説明

含フッ素環状化合物およびその製造方法

【課題】環境負荷の影響が小さく、溶剤、洗浄剤、反応溶媒、消化剤等として有用な新規な含フッ素環状化合物及びこの化合物を収率良く製造する方法を提供する。
【解決手段】
下記化学式(1)
【化1】


で示されるトランス-3-クロロ-1,1,2,2,4-ペンタフルオロシクロブタン。このものを、3,3,4,4-テトラフルオロシクロブテンとフッ化塩素との反応による製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶剤、洗浄剤、乾燥剤、反応溶媒、伝熱媒体、動力循環作動流体、発泡剤として有用な新規な含フッ素環状化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、伝熱媒体、消火剤、動力循環作動流体、発泡剤、反応溶媒、乾燥剤、洗浄剤などとして、クロロフルオロカーボン(CFC)類が広く利用されてきた。このCFC類は、毒性が少なく、不燃性で、化学的及び熱的に安定であることから各種の産業分野に広く使用されていた。
だが、CFC類は、大気中に放出されると成層圏のオゾン層を破壊する効果が大きいため、人類を含む地球上の生態系に重大な悪影響を及ぼすことが指摘され、その製造が1995年末に国際的条約により禁止された。
【0003】
このようなCFCの及ぼすオゾン層破壊問題に対処するために、環境負荷が小さく、伝熱媒体、消火剤、動力循環作動流体、発泡剤、反応溶媒、乾燥剤、洗浄剤などとして使用可能な化合物が求められ(非特許文献1)、たとえば、ヒドロクロロフルオロカーボン(HCFC類)に関する検討も行われているが(非特許文献2)、未だ十分なものが得られていないのが現状である。
【非特許文献1】J. Fluorine Chem., 101 (2000) 215
【非特許文献2】Engineered Systems, 20 (2003) 66.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、環境負荷の影響が小さく、溶剤、洗浄剤、反応溶媒、消化剤等として有用な新規な含フッ素環状化合物及びこの化合物を収率良く製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、HCFC類の中でも特有な構造を有する含フッ素化合物が上記目的に合致することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、この出願によれば、以下の発明が提供される。
〈1〉下記化学式(1)
【化1】

で示されるトランス-3-クロロ-1,1,2,2,4-ペンタフルオロシクロブタン。
〈2〉3,3,4,4-テトラフルオロシクロブテンにフッ化塩素を付加させることを特徴とするトランス-3-クロロ-1,1,2,2,4-ペンタフルオロシクロブタンの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る新規なトランス-3-クロロ-1,1,2,2,4-ペンタフルオロシクロブタンは、環境影響の指標となる大気寿命が短く、環境への影響が小さいという特長を有する。
また、切削油やプレス油などに含まれるたとえばn-エイコサンのトランス-3-クロロ-1,1,2,2,4-ペンタフルオロシクロブタンに対する溶解度が大きいことから、当該化合物は従来のCFCと同様、溶剤、洗浄剤、反応溶媒などの用途を主に、水切り乾燥剤、伝熱媒体、動力循環作動流体、発泡剤などとして有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に係る新規な含フッ素化合物は、下記化学式(1)で示される構造を有する。
【化1】

【0008】
このフッ素化合物は、3,3,4,4-テトラフルオロシクロブテンにフッ化塩素を付加させることによって合成することができる。
原料である3,3,4,4-テトラフルオロシクロブテンは、3-クロロ-1,1,2,2-テトラフルオロシクロブタンの脱塩酸反応により容易に合成することができる。
また、フッ化塩素は3,3,4,4-テトラフルオロシクロブテンに対して理論的には等モルあれば良い。すなわち、フッ化塩素は、3,3,4,4-テトラフルオロシクロブテンの0.1〜10倍モル、好ましくは0.5〜2倍モル、より好ましくは0.9〜1.1倍モル用いる。
【0009】
このフッ化塩素付加反応は、3,3,4,4-テトラフルオロシクロブテンと混合することにより速やかに進行する。ただし、反応熱により温度が上昇することから、適度に冷却しながら反応を行うのが好ましい。したがって、反応温度は、-100℃〜100℃、好ましくは-80℃〜50℃、より好ましくは-50℃〜0℃が適当である。反応時間は、反応条件などにより一概に決定できないが、数秒から数十時間が適当である。
【0010】
本発明における反応では、特に溶媒を用いる必要はないが、溶媒を用いても良い。反応は、耐圧容器またはガラス容器等を用いたバッチ式、または加圧、大気圧、減圧下、いずれの圧力条件下のフロー式で行うことができる。
【0011】
上記のようにして得られる本発明に係る新規なトランス-3-クロロ-1,1,2,2,4-ペンタフルオロシクロブタンは、環境影響の指標となる大気寿命が短く、環境への影響が小さいという従来のCFCやHCFCに見られない環境に配慮された特性を有する。
また、切削油やプレス油などに含まれるたとえばn-エイコサンのトランス-3-クロロ-1,1,2,2,4-ペンタフルオロシクロブタンに対する溶解度は大きいことから、当該化合物は従来のCFCと同様、溶剤、洗浄剤、反応溶媒などの用途を主に、水切り乾燥剤、伝熱媒体、動力循環作動流体、発泡剤などとしても有用である。
【実施例】
【0012】
以下、本発明について具体例を挙げてさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0013】
実施例1
内容量約10mlのSUS製耐圧容器を液体窒素で冷却し、真空ラインを用いて3,3,4,4-テトラフルオロシクロブテン2.0mmolおよびフッ化塩素3.0mmolを導入した後、徐々に室温に戻した。さらに室温下で2時間反応を行った後、反応により得られた粗生成物を真空ラインで精製し、1H-NMR、19F-NMRおよびGC-MSにより測定した結果、1.96mmol(収率:98%)のトランス-3-クロロ-1,1,2,2,4-ペンタフルオロシクロブタンを得た。なお、H−NMRおよび19F−NMRスペクトルの測定には、溶媒に重クロロホルムを用い、内部標準物質としてそれぞれテトラメチルシランとクロロトリフルオロメタンを用いた。
[トランス-3-クロロ-1,1,2,2,4-ペンタフルオロシクロブタン]
沸点:51.0℃
1H−NMR(CDCl3)、δ 5.00 (1H, d of m)、4.47 (1H, m)
19F-NMR(CFCl3)、δ -117.2 (2F, t of m)、-126.0 (1F, d of m)、-136.2 (1F, d of m)、-201.8 (1F, d of m)
MS, m/z 145 (M+-Cl), 129, 126, 113, 111, 100 (CF2CF2+), 98 (CF2CHCl+), 95, 93, 85, 82, 81, 80 (CHClCHF+), 75, 69, 67, 57, 56, 51, 50, 45, 44, 31, 26
【0014】
実施例2
内容量約150mlのSUS製耐圧容器に、3,3,4,4-テトラフルオロシクロブテン213mmolを仕込み、液体窒素で冷却しながら脱気を行った。反応器を約-50℃に冷却し、239mmolのフッ化塩素を少量ずつ導入した。反応により反応器内の温度が上昇するが、フッ化塩素の導入速度を制御することにより-20℃以下で反応を行った。全てのフッ化塩素を導入した後、さらに室温で15時間撹拌した。反応後に反応器を-100℃に冷却し、真空引きすることにより未反応のフッ化塩素を除去することにより精製を行った。反応器内に残った生成物を1H-NMR、19F-NMRおよびGC-MSにより測定した結果、210mmol(収率:99%)のトランス-3-クロロ-1,1,2,2,4-ペンタフルオロシクロブタンを得た。
【0015】
実施例3
トランス-3-クロロ-1,1,2,2,4-ペンタフルオロシクロブタンの溶解特性として、切削油やプレス油などに含まれるn-エイコサンの24℃における溶解度測定を行った結果、1.66g/100gであった。
【0016】
実施例4
トランス-3-クロロ-1,1,2,2,4-ペンタフルオロシクロブタンの環境影響を評価するために、OHラジカルとの反応速度測定(298K)を行うことにより大気寿命(τOH)を算出した結果、1.7年であった。
なお、従来公知のHCFC-225ca(CF3CF2CHCl2)の大気寿命は2.1年、HCFC-225cb(CClF2CF2CHClF)の大気寿命は6.2年である。(IPCC第3次レポート、2001年)
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明の新規な含フッ素環状化合物は、溶剤、洗浄剤、乾燥剤、反応溶媒、伝熱媒体、消火剤、動力循環作動流体、発泡剤として有用なCFC類に代替し得る化合物として極めて有用なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)
【化1】

で示されるトランス-3-クロロ-1,1,2,2,4-ペンタフルオロシクロブタン。
【請求項2】
3,3,4,4-テトラフルオロシクロブテンにフッ化塩素を付加させることを特徴とするトランス-3-クロロ-1,1,2,2,4-ペンタフルオロシクロブタンの製造方法。