説明

吊金車

【課題】吊金車の上部に、スリングの各架け輪を個別に取り付ける環部を2個並設した回動機構部を設けて、スリングの架け輪の一方が、常に吊金車の環部に取り付けられている状態を維持することにより、吊金車を設置する作業中に、吊金車が落下してしまう事態の発生を確実に阻止した吊金車を提供する。
【解決手段】本発明は、帯紐の両端に架け輪を備えているスリングを介して、様々な部材に設置される吊金車であり、吊金車の上部において軸部を介して回動する回動機構部を備え、該回動機構部は、軸部の上方に、スリングの各架け輪を個別に取り付ける環部を、2個並設している。また、回動機構部を構成している2個の環部それぞれは、環部を開放・閉鎖する棒状の可動アームを備え、該可動アームは、環部の内方を向くように傾倒して環部を開放する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、架空送電線について、経年劣化等を要因として行う、碍子連の取り替えやダンパーの取り替え、また、飛来物除去やジャンパー開放接続等の各種作業を行う際に使用される、吊金車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
架空送電線については、経年劣化等を要因として、例えば、碍子連の取り替え作業や、ダンパー(送電線が捻れ回転しないように、送電線に取り付けられるウエイト)の取り替え作業を行っている。
【0003】
この他にも、架空送電線については、飛来物の除去作業や、ジャンパー(運転中の送電線経路途中を停止するときの電力遮断時に使用される渡り線)開放接続作業等の各種作業を行って、その維持運用を図っている。
【0004】
この様な送電鉄塔上において設備を保守するために行う作業は、作業員が鉄塔のステップボルトに手や足をかけて鉄塔の上部まで昇り、不安定な足場で安全帯を装着して、バランスを保ちながら様々な作業を実施している。
【0005】
塔上に到達した作業員は、まず、工具の荷揚げ作業を実施する。このとき、作業員は、鉄塔部材にスリングを巻き付けた状態で、スリングの両端部を吊金車に接続する。この吊金車にロープを通して、地上から作業箇所である塔上まで、種々の工具や資材を引き上げるのである。
【0006】
この様な吊金車は、例えば、作業員が吊金車を腰袋に入れた状態で鉄塔を昇って、作業員自身が吊金車を運搬している。
【0007】
そして、荷揚げ降ろし用のロープを吊金車に通す前の準備として、鋼製で重量のある吊金車自体を、鉄塔の上部に固定する必要がある。
【0008】
吊金車1は、例えば、図6に示すように、滑車3を回転自在に支持する一対の支持枠部1a,1bの各上端部に形成された突出部1c,1dに跨るようにして、コ字枠状に組み込まれた一対のL字片状のヒンジアーム20が取り付けられている。このヒンジアーム20には、ボルト30の挿通孔20aが設けられている。
【0009】
そして、図7に示すように、ヒンジアーム20の挿通孔20aに挿通されるボルト30を介して、吊金車1にスリング2を取り付けている。スリング2は、帯紐2cの両端に架け輪2a,2bを備えており、このスリング2の各架け輪2a,2bを、ヒンジアーム20内に収容して、各架け輪2a,2bにボルト30を貫挿させるのである。
【0010】
尚、一対の支持枠部1a,1bの一方側は、ヒンジ部4を介して取り付けた蓋部5により開放可能となっている。その為、蓋部5を開放した状態で、内側に位置している滑車3に、荷揚げ用のロープRを架けるのである。
【0011】
そして、送電線の鉄塔P上における設備保守作業において、塔上の作業員は、腰袋から吊金車1を取り出して、吊金車1を片手に保持した状態で、ボルト30やナット40等の工具をもう一方の手で持ちながら、両手の指先を使ってスリング2を鉄塔Pに巻き付ける(図8参照)。
【0012】
次に、スリング2の両端に配置されている各架け輪2a,2bを、吊金車1のヒンジアーム20の内側に収容した状態で、ヒンジアーム20の挿通孔20aにボルト30を挿通させる。このとき、ボルト30は、スリング2の各架け輪2a,2bに貫装した状態となっている。
【0013】
そして、図7に示すように、ヒンジアーム20の反対側に突出したボルト30の先端にナット40を螺合させて、吊金車1を鉄塔Pに固定するのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特になし
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上述した吊金車1を鉄塔Pに固定する過程において、作業員は、吊金車1自体や、ボルト30やナット40等の工具を、誤って落下させてしまう可能性がある。
【0016】
塔上の作業員は、腰袋から吊金車1を取り出して吊金車1を片手に保持した状態で、ボルト30やナット40等の工具をもう一方の手で持ちながら、両手の指先を使ってスリング2を鉄塔Pに巻き付けるのであるが、そもそも両手に吊金車1と工具を持った不安定な状態でスリング2を鉄塔Pに巻き付けることから、重量のある吊金車1と、ボルト30やナット40等の工具を誤って落下させ易い状態となってしまうのである。
【0017】
この様な吊金車1の落下は、一人の作業員が吊金車1を両手で支えた状態で、他の作業員がスリング2を鉄塔Pに巻き付けるようにして、2人の作業員で作業を実施すれば、容易に防止できるものである。
【0018】
しかし、塔上の作業においては、そもそも2人の作業員が存在できるスペースを確保できないこともあり、この様な狭い場所においては、作業員が単独で吊金車1を設置せざるを得ない。
【0019】
しかも、スリング2を鉄塔Pに巻き付けてから、スリング2の両端に配置されている各架け輪2a,2bを吊金車1のヒンジアーム20の内側に収容した状態で、ヒンジアーム20の挿通孔20aにボルト30を挿通させ、ボルト30がスリング2の各架け輪2a,2bに貫装した状態でボルト30の先端にナット40を螺合させるという煩雑な作業を行うことから、この際にも、重量のある吊金車1と、ボルト30やナット40等の工具を誤って落下させ易い状態となってしまう。
【0020】
さらに、鉄塔P上における狭くて足場の不安定な状況での作業であることから、作業員は、安全帯により自身の安全を確保して、バランスを保ちながら作業を行う必要がある。
【0021】
その為、スリング2の各架け輪2a,2bを吊り金車1のヒンジアーム20の内側に収容した状態で、ボルト30を各架け輪2a,2bに貫装し、ナット40を螺合させるという細かい作業に熟練を要し、この熟練が不充分であると、吊金車1と、ボルト30やナット40等の工具を、誤って落下させ易い状態となってしまう。
【0022】
この他にも、作業員が単独で吊金車1を鉄塔Pに設置するときに、吊金車1の落下を防止するためには、吊金車1自体を、作業員の身体の一部と手で挟み込むようにして押さえ付けなければならないが、狭くて足場の不安定な状況での作業であることから、その様な吊金車1の押さえ付けも容易ではない。
【0023】
加えて、鉄塔P上における全体の作業が終了して、鉄塔Pから吊金車1を撤去する場合、鉄塔Pに巻き付けているスリング2を鉄塔Pから外す作業を実施するが、このとき、吊金車1にロープRが架かっていることから、ボルト30を緩めた際に、スリング2の各架け輪2a,2bがボルト30から同時に抜けてしまい、吊金車1が落下してしまうこともある。
【0024】
そこで、本発明は如上のような従来存した諸事情に鑑み創出されたもので、吊金車の上部に、スリングの各架け輪を個別に取り付ける環部を2個並設した回動機構部を設けて、スリングの架け輪の一方が、常に吊金車の環部に取り付けられている状態を維持することにより、吊金車を設置する作業中に、吊金車が落下してしまう事態の発生を確実に阻止した吊金車を提供することを第1の目的とする。
【0025】
また、スリングの各架け輪を吊金車の環部に接続するときに、ボルトやナット等の工具を使用せずにワンタッチで環部に取り付けて、吊金車を設置する作業において、作業員の負担を軽減すると共に、工具が落下することの無い吊金車を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明は、帯紐の両端に架け輪を備えているスリングを介して、様々な部材に設置される吊金車であり、吊金車の上部において軸部を介して回動する回動機構部を備え、該回動機構部は、軸部の上方に、スリングの各架け輪を個別に取り付ける環部を、2個並設していることで、上述した課題を解決した。
【0027】
また、回動機構部を構成している2個の環部それぞれは、環部を開放・閉鎖する棒状の可動アームを備え、該可動アームは、環部の内方を向くように傾倒して環部を開放することで、同じく上述した課題を解決した。
【0028】
さらに、回動機構部は、環部を閉鎖している状態で可動アームを固定するロック部を備えていることで、同じく上述した課題を解決した。
【0029】
また、ロック部は、環部を閉鎖している状態の可動アームにおいて、可動アームの先端部近傍に位置している環部の構成部材に取り付けたロックリングにより形成され、該ロックリングは、若干のスライド移動が可能であると共に、可動アームの先端部を挿入する係合凹部を備え、弾性部材を介して可動アーム側に向けて付勢されていることで、同じく上述した課題を解決した。
【0030】
加えて、ロックリングの内周縁において、ロックリングの内方を向くようにガイド突起を設ける一方、ロックリングを取り付けている環部の構成部材に略逆L字状のガイド溝を設け、ロックリングのガイド突起を、環部の構成部材のガイド溝に係合させていることで、同じく上述した課題を解決した。
【0031】
この他、ロック部は、環部を閉鎖している状態の可動アームにおいて、可動アームの先端部近傍に位置している環部の構成部材に取り付けたロックリングにより形成され、該ロックリングは、若干のスライド移動が可能であると共に、ロックリングの内周縁に雌ネジ部を設けて形成される一方、可動アームの先端部に、ロックリングの雌ネジ部に螺合する雄ネジ部を設けていることで、同じく上述した課題を解決した。
【発明の効果】
【0032】
本発明は、帯紐の両端に架け輪を備えているスリングを介して、様々な部材に設置される吊金車であり、吊金車の上部において軸部を介して回動する回動機構部を備え、該回動機構部は、軸部の上方に、スリングの各架け輪を個別に取り付ける環部を、2個並設していることから、吊金車を設置する作業中に、吊金車が落下してしまう事態の発生を確実に阻止できる。
【0033】
具体的には、スリングの一方の架け輪を回動機構部の環部に予め取り付けておくことで、スリングの架け輪の一方が、常に回動機構部の環部に取り付けられている状態を維持できる。
【0034】
その結果、吊金車の落下要因である、2個の架け輪が吊金車から同時に外れてしまう事態の発生を阻止しているのである。
【0035】
また、スリングの架け輪の一方が、常に回動機構部の環部に取り付けられている状態を維持することから、吊金車からスリングが外れて落下することもない。
【0036】
そして、作業員は、吊金車自体をしっかりと脇に抱えていれば、吊金車の落下を防止できることとなる。その為、作業員は、例えば、左腕により吊金車をしっかりと脇に抱えている状態を意識しながら、右腕によりスリングを様々な部材に巻き付け、スリングの他方の架け輪をワンタッチで環部に取り付けて、比較的に容易に作業を行って、吊金車が落下してしまう事態の発生を阻止している。
【0037】
さらに、スリングの他方の架け輪を、吊金車の環部に接続するときに、そもそもボルトやナット等の工具を使用しないことから、この様な工具が落下することも無い。
【0038】
また、吊金車を鉄塔上に設置するときは、狭くて足場の不安定な状況での作業となり、作業員は安全帯により自身の安全を確保して、バランスを保ちながら作業を行うが、例えば、左腕により吊金車をしっかりと脇に抱えている状態を意識しながら、右腕によりスリングを鉄塔に巻き付け、スリングの他方の架け輪をワンタッチで環部に取り付けることができるため、作業を短時間で行って、作業員の負担を軽減できる。
【0039】
加えて、鉄塔上における従来の吊金車の設置作業のように、特別な熟練を要することもない。
【0040】
また、回動機構部は、吊金車の上部において軸部を介して回動することから、吊金車の滑車に架けられているロープの撚りを、吊金車自体の回動により解放できる。
【0041】
この他、回動機構部を構成している2個の環部それぞれは、環部を開放・閉鎖する棒状の可動アームを備え、該可動アームは、環部の内方を向くように傾倒して環部を開放することから、作業員は、可動アームにスリングの架け輪を押し付けて可動アームを内方に傾倒させるというワンタッチの簡単な動作により、スリングの架け輪を環部に取り付けることができる。
【0042】
その為、作業員は、スリングの架け輪の一方が予め回動機構部の環部に取り付けられている吊金車を、例えば、左腕によりしっかりと脇に抱えて、右腕によりスリングを様々な部材に巻き付け、スリングの他方の架け輪をワンタッチで環部に取り付けることができる。
【0043】
また、回動機構部は、環部を閉鎖している状態で可動アームを固定するロック部を備えていることから、スリングの架け輪を回動機構部の環部に取り付けたときには、スリングの架け輪が環部から外れることが無い。
【0044】
さらに、ロック部は、環部を閉鎖している状態の可動アームにおいて、可動アームの先端部近傍に位置している環部の構成部材に取り付けたロックリングにより形成され、該ロックリングは、若干のスライド移動が可能であると共に、可動アームの先端部を挿入する係合凹部を備え、弾性部材を介して可動アーム側に向けて付勢されていることから、スリングの架け輪を、ワンタッチで環部に取り付けたり、取り外すことができる。
【0045】
具体的には、弾性部材の付勢に抗するようにロックリングを移動させ、ロックを解除した状態で、可動アームにスリングの架け輪を押し付けて可動アームを内方に傾倒させるというワンタッチの簡単な動作により、スリングの架け輪を環部に取り付けることができる。
【0046】
また、環部を閉鎖している状態の可動アームに対し、ロックリングは、弾性部材により可動アームに近接する方向に付勢されているので、ロックリングの係合凹部を可動アームの先端部に押し付けて、係合凹部に可動アームの先端部を挿入した状態となる。
【0047】
その為、環部を閉鎖している状態の可動アームの傾倒を防止し、環部の閉鎖状態を確実に維持することにより、環部からの架け輪の脱落を阻止している。
【0048】
加えて、ロックリングの内周縁において、ロックリングの内方を向くようにガイド突起を設ける一方、ロックリングを取り付けている環部の構成部材に略逆L字状のガイド溝を設け、ロックリングのガイド突起を、環部の構成部材のガイド溝に係合させていることから、ロックリングのガイド突起を、ガイド溝に沿って移動させることができる。
【0049】
そして、例えば、ロックリングが上下方向に移動する場合において、ロックリングのガイド突起を、略逆L字状の縦向きに設けられているガイド溝に沿うように若干上方に持ち上げ、その後、略逆L字状の横向きに設けられているガイド溝に係合させたときには、可動アームのロックを解除している状態を維持できる。
【0050】
また、ロックリングのガイド突起を移動させて、縦向きに設けられているガイド溝に導入したときには、ロックリングが下方向に移動して、可動アームのロック状態を維持できる。
【0051】
この他、ロック部は、環部を閉鎖している状態の可動アームにおいて、可動アームの先端部近傍に位置している環部の構成部材に取り付けたロックリングにより形成され、該ロックリングは、若干のスライド移動が可能であると共に、ロックリングの内周縁に雌ネジ部を設けて形成される一方、可動アームの先端部に、ロックリングの雌ネジ部に螺合する雄ネジ部を設けていることから、ロックリングを回転させてロックリングの雌ネジ部を可動アームの雄ネジ部に螺合させたときは、可動アームのロック状態を維持できる。
【0052】
また、ロックリングを逆回転させてロックリングの雌ネジ部と可動アームの雄ネジ部の螺合状態を解放したときは、可動アームのロック状態を解除できる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】スリングの各架け輪を、回動機構部を構成する2個の環部に取り付ける状態を示す分解斜視図である。
【図2】スリングの各架け輪を、回動機構部を構成する2個の環部に取り付けた状態を示す斜視図である。
【図3】ロックリングの構成を示すもので、(a)はガイド突起をガイド溝の縦溝部分に配置した、可動アームのロック状態を示す斜視図、(b)はガイド突起をガイド溝の横溝部分に配置して、可動アームのロックを解除した状態を示す斜視図である。
【図4】ロックリングの構成を示すもので、(a)はガイド突起をガイド溝の縦溝部分に配置した、可動アームのロック状態を示す側面図、(b)はガイド突起をガイド溝の横溝部分に配置して、可動アームのロックを解除した状態を示す側面図である。
【図5】ロックリングの他の構成を示すもので、(a)は可動アームのロック状態を示す側面図、(b)は可動アームのロックを解除した状態を示す側面図である。
【図6】従来の吊金車において、スリングの各架け輪を、ボルトとナットを用いてヒンジアームに取り付ける状態を示す分解斜視図である。
【図7】従来の吊金車において、スリングの各架け輪を、ボルトとナットを用いてヒンジアームに取り付けた状態を示す斜視図である。
【図8】従来の吊金車において、鉄塔に巻き付けているスリングの各架け輪を、ボルトとナットを用いてヒンジアームに取り付けた状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下に、図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。
【0055】
本発明は、図1・図2に示すように、帯紐2cの両端に架け輪2a,2bを備えているスリング2を介して、様々な部材に設置される吊金車1である。
【0056】
尚、以下の説明を、鉄塔Pの上部に吊金車1を設置する場合を一例にして行う(図8参照、)。
【0057】
吊金車1は、図1・図2に示すように、吊金車1の上部において、軸部7を介して回動する回動機構部Qを備えている。この回動機構部Qは、軸部7の上方に、スリング2の各架け輪2a,2bを個別に取り付ける環部6A,6Bを、2個並設している。
【0058】
尚、吊金車1のその他の構成については、図6乃至図8に基づいて説明済みであることから、同一の構成には同一の符号を付すことにより、その詳細な説明を省略する。
【0059】
吊金車1の回動機構部Qを構成している2個の環部6A,6Bそれぞれは、環部6A,6Bを開放・閉鎖する棒状の可動アーム9を備えている。この可動アーム9は、図1に示すように、環部6A,6Bの内方を向くように傾倒して、環部6A,6Bを開放する。
【0060】
また、スリング2の各架け輪2a,2bを個別に取り付ける環部6A,6Bを並設している軸部7自体は、吊金車1の上部に設置されている軸受部8に回動自在に保持されている。
【0061】
2個の環部6A,6Bそれぞれは、図1・図2に示すように、軸部7に立設している所定の長さの中央杆7aを、共通の構成要素としている。
【0062】
そして、環部6Aは、中央杆7aの上端部において側方に向けて延設された水平杆と、水平杆の先端部において下向きに延設された垂下杆により上アーム部8aを形成している。この垂下杆の先端部には、ロック部10が取り付けられている。また、中央杆7aの下端部(軸部7と中央杆7aが接続している部分)において側方に向けて延設された水平杆と、水平杆の先端部において上向きに延設された垂上杆により下アーム部8bを形成している。この垂上杆の先端部には、可動アーム9が取り付けられている。この様にして、環部6Aは、中央杆7a、上アーム部8a、下アーム部8b、可動アーム9により、縦長の矩形状の環を形成している。
【0063】
同様に、環部6Bも、中央杆7aの上端部において側方に向けて延設された水平杆と、水平杆の先端部において下向きに延設された垂下杆により上アーム部8cを形成している。この垂下杆の先端部には、ロック部10が取り付けられている。また、中央杆7aの下端部(軸部7と中央杆7aが接続している部分)において側方に向けて延設された水平杆と、水平杆の先端部において上向きに延設された垂上杆により下アーム部8dを形成している。この垂上杆の先端部には、可動アーム9が取り付けられている。この様にして、環部6Bも、中央杆7a、上アーム部8c、下アーム部8d、可動アーム9により、縦長の矩形状の環を形成している。
【0064】
環部6A,6Bにおいて、下アーム部8b,8dの垂上杆の先端部に取り付けている可動アーム9は、いずれも図1に示すように、その先端部が、環部6A,6Bの内方(中央杆7a)を向くように傾倒して、環部6A,6Bを開放する。
【0065】
可動アーム9の取り付けは、例えば、下アーム部8b,8dの垂上杆の先端部に略U形状の凹部を設ける一方、可動アーム9の下端部に薄板状の突片を設け、可動アーム9の突片を垂上杆の凹部に挿入して所定の軸を貫装している軸止め機構9aによる。
【0066】
また、不図示の板バネ部材により、可動アーム部9は、下アーム部8b,8dの垂上杆の先端部において、常時立設するように付勢されている。
【0067】
2個の環部6A,6Bにおいて、上アーム部8a,8cの垂下杆の先端部に取り付けているロック部10は、環部6A,6Bを閉鎖している状態で、可動アーム9を固定するものである。また、環部6A,6Bのロック部10は、いずれも同一の形状・構成を備えている。
【0068】
環部6A(6B)における上アーム部8a(8c)のロック部10は、略円筒状のロックリング10aにより形成されており、ロックリング10aの外周面には、滑り止め用のローレット目が付されている。
【0069】
このロックリング10aは、上アーム部8a(8c)の垂下杆の先端部において、上下方向に若干のスライド移動が可能である。
【0070】
ロックリング10aは、図3(a)・図4(a)に示すように、上端部に、ロックリング10a自体の内径よりも小径に形成されている開口部11が設けられており、この開口部11に、上アーム部8a(8c)の垂下杆の先端部が挿入される。
【0071】
垂下杆の先端には、フランジ状の係止部12が設けられており、ロックリング10aの開口部11周囲の内天壁が係止部12に当接して、垂下杆の先端部にロックリング10aが回転可能に取り付けられている。
【0072】
一方、ロックリング10aの下端の開口側は、図4(a)に示すように、内周壁の一部が閉鎖されて、下端部に係合凹部13を形成している。この係合凹部13は、可動アーム9の先端部を挿入する部分である。
【0073】
また、垂下杆のフランジ状の係止部12と、ロックリング10aの係合凹部13の内側の間には、弾性部材である板バネ14が配置されている。その為、ロックリング10aは、可動アーム側9に向けて移動するように、常時下側に付勢されている。
【0074】
さらに、図3(a)・図4(a)に示すように、ロックリング10aにおける開口部11の内周縁に、ロックリング10aの内方を向くようにガイド突起15を設けている。また、ロックリング10aを取り付けている上アーム部8a(8c)の垂下杆に、略逆L字状のガイド溝16を設け、ロックリング10aのガイド突起15をこのガイド溝16に係合させている。
【0075】
ガイド溝16は、図3(a)に示すように、所定の長さの縦溝部分と、縦溝部分の上端部において左向きに連設された横溝部分により形成されている。
【0076】
そして、図3(a)・図4(a)に示すように、ガイド突起15をガイド溝16の縦溝部分に配置しているとき、環部6Aを閉鎖している状態の可動アーム9に対し、ロックリング10aは、板バネ14により可動アーム側9に向けて移動するように常時下側に付勢されていることから、ロックリング10aの係合凹部13を可動アーム9の先端部に押し付けて、係合凹部13に可動アーム9の先端部を挿入した状態となり、可動アーム9のロック状態を維持する。
【0077】
これに対し、図3(b)・図4(b)に示すように、ロックリング10aのガイド突起15を若干上方に持ち上げて、ガイド突起15をガイド溝16の横溝部分に配置しているときには、可動アーム9の先端部がロックリング10aの係合凹部13から解放され、中央杆7aに向けて傾倒できることとなり、可動アーム9のロックを解除した状態を維持する。
【0078】
以上のように構成された吊金車1について、具体的な使用の一例を説明する。
【0079】
作業員は、地上において、スリング2の一方の架け輪2aを、環部6Aに予め取り付けておく。このとき、図3(a)・図4(a)に示すように、ロックリング10aのガイド突起15をガイド溝16の縦溝部分に配置し、環部6Aを閉鎖している状態の可動アーム9に、ロックリング10aの係合凹部13を押し付け、係合凹部13に可動アーム9の先端部を挿入したロック状態にする。
【0080】
また、スリング2の他方の架け輪2bは、環部6Bに取り付けずに、フリーな状態にしておく。さらに、環部6Bにおいて、ロックリング10aのガイド突起15をガイド溝16の横溝部分に配置し、可動アーム9の先端部がロックリング10aの係合凹部13から解放されて中央杆7aに向けて傾倒できるような、可動アーム9のロックを解除した状態にしておく。
【0081】
そして、この状態の吊金車1を、作業員が腰袋に入れて鉄塔Pを昇って、吊金車1を鉄塔Pの上部に運搬する。
【0082】
作業員が鉄塔Pの上部に到着したときは、腰袋から吊金車1を取り出し、吊金車1を、例えば、左腕によりしっかりと脇に抱えて、右腕によりスリング2を鉄塔Pに巻き付け、スリング2の他方の架け輪2bを環部6Bの可動アーム9に押し付けて、可動アーム9を傾倒させるというワンタッチの簡単な動作により、その架け輪2bを環部6Bに取り付ける。
【0083】
そして、環部6Bにおいて、図3(a)・図4(a)に示すように、ロックリング10aのガイド突起15をガイド溝16の縦溝部分に配置し、環部6Aを閉鎖している状態の可動アーム9に、ロックリング10aの係合凹部13を押し付け、係合凹部13に可動アーム9の先端部を挿入したロック状態にする。
【0084】
この一連の作業により、吊金車1が落下することなく、鉄塔Pの上部に確実に設置されるのである。
【0085】
そして、この吊金車1を利用して、地上から鉄塔Pの上部における作業箇所まで、送電線の保守に必要となる工具や資材等を引き上げる。
【0086】
具体的には、吊金車1の蓋部5を開放し、吊金車1の内側に位置している滑車3にロープRを架け、このロープRを介して、工具や資材等の荷揚げを行うのである。
【0087】
尚、ロック部10の構成は、図3・図4に示すものに限定されることはない。
【0088】
このロック部10を構成するロックリング10aの上アーム部8a(8c)への取り付け状態は、図3・図4に示す構成と同一である。
【0089】
相違点は、図5(a)(b)に示すように、ロックリング10aの下端部における内周縁に雌ネジ部17を設ける一方、可動アーム9の先端部に、ロックリング10aの雌ネジ部17に螺合する雄ネジ部18を設けている点である。
【0090】
このロックリング10aにおいては、図5(a)に示すように、ロックリング10aを回転させてロックリング10aの雌ネジ部17を可動アーム9の雄ネジ部18に螺合させたときは、可動アーム9のロック状態となる。
【0091】
また、図5(b)に示すように、ロックリング10aを逆回転させてロックリング10aの雌ネジ部17と可動アーム9の雄ネジ部18の螺合状態を解放したときは、可動アーム9のロックを解除した状態となる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明に係る吊金車は、架空送電線の鉄塔における碍子連の取り替えやダンパーの取り替え、また、飛来物除去やジャンパー開放接続等の各種作業を行う際に使用されることの他に、例えば、橋梁や超高層タワー・ビル等の補強工事等や、その他の様々な高所作業において、幅広く利用することができる。
【符号の説明】
【0093】
P…鉄塔
Q…回動機構部
R…ロープ
1…吊金車
1a…支持枠部
1b…支持枠部
1c…突出部
1d…突出部
2…スリング
2a…架け輪
2b…架け輪
2c…帯紐
3…滑車
4…ヒンジ部
5…蓋部
6A…環部
6B…環部
7…軸部
7a…中央杆
8…軸受部
8a…上アーム部
8b…下アーム部
8c…上アーム部
8d…下アーム部
9…可動アーム部
9a…軸止め機構
10…ロック部
10a…ロックリング
11…開口部
12…係止部
13…係合凹部
14…板バネ
15…ガイド突起
16…ガイド溝
17…雌ネジ部
18…雄ネジ部
20…ヒンジアーム
20a…挿通孔
30…ボルト
40…ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯紐の両端に架け輪を備えているスリングを介して、様々な部材に設置される吊金車であり、吊金車の上部において軸部を介して回動する回動機構部を備え、該回動機構部は、軸部の上方に、スリングの各架け輪を個別に取り付ける環部を、2個並設していることを特徴とする吊金車。
【請求項2】
回動機構部を構成している2個の環部それぞれは、環部を開放・閉鎖する棒状の可動アームを備え、該可動アームは、環部の内方を向くように傾倒して環部を開放する請求項1に記載の吊金車。
【請求項3】
回動機構部は、環部を閉鎖している状態で可動アームを固定するロック部を備えている請求項1に記載の吊金車。
【請求項4】
ロック部は、環部を閉鎖している状態の可動アームにおいて、可動アームの先端部近傍に位置している環部の構成部材に取り付けたロックリングにより形成され、該ロックリングは、若干のスライド移動が可能であると共に、可動アームの先端部を挿入する係合凹部を備え、弾性部材を介して可動アーム側に向けて付勢されている請求項3に記載の吊金車。
【請求項5】
ロックリングの内周縁において、ロックリングの内方を向くようにガイド突起を設ける一方、ロックリングを取り付けている環部の構成部材に略逆L字状のガイド溝を設け、ロックリングのガイド突起を、環部の構成部材のガイド溝に係合させている請求項4に記載の吊金車。
【請求項6】
ロック部は、環部を閉鎖している状態の可動アームにおいて、可動アームの先端部近傍に位置している環部の構成部材に取り付けたロックリングにより形成され、該ロックリングは、若干のスライド移動が可能であると共に、ロックリングの内周縁に雌ネジ部を設けて形成される一方、可動アームの先端部に、ロックリングの雌ネジ部に螺合する雄ネジ部を設けている請求項3に記載の吊金車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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