説明

同軸ケーブル

【課題】繰り返しの屈曲応力が加えられたケーブルとしての断線発生段階においては中心導体が外部導体よりも先に断線することにより寿命末期まで機器の安全性を確保することのできる同軸ケーブルを提供する。
【解決手段】外部導体3を構成する素線の抗張力が中心導体1を構成する素線の材料よりもよりも抗張力が大きなものとすることにより、産業用ロボットの関節部分や可動部分において、繰り返しの屈曲応力が加えられた際においても、補強を目的とした特別な材質を用いることなく、柔軟性に優れ、電気抵抗も低く、長年の使用における寿命末期時点においては、シールド性能を損なうことなく、基本機能に用いられる中心導体が先に断線することによって、機器の基本機能としての寿命を迎えることなり、外部導体に断線が発生しているという危険を内在した状態で継続使用されるという、危険な状態を回避する事ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシールド性能と耐屈曲性が要求される産業用ロボットや超音波探蝕子などにおける電気的信号の接続用同軸ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
可動部などに用いられ、繰り返しの耐屈曲信頼性が要求される従来の同軸ケーブルは、例えば図5に示すように1心若しくは複数の素線からなる中心導体(主に信号用)31と絶縁体32および編組又は横巻きで構成された外部導体(主として、GND、シールド用)33が同軸上に配置され構成されており、外部導体を構成する素線には一定比率でステンレス線や鋼線、もしくはピアノ線などの抗張力の非常に大きな材料を補強材34として補強目的でおり混ぜる事によって、同軸ケーブル自体の剛性を高め、屈曲応力を受けた際の曲率半径が大きくなるようにすることによって、応力負荷を低減し断線発生を防いでいた。
【0003】
例えば特許文献1においては、外部導体素線の一部に一定比率で補強主体の金属線を混入させる構成が記載されている。
【特許文献1】特開平10−334750号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の同軸ケーブルにおいては、外部導体素線の一部を導電率は低いが抗張力の大きいステンレス線や鋼線もしくはピアノ線としてしまうことにより、外部導体の電気的抵抗が増加してしまう上、同軸ケーブルの柔軟性が低下してしまうという問題を有していた。
【0005】
また、同軸ケーブルが用いられるのは、機器が外部からの不要な電波の影響で誤動作してしまうのを防ぐためにシールドされた信号線として使用される場合が多く、昨今は機器から発生する不要な電波の放出、すなわち不要輻射の低減に向けた法的要求なども厳しくなり、同軸ケーブルの必要性は高まっている。
【0006】
従来の同軸ケーブルにおいては、外部導体の一部に補強目的の素線が混入されてはいるが、機器の使用年月が進み製品としての寿命末期段階においては、最終的に補強主体の素線以外の素線において断線が発生してしまうことは避けられず、機器の使用状況に応じて中心導体の素線および外部導体の補強主体の素線以外の素線において断線が進行していくこととなる。
【0007】
この断線が進行する途中段階においては、場合によっては、信号線としての中心導体にはまだ断線が生じてはおらず、そのため機器の基本機能は問題無いが、外部導体の一部素線に疲労による断線が発生してしまうこともあり、基本機能に問題無いながらも外部導体の断線が進むことによって、機器の仕様として意図していない状態となり、使用者が気づかないうちにシールド性能が低下したり、機器の誤動作や不要ふく射の増加などの危険を内在する状態となってしまう事があった。
【0008】
さらに、超音波探蝕子などの医療機器の場合、外部導体は接地信号線として用いる場合が多く、外部導体素線の断線は接地抵抗の増加へと繋がる。
【0009】
例えば、機器の寿命末期段階において患者接触部の絶縁性能が低下した場合において、外部導体の断線が進行し、接地信号線の電気的抵抗が増加してしまうと、患者漏れ電流が増加することとなってしまい、機器の寿命末期段階においては安全性が確保できない可能性があるという危険性をはらんでいるものであった。この、患者漏れ電流が増加するということは、被検体の生命に関わる問題であり、長年の使用における機器の寿命末期段階においても、あってはならないことである。しかし、この様な状態になっていることは容易に判断できる物でなく、時間と共に危険性が進行してしまう可能性があるものである。
【0010】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされたもので、柔軟性が高くケーブルに繰り返しの屈曲応力が加えられ同軸ケーブルとして寿命末期段階においては中心導体が外部導体よりも先に断線するようにすることにより、機器の基本性能が先に失われ、機器としての寿命まで安全性を確保することのできる安全性の高い同軸ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の同軸ケーブルは、複数の第1の素線で構成した中心導体と複数の第2の素線で構成した外部導体とを絶縁体を介して同軸状に配置した同軸ケーブルであって、外部導体に用いられる導体材料は中心導体に用いられる導体材料よりも抗張力が大きな材質で構成している。
【0012】
この構成により、ステンレス線や鋼線もしくはピアノ線などの剛性が高く導電率の小さな材料を持ちいることなく、柔軟性に優れ、繰り返しの屈曲応力が加えられたケーブルとしての断線発生段階においては抗張力の低い中心導体が外部導体よりも先に断線することにより、機器の基本性能が先に失われ、機器としての寿命末期においても安全性を確保することのできる同軸ケーブルを提供することができる。
【0013】
また、本発明の同軸ケーブルは、複数の第1の素線で構成した中心導体と複数の第2の素線で構成した外部導体とを絶縁体を介して同軸状に配置した同軸ケーブルであって、中心導体を構成する第1の素線は外部導体を構成する第2の素線よりも直径が大きな素線で構成している。
【0014】
この構成により、ステンレス線や鋼線もしくはピアノ線などの剛性が高く導電率の小さな材料を用いることなく、柔軟性に優れ、繰り返しの屈曲応力が加えられたケーブルとしての断線発生段階においては抗張力の低い中心導体が外部導体よりも先に断線することにより、機器の基本性能が先に失われることで、機器としての寿命末期であることを即座に判別可能とすることで、不良であることに気づかずに使用を続けることを未然に防ぎ、より高い安全性を確保することのできる同軸ケーブルを提供することができる。
【0015】
また、本発明の多心同軸ケーブルにおいては、前記の同軸ケーブルを複数本撚ってなる構成を有している。
【0016】
この構成により、繰り返しの屈曲が加えられた際において、外部導体よりも中心導体の方が先に断線することとなり、機器の寿命末期まで安全性を確保することの出来る多心の同軸ケーブルを提供することが出来る。
【0017】
さらに、本発明の超音波探触子においては、中心導体の方が外部導体よりも先に断線するべく構成された多心同軸ケーブルを用いた構成を有している。
【0018】
この構成により、繰り返しの屈曲が加えられた際において、外部導体よりも中心導体の方が先に断線することとなり、機器の寿命末期まで安全性を確保することの出来る多心の同軸ケーブルを提供することが出来る。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、ステンレス線や鋼線もしくはピアノ線などの剛性が高く導電率の小さな材料を用いることなく、柔軟性に優れ、繰り返しの屈曲応力が加えられたケーブルとしての断線発生段階においては中心導体が外部導体よりも先に断線することにより、機器の基本性能が先に失われ、機器としての寿命末期においても安全性を確保することのできる同軸ケーブルを提供することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態の同軸ケーブルについて、図面を用いて説明する。
【0021】
本発明の第1の実施の形態の同軸ケーブルを図1に示す。
【0022】
図1において、中心導体1と編組又は横巻きからなる外部導体3は絶縁体2を介して同軸状に配置しされ、さらに外部導体の外周には外部導体を保護・絶縁するためのシース5が構成されている。
【0023】
中心導体1は複数心で構成されており(1芯であっても技術的に同様)、図1において、中心導体1は7心の素線で構成された状態を示している。
【0024】
ここで、外部導体3を構成する素線の抗張力が中心導体1を構成する素線の抗張力よりも材料的に大きなものとするものである。
【0025】
一般的にこれらの電線に用いられる導体材料は、抗張力の高い順に下記の材料が用いられる場合が多い。
【0026】
同箔糸線>銅合金線>硬銅線>軟銅線
これらの素線材料において、中心導体1に硬銅線を用い、外部導体3に銅合金を用いた場合、外部導体3の方が中心導体13よりも抗張力が大きい状態となる。
【0027】
また、中心導体1の素線として軟銅線材料を用いた場合、外部導体3の素線材料は硬銅線若しくは銅合金線以上の抗張力の材料とすることによって、外部導体3の方が中心導体1よりも抗張力が大きい状態とする事が出来る。
【0028】
すなわち、上記に例を挙げた導体材料に関わらず、中心導体1に用いる素線材料を外部導体3に用いる素線材料よりも抗張力の大きな材質とするという構成である。
【0029】
なお前記導体材料の分類においても抗張力が異なる材料は多く存在し、本実施の形態における構成としては材質の分類を異なる物とするということではなく、あくまで抗張力に差を設けるということであるということは言うまでも無い。
【0030】
以上のように構成された同軸ケーブルにおいて、その動作を説明する。
【0031】
たとえば、中心導体1の素線材料として抗張力280N/mm2前後の軟銅線を用い、外部導体3の素線材料として800N/mm2の銅合金線を用いた場合、繰り返し加えられる屈曲応力の曲率半径が同一とした場合、外部導体3の耐性は、中心導体1の耐性よりも約2.9倍高くなり、その分中心導体1よりも外部導体3の寿命を延ばす事が出来る。
【0032】
このような本発明の第1の実施の形態によれば、外部導体3を構成する素線の抗張力が中心導体1を構成する素線の材料よりもよりも抗張力が大きなものとすることにより、産業用ロボットの関節部分や可動部分において、繰り返しの屈曲応力が加えられた際においても、補強を目的とした特別な材質を用いることなく、柔軟性に優れ、電気抵抗も低く、長年の使用における寿命末期時点においては、シールド性能を損なうことなく、基本機能の信号線として用いられる中心導体が先に断線することによって、機器の基本機能としての寿命を迎えることとなり、異常状態となったことを明示することで、外部導体に断線が発生しているという危険を内在した状態で継続使用されるという、危険な状態を回避する事ができる。
【0033】
次に、本発明の第2の実施の形態の同軸ケーブルを図2に示す。
【0034】
図2において、中心導体11を構成する素線の直径は、外部導体13を構成する素線の直径よりも大きなものとする構成である。
【0035】
中心導体11は1本若しくは複数心の素線で構成されるが、いかなる素線の心数で構成される場合においても、それぞれを構成する素線の直径が中心導体の方に大きなものを用いるという構成である。
【0036】
以上のように構成された同軸ケーブルにおいて、その動作を説明する。
【0037】
一般的に1心若しくは複数の素線で構成されるケーブルにおいては、繰り返しの屈曲応力に対する耐性は、同一の抗張力を持つ材質の場合、屈曲の曲率半径に比例し、素線の直径に反比例する特性を有している。
【0038】
すなわち、構成する素線の直径が小さいほど繰り返しの屈曲応力に対する耐性は高くなるため、中心導体11を構成する素線の直径を外部導体13を構成する素線の直径よりも大きくすることにより、中心導体11よりも外部導体13の耐性が高くなるために、相対的に中心導体11において先に断線が発生することとなる。
【0039】
このような本発明の第2の実施の形態によれば、中心導体11を構成する素線の直径は、外部導体13を構成する素線の直径よりも大きなものとする構成により、第1の実施の形態の効果に加え、より柔軟性や低抵抗化を考慮した材質の選択の幅が広がるため、同軸ケーブルの基本性能としてより優れたものとする事が出来る。
【0040】
次に、本発明の第3の実施の形態の多心同軸ケーブルを図3に示す。
【0041】
図3においては、前記実施の形態1若しくは2記載の形態で構成された同軸ケーブル6を複数心寄り合わせ、その外周に全体シース7を構成することによって、同軸多心ケーブル8としたものである。
【0042】
この際、全体のシールド性能をより向上させるために、全体シース7の内側に全体シールド(図示せず)を構成してもよい。
【0043】
以上のように構成された多心同軸ケーブルにおいては、前記実施の形態1若しくは2記載の形態で構成された同軸ケーブルを多心化した物であり、産業用ロボット等の複数の電気信号を多数伝達するような機器においても、安全に機器の寿命を迎える事が出来る。
【0044】
このような本発明の第3の実施の形態によれば、第1および第2の実施の形態の効果に加え、多くの電気信号の伝達を行う機器において、複数の同軸電線それぞれの同軸ケーブルが絡み合ったり、捻じれたりすることによって、意図した以上の張力が加わったり、小さな曲率半径で屈曲してしまうことを避けやすくなり、多心のケーブルにおいても最低限の管理で安全な機器を構成する事が出来る。
【0045】
さらに、本発明の4の実施の形態の超音波探触子を図4に示す。
【0046】
図4において、超音波診断装置21の内部には超音波探触子22の患者接触部25に内包された圧電振動子28を駆動するための信号発生源である駆動ドライバ27が構成されており、コネクタ部23、同軸ケーブル27を介して圧電振動子28に電気的に接続される。
【0047】
一般的にこれらの超音波診断装置において、圧電振動子28は、数十〜二百個前後で構成され、それぞれが同軸ケーブル27で超音波診断装置21と接続される。
【0048】
超音波探触子22の患者接触部25は超音波検査を行う被検体すなわち、人体29と接触する部分であり、人体29との電気的絶縁性が要求されるが、長年の使用やユーザーの異常使用により人体との絶縁性能が低下してしまう場合が考えられる。
【0049】
超音波探触子のケーブルはその使われ方から、高い柔軟性と繰り返しの屈曲に対する耐性が要求される。
【0050】
また、医療機関で使用されることもあり、外来ノイズに対する耐性や、不要な電波を放出しない不要輻射性能においては高いレベルの基準を満たすことが要求される。
【0051】
このような第4の実施の形態において、同軸ケーブル27として、本発明における第3の実施の形態の多心ケーブルを用いることにより、外部導体よりも中心導体が先に断線するようにするものである。
【0052】
以上のように構成された超音波探触子においては、機器の寿命段階においては外部導体よりも先に中心導体に断線が発生することにより、基本機能が失われ、容易に機器の異常を判断することが出来るようになるため、危険な状態となっている点に気づかずに継続して使用してしまうことを防ぐ事が出来るという、医療機器としての安全性上大きな効果を有する物である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上のように、本発明にかかる同軸ケーブルは、中心導体と編組又は横巻きからなる外部導体を絶縁体を介して同軸状に配置し構成された同軸ケーブルであって、外部導体に用いられる導体材料は中心導体に用いられる導体材料よりも抗張力が大きな材質で構成する、若しくは中心導体の素線直径を外部導体の素線直径よりも大きな物で構成することにより、ステンレス線や鋼線もしくはピアノ線などの剛性が高く導電率の小さな材料を持ちいることなく、柔軟性に優れ、繰り返しの屈曲応力が加えられたケーブルとしての断線発生段階においては中心導体が外部導体よりも先に断線することにより、機器の基本性能が先に失われ、機器としての寿命末期においても安全性を確保することのできる同軸ケーブルを提供することができるという効果を有し、シールド性能と耐屈曲性が要求される産業用ロボットや超音波探蝕子などにおける電気的信号の接続用同軸ケーブルとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1の実施の形態における同軸ケーブルの断面図
【図2】本発明の第2の実施の形態における同軸ケーブルの断面図
【図3】本発明の第3の実施の形態における多心同軸ケーブルの断面図
【図4】本発明の第4の実施の形態における超音波探触子の構成図
【図5】従来の同軸ケーブルの断面図
【符号の説明】
【0055】
1,11 中心導体
3,13 外部導体
2,12 絶縁体
5,15 シース
7 全体シース
6,16,27 同軸ケーブル
8,26 多心同軸ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第1の素線で構成した中心導体と複数の第2の素線で構成した外部導体とを絶縁体を介して同軸状に配置した同軸ケーブルであって、前記外部導体に用いられる導体材料は前記中心導体に用いられる導体材料よりも抗張力が大きな材質であることを特徴とする同軸ケーブル。
【請求項2】
複数の第1の素線で構成した中心導体と複数の第2の素線で構成した外部導体とを絶縁体を介して同軸状に配置した同軸ケーブルであって、中心導体を構成する前記第1の素線は外部導体を構成する前記第2の素線よりも直径が大きな素線で構成されることを特徴とする同軸ケーブル。
【請求項3】
前記請求項1ないし2記載の同軸ケーブルを複数本撚ってなる事を特徴とする多心同軸ケーブル。
【請求項4】
前記請求項3記載の多心同軸ケーブルを接続用ケーブルとして用いたことを特徴とする超音波探蝕子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−97916(P2008−97916A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−276234(P2006−276234)
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】