には、別途、吊りボルト等で構造躯体24から吊下してもよい。
【0059】
すなわち、構造躯体24から吊下された支持梁としてのメインTバー14、クロスTバー12、及び孫Tバー16が、天井を形成する天井板22及び設備機器28の少なくとも一方を支持している。
【0060】
吊りボルトハンガー26の構造は、図14、15で示した吊りボルトハンガー216と同様であり、対向するアルミニウム製の板部材によってメインTバー14を挟み込むことにより、メインTバー14を保持している。
【0061】
また、天井板22及び設備機器28によって形成された天井の外周縁部44と、構造躯体24の側壁30との間には、地震時に外周縁部44と側壁30との間に生じる相対変位を吸収する間隙部32が形成されている。間隙部32は、このように天井の外周縁部44と構造躯体24の側壁30との間に形成されていてもよいし、天井の外周縁部44と間仕切り壁等の非構造躯体との間に形成されていてもよい。
【0062】
C型鋼からなる斜め部材としてのブレース部材20は、図1の右側に位置する吊りボルト18Aの上方から、左側に位置する吊りボルト18Bの下方に渡って斜めに設けられ、吊り天井10全体の水平剛性を高めている。
【0063】
ブレース部材20と吊りボルト18Aとは、ブレース部材20の上端部に設けられた接合部材34によって接合されている。
【0064】
図3(A)に示すように、接合部材34はV字状に曲げられた板材であり、接合部材34のV字の折り返し部付近に雌ネジ36が形成されている。そして、ブレース部材20の上端部に設けられた雄ネジ38をこの雌ネジ36に螺合させている。また、接合部材34の各端部には、吊りボルト18Aを引っ掛けるフック部40が形成されている。
【0065】
ブレース部材20を吊りボルト18Aに接合する際には、まず、ブレース部材20の上端部に設けられた雄ネジ38に対して接合部材34を回転させて、吊りボルト18Aにフック部40が引っ掛かるようにブレース部材20の上端部から接合部材34までの長さを調整する。次に、吊りボルト18Aをブレース部材20の上端部側に引き寄せて(図3(A))、吊りボルト18Aにフック部40を引っ掛ける(図3(B))。
【0066】
また、図1に示すように、ブレース部材20と支持梁としてのメインTバー14とは、ブレース部材20の下端部に設けられた連結手段としての連結部材42によって連結されている。
【0067】
連結部材42は、図4、5に示すように、対向するアルミニウム製で板状の保持部材46、48によってメインTバー14を両側から挟み込む。これにより、保持部材46とメインTバー14との間、及び保持部材48とメインTバー14との間に摩擦力を生じさせて、メインTバー14を保持する構造になっている。
【0068】
また、保持部材46、48の下部とメインTバー14の中間部62との間には、振動エネルギーを吸収するエネルギー吸収手段としての粘弾性体50が設けられている。
【0069】
メインTバー14を挟み込む力は、メインTバー14上端部の上方の位置で、保持部材46、48にそれぞれ形成された貫通孔に貫通させたボルト52をナット54に螺合し、ボルト52を締め付けることによって与える。
【0070】
メインTバー14の上部56は中空加工されており、その外形の厚さは中間部62よりも厚くなっている。また、保持部材46、48は、このメインTバー14の外形に概ね沿う形状になっている。これによって、ボルト52を締め付けたときに、メインTバー14が連結部材42に確実に保持される。
【0071】
保持部材48は保持部材46よりも上方に長く延びている。そして、この保持部材48の上部側面にブレース部材20が固定されている。この固定方法は、連結部材42が受けた力をブレース部材20に伝えられる方法であればよく、図5に示すように、ボルト58とナット60を用いてもよいし、溶接等によって保持部材48にブレース部材20を固定してもよい。
【0072】
このように、接合部材34によりブレース部材20の上部と吊りボルト18Aを接合し、連結部材42によりブレース部材20の下部とメインTバー14を連結することによって、ブレース部材20は地震等の外乱により天井に発生する慣性力を構造躯体24へ伝える。
【0073】
次に、本発明の第1の実施形態に係る吊り天井の作用及び効果について説明する。
【0074】
図1に示すように、吊り天井10の耐震要素はブレース部材20のみなので、外乱により天井に発生する慣性力のほとんどはブレース部材20を介して構造躯体24へ伝えられる。
【0075】
すなわち、地震等の外乱により天井に慣性力が発生すると、この慣性力は、メインTバー14、粘弾性体50、保持部材46、48、ブレース部材20、構造躯体24の順に伝達される。このようにして、ブレース部材20に設けられた連結部材42(粘弾性体50、保持部材46、48)に力が集中して、メインTバー14と保持部材46、48とが水平方向に相対移動する。
【0076】
そして、粘弾性体50にせん断変形が生じて振動エネルギーが吸収される。このとき、吸収された振動エネルギーは熱や音となって放出される。
【0077】
これにより、地震等の外乱によって生じる天井の応答変位及び応答加速度(慣性力)を低減し、天井を構成する部材の損傷を防ぐことができる。
【0078】
また、力が最も集中する連結部材42に粘弾性体50を設けることによって、地震等の外乱により天井に発生する振動エネルギーを効率よく吸収させることができ、優れた減衰効果を発揮させることができる。
【0079】
また、エネルギー吸収手段として粘弾性体50を用いているので、小さな振幅の振動でも振動エネルギーの吸収効果を発揮することができる。また、一般に製品化されている材料である粘弾性体50を用いることができるので、低コスト化が図れる。
【0080】
また、ブレース部材20の下部とメインTバー14とが、吊りボルトハンガー26のような従来の吊りボルトハンガーと同様の構造の取付金物によって連結されている吊り天井の場合、この取付金物に粘弾性体50を設けるだけで第1の実施形態の連結部材42になる。よって、このような吊り天井の場合には、施工手間がほとんど増えることはなく、簡易かつ低コストの方法で既存の吊天井に制振機能を与えることができる。
【0081】
また、このような改修工事の際には、既に設置されているブレース部材を取り外して、別のダンパー部材等を設ける必要がないので、既に設置されているブレース部材を有効活用することができる。
【0082】
さらに、新築工事の場合には、従来の吊り天井よりも少ない本数のブレース部材で十分な制振機能を有することができるので、低コスト化及び施工性向上を図ることができる。
【0083】
昨今の高度に設備が組み込まれた天井裏は、設備配管等で非常に混み合っており、ブレース部材を設置できる十分なスペースを確保することが難しい。よって、ブレース部材の設置数を減らせることは、設備性能を維持しつつ耐震性を向上させる上で有効となる。
【0084】
なお、第1の実施形態では、エネルギー吸収手段として粘弾性体50を用いた例を示したが、この粘弾性体50は1mm程度の薄いシートを用いるのが好ましい。薄いシートを用いると、従来の吊りボルトハンガーの構造に改良を加えることなく、連結部材の保持部材として用いることができる。また、粘弾性体50が柔らかくなってメインTバー14と保持部材46、48との相対移動量が大きくなり過ぎてしまうことを防ぐことができる。
【0085】
粘弾性体50の材料は、剛性と粘性を併せ持つ材料であればよい。昭和電線製のジエン系ゴムは、2.0kg/cm程度のせん断弾性係数と0.30程度の等価減衰定数を有するので、減衰性能が高く汎用的であるので粘弾性体50として適した材料である。
【0086】
また、粘弾性体50に限らずに、振動エネルギーを吸収する材料を保持部材46とメインTバー14との間、及び保持部材48とメインTバー14との間に設けてもよい。
【0087】
また、粘弾性体50の両面に両面接着テープを貼り付けたり、又は、粘弾性体50の両面に粘着性を与える処理を施してもよい。これによって、現場で容易にメインTバー14及び保持部材46、48に粘弾性体50を取り付けることができる。1つのブレース部材20が負担するせん断力は概ね100kg程度なので、両面接着テープや粘着性処理の接着力は、比較的小さくてよい。また、工場で、保持部材46、48に粘弾性体50を予め取り付けておけば、現場での作業も少なくて済み、施工手間が減って低コスト化を図ることができる。
【0088】
また、第1の実施形態では、保持部材46、48の下部とメインTバー14の中間部62との間に粘弾性体50を設けた例を示したが、粘弾性体50は、相対移動する保持部材46、48とメインTバー14との間に設けられていればよい。例えば、図6に示すように、保持部材46、48の中間部とメインTバー14の上部56との間に設けてもよいし、保持部材46、48とメインTバー14の上部56及び中間部62との両方の間に設けてもよい。
【0089】
また、第1の実施形態では、メインTバー14を挟み込む力をボルト52を締め付けることによって与えた例を示したが、粘弾性体50と保持部材46、48との間、及び粘弾性体50とメインTバー14との間に滑りを生じさせない程度の力でメインTバー14を挟み込める方法であればよく、万力やクリップ等を用いてもよい。
【0090】
メインTバー14上端部の上方の位置でボルト52を締め付けただけでは、メインTバー14を挟み込む十分な力が得られないときには、図7に示すように、メインTバー14の中間部62に貫通孔(不図示)を形成し、この貫通孔に貫通させたボルト64によって保持部材46、48の下部からもメインTバー14を挟みこむ力を加えてもよい。この場合に、ボルト64を貫通させるために保持部材46、48に形成する穴66は、メインTバー14と保持部材46、48とを相対移動させるために長穴にする。
【0091】
次に、本発明の第2の実施形態に係る吊り天井について説明する。
【0092】
第2の実施形態は、第1の実施形態の吊り天井10の連結部材42に設けられたエネルギー吸収手段を粗面層としたものである。したがって、以下の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0093】
図8に示すように、連結部材68の保持部材46、48の下部と、メインTバー14の中間部62とが接触する面には、表面を粗くする処理が施されて粗面相70が形成されている。
【0094】
次に、本発明の第2の実施形態に係る吊り天井の作用及び効果について説明する。
【0095】
第2の実施形態では、メインTバー14と保持部材46、48とが水平方向に相対移動したときに、メインTバー14と保持部材46、48との接触面同士が擦れ合う。このとき、保持部材46、48の下部と、メインTバー14の中間部62とが接触する面には粗面層70が形成されているので、保持部材46、48の下部と、メインTバー14の中間部62との接触面に摩擦熱が発生して振動エネルギーが吸収される。
【0096】
これにより、地震等の外乱によって生じる天井の応答変位及び応答加速度(慣性力)を低減し、天井を構成する部材の損傷を防ぐことができる。
【0097】
粗面層70は、例えば、一般に用いられている表面処理方法(例えば、鉄骨工事で行われているブラスト処理、薬剤処理等)や自然発錆などによって形成することができる。
【0098】
よって、特別な部品を設けずに、工場等にてメインTバー14や保持部材46、48に表面処理を行えばよいので、現場での作業手間を減らすことができる。
【0099】
なお、第2の実施形態では、第1の実施形態と同様に、メインTバー14を挟み込む力をボルト52を締め付けることによって与えた例を示したが、保持部材46、48の下部と、メインTバー14の中間部62との接触面に摩擦熱を発生させる程度の力でメインTバー14を挟み込める方法であればよく、万力やクリップ等を用いてもよい。
【0100】
例えば、弾性を有する材料で保持部材46、48の下部を形成し、図8(A)に示すように、保持部材46、48の下部がメインTバー14側下方へ向うように曲げられた形状にしておく。
【0101】
このようにしておけば、図8(B)に示すように、保持部材46、48がメインTバー14を挟み込んだときに、保持部材46、48の下部が弾性変形する。そして、この弾性変形の復元力で、保持部材46、48の下部と、メインTバー14の中間部62との接触面の摩擦抵抗が増大する。
【0102】
よって、大きな摩擦熱を発生させることができ、振動エネルギーの吸収効果を高めることができる。
【0103】
また、第2の実施形態では、保持部材46、48の下部とメインTバー14の中間部62とが接触する面に粗面層70を形成させたが、粗面層70は、相対移動する保持部材46、48とメインTバー14との間に設けられていればよい。例えば、図9に示すように、保持部材46、48の中間部とメインTバー14の上部56とが接触する面に粗面層70を形成してもよいし、保持部材46、48とメインTバー14の上部56及び中間部62とが接触する面の両方に粗面層70を形成してもよい。また、粗面層70は、保持部材46、48とメインTバー14とが接触する面の少なくとも一方に形成されていればよい。
【0104】
また、第1及び第2の実施形態では、保持部材46、48の材料をアルミニウムとしたが、支持梁をしっかりと挟み込む強度を有するものであればよく、鉄やプラスチック等を用いてもよい。
【0105】
また、第1及び第2の実施形態では、ブレース部材20の上部は、接合部材34によって吊りボルト18Aに接合され、連結部材42によってメインTバー14に連結された例を示したが、ブレース部材20は、地震等の外乱により天井に発生する慣性力を構造躯体24へ伝えるように吊り天井10に設けられていればよい。
【0106】
よって、ブレース部材20の上部と吊りボルト18Aとを溶接や他の接合方法によって接合してもよいし、ブレース部材20の上部を構造躯体24から吊下された他の部材に接合してもよいし、ブレース部材20の上部を構造躯体24に直接固定してもよい。
【0107】
また、ブレース部材20の下部は、メインTバー14以外の支持梁(クロスTバー12、孫Tバー16)と連結部材42によって連結されてもよいし、連結部材42によってブレース部材20の下部とメインTバー14を連結して、この連結部材42を吊りボルト18Bで吊ってもよい。また、連結部材42によって連結される支持梁の外形は、保持部材46、48によって挟み込める形状であればよく、メインTバー14のように上部56が中空加工され、その外形の厚さが中間部62よりも厚くなっていなくてもよい。この場合には、保持部材46、48の形状を、挟みこむ支持梁の外形に概ね沿った形状にすることが好ましい。
【0108】
また、第1及び第2の実施形態では、斜め部材としてC型鋼からなるブレース部材20を用いた例を示したが、斜め部材は、地震等の外乱により天井に発生する慣性力を構造躯体24へ伝え、かつ吊り天井10全体に水平剛性を付与できる剛性を有した材料であればよい。
【0109】
また、構造躯体24の側壁30と天井の外周縁部44との間に間隙部32を形成した例を示したが、壁が間仕切り壁等の非構造躯体であってもよい。この場合には、間仕切り壁と天井の外周縁部44との間に間隙部を形成すれば、第1及び第2の実施形態と同様の効果を発揮することができる。
【0110】
以上、本発明の第1及び第2の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものでなく、第1及び第2の実施形態を組み合わせて用いてもよいし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
(実施例)
第1の実施形態の吊り天井10に地震等の外乱が作用したときに、天井に生じる応答変位及び応答加速度(慣性力)を低減する効果について、図10に示す天井解析モデル72によって検証した。
【0111】
図10に示すように、吊り天井10の天井解析モデル72は、ブレースの解析モデル74と粘弾性体の解析モデル76を直列につなげたモデルとして表現できる。
【0112】
ブレースの解析モデル74は、図1で示したブレース部材20の1本当たりのモデルであり、バネ78とダンパー80が並列につなげられている。
【0113】
ブレース部材20の1本当たりにかかる荷重(天井の重量)としてのマスMを0.149tfと仮定した。
【0114】
また、バネ78のバネ定数Kを0.15t/cm、ダンパー80の減衰定数hを0.02(=2%)と仮定し、粘弾性体を有さない場合の天井(マスM)の振動数fを5.0Hzとした場合に、ブレースの解析モデル74におけるブレース部材20の減衰係数C(=K×h/π×f)は0.00019t/cm/sとなる。
【0115】
粘弾性体のモデル76は、図5で示した連結部材42に設けられた2枚の粘弾性体50をVoigtモデルにしたものであり、バネ82とダンパー84が並列につなげられている。粘弾性体50の平面寸法を縦2cm×横5cm(粘弾性体50の面積A=10cm)、厚さtを0.1cmとした。
【0116】
ここで、バネ82のせん断弾性係数Gを2.0kg/cmとすると、バネ82のバネ定数K(=A×G×2枚/t)は0.40t/cmとなる。
【0117】
また、ダンパー84の減衰定数hを0.30(=30%)とし、粘弾性体50を有する場合の天井(マスM)の振動数fが4.39Hzの場合に、粘弾性体のモデル76における粘弾性体50の減衰係数C(=K×h/π×f)は0.087t/cm/sとなる。なお、粘弾性体50を有する場合の天井(マスM)の振動数fは、複素固有値解析によって求めた値である。
【0118】
この天井解析モデル72について、複素固有値解析を行った結果、粘弾性体を有さないときに5.0Hzであった天井(マスM)の振動数fが、粘弾性体50を有した場合には4.39Hzとなり、粘弾性体を有さないときに2%であった天井(マスM)の減衰定数hが、粘弾性体50を有した場合には8.3%となった。
【0119】
すなわち、粘弾性体50を有する連結部材42によって、吊り天井10の天井に6.3%もの減衰が付加されるので、地震等により吊り天井10の天井に生じる応答変位及び応答加速度(慣性力)を低減する効果があることがわかった。
【0120】
次に、各減衰における吊り天井10の天井の振動周期に対する変位応答スペクトルから、吊り天井10の天井の変位の最小値を求めて、地震等により吊り天井10の天井に生じる応答変位を低減する効果を評価する。
【0121】
図11の符号86A、88A、90A、92A、94A、96A、98A、100A、102A、104A、106Aは、地震等により吊り天井10の天井に生じる振動の周期に対する、吊り天井10の天井に生じる振動の加速度応答スペクトルの値を示したものである。
【0122】
符号86A、88A、90A、92A、94A、96A、98A、100A、102A、104A、106Aは、減衰をそれぞれ1%、2%、4%、5%、6%、8%、10%、14%、18%、20%、22%としたときの値である。
【0123】
符号92Aの値は、国土交通省の告示1461号の解放工学的基盤における減衰5%の加速度応答スペクトルの値である。そして、符号86A、88A、90A、94A、96A、98A、100A、102A、104A、106Aの値は、符号92Aの加速度応答スペクトルの値にFh(=1.5/(1+10×b))を掛けることによって求めた。変数bは、各減衰の値である。
【0124】
そして、図11の符号86A、88A、90A、92A、94A、96A、98A、100A、102A、104A、106Aの各減衰における周期を複素固有値解析によって求めて、この値の点をつなげると点線108Aが得られる。
【0125】
図12の符号86B、88B、90B、92B、94B、96B、98B、100B、102B、104B、106Bは、地震等により吊り天井10の天井に生じる振動の周期に対する、吊り天井10の天井に生じる振動の変位応答スペクトルの値を示したものである。
【0126】
符号86B、88B、90B、92B、94B、96B、98B、100B、102B、104B、106Bは、減衰をそれぞれ1%、2%、4%、5%、6%、8%、10%、14%、18%、20%、22%としたときの値であり、図11の符号86A、88A、90A、92A、94A、96A、98A、100A、102A、104A、106Aの値を時間で2度積分した値である。
【0127】
また、点線108Bは、図11の点線108Aを時間で2度積分した値である。
【0128】
図12に示す点線108Bから、吊り天井10の天井の変位応答スペクトルを最小にする点Pが存在することがわかる。また、この点Pは、図11の点線108A上では点Qとなる。
【0129】
よって、図12に示すように、粘弾性体を有していない減衰が2%の点Pの変位応答スペクトルが1cmであるのに対して、粘弾性体を設けて減衰を10%とした点Pの変位応答スペクトルは0.85cmとなる。これにより、第1の実施形態によって吊り天井10の天井の減衰を10%にすれば、天井の変位を約15%減らせることがわかる。
【0130】
また、図11に示すように、粘弾性体を有していない減衰が2%の点Qの加速度応答スペクトルが1000galであるのに対して、粘弾性体を設けて減衰を10%とした点Qの加速度応答スペクトルは600galとなる。これにより、第1の実施形態によって吊り天井10の天井の減衰を10%にすれば、天井の応答加速度(慣性力)を約40%減らせることがわかる。
【0131】
本実施例からわかるように、第1の実施形態は、外乱によって生じる天井の応答変位及び応答加速度(慣性力)を低減し、天井を構成する部材の損傷を防ぐことができる。
【0132】
また、応答変位を低減する効果よりも応答加速度(慣性力)を低減する効果の方が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る吊り天井を示す側面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る吊り天井を示す平面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る接合部材を示す説明図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る連結部材を示す説明図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る連結部材を示す正面図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る連結部材の変形例を示す正面図である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係る連結部材の変形例を示す説明図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る連結部材を示す正面図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る連結部材の変形例を示す正面図である。
【図10】本発明の実施形態に係る実施例の解析モデルを示す説明図である。
【図11】本発明の実施形態に係る実施例の解析結果における、周期に対する加速度応答スペクトルを示す線図である。
【図12】本発明の実施形態に係る実施例の解析結果における、周期に対する変位応答スペクトルを示す線図である。
【図13】従来のシステム天井を示す側面図である。
【図14】従来のシステム天井に用いられる吊りボルトハンガーを示す斜視図である。
【図15】従来のシステム天井に用いられる吊りボルトハンガーを示す正面図である。
【図16】従来の吊り天井の制振構造を示す側面図である。
【符号の説明】
【0134】
10 吊り天井
12 クロスTバー(支持梁)
14 メインTバー(支持梁)
16 孫Tバー(支持梁)
20 ブレース部材(斜め部材)
22 天井板
24 構造躯体
28 設備機器
30 側壁(壁)
32 間隙部
42 連結部材(連結手段)
44 外周縁部
46 保持部材
48 保持部材
50 粘弾性体(エネルギー吸収手段)
68 連結部材(連結手段)
70 粗面層(エネルギー吸収手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造躯体から吊下されて、天井を形成する天井板及び設備機器の少なくとも一方を支持する支持梁と、
前記天井の外周縁部と壁との間に形成された間隙部と、
外乱により前記天井に発生する慣性力を前記構造躯体へ伝えるように設けられた斜め部材と、
前記斜め部材に設けられて、前記斜め部材と前記支持梁とを連結する連結手段と、
を備え、
前記連結手段は、
前記支持梁を両側から挟み込む保持部材と、
前記支持梁と前記保持部材との間に設けられて、振動エネルギーを吸収するエネルギー吸収手段と、
を有することを特徴とする吊り天井。
【請求項2】
前記エネルギー吸収手段は、粘弾性体であることを特徴とする請求項1に記載の吊り天井。
【請求項3】
前記エネルギー吸収手段は、前記支持梁と前記保持部材とが接触する面の少なくとも一方に形成された粗面層であることを特徴とする請求項1に記載の吊り天井。
【請求項4】
前記保持部材の下部は弾性を有し、
前記保持部材の下部を弾性変形させて前記支持梁を挟み込むことを特徴とする請求項3に記載の吊り天井。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−274546(P2008−274546A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−115535(P2007−115535)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)