説明

吸入装置及びその制御方法

【課題】内圧を測定しない簡易な吸入装置において、マルチドーズで複数回投薬してもタンク内圧を常に適正範囲内に維持する。
【解決手段】カートリッジ10は、吸入装置の気流路に薬剤を吐出する吐出ヘッド部1及び薬剤タンク2を備える。吐出ヘッド部1の吐出に伴って薬剤タンク2の内容積を変化させるためのピストン部材122は、連結ユニット117によって送り機構であるピストン軸61に連結される。吐出ヘッド部1からの吐出後に、電磁石115による連結ユニット117とピストン部材122の連結を解除し、薬剤タンク2の内圧を外気圧と均衡させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、利用者が携帯して使用することができるように構成された吸入装置及びその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マウスピースを介して吸入される空気が流れる気流路中に、インクジェット方式の吐出原理を利用して薬剤の微小液滴を吐出させて利用者に吸入させる吸入装置が開発されている(特許文献1、2参照)。このような吸入装置は、所定量の薬剤を均一化した粒径によって精密に噴霧することができるという利点を有している。
【0003】
このような吸入装置の基本的な構成として、発熱素子などの吐出エネルギー発生素子が配された吐出ヘッドと、その吐出ヘッドに供給する薬剤を収容する薬剤タンクがある。
【0004】
また、薬剤タンク容量を、複数回の吐出量を確保し、吐出ヘッドと連結することで、複数回投薬を可能とする吸入装置がある。この装置は、シリンジタイプの薬剤タンクが吐出ヘッドに連結されており、投薬時は吐出ヘッドの薬液を適宜薬剤タンクから吐出ヘッドに供給できる機構を持つ。
【0005】
インクジェット方式を採用した吸入装置においては、吐出ヘッドに薬剤が充填された後、良好に吐出が開始できるためには、ヘッドオリフィス内部で適正な負圧が確保されなければならないことがわかっている。吐出口が3μmの吐出ヘッドで吐出する場合、吐出ヘッドオリフィス内部の圧力は、外気圧を基準として−1kPa〜−5kPaの範囲に維持するのが好ましいとわかっている。ここでオリフィス内部の圧力は、吐出ヘッドに連結した薬剤タンクの内部圧力とほぼ等価である。
【0006】
複数回投薬が可能な吸入装置においては、最初にヘッドに薬液を充填させた後は、次の吐出以降適正な負圧を維持し続けなければいけない。吐出が始まると、ヘッドから噴霧される薬剤により、タンク内部の体積が減少することで内圧が負圧方向に増大していく。内圧を上記適性範囲に維持するためには、薬液の消費速度に合わせてタンク内の容積を減少させるようにピストンなどを押し出すことが必要となる。
【0007】
【特許文献1】特開2004−290593号公報
【特許文献2】特開2004−283245号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら上記従来の技術によれば、オリフィスのノズル詰まり等の原因で、ヘッド吐出量よりピストンの押し出し量(加圧量)の方が大きくなった場合には、タンク内圧の負圧が正圧の方向に変化していく。さらに連続して投薬を行う場合には、前回の残余圧力に加えて、さらに次の余剰圧力が蓄積していくことになる。これにより、タンク内圧がいずれは正圧となってしまい、オリフィス面に薬剤が押し出されて表面が薬液で濡れ、不吐出が起こることになる。
【0009】
本発明は、内圧を測定しない簡易な構成で、常時タンク内圧を適正に維持することのできる吸入装置及びその制御方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の吸入装置は、利用者に薬剤を吸入させるための気流路と、前記気流路に薬剤を吐出する吐出ヘッドと、前記吐出ヘッドに供給するための薬剤を収容する薬剤タンクと、前記薬剤タンクの内容積を変化させるためのピストンと、前記ピストンを駆動するピストン駆動手段と、前記吐出ヘッドの吐出前に前記ピストンと前記ピストン駆動手段とを連結し、吐出後に前記ピストン駆動手段と前記ピストンとの連結を解除する手段と、を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の吸入装置の制御方法は、吐出ヘッドから吐出された薬剤を利用者に吸入させる吸入装置の制御方法において、前記吐出ヘッドから気流路に薬剤を吐出する吐出工程と、前記吐出工程における前記吐出ヘッドの吐出量に応じて、前記吐出ヘッドに薬剤を供給する薬剤タンクの内容積を変化させる工程と、前記吐出工程の後に、前記薬剤タンクの内圧を外気圧に均衡させる工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
ピストン駆動を間欠的に解除する簡単な構成及び動作フローで、薬剤タンクの内圧を適正に保つことができる。これにより、高性能で低価格な携帯タイプの吸入装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1は、一実施形態による吸入装置の外観を示す斜視図である。吸入装置本体は、ハウジングケース17と、アクセスカバー18とで本体外装を形成し、アクセスカバー18は、ロック解除ボタン18aを有する。図2に示すように、使用中にアクセスカバー18が開かないように設けたフック部18bが、バネによって付勢されたロック解除ボタン18aと一体になって作動するフック引っ掛け軸に止まる構成となっている。アクセスカバー18を開ける時には、解除ボタン18aを押すことでフックの掛かりが外れて、アクセスカバー18が開く方向に付勢する不図示のバネの力によって開くよう構成されている。アクセスカバー18には、投与量、時刻、エラー表示等を行うための表示ユニット15と、利用者が設定を行うためのメニュ切替えボタン11と、設定ボタンのアップボタン12と,ダウンボタン13と、決定ボタン14とを設けている。
【0015】
図2は、図1の吸入装置においてアクセスカバー18が開いた状態を示したものである。アクセスカバー18が開くと、装置本体に対して着脱可能となっている薬剤吐出部としての吐出ヘッド部1と、吐出ヘッド部1に供給するための薬剤を収容する薬剤タンク2と、駆動部保護カバー19とが見えてくる。吐出ヘッド部1は薬剤を気流路7へ向かって吐出する。利用者は吸入口(マウスピース)20から息を吸い込むことで、気流路内に吐出された薬剤を吸入することができる。
【0016】
本実施形態では、吸入口20と気流路7が一体となっている。吸入口20は、吸入時毎に使い捨てるか、または、吸入の後に洗浄して再使用する。吐出ヘッド部1と薬剤タンク2は、薬剤タンク2内の薬剤量が1回の吸入で投与すべき薬剤の量より少なくなると交換する。例えば、本体内に吐出量をカウントする機能があり、この吐出量カウント機能により残量を算出できるので交換時期を告知し、利用者に交換を促すか、または、交換が完了するまで吐出を行わないことも可能である。駆動部保護カバー19は、利用者が吸入装置の内部機構に容易に触れないようにするためのものである。
【0017】
図3及び図4は、吐出ヘッド部1及び薬剤タンク2の構成を示す。
【0018】
図3は、吐出ヘッド部1と薬剤タンク2からなるカートリッジ10の外観を示す。また、図4は、カートリッジ10の内部構成を示すもので、(a)は吐出ヘッド部1と薬剤タンク2を連通させる前の状態を示す断面図、(b)は連通後の状態を示す断面図である。
【0019】
吐出ヘッド部1は、複数の吐出口が配される吐出ヘッド8を備え、吐出ヘッド8は筐体10aに取付け・支持されており、薬剤タンク2から吐出ヘッド8へ薬剤を供給する。
【0020】
吐出ヘッド8には、吐出口付近に吐出エネルギー発生素子であるヒータが設けられ、加熱された薬剤が発泡するエネルギーで吐出口から吐出される。ヒータに電力を供給するための電気接点9aを有する電気配線部品9は、電気接点9aを通して、吸入装置本体に保持している2次電池として充電可能なバッテリ29(図6参照)から電力が供給される。
【0021】
吸入装置本体に装着する前から吐出ヘッド8を保護するため、吐出ヘッド8の吐出口面に接するように薬液吸収体を有するヘッド保護レバー21が配置されている。ヘッド保護レバー21は、吐出時には吐出口と気流路7が連通するように退避する。
【0022】
薬剤タンク2は、薬剤32を収容するガラス容器(シリンダ)33を有し、ガラス容器33の一端には、固定ゴム栓36がアルミニウム製のカシメ用金具37で押さえ込まれている。そして、ガラス容器33の他端には、容器の内容積を変化させるピストンである可動ゴム栓34がはめ込まれ、薬剤32を外気から遮断している。図4(a)に示すように、吐出ヘッド部1と薬剤タンク2が連結された段階では、ガラス容器内は吐出ヘッド8の吐出口以外では外気から遮断されている。この構成により薬剤タンク2の密閉性を維持し、薬剤32の変性、濃度変化を最小限に抑えている。
【0023】
図4(b)に示すように、薬剤タンク2を吐出ヘッド部1に押し込むと、中空針38が固定ゴム栓36を突き破り、吐出ヘッド部1と薬剤タンク2が連通される。薬剤32の吐出ヘッド8への充填は、ピストンである可動ゴム栓34を押し込むことにより行われる。このように薬剤タンク2のピストンを駆動するピストン駆動手段は、連結手段である可動ゴム栓ジョイント45によって可動ゴム栓34に連結される。
【0024】
利用者が吸入装置本体に装着しやすくするため、吐出ヘッド1と薬剤タンク2は一体となってカートリッジ10を構成することが好ましい。
【0025】
図5は、図2の駆動部保護カバー19を取り去って、装置内部を見た斜視図である。
【0026】
まず、薬剤タンク2を吐出ヘッド部1に連通させて、薬剤流路を形成させるための押し込みユニット50がある。そして、薬剤タンク2をはさんで反対側に可動ゴム栓34をガラス容器33の中で移動させ、薬剤タンク2の内容積を変化させるための可動ゴム栓移動ユニット60を配置している。可動ゴム栓移動ユニット60は、スクリュウ軸を有するスクリュウ軸モータ64を駆動回転させて、ピストン軸61を移動させる送り機構である。また、可動ゴム栓ジョイント45とピストン軸61を引き動作で抜けないように、引っ掛ける動作を行うためのピストン軸回転ユニット70がある。カートリッジ10の両側には、吐出ヘッド8を保護していたヘッド保護レバー21を移動させ、吐出面を開放するためのヘッド保護レバー退避ユニット90が配置してある。吐出ヘッド上方には、吐出ヘッド8が本体に装着された状態で吐出ヘッド8の乾燥防止とゴミの付着を防ぐためのヘッドキャッピングユニット100が設けてある。
【0027】
図6は、図5において外装をすべて取り去り、本体内部の機構部を示す図である。押し込みユニット50は、吐出ヘッド部1に対して薬剤タンク2を押し込む駆動力を発生させるモータ51と、モータ51のモータ軸に圧入されたピニオン52と、ピニオン52と噛み合うラック形状を一部に有する押し込みラック板53から構成される。ラック板53は、ガラス容器33の後端を押すように配置されている。
【0028】
次に、ピストン駆動手段である可動ゴム栓移動ユニット60について説明する。スクリュウをモータ主軸に有するスクリュウ軸モータ64のスクリュウのネジ形状が一致する雌ネジを有するピストン軸連結板62にはめ込まれている。ガイドシャフト63がスクリュウ軸の両側に配置され、ピストン軸連結板62の回転止めとスライド時のガイドを行っている。よって、スクリュウ軸モータ64の回転駆動力がピストン軸61をスライド移動させ、可動ゴム栓ジョイント45を介して連結しているピストンである可動ゴム栓34を移動させることができる。
【0029】
ピストン軸連結板62には、ピストン軸反転ユニット70が組み込まれている。ピストン軸反転ユニット70は、ピストン軸反転モータ71とモータ主軸に圧入されている反転モータギア72の駆動力をピストンギア73に伝達し、ピストン軸61を回転させることができる。ピストンギア73の回転によって、ピストン軸61と可動ゴム栓ジョイント45とを係合させ、可動ゴム栓34をガラス容器33に対して押し引きを行い、その内容積を変化させ、内圧を調整可能としている。
【0030】
制御基板28は、カートリッジ10の下側に配置される。各駆動モータの制御及び測定圧力値に基づく吐出動作条件の可変等の本体制御を行うため駆動制御ユニット4としてのCPU、ROM,RAMが、制御基板28上に設けられている。
【0031】
さらに、制御基板28の下側には、各駆動モータの駆動源及び吐出するためのエネルギー源としてのバッテリ29を配置し、この本体のみで薬剤を吐出し、吸入が行える構成としているのでどこでも簡単に使用可能としている。
【0032】
ヘッド保護レバー退避ユニット90について説明する。モータ91の主軸上に圧入されたピニオン92と、ラック形状を有する保護レバーラック93とが噛み合う。すると、保護レバーラック93はスライド移動し、ヘッド保護レバー21の端部に設けた退避用突起部21aを跳ね上げ、ヘッド保護レバー21が回転し、吐出ヘッド8が露出される。ヘッド保護レバー退避ユニット90は、カートリッジ10の装着時のみの駆動となる。
【0033】
ヘッドキャッピングユニット100について説明する。モータ104の駆動力により、モータ軸に圧入されたピニオン103を介してキャピングプレート102をスライド可能としている。キャッピングプレート102下面に組み込まれたラックと噛み合いスライド移動する。キャピングモータ104の駆動は、キャピングプレート102の退避時にのみ使用する。吐出ヘッド8のキャッピングは、キャピングバネ101の加圧力によって行う。本体電源がOFFの場合でもキャッピングを行うためである。つまり、吐出ヘッド8からの吐出を行う場合のみ、ヘッドキャッピングユニット100を駆動させ、薬剤吐出時以外は、乾燥防止のためにキャッピングしている。
【0034】
図7(a)は、薬剤タンク2の内圧を調整する機能を有する可動ゴム栓ジョイント45の代わりに、電磁石115を用いて連結及び吐出後の連結の解除を可能とする手段である連結ユニット117を用いた構成を示す。連結ユニット117には接触端子116が埋め込まれており、連結ユニット117が可動ゴム栓34の端面に接すると導通が起こるよう設置されている。また、鉄などの導電性を有し、かつ磁石に吸引される材料からなるピストン部材122を可動ゴム栓34の端面に一体化しておく。図7(b)に示すように、接触端子116は制御ユニット4に接続されているので、接触を制御ユニット4で知ることができる。連結ユニット117の端面には電磁石115が装着されており、電磁石駆動ライン120を介して電磁石駆動回路118から電流駆動される。
【0035】
また、ヘッドユニット1と薬剤タンク2が一体化されたカートリッジ10が装置に装着されたことを検出するカートリッジ検出センサ113が制御ユニット4に接続されている。吐出ヘッド部1には、薬剤噴霧を行うためのヘッド駆動信号を与える目的で、ヘッド駆動回路110が電気接点9a(図3参照)を介して接続されている。ヘッド駆動回路110は、ASICなどのゲートアレイで構成されており、制御ユニット4からの制御データと起動信号により、所要の噴霧を自ら実行するよう設計されている。
【0036】
連結ユニット117の送り機構であるピストン軸61は、図5及び図6に示すように、後述するスクリュウ軸モータ64がその駆動を行う。スクリュウ軸モータ64は、制御ユニット4により制御されるモータ駆動回路119により駆動される。モータ駆動回路119は、ヘッド駆動回路110と同様ゲートアレイで構成される。
【0037】
さらに制御ユニット4には、患者が吸入口20から吸入を行ったことを検出する吸入検出センサ114が接続されている。また、最終的に装置の電源をオンもしくはオフにするための電源スイッチ112が接続されている。
【0038】
図8及び図9は、図7の構成を用いた場合の、吐出ヘッド8の吐出工程における薬剤タンク2の内圧の変化を説明する概念図である。
【0039】
図8は、オリフィス詰まりなどがなく吐出量とゴム栓送り量が等しい場合であり、図9は、吐出量とゴム栓送り量が等しくない場合に、その差を解消する動作を模式的に説明するものである。
【0040】
図8は、1回の薬剤吐出動作の前後の状態を示すもので、(a)は、(N−1)回目の吐出後でN回目の吐出を行う準備ができている状態である。タンク内圧は、後述する動作フローにより適正負圧が確保されている。可動ゴム栓34の進行方向に対して先端部内に存在する空気層123をモデル的に示す。ピストン部材122は、連結ユニット117が連結できるための導電板であり、可動ゴム栓34と一体化されている。
【0041】
ここで、V(N−1)はそのときの薬剤の体積、A(N−1)は可動ゴム栓内の空気層123の体積、P(N−1)はゴム栓位置でスクリュウ軸モータ64の始点からの絶対位置(パルスカウント数CNT)である。また、S(N−1)はタンク内圧を表す。図8(b)は、1回分の吐出(吐出量=Vi)を行った後の状態を示し、上記数値は、吐出前と吐出後でそれぞれ以下のように変化する。
【0042】
V(N−1) −> V(N) =V(N−1)−Vi
Viは1回あたりの吐出量(体積)
A(N−1) −> A(N) =A(N−1)
P(N−1) −> P(N) =P(N−1)+Pi
PiはViに相当する1回あたりの所定送り量(パルス数)
S(N−1) −> S(N)
ここで、タンク内圧A(N−1)とA(N)は同じであるので、空気層123の状態(体積)は変わらない。
【0043】
これに対して、図9(a)は、図8(a)と同じ状態であるが、1回分の吐出が行われた直後の状態が異なり、吐出量Vi’がオリフィスの目詰まりで正規の吐出量ViよりΔV減少した場合を想定している。すなわち、図9(b)に示すように、上記数値はそれぞれ以下のようになる。
【0044】
V(N)’=V(N−1)−Vi’
=V(N−1)−(Vi−ΔV)
=V(N−1)−Vi+ΔV
=V(N)+ΔV
A(N)’=A(N−1)−ΔV (ΔVは吐出減少量(体積))
P(N) =P(N−1)+Pi
S(N) >S(N−1)
Piは吐出量減少分を見込んでいないので、あらかじめ決められた所定量を進めるためのモータ駆動のステップ数で、図8の場合と等しい。
【0045】
その後、図9(c)に示すように、内圧を外気圧と均衡をとる目的で、一旦連結ユニット117による連結を解除する。ここで可動ゴム栓34は、外気圧との均衡が極力短い時間で行われるようシリンダ内径とゴム栓径を選定しておく。ΔPは均衡後のゴム栓移動量(パルス数)である。Aは、外気との均衡時における空気層123の体積である。
【0046】
続いて、図9(d)に示すように、次の吐出のための負圧の確保を行うため、吐出前に再び連結ユニットを連結する。このとき内圧が調整された後のゴム栓位置P(N)’(=CNT値)は、
P(N)’=P(N−1)+Pi−ΔP
となる。次に、図9(e)に示すように、負圧確保のための引き戻しを行い、その量(ステップ数)をα2とすると、上記数値はそれぞれ以下のようになる。
【0047】
V(N)’=V(N−1)−Vi’
=V(N−1)−(Vi−ΔV)
=V(N−1)−Vi+ΔV
=V(N)+ΔV
A(N)’=A(N−1)
P(N)’=P(N−1)+Pi−ΔP−α2
S(N)は適正負圧となりS(N−1)と等しく、またA(N)’は吐出前の値と同じになる。
【0048】
この動作は十分短時間で行われれば、吐出の指令が起こってから開始しても動作上支障はない。一般に、吐出条件から算出される既知の予想吐出量に合わせて、可動ゴム栓34を押す場合に、ノズル詰まりなどで実際の吐出量が少ないと容器内が正圧となり、それが維持されてしまうおそれがある。また、例えば、容器内が正圧になることを防止するために、可動ゴム栓34を実際の吐出量よりも少なく押すことを繰り返す場合は、吐出のたびに徐々に負圧が蓄積されてしまうおそれがある。しかし、このように吐出終了後に(毎回ないしは数回に1回)可動ゴム栓34から連結ユニット117を解除して、容器内圧をゼロに近いレベルまでリセットできる。
【0049】
図10は、吸入装置の全体動作のフローチャートを示す。電源スイッチ112により電源がオンされるとステップS001から開始される。
【0050】
最初にカートリッジ検出センサ113の状態を検出し、カートリッジ10が装着されているかどうかの判断がされる。装着されていなければカートリッジ無しの表示を行い(S013)、装着されていれば薬剤残量OK判断に入る(S002)。薬剤残量が不十分であれば残量警告を行い(S014)、薬剤残量が十分であればバッテリ残量の判断に入る(S003)。薬剤残量の判断は、ソフト的な手法をとることができる。すなわち、最初の薬液量から過去に使われた全投薬量を減算して得られた液量が、次の吐出における最大の吐出量より大きいかどうかの判断をする。S003で薬剤残量が十分であればバッテリ残量の判断に入り、残量が不十分であればバッテリ警告を行い(S015)、残量が十分であればS005以降の吐出のためのルーチンに入る(S004)。
【0051】
カートリッジが新規に装着されたものであれば、まだ吐出ヘッド部1に薬剤が充填されていないので、薬剤の充填処理を行う必要がある。ここで検知されたカートリッジが新品かどうかの判断は、非接触ICタグにカートリッジの最終情報を記録しておき、それを読取ることで実現が可能である。別の方法としては、薬剤タンク2のピストン位置を光学的に読取り、その位置情報により判断することができる。さらに別の方法としては、初期充填が完了したら、カートリッジ筐体の一部に取り付けられたツメ部材を折ることもできる。
【0052】
判断肢S005ですでに初期充填が終了しているカートリッジと判断された場合は、初期処理ルーチンS006をスキップし、吸入のタイミング待ち判断(S007)に入る。初期処理ルーチンS006では、後述するヘッドに対する薬剤初期充填と、次の噴霧に備えるための負圧確保のための動作を行う。
【0053】
判断肢S007で吸入の開始を検知したら、噴霧に必要な所定投薬量がすでに設定されているかどうかの判断に入る(S008)。投薬量設定は、図1で説明したアップボタン12、ダウンボタン13、及び決定ボタン14で行われる。投薬量が毎回固定的であれば、過去に行った設定値をもってその投薬量とする。判断肢S008で設定が行われていなければ、投薬量を患者に設定するよう警告し(S016)、すでに設定が行われていれば吐出ルーチン(S009)に入る。
【0054】
後述する吐出ルーチンS009で吐出を完了した後、電源OFF条件かどうかの判断を行う(S010)。ここで電源OFFの判断のための条件は、患者が電源スイッチ112を操作したことを検知したこととしてもよく、または投薬が完了したらその都度行うこととしても良い。さらには、ローバッテリの判断がなされた場合に行っても良い。S010で電源OFF条件であれば終了処理ルーチンに入る(S011)。
【0055】
図11は、図10における初期処理ルーチンS006のフローを表す。S401から開始された後、連結ユニット117を送り出し、ピストン部材122に連結させるためのサブルーチン(SUB1)を起動する(S402)。このとき引数にはその時の連結ユニット位置(CNT)を入力する。初期充填時において連結ユニットは初期位置に退避しているので、CNT=0とする。S402で連結が完了したら、ヘッド初期充填用の押出しを行うためにサブルーチン(SUB2)を起動し、ヘッドに薬剤を充填させる(S403)。次に最初の吐出に備え、負圧を確保するためにサブルーチン(SUB2)を起動する(S404)。ここでは、連結ユニット117を容器内部とは反対側へと移動させる。SUB2は、所望のステップ数分だけステッピングモータを駆動するもので、必要とするステップ数(N)及び現在の連結ユニット位置CNTを引数として引き渡す。S403ではヘッド初期充填用に必要なステップ数(α1)が、S403では負圧確保に必要なステップ数(−α2)が使われる。これらステップ数は、製品の寸法ばらつきやカートリッジの装着ばらつきを考慮して、確実に動作が保証される数値をあらかじめ開発段階で決定される。実験によれば、50μLで初期充填時が行われることが確認されている。例えば、シリンジ内径が10.5mmのケースであれば、
50μL=π*(10.5mm/2)**2*dmm
ステッピングモータが1mm移動するのに必要とするパルス数=161
であることから、α1=91となる。
【0056】
α2については、その値が等しくても、薬液タンクの薬液残量に応じて発生する負圧は一様でなくなることがわかっており、以下のようなテーブルに従って、α2を8段階に変化させている。同様に薬液タンク径が10.5mmで、全薬液体積が1.5mLとすると、全送り長はおよそ17mmとなる。また、1mmあたりの送りパルス数が161であるので、全送りパルス数はおよそ2700パルスとなる。
CNT値範囲 α2値
〜 300 10
301〜 600 9
601〜 900 8
901〜1200 7
1201〜1500 6
1501〜1800 5
1801〜2100 4
2101〜2400 3
2401〜 2
【0057】
図12は、図10における吐出ルーチンS009のフローを表す。S601で起動された後、制御ユニット4からヘッド駆動回路110に対してヘッド駆動パラメータに従った起動をかける(S502)。一旦起動がかかると、ヘッド駆動回路110は、後述するフローとは独立にヘッド吐出動作を行う。次に前述したヘッド駆動パラメータから、単位時間あたりの薬剤吐出体積が決まるので、それに応じて連結ユニット117の送り用モータであるスクリュウ軸モータ(ピストンモータ)64を同期駆動して送り出す必要がある。これは吐出している間、ヘッドから吐出される単位時間あたりの薬液体積と、連結ユニット117の送り出し量を整合させることで、タンク内圧を常に適正範囲内に保持するためである。スクリュウ軸モータ64の送りタイミングは、吐出ヘッドがステッピングモータの1パルス分の薬剤押し出し量に相当する体積を吐出する時間であればよい(S503)。その時間が経過すると、ピストンモータをFWD方向へ1ステップ分送り(S504)、ステッピングモータ位置CNTを1だけカウントアップする(S505)。この動作を必要投薬量M回行われるまでルーチンを繰り返す(S506)。その後S502で起動をかけ独立して動作しているヘッド駆動回路110での吐出動作の完了を確認し、完了していればルーチンを終了する(S507)。変数としてはステッピングモータ位置CNTを返す。
【0058】
以下に具体的な数値例を示す。ここでは、実験で使用する薬剤シリンジを例に計算する。シリンジ内径が10.5mmで20μL/秒で吐出させる場合、単位時間あたりのピストン移動長をdmm/秒とすると、
20μL/秒=π*(10.5mm/2)**2*dmm/秒
より、d=0.227mm/秒となる。実験で使用したステッピングモータが1mm移動するのに必要とするパルス数が161であるので、これは36.5パルス/秒、すなわち1パルスあたり時間換算にして27ミリ秒で送ればよいということになる。ここで1回あたりの投薬量を50μLとすると、全送りパルス数Mは91となる。
【0059】
次に、タンク内圧を外気と平衡させるためのルーチンに入る。連結ユニット117を可動ゴム栓34から連結解除し、モータを必要量送り戻すルーチンを起動する(S508)。このときモータは原点まで退避する必要はない。この状態を、次の吐出を行うことのできるタイミングまで経過するのを待つ(S509)。この間に可動ゴム栓34の外気との均衡が行われる。必要な時間が経過すると、連結ユニット117を再連結するためサブルーチンSUB1を起動する(S510)。連結が終了すると、次の吐出のための負圧を確保するために、所定ステップ数α2を引き戻すためのサブルーチン(SUB2)を起動する。
【0060】
図13は、連結用サブルーチンSUB1のフローを表す。S601で起動された後、ピストンモータを正方向FWDへ1ステップ分送り出し(S602)、ステッピングモータ位置CNTを1だけカウントアップする(S603)。この動作を連結センサ116が接触するまで繰り返し(S604)、検出されたら電磁石を駆動する(S605)。
【0061】
図14は、ピストンモータ送り用サブルーチンSUB2のフローを表す。S701で起動された後、指定された引数Nに応じて正方向FWDまたは負方向REVかを判断する(S702)。引数Nは、正方向即ちピストンを送り出す方向であれば正の整数を、負方向即ちピストンを引き戻す方向であれば負の整数を指定する。正方向であれば、ピストンモータを正方向へ1ステップ分送り出し(S703)、ステッピングモータ位置CNTを1だけカウントアップする(S704)。負方向であれば、ピストンを負方向へ1ステップ分引き戻し(S705)、ステッピングモータ位置CNTを1だけカウントダウンする(S706)。この動作を所定量N分繰り返したのちルーチンを終了する(S707)。変数としてはステッピングモータ位置CNTを返す。
【0062】
図15は、図12で起動された連結ユニット解除・モータ逆送りのためのサブルーチンSUB3のフローを示す。引数は必要送り量N及び現在の連結ユニット位置CNTである。ここでN=0を指定すると、初期位置(原点)まで連結ユニット117を送り戻す動作をする。N≠0であれば、Nステップ数分戻すものである。具体的な送り量は、前記した実験で0.5mm程度あれば十分で、この場合はN=80ステップとなる。
【0063】
S801で開始された後、電磁石115の電流駆動を停止する(S802)。次にN≠0であれば、S804以降のN数送るルーチンに入る。N=0であれば、原点までモータを送り(S809)、CNT=0にリセットし(S801)終了する。すでに原点にあればS801経由で終了し(S804),その後モータをCNT値を減算しながら1ステップずつ戻していく(S805,S806)。この動作を所定数Nだけ送り終えるまで繰り返す(S807)。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の吸入装置は、薬剤吸入用の他に種々の用途に用いられ得る。例えば、芳香剤などの噴霧状吐出装置、ニコチンなどの嗜好品の吸入装置、などにも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】一実施形態による吸入装置の外観を示す斜視図である。
【図2】図1の吸入装置においてアクセスカバーが開いた状態を示す斜視図である。
【図3】カートリッジの外観を示す斜視図である。
【図4】カートリッジの断面を示すもので、(a)は吐出ヘッド部と薬剤タンクが連結される前の状態を示す断面図、(b)は吐出ヘッド部と薬剤タンクが連結された後の状態を示す断面図である。
【図5】図2の装置の駆動部保護カバーを取り去って、装置内部を見た斜視図である。
【図6】図5において外装をすべて取り去り、本体内部の機構部を見えやすくした図である。
【図7】図4の装置の可動ゴム栓ジョイントの代わりに連結ユニットを用いた構成を示すもので、(a)は連結ユニットの構成を説明する説明図、(b)は制御部の構成を示すブロック図である。
【図8】正常な吐出動作を説明する概念図である。
【図9】タンク内圧を維持するための動作を説明する図である。
【図10】吸入装置の全体動作を示すフローチャートである。
【図11】初期処理ルーチンを示すフローチャートである。
【図12】吐出ルーチンを示すフローチャートである。
【図13】連結ユニットの連結動作を行うサブルーチンを示すフローチャートである。
【図14】ピストンを所定ステップ分送るためのサブルーチンを示すフローチャートである。
【図15】連結ユニットの連結を解除して退避するためのサブルーチンを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0066】
1 吐出ヘッド部
2 薬剤タンク
4 制御ユニット
7 気流路
8 吐出ヘッド
10 カートリッジ
20 吸入口
32 薬剤
34 可動ゴム栓
38 中空針
45 可動ゴム栓ジョイント
50 押し込みユニット
60 可動ゴム栓移動ユニット
61 ピストン軸
64 スクリュウ軸モータ
110 ヘッド駆動回路
115 電磁石
116 連結検出センサ
117 連結ユニット
119 モータ駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用者に薬剤を吸入させるための気流路と、
前記気流路に薬剤を吐出する吐出ヘッドと、
前記吐出ヘッドに供給するための薬剤を収容する薬剤タンクと、
前記薬剤タンクの内容積を変化させるためのピストンと、
前記ピストンを駆動するピストン駆動手段と、
前記吐出ヘッドの吐出前に前記ピストンと前記ピストン駆動手段とを連結し、吐出後に前記ピストン駆動手段と前記ピストンとの連結を解除する手段と、を有することを特徴とする吸入装置。
【請求項2】
前記ピストン駆動手段と前記ピストンとの連結を解除することによって、前記薬剤タンクの内圧を外気圧に均衡させることを特徴とする請求項1に記載の吸入装置。
【請求項3】
吐出ヘッドから吐出された薬剤を利用者に吸入させる吸入装置の制御方法において、
前記吐出ヘッドから気流路に薬剤を吐出する吐出工程と、
前記吐出工程における前記吐出ヘッドの吐出量に応じて、前記吐出ヘッドに薬剤を供給する薬剤タンクの内容積を変化させる工程と、
前記吐出工程の後に、前記薬剤タンクの内圧を外気圧に均衡させる工程と、を有することを特徴とする吸入装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−46167(P2010−46167A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−211331(P2008−211331)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)