説明

吸気マスク用弾性粘着部材及び吸気マスク

【課題】 人手に頼らずとも吸気マスクの裾縁部が人の顔に密着させることができると共に、同じ吸気マスクを複数の人が繰り返して使用しても衛生上の問題がないように、吸気マスクに着脱自在とした吸気マスク用弾性粘着部材とそれを備えた吸気マスクを提供することを課題とする。
【解決手段】 人の鼻と口部とを覆うことのできる略裁頭円錐形をした中空本体2と、人の顔の起伏に合わせた三次元形状をした中空本体2の裾縁部3と、外部の混合ガス発生装置と接続する中空本体2の一部に設けた接続部4とを有する吸気マスク1に使用する弾性粘着部材5であって、裾縁部3に着脱自在に貼り付けて使用できるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、混合ガス発生装置に接続されて使用される医療用の吸気マスクを人の顔に密着させるために使用する吸気マスク用弾性粘着部材及びそれを備えた吸気マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療用等に使用する人の鼻、口部を覆う略裁頭円錐形をした中空本体を有する吸気マスクは、中空本体の一部に設けた人の耳又は後頭部に引っ掛ける紐やベルトで顔の所定位置に固定するようにしている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
ところで、中空本体の最大径側の開口縁部は人の顔に密着するように顔の起伏に沿った三次元形状をしており、柔軟性を持たせながらも所定の三次元形状を維持できる剛性を兼ね備えたものでなければならない。他方、人の顔は千差万別であるから人の顔に直接接触する開口縁部の形状は、平均的な人の顔のデータに基づいた特定の形状を採用するしかない。そのため、中空本体の一部に設けた紐やベルトの締め具合の調節が不十分であると、人によっては、顔と中空本体の開口縁部とに隙間が生じることがあり、吸気が有効に行えないことになる。また、麻酔ガスを使用する吸気マスクにあっては、吸気マスクと人の顔とに隙間が生じている場合には、その隙間から麻酔ガスが漏れて患者以外の人に悪影響を及ぼすことになるので、隙間のない状態で使用しなければならない。
【0004】
そこで、使用に際しては、吸気マスクを装着する人自身又は看護婦等の他人が吸気マスクの紐やベルトの締め具合を調節し直したり、紐やベルトをそのままにして若しくは紐やベルトを使わずに吸気マスクを人手で顔に押し付けることで、顔と中空本体の開口縁部との隙間をなくすようなことが行われている。
【0005】
しかしながら、このような人手で吸気マスクを顔に押し付ける行為が長時間に及ぶ場合には、押し付けている人の負担が大きいばかりでなく、そのためだけに人手が使われてしまうといった問題があった。
【0006】
吸気マスクの開口縁部を人の顔に密着する方法として、開口縁部に中空本体より柔らかい、例えばゴム、スポンジ、軟質合成樹脂等よりなる弾性部材を一体的に取り付けた吸気マスクが提案されている(特許文献2を参照のこと)。
【0007】
しかしながら、開口縁部に中空本体より柔らかい弾性部材を一体的に取り付けた吸気マスクにあっては、開口縁部を人の顔に密着させることができるようにはなったが、開口縁部に中空本体より柔らかい弾性部材を有しない吸気マスクと同様に、複数の患者等吸気マスクを必要とする人に対して同じ吸気マスクを使用すると衛生的でないという問題があった。そのため、毎回消毒処理を行った吸気マスクを使用できるようにするための人手と時間を要し、結果として、患者等の負担する医療費が高くなってしまうという問題があった。
【特許文献1】特開2003−199830号公報
【特許文献1】特開平8−266628号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は、以上のような問題を解消すべく、人手に頼らずとも吸気マスクの裾縁部が人の顔に密着させることができると共に、同じ吸気マスクを複数の人が繰り返して使用しても衛生上の問題がないように、吸気マスクに着脱自在とした吸気マスク用弾性粘着部材とそれを備えた吸気マスクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を実現するため、請求項1に記載の発明は、人の鼻と口部とを覆うことのできる略裁頭円錐形をした中空本体と、人の顔の起伏に合わせた三次元形状をした前記中空本体の裾縁部と、外部の混合ガス発生装置と接続する前記中空本体の一部に設けた接続部とを有する吸気マスクに使用する弾性粘着部材であって、前記裾縁部に着脱自在に貼り付けて使用できるようにしたことを特徴としている。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加えて、前記弾性粘着部材は、柔軟性を有するシート状の表面と裏面とに剥離体を備えたものであって、吸気マスクに貼り付けられる側に設ける剥離体との粘着力より人の顔に貼り付けられる側に設けられる剥離体との粘着力の方が小さいことを特徴としている。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加えて、前記弾性粘着部材は、柔軟性を有するシート状の表面と裏面の少なくとも一方に剥離体を備えたものであって、前記弾性粘着部材の一部には吸気マスクの前記裾縁部の平面形状から外方に張り出した突片が設けられていることを特徴としている。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加えて、前記弾性粘着部材は、吸気マスクの前記裾縁部と等しい起伏をした三次元形状の剛体である剥離体に取り付けられていることを特徴としている。
【0013】
請求項5に記載の発明は、人の鼻と口部とを覆うことのできる略裁頭円錐形をした中空本体と、人の顔の起伏に合わせた三次元形状をした前記中空本体の最大径側の開口部である裾縁部と、外部の混合ガス発生装置と接続する前記中空本体の一部に設けた接続部とを有する吸気マスクであって、前記裾縁部に請求項1乃至4のいずれか一つに記載の吸気マスク用粘着部材を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明は、吸気マスクの裾縁部に貼り付けて使用することで、複数の起伏が異なる人の顔に吸気マスクの裾縁部を宛った場合であっても、弾性粘着部材がない場合に生じる吸気マスクの裾縁部と人の顔との隙間を埋めるように弾性粘着部材が変形することで、吸気マスクを人の顔に密着させることができる。
【0015】
また、吸気マスクを使用前に新しい弾性粘着部材を中空本体の裾縁部に貼り付け、使用後には使用済みの弾性粘着部材を中空本体の裾縁部から剥がすことで、毎回未使用の弾性粘着部材が吸気マスクを使用する人の顔に接触することになるため、同一吸気マスクを繰り返し衛生的に使用することができる。
【0016】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の効果に加えて、吸気マスクに貼り付けられる側に設ける剥離体と弾性粘着部材との粘着力より人の顔に貼り付けられる側の剥離体と粘着力の方が小さいため、最初に、吸気マスクに貼り付けられる側に設けられている剥離体を剥がすことになるから、吸気マスクに貼り付けられる側に設けられている剥離体を剥がしてから吸気マスクに弾性粘着部材を貼り付け、次に、人の顔に貼り付けられる側の剥離体を剥がしてから吸気マスクを人の顔に貼り付けるといった手順を間違うことなく行うことができる。したがって、人体へ吸気マスクを装着する際して、作業マニュアルや他人による指導を必要としない。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の効果に加えて、剥離体から弾性粘着部材を剥がす際に、弾性粘着部材の一部に設けた突片を摘んで剥離体から持ち上げるようにすれば、小さな面積しかない突片の粘着力は小さいため、容易に剥離体から引き剥がすことができるので、弾性粘着部材を吸気マスクへ貼り付ける際の取り扱いが容易なものとなる。
【0018】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の効果に加えて、人の顔に貼り付けられる側に設けられる剥離体が吸気マスクの裾縁部と等しい起伏した三次元形状の剛体であるため、吸気マスクに弾性粘着部材を貼り付ける際に弾性粘着部材の形状を吸気マスクの裾縁部の三次元形状に徐々に沿わせながら貼り付けるといった手間を掛けずとも、人の顔に貼り付けられる側に設けられる剥離体に貼り付けられている弾性粘着部材を単に吸気マスクの裾縁部に押し付けるだけで吸気マスクの裾縁部に隙間なく弾性粘着部材を貼り付けることができる。
【0019】
請求項5に記載の吸気マスクは、人の顔に接触する吸気マスクの中空本体の裾縁部に着脱自在の弾性粘着部材を備えているので、複数の起伏が異なる人の顔に吸気マスクの中空本体の裾縁部を宛った場合であっても、弾性粘着部材がない場合に生じる吸気マスクの裾縁部と人の顔との隙間を埋めるように弾性粘着部材が変形することで、吸気マスクを人の顔に密着させることができるだけでなく、弾性粘着部材の粘着力により吸気マスクが人の顔に固定されるので、吸気マスクに取り付けた紐やベルトを使用する必要がない。そのため、紐やベルト人の耳又は後頭部に引っ掛けること及び締め具合を調節する手間が省ける他、吸気マスクを人手で顔に押し付けるといった手間も省ける。
【0020】
また、弾性粘着部材が中空本体の裾縁部に対して着脱自在であるため、吸気マスクを使用前に新しい弾性粘着部材を中空本体の裾縁部に貼り付け、使用後には使用済みの弾性粘着部材を中空本体の裾縁部から剥がすことで、毎回未使用の弾性粘着部材が吸気マスクを使用する人の顔に接触することになるため、同一吸気マスクを繰り返し衛生的に使用することができる。
【0021】
請求項2に記載の吸気マスク用粘着部材を備えた請求項5に係る吸気マスクは、吸気マスクに貼り付けられる側に設ける剥離体と弾性粘着部材との粘着力より人の顔に貼り付けられる側の剥離体と粘着力の方が小さくした場合には、最初に、吸気マスクに貼り付けられる側に設けられている剥離体を剥がすことになるから、吸気マスクに貼り付けられる側に設けられている剥離体を剥がしてから吸気マスクに弾性粘着部材を貼り付け、次に、人の顔に貼り付けられる側の剥離体を剥がしてから吸気マスクを人の顔に貼り付けるといった手順を間違うことなく行うことができる。したがって、人体へ吸気マスクを装着する際して、作業マニュアルや他人による指導を必要としない。
【0022】
請求項3に記載の吸気マスク用粘着部材を備えた請求項5に係る吸気マスクは、剥離体から弾性粘着部材を剥がす際に、弾性粘着部材の一部に設けた突片を摘んで剥離体から持ち上げるようにすれば、小さな面積しかない突片の粘着力は小さいため、容易に剥離体から引き剥がすことができるので、弾性粘着部材を吸気マスクへ貼り付ける際の取り扱いが容易なものとなる。
【0023】
請求項4に記載の吸気マスク用粘着部材を備えた請求項5に係る吸気マスクは、人の顔に貼り付けられる側に設けられる剥離体が吸気マスクの裾縁部と等しい起伏した三次元形状の剛体であるため、吸気マスクに弾性粘着部材を貼り付ける際に弾性粘着部材の形状を吸気マスクの裾縁部の三次元形状に徐々に沿わせながら貼り付けるといった手間を掛けずとも、人の顔に貼り付けられる側に設けられる剥離体に貼り付けられている弾性粘着部材を単に吸気マスクの裾縁部に押し付けるだけで吸気マスクの裾縁部に隙間なく弾性粘着部材を貼り付けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、この発明の実施の形態について図面に従って説明する。
[発明の実施の形態1]
【0025】
図1は、この発明の実施の形態に係る弾性粘着部材を貼り付ける前の吸気マスクの斜視図である。図2は、この発明の実施の形態に係る弾性粘着部材を貼り付ける前の吸気マスクの底面図である。
【0026】
図1及び2に示した吸気マスク1は、病院等の医療機関で使用されるものであって、人の鼻と口部とを覆うことのできる略裁頭円錐形をした透明乃至半透明の中空本体2と、この中空本体2の最大径側の開口部である裾縁部3と、中空本体2の一部に外部の混合ガス発生装置(図示なし)と接続するために設けた接続部4とを有している。中空本体2はその外形が緩やかな曲面を有したものが多く、裾縁部3は人の顔の起伏に合わせた複雑な三次元形状をしている。
【0027】
図1及び図2に示した吸気マスク1には図示していないが、所定の場所からずれないようにするために人の顔に吸気マスク1を固定するためのベルトが必要に応じて設けられる。
【0028】
人の顔の大きさや形状はまちまちであるが、吸気マスク1は平均的な人の顔の大きさと形状に合わせたものが製作され、一般には成人用、小児用及び乳幼児用の三種類が準備される。また、吸気マスク1は、中空本体2、裾縁部3及び接続部4とをシリコーンゴム等の合成樹脂で一体成形されており、手で押すと多少撓む程度の弾性を有している。ここで、吸気マスク1の材料としては、シリコーンゴムの他、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン等の熱可塑性ゴムが使用できる。
【0029】
一種類の大きさと形状をした成人用の吸気マスク1を使用して、顔の大きさと形状がまちまちな複数の成人に吸気を行おうとした場合には、吸気マスク1自体が有する弾性性能だけでは吸気マスク1の中空本体2の裾縁部3の表面と装着しようとする人の顔の表面との間に隙間が生じてしまうことがある。そのため、前述したように、従来は看護婦等が人の顔に吸気マスク1を押し付けることで人の顔と吸気マスク1との隙間をなくすようなことが行われていたが、人手が掛かるといった問題があった。
【0030】
この問題を解消すべく、この発明の実施の形態に係る吸気マスク1にあっては、中空本体2の裾縁部3に弾性を有する柔らかい粘着部材を着脱自在に貼り付けるようにした。
【0031】
以下、この発明の実施の形態に係る吸気マスク及びその吸気マスクを人の顔に密着させるために使用する吸気マスク用弾性粘着部材について説明する。
【0032】
まず、柔軟性のある剥離体に貼り付けた弾性粘着部材の態様について説明する。
【0033】
図3は、吸気マスクに使用するこの発明の実施の形態に係る弾性粘着部材であって、背面に剥離紙が貼り付いている状態を示した正面図である。図4は、吸気マスクにこの発明の実施の形態に係る弾性粘着部材を貼り付けた状態を示す側面図である。
【0034】
図3に示したように、弾性粘着部材5は吸気マスク1に貼り付ける前の状態では、柔軟性を有するシート状の表面と裏面の少なくとも一方に平面状の紙製又は合成樹脂フィルム製の剥離体6を備えている。弾性粘着部材5の中央部には略二等辺三角形をした鼻と口部が入る開口部7を有し、鼻側(図面の上側)に当たる部分には吸気マスク1の裾縁部3の平面形状から外方に張り出した左右一対の突片8,8が設けられている。弾性粘着部材5は、それ自体ではぐにゃぐにゃしたものであるから、吸気マスク1に貼り付ける際の取り扱いを容易にするため、外周部と開口部7に沿った内周部に肉厚部9aを形成している。また、弾性粘着部材5の中央部には、吸気マスク1の裾縁部3の平面形状と略同一形状の肉厚部9bを形成し、人の顔との隙間を埋めるのに必要な弾性変形量を確保するようにしている。
【0035】
弾性粘着部材5の材料としては、指先で押す程度の小さい圧力で対象物表面に容易に接着する性質を有する感圧接着剤とも呼ばれる弾性粘着剤が使用できるが、使用条件からして、耐熱性、耐寒性に優れ、しかも人体に対して害のないシリコーンゴム粘着剤が好ましい。特に、吸気マスク1自体をシリコーンゴムで製作している場合には、シリコーンゴム粘着剤との親和性が高いので強い粘着力が得られるから、吸気マスク1との十分な接着力が発揮されるので好ましい。
【0036】
次に、以上のような態様である弾性粘着部材を吸気マスクに取り付ける方法について説明する。
【0037】
図3に示した弾性粘着部材5を吸気マスク1に貼り付ける場合には、まず、吸気マスク1をひっくり返して裾縁部3が上側になるようにテーブル上に置く。次に、左右の手の親指と人差し指等を使って弾性粘着部材5の左右の突片8,8を摘み上げて、弾性粘着部材5を紙製又は合成樹脂フィルム製の剥離体6から引き剥がし、テーブルに置いた吸気マスク1の上方まで持っていき、裾縁部3の平面形状に合わせて弾性粘着部材5の向きを決めて裾縁部3に重ね合わせ、左右の突片8,8を吸気マスク1の側面に貼り付けることで吸気マスク1への弾性粘着部材5の貼り付け作業が終了する。吸気マスク1に弾性粘着部材5を貼り付けた状態は、図4に示したとおりである。
【0038】
以上のような態様である弾性粘着部材5を吸気マスク1に貼り付けるときは、吸気マスク1の裾縁部3が人の顔の起伏に合わせた三次元形状をしているため、弾性粘着部材5を上方から軽く押さえ付けるようにして、弾性粘着部材5を裾縁部3の三次元形状の起伏に徐々に沿わせるようにする。
【0039】
弾性粘着部材5が貼り付けられた吸気マスク1は、吸気マスク1の弾性粘着部材5側を人の顔に向けて裾縁部3が鼻と口部を覆うようにして吸気マスク1を軽く押し付けるようにすれば、弾性粘着部材5自体の弾性による弾性変形と粘着力の作用により人の顔と吸気マスク1との間に隙間のない状態で固定される。また、左右の突片8,8が吸気マスク1の側面に貼り付けられているため、弾性粘着部材5と吸気マスク1との結合状態を確実なものにしている。
【0040】
次に、剛性のある剥離体に貼り付けた別の態様をした弾性粘着部材について説明する。
【0041】
図5は吸気マスクに使用する別の態様に係る弾性粘着部材を貼り付けておくための剥離体を示した斜視図であり、図6はその側面図である。
【0042】
図5及び6に示した使用前の弾性粘着部材5にあっては、その表面に柔軟性のある剥離体を備え、その裏面には剛体である剥離体を備えたものを示している。つまり、弾性粘着部材5の一方の面には吸気マスク1の裾縁部3と等しい起伏をした三次元形状の剛体である剥離体10に貼り付けられており、他方の面には紙製又は合成樹脂フィルム製の剥離体6が貼り付けられている。
【0043】
吸気マスク1に貼り付ける前の使用前の弾性粘着部材5に何んら触れるようなことがなければ、敢えて紙製又は合成樹脂フィルム製の剥離体6を貼り付けておくこともないが、製造業者ら使用者までの輸送や保管の都合を考えると、剛体である剥離体10の反対側に当たる弾性粘着部材5の上面には塵埃や指紋の跡が着かないようにするためには、紙製又は合成樹脂フィルム製の剥離体6を貼り付けておくことがよい。
【0044】
図5及6に示したように、弾性粘着部材の表面と裏面の両方に剥離体を備える場合には、人の顔に貼り付けられる側に設けられる剛体である剥離体10と弾性粘着部材5との粘着力を、吸気マスク1に貼り付けられる側に設ける紙製又は合成樹脂フィルム製の剥離体6と弾性粘着部材5との粘着力より大きくしておくことが好ましい。これにより、吸気マスク1に貼り付けられる側に設ける紙製又は合成樹脂フィルム製の剥離体6が簡単に剥がれる状態にあるから、吸気マスク1を人の顔に装着する際に、最初に、吸気マスク1に貼り付けられる側に設けられている紙製又は合成樹脂フィルム製の剥離体6を剥がしてから吸気マスク1に弾性粘着部材5を貼り付け、次に、人の顔に貼り付けられる側の剛体である剥離体10を剥がしてから吸気マスク1を人の顔に貼り付けるといった手順を間違うことなく行うことができる。
【0045】
図示した剛体である剥離体10は、略同一の厚さと幅を有する帯状の環状体であって外形は略二等辺三角形をしており、中央部には弾性粘着部材5の開口部7と略同一形状の開口部11を有している。剛体である剥離体10の中央よりやや上方(二等辺三角形の頂角部近傍)には、口部から鼻にかけての顔の起伏に合わせた凹部12が形成されている。剛体である剥離体10の図示した形状に限定されるものではなく、本体である吸気マスク1の裾縁部3の形状に応じて種々の変形があり得る。
【0046】
また、剛体である剥離体10は、例えば、ポリエチレン、ポリカーボネートABS樹脂等の硬質合成樹脂の成形品や一般合紙を高温高圧で圧縮成形した成形品が利用できるが、廃棄処分のことを考えると一般合紙の成形品が好ましい。
【0047】
次に、剛性のある剥離体に貼り付けた別の態様をした弾性粘着部材を吸気マスクに取り付ける方法について説明する。
【0048】
図6に示した剛体である剥離体10に貼り付けられた弾性粘着部材5を吸気マスク1に貼り付ける場合には、まず、吸気マスク1に貼り付けられる側に設けている紙製又は合成樹脂フィルム製の剥離体6を弾性粘着部材5から剥がして、次に、剛体である剥離体10を持ってそのまま吸気マスク1の裾縁部3と弾性粘着部材5との向きを合わせて剛体である剥離体10を軽く押し付けることで吸気マスク1の裾縁部3に隙間なく弾性粘着部材5を貼り付けることができる。その後、剛体である剥離体10を弾性粘着部材5から引き剥がして、吸気マスク1の弾性粘着部材5側を人の顔に向けて裾縁部3が鼻と口部を覆うようにして吸気マスク1を軽く押し付けるようにすれば、弾性粘着部材5の有する弾性による弾性変形と粘着力の作用により人の顔と吸気マスク1との間に隙間のない状態で固定される。
【0049】
剛体である剥離体10に貼り付けられた弾性粘着部材5を使用する場合には、剛体である剥離体10により弾性粘着部材5の形状が吸気マスク1の裾縁部3の三次元形状に保たれているので、柔軟性のある剥離体にのみ貼り付けた弾性粘着部材のように、弾性粘着部材5の形状を吸気マスク1の裾縁部3の三次元形状に徐々に沿わせながら貼り付けるといった手間がいらない。また、弾性粘着部材5には直接触れることがないので、弾性粘着部材5の形状を吸気マスク1の裾縁部3の三次元形状に沿わせる際に、弾性粘着部材5に手で触れて指紋の跡をつけて弾性粘着部材5の表面を汚すことで粘着力を低下させてしまうおそれもない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】この発明の実施の形態に係る弾性粘着部材を貼り付ける前の吸気マスクの斜視図である。
【図2】同実施の形態に係る弾性粘着部材を貼り付ける前の吸気マスクの底面図である。
【図3】吸気マスクに使用する同実施の形態に係る弾性粘着部材であって、背面に剥離紙が貼り付いている状態を示した正面図である。
【図4】吸気マスクに同実施の形態に係る弾性粘着部材を貼り付けた状態を示す側面図である。
【図5】吸気マスクに使用する同実施の形態に係る弾性粘着部材を貼り付けておくための剥離体を示した斜視図である。
【図6】吸気マスクに使用する同実施の形態に係る弾性粘着部材を貼り付けておくための剥離体を示した側面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 吸気マスク
2 中空本体
3 裾縁部
4 接続部
5 弾性粘着部材
6 剥離体
7、11 開口部
8 突片
10 剛体である剥離体




【特許請求の範囲】
【請求項1】
人の鼻と口部とを覆うことのできる略裁頭円錐形をした中空本体と、人の顔の起伏に合わせた三次元形状をした前記中空本体の裾縁部と、外部の混合ガス発生装置と接続する前記中空本体の一部に設けた接続部とを有する吸気マスクに使用する弾性粘着部材であって、前記裾縁部に着脱自在に貼り付けて使用できるようにしたことを特徴とする吸気マスク用弾性粘着部材。
【請求項2】
前記弾性粘着部材は、柔軟性を有するシート状の表面と裏面とに剥離体を備えたものであって、吸気マスクに貼り付けられる側に設ける剥離体との粘着力より人の顔に貼り付けられる側に設けられる剥離体との粘着力の方が小さいことを特徴とする請求項1に記載の吸気マスク用弾性粘着部材。
【請求項3】
前記弾性粘着部材は、柔軟性を有するシート状の表面と裏面の少なくとも一方に剥離体を備えたものであって、前記弾性粘着部材の一部には吸気マスクの前記裾縁部の平面形状から外方に張り出した突片が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の吸気マスク用弾性粘着部材。
【請求項4】
前記弾性粘着部材は、前記吸気マスクの裾縁部と等しい起伏をした三次元形状の剛体である剥離体に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の吸気マスク用弾性粘着部材。
【請求項5】
人の鼻と口部とを覆うことのできる略裁頭円錐形をした中空本体と、人の顔の起伏に合わせた三次元形状をした前記中空本体の最大径側の開口部である裾縁部と、外部の混合ガス発生装置と接続する前記中空本体の一部に設けた接続部とを有する吸気マスクであって、前記裾縁部に請求項1乃至4のいずれか一つに記載の吸気マスク用弾性粘着部材を備えたことを特徴とする吸気マスク。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−326129(P2006−326129A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−156621(P2005−156621)
【出願日】平成17年5月30日(2005.5.30)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)