説明

同軸ケーブル

【課題】中心導体が単線で構成された同軸ケーブルであって疲労特性に優れる同軸ケーブル、及び同軸ケーブルバンドルを提供する。
【解決手段】同軸ケーブル1は、その長さが1000mm以下の短尺材であり、中心導体10が主として1本のCu-Ag合金線11から構成される単線導体である。Cu-Ag合金線11は、Agを5質量%以上15質量%以下含有するCu-Ag合金から構成され、直径:15μm以上50μm以下であり、その外周にめっき層12を具える。中心導体10は、導電率:50%IACS以上、引張強さ:1330MPa以上を満たす。Agを特定の範囲で含有し、かつ特定の大きさを有するCu-Ag合金線11を具え、導電率・引張強さが特定の範囲を満たす中心導体10を具えることで、同軸ケーブル1は、屈曲や捻回により断線し難く、疲労特性に優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Cu-Ag合金線からなる中心導体を具える同軸ケーブル、及びこの同軸ケーブルを複数束ねた同軸ケーブルバンドルに関するものである。特に、中心導体が単線導体であり、疲労特性に優れる同軸ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話や携帯用コンピュータといった携帯機器、超音波診断装置の診断プローブや内視鏡といった医療機器、産業用ロボットなどの各種の電気・電子機器の配線に、同軸ケーブルが利用されている。上記配線は、使用時、屈曲や捻回が加えられることが多いことから、屈曲や捻回により断線し難い、即ち、疲労特性に優れることが望まれる。屈曲や捻回による断線を抑制するには、複数の線材を撚り合わせた撚線を利用することが挙げられる。そこで、従来、上記同軸ケーブルの中心導体には、撚線導体が汎用されている。また、上記線材には、純銅からなるものが汎用されている。
【0003】
昨今、上述の電気・電子機器の小型化に伴い、同軸ケーブルも細径になってきている。そのため、中心導体を構成する線材も細くする必要があるが、細いことで伸線途中に断線し易かったり(伸線性が悪かったり)、伸線できても撚り合わせ難かったり、撚り合わせの際に断線したりする(撚線性が悪い)。また、同軸ケーブルの中心導体を電子回路基板などに接続するにあたり、ハンダ付けといった端末接続処理を行う際に撚り合わせた線材がばらけて、これら線材を介して基板上の配線パターン同士が短絡する恐れがある。これに対して、特許文献1では、中心導体をCu-Ag合金からなる単線導体とすることを提案している。Cu-Ag合金は純銅に比較して強度が高く、かつ単線導体とすることで、伸線性の向上、撚線工程の省略、端末接続処理の作業性の向上を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-258172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の同軸ケーブルは、主として、医療機器や産業用ロボットの配線といった比較的長尺なものを対象としている。これに対し、携帯電話や携帯用コンピュータなどの比較的小型な電気・電子機器の配線は短尺である。具体的には、1m(1000mm)以下、用途によっては50cm(500mm)以下、30cm(300mm)以下といった更に長さが短い場合がある。そして、このような長さが1000mm以下といった比較的短い配線に利用される同軸ケーブルに対して、疲労特性に優れるものの開発が望まれている。
【0006】
例えば、長さが短いケーブルと長さが長いケーブルとに同じ捻回を加えた場合、短いケーブルでは、その全長に対して捻回による疲労を受ける領域の割合が大きく、かつ疲労度合いも大きい。そのため、長いケーブルを単純に短くしただけでは、長いケーブルと同等並み、或いは同等以上の特性を確保することが難しい。特に、上述のように、伸線性や生産性を考慮して単線導体とすると撚線導体よりも疲労し易くなるため、撚線導体を具える同軸ケーブルと同等並み、或いは同等以上の特性を有する単線導体の同軸ケーブルの開発が望まれる。
【0007】
そこで、本発明の目的の一つは、中心導体が単線導体であって、疲労特性に優れる同軸ケーブルを提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記同軸ケーブルを複数束ねた同軸ケーブルバンドルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、導電率が比較的低下し難く、強度の向上に効果がある添加元素としてAgを選択し、Cu-Ag合金線を対象として、上述のような長さが比較的短い用途の同軸ケーブルであって、その中心導体を単線導体とした場合に疲労特性に優れる構成を種々検討した。その結果、Agの含有量及び大きさ(直径)が特定の範囲を満たすCu-Ag合金線を利用し、導電率及び引張強さが特定の範囲を満たすように中心導体を構成することで、比較的短尺な同軸ケーブルであって、中心導体が単線導体でありながら、疲労特性に優れる同軸ケーブルが得られる、との知見を得た。本発明は、上記知見に基づくものである。
【0009】
本発明同軸ケーブルは、中心導体と、この中心導体の外周に設けられた電気絶縁層と、この電気絶縁層の外周に設けられ、上記中心導体と同軸に配置される外部導体とを具え、その長さが1000mm以下の比較的短尺なケーブルである。また、この同軸ケーブルの中心導体は、1本の素線から構成される単線導体である。上記素線は、Agを5質量%以上15質量%以下含有し、残部がCu及び不純物からなるCu-Ag合金から構成されるCu-Ag合金線と、このCu-Ag合金線の外周に設けられたAgめっき層、又はSnめっき層とを具える。そして、上記Cu-Ag合金線の直径が15μm以上50μm以下、上記中心導体の導電率が50%IACS以上、かつ上記中心導体の引張強さが1330MPa以上を満たす。
【0010】
本発明同軸ケーブルは、中心導体が単線導体であることで、撚線導体である場合と比較して、伸線性の向上、撚線工程の省略、端末接続処理の作業性の向上を図ることができる。また、本発明同軸ケーブルは、中心導体が、上述のようにAgの含有量が特定の範囲である特定の組成からなり、特定の大きさ(直径)を満たすCu-Ag合金線を主たる構成要素とすると共に、導電率及び引張強さが特定の範囲を満たすことで、1m以下といった比較的短尺なケーブルであって、かつ単線導体でありながら、捻回や屈曲に対する耐性に優れ、疲労特性に優れる。
【0011】
本発明の一形態として、上記中心導体の直径に対する上記電気絶縁層の厚さの割合が65%以上、当該同軸ケーブルの1GHzにおける減衰量が12dB/m以下である形態が挙げられる。また、本発明の一形態として、以下の疲労試験における当該同軸ケーブルのサイクル回数が20万回以上である形態が挙げられる。
[疲労試験]
上記同軸ケーブルを30本〜40本束ねたバンドル試料を作製し、当該試料の各端部をそれぞれ二軸回転動作が可能な治具に固定し、以下の開閉・捻回試験を実施する。上記二軸は、一方の軸と他方の軸とが直交するように配置されている。
開閉・捻回試験 一方の軸を回転軸として、回転角θ:0°から90°の開動作を行う。引き続き、他方の軸を回転軸として、回転角α:0°から180°の回転動作を行い、更に回転角α:180°から0°の逆回転動作を行う。引き続き、上記一方の軸を回転軸として、回転角θ:90°から0°の閉動作を行う。これら一連の二軸回転動作を1サイクルとし、約11秒/サイクルで行う。
【0012】
上記形態によれば、電気絶縁層の厚さが十分に厚いことで減衰量が少なく、信号伝送路として好適に利用できる。また、上記形態によれば、短尺な同軸ケーブルであり、かつ単線導体であっても、十分な疲労特性を有していることから、例えば、二軸回転機構を具え、小型である各種の電気・電子機器、代表的には携帯電話の配線に好適に利用できる。上記電気絶縁層の厚さの割合は大きいほど減衰量が少ないため、75%以上、更に80%以上が好ましいが、電気絶縁層の厚さが厚過ぎるとケーブルが太くなることから、100%以下が好ましい。また、減衰量は少ないほど信号伝送路に好ましいため、特に下限は設けない。
【0013】
本発明の一形態として、上記中心導体の直径が以下の比較ケーブルの中心導体の直径の90%以下、かつ上記電気絶縁層の外径が上記比較ケーブルの電気絶縁層の外径と等しく、当該同軸ケーブルの1GHzにおける減衰量が上記比較ケーブルの減衰量と同等以下である形態が挙げられる。また、本発明の一形態として、以下の疲労試験における当該同軸ケーブルのサイクル回数が上記比較ケーブルのサイクル回数と同等以上である形態が挙げられる。
[比較ケーブル]
中心導体は、Agを0.6質量%含有し、残部がCu及び不純物からなるCu-Ag合金により構成された撚線用素線を7本撚り合わせた撚線導体であり、各撚線用素線の直径が16μmである(撚線導体の直径:48μm)。また、比較ケーブルの電気絶縁層は、上記同軸ケーブルの電気絶縁層を構成する材質と同じ材質から構成される。
[疲労試験]
上記同軸ケーブルを30本〜40本束ねたバンドル試料と、上記比較ケーブルを上記同軸ケーブルと同数本束ねたバンドル比較試料とを作製し、各試料の各端部をそれぞれ二軸回転可能な治具に固定し、上述した開閉・捻回試験を実施する。
【0014】
上記形態の同軸ケーブルは、中心導体が撚線導体である汎用の同軸ケーブルを模した比較ケーブルと比較して中心導体が細い。かつ、上記形態の同軸ケーブルと比較ケーブルとは電気絶縁層の外径(中心導体と電気絶縁層との合計径)が等しいため、上記形態の同軸ケーブルは、電気絶縁層の厚さが相対的に厚い。このように電気絶縁層が十分に厚いことで減衰量が少ないため、上記形態によれば、信号伝送路に好適に利用できる。また、上記形態によれば、短尺な同軸ケーブルであり、かつ単線導体であっても、撚線導体を具える比較ケーブルと同等以上の疲労特性を有している。従って、上記形態の同軸ケーブルは、例えば、二軸回転機構を具える各種の電気・電子機器、特に携帯電話といった小型な機器の配線に好適に利用できる。
【0015】
本発明同軸ケーブルは、1本のままでも利用できるが、複数本束ねた形態(本発明同軸ケーブルバンドル)で利用することができる。同軸ケーブルバンドルは、一纏めとなっていることで、非常に取り扱い易い。
【発明の効果】
【0016】
本発明同軸ケーブル及び同軸ケーブルバンドルは、疲労特性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明同軸ケーブルの横断面図である。
【図2】図2は、疲労試験に利用する二軸回転可能な治具の構成、及び同軸ケーブルの固定状態を説明する模式説明図であり、図2(A)は正面図、図2(B)は側面図である。
【図3】図3は、疲労試験の手順を説明する模式説明図である。
【図4】図4は、Cu-Ag合金線において周波数と減衰量との関係を示す減衰特性グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をより詳細に説明する。
〔同軸ケーブル〕
≪全体構成≫
本発明の同軸ケーブル1は、図1に示すように中心導体10と、この中心導体10と同軸に配される外部導体14と、両導体10,14間を絶縁する電気絶縁層13とを具え、更に、外部導体14の外周を覆う外装15を具える構成が代表的である。中心導体10は、Cu-Ag合金線11と、Cu-Ag合金線11の表面に設けられためっき層12とを具える。本発明同軸ケーブルは、構造的特徴として、後述するように中心導体が単線導体であること、この単線導体を構成する素線の直径が特定の範囲を満たすこと、長さが比較的短いことが挙げられる。また、より好ましい形態として、後述するように電気絶縁層の厚さが特定の範囲を満たすことが挙げられる。
【0019】
≪長さ≫
本発明同軸ケーブルはその長さを1000mm以下とする。用途によっては、500mm以下、300mm以下といった形態が挙げられる。この長さは、用途に応じて適宜選択することができる。長尺な同軸ケーブルを製造して所望の長さに切断すると、本発明同軸ケーブルを生産性よく製造できる。
【0020】
≪中心導体≫
[組成]
中心導体を構成する主たる線材は、特定量のAgを含有する二元合金(Cu-Ag合金)から構成されるCu-Ag合金線である。Agの含有量が5質量%以上では、Agの析出強化による強度の向上、延いては、疲労特性の向上の効果が得られ易く、Agが多くなるほど、疲労特性に更に優れる傾向にある。しかし、15質量%超の場合、Agが過剰に析出することでCu-Ag間の界面抵抗が増えるために導電率が低下する。従って、優れた疲労特性と高い導電率との両立を図るために、本発明では、Agの含有量を5質量%以上15質量%以下とする。
【0021】
[線径]
上記Cu-Ag合金線は、代表的には断面円形状の丸線である。特に、本発明では、単線導体として十分に利用可能な大きさとして、上記Cu-Ag合金線の直径を15μm(0.015mm)以上50μm(0.05mm)以下とする。15μm以上とすることで、伸線時の加工度が大き過ぎることによる導電率の低下を抑制し、特定の大きさの導電率を有することができる上に、伸線時に断線が発生し難く伸線性に優れ、線材の生産性に優れる。また、50μm以下とすることで、ケーブル径が大きくなり過ぎず、細径のケーブルとすることができる。45μm(0.045mm)以下、更に40μm(0.04mm)以下がより好ましい。Cu-Ag合金線と、後述するめっき層とを具える中心導体の直径も50μm以下、特に45μm以下、更に40μm以下が好ましい。また、中心導体の直径は、上述した汎用の同軸ケーブルを模した比較ケーブルの中心導体の直径の90%以下であると、汎用の同軸ケーブルよりも細く、細径化の効果が得られる。但し、上述のように細過ぎると導電率の低下や生産性の低下を招くことから、中心導体の直径は、比較ケーブルの中心導体の直径の30%以上であることが好ましい。Cu-Ag合金線の直径は、伸線加工時の加工度を適宜変更することで変化させられ、このCu-Ag合金線を具える中心導体の直径は、上記Cu-Ag合金線の直径と、後述するめっき層の厚さとを適宜変更することで変化させられる。
【0022】
[特性]
ここで、Cu-Ag合金では、引張強さと導電率とが概ねトレードオフの関係にあり、かつAgの含有量と引張強さとが概ね比例の関係にある。本発明者らは、これらの関係から、中心導体を単線導体とする場合に十分な疲労特性を有する範囲を見出し、本発明は、その範囲を規定する。具体的には、上記Cu-Ag合金線を具える中心導体の導電率を50%IACS以上、かつ引張強さを1330MPa以上とする。上記導電率及び引張強さは上記下限値を満たせば高いほど好ましく、導電率は、55%IACS以上、更に60%IACS以上、引張強さは、1400MPa以上、更に1500MPa以上が好ましい。引張強さは、Agの含有量を多くしたり、伸線時の加工度を高くしたり、熱処理によりAgの析出物の存在状態を調整したりすることで大きくなる傾向にあり、導電率は、Agの含有量を少なくしたり、熱処理を施してAgの析出物を十分に析出させたりすることで大きくなる傾向にある。所望の特性となるようにAgの含有量や製造条件を調整するとよい。
【0023】
[めっき層]
同軸ケーブルを回路基板などに接続する場合、一般にハンダを利用する。上記Cu-Ag合金線の外周にめっき層を具えることでハンダとの濡れ性を高められる上に、Cu-Ag合金線の耐食性を高められる。めっき層の材質は、Ag又はSnが好適である。めっき層の厚さは適宜選択することができるが、1μm以下、特に0.3μm以下といった薄さでもハンダとの濡れ性を十分に高められる上に、中心導体が過度に大きくならず、細径の中心導体にできて好ましい。めっき層は、厚さ:0.8μm〜0.2μmが利用し易い。
【0024】
≪電気絶縁層≫
上記中心導体の外周に形成される電気絶縁層の構成材料は、電気絶縁性及び可撓性に優れる適宜なもの、代表的には絶縁性樹脂が好適に利用できる。具体的には、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、フェノール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、メラミン系樹脂が挙げられる。特に、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)といったフッ素系樹脂が好適である。
【0025】
上記電気絶縁層は、その厚さが厚いほど減衰量を低減できる傾向にある。この効果を得るためには、電気絶縁層の厚さは、上記中心導体の直径に対して、当該電気絶縁層の厚さの割合が65%以上、更に75%以上であることが好ましい。また、同軸ケーブルの中心導体の直径が上述した比較ケーブルの中心導体の直径の90%以下であり、かつ当該同軸ケーブルの電気絶縁層の外径が上述の比較ケーブルの電気絶縁層の外径と等しい形態では、当該同軸ケーブルの中心導体が細いほど、当該電気絶縁層の厚さが比較ケーブルよりも相対的に厚くなる。従って、この形態では、中心導体の直径を小さくするほど、減衰量を低減できる。上述のようにCu-Ag合金線が40μm以下とより細径である形態も、電気絶縁層を比較的厚く形成できることで減衰量を低減できる。なお、誘電率が低い材料(例えば、50pF/m以下)により電気絶縁層が構成される場合、厚さがある程度薄くても、減衰量を低下できると期待される。
【0026】
≪その他の構成≫
外部導体や外装は、公知の細径の同軸ケーブルの構成を適宜利用できる。外部導体は、シールド層として機能する部位であり、その構成材料には、CuやCu-Ag合金からなる線材を好適に利用できる。テープ状線材や丸線材を上記電気絶縁層の外周に横巻きした形態(螺旋状に巻回した形態)や、上記線材を編んだ編組材を上記電気絶縁層の外周に配置した形態などが挙げられる。外装の構成材料も、電気絶縁層で説明した電気絶縁性及び可撓性に優れる樹脂、特に、熱可塑性樹脂を好適に利用できる。
【0027】
〔同軸ケーブルバンドル〕
本発明同軸ケーブルバンドルは、複数の本発明同軸ケーブルと、これらのケーブルを一体化する結束部材とを具える。結束部材による一体化状態は、例えば、複数の同軸ケーブルを並列させて接着テープを巻回して一体化した形態、複数の同軸ケーブルを並列させて、その外周に樹脂などを押し出して一体化した形態などが挙げられる。また、同軸ケーブルバンドルの一形態として、両端部にコネクタといった接続部材が取り付けられた形態が挙げられる。この形態によれば、複数の同軸ケーブルを電気・電子機器に一度に装着できるため、接続作業性に優れる。代表的な形態は、結束部材により一体化された同軸ケーブル群に対して、一つのコネクタを具える形態が挙げられる。上記コネクタなどの接続部材を具えていない形態では、上記同軸ケーブル群の端部に直接ハンダを塗布して、基板などに接続される。接続部材や結束部材の材質、形成方法、取り付け方法などは、公知の技術を適宜利用できる。
【0028】
〔用途〕
本発明同軸ケーブル及び同軸ケーブルバンドルは、その長さが1000mm以下と比較的短いため、小型な電気・電子機器の配線、代表的には、携帯電話、携帯用コンピュータといった携帯機器、特に、二軸回転機構を具える機器の配線に好適に利用できる。なお、長さを1000mm超とした場合、医療機器や産業用ロボットなどの配線にも利用できる。
【0029】
〔同軸ケーブルの特性〕
上記構成を具える同軸ケーブルは、上述の疲労試験を行った場合にサイクル回数が20万回以上、或いは比較ケーブルと同等以上のサイクル回数であり、疲労特性に優れる。また、上記電気絶縁層が特定の厚さである同軸ケーブルは、1GHzにおける減衰量が12dB/m以下、或いは比較ケーブルと同等以下であり、減衰し難い。従って、本発明同軸ケーブルや同軸ケーブルバンドルは、信号伝送路に好適に利用できる。
【0030】
〔製造方法〕
本発明同軸ケーブルは、代表的には、中心導体の製造⇒電気絶縁層の形成⇒外部導体の形成⇒外装の形成、といった製造工程により製造することができる。特に、中心導体の基本的な製造工程は、鋳造材の製造⇒伸線加工が挙げられる。伸線途中に中間熱処理を施してもよい。中間熱処理を施す時期は、適宜選択することができ、中間熱処理を行わなくてもよい。
【0031】
本発明者らは、Agの含有量が上記特定の範囲であって、特定の大きさ、特定の導電率及び引張強さを有するCu-Ag合金線を製造するにあたり、以下の知見を得た。Agの含有量が5質量%以上15質量%以下の範囲において比較的少ない場合(5質量%以上10質量%程度以下)には、伸線途中に中間熱処理を施さなくても導電率が50%IACS以上、引張強さが1330MPa以上のCu-Ag合金線が得られ、比較的多い場合(10質量%程度以上)には、伸線途中に中間熱処理を施す、特に、Agの含有量が多いほど当該中間熱処理を施す時期を遅くする(線径が小さくなってから中間熱処理を施す)ことが好ましい、との知見を得た。本発明では、Agの含有量の範囲をある程度広く規定しているが、Agの含有量に基づいた製造工程を上述のように確立したことで、上記特定のCu-Ag合金線を生産性よく製造可能であり、工業的意義が高い。
【0032】
鋳造材を製造するにあたり、所定の組成となるように、原料を用意する。原料Cuや原料Agは純度の高いもの、例えば、フォーナイン(純度99.99%)以上のものを利用すると不純物が少なく、細径の線材を製造するにあたり、断線に関与し得る異物を低減できる。
【0033】
上記鋳造材には、伸線加工前に、溶体化処理や均質化処理といった熱処理を施してもよい。溶体化処理の条件は、加熱温度:600℃以上850℃以下、保持時間:0.5時間以上、冷却速度:1.5℃/sec以上が挙げられる。この条件で溶体化処理を施すことで、Cu中にAgを十分に固溶させられる。上記保持時間は長いほどAgをCu中に十分に固溶させられる傾向にあり、生産性の低下を招かない範囲で適宜選択することが好ましい。上記冷却速度は速いほどAgの析出を抑制でき、1.5℃/sec以上、更に3℃/sec以上の急冷とすることが好ましい。このような急冷は、水や油、砂などの流動性のある冷媒を利用した直接冷却、ファンなどを利用した衝風、その他、水冷銅ブロックを利用するなど、強制冷却手段を適宜利用することで実現できる。上記溶体化処理を施す場合、伸線途中で中間熱処理を施して固溶させたAgを析出させると、析出強化による強度(疲労特性)の向上を図ることができる。均質化処理の条件は、加熱温度:500℃以上、保持時間:0.5時間以上、冷却速度:50℃/sec以下が挙げられる。
【0034】
伸線(代表的には冷間)加工は、最終線径となるまで複数パスに亘って行う。各パスの加工度は、組成(Agの含有量)、最終線径などを考慮して適宜調整するとよい。伸線加工により、析出されたAgの一部は、繊維状に引き伸ばされ、この繊維状Agによる強化により、強度(疲労特性)の向上効果が得られると考えられる。
【0035】
伸線加工途中に施す中間熱処理は、主として、Agを析出させ、析出強化による強度の向上効果を目的とする。この熱処理により、析出されたAgの一部は、ナノオーダーといった非常に微細な粒状になっていると考えられる。上述した繊維状のAgが存在したり、上記超微粒のAgが均一的に分散して存在したり、両者が共存したりすることにより、導電率及び強度が高いCu-Ag合金線を製造できると考えられる。
【0036】
上記中間熱処理は、複数回施してもよいが1回とすると、製造工程が少なく生産性に優れる。複数回施す場合、Agが十分に析出されて強度や導電率を高めたり、伸線加工により導入された加工歪みを除去して導電率を向上したり、熱処理以降の伸線加工を行い易くしたりすることができると期待される。
【0037】
上記中間熱処理の条件は、加熱温度:300℃以上、保持時間:0.5時間以上が挙げられる。加熱温度を300℃以上、及び保持時間を0.5時間以上とすることで、Agを十分に析出させたり、加工歪みを十分に除去したりできる。加熱温度が高いほど、また、保持時間が長いほど、Agを析出させ易い。また、加熱温度を600℃以下とすることでAgが再びCu中に固溶することによる導電率の低下を抑制できる。そのため、加熱温度は600℃以下、特に350℃以上550℃以下、更に400℃以上450℃以下が好ましく、保持時間は、0.5時間以上10時間以下が好ましい。中間熱処理時の冷却方法は、例えば、熱処理炉内に放置して自然放冷により冷却する炉冷が挙げられる。
【0038】
伸線加工途中、或いは最終線径の線材にめっき層を形成する。めっき方法は、代表的には電気めっきが挙げられるが、無電解めっきを利用してもよい。
【0039】
外部導体及び外装の形成、同軸ケーブルバンドルの形成は、公知の方法を適宜利用することができる。
【0040】
〔試験例〕
種々の条件でCu-Ag合金線を製造し、このCu-Ag合金線を中心導体に用いた同軸ケーブルを作製し、得られた各同軸ケーブルについて、機械的特性、及び疲労特性、減衰特性、端末処理時の状態を調べた。
【0041】
Cu-Ag合金線は、以下のように作製した。原料Cuとして、純度99.99%以上の電気銅、原料Agとして純度99.99%以上の銀粒(Ag)を用意し、高純度カーボン製坩堝に投入して連続鋳造装置内で真空溶解させ、Cu及びAgが溶解した混合溶湯を作製した。銀粒の添加量は、表1に示すように、混合溶湯に対するAg含有量(濃度)が0.6質量%(試料No.100)、5質量%〜15質量%(試料No.1〜5)となるように調整した。
【0042】
得られた混合溶湯を用い、高純度カーボン製鋳型で連続鋳造により、表1に示す鋳造サイズ(φ22mm、φ16mm、φ8.0mmのいずれか)の断面円形状の鋳造材を製造した。
【0043】
得られた鋳造材に冷間伸線加工を施し、表1に示す線径(最終線径)の素線(試料No.100は撚線用素線)を得た。試料No.2〜5は、伸線加工途中において表1に示す線径(サイズ)のときに、表1に示す条件で中間熱処理を施した。また、いずれの試料も、伸線加工途中において、線径がφ0.36mmのときに、電気めっきにより、表1に示す材質のめっき層を形成した後、引き続き伸線加工を施した。従って、得られた素線は、いずれの試料もCu-Ag合金線の外周にめっき層を具える。ここではいずれの試料も、めっき層の厚さは0.3μm以下である。
【0044】
上記最終線径の素線を2kg作製するまでに、試料No.1〜5は、一度も断線しなかったが、試料No.100は、表1に示すように13回断線した。
【0045】
得られためっき層を具える素線の引張強さ(MPa)及び導電率(%IACS)を測定した。その結果を表1に示す。引張強さは、JIS Z 2241(1998)の規定に準じて測定した(標点距離GL:250mm)。導電率は、ブリッジ法により測定した。なお、中心導体・電気絶縁層・外部導体・外装を具える同軸ケーブルに対して、中心導体の引張強さや導電率を測定する場合、同軸ケーブルを解体して、中心導体を適宜取り出して行うとよい。
【0046】
試料No.1〜5のめっき層を具える素線を中心導体とし、この中心導体の外周に表1に示す材質を用いて、表1に示す厚さとなるように電気絶縁層を押出により形成し、更に、その外周に外部導体、外装を順に形成して、同軸ケーブルを作製した。外部導体、外装は、公知の素材を利用し、いずれの試料においても同じものを利用した。試料No.100は、線径φ16μmの撚線用素線を7本用意して撚り合わせた後、試料No.1〜5と同様に、同様の材質を用いて電気絶縁層、外部導体、外装を形成して、同軸ケーブル(以下、比較ケーブルと呼ぶ)を作製した。試料No.1〜5の同軸ケーブルの電気絶縁層は、中心導体の全周に亘って均一的な厚さである。これに対し、試料No.100の比較ケーブルでは、中心導体の外形が凹凸形状であるため、電気絶縁層は、中心導体の全周に亘って不均一な厚さである。従って、試料No.100の比較ケーブルでは、電気絶縁層の厚さがもっとも薄い箇所(撚線のクラウン部分を覆う箇所)の厚さを表1に示す。なお、試料No.1〜5,100の電気絶縁層はいずれも、同じ材質で構成されることで誘電率が等しい。同軸ケーブルの中心導体の直径(線径)や電気絶縁層の厚さは、横断面を顕微鏡観察することで容易に測定できる。
【0047】
得られた各試料No.1〜5の同軸ケーブル及び試料No.100の比較ケーブルに対して、市販の装置(ここでは、ネットワークアナライザ アジレント・テクノロジー株式会社 HP8753ES)を利用して、減衰量(dB/m)を測定した。周波数が1GHzのときの減衰量を表1に示す。また、試料No.2,3,100において種々の周波数における減衰量を図4に示す。ここでは、減衰量の測定にあたり、演算が容易なように各試料のケーブルの長さを1mとしたが、短くしてもよい。
【0048】
得られた試料No.1〜5の同軸ケーブル及び試料No.100の比較ケーブルに対して、二軸回転機構を具える携帯電話を模擬した疲労試験を行い、サイクル回数を測定した。この疲労試験は、以下のバンドル試料及びバンドル比較試料をそれぞれ作製し、各バンドル試料及びバンドル比較試料を後述する治具に固定して行った。
【0049】
試料No.1〜5の同軸ケーブル及び試料No.100の比較ケーブル(いずれも長さ:約200mm)を40本ずつ用意し、並列させたケーブル群の外周に発泡フッ素樹脂テープ(ここではポアフロン(住友電気工業株式会社の登録商標)テープ)を巻回して束ねることで、バンドル試料(試料No.1〜5)及びバンドル比較試料(試料No.100)を作製した。
【0050】
次に、図2を参照して、疲労試験に用いた治具を説明する。この治具100は、二軸回転が可能な機構を有するものであり、支持脚101と、支持脚101に対して回転可能に軸支される可動板102と、支持脚101に対して、可動板102を回転可能に支持する第一回転軸103及び第二回転軸105とを具える。第一回転軸103に対して第二回転軸105は、各軸方向が直交するように配置されると共に、可動板102を回転可能に支持枠104に装着される。ここでは、可動板102は、第一回転軸103を軸として回転角θ:0°〜180°の回転を可能に第一回転軸103に軸支される。この回転動作は、図2(B)において左方〜上方〜右方に円弧を描く動作となり、図3に示す軸部110(第一回転軸と第二回転軸とを模式的に示す)により開閉可能に支持される一対の板状部111,112が軸部110(第一回転軸)を軸として、開閉動作を行う状態を模した動作である。また、可動板102は、第一回転軸103を軸として、回転角θ:90°の回転を行った状態(図2(B),図3(B)に示す状態)において、更に、第二回転軸105を軸として回転角α:0°〜180°の回転を可能に第二回転軸105に軸支される。この回転動作は、図2(B)において左方〜手前〜右方に円弧を描く動作となり、図3(B)〜図3(D)に示すように、一方の板状部112を支持脚101と見なし、軸部110(第一回転軸)を軸として、回転角θ:0°から90°の開動作を行って他方の板状部111を板状部112に直交させ、この状態で、軸部110(第二回転軸)を軸として、板状部111を回転角α:0°から180°の回転動作を行う状態、或いは回転角α:180°から0°の回転動作を行う状態を模したものである。ここでは、第一回転軸103及び第二回転軸105を構成するヒンジ筒の内径をいずれも2mm、可動板102の厚さを1mmとする。
【0051】
作製したバンドル試料20やバンドル比較試料の一端を図2(A)に示すように支持脚101に固定し、他端を可動板102の表面に固定する。第一回転軸103を構成するヒンジ筒(支持枠104)内や当該ヒンジ筒に導入する際にバンドル試料20やバンドル比較試料を適宜屈曲させる。ここでは、図2(A)に示すように曲げ半径R1=5mm、曲げ半径R2=3mm、バンドル試料20やバンドル比較試料の一端の固定箇所から第一回転軸103の中心(図2(A)において一点鎖線で示す)までの距離L1=3mm、第一回転軸103の中心から可動板102の表面までの距離L2=5mm、バンドル試料20やバンドル比較試料の一端の固定箇所から第二回転軸105の中心までの距離L3=10mmとする。
【0052】
バンドル試料20・バンドル比較試料を治具100にそれぞれ固定して、携帯電話の開閉動作及び携帯電話の画面の回転動作を模した、以下の開閉・捻回試験を行う。具体的には、図3(A)に示すように、一対の板状部111,112が閉じた状態を開始状態とし、図3(B)に示すように、軸部110(第一回転軸)を回転軸として、板状部111を回転角θ:0°から90°に回転させる開動作を行い、次に軸部110(第二回転軸)を軸として、板状部111を回転角α:0°から180°に回転させ、図3(C)に示すように当該板状部111の表面fと裏面bとを反対向きにする。引き続いて板状部111を回転角α:180°から0°に逆回転させ、図3(D)に示すように裏面bと表面fとを回転前の向き(図3(B)と同じ向き)に戻した後、軸部110(第一回転軸)を軸として、板状部111を回転角θ:90°から0°に回転させる閉動作を行い、図3(E)に示すように一対の板状部111,112が閉じた状態に戻す。これら一連の二軸回転動作を疲労試験の1サイクルとし、約11秒/サイクルで行って、各試料において40本のケーブルのうち、少なくとも1本について断線が発生するまでの回数を計測する。
【0053】
試料No.1,3のバンドル試料及び試料No.100のバンドル比較試料に対して、実際の端末接続処理を模した処理を行い、変形加工性と、基板への接続性を調べた。その結果を表1に示す。変形加工性は、各バンドル試料の端末、バンドル比較試料の端末をそれぞれ金型に挟み込み、異なる二方向から荷重を加えて、即ち、二回の荷重を加えて端末を圧縮変形させ、これらの圧縮前後において、各試料に具える中心導体の断面形状を顕微鏡で観察することで評価する。なお、合計二回の荷重を加える前(圧縮変形前)は、いずれの試料の中心導体(試料No.100では撚線を構成する素線)も、断面が略真円状であった。基板への接続性は、上記圧縮変形後、基板上にハンダで接合した状態を調べた。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示すように、Agの含有量が5質量%以上15質量%以下の範囲において、直径が15μm〜50μmのCu-Ag合金線を中心導体に用い、この中心導体の導電率が50%IACS以上かつ引張強さが1330MPa以上である試料No.1〜3,5は、中心導体が単線であっても、上記疲労試験におけるサイクル回数が20万回以上であり、疲労特性に優れることが分かる。また、試料No.1〜3,5は、撚線導体を具える試料No.100の比較ケーブルや、Agが少ない試料No.4よりも疲労特性に優れることが分かる。
【0056】
更に、電気絶縁層の厚さが中心導体の直径(線径)に対して65%以上であると、減衰量が少なく、減衰特性に優れることが分かる。また、単線導体の線径が撚線導体の線径の90%以下であり、かつ電気絶縁層の外径が撚線導体を具える比較ケーブルと同じ場合、単線導体を具える同軸ケーブルは、電気絶縁層の厚さが相対的に厚くなることで、減衰特性に優れることが分かる。具体的には、これらの同軸ケーブルの減衰量は、比較ケーブルと同程度、或いは同程度以下である。更に、図4に示すように試料No.2,3はいずれも、2.5GHz程度までは試料No.100よりも減衰量が小さく、600MHzにおける減衰量が9dB/m以下、750MHzにおける減衰量が10dB/m以下であり、減衰特性に優れることが分かる。特に、試料No.2は、2GHzにおける減衰量がほぼ15dB/m以下、3GHzにおける減衰量でも20dB/m以下であり減衰特性に更に優れる。
【0057】
また、表1に示すようにAgの含有量が5質量%以上15質量%以下の範囲において、Agが比較的少ない場合は、中間熱処理を省略しても、導電率が50%IACS以上、かつ引張強さが1330MPa以上である素線が得られ、Agが比較的多い場合には、Agが多くなるほど、伸線加工途中において中間熱処理を施す線径を小さくすることで、導電率が50%IACS以上、かつ引張強さが1330MPa以上である素線が得られることが分かる。
【0058】
その他、試料No.1,3はいずれも、上述の圧縮変形後の断面が楕円状に変形しており、その形状には再現性があった(圧縮変形ごとの断面形状のばらつきが小さかった)。これに対し、試料No.100では、撚線を構成する素線がばらけ、圧縮変形ごとに断面形状が異なった。また、試料No.1,3はいずれも、中心導体の断面が扁平な楕円状に変形されたことで、楕円の偏平な面を接点として基板に良好に接続することができた。これに対し、試料No.100は、撚線を構成していた素線がばらけたことで、接続が困難であり、基板にまとめて固定するために、先端部に予備的なハンダ付けを施す必要があった。この結果から、中心導体を単線導体とする同軸ケーブルは、端末の加工性、及び基板などへの接続性にも優れることが分かる。
【0059】
上記試験結果から、Agを特定の範囲で含有し、特定の大きさのCu-Ag合金線を利用すると共に、導電率及び引張強さが特定の範囲であることで、中心導体が単線導体であっても、疲労特性に優れる同軸ケーブルや同軸ケーブルバンドルが得られることが分かる。また、これらの同軸ケーブルや同軸ケーブルバンドルは、中心導体が撚線導体である試料No.100と同等以上の疲労特性を有していながら、中心導体をより細くすることができ、軽量化に寄与できると期待される。
【0060】
なお、上述した実施形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。例えば、同軸ケーブルの長さ、中心導体を構成するCu-Ag合金線の直径、中心導体の導電率・引張強さ、電気絶縁層の厚さ・材質・形成方法、その他製造条件(中間熱処理時の加熱温度、保持時間、中間熱処理を施す時期など)などを適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明同軸ケーブル及び同軸ケーブルバンドルは、携帯電話、携帯用コンピュータなどの小型な電子・電気機器の配線といった比較的短尺な配線に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 同軸ケーブル
10 中心導体 11 Cu-Ag合金線 12 めっき層 13 電気絶縁層
14 外部導体 15 外装
20 バンドル試料
100 治具 101 支持脚 102 可動板 103 第一回転軸 104 支持枠
105 第二回転軸
110 軸部 111,112 板状部 f 板状部111の表面 b 板状部111の裏面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心導体と、この中心導体の外周に設けられた電気絶縁層と、この電気絶縁層の外周に設けられ、前記中心導体と同軸に配置された外部導体とを具える同軸ケーブルであって、
当該同軸ケーブルは、その長さが1000mm以下であり、
前記中心導体は、1本の素線から構成される単線導体であり、
前記素線は、Agを5質量%以上15質量%以下含有し、残部がCu及び不純物からなるCu-Ag合金から構成されたCu-Ag合金線と、
前記Cu-Ag合金線の外周に設けられたAgめっき層、又はSnめっき層とを具え、
前記Cu-Ag合金線の直径が15μm以上50μm以下、
前記中心導体の導電率が50%IACS以上、
前記中心導体の引張強さが1330MPa以上であることを特徴とする同軸ケーブル。
【請求項2】
前記中心導体の直径に対する前記電気絶縁層の厚さの割合が65%以上、
当該同軸ケーブルの1GHzにおける減衰量が12dB/m以下、
疲労試験における当該同軸ケーブルのサイクル回数が20万回以上であることを特徴とする請求項1に記載の同軸ケーブル。
【請求項3】
前記中心導体の直径は、以下の比較ケーブルの中心導体の直径の90%以下、かつ、前記電気絶縁層の外径が前記比較ケーブルの電気絶縁層の外径と等しく、
当該同軸ケーブルの1GHzにおける減衰量が前記比較ケーブルの減衰量と同等以下、
疲労試験における当該同軸ケーブルのサイクル回数が前記比較ケーブルのサイクル回数と同等以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の同軸ケーブル。
[比較ケーブル]
中心導体は、Agを0.6質量%含有し、残部がCu及び不純物からなるCu-Ag合金により構成された撚線用素線を7本撚り合わせた撚線導体であり、各撚線用素線の直径が16μmである。また、比較ケーブルの電気絶縁層は、前記同軸ケーブルの電気絶縁層を構成する材質と同じ材質から構成される。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の同軸ケーブルを複数本束ねたことを特徴とする同軸ケーブルバンドル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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