説明

吸入装置

【課題】気流路内で気流の流速が最大となる中央部において液滴同士が衝突し、液滴径の変化や薬剤の変性が起きるのを防ぐ。
【解決手段】一端にマウスピース4を有する流路マウスピースユニット2の気流路2aの中に、円筒状の構造物3を配置し、気流路2aの断面を輪形状とする。構造物3の表面には複数の吐出ヘッド6を配置し、構造物3の内部に設けられた薬剤タンク7から薬液を供給する。複数の吐出ヘッド6を同時に駆動しても、液滴同士が衝突して液滴径等が変化するのを回避できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼吸器系疾患治療等に用いる有効成分を含む液体等を液滴化して利用者に吸入させる吸入装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液状試料を微細に液滴化した上で、吐出する方法の一つとして、インクジェット技術が公知である。インクジェット方式は、液滴化した上で吐出する液量に関して、極微量でも高い制御性を示すという特長を有している。このインクジェット方式の微細液滴吐出方式としては、ピエゾ圧電体素子などを利用する振動方式や、マイクロ・ヒーター素子を利用するサーマルインクジェット方式が知られている。サーマルインクジェット方式では、利用するマイクロ・ヒーター素子のサイズ微小化は比較的に容易であり、ピエゾ圧電体素子などを利用する振動方式と比較して、単位面積当たりに設ける吐出口の数も多くできる。また、その作製に要するコストも遥かに低くできる。
【0003】
噴霧装置の中には、単一組成を噴霧するよりも、複数の物質を噴霧するものが多い。薬剤と補助剤、あるいは複数の薬剤を噴霧するなど多彩に利用されており、薬剤も治療目的の化合物、香料、色素と広範な範囲に用いられている。
【0004】
従来、複数の物質を噴霧するに当たり、1動作で成立させるために複数の物質を混合する方法が取られてきたが、不具合を生じる場合がある。個別に存在する限りは安定であるものが他の物質と同一雰囲気下に存在すると状態が変わり、性質が変わることがある。イオン間や電荷による相互作用、水素結合を解する相互作用、π共役に伴う作用などを前記の現象の駆動力として挙げられる。また、このポットライフが長時間にわたる組合せや短い組合せもあり、多様である。
【0005】
前記の複数の物質を噴霧するに当たり、噴霧直前に液を混合する仕組みは前記の従来の噴霧方式に見られるが、液滴同士が衝突して粒径が大きくなり微細に液滴が出来ず、また精密に量を制御できないことが課題として残る(特許文献1、特許文献2参照)。
【0006】
インクジェット方式で複数の種類の薬液を吐出する例が見られるが、液滴の衝突を防止する機構についての具体的な構成は記載されていない(特許文献3参照)。
【0007】
また、エアロゾル方式の吸入器において1つのキャニスタに収められない2つの薬剤をそれぞれ別のキャニスタに収容し、複数の薬剤を利用者に吸入させることができる吸入器がある(特許文献4、特許文献5、特許文献6参照)。
【0008】
【特許文献1】WO2002/05898号公報
【特許文献2】WO2004/007346号公報
【特許文献3】USP6684880
【特許文献4】WO2004/011069号公報
【特許文献5】WO2004/011070号公報
【特許文献6】WO2004/011071号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
吸い口(マウスピース)に接続された気流路に対して液体の薬剤を吐出し、それを利用者が吸入する場合、一回の吸入において複数の吐出ヘッドから液体を吐出すると、流路内で液滴が衝突してしまうおそれがある。通常、流路内の気流の流速は、流路の外壁付近が最も小さく、流路の中央部が最も大きいため、複数箇所から液体が吐出されても、流路の中央部に液滴が集中する結果、気流の流速が最大となる中央部において液滴同士が衝突してしまうのである。吸入する薬液によって肺内に沈着させたい部位が異なるため、好ましい液滴径が決まっている。したがって、液滴の衝突により液滴径が変化することは好ましくない。また、異種の薬液を吐出した場合は、薬液滴の衝突により薬液の変性が起きるおそれもある。
【0010】
本発明は、医療用に利用される吸入器等において、気流に噴霧される液滴量を高い精度で制御することが可能であり、しかも吐出される液滴同士が衝突して粒径が大きくなることを防止することのできる吸入装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の吸入装置は、薬剤を吐出して利用者に吸入させるための吸入装置において、利用者が薬剤を吸入するための吸い口部と、一端が前記吸い口部と連結し、他端に空気取り入れ口を有し、利用者の吸入により生じる気流によって薬剤を前記吸い口部へと導く気流路と、前記気流路に対して薬剤を吐出する複数の薬剤吐出部と、前記気流路の中に配置された構造物と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
気流路の中に構造物を配置することで、複数の薬剤吐出部から薬剤を同時に吐出した場合でも、吐出された液滴同士が衝突して液滴径が大きくなるのを防止できる。
【0013】
そのため、各回の噴霧操作において、複数の治療目的に利用可能な薬剤を所定の濃度で、かつ任意の比率に高精度で制御しつつ、再現性よく投与することが可能できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明を実施するための最良の形態を図面に基いて説明する。
【0015】
図1及び図2は、第1の実施形態を示す外観斜視図及び断面図である。これは、携帯できる吸入装置であって、ハウジングケース1に流路マウスピースユニット2が装着されている。流路マウスピースユニット2の一端には吸い口部であるマウスピース4が設けられ、他端は、利用者が吸入したときに流路マウスピースユニット2の内部の空間である気流路2aに気流が生じるように空気取り入れ口(air inlet)となっている。流路マウスピースユニット2の内部には構造物3が支持体3aにより保持される。流路マウスピースユニット2の側面には、ハウジングケース1と連結させるためにフック爪5が設けられている。構造物3の表面には複数の吐出ヘッド(薬剤吐出部)6があり、構造物3の内部には、吐出ヘッド6から吐出される薬液を収容する容器である薬剤タンク7(図3参照)が具備されている。薬剤タンク7は、薬剤を吐出ヘッド6に供給するべく、吐出ヘッド6と連通している。流路マウスピースユニット2は電気接続面8を有し、ハウジングケース1に配置された電気接続部材9を介して電力を供給される。
【0016】
利用者は流路マウスピースユニット2のマウスピース4を咥える。ハウジングケース1にはバッテリ10、利用者が設定を行うためのメニュ切替えボタン11、設定のアップボタン12,ダウンボタン13、決定ボタン14、投与量、時刻、エラー表示等を行うための表示ユニット15等を設けている。
【0017】
演算回路及びメモリ16はコントロール基板18に設けてあり、薬剤の吐出条件や吐出量、時刻等のデータを保存する。これらを駆動する電力は2次電池として充電可能なバッテリ10から供給される。
【0018】
また、効率的に薬剤の吸入を行うために利用者の吸入と液滴の吐出を同期させるのがよい。そこで、利用者の吸入を検知し、吸入検知信号を元に吐出を開始するために、吸入検知センサとして圧力センサ17をコントロール基板18に設けている。圧力センサ17は、利用者の吸入によって流路内に生じる負圧を検知する。流路マウスピスースユニット2には、気流路2aに連通する連通穴2bが設けられ、連通穴2bは圧力検知管19を介して圧力センサ17と連通する。
【0019】
気流路内にこのような構造物3があることによって、複数の吐出ヘッドから吐出された液滴が衝突する可能性を低減できる。この点を図11を用いて説明する。図11(a)は、気流路内に構造物3を有さない従来の気流路2aの断面図を模式的に示したものである。この場合、利用者の吸入によって生じる気流の速度は、流路マウスピースユニット2の内壁付近では遅くなり、気流路の中央付近で最も速くなる。図中の気流路内に太線で示したラインは、イメージとしてこのことを示している。図11(a)の右の図は、気流路2aの断面図であるが、中央の点は気流の流速が最も速い点を表している。ここで、複数の吐出ヘッド6から薬剤を吐出すると、図中の矢印で示したように吐出された液滴は、共に気流路2aの中央付近に集中する傾向があり、マウスピース4に到達するまでに液滴同士が衝突してしまう可能性がある。
【0020】
一方、図11(b)は、本発明の構造物3を備えた気流路2aの断面図である。この場合、利用者の吸入によって生じる気流の流速は、極大点が一点に集中することはない。つまり、構造物3の表面と流路マウスピースユニット2の内壁面では遅くなり、その中間地点付近で最も速くなる。図中の気流路内に太線で示したラインは、イメージとしてこのことを示している。図11(b)の右の図は、気流路2aの断面図であるが、点線で示したところが気流の流速が最も速い箇所である。ここで、複数の吐出ヘッド6から薬剤を吐出すれば、液滴は流速が最大になる箇所のうち、それぞれ吐出された箇所から最も近い所付近に集中する。このため、複数の吐出ヘッド6から吐出された液滴同士が衝突する確率を低減することができる。これは図示したように、複数の吐出ヘッド6が構造物3の内部に設けられている場合でも、流路マウスピースユニット2の内壁に設けられていても同様である。
【0021】
このように本発明の構造物3は、気流の流速の極大点が一点にならず、分散させることができるような形状の構造物である。
【0022】
図3は流路マウスピースユニット2のみを示すもので、(a)は流路マウスピースユニット2の軸方向の断面図、(b)は(a)のAーA線から見た断面図である。下部にはハウジングケース1と接続するためのフック爪5を有する。流路マウスピースユニット2の装脱着の使い勝手を考えるとフック爪5は単純な構造であることが望ましい。また、構造物3の支持体3aを介して各吐出ヘッド6に電力を供給する電気接続面8を有する。構造物3を設けることによって輪形状の断面を成す流路マウスピースユニット2の気流路2aの形状は、真円である必要はなく、例えば楕円形状でも吐出した液滴の衝突回避に対して同様の効果がある。
【0023】
吐出ヘッド6と薬剤タンク7は1対1に対応してセットされている。利用者は薬剤タンク7に吐出用の薬液を収容した流路マウスピースユニット2をハウジングケース1に取り付ける。続いて利用者は設定を行うためのメニュ切り替えボタン11と設定のアップボタン12とダウンボタン13と決定ボタン14を操作して、薬剤の量を設定する。そして利用者が吐出開始ボタンを押すことにより、薬剤タンク7に収容された薬液は吐出ヘッド6より構造物3の表面から流路外壁(流路マウスピースユニット2の内壁)方向に向かって吐出される。
【0024】
本実施形態は、吐出ヘッドとして、微細な液滴の吐出口を高密度に配置するサーマルインクジェット方式の吐出ヘッドを用いる。これは、薬液を吐出するための吐出エネルギー発生素子として、薬液に熱を加える電気熱変換素子を有する吐出ヘッドである。この方法によれば、単位面積及び時間当たりに吐出される微細な液滴の総数を高い精度で設定、制御可能であり、吐出される合計液滴量を高い精度で制御できる。加えて、再現性よく吐出する用途に適合する液体吐出手段である。
【0025】
そして、複数の吐出ヘッドを配置することで、複数種の薬剤を噴霧することが可能となる。その際に、気流路内に設けた構造物上に複数の吐出ヘッドを配置することで、1動作で複数の吐出ヘッドを稼動させ、複数種の薬剤や同種複数の薬剤を1動作で噴霧することが可能となる。前者は例えば気管支を拡張する薬剤と肺に到達して血糖値を調節するインスリンを噴霧して治療の効率を上げることができる。後者は薬剤量の多い患者に対して薬剤を投与する回数を減らすことができ患者のQOL(Quality of Life)の向上に寄与することができる。
【0026】
構造物を有する気流路の、気流に対して直行する断面は、輪形状となっており、構造物内部に薬剤タンクを複数有し、構造物表面に複数の吐出ヘッドを配置する。輪形状である気流に対して直行する断面は、角部のある矩形の閉じた輪形状でもよいが、角部のない閉じた輪形状がもっとも好ましい。閉じていない断面の場合は流速分布が点状ではなく線状となるように長辺長さと短辺長さの比が十分取れることが望ましい。
【0027】
また構造物を保持する支持体は、気流の流れを乱さないよう流線形であることが望ましい。吐出された液滴同士が衝突して液滴径が大きくなるのを防止するために、輪形状である気流に対して直行する断面で見たときに複数の吐出ヘッドから吐出された液滴の集合が支持体で分断されないように配置されていることがより好ましい。
【0028】
流路マウスピースユニットの材質は任意の材質でよいが、ガラス、プラスチック、金属から選ばれる材質であることが好ましい。
【0029】
複数の薬剤タンクを有する場合は、複数の薬液以外の組み合わせとして、薬液と嬌味成分あるいは矯臭成分の液体との組み合わせも可能である。吐出する液体の主媒体は水または有機物が好ましく、生体に投与されるときは水が主媒体であることがより好ましい。
【0030】
本発明に用いられる薬剤は、薬理的、生理的な作用を示す医薬用化合物の薬剤のみならず、医薬用化合物に加えて更に、嬌味嬌臭目的の成分、香料、染料、顔料なども含まれる概念である。
【0031】
また、本発明に用いられる薬液とは、液体の薬剤、または薬剤を含む液媒体を言う。薬液には、任意の添加剤を含んでよい。液中の薬剤の状態は、溶解、分散、乳化、懸濁、スラリーのいずれでもよい。また、液中に均一化されていればなおよい。
【0032】
薬剤として薬液を用いる場合、液の主媒体は水または有機物が好ましく、生体に投与されることを考慮すると水が主媒体であることが好ましい。
【0033】
液滴の吐出方式は、振動式としてピエゾアクチュエータ方式や超音波方式、負圧式として熱エネルギー付与によるサーマルインクジェット方式のいずれのものでもよい。なお、複数の噴霧される液滴量を高い精度で制御するには振動式よりも負圧式のほうが優れている。
【0034】
特に、サーマルインクジェット原理に基づいた吐出ヘッドを有する多数の液剤吐出ユニットを独立駆動可能な構成とすることが好ましい。方式の選択に対しては、製造のコスト及び単価、集積密度などが基準として挙げられ、前記の2つの点から熱エネルギーを付与して発泡させる方式を用いることがより好ましい。
【0035】
また、複数の吐出ヘッドに対して1動作で順次稼動させるためにリレー式に稼動命令を送ることもできるし、同時に可動命令を送ることもできる.リレーの時間差は任意に設定でき、先に稼動する吐出ヘッドの稼働時間より大きい値の時間差が設定してあればよい。
【0036】
図4は第2の実施形態を示す。図4の(b)、(c)に示すように、流路マウスピースユニット2の気流路2aと構造物3の断面形状は矩形であることから、口にくわえたときに隙間ができないようにマウススペーサ20を備える。その他の点は第1の実施形態と同様である。吐出ヘッド6を収容する構造物3は矩形の方が円形の場合と比べて製造上容易で安価になるメリットがある。
【0037】
図5は第3の実施形態を示す。図5の(b)、(c)、(d)に示すように、流路マウスピースユニット2の気流路2aと構造物3の断面は矩形であり、気流路とならない部位2cを有する。すなわち流路となっている部分は「C」字形状をしている。流路とならない部位2cを有することにより、吐出ヘッド6の電気配線が容易となる。そして、第2の実施形態と同様にマウススペーサ20を具備する。
【0038】
図5の(d)に示すように、気流路2aの内部の負圧を見るための連通穴2bはL字状に横に開口している。その他の点は第1の実施形態と同様である。第3の実施形態では利用者が吸入することにより気流路内に生じる負圧を検知するための圧力センサを有するので、吸入と吐出開始を同期させることができる。利用者は薬剤吐出のボタンを押す必要がなくなるので、利便性が高まる効果がある。
【0039】
図6は第4の実施形態を示す。気流路2aの断面が円形で構造物3の断面が矩形であって閉じている。また、図7に示すように、構造物3の寸法と吐出ヘッド6の寸法によっては構造物3の一辺に複数の吐出ヘッド6を配置することも可能である。吐出ヘッド6と薬剤タンク7は1対1で接続されている。その他の点は第1の実施形態と同様である。
【0040】
図8は第5の実施形態を示す。この場合は、1個の薬剤タンク7から複数(8個)の吐出ヘッド6a〜6hに薬液が供給される。図8の(c)は、薬剤タンク7と吐出ヘッド6a〜6hの配管図を示す。各吐出ヘッド6a〜6hは熱エネルギーまたは振動エネルギーにより液体を吐出させるので、薬剤タンク7と吐出ヘッド6の間にストップバルブを設けなくても吐出ヘッド6a〜6hの吐出口の表面張力により液体を保持することができる。
【0041】
同じ薬液を複数の吐出ヘッドから吐出することが可能となるので、呼吸の浅い高齢者や幼児が吸入するのに好適である。
【0042】
図9は第6の実施形態を示す。これは、2個の薬剤タンク7a、7bから複数(8個)の吐出ヘッド6a〜6hに薬液を供給する。図9の(c)は薬剤タンク7a、7bと吐出ヘッド6a〜6hの配管を示す図である。本実施形態では、複数の薬液以外の組み合わせとして、薬液と嬌味成分あるいは矯臭成分の液体との組み合わせも可能となり、利用者にとって投薬の心理的回避や負担を軽減する効果がある。
【0043】
図10は第7の実施形態を示す。本実施形態では、複数の吐出ヘッド6a〜6hが気流路の外壁から構造物3に向かって薬液を吐出するように配置される。吐出ヘッド6a〜6hと薬剤タンク7は1対1で接続されている。
【0044】
(構造物3の好ましい実施形態)
ここで、本発明の効果である液滴の衝突防止を実現するために好ましい構造物の実施形態について図12を参照しつつ述べる。以後、「吐出ヘッド6の位置」という場合には、気流路内における気流方向(図12(a)の左右方向)における位置をいうものとする。
【0045】
吐出ヘッド6の位置には、少なくとも気流路2aと構造物3があることが好ましい。つまり、吐出ヘッド6は、気流路2aの内部であり、かつ、その中の構造物3が延びているエリアに配置される。以後、吐出ヘッド6の位置を基準として、空気取り入れ口側を気流の上流、マウスピース側を気流の下流と呼ぶこともある。
【0046】
気流の下流側における構造物3の端部と気流路2aの好ましい位置関係について述べる。構造物3の端部が気流路2aの端部と一致するようにして、気流路2aの上流には必ず構造物3が存在することが最も望ましい。構造物3が気流路2a内の途中まで存在する場合、気流路2aの長さをLとすると、気流路2aの端部からL/5内側の地点(図12(a)のA地点)よりもマウスピース側に、構造物3の端部が存在することが好ましい。A地点よりも内側に構造物3の端部があると、気流の流速によっては、複数の吐出ヘッド6から吐出された液滴がマウスピースに到達する前に合流してしまう恐れもあるからである。構造物3の端部が、気流路2aの端部よりも外に出る、つまり、マウスピースの外に構造物3が突き出る形態でも構わないが、利用者の吸入の邪魔にならない程度である必要がある。構造物3が突き出る長さは、L/10程度が好ましい。
【0047】
気流の上流側における構造物3の端部と気流路2aの好ましい位置関係については、特に制限はないが下流側と同様であることが好ましい。この場合、A地点に対応する位置がB地点となる。
【0048】
次に吐出ヘッド6のより好ましい位置について述べる。気流の上流側について、気流路2aの端部から吐出ヘッド6までの距離x1と、構造物3の端部から吐出ヘッド6までの距離y1のいずれか又は両方が、L/5よりも大きいことが好ましい。その理由は、空気取り入れ口付近や構造物の端部付近は気流の乱れが生じやすく、その位置に吐出ヘッドがあると、液滴が乱流に入ってしまうおそれがあるためである。
【0049】
気流の下流側についても同様に、気流路2aの端部から吐出ヘッド6までの距離x2と、構造物3の端部から吐出ヘッド6までの距離y2のいずれか又は両方が、L/5よりも大きいことが好ましい。
【0050】
構造物3が気流路2aの内部にのみ設けられている場合は、図12(b)に示すように、構造物3の前後の端部のうち片方又は両方ともが、柱状ではなく錐状になっていることが好ましい。このように気流に垂直な断面で見たときに、構造物3の断面積が気流路2aの端部に近づくにつれて段階的に減少するようにすれば、構造物3の端部で気流の乱れが生じにくいためである。
【0051】
(複数の吐出ヘッドの位置について)
複数の吐出ヘッドは、気流路の気流に垂直な断面で見たときに同じ位置になるように、気流の上流と下流に複数のヘッドを設けることは好ましくない。複数の吐出ヘッドから吐出された液滴が同じ気流を通過することになるからである。これまでの実施形態に示したように、複数の吐出ヘッドが配置される位置関係は、この断面で見たときにずれた位置になることが好ましい。この断面で見たときに等間隔に対称に設けられることが最も好ましい。
【0052】
第1〜7の実施形態において、吐出する液の調製と測定方法の具体例を説明する。
【0053】
初めに薬剤を溶解させるための溶解液を2種類作製した。内容を以下に示す。薬剤に応じて溶解液を選択して吐出用液体を調製した。
【0054】
A液:アルギニン塩酸塩 10mg/ml水溶液
B液:塩化ベンザルコニウム 10mg/ml水溶液
薬液種 溶解液 設定濃度 粒径
インスリン A 0.4% 3.0
DPP4阻害剤 B 0.1% 3.1
【0055】
それぞれの実施形態において、必要な吐出用液体を薬剤タンクに収容して所定の電圧、周波数、デューティ(1サイクルの時間の中での電圧を印加している時間の割合)の条件下で前記液体を吐出させた。そして、粒度分布計(マルバーン社製;スプレイテック)を用いて吐出液の粒度分布を測定した。また、吐出液滴を回収して高速液体クロマトグラフ(日本分光社製;LC−2000)を用いて物質毎にあらかじめ濃度による検量線を作成し、前記の2物質の濃度を測定して同定した。判定基準としては粒径が吐出直後の値とマウスピースの出口測定した値の差で±0.2μm以内に収まるもの、濃度が±0.2%以内のものをOKとした。測定結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1より、複数の液体を同時に吐出した場合にどの組み合わせにおいても粒径と濃度が保持されていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】第1の実施形態を示す外観斜視図である。
【図2】図1の装置を示す断面図である。
【図3】図1の装置の流路マウスピースユニットのみを示すもので、(a)は軸方向の断面図、(b)は(a)のA−A線から見た断面図である。
【図4】第2の実施形態による矩形型の流路マウスピースユニットを示すもので、(a)は軸方向の断面図、(b)は(a)のAーA線から見た断面図、(c)は(a)のBーB線から見た断面図である。
【図5】第3の実施形態によるC字型の流路マウスピースユニットを示すもので、(a)は軸方向の断面図、(b)は(a)のAーA線から見た断面図、(c)は(a)のBーB線から見た断面図、(d)は(a)のCーC線から見た断面図である。
【図6】第4の実施形態による流路マウスピースユニットを示すもので、(a)は軸方向の断面図、(b)は(a)のAーA線から見た断面図である。
【図7】第5の実施形態による流路マウスピースユニットを示すもので、(a)は軸方向の断面図、(b)は(a)のAーA線から見た断面図である。
【図8】第6の実施形態による流路マウスピースユニットを示すもので、(a)は軸方向の断面図、(b)は(a)のAーA線から見た断面図、(c)は配管図である。
【図9】第7の実施形態による流路マウスピースユニットを示すもので、(a)は軸方向の断面図、(b)は(a)のAーA線から見た断面図、(c)は配管図である。
【図10】第8の実施形態による流路マウスピースユニットを示すもので、(a)は軸方向の断面図、(b)は(a)のAーA線から見た断面図である。
【図11】気流路の気流方向の模式断面図で、吐出ヘッドからの矢印は吐出された液滴の移動方向を表し、気流路内の太線は気流の流速分布をイメージした線である。図11(a)は構造物を有さない気流路内の液滴の動きを示す模式断面図、(b)は構造物を有する気流路内の液滴の動きを示す模式断面図である。
【図12】気流路の構成を示すもので、(a)は気流路、構造物、吐出ヘッドの位置関係を説明するための模式断面図、(b)は構造物の端部が錐状になっている場合を示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0059】
1 ハウジングケース
2 流路マウスピースユニット
2a 気流路
2b 連通穴
3 構造物
4 マウスピース
5 フック爪
6、6a〜6h 吐出ヘッド
7、7a、7b 薬剤タンク
8 電気接続面
9 電気接続部材
10 バッテリ
11 メニュ切替えボタン
12 アップボタン
13 ダウンボタン
14 決定ボタン
15 表示ユニット
17 圧力センサ
18 コントロール基板
19 圧力検知管
20 マウススペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤を吐出して利用者に吸入させるための吸入装置において、
利用者が薬剤を吸入するための吸い口部と、
一端が前記吸い口部と連結し、他端に空気取り入れ口を有し、利用者の吸入により生じる気流によって薬剤を前記吸い口部へと導く気流路と、
前記気流路に対して薬剤を吐出する複数の薬剤吐出部と、
前記気流路の中に配置された構造物と、を有することを特徴とする吸入装置。
【請求項2】
前記構造物を配置した前記気流路が、輪形状の断面を有することを特徴とする請求項1に記載の吸入装置。
【請求項3】
前記構造物の内部に薬剤を収容する薬剤タンクを配置し、
前記構造物の表面に前記複数の薬剤吐出部を配置したことを特徴とする請求項1又は2に記載の吸入装置。
【請求項4】
前記薬剤タンクを複数有し、複数の薬剤タンクからそれぞれ前記複数の薬剤吐出部に薬液を供給することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の吸入装置。
【請求項5】
前記複数の薬剤タンクに複数種の薬液が収容されていることを特徴とする請求項4に記載の吸入装置。
【請求項6】
前記薬剤吐出部は、熱エネルギー又は振動エネルギーを付与することにより薬剤を吐出する吐出ヘッドを有することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の吸入装置。
【請求項7】
前記気流路の外壁に前記薬剤吐出部が配置されていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の吸入装置。
【請求項8】
前記構造物は、前記空気取り入れ口から前記吸い口部までの間の気流路のうち、少なくとも前記複数の薬剤吐出部が配置される位置から前記吸い口部の方向に延びて配置されていることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の吸入装置。
【請求項9】
前記構造物は、前記気流路の内部において気流の流速の極大点が一点にならず、分散させることができる形状であることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の吸入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−6127(P2009−6127A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121816(P2008−121816)
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)