説明

吸盤装置

【課題】凹凸を有する取付面に対しても強力な吸着力を発揮し且つ持続することができる吸盤装置を提供する。
【解決手段】比較的硬質で反発力が大きい弾性材料から形成される吸盤本体31の下面周縁部に、比較的軟質で取付面の凹凸にも追従して密着可能なゴム素材からなるリング状吸着部材32が略同心状に取り付けられて吸盤装置を構成する。吸盤本体の排気口31d上には逆止弁38が設けられ、吸盤本体を取付面に押し付けて弾性変形させると共にリング状吸着部材を圧縮させて取付面に密着させたときに、弁が開いて吸盤内部の空気を外部にスムーズに排出させる。カバー35と吸盤本体との間に配置されたバネ板33は、吸盤装置を取付面に押し付けたときに圧縮して吸盤本体およびリング状吸着部材を持ち上げようとする方向のバネ力を与え、吸盤本体の材料自体の反発力と相まって、吸盤内部の負圧を高めて吸着力を増大させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸盤装置に関し、特に凹凸面に対しても強力に吸着することからたとえばポータブル型のナビゲーション装置、携帯電話機などの携帯機器を自動車のダッシュボードなどに取り外し可能に設置するための車載機器取付装置として高い有用性を発揮し得る吸盤装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムなどの弾性材料(エラストマー)を略逆皿状に形成した吸盤装置は、取付面に押しつけたときに内部に形成される負圧と大気圧との圧力差を利用して吸着力を発揮させるものであって、接着剤などを使用せずに吸着させることができるので取付面を傷つけたり汚したりすることがなく、また取り外しが容易であって何度も繰り返し着脱することが可能であることなどから、古くから広い用途に利用されている。
【0003】
一般的に吸盤装置は、その吸着メカニズムからして鏡面のような平坦且つ平滑な面に対して強力な吸着力を発揮することができるが、自動車のダッシュボードやコンクリート、タイル、磨りガラスなどの凹凸を有する面に吸着させようとしても、内部の空気が抜けてしまって負圧を維持することが困難なため、多くの場合は十分な吸着力を発揮または維持することができない。
【0004】
たとえば、自動車用のナビゲーション装置として、本体とディスプレイとが別体に構成されたセパレートタイプのものの他、これらが比較的小型に一体に構成されたポータブル型のナビゲーション装置が知られており、このポータブル型ナビゲーション装置(以下、「PND」と略記することがある)は車載可能であると共に取り外して持ち運ぶことも可能であるので、たとえば自宅に持ち帰って目的地設定などの操作を行ったり、別の自動車に載せ替えて使用したり、テレビチューナーやDVD再生機能を備えている場合にはアウトドアでテレビやDVDを視聴することができる。欧米ではむしろポータブル型のナビゲーション装置が主流であり、今後わが国でも広く普及することが見込まれている。そして、ポータブル型ナビゲーション装置を車載するための取付装置の多くは、自動車のフロントガラスやダッシュボードなどに吸盤で固定する形式を採用している。
【0005】
ところで、従来の吸盤装置の多くは取付面に吸着する吸盤の吸着面が吸盤本体の一部として形成されている。すなわち、吸盤本体と吸着面とが同一の素材で形成されている。しかしながら、このような吸盤装置では上述のダッシュボードのように凹凸を有する取付面に対して十分な吸着力を発揮することができない。すなわち、凹凸を吸収するためには吸盤自体を十分に柔らかい材料で形成して凹凸面に対しても密着して空気の通路を遮断しなければならないが、このような軟質材料で吸盤本体全体を形成しても形状が保てず内部の減圧を維持することができないため、凹凸面に対しては吸盤として機能し得ない。
【0006】
この問題を解決するために、吸盤本体はPVCなどの比較的硬質な材料で形成しながらその少なくとも着面部分を軟質な材料で被覆した構成の吸盤装置も提案されているが、軟質材料による被覆を厚くするにも限度があるため薄い膜状とせざるを得ず、十分に凹凸を吸収することができず、完全な密着状態を作ることができない。また、強い圧力で押さえつけることによって一時的には完全な密着状態を作ることができたとしても、手を離して時間が経つと吸盤の接着面が持ち上がってしまって隙間ができ、吸着力が失われるため、強く押し付けた状態で密着状態を保ちながらネジや梃子などを利用して強制的に吸盤表面を引き上げる装置を備えないと吸盤としての作用を十分に発揮することができなかった。
【0007】
このような事情から、車載機器取付装置としての吸盤装置においては、平坦なベースプレートをダッシュボード面に貼り付けた上に吸盤装置を吸着させて固定する方式が広く採用されているが、この場合、ポータブル型ナビゲーション装置などの車載機器を他の車両に載せ替えて設置しようとすると、ベースプレートを当該他の車両のダッシュボード面にも貼り付けなければならない。また、他の車両への載せ替えや自宅あるいはアウトドアへの持ち運びのために取付装置を取り外したときには、ベースプレートがダッシュボード面に貼り付けられたままの状態で残されることになり、外観を著しく低下させてしまう。さらに、ベースプレートは強度を保つため比較的強力な接着剤でダッシュボードに貼り付けられるため、長期間使用後に剥がしたときにダッシュボードに糊跡を残したり、ダッシュボード表面にダメージを与えたりする場合があった。
【0008】
下記特許文献1,2には、弾性合成樹脂材料で形成される吸盤本体にゲル層を設けて該ゲル層を吸着面とした構造の吸盤装置が提案されている。これらの従来技術は、吸盤本体はある程度硬質な材料で形成しつつ、吸着面を粘着性に富んだゲル層で形成することにより凹凸面に対する吸着力を高めることができる利点があるが、ゲル状の接着面はゴム状の素材とは性質が異なりベタ付きが顕著でごみなどが付きやすく取扱性や使用感が著しく悪いものとなる。また、ゲルは液体と固体との中間的な性質を持ち、長期間の使用や高温時に液体成分が溶けて染み出てきて取付面を汚したりダメージを与える可能性が大きく、自動車のダッシュボードに取り付けて頻繁に着脱や載せ替えを行うことが予定されるポータブル型ナビゲーション装置取付用の吸盤装置としては好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−347138号公報
【特許文献2】特開2008−228918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の課題は、自動車のダッシュボードやコンクリート、タイル、磨りガラスなどの凹凸を有する取付面に対しても良好に機能し、取付面を汚したりダメージを与えない新規な構成の吸盤装置を提供することである。特に、自動車のダッシュボードにポータブル型ナビゲーション装置や携帯電話機その他の携帯機器を自動車のダッシュボードにポータブル型ナビゲーション装置や携帯電話機その他の携帯機器を取り外し可能に設置するための車載機器取付用に適した吸盤装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題を解決するため、請求項1に係る発明は、第一の弾性材料から形成される吸盤本体と、第一の弾性材料より軟質である第二の弾性材料から略リング状に形成されて吸盤本体の下面周縁部に略同心状に取り付けられるリング状吸着部材とからなることを特徴とする吸盤装置である。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の吸盤装置において、前記吸盤本体を取付面に押し付けて弾性変形させると共に前記リング状吸着部材を圧縮させて取付面に密着させるときに吸盤内部の空気を外部に排出させて吸盤内部に負圧を形成するための排気口が前記吸盤本体に形成されると共に、該排気口には内部から外部への排気のみを許容して外部から内部への吸気を阻止する弁手段が設けられることを特徴とする。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の吸盤装置において、前記弁手段が、前記吸盤本体の上に前記排気口に連通する排気通路を与えるようにして固定される取付補助リングと、該取付補助リング上に密着して前記排気通路を気密に閉止可能に設けられる開閉弁とを有して構成されることを特徴とする。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項1に記載の吸盤装置において、前記リング状吸着部材は前記吸盤本体の下面周縁部に部分的に接合され、その非接合部が、吸盤本体を取付面に押し付けて弾性変形させると共にリング状吸着部材を圧縮させて取付面に密着させるときに吸盤内部の空気を外部に排出させて吸盤内部に負圧を形成するための排気路として働くことを特徴とする。
【0015】
請求項5に係る発明は、請求項1ないし4のいずれか一に記載の吸盤装置において、前記吸盤本体の下面周縁部に環設された凹溝に前記リング状吸着部材が嵌着されることを特徴とする。
【0016】
請求項6に係る発明は、請求項1ないし5のいずれか一に記載の吸盤装置において、前記吸盤本体および前記リング状吸着部材を実質的に包囲するようにカバーが設けられることを特徴とする。
【0017】
請求項7に係る発明は、請求項6に記載の吸盤装置において、前記カバーの周縁部の少なくとも一部に切欠部が設けられることを特徴とする。
【0018】
請求項8に係る発明は、請求項6または7のいずれか一に記載の吸盤装置において、前記カバーと前記吸盤本体との間にバネ部材が配置され、この吸盤装置を取付面に押し付けて変形させることによりカバーと吸盤本体の間隔が狭まったときに該バネ部材が圧縮された状態となって吸盤本体の外縁部を押さえつけながら吸盤本体の中央部分を持ち上げようとする方向のバネ力を与えることを特徴とする。
【0019】
請求項9に係る発明は、請求項1ないし8のいずれか一に記載の吸盤装置において、前記リング状吸着部材を構成する第二の弾性材料はJIS−K6253によるA5〜A15のゴム硬度を有するエラストマーであることを特徴とする。
【0020】
請求項10に係る発明は、請求項1ないし9のいずれか一に記載の吸盤装置において、前記リング状吸着部材を構成する第二の弾性材料が複数の異なるゴム素材を重ね合わせて層状に接合してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
請求項1に係る発明によれば、吸盤本体は比較的硬質で反発力が大きい弾性材料、すなわち好ましくはエチレンプロピレンゴム(EPDM),シリコーンゴム(Q),スチレンブタジエンゴム(SBR)、塩化ビニール樹脂(PVC)などを主体として形成され、一方、吸盤本体の下面周縁部に略同心状に取り付けられるリング状吸着部材は比較的軟質で弾性が大きいゴム素材(エラストマー)で形成されるため、上から圧力を加えて取付面に吸着させたときに、柔らかいリング状吸着部材は大きく圧縮変形して凹凸のある取付面に対しても凹凸に追従して隙間なく密着すると共に、吸盤本体は弾性変形した後に圧力から解放されると自身の反発力によって取付面から離れる方向に持ち上がろうとするので、吸盤内部に形成された負圧が高まり、大きな吸着力を発揮することができる。リング状吸着部材は、好ましくはシリコーンゴム(Q),エチレンプロピレンゴム(EPDM),クロロプレンゴム(CR),天然ゴム(NR)などで形成され、自動車のダッシュボードやコンクリート、タイル、磨りガラスなどの凹凸面にも良く追従して密閉性を保つので、車載機器を自動車のダッシュボードに取り付けるような場合にも好適に適用し得るものとなる。
【0022】
請求項2に係る発明によれば、吸盤本体を取付面に押し付けて弾性変形させると共にリング状吸着部材を圧縮させて取付面に密着させるときに、吸盤内部の空気が排気口を通じて外部にスムーズに排出されるので、軟質のリング状吸着部材に対しては厚さ方向の力以外の過大な力は作用せず、リング状吸着部材を横方向に変形させることなく、吸盤内部に負圧を形成することが容易となる。排気口に設けられる弁手段は、好ましくはシリコーンゴム(Q),ニトリルゴム(NBR),フッ素ゴム(FKM)などの軟質ゴム素材で形成されるものであり、排気を許容するが吸気を阻止する逆止弁として作用するので、吸盤内部に形成された負圧を維持することができる。
【0023】
請求項3に係る発明によれば、吸盤本体の上に排気口に連通する排気通路を与えるようにして固定される取付補助リング上に、該取付補助リングと互いに密着性に優れた材料からなる開閉弁が設けられるので、開閉弁が取付補助リングに密着して排気通路を気密に閉止することができ、且つ、その状態が安定して維持されるので、吸盤内部に形成される負圧を長期間に亘って持続することができる。好適な一例として、取付補助リングと開閉弁はいずれも軟質シリコーンゴムで形成される。
【0024】
請求項4に係る発明によれば、リング状吸着部材を吸盤本体の下面周縁部に同心状に取り付けるに際して部分的に接合することにより、非接着部に空気通路を与えるので、吸盤本体を取付面に押し付けて弾性変形させると共にリング状吸着部材を圧縮させて取付面に密着させるときに、吸盤内部の空気がこの空気通路を介してスムーズに排気され、吸盤内部に負圧を形成することが容易となる。このようにして吸盤内部に負圧が形成された吸着状態が得られると、リング状吸着部材は非接着部をも含めてその上面が全面的に吸盤本体の下面周縁部に密着することになるので、非接着部が吸気路として働くことはなく、吸盤内部に形成された負圧が維持される。この場合、密着して弁の役目を十分に果たすためには、このリング状吸着部材が柔らかいゴム素材であることも重要な要素である。この発明によれば、特別な弁手段を用いることなしに実質的に逆止弁構造と同一の機能を持たせることができる効果がある。
【0025】
請求項5に係る発明によれば、リング状吸着部材が吸盤本体の下面周縁部に形成された凹溝に嵌合された状態で取り付けられるので、軟質材料で形成されるリング状吸着部材の横方向への変形を規制してもっぱら厚さ方向に集中させることができ、押し付けた力を取付面に対して効果的に伝えることができる。また、特に車載用途の場合に自動車走行に伴う横揺れ時の変形を抑制して横方向の強度を確保するので、ポータブル型ナビゲーション装置などの車載機器取付装置における吸盤装置として用いたときに特に大きな効果を発揮する。
【0026】
請求項6に係る発明によれば、吸盤本体およびリング状吸着部材の外側部分がカバーで実質的に包囲されるので、取付面に吸着しているリング状吸着部材に対してその外周縁を捲り上げるような不慮の外力が加わって吸着力が失われることを防止する。また、カバーを車載機器取付装置などの一部分として兼ねれば、装置をダッシュボードに取り付けたとき、カバーによる安全性を確保しながら外部から吸盤装置が見えない一体化したデザインとすることができる。
【0027】
請求項7に係る発明によれば、上記カバーの周縁部の少なくとも一部が切り欠かれているので、吸着状態にある吸盤装置を取付面から取り外すときには、この切欠部に指先やドライバーなどの道具の先端を挿入してリング状吸着部材の外周縁を捲り上げて吸盤内部の負圧を解消させることができるので、カバーによる保護を通じて吸着力を安全に維持させる効果を発揮しながら、吸盤装置の取り外しの操作も容易に行うことができるものである。
【0028】
請求項8に係る発明によれば、吸盤装置を取付面に押し付けてカバーと吸盤本体の間隔が狭まったときに、これらの間に設けられたバネ部材が圧縮された状態となって吸盤本体の中央部分を吸盤周縁部を支点として持ち上げようとする方向のバネ力を与えるので、吸盤内部の負圧を高め、吸着力を増大させてより一層安定した吸着状態を得ることができる。このバネ部材は一般的には皿バネと呼ばれている形状のものを用いることができる。より具体的には、ステンレススチールなどのバネ素材から全体が略逆皿状ないし略逆椀状に形成されたものにおいて、外周縁から中心に向けて放射状のスリットを間隔をおいて複数形成して略傘状としたものを用いることができる他、コイル状のスプリングをカバーと吸盤本体との間に配置させてバネ部材としても良い。吸盤装置においては、吸盤本体が弾性変形した後に圧力から解放されたときに自身の反発力によって取付面から離れる方向に持ち上がろうとすることによって吸盤内部の負圧が高まって吸着力を発揮するが、この発明によれば、吸盤本体の材質による反発力に加えてバネ部材によるバネ力が相まって負圧を高めるので、吸着力がより一層増大すると共に、長期間吸着状態が持続して吸盤本体の圧縮永久歪で吸盤本体の反発力が低下した結果いわゆるへたりが生じた場合であっても吸着力を持続させることが可能となる。
【0029】
請求項9に係る発明によれば、リング状吸着部材がJIS−K6253によるゴム硬度がA5〜A15である軟質のゴム素材から形成されるので、上から圧力を加えて取付面に吸着させたときに、リング状吸着部材は大きく圧縮変形して取付面に隙間なく密着すると共に、吸盤本体は弾性変形した後に圧力から解放されると自身の反発力によって取付面から離れる方向に持ち上がろうとするので、吸盤内部に形成された負圧が高まり、大きな吸着力を発揮することができる。このような軟質のゴム素材は強い粘着性のあるゲル状素材のように取り扱いが難しい問題は生じない。この場合、吸盤本体は弾性により反発力を維持できれば良く、硬度は特に限定されない。このような軟質ゴム素材から形成されるリング状吸着部材は、自動車のダッシュボードやコンクリート、タイル、磨りガラスなどの凹凸にも良く追従して密閉性を保つので、車載機器を自動車のダッシュボードに取り付けるような場合にも好適に適用し得るものとなる。
【0030】
請求項10に係る発明によれば、リング状吸着部材が複数のゴム素材を重ね合わせて層状に接合してなるので、複合素材の物性を両立させることによる利点を発揮することができる。たとえば、シリコーンなどのゴム素材をゴム硬度A5〜A10のように軟質に架橋させると表面がオイリーになる傾向があり、また、荷重を受けた状態が長期間持続したり高温下においては組成分の染み出し(ブリーディング)が顕著になって非吸着物(取付面)に移行する可能性がある。そこで、このような軟質のゴム素材を用いてリング状吸着部材を形成しつつ、その裏面(取付面に吸着する面)側にオイル等の染み出しの比較的少ない別のゴム素材によるバリアー層を薄く積層させて、オイリーな面を被覆すると同時に軟質ゴム素材からの組成分移行を防止する。シート状の軟質ゴム素材を裏面側に積層させることに代えてコーティング処理によって該バリアー層を形成しても良い。これらバリアー層は薄く形成されるので、ある程度硬度が高くても軟質のリング状吸着部材の柔らかさによる凹凸面への追従性はバリアー層を通しても十分に確保される。バリアー層の材料としては、組成分のブリーディングが少なく転移の可能性の少ないゴム素材が適しており、シリコーンゴム(Q)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ウレタンゴム(UR)などを用いることが好適である。また、硬度により組成分の染み出しの度合いは大きく異なるので、層を成す素材が同質の素材であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態(実施例1)による吸盤装置の下面図(b)および同図A−A切断線による断面図(a)である。
【図2】この吸盤装置の吸着前状態(a)および吸着状態(b)を示す断面図である。
【図3】本発明の他の実施形態(実施例2)による吸盤装置の下面図(b)および同図B−B切断線による断面図(a)である。
【図4】この吸盤装置の吸着前状態(a)および吸着状態(b)を示す断面図である。
【図5】本発明のさらに他の実施形態(実施例3)による吸盤装置の下面図(b)および同図C−C切断線による断面図(a)である。
【図6】この吸盤装置の吸着状態を示す断面図である。
【図7】本発明のさらに他の実施形態(実施例4)による吸盤装置の断面図である。
【図8】この吸盤装置からカバーを取り外した状態の斜視図である。
【図9】本発明のさらに他の実施形態(実施例5)によるカーナビホルダーの側面図である。
【図10】このカーナビホルダーの要部断面図である。
【図11】このカーナビホルダーに用いるカバーの切欠部を示す斜視図である。
【図12】このカーナビホルダーを自動車ダッシュボードに取り付けた状態を示す要部断面図である。
【図13】本発明のさらに他の実施形態(実施例6)による吸盤装置のリング状吸着部材を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下本発明の実施形態による吸盤装置について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0033】
図1は本発明による吸盤装置の基本的形態に係る実施例を示し、略逆皿状に形成される吸盤本体1と、この吸盤本体1の下面周縁部に略同心状に取り付けられる略リング状の吸着部材2とから構成されている。この実施例では吸盤本体1の下面周縁端を下方に突出させてフランジ3を形成し、このフランジ3内にリング状吸着部材2が嵌め込まれた状態で取り付けられている。リング状吸着部材2は接着剤を介して吸盤本体1の下面周縁部に隙間なく密着した状態で全面的に接着されている。
【0034】
また、吸盤本体1はその上面中央から上方に円筒状に突出する取付部4を有しており、この吸盤装置を用いて取り付けようとする機器(たとえばポータブル型ナビゲーション装置)を該取付部4に取付可能にしている。このため、取付部4の外周および/または内周には取付用のネジが切られている(図示せず)。
【0035】
吸盤本体1を構成する材料には、上から荷重を与えたときに本来の逆皿形状が略平板状に変形する程度の弾性を有しながらも過度に柔らかすぎずに一定の保形性・剛性および強度を備えることが要求され、この観点から、JIS−K6253によるゴム硬度がA60〜A80程度、特にA70前後のエラストマーが最適であり、常温域で使用する場合はエチレンプロピレンゴム(EPDM),スチレンブタジエンゴム(SBR)などの熱可塑性エラストマー(ゴム素材)や塩化ビニール樹脂(PVC)で形成することができる。また、車載用などで高温での使用が想定される場合は、耐熱性のエラストマー、たとえばシリコーンゴム(Q),クロロプレンゴム(CR),エチレンプロピレンゴム(EPDM),ニトリルゴム(NBR)などを選択することが好ましい。
【0036】
一方、リング状吸着部材2は凹凸面に対しても追従的に変形して密着することが要求されるため、吸盤本体1を構成する材料より軟質な材料で構成される必要があり、また、取付面に密着したときに吸盤内外の空気流通を阻止するために気密性を備える必要がある。これらの要求性能を満たす材料として、JIS−K6253によるゴム硬度がA5〜A15であるシリコーンゴム(Q),エチレンプロピレンゴム(EPDM),クロロプレンゴム(CR),天然ゴム(NR)などを選択してリング状吸着部材2を形成することができる。車載用などで高温での使用が想定される場合は、熱硬化性エラストマーの中でも特に高温領域で変形しにくい材料を用いることが好ましく、シリコーンゴム(Q),クロロプレンゴム(CR),エチレンプロピレンゴム(EPDM),ニトリルゴム(NBR)などが最適な材料である。これらの材料をリング状に形成するには、金型を用いた射出成形(インジェクション成形)によっても良いが、平板状の成形体を切削加工やトムソンカッターなどを用いてリング状に打ち抜き加工すれば低コストで製造可能である。
【0037】
吸盤本体1にリング状吸着部材2を接着するための手法は特に限定的ではなく、両者の材料に応じて接着性の良好な接着剤を選択して使用することができる。また、金型射出成形においてダブルインジェクションなどの手法を用いて吸盤本体1の成形と同時にリング状吸着部材2を一体成形することもできる。さらに、吸盤本体1を架橋する過程でリング状吸着部材を同時に接合する手法を採用しても良い。
【0038】
この吸盤装置の用法および作用について図2を参照して説明する。図2(a)はこの吸盤装置を取付面5に載置した状態であり、この状態ではリング状吸着部材2が取付面5に密着しておらず吸盤内部6と外部との間の空気流通が遮断されていないので、吸盤内外の空気圧差は生じていない。なお、この吸盤装置が常態にあるとき、リング状吸着部材2は吸盤本体1の傾斜に応じて傾斜しているので外周側のみで取付面5に接地していて内周側では接地していない。
【0039】
この状態から吸盤装置を矢印で示すように手で押し付けると、吸盤本体1が略平板状に弾性変形すると共に、リング状吸着部材2が圧縮変形して取付面5に密着して、図2(b)の状態となる。図2(a)から図2(b)に移行する過程で、吸盤内部6の空気がリング状吸着部材2と取付面5との間の隙間から外部に排出される。図2(b)の状態において手を離して荷重を開放すると、吸盤本体1は元の略逆皿状に形状復帰しようとして吸盤内部6の負圧がさらに高まり、強力な吸着力を発揮する。図示のように取付面5が凹凸面であっても、軟質材料で形成されたリング状吸着部材2は取付面5の凹凸に追従して密着し、吸盤内部6の負圧を維持するので、吸着力を持続的に発揮することができる。なお、図2(b)の状態においてリング状吸着部材2は押し付けられた際の荷重に応じて圧縮変形して厚さが減少するが、このときにも吸盤本体1のフランジ3の下方突出分と同等またはそれより若干大きな厚さを維持している。
【0040】
図2(b)の吸着状態にある吸盤装置1を取付面5から取り外すときは、吸盤本体1のフランジ3を捲り上げるようにして外気を吸盤内部6に導入させれば、内外の空気圧差が解消されて吸着力が失われ、吸盤装置1を取り外すことができる。この場合、不用意にフランジ3を捲り上げて吸盤の吸着力が失われてしまうことを防止するために、吸盤全体を覆うカバーを取り付けると安全である(後述実施例4のカバー10を参照のこと)。
【実施例2】
【0041】
図3は実施例1の変形例による吸盤装置を示し、吸盤本体1の頂部を貫通する排気口7が設けられると共にこの排気口7の上に逆止弁8が設けられている点で実施例1と相違する他は、実施例1と同様の構成を有する。したがって、実施例1の吸盤装置と同一の部材は同一の符号で図示されており、これらの構成、形状、材質なども実施例1と共通するので説明を割愛する。
【0042】
この実施例は、吸盤装置としての基本的な吸着原理ないし作用は実施例1と同様であるが、吸盤装置を取付面5に押し付けたときの吸盤内部6からの排気、言い換えれば吸盤内部6における負圧形成をよりスムーズに行うことができる排気弁構造を有している。実施例1では、前述したように、吸盤装置を押し付けることにより吸盤内部6の空気がリング状吸着部材2と取付面5との間の隙間から外部に排出され、その後の吸盤本体1の弾性復元力によって吸盤内部6に負圧が形成されることで吸着力を発揮するが、吸盤装置を押し付けていくとある時点でリング状吸着部材2が取付面5に密着するので、その後さらに圧力を加えても吸盤内部6からの排気がスムーズに行われなくなる場合がある。しかしながら、この実施例によれば、吸盤本体1の頂部を貫通する排気口7が設けられているので、この排気口7を通じて排気がスムーズに行われる。
【0043】
すなわち、取付面5に載置した吸盤装置を矢印で示すように手で押し付けると、吸盤本体1が略平板状に弾性変形すると共にリング状吸着部材2が圧縮変形して吸盤内部6の空間容積が徐々に小さくなり、吸盤本体1の排気口7を介して吸盤内部6の空気が外部に排出されていく。このとき、図4(a)に示すように逆止弁8は開いた状態となって排気を妨げない。このようにしてスムーズに排気が行われていくことによりリング状吸着部材2が取付面5に密着し(図4(b))、且つ、その後に圧力を開放することで吸盤本体1の弾性形状復帰力を介して吸盤内部6の負圧を高め、取付面5が凹凸を有する場合であっても、強力な吸着力を発揮する。そして、このようにして吸盤内部6に負圧が形成された後は、逆止弁8は外部から吸盤内部への空気流入を許容しないので、この負圧が維持され、吸着作用を持続することができる。
【0044】
この実施例において、図4(b)の吸着状態から吸盤装置1を取り外すときは、実施例1について説明したように指で吸盤本体1のフランジ3を捲り上げるようにする他、逆止弁8を指で持ち上げることによっても、内外の空気圧差を解消して吸着力を失わせることができる。
【0045】
逆止弁8としては、リング状吸着部材2の構成材料と同様に、JIS−K6253によるゴム硬度がA5〜A10であるシリコーンゴム(Q),クロロプレンゴム(CR),スチレンブタジエンゴム(SBR),ニトリルゴム(NBR)熱可塑性ゴム(TPR)ないし熱可塑性エラストマーを好適に使用することができる。このような軟質ゴム素材は、図4(b)の吸着状態において吸盤内部6に形成された負圧によって部分的に排気口7に入り込んだ(めり込んだ)状態となって排気口7を確実に密栓するので、吸盤内部6の負圧を効果的に維持する作用を果たす。また、特にシリコーンゴムは軟性が増すほどオイル分が表面に染み出す傾向があるが、このオイル分が弁の密閉部分における空気の遮断を助ける働きをするので、逆止弁8の素材として好適である。
【0046】
なお、この実施例においては排気口7が吸盤本体1の頂部に形成されているが、上述の排気および密栓の作用を効果的に実現できるものであれば排気口7の形成箇所は限定的ではなく、その個数も必要に応じて複数設けることができる。また、上述のような軟質素材による逆止弁8に代えて、排気口7を密栓可能な栓部材その他の任意部材を用いても良い。
【実施例3】
【0047】
図5は実施例1の変形例による吸盤装置を示し、実施例1ではリング状吸着部材2の上面を全面的に吸盤本体1の下面周縁部に接合させていることに代えて、リング状吸着部材2の上面の外周縁を部分的ないし断続的に吸盤本体1の下面周縁部に接合させ、非接合部を介して吸盤内部6の空気を外部に排出できるようにした点において相違している。図5において、リング状吸着部材2の上面と吸盤本体1の下面との接合部には斜線を付けて符号2aで示し、非接合部を符号2bで示している。また、吸盤内部6からの排気をスムーズに行うため、この実施例では吸盤本体1の下面周縁フランジ3は設けられていない。これら相違点を除いて、この実施例は実施例1と同様の構成を有するので、実施例1の吸盤装置と同一の部材は同一の符号で図示されており、これらの構成、形状、材質なども実施例1と共通するので説明を割愛する。
【0048】
この実施例は、吸盤装置としての基本的な吸着原理ないし作用は実施例1と同様であるが、吸盤装置を取付面5に押し付けたときの吸盤内部6からの排気、言い換えれば吸盤内部6における負圧形成をよりスムーズに行うことができる構造を有している。すなわち、実施例2と同様に、排気弁構造による付加的な機能ないし利点を有するものであって、この吸盤装置を取付面5に載置して手で押し付けると、吸盤本体1およびリング状吸着部材2の変形に伴って吸盤内部6の空間容積が徐々に小さくなり、吸盤本体1とリング状吸着部材2との間の非接合部2bを通って吸盤内部6の空気がスムーズに外部に排出される。したがって、取付面5が凹凸を有する場合であっても、強力な吸着力を発揮する。このようにして図6に示すような吸着状態が得られると、リング状吸着部材2は圧縮された状態となって吸盤本体1の下面に全面的に密着するので、非接合部2bは空気通路として働くことができなくなり、吸盤内部6に形成された負圧が維持され、吸着作用を持続的に発揮する。上述したように、リング状吸着部材2がJIS−K6253によるゴム硬度A5〜10のシリコーンゴムからなる場合は表面がオイリーな状態であるので、空気排出後に吸盤本体1との密着状態を高めて空気通路を完全に遮断してくれるので、特に好適な実施形態となる。
【実施例4】
【0049】
図7および図8は排気弁構造を有する実施例2の変形例による吸盤装置を示し、特に大きな相違点はバネ板9とカバー10とを備えていることである。また、吸盤本体1の形状も若干相違しており、この実施例では、上からの荷重を受けたときに弾性変形しやすいように比較的薄く扁平に形成された主部1aと、厚肉化された外周部1bとを有し、外周部1bの下面(フランジ3の内側)に環設された凹溝1cにリング状吸着部材2を嵌合・接着した構成となっている。軟質材料で形成されるリング状吸着部材2は厚さ方向に収縮しやすいだけでなく横方向に拡がるようにも変形しやすいものであるが、凹溝1cに嵌合することによって横方向の変形を規制して、圧縮時の変形をもっぱら厚さ方向に集中させることができる。また、特に車載用途の場合に自動車走行に伴う横揺れ時の変形を抑制して横方向の強度を確保するので、PNDなどの車載機器の設置状態を安定させることができる。
【0050】
カバー10は吸盤本体1およびリング状吸着部材2を全体的に包囲するに十分な大きさを有する略逆椀状部材であり、ABS樹脂やポリプロピレン樹脂(PP)などの比較的強度を有するプラスチック材料から形成される。カバー10は、圧縮された状態で取付面5に密着しているリング状吸着部材2を包囲・保護し、不慮の外力が加わることによって吸着力が失われることを防止する役割を果たす。カバー10は頂部から下方に突出する取付筒部10aを備え、その内側に形成された雌ネジ(符号なし)を、吸盤本体1に埋設固定されて上方に突出する取付筒部11の外周ネジ11aに螺合することにより着脱可能に取り付けられる。カバー10の頂部は開口されており、この開口10bに挿入した吸盤取付軸19の下端外周ネジ(符号なし)を取付筒部11の内周ネジ11bに螺合することによって、この吸盤装置によって所定の取付面5に取り付けようとするPND等車載機器その他の部材(図示せず)が吸盤装置に着脱可能に取り付けられるものである。当然のことであるが、吸盤取付軸19は車載機器等の下端に設けられている。また、このようにして車載機器等を取り付けた状態においても、吸盤装置を取付面5に押し付けたときに開閉弁8bが仮想線で示すように開いて吸盤内部の空気を排気口7から吸盤装置の外部に逃がすための排気通路が確保されている。
【0051】
バネ板9は、図8に明らかなように、ステンレススチールなどのバネ素材から全体が略逆皿状ないし略逆椀状に形成される一般的に皿バネと呼ばれるものであって、取付筒部11を挿通させる中心穴9aを有し、また、外周縁から中心に向けて放射状のスリット9bがなど間隔に複数形成されて略傘状を有している。バネ板9は、その外周縁を吸盤本体1の外周部1b上に載置した状態でカバー10との間にフリーな状態で配置され、その材質およびスリット9b形成によって圧縮変形したときに元の形状に復帰しようとしてバネ力を与える。
【0052】
この実施例は、実施例2と実質的に同様の作用を発揮する。すなわち、この吸盤装置を取付面5に載置して手で押し付けると、吸盤本体1が略平板状または逆向きの反り状態(図7に仮想線で示す)に弾性変形すると共にバネ板9も圧縮されるのでリング状吸着部材2も押し付けられて圧縮変形して取付面5に密着する。この状態で押し続けると吸盤内部6の空間容積が徐々に小さくなって、吸盤本体1の排気口7を介して吸盤内部6の空気が外部に排出されていく。このとき逆止弁8は開いた状態となって排気を妨げない。このようにしてスムーズに排気が行われていくことによりリング状吸着部材2が取付面5に密着し、且つ、その後に圧力を開放することで吸盤本体1の弾性形状復帰力を介して吸盤内部6の負圧を高め、取付面5が凹凸を有する場合であっても、強力な吸着力を発揮する。そして、このようにして吸盤内部6に負圧が形成された後は、逆止弁8は外部から吸盤内部への空気流入を許容しないので、この負圧が維持され、吸着作用を持続することができる。この実施例では、吸盤本体1とカバー10との間に配置されたバネ板9が、これらの間隔が狭まることによって圧縮された状態となり、吸盤本体1の中央部分1aを吸盤周縁部1bを支点として持ち上げようとする方向のバネ力を与えるので、吸盤内部6に形成された負圧をさらに高め、吸着力をより一層増大させると共に、長期間の使用で吸盤本体1の圧縮応力歪による反発力の減少(へたり現象)が生じたときにも吸着力の低下を防止する。
【0053】
なお、この実施例における逆止弁8は、軟質のシリコーンゴムを2枚重ね合わせて使用して弁としての作用を妨げることなく気密性をより高めるようにしている。すなわち、軟質シリコーンゴム板から吸盤本体1の排気口7と略同径の穴(符号なし)を有するように形成された取付補助リング8aを、該穴が排気口7と略整列するようにして吸盤本体1上に接着剤などにより強固に固定し、その上に、取付補助リング8aと略同一外形状を有する軟質シリコーンゴム板からなる開閉弁8bを重ね合わせた2枚弁構造を有する。このような2枚弁構造とすることにより、1枚の弁8(たとえばシリコーンゴム製)を異質材料(たとえば熱可塑性エラストマー)からなる吸盤本体1に密着させる場合に比べて、素材の親和性が格段に向上するので、開閉弁8bが取付補助リング8aに密着して排気路7を気密に閉止することができ、且つ、その状態が安定して維持されるので、吸盤内部6に形成される負圧を長期間に亘って持続することができる。このような2枚弁構造であっても、吸盤装置を取付面5に押し付けたときには開閉弁8bが図7に仮想線で示すように開いて排気口7を介して吸盤内部6の空気を排気する作用を妨げることはない。開閉弁8bを取付補助リング8a上に設けるに際しては、開閉弁8bの外周の一部を取付補助リング8aの上に接着剤などで固定することにより、開閉弁8bが取付補助リング8aから外れることを防止しつつ、それが開いたときに最大限の開口を与えて排気を効率的に行うようにすることが好ましい。なお、実施例2においても既述したように、上述の排気および密栓の作用を効果的に実現できるものであれば排気口7の形成箇所は限定的ではなく、その個数も必要に応じて複数設けることができる。
【実施例5】
【0054】
図9〜図11に示される実施例は、ポータブル型ナビゲーション装置(PND)を自動車のダッシュボードに取り付けるためのカーナビホルダー12として構成されており、ポータブル型ナビゲーション装置を取り付けるためのカーナビ取付部20と、取付面である自動車のダッシュボードに取り付けられる台座部30と、カーナビ取付部20を台座部30に連結する連結部40とを備えている。
【0055】
カーナビ取付部20は、このカーナビホルダー12により車載しようとするPND(図示せず)を着脱自在に取り付けるものであり、該PNDの底面を支持する載置面21およびPNDの背面を支持するバックアップ面22を有する。載置面21および/またはバックアップ面22は、PNDの取付に適した形状および寸法を有しており、且つ、その着脱を可能にするための機構(図示せず)を備えている。着脱機構としては、ネジ止めのほか、スライド部材などにより簡便な着脱を可能にした機構など任意の機構を採用することができる。
【0056】
連結部40は、球状の回転ジョイント41を下端に有するジョイントアーム42と、このジョイントアーム42の上端に固着される固定板43と、ジョイントアーム42を台座部3に対して固定するためのナット44を有する。固定板43は、ビスなどの固定具や溶着など任意の手法によりカーナビ取付部20の背面に固着される。ナット44は、後述する取付部36の外周ネジ36aに螺合して、これを締め付けることにより取付部36に収容される回転ジョイント41を不動に保持可能であり、また、これを緩めることにより回転ジョイント41は前後左右に回動・揺動自在となる。
【0057】
台座部30は、吸盤本体31と、リング状吸着部材32と、傘状に形成されたバネ板33と、略円板状の内側取付板34と、カバー35と、略円筒状の取付部36と、取付軸37と、逆止弁38と、取付ネジ39を有する。吸盤本体31およびリング状吸着部材32は実質的に実施例1における吸盤本体1およびリング状吸着部材2に相当するものであり、バネ板33およびカバー35は実質的に実施例4におけるバネ板9およびカバー10に相当する。また、逆止弁38は、実質的に実施例4における逆止弁8に相当するものであり、取付補助リング38aと開閉弁38bの2枚弁構造を有する。
【0058】
吸盤本体31の主部31aは比較的扁平に形成されて上からの荷重を受けたときに弾性変形しやすい形状とされているが、外周部31bは厚肉化されていてその下面には凹溝31cが環設され、この凹溝31cにリング状吸着部材32が嵌合されている。軟質材料で形成されるリング状吸着部材32は厚さ方向に収縮しやすいだけでなく横方向に拡がるようにも変形しやすいものであるが、凹溝31cに嵌合することによって横方向の変形を規制して、圧縮時の変形をもっぱら厚さ方向に集中させることができる。また、特にこの実施例のように車載用途の場合に自動車走行に伴う横揺れ時の変形を抑制して横方向の強度を確保するので、PNDなどの車載機器の設置状態を安定させることができる。
【0059】
また、吸盤本体主部31aの中心には排気口31dが開口しており、この排気口31dを取り巻くようにして略円筒状の取付軸37の台座部が埋設固定されている。取付軸37は吸盤本体主部31aから上方に突出してバネ板33および内側取付板34の中心穴を挿通し、その上方に突出している。そして、取付軸37の内部において、吸盤本体31の排気口31dに略整列するようにして軟質シリコーンゴム板からなる取付補助リング38aが接着固定されると共に、その上に外周の一部のみを接着固定された状態で軟質シリコーンゴム板からなる開閉弁38bが設けられる。実施例4において詳述したように、開閉弁38bは取付補助リング38aと同一素材から形成されているので、開閉弁38bが取付補助リング38aに密着して排気口31dを気密に閉止することができ、且つ、その状態が安定して維持される。したがって、吸盤内部6(図12)に形成される負圧を長期間に亘って持続することができる。
【0060】
バネ板33は、実施例4の吸盤装置で用いたバネ板9と略同様であり、ステンレススチールなどのバネ素材から全体が略逆皿状ないし略逆椀状に形成され、取付軸37を挿通させる中心穴(バネ板9の中心穴9a)を有し、また、外周縁から中心に向けて放射状のスリット(バネ板9のスリット9b)がなど間隔に複数形成されて略傘状を有している。バネ板33は、その外周縁を吸盤本体31の外周部31b上に載置した状態で内側取付板34との間にフリーな状態で配置され、その材質およびスリット形成によって圧縮変形したときに元の形状に復帰しようとしてバネ力を与える。
【0061】
内側取付板34は、その中心穴34aに取付軸37の上端を挿通させた状態で、任意数の取付ネジ39でカバー35に着脱可能に取り付けられる。取付軸37の上端に雄ネジを形成して、この雄ネジにナットを螺着することにより、内側取付板34を吸盤本体31に組み付けても良い。いずれにしても、台座部30が組み付けられたときに、内側取付板34と吸盤本体31との間にバネ板33が介在させる。
【0062】
カバー35は実質的に上面が閉塞された略逆椀状に形成されるが、上面の一部に上述した取付部36が略円筒形状を有するものとして形成されている。取付部36の内面および底面は前述の球状回転ジョイント41の曲率に対応した球面形状を有しており、該回転ジョイント41を回転・揺動自在に収容する。カバー35の下方周縁は外方に水平に延長してフランジ35aを形成し、不用意に吸盤本体31に触れて外縁部分が捲り上がって空気が入り込むことによる吸着力の消失を防止しているが、その少なくとも一箇所において部分的に切り欠かれており、このカーナビホルダー12がダッシュボードに吸着されている状態から取り外す際に該切欠部35bから手指を入れやすくして取り外し操作を容易にしている(図11)。また、カバー35の中央部下面には、前述の取付ネジ39の位置および個数に対応してナット部35cが下方に突出形成されていて、内側取付板34のネジ挿通穴(符号なし)を挿通して上方に突出している取付ネジ39を螺着することにより内側取付板34に対して着脱可能に取り付けられる。
【0063】
なお、カバー35と内側取付板34はいずれも硬質プラスチックなどを材料として所定形状に形成することができ、この実施例ではこれらを別部材として取付ネジ39で組み付けるものとしているが、これらを一体成形しても良い。また、取付部36もカバー35と一体成形されたものであっても良い。
【0064】
以上のように構成されたカーナビホルダー12を取付面5(自動車のダッシュボード)に取り付けた状態が図12に示されている。カーナビホルダー12を取付面5に置いて手で押し付けると、吸盤本体31の主部31aが凹んだ状態に弾性変形すると共に、リング状吸着部材2が圧縮変形して取付面5に密着して、図12の状態となる。この過程で、吸盤内部6の空気は、取付補助リング38aの中心穴および開いた弁38bによる隙間を通って外部にスムーズに排出される。図12の状態において手を離して荷重を開放すると、吸盤本体31はその材料が持つ弾性反発力によって元の略逆皿状に形状復帰しようとするので、吸盤内部6の負圧がさらに高まり、強力な吸着力を発揮する。自動車のダッシュボードは一般的にポリプロピレンなどのプラスチックや合成皮革などの空気を通さない素材から形成されるその表面には光の反射を防ぐ目的でシボと呼ばれる微小凹凸を有することが多いが、このような凹凸面であっても、軟質材料で形成されたリング状吸着部材32が取付面5の凹凸に追従して密着し、吸盤内部6の負圧を維持するので、吸着力を持続的に発揮することができる。この吸着作用は実施例1について既述したと同様である。加えて、この実施例では、吸盤本体31と水平取付板34との間に配置されたバネ板33が、これらの間隔が狭まることによって圧縮された状態となり、吸盤本体31およびリング状吸着部材32を持ち上げようとする方向のバネ力を与えるので、吸盤内部6に形成された負圧をさらに高め、強力な吸着力を長期間維持することができる。さらに加えて、この実施例では逆止弁について実施例4について既述したと同様の2枚弁構造を採用しているので、吸盤内部6に形成された負圧を長期間持続する効果がより顕著に発揮される。
【0065】
図12の吸着状態にあるカーナビホルダー12を取付面5から取り外すときは、圧縮状態にあるリング状吸着部材32の外周縁を指先やドライバーの先端などで捲り上げるようにして外気を吸盤内部6に導入させれば、内外の空気圧差が解消されて吸着力が失われ、カーナビホルダー12を取り外すことができる。カバー35のフランジ35aの少なくとも一部に形成されている切欠部35bは、カバー35のダッシュボードにわずかな隙間で取り付けた場合であっても、当該カーナビホルダー12の取り外し操作を容易にしている。
【0066】
このカーナビホルダー12の設置には鏡面状のベースプレートを必要としないので、取り外したときにベースプレートが取付面5(ダッシュボード)に残ることによる外観上の見苦しさを与えることはない。また、ベースプレートが不要になり剥がしたときにダッシュボードにダメージを与える可能性も排除できる。さらにまた、ビスなどの固定具も必要としないので、ダッシュボードにビス跡を残すこともない。カーナビホルダー12を取り外した状態では、それまで設置されていたカーナビホルダー12の痕跡は何一つ残らない。
【0067】
なお、この実施例のように本発明の吸盤装置をポータブル型ナビゲーション装置のような車載機器を自動車のダッシュボードに着脱可能に設置するための装置として用いる場合は、特に夏期に日射を受けたときに車内が50〜60℃あるいはそれ以上の高温になることがあるので、このような高温状態であっても熱軟化することのない材料、すなわち耐熱性エラストマーで吸盤本体31を形成することが好ましい。また、リング状吸着部材32についても、熱硬化性エラストマーの中でも特に高温領域で変形変質しにくい材料を用いることが好ましく、シリコーンゴム(Q),クロロプレンゴム(CR),エチレンプロピレンゴム(EPDM),ニトリルゴム(NBR)などが最適な材料である。
【実施例6】
【0068】
既述の各実施例において、リング状吸着部材2,32は単一の軟質ゴム素材で形成されているように示されているが、必ずしも単一素材ないし単一部材から形成されるものである必要はなく、複数のゴム素材を層状に積層させた構成を有するものであっても良い。図13はこのようなリング状吸着部材の一例を示し、超軟質(ゴム硬度A5程度)の厚さ5mm程度のシリコーンゴムによる主部2aの底面に、厚さ2mm程度のクロロプレンゴムによるバリアー層2bを積層させた構成を有する。このような超軟質の5mm厚シリコーンゴムは取付面5の凹凸を吸収するのに理想的な柔らかさと厚さを有するが、圧縮された状態で取付面5に長期間吸着されたり高温下などでは組成分がブリードアウトして取付面5に転移し汚してしまう可能性も考えられるので、その底面に厚さ2mm程度のクロロプレンゴム(独立したエアーバブルの気密状態のエアーセルを持ちスポンジ状に形成された柔らかいもの)を接着剤などで貼り付けてバリアー層2bとすることにより、シリコーンゴムからのブリーディングを防止する。バリアー層2bを構成するクロロプレンゴムも取付面5の凹凸を吸収するに十分な柔らかさを有するので、2層の素材になっても柔らかさを維持して凹凸面に対しても良く追従し、密着状態を作ることができるので、吸着作用を妨げることはない。複数層は多層一体成形として接合しても良い。また、別の実施例として超軟質(ゴム硬度A5程度)の厚さ5mm程度のシリコーンゴムのリング状吸着部分22の底面に、厚さ10〜20ミクロン程度の硬度A50程度の極力オイルの染み出しの少ないシリコーンゴムによるバリアー層2bを架橋の過程で積層させた状態に成形することで、凹凸面の追従を確保しながらリング状吸着部材22の組成分の取付面5への移行をすくなくすることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、自動車のダッシュボードやコンクリート、タイル、磨りガラスなどの凹凸を有する取付面に対しても強力な吸着力を発揮し且つ維持することができるので、各種の用途に利用することができ、産業上の利用可能性が大きいものである。たとえば、自動車のダッシュボードにポータブル型ナビゲーション装置や携帯電話機その他の携帯機器を取り外し可能に設置するための車載機器取付装置の部品として好適に利用することができる。さらには、自動車のパーツを組み立てるために使用される産業ロボット用の吸着盤としての用途にも応用可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 吸盤本体
1a 主部
1b 外周部
1c 凹溝
2 リング状吸着部材
2a 主部(シリコーンゴム)
2b バリアー層(クロロプレンゴム)
3 フランジ
4 取付部
5 取付面
6 吸盤内部
7 排気口
8 逆止弁
8a 取付補助リング
8b 開閉弁
9 バネ板
9a 中心穴
9b スリット
10 カバー
10a 取付筒部
11 取付筒部
11a 外周ネジ
12 カーナビホルダー
19 吸盤取付軸
20 カーナビ取付部(機器取付部)
21 カーナビ載置面
22 バックアップ面
30 台座部
31 吸盤本体
31a 主部
31b 外周部
31c 凹溝
32 リング状吸着部材
33 バネ板(バネ部材)
34 内側取付板
34a 中心穴
35 カバー
35a フランジ
35b 切欠部
35c ナット部
36 取付部
37 取付軸
37a 台座部
37b 雄ネジ部
38 逆止弁
38a 取付補助リング
38b 開閉弁
39 取付ネジ
40 連結部
41 回転ジョイント
42 ジョイントアーム
43 取付板
44 ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の弾性材料から形成される吸盤本体と、第一の弾性材料より軟質である第二の弾性材料から略リング状に形成されて吸盤本体の下面周縁部に略同心状に取り付けられるリング状吸着部材とからなることを特徴とする吸盤装置。
【請求項2】
前記吸盤本体を取付面に押し付けて弾性変形させると共に前記リング状吸着部材を圧縮させて取付面に密着させるときに吸盤内部の空気を外部に排出させて吸盤内部に負圧を形成するための排気口が前記吸盤本体に形成されると共に、該排気口には内部から外部への排気のみを許容して外部から内部への吸気を阻止する弁手段が設けられることを特徴とする請求項1に記載の吸盤装置。
【請求項3】
前記弁手段が、前記吸盤本体の上に前記排気口に連通する排気通路を与えるようにして固定される取付補助リングと、該取付補助リング上に密着して前記排気通路を気密に閉止可能に設けられる開閉弁とを有して構成されることを特徴とする請求項2に記載の吸盤装置。
【請求項4】
前記リング状吸着部材は前記吸盤本体の下面周縁部に部分的に接合され、その非接合部が、吸盤本体を取付面に押し付けて弾性変形させると共にリング状吸着部材を圧縮させて取付面に密着させるときに吸盤内部の空気を外部に排出させて吸盤内部に負圧を形成するための排気路として働くことを特徴とする請求項1に記載の吸盤装置。
【請求項5】
前記吸盤本体の下面周縁部に環設された凹溝に前記リング状吸着部材が嵌着されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一に記載の吸盤装置。
【請求項6】
前記吸盤本体および前記リング状吸着部材を実質的に包囲するカバーが設けられることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一に記載の吸盤装置。
【請求項7】
前記カバーの周縁部の少なくとも一部に切欠部が設けられることを特徴とする請求項6に記載の吸盤装置。
【請求項8】
前記カバーと前記吸盤本体との間にバネ部材が配置され、この吸盤装置を取付面に押し付けて変形させることによりカバーと吸盤本体の間隔が狭まったときに該バネ部材が圧縮された状態となって吸盤本体の外縁部を押さえつけながら吸盤本体の中央部分を持ち上げようとする方向のバネ力を与えることを特徴とする請求項6または7のいずれか一に記載の吸盤装置。
【請求項9】
前記リング状吸着部材を構成する第二の弾性材料はJIS−K6253によるA5〜A15のゴム硬度を有するエラストマーであることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか一に記載の吸盤装置。
【請求項10】
前記リング状吸着部材を構成する第二の弾性材料が複数の異なるゴム素材を重ね合わせて層状に接合してなることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか一に記載の吸盤装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−276182(P2010−276182A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132079(P2009−132079)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【出願人】(503059275)株式会社ビブロ (2)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】