説明

含浸液の遠心液切り方法

【課題】 含浸液を含浸させようとする金属製品に縦横両方向に穴や凹部などの窪みが形成されていても、当該金属製品に付着している余剰の含浸液を極めて簡単な方法でもって比較的短時間に且つ十分に分離し回収することが可能であると共に、窪み内に含浸液が残ってそのまま凝固する液詰まり不良の発生を少なくすることができるようにする。
【解決手段】 含浸液を含浸させようとする金属製品Wを詰め込んだバスケットBを含浸タンクから取り出して当該金属製品に付着している余剰の含浸液を遠心分離により除去する遠心液切り法において、金属製品WをバスケットB内に、当該金属製品Wに形成された窪みW1, W2の開口方向がバスケットBの回転中心線Cに対して傾斜した状態に配列設置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製品、特にダイカスト鋳造により成形された鋳造品や焼結成形品などの金属製品に含浸液を含浸させた後に、当該金属製品に付着している余剰の含浸液を遠心分離により除去する遠心液切り方法の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばダイカスト鋳造品の場合、その内部に鋳巣を含む微細な孔を多数有する有孔体であるといえる。その為に、製品として特に気密性を要求される場合に、上記した鋳巣を含む微細な孔を密封することを目的として、鋳造品(金属製品)に含浸液を含浸させるいわゆる含浸処理が施される。
【0003】
一般的な含浸処理では、含浸液を含浸させようとする金属製品をバスケットに詰め込み(籠詰工程)、それを含浸タンクに封入して、先ず含浸タンクの内部を減圧し(減圧工程)、次に含浸液を含浸タンク内に供給して(浸漬工程)から、含浸タンクの内部を加圧することにより、金属製品の内部に存在する微細な孔に含浸液を圧入含浸させ(含浸工程)、その後に、上記バスケットを含浸タンクから取り出して当該金属製品に付着している余剰の含浸液を遠心分離により除去し(遠心液切り工程)、然る後に洗浄し(洗浄工程)、高温の湯中で含浸液を硬化させ(湯浸硬化工程)、最後に乾燥する(乾燥工程)一連の工程からなる。
【0004】
その中で、遠心液切り工程において、含浸液が含浸された金属製品に付着している余剰の含浸液を分離回収することは、含浸処理コスト(経済性)および環境負荷の軽減化を図るためにも大変重要な課題である。すなわち、余剰の含浸液を金属製品から分離回収して再利用すれば含浸液にかかるコストを軽減でき、また金属製品に付着している余剰の含浸液を、次の洗浄工程に移す前にできるだけ分離しておけば洗浄水の汚れが少なくなるので廃水処理が容易となり、環境に対する負荷を軽減することができる分けである。
【0005】
しかしながら、従来行なわれていた含浸液の遠心液切り方法では、含浸液を含浸させようとする金属製品をバスケットに詰め込む際に、当該金属製品をバスケットの底壁に対して寝かせた状態(横置き)に配列するか、若しくは立てた状態(縦置き)に配列して、バスケット底壁の中央を貫く線すなわちバスケットの回転中心線を中心にして遠心回転させていたため、当該金属製品に付着している余剰の含浸液を十分に分離することができなかった。
何故ならば、含浸液を含浸させようとする金属製品は多くの場合、縦方向にも横方向にも穴(成形穴及び加工穴)を含む窪みが形成されているため、これを横置き縦置きのいずれに配列して遠心分離機にかけても、縦横どちらか一方に形成された窪み内の含浸液は振り切れずに残留してしまうからである。
加えて、従来の含浸液の遠心液切り方法では、金属製品の窪み、特に狭い穴内に含浸液が残留しやすく、その結果穴内に残留した含浸液がそのまま凝固するいわゆる液詰まり不良を起こしやすかった。
尚、本願出願人が知っている上記の先行技術は、文献公知発明に係るものではないため、本願明細書には先行技術文献情報を開示しない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような現状に鑑みてなされたものであり、含浸液を含浸させようとする金属製品に縦横両方向に穴(成形穴及び加工穴)や凹部などの窪みが形成されている場合でも、当該金属製品に付着している余剰の含浸液を極めて簡単な方法でもって比較的短時間に且つ十分に分離し回収することが可能であると共に、窪み内に含浸液が残ってそのまま凝固する液詰まり不良の発生を少なくすることが可能な含浸液の遠心液切り方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
斯かる目的を達成する本発明の請求項1に記載の遠心液切り方法は、含浸液を含浸させようとする金属製品を詰め込んだバスケットを含浸タンクに入れ、当該金属製品に含浸液を含浸させた後、上記バスケットを含浸タンクから取り出して当該金属製品に付着している余剰の含浸液を遠心分離により除去する遠心液切り法において、含浸液を含浸させようとする金属製品をバスケット内に、当該金属製品に形成された窪みの開口方向がバスケットの回転中心線に対して傾斜した状態に配列設置したことを特徴としたものである。
また、本発明の請求項2に記載の遠心液切り方法は、含浸液を含浸させようとする金属製品をバスケット内に、当該金属製品に形成された窪みの開口方向がバスケットの回転中心線に対して傾斜した状態に配列設置するのに際して、バスケットの回転中心線に対して傾斜した製品載せ面を有する製品設置具を前記バスケット内に設置せしめ、該製品設置具の製品載せ面上に金属製品を配列設置したことを特徴としたものである。
更に、本発明の請求項3に記載の遠心液切り方法は、含浸液を含浸させようとする金属製品を分割収容籠に整然と配列して詰め込み、該分割収容籠をバスケット内に、当該分割収容籠に収容された金属製品に形成された窪みの開口方向がバスケットの回転中心線に対して傾斜した状態に設置したことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る遠心液切り方法によれば、バスケット内に収容された金属製品は、バスケットの底壁に対して寝かせた状態(横置き)でも立てた状態(縦置き)でもなく、当該金属製品に形成された窪みの開口方向がバスケットの回転中心線に対して傾斜した状態に設置されるので、当該金属製品に縦横両方向に穴(成形穴及び加工穴)や凹部などの窪みが形成されていても、これを遠心分離機にかければ、図4に示すごとく縦横両方向に形成された窪みに入っていた含浸液も比較的短時間でほとんど遠心分離される。従って、当該金属製品に付着している余剰の含浸液を十分に分離し回収することが可能であると共に、当該金属製品の窪み内に含浸液が残ってそのまま凝固する液詰まり不良の発生を大幅に少なくすることが可能となる。
【0009】
しかも、含浸液を含浸させようとする金属製品をバスケット内に、当該金属製品に形成された窪みの開口方向がバスケットの回転中心線に対して傾斜させた状態に配列設置するだけという極めて簡単な方法でもって当該金属製品に付着している余剰の含浸液を効果的に分離することが可能であり、よって含浸処理コスト(経済性)および環境負荷の軽減化を期することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の具体的な好適実施例を図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明は図示実施例のものに限定されるものではない。
【0011】
本発明に係る遠心液切り方法は、従来から周知である金属製品に対する含浸液の含浸処理に好適に適用される。すなわち、含浸液を含浸させようとする金属製品WをバスケットBに詰め込み(籠詰工程)、それを含浸タンクに封入して、先ず含浸タンクの内部を減圧し(減圧工程)、次に含浸液を含浸タンク内に供給して(浸漬工程)から、含浸タンクの内部を加圧することにより金属製品の内部に存在する微細な孔に含浸液を圧入含浸させ(含浸工程)、その後に、上記バスケットBを含浸タンクから引き上げて遠心分離機にかけ当該金属製品Wに付着している余剰の含浸液を遠心分離により除去し(遠心液切り工程)、然る後に洗浄し(洗浄工程)、高温の湯中で含浸液を硬化させ(湯浸硬化工程)、最後に乾燥する(乾燥工程)一連の工程からなる金属製品に対する含浸液の含浸処理に適用されるものである。
【0012】
ここで、バスケットBとしては、従来と同様に、堅牢な金網またはパンチング鋼板を用いて上部を開放した所要大きさの円形籠状に形成されたものを使用し、含浸液を含浸させようとする金属製品Wを詰め込んだ後に、詰め込んだ金属製品Wが含浸処理中にバスケットB内で動かないように、結束バンドや結束網或いは結束用のパンチング鋼板等でしっかりと固定する。ちなみに、図1に示した実施例では、後述する製品設置具1を利用して、詰め込んだ金属製品Wを固定している。
【0013】
また、本発明が適用可能な含浸液としては、従来から通常に使用されている無機系含浸剤(例えば、各種無機微粉末を無機高分子である珪酸ソーダ水溶液に分散させたもの等)や、有機系含浸剤(例えば、アクリル系樹脂などの熱硬化性樹脂等)を挙げることができる。
【0014】
而して本発明では、含浸液を含浸させようとする金属製品WをバスケットB内に、図4に示すごとく、当該金属製品Wに形成された窪みW1, W2の開口方向がバスケットBの回転中心線Cに対して上向き又は下向きに傾斜させた状態に配置し、その状態でもって含浸タンク内で含浸液を含浸させ、その後に、バスケットBを含浸タンクから引き上げて遠心分離機にかけて、当該金属製品Wに付着している余剰の含浸液を遠心分離により除去するものである。
すなわち、含浸液を含浸させようとする金属製品Wに縦横両方向に穴(成形穴及び加工穴)W1や凹部W2などの窪みが形成されていても、金属製品Wに形成された窪みW1, W2の開口方向がバスケットBの回転中心線Cに対して傾斜しているので、これを遠心分離機にかければ、図4に示すごとく縦横両方向に形成された窪みW1, W2内に入っていた含浸液もほとんど遠心分離され、その結果、当該金属製品Wに付着している余剰の含浸液を十分に分離回収することが可能となる。従って、金属製品WをバスケットB内に配列設置する場合に、隣接する金属製品Wと互いに重なり合わないように配列すると共に、バスケットBの底壁B’に対して周壁B”からバスケットBの回転中心線Cに向かう上向きに傾斜させた状態に配列設置することがより好ましい。
【0015】
この際、金属製品WをバスケットB内に、金属製品Wに形成された窪みW1, W2の開口方向がバスケットBの回転中心線Cに対して傾斜した状態に配置するのに、図1に示した実施例のごとく製品設置具1を使用しても良いし、図3に示した実施例のごとく分割収容籠2を使用しても良い。
【0016】
図1に示した実施例のものは、パンチング鋼板を用いてバスケットBの内径より少し小さい円形状に形成すると共に、その中心線12から左右を少し下向きに折り曲げて、上向に傾斜した製品載せ面11を有する製品設置具1を形成し、その製品設置具1をバスケットB内に設置せしめ、製品載せ面11上に金属製品Wを隣接する金属製品と互いに重なり合わないように整然と配列設置することにより、金属製品WをバスケットB内に、当該金属製品Wに形成された窪みW1, W2の開口方向がバスケットBの回転中心線Cに対して傾斜した状態に配置したものである。
【0017】
製品設置具1は、実施例のごときパンチング鋼板で形成するだけでなく、堅牢な金網や堅牢なプラスチック製の多孔板或いは網を用いて形成しても良い。また、その形状としては、図示例のごとき断面略山形形状だけでなく、緩円錐形状(略傘形状)でも、或いは中心に穴が開いた截頭緩円錐形状に形成しても良く、いずれの場合もその傾斜した上面を製品載せ面11とする。
【0018】
また、図3に示した実施例のものは、含浸液を含浸させようとする金属製品WをバスケットB内に直接詰め込むのではなく、分割収容籠2内に金属製品Wを隣接する金属製品と互いに重なり合わないように整然と配列して詰め込み、その分割収容籠2をバスケットB内に、当該分割収容籠2に収容された金属製品Wに形成された窪みW1, W2の開口方向がバスケットBの回転中心線Cに対して傾斜した状態となるように配置したものである。
なお、図中の符号3は、分割収容籠2をバスケットB内にバスケットBの回転中心線Cに対して傾斜させた状態に設置するためにバスケットBの底壁B’上に設置した支持台である。
【0019】
上記分割収容籠2は、堅牢な金網またはパンチング鋼板を用いて、バスケットBの内周形状と適合するように例えば四角形状や略1/4円形状に形成すると共に、必要に応じて開閉自在な蓋体21を設けてなる。
【0020】
また、製品設置具1の製品載せ面11及び分割収容籠2の傾斜角度(θ)は、含浸液を含浸させようとする金属製品Wの形状・構造に応じて任意に設定可能であるが、水平状に設置されたバスケットBの底壁B’に対して、バスケットBの回転中心線Cに向かう上向きに5度〜45度の範囲に設定することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の一例を示す断面図。
【図2】本発明に係る製品設置具の実施の一例を示す斜視図。
【図3】本発明の他の実施例を示し、(a)は分割収容籠の実施の一例を示す斜視図、(b)は分割収容籠をバスケット内に設置した状態を説明する断面図。
【図4】バスケット内に金属製品を配置して、付着している余剰の含浸液を遠心分離する状況を説明する断面模式図。
【符号の説明】
【0022】
W:金属製品
W1,W2:穴(成形穴及び加工穴)や凹部などの窪み
B:バスケット B’:底壁
L:含浸液 θ:傾斜角度
1:製品設置具 11:製品載せ面
2:分割収容籠 21:蓋体
3:支持台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含浸液を含浸させようとする金属製品を詰め込んだバスケットを含浸タンクに入れ、当該金属製品に含浸液を含浸させた後、上記バスケットを含浸タンクから取り出して当該金属製品に付着している余剰の含浸液を遠心分離により除去する遠心液切り法において、含浸液を含浸させようとする金属製品を前記バスケット内に、当該金属製品に形成された窪みの開口方向がバスケットの回転中心線に対して傾斜した状態に配列設置したことを特徴とする含浸液の遠心液切り方法。
【請求項2】
請求項1記載の遠心液切り法において、バスケットの回転中心線に対して傾斜した製品載せ面を有する製品設置具を前記バスケット内に設置せしめ、該製品設置具の製品載せ面上に前記金属製品を配列設置したことを特徴とする含浸液の遠心液切り方法。
【請求項3】
含浸液を含浸させようとする金属製品を詰め込んだバスケットを含浸タンクに入れ、当該金属製品に含浸液を含浸させた後、上記バスケットを含浸タンクから取り出して当該金属製品に付着している余剰の含浸液を遠心分離により除去する遠心液切り法において、含浸液を含浸させようとする金属製品を分割収容籠に配列して詰め込み、該分割収容籠を前記バスケット内に、当該分割収容籠に収容された金属製品に形成された窪みの開口方向がバスケットの回転中心線に対して傾斜した状態に設置したことを特徴とする含浸液の遠心液切り方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−35251(P2006−35251A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−217291(P2004−217291)
【出願日】平成16年7月26日(2004.7.26)
【出願人】(000005256)株式会社アーレスティ (44)