説明

吸着カッター

【課題】使用者が簡単に包装フィルムなどを開封することができる、安全で簡易な吸着カッターを提供する。
【解決手段】吸盤14と、その吸盤を支持して昇降させる支持棒13と、前記吸盤14に隣接し、吸着されて持ち上げられた皮膜20に切れ目を形成する切刃16と、皮膜を持ち上げるとき、隣接する部位を押える押さえ部材12とを備えている吸着カッター10。切刃16は押さえ部材12に設けられ、支持棒13は摘み片を兼ねるケース11に固定されると共に、ケース11と押さえ部材12の間に、押さえ部材12を押下げる向きに付勢するスプリング15を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸着カッターに関する。さらに詳しくは、商品の外周に密着している包装フィルムなどを、商品などの中身を傷付けないように、容易に、さらに安全に開封しうる吸着カッターに関する。
【背景技術】
【0002】
CDやゲームソフトなどのデータ媒体は、合成樹脂製のケースに収容した上で、フィルムで密着状態でラッピングして販売している。このフィルムは、購入者に対して第三者が商品に触れていないことを保証するためのものであるが、ケースに密着しているので開封が困難である。また、カッターナイフで切れ目を付けようとすると、フィルムの下側のケースを傷つけてしまう。さらにカッターナイフの先が滑って指を切ったりすることもある。また、弁当や総菜などの食品でも、発泡スチロールなどのトレイに入れてフィルムでラッピングして販売しており、これらも開封が困難である。
【0003】
包装箱を閉じている粘着テープを自動的に切断する装置としては、たとえば特許文献1に、ベルトコンベアで運ばれる段ボールケースをストッパで位置決めし、上下のカッターを伸縮させて粘着テープを切断し、ついでエアシリンダで伸縮するバキュームカップでフラップを開くものが開示されている。他方、特許文献2には、カップ麺のシュリンク包装を容易に開封できるように、シュリンクフィルムにあらかじめ小さな傷を付け、その傷の上に粘着テープ片を貼り付ける技術が開示されている。さらに特許文献2には、フィルムに傷をつけるとき、フィルムの上に筒状体の下端を押し付け、その筒状体の内部を減圧してフィルムを吸引し、U字状などの所定形状の刃先を備えたカッターでシュリンクフィルム一部を破ることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11ー91746号公報
【特許文献2】特開2004−10078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の段ボールケースの開封装置や特許文献2のシュリンクフィルムに傷を付ける装置は、それぞれ大量の商品を効率的に処理できるものであるが、消費者が商品の包装をあけるときに簡単に使えるものではない。本発明は、消費者が簡単に包装フィルムなどを開封することができる、安全で、しかも簡易な吸着カッターを提供することを技術課題としている。さらに本発明は、外科手術のときに内部組織を傷付けることなく、皮膚のみを切開することができる外科手術用の吸着カッター、さらに魚卵や内部の肉を傷付けずに表皮のみを切断できる食品加工用の吸着カッターを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決するため、本発明の吸着カッターは、吸着部材と、その吸着部材を昇降または傾動させる手段と、前記吸着部材によって吸着され、持ち上げられた皮膜に切れ目を形成する手段とを備えていることを特徴としている(請求項1)。「切れ目を形成する手段」には、切刃、針、ニクロム線、レーザーメスなどが含まれる。このような吸着カッターとしては、前記皮膜を持ち上げるとき、隣接する部位を押える押さえ部を備えているものが好ましい(請求項2)。その場合、前記切れ目を形成する手段が押さえ部に設けられているものが好ましい(請求項3)。
【0007】
さらに前記吸着部材が支持棒の先端に取り付けられており、前記吸着部材を昇降させる手段として、支持棒の基端に把持部が取り付けられている吸着カッターが好ましい(請求項4)。また、前記吸着部材が支持棒の下端に取り付けられており、前記吸着部材を昇降させる手段として、支持棒の上端に摘み部が設けられていると共に、摘み片と押さえ部材の間に、押さえ部材を下方に付勢するスプリングが介在されているものであってもよい(請求項5)。前記吸着部材は、負圧によって皮膜を吸着するものであってもよく(請求項6)、粘着剤によって皮膜を吸着するものであってもよい(請求項7)。負圧を発生させる手段としては、バキュームカップのほか、コンプレッサや真空ポンプなどがある。
【発明の効果】
【0008】
本発明の吸着カッターは、吸着部材を商品を包装するフィルムなどの皮膜に当接し、吸着させた後、その吸着部材を昇降または傾動させる手段により昇降または傾動させる。そのとき皮膜は商品などの包装物からいくらか離れるので、商品などを傷付けることなく切れ目を形成する手段で切れ目を入れることができる。ついで吸着カッターを外して切れ目に指などを入れて引き裂くことにより、容易にフィルムを大きく破断し、包装を開封することができる。さらに切れ目を形成する手段は吸着部材に隣接しているので、使用者は指をけがするおそれが少ない。
【0009】
前記皮膜を持ち上げるとき、隣接する部位を押える押さえ部を備えている吸着カッターでは、皮膜を押えながら持ち上げるので、皮膜に張りを与えることができ、切れ目を入れやすい。前記切れ目を形成する手段が前記押さえ部に設けられている場合は、皮膜を持ち上げる操作で皮膜が切れ目を形成する手段に触れて切れ目ができる。そのため、一層確実に切れ目を形成できる。
【0010】
前記吸着部材が支持棒の下端に取り付けられており、前記吸着部材を昇降させる手段として、支持棒の上端に摘み部が設けられている吸着カッターにおいては、摘み部を持って吸着部材を操作できるので、皮膜の昇降や傾動の操作が的確にできる。また、前記吸着部材が支持棒の下端に取り付けられており、前記吸着部材を昇降させる手段として、支持棒の上端に摘み部が設けられていると共に、摘み片と押さえ部材の間に、押さえ部材を下方に付勢するスプリングが介在されている場合は、摘み部を持って吸盤を商品などに向かって押し付けるとき、スプリングの付勢力によって押さえ部が皮膜を押さえつけるので、別の手で押え部材を押える必要が無く、操作が楽である。
【0011】
前記吸着部材が負圧によって皮膜を吸着するものである場合は、開封後に吸着部材から皮膜を外しやすい。前記吸着部材が、粘着剤によって皮膜を吸着するものである場合は、多孔質フィルムなどの空気を通す皮膜であっても、吸着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の吸着カッターの好ましい実施形態を、使用手順と共に示す断面図である。
【図2】本発明の吸着カッターの他の実施形態を示す一部切り欠き側面図である。
【図3】図3aは本発明の吸着カッターの他の実施形態を示す断面図、図3bは図3aの吸着カッターに用いられる切刃の底面図である。
【図4】本発明の吸着カッターのさらに他の実施形態を示す断面図である。
【図5】本発明の吸着カッターのさらに他の実施形態を示す一部切り欠き斜視図である。
【図6】図5のVI-VI線断面図である。
【図7】本発明の吸着カッターのさらに他の実施形態を、使用手順と共に示す概略断面図である。
【図8】本発明の吸着カッターのさらに他の実施形態を示す要部断面図である。
【図9】本発明の吸着カッターのさらに他の実施形態を、使用手順と共に示す概略側面図である。
【図10】本発明の吸着カッターのさらに他の実施形態を示す概略断面図である。
【図11】本発明の吸着カッターに用いる切刃の他の実施形態を示す斜視図である。
【図12】本発明の吸着カッターに用いる吸盤の他の実施形態を示す断面図である。
【図13】本発明の吸着カッターのさらに他の実施形態を示す組み付け前の要部斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに図面を参照しながら本発明の吸着カッターの実施の形態を説明する。図1の吸着カッター10は、有底筒状のケース11と、そのケース内に摺動自在に収容される押さえ部材12と、ケース11の天面中央に上端が固定され、前記押さえ部材12を貫通して下方に延びる支持棒13と、その支持棒の下端に取り付けられる吸盤14と、ケース11の天面と押さえ部材12の間に介在されるスプリング15と、押さえ部材12の内周に設けられる切刃16とからなる。この実施形態では切刃16が「切れ目を形成する手段」である。
【0014】
ケース11はたとえば合成樹脂製であり、円筒でも角筒でもよい。この実施形態ではケース11は摘み部を兼ねている。ケース11の内底面に支持棒13の上端を固定するボス17が突設されており、このボス17でスプリング15の上端を支持固定している。ケース11の下端には、押さえ部材12の突出端を規制する内向きの爪18が、たとえば一対で設けられている。爪18は、スリットによって他の部分から切り離された弾性舌片に設けられ、弾力的に拡がることができるようにされている。
【0015】
押さえ部材12は有底筒状であり、天面中央には内面で支持棒13をガイドし、外面でスプリング15の下端を支持するボス19を備えている。押さえ部材12の下端は皮膜20と当接する部位であり、商品21などの表面と当接できるように平坦にしている。また、押さえ部材12の下端近辺の外面には、ケース11の爪18と係合する段部22が形成されている。そして爪18と段部22とを係合させることにより、ケース11と押さえ部材12とを一体に組み立てることができる。組み立てた状態では、ケース11の下端から押さえ部材12の下部がいくらか突出する。
【0016】
押さえ部材12の下端近辺の内周には、切刃16が固定されている。切刃16は薄い環状の板などからなり、通常は金属製である。ただし硬い合成樹脂でも製造できる。切刃16のエッジ(先端)16aは押さえ部材12の下端より内側に引っ込んでいる。このように切刃16のエッジ16aが押さえ部材12の下端から引っ込んでいるので、使用者は指などをけがする危険性が低く、安全である。さらに皮膜20の下側の商品を傷付けない。板状の切刃のほか、針状ないし三角形状の鋭い突起を採用することもできる。本願における「切れ目を形成する手段」は、このような切刃や突起、さらに針や錐のような皮膜を直接破る手段のほか、ニクロム線などの熱発生手段、手術に使うレーザーメスなどを含む。
【0017】
吸盤14はゴムなどからカップ状に形成された、いわゆるバキュームカップである。すなわち、周縁のリップ部を皮膜20に当接させながら押さえつけて平坦に変形させ、ついで押える力を緩めると、リップ部の復元により内部が減圧されて皮膜20を吸着できる。吸盤14は、この実施形態では1個であり、支持棒13も1本である。ただし後述するように、2個以上の吸盤を採用することもできる。皮膜20が多孔質あるいは繊維質の場合は、空気漏れによって吸着が困難となる吸盤に代えて、粘着剤を塗布した粘着部材を吸着部材として採用することもできる。また、吸盤の下面に粘着剤を塗布したり、吸盤の材料自体をシリコーン系樹脂(シリコーンゴム)などの粘着性を有する材料で形成することも
できる。その場合は吸着力が強くなり、多少の空気漏れが発生しても、吸着できる利点がある。
【0018】
スプリング15は圧縮コイルスプリングであり、支持棒13の周囲に配置されて、ケース11と押さえ部材12の間に介在され、両者の間隔を広げるように付勢する。スプリング15は2本以上設けてもよい。また板バネなど、他の形態のバネを採用することがもできる。
【0019】
上記のように構成される吸着カッター10を使用して商品21の皮膜20を破るには、まず図1の第1工程(当接工程)S1のようにケース11の外側を摘み、皮膜20越しに商品21の表面に押さえ部材12を押し付ける。それにより第2工程(押し付け・吸着工程)S2のようにスプリング15を縮めながら吸盤14が下降して皮膜20に当接する。このとき吸盤14は弾性変形して皮膜20を吸着する。
【0020】
ついで吸着カッター10を商品21から離すと、スプリング15の付勢力で押さえ部材12を商品側に押し付けながらケース11および吸盤14が上昇する(切断工程)。そのため、押さえ部材12の環状の底面で皮膜20を押えながら、皮膜20の中央部を吸盤14で引き上げることができる。それにより、皮膜20と商品21の間に隙間23があき、その部位が切刃16のエッジ16aに当たり、皮膜20をほぼ円形に切り抜くことができる。なお、きれいに切れなくても、一部を円弧状に切り欠くことができれば、その部位に指などを入れて皮膜20を破ることができる。上記のようにこの吸着カッター10によれば、商品21の包装用フィルムなどの皮膜20を容易に、しかも安全に、また、商品を傷付けずに開封することができる。
【0021】
図1の吸着カッター10では、ケース11を有底筒状としてその内部に押さえ部材12やスプリング15を収容している。そのため、機構的なものが外部に現われず、使用者にとって親しみやすく扱い易い。しかし図2に示す吸着カッター25のように、ケースに代えて、支持棒13の上端に板状あるいは棒状の摘み片26を設けることもできる。その場合は支持棒13の下端に設ける吸盤14を支持棒にネジ止めなどして、押さえ部材12の抜け止めとして利用できる。支持棒13の下部に止め輪などからなるストッパを設けてもよい。止め輪としては、C型止め輪やE型止め輪などを使用しうる。
【0022】
さらにこの吸着カッター25では、押さえ部材12も円筒状でなく、3〜6本程度のL字状の脚27とボス19とからなる部品としている。また円板状の切刃に代えて、それぞれの脚27に切刃28を一体に形成している。このものは機構が外部に現われるので、その機構をデザインとして利用することもできる。
【0023】
図3aに示す吸着カッター30は、ケース11と押さえ部材12の間で生ずる往復運動を皮膜の吸引に利用するものである。このものは押さえ部材12の外周と内周にそれぞれOリングなどのシール材31、32を設け、押さえ部材12とケース11の間、ならびに押さえ部材12と支持棒13の間を気密にしている。そして支持棒13として中心に通路33を備えたパイプを採用し、通路33と吸盤14の内部、通路33とケース11内をそれぞれ連通させる。さらにケース11に内側から外側に向かってのみ空気を通す逆止弁34を設けている。
【0024】
また、この実施形態では、切刃16のエッジ16aをいくらか下向きに曲げて皮膜に当たりやすくしている。さらに図3bに示すように、切刃16として鋸歯状のエッジ16aを採用している。
【0025】
このように構成される吸着カッター30は、図1に示す吸着カッター10と同様に使用
することができるが、ケース11を離すとき、ケース内に生ずる負圧を吸盤14の吸引に利用できるため、吸着力が強くなり、しっかりと皮膜を引き上げることができる。また、皮膜が滑りやすいものであっても、鋸歯状のエッジ16aが皮膜に引っ掛かり易いため、一層確実に破断することができる。
【0026】
図4に示す吸着カッター35は、押さえ部材12の内部に切刃保持部材36を回転自在に、かつ、軸方向に移動しないように設けている。切刃保持部材36は有底筒状で、中央に支持棒13を貫通させるボス37を備えている。さらに支持棒16の外面に螺旋状の突条38を設け、切刃保持部材36のボス37の内面に、その突条38と螺合する螺旋状の凹溝39を設けている。螺旋のリード角はネジの場合よりも緩やかで、軸方向の力を回転方向のトルクに変換できる程度である。また、2〜3条の複数条とするのが好ましい。ただし1条でもよい。さらにこの吸着カッター35では、ケース11の天面と押さえ部材12の間にジャバラ40を設けると共に、支持棒16に通路33設けている。
【0027】
この吸着カッター35は、ケース11を押しつけるとき、およびケース11を押し付ける力を緩めて商品から離すとき、螺旋状の突条38と凹溝39の螺合によって、切刃保持部材36が回転する。そのため、吸着した皮膜を切刃28で回転しながら切断することになり、一層確実に切断することができる。また、ケース11と押さえ部材12とが離れるときに、ジャバラ40が伸ばされ、空気を吸引する。そのため、図3aのようなシリンダタイプに比してシール部を少なくしながら吸盤14による吸着力を向上させることができる。
【0028】
図5および図6に示す吸着カッター42は、ケース11および押さえ部材12がそれぞれ角筒状である。さらに角筒の平面形状を略長方形とし、支持棒13を2本、吸盤14を2個、それぞれ設けている。そして押さえ部材12の中央部に、2個の吸盤14の間を仕切るように切刃を支持する中間壁43を設けている。そしてこの実施形態では、切刃として、ニクロム線などのヒータ44を壁43の下面に沿って配置し、押さえ部材12の上面に電池Bを載置している。
【0029】
この吸着カッター42は、皮膜を切り裂くのではなく、ヒータ44の熱で焼き切ることができる。そのため、皮膜の種類によっては、一層容易に切断・穿孔し、開封することができる。ヒータ44に代えて板状の切刃を設けてもよく、ヒータ44と共に板状ないし錐状の切刃を設けることもできる。また、フック状の切刃(図7参照)を設ける場合は、フックの先端が皮膜を破った後は、そのまま皮膜を切り裂いていくこともできる。
【0030】
図7に示す吸着カッター45は押さえ部材12の上部に前後に延びる枠状のガイド溝46を設け、そのガイド溝によって切刃保持部材47の上部に設けたスライド部48を前後にスライド自在に設けている。押さえ部材12は、たとえば2枚の脚27を備えている。図7では手前の脚を省略し、向こう側の脚のみを示している。切刃保持部材47の下端には、切刃16が設けられている。切刃16としては、先端16bが鋭く、その先端に続いて凹湾しているエッジ16aを備えたフック状のものを採用している。
【0031】
切刃保持部材47のスライド部48には、前下がりに傾斜したカム溝49が設けられ、吸盤14を支持する支持棒13に、そのカム溝49と係合するピン(カムフォロワ)50が突設されている。支持棒13は押さえ部材12によって所定のストローク範囲で昇降自在に保持され、スプリング15によって押さえ部材12に対して上向きに付勢されている。支持棒13の上端には摘み片26が設けられている。なお、カム溝49とピン50によるカム機構2に代えて、傾斜面同士をスライド自在に当接させるカム機構など、支持棒13の上下動に伴って切刃保持部材47を前後に移動させる他の種類の機構を採用することもできる。さらに支持棒13の上下動に伴って切刃保持部材47揺動させる機構を採用す
ることもできる。
【0032】
図7の吸着カッター45は、通常の状態では支持棒13が上昇しており、ピン50がカム溝49内で上側と係合している。そして切刃保持部材47のスライド部48はガイド溝46内の前側に移動しており、切刃16は吸盤14より前方に出ている。吸着カッター45を使用するには、まず押さえ部材12を摘み、商品などの上に脚27を載置する(第1工程S1)。ついで摘み片26をスプリング15の付勢力に抗して下方に押し付ける。このとき、片手で押え部材12を押えながら、他方の手で摘み片26を押下げるようにすると、押さえ部材12が安定し、操作を安全に行うことができる。支持棒13を押下げると、吸盤14が下降するに伴い、ピン50とカム溝49の係合に基づき、スライド部48が後方に移動する(第2工程S2)。吸盤14は押さえ部材12の下端と同レベルまで、あるいは下端より下方まで下がり、皮膜を吸着する。
【0033】
ついで摘み片26を押す力を緩めると、スプリング15の付勢力で支持棒13が上昇し、吸盤14が皮膜20を商品などから引き離しながら上昇し、同時にピン50とカム溝49の係合に基づき、スライド部48が前方に移動する(第3工程S3)。それにより、引き上げられた皮膜20を切刃16の先端16bが穿孔し、続いてエッジ16aが穿孔した部位から皮膜20を切り裂いていく。使用者はそのまま押さえ部材12を商品の表面に沿って滑らせて、皮膜20に大きい切れ目を入れることもできる。なお、切刃16の先端16が、一端皮膜20の内部に入り込むと、その後は吸着がはずれてもよい。この点は前述のいずれの吸着カッターでも同様である。
【0034】
図8に示す吸着カッター52は、錐状の切刃53が吸盤14の中心部に配置されている点が特徴である。切刃53を保持する棒状の切刃保持部材36の周囲にパイプ状の支持棒13が摺動自在に、かつ、気密に設けられている。他の点は図5、図6の吸着カッター42と同様である。この吸着カッター52においては、切刃保持部材36の上端は押さえ部材12に取り付けられ、吸盤14を支持する支持棒13は摘み部を兼ねるケース(図示していない)に取り付けられる。この吸着カッター52では、通常の状態では切刃53のほとんどの部分が吸盤14の内部に隠れており、支持棒13を押下げたときに吸盤14が切刃53より下方に下がり、皮膜を吸着する。そして吸盤14が上昇するときに皮膜が切刃53によって切り裂かれる。
【0035】
図9に示す吸着カッター54は、それぞれ吸盤14を支持する支持棒13が上下に移動するのではなく、上端近辺を中心として左右が同期して回動することができる。このものは、自然な状態では第3工程S3と同様に中心に向かって傾斜している。そしてケースを下降させるなどの操作をすることにより、左右の吸盤14が真っ直ぐ下を向いて皮膜20を吸着し(第2工程S2)、ケースを商品から離すなどにより、左右の吸盤14が皮膜を中心に寄せるように回動する(第3工程S3)。そのため持ち上げられた皮膜20に切刃16が当たり、切り裂くことができる。
【0036】
他方、自然な状態では第2工程Sのように、左右の支持棒15が真っ直ぐ下を向くようにすることもできる。その場合は、操作によって吸盤14が内向きに傾斜して皮膜に切れ目を入れるようにする。このものは、操作完了後に再び真っ直ぐ下を向くことになる。
【0037】
前記実施形態では、いずれも吸盤による皮膜の吸着は、皮膜の下側にある商品などが皮膜が変形しないように支持することを前提としている。しかし下側の商品などが柔軟で、皮膜を支持するのが困難な場合は、たとえば図10に示す吸着カッター56ような、ポンプ57によってカップ状の押さえ部材12の内部の空気を吸引して負圧にするものを採用するのが好ましい。ポンプ57は、楕円体の形状を備えたゴム製のボールに、押さえ部材12からポンプ57内への空気の一方向の流れを許す逆止弁58と、ポンプ57内から外
部への空気の一方向の流れを許す逆止弁59とを設けた手動操作のポンプである。なお、モータ駆動の真空ポンプやコンプレッサ、あるいは高圧空気の噴流で負圧を得るベンチュリータイプの負圧発生器を用いることもできる。コンプレッサとしては、たとえば歯科医が用いる吸引作用を発揮するものなどがあげられる。
【0038】
この吸着カッター56では、とくに吸盤を用いず、押さえ部材12の内側の負圧で皮膜20を引き込み、切刃16で切断する。したがって皮膜20の下側の商品などに強く押し付ける必要がない。また、可動部分や摺動部分が少なく、構成が単純である。なお、想像線16aで示すように、切刃16を保持する切刃保持部材36を押さえ部材12の天面から上方に突出させ、押さえ部材12とは独立して昇降操作できるようにしてもよい。また、押さえ部材12の下端外周にゴム製のリップ60を設けて、皮膜とのシール性を高め、空気の漏れを少なくするようにしてもよい。さらに図3あるいは図4のように、吸盤14を用いた上で、吸盤内の空気を支持棒13の通路を経由してポンプで吸引し、吸盤14内を負圧にしてもよい。この場合も吸盤14内の負圧で皮膜20を引き込み、切刃16で切断する。したがって吸盤14を強く押し付ける必要がない。
【0039】
図11に示す切刃62は、薄い金属板からなる鋸歯を丸めて円筒状にしたものである。切刃62のそれぞれの刃先63の角度は20〜60度程度、とくに30〜45度程度としている。この切刃62では、皮膜に対して刃先63が鋭く切り込むため、効率的に皮膜に切れ目を入れることができる。
【0040】
図12に示す吸盤65は、通常のカップ形状の本体部66に加えて、その本体部の上部に小さいカップ状の吸引室67を備えている。そして吸盤65の全体が合成ゴム、天然ゴムなどの弾性材料で、略ひょうたん型に一体に成形されている。このものは上端を下向きに押し付けたとき、本体部66が偏平に弾性変形すると共に、吸引室67も偏平に弾性変形する。そして押し付ける力を弱めるとき、本体部66と吸引室67の両方の負圧発生作用により、強力に皮膜を吸着することができる。なお、本体部66と吸引室67が変形するときの押圧力に差をもたせることもできる。たとえば本体部66が変形するときの押圧力を吸引室67より弱くしておくと、通常の操作では本体部66の変形だけで吸着し、強力な吸引が必要なときには強い押圧力で本体部66と吸引室67の両方を変形させて強い力で吸着させることができる。逆に吸引室67が変形するのに必要な押圧力を本体部66より弱くしておくと、通常の操作のとき、本体部66の形状を変えずに吸引室67の変形だけで吸着させることができる。
【0041】
図4の吸着カッター35では、支持棒16の外面に螺旋状の突条38を設け、切刃保持部材36のボス37の内面に螺旋状の凹溝39を設けているが、図13に示すように、突条38に代えて、凹溝39内を摺動する突起38aを設けることもできる。凹溝39は2条設けているが、1条だけでもよい。その場合は突起38aも1個所でよい。また、凹溝39は、支持棒16を上下動させたときに、1周以上回転する必要はなく、たとえば30〜120度程度、とくに90度程度回転すれば足りる。この点は図4の吸着カッター35においても同様である。
【0042】
図1などの実施形態では、基本的に、吸盤を支持する支持棒と、吸盤で皮膜を引き上げるときに皮膜を押える押さえ部材とを相対的に作動させ、押さえ部材をスプリングの付勢力で押えながら、その反力で吸盤を引き上げる構成を採用している。しかしスプリングを採用せずに、手で吸盤を押し付けて引き上げる構成を採用することもできる。その場合は図2や図7のように、押さえ部材27を露出させ、外部から押えることができるようにするのが好ましい。このようなスプリングを省略できる構成では、部品点数が少なくなり、製造コストが下がる利点がある。
【0043】
図1などの実施形態では、商品の包装フィルムを破るための吸着カッターを説明したが、本発明の吸着カッターはこれらの包装用フィルム用の吸着カッターだけではなく、たとえば外科手術のときに内部組織を傷付けることなく、皮膚のみを切開することができる外科手術用の吸着カッター、さらに魚卵や内部の肉を傷付けずに表皮のみを切断できる食品加工用の吸着カッターに用いることもできる。このような動物あるいは植物の表皮(皮膜)に切れ目を入れる手段としてレーザーメスを採用することができる。レーザーメスは、たとえば吸着手段が表皮を持ち上げて内部組織から離したとき、その持ち上げた表皮に横方向から照射して切れ目を入れるようにするのが好ましい。
【0044】
図1などの実施形態では使用者が手に持って手動操作する単独の装置あるいは携帯型の装置としているが、コンプレッサやレーザー発生装置と連結して用いる固定型の形態あるいは設備の形態などとすることもできる。
【符号の説明】
【0045】
10 吸着カッター
11 ケース
12 押さえ部材
13 支持棒
14 吸盤
15 スプリング
16 切刃
16a エッジ
17 ボス
18 爪
19 ボス
20 皮膜
21 商品
22 段部
23 隙間
S1 第1工程(当接工程)
S2 第2工程(押し付け・吸着工程)
S3 第3工程(切断工程)
25 吸着カッター
26 摘み片
27 通路
27 脚
28 切刃
30 吸着カッター
31、32 シール材
33 通路
34 逆止弁
35 吸着カッター
36 切刃保持部材
37 ボス
38 螺旋状の突条
39 螺旋状の凹溝
40 ジャバラ
42 吸着カッター
43 中間壁
44 ヒータ
B 電池
45 吸着カッター
46 ガイド溝
47 切刃保持部材
48 スライド部
16b 切刃の先端
49 カム溝
50 ピン
52 吸着カッター
53 切刃
54 吸着カッター
56 吸着カッター
57 ポンプ
58、59 逆止弁
36a 切刃保持部材の上部
60 リップ
62 切刃
63 刃先
65 吸盤
66 本体部
67 吸引室
38a 突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着部材と、その吸着部材を昇降または傾動させる手段と、前記吸着部材に隣接し、吸着されて持ち上げられた皮膜に切れ目を形成する手段とを備えている吸着カッター。
【請求項2】
前記皮膜を持ち上げるとき、隣接する部位を押える押さえ部を備えている請求項1記載の吸着カッター。
【請求項3】
前記切れ目を形成する手段が前記押さえ部に設けられている請求項2記載の吸着カッター。
【請求項4】
前記吸着部材が支持棒の下端に取り付けられており、前記吸着部材を昇降させる手段として、支持棒の上端に摘み部が設けられている請求項1記載の吸着カッター。
【請求項5】
前記吸着部材が支持棒の下端に取り付けられており、前記吸着部材を昇降させる手段として、支持棒の上端に摘み部が設けられていると共に、摘み片と押さえ部材の間に、押さえ部材を下方に付勢するスプリングが介在されている請求項2または3記載の吸着カッター。
【請求項6】
前記吸着部材が負圧によって皮膜を吸着するものである請求項1〜5のいずれかに記載の吸着カッター。
【請求項7】
前記吸着部材が、粘着剤によって皮膜を吸着するものである請求項1〜5のいずれかに記載の吸着カッター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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