説明

同軸ケーブル

【課題】温度環境の変化および曲げ応力の加除に対して高周波数の信号を伝送する際の位相変化を抑制することができる同軸ケーブルを提供すること。
【解決手段】同軸ケーブル1は、内部導体11と誘電体層13とは密着体層12により密着することになるため、温度環境の変化による内部導体および誘電体層の伸縮に伴う内部導体と誘電体層との間のずれの発生を防止することができ、温度環境の変化に対して高周波数の信号を伝送する際の位相変化を抑制することができる。また、誘電体層と外部導体層16との間は緩衝体層15が介在しているため、誘電体層が多孔質体でなるときの孔の潰れを抑制することができ、更に密着体層により内部導体が撚り線でなるときのバラケを防止でき、曲げ応力の加除に対して高周波数の信号を伝送する際の位相変化を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同軸ケーブルに関し、特に巻回体で支持された編組構造を有する同軸ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の同軸ケーブルは、中心導体(内部導体)と、この中心導体を取囲む可撓性の誘電体と、この誘電体を取囲む可撓性の外部導体と、この外部導体を取囲む半閉に巻回されたテンションスプリングの形状の金属コイルと、この金属コイルを取囲む少なくとも1つの負荷支持編組体とを備えている。このような構成によれば、良好な機械的強度特性を有する高性能で可撓性のある同軸ケーブルとすることができるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第4719320号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の同軸ケーブルは、例えば、ケーブル試験機の本体と被測定物とを接続する接続ケーブルとして用いられる。このケーブル試験機では、例えば−30°Cから+90°Cという温度環境下で5GHzから25GHzという高周波数の信号を伝送するケーブルを試験する必要がある。ところが、上述の同軸ケーブルでは、上記温度環境下で上記高周波数の信号を伝送した場合、接続ケーブルの位相変化が非常に大きく変化するため、測定誤差が大きくなるという問題があった。
【0005】
また、ケーブル試験機を使用する際には被測定物を試験ケーブルに接続させる必要があるため、接続ケーブルには曲げ応力が加わることになる。ところが、上述の同軸ケーブルでは、曲げ応力が加わる前には一定であった位相が、曲げ応力が加わったときの位相変化は特に高周波数の信号になるほど大きくなり、さらに曲げ応力が除かれた後の位相は特に高周波数の信号になるほど元の状態に戻らないため、測定誤差が大きくなるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記のような課題に鑑みなされたものであり、その目的は、温度環境の変化および曲げ応力の加除に対して高周波数の信号を伝送する際の位相変化を抑制することができる同軸ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的達成のため、本発明の同軸ケーブルでは、内部導体と、該内部導体の外周側に設けられた誘電体層と、該誘電体層の外周側に設けられた外部導体層と、該外部導体層の外周側に巻回された巻回体と、該巻回体の外周に設けられた編組構造を有する外装とを備えた同軸ケーブルであって、前記内部導体と前記誘電体層との間に前記内部導体と前記誘電体層とに密着する密着体層を設けると共に、前記誘電体層と前記外部導体層との間に緩衝となる緩衝体層を設けたことを特徴としている。
【0008】
これにより、本発明の同軸ケーブルでは、内部導体と誘電体層とは密着体層により密着することになるため、温度環境の変化による内部導体および誘電体層の伸縮に伴う内部導体と誘電体層との間のずれの発生を防止することができる。よって、温度環境の変化に対して高周波数の信号を伝送する際の位相変化を抑制することができるものと考えられる。
【0009】
また、内部導体と誘電体層とは密着体層により密着することになるため、特に内部導体が複数本の撚り線でなる場合に曲げ応力の加除による複数本の撚り線のバラケを防止することができる。さらに、誘電体層と外部導体層との間は緩衝体層が介在しているため、内部導体および誘電体層に対する曲げ応力の影響を緩衝、特に誘電体層が多孔質体でなるときの孔の潰れを抑制することができる。よって、曲げ応力の加除に対して高周波数の信号を伝送する際の位相変化を抑制することができるものと考えられる。
【0010】
また、本発明の同軸ケーブルでは、前記密着体層は、前記内部導体と前記誘電体層とに融着されていることが好適である。これにより、同軸ケーブルの製作過程において内部導体と誘電体層とを密着させることは比較的容易に行えるため、かかる同軸ケーブルのコストを低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の同軸ケーブルの実施形態の斜視図である。
【図2】(A)および(B)は、本実施形態および従来の同軸ケーブルの温度環境の変化と位相変化量との関係を周波数毎に示す図である。
【図3】(A)および(B)は、本実施形態および従来の同軸ケーブルの周波数と位相変化量との関係を曲げ応力の加除毎に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に説明する実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の成立に必須であるとは限らない。
【0013】
図1は、本発明の同軸ケーブルの実施形態の斜視図である。この同軸ケーブル1は、中心導体11(内部導体)と、本発明の特徴的な部分である密着体層12と、誘電体層13と、第1の外部導体層14と、本発明の特徴的な部分である緩衝体層15と、第2の外部導体層16と、被覆層17と、巻回体18と、シールド層19と、ジャケット20とにより略構成されている。そして、この同軸ケーブル1は以下の手順により形成される。
【0014】
先ず、複数本の導体素線を撚り合わせて中心導体11を形成し、中心導体11の外周に押出機(図示せず)を用いて密着体層12を被覆形成し、更に密着体層12の外周に例えば多孔質ポリテトラフルオロエチレン(以下、単にEPTFEとする)を巻回して誘電体層13を被覆形成した後、シンターする。次に、この誘電体層13の外周に金属箔を横巻きして第1の外部導体層14を形成し、第1の外部導体層14の外周に、例えば、EPTFEのテープを巻回して緩衝体層15を被覆形成する。更に緩衝体層15の外周に複数本の導体素線を編組構造にして第2の外部導体層16を形成し、外部導体層16の外周に押出機を用いて被覆層17を被覆形成する。
【0015】
そして、この被覆層17の外周に巻回体18を挿入し、この巻回体18の外周に複数本の導体素線を編組構造にしてシールド層19を形成し、このシールド層19の外周に押出機を用いてジャケット20を形成する。なお、ジャケット20は、外被20aと、この外被20aの外周に複数本の導体素線を編組構造にした保護層20bとで構成されている。そして、巻回体18とシールド層19とジャケット20とは、同軸ケーブル1のアーマーとして機能する。
【0016】
中心導体11の導体素線には例えば銀入り軟銅線、密着体層12には例えばテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(以下、単にFEPとする)、誘電体層13には、例えば、EPTFEが使用可能である。また、上記したように誘電体層13を被覆形成した後、シンターするので、密着体層12を溶融させて中心導体11に融着させることができる。なお、EPTFEは発泡もしくは延伸させた多孔質のフッ素樹脂であるが、誘電体層13には、充実のフッ素樹脂も使用可能である。
【0017】
また、第1の外部導体層14には例えば銀入り軟銅箔やアルミニウム箔、緩衝体層15には例えばEPTFE、第2の外部導体層16の導体素線には例えば銀めっき銅被覆鋼線、被覆層17には例えばFEPが使用可能である。また、巻回体18には例えば鋼製コイルばね、シールド層19の導体素線には例えば銀めっき銅被覆鋼線、ジャケット20の外被20aには例えばポリテトラフルオロエチレン(以下、単にPTFEとする)、ジャケット20の保護層20bには例えば樹脂製の糸の編組からなる被覆層が使用可能である。
【0018】
このように、中心導体11と誘電体層13とは密着体層12により密着することになるため、温度環境の変化による中心導体11および誘電体層13の伸縮に伴う中心導体11と誘電体層13との間のずれの発生を防止することができる。また、中心導体11と誘電体層13とは密着体層12により密着することになるため、曲げ応力の加除による複数本の撚り線でなる中心導体11のバラケを防止することができる。さらに、誘電体層13と第2の外部導体層16との間は緩衝体層15が介在しているため、中心導体11および誘電体層13に対する曲げ応力の影響を緩衝することができる。特に誘電体層13が多孔質体のEPTFEでなるために孔の潰れを抑制することができる。
【0019】
そして、以上のような構成の同軸ケーブル1によれば、温度環境の変化に対して密着体層12により中心導体11と誘電体層13との間のずれの発生を防止できるため、高周波数の信号を伝送する際の位相変化を抑制することができるものと考えられる。また、曲げ応力の加除に対して密着体層12により中心導体11のバラケを防止でき、さらに緩衝体層15により中心導体11および誘電体層13に対する曲げ応力の影響を緩衝、特に誘電体層13の孔の潰れを抑制できるため、高周波数の信号を伝送する際の位相変化を抑制することができるものと考えられる。
【0020】
次に、本実施形態の密着体層12および緩衝体層15を有する同軸ケーブル1と、比較のために密着体層12および緩衝体層15がない同軸ケーブルとを用いて、温度環境の変化と位相変化量との関係を周波数毎に測定する試験および周波数と位相変化量との関係を曲げ応力の加除毎に測定する試験を行った。
【0021】
本実施形態の同軸ケーブル1は、以下の構成となっている。導体素線にあたる外径0.287mmの銀入り軟銅線を19本撚り合わせて中心導体11を形成し、この中心導体11の外周にFEPを厚さ0.2mm被覆して密着層12を形成する。そして、この密着層12の外周にEPTFEのテープを巻回し、厚さ0.93mm被覆して誘電体層13を形成し、この誘電体層13の外周に第1の外部導体層14として銀入り軟銅箔を厚さ1.35mmとなるように巻回(横巻き)する。そして、この第1の外部導体層14の外周にEPTFEのテープを巻回し、厚さ0.14mm被覆して緩衝体層15を形成し、この緩衝体層15の外周に導体素線にあたる外径0.102mmの銀めっき銅被覆鋼線を打数16、持数10の編組構造にして第2の外部導体層16を形成する。
【0022】
そして、この第2の外部導体層16の外周にFEPを厚さ0.25mm被覆して被覆層17を形成し、この被覆層17の外周に外径6.7mmの鋼製コイルばねを挿入して巻回体18とする。そして、この巻回体18の外周に導体素線にあたる外径0.102mmの銀めっき銅被覆鋼線を打数16、持数6の編組構造にしてシールド層19を形成し、このシールド層19の外周にPTFEを厚さ0.15mm被覆してジャケット20の外被20aを形成し、このジャケット20の外被20aの外周に導体素線にあたる銀めっき銅被覆鋼線を編組構造にしてジャケット20の保護層20bを形成し、最終的にケーブル外径を7.9mmとする。一方、比較例の同軸ケーブルは、上記密着体層12および緩衝体層15がないこと以外は同一構成で形成する。
【0023】
図2(A)および(B)は、本実施形態および従来の同軸ケーブルの温度環境の変化と位相変化量との関係を周波数毎に示す図である。信号の周波数が5GHz、10GHz、15GHz、20GHz、25GHzの場合、温度環境を−30°Cから+90°Cまで変化させたときの位相変化量(°/m)を測定した。図2(B)から明らかなように、従来の同軸ケーブルでは、信号周波数が高周波数になるに従って位相変化量は山形に大きくなり、何れの信号周波数の場合も温度環境が+30°Cのときに最大の位相変化量となる傾向にある。特に、信号周波数が25GHzの場合の位相変化量は21°/mという大きな値を示している。さらに、従来の同軸ケーブルでは、温度環境が+30°Cを超えても位相変化量は0となることはない。
【0024】
一方、図2(A)から明らかなように、本実施形態の同軸ケーブル1でも、信号周波数が高周波数になるに従って位相変化量は山形に大きくなり、何れの信号周波数の場合も温度環境が+30°Cのときに最大の位相変化量となる傾向にある。しかし、信号周波数が25GHzの場合の位相変化量は12°/mという値であり、従来の同軸ケーブルの位相変化量21°/mよりも極めて小さな値を示している。さらに、本実施形態の同軸ケーブル1では、温度環境が+30°Cを超えて+90°Cに達すると、何れの信号の周波数の場合も位相変化量は略0°/mとなる。よって、温度環境の変化に対して高周波数の信号を伝送する際の位相変化を抑制することができる同軸ケーブル1を得ることができる。
【0025】
図3(A)および(B)は、本実施形態および従来の同軸ケーブルの周波数と位相変化量との関係を曲げ応力の加除毎に示す図である。曲げ応力を加える前(試験前)、加えているとき(試験中)、加えた後(試験後)において、信号の周波数を5GHz、10GHz、15GHz、20GHz、25GHzまで変化させたときの位相変化量(°/m)を測定した。図3(B)から明らかなように、従来の同軸ケーブルでは、曲げ応力を加える前の位相変化量は略0°/mであったものが、曲げ応力を加えているときの位相変化量は信号周波数が大きくなるにつれて山形に大きくなる傾向にある。特に、信号周波数が20GHzの場合の位相変化量は5°/mという大きな値を示している。そして、曲げ応力を加えた後の位相変化量は信号の周波数が大きくなるにつれて直線状に大きくなる傾向にあり、曲げ応力を加える前の位相変化量である略0°/mには戻らない。特に、信号の周波数が25GHzの場合の位相変化量は3°/mという大きな値を示している。
【0026】
一方、図3(A)から明らかなように、本実施形態の同軸ケーブル1では、曲げ応力を加える前の位相変化量は略0°/mであったものが、曲げ応力を加えているときの位相変化量は信号周波数が大きくなるにつれて僅かではあるが山形に大きくなった後、マイナス方向に若干大きくなる傾向にある。すなわち、信号周波数が12GHz付近で位相変化量は0.5°/mと最大となり、信号周波数が17GHzのときに位相変化量は0°/mとなり、信号周波数が25GHzのときに位相変化量は−2°/mとなる。そして、曲げ応力を加えた後の位相変化量は、曲げ応力を加える前の位相変化量である略0°/mに戻っている。よって、曲げ応力の加除に対して高周波数の信号を伝送する際の位相変化を抑制することができる同軸ケーブル1を得ることができる。
【符号の説明】
【0027】
1 同軸ケーブル、11 中心導体(内部導体)、12 密着体層、13 誘電体層、14 第1の外部導体層、15 緩衝体層、16 第2の外部導体層、17 被覆層、18 巻回体層、19 シールド層、20 ジャケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部導体と、
該内部導体の外周側に設けられた誘電体層と、
該誘電体層の外周側に設けられた外部導体層と、
該外部導体層の外周側に巻回された巻回体と、
該巻回体の外周に設けられた編組構造を有する外装とを備えた同軸ケーブルであって、
前記内部導体と前記誘電体層との間に前記内部導体と前記誘電体層とに密着する密着体層を設けると共に、前記誘電体層と前記外部導体層との間に緩衝となる緩衝体層を設けたことを特徴とする同軸ケーブル。
【請求項2】
前記密着体層は、前記内部導体と前記誘電体層とに融着されていることを特徴とする請求項1に記載の同軸ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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