説明

吸着剤媒体

吸着システムにおいて使用するための吸着剤媒体およびそれを製造する方法を開示する。当該媒体は、例えば紙などの比較的薄い支持層と、例えばゼオライトなどの吸着剤と、非活性化ピッチ系炭素繊維とを含む。この比較的薄い層の多孔質媒体は、質量流がより速いという利点を提供する。当該ピッチ系炭素繊維は、活性化されていないために、その高い熱伝導率を保持し、それ故に、当該媒体を介した速くて効率的な熱拡散を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は吸着システムに関する。特に、そのようなシステムにおいて使用するための吸着剤媒体(adsorbent media)である。
【背景技術】
【0002】
吸着システム、例えばHVACシステム、液体および気体の精製、溶媒およびガソリン蒸気の回収ならびに脱臭、収着冷却プロセス、特定のバルクガス分離等、では、時には吸着媒体を使用して、気相不純物、または気体混合物中のより強く吸着した主要な成分を除去する。吸着プロセスおよび収着冷却プロセスでは、典型的には、金属容器内に配置されたいくらかの吸着剤媒体が使用されており、これは自立していることもあれば、金属スクリーンまたは表面上に含有されていることもある。この吸着剤は、吸着に必要な条件範囲全体にわたり、吸着性成分を含有する流体または気体ストリームに接触している。
【0003】
従来の吸着媒体のいくつかは、例えば紙、金属箔、高分子フィルム等の、薄いシートまたは層と、例えばシリカゲル、活性アルミナ、活性炭及び分子ふるい(例えばゼオライト)などの吸着剤物質とで構成される。これらの吸着剤シートまたは層は、従来のビーズ、押出物、または顆粒に比べ、比較的薄い。媒体がより薄ければ、気相または液相供給から吸着部位までの経路長はより短くなるので、これらの吸着剤を通っての物質移動は、ビーズまたは顆粒においてよりも速い。加えて、マクロ細孔径分布は、特に湿式堆積吸着剤含有紙(wet laid adsorbent-containing paper)では、典型的な吸着剤ビーズにおけるよりもおよそ1桁大きいことがある。この、より大きいマクロ細孔径によっても、当該媒体の物質移動は、ビーズまたは顆粒に比して増加する。
【0004】
速い物質移動に伴い、特定の用途において吸着熱を放散させることは困難となる可能性がある。これは、低い熱伝導率を一般的に有する薄いフィルムまたは層媒体で構成される吸着剤に特に当てはまる。例えば、紙の熱伝導率はたった0.05W/mKである。この値を背景に、既知の断熱材であるスタイロフォームの熱伝導率は0.033W/mKである。これらの比較的低い熱伝導率は、その物体全体にわたる、より低い熱放散の原因となる。そのようなものとして、吸着サイクルの最中の吸着剤紙または特定の他の薄層吸着剤の加熱によって実際に平衡への接近が遅くなることがあり、それにより、より薄い吸着剤媒体の吸着速度または物質移動の利益は減少する。同様に、脱着に伴い、吸着剤の温度は、脱着による熱除去に起因して実質的に降下し得り、それにより、当該媒体の脱着速度が遅くなる可能性がある。
【0005】
薄層(例えば、シート、フィルム、箔、プレート、紙、等)媒体の物質移動の利点を提供し、それと同時に、その薄層媒体における吸着熱の放散に関連する問題を回避するような吸着剤媒体が必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、少なくとも1種類の支持材、吸着剤、および5〜30重量パーセントの非活性化(non-activated)ピッチ系炭素繊維を含む吸着剤媒体を提供する。
【0007】
本開示は、紙、金属箔および高分子フィルムからなる群より選択される少なくとも1種類の支持材、吸着剤、ならびに5〜30重量パーセントの非活性化ピッチ系炭素繊維を含む吸着剤媒体であって、薄い多孔質層を含む媒体も提供する。
【0008】
本開示は、吸着剤媒体を製造する方法であって、水、フィブリル化した高分子繊維およびゼオライト粉末を含む紙スラリー(paper slurry)を準備すること、ならびに、ピッチ系炭素繊維を、この紙スラリー中へと調合すること、を含む方法も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、第一装填サイクル後の、ピッチ系炭素繊維を含有しない吸着剤媒体の、時間に対する熱流束および表面温度のグラフを示す。
【図2A】図2Aは、第一装填サイクル後の、ピッチ系炭素繊維を含有する図1に示された媒体の、時間に対する熱流束および表面温度のグラフを示す。
【図2B】図2Bは、第二装填サイクル後の、ピッチ系炭素繊維を含有する図1に示された媒体の、時間に対する熱流束および表面温度のグラフを示す。
【図2C】図2Cは、第三装填サイクル後の、ピッチ系炭素繊維を含有する図1に示された媒体の、時間に対する熱流束および表面温度のグラフを示す。
【図2D】図2Dは、第四装填サイクル後の、ピッチ系炭素繊維を含有する図1に示された媒体の、時間に対する熱流束および表面温度のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示は吸着剤媒体に関する。当該媒体は、非工業的プロセスおよび工業的プロセス、例えばHVACシステム、液体および気体の精製、溶媒およびガソリン蒸気の回収、バルク分離、ならびに脱臭など、において使用することができる。特に、当該媒体は、例えば、回転式吸着剤ホイール(rotary adsorbent wheel)、例えばUOP LLCに対するUS7,166,149に記載されているものなど、または、圧力および温度スイング吸着プロセス、例えばUOP LLCに対するUS6,293,998に記載されているものなど、または、収着チラー(sorption chiller)、例えばUOP LLCに対するUS6,102,107に記載されているものなど、において用いることができる。US6,102,107では、熱交換器のフィンプレートまたはフィンチューブの第一および第二の側面にラミネートされた、例えば紙層などの、吸着剤媒体が開示されている。吸着剤は、吸着および脱着に必要な条件範囲全体にわたり、吸着性成分を含有する流体または気体ストリームに接触している。特に、当該媒体の一形態は、コーディングとして熱交換器の表面上に塗布することができる。
【0011】
本開示の媒体は、好ましくは、支持材で構成される薄い層の媒体であり、この支持材は、例えば、繊維状物質で構成された、紙であってもよい。当該媒体は、結合剤、乾燥剤または吸着剤物質、およびピッチ系炭素繊維も含む。いくつかの場合においては、当該媒体は自立(self-supporting)していてもよい。当該媒体は、紙、金属箔および高分子フィルム等であってもよい。ある種の紙吸着剤の1つの例がUOP LLCに対するUS5,650,221に開示されており、これは参照により本明細書に組み入れられるものとする。当該吸着剤紙層は支持材で構成されるが、この支持材は繊維状物質であってもよい。吸着剤および結合剤も含む。当該繊維状物質としては、セルロース系繊維、合成繊維およびその混合物が挙げられる。フィブリル化した繊維、すなわち、末端が裂けて小繊維を形成している繊維シャフト、すなわち、その繊維シャフトよりもずっと細い、細繊維またはフィラメント、が好ましい。当該媒体の吸着剤紙に有用な、フィブリル化した合成有機繊維の例は、フィブリル化したアラミドおよびアクリル繊維である。
【0012】
アラミドは、繊維形成物質が、アミド(−−CO−−NH−−)結合の少なくとも85パーセント(85%)が2つの芳香環に直接的に結合されている、長鎖合成ポリアミドである、製造された繊維であってもよい。アラミドの好ましい例は、トワロン(Twaron)またはケブラー(KEVLAR)である。帝人アラミドから入手可能なトワロンは、耐熱性の、強いパラ−アラミド繊維であり、種々の長さおよびフィブリル化度で入手可能である。当該媒体において用いることのできるトワロンの例は、トワロン1094および1099である。ケブラーもパラ−アラミドである。イー・アイ・デュポン・ドゥ・ヌムール・アンド・カンパニー(E.I. du Pont de Nemours & Company)から入手可能であり、例えばケブラー303パルプなど、紙形成用にデザインされた精製パルプとして市販されている。精製の際、アラミド繊維シャフトは、高い剪断力の印加により、末端で裂けて小繊維となり、それにより、樹木様構造が作り出される。板紙の製造において、小繊維がからみ合って板紙強度が高まるということが見出されている。アラミドは、酸化性雰囲気中で450℃まで安定である。デュポン社から入手可能な例えばノーメックス(NOMEXなどの他の高温耐熱性アラミドも、当該媒体における紙の形成に適している。
【0013】
当該吸着剤物質は、例えば水、二酸化炭素、炭化水素または窒素等の吸着性成分を吸着する能力のある任意の物質であってもよい。そのような物質は非晶質固体であっても結晶性化合物であってもよい。例としては、シリカゲル、活性アルミナ、活性炭、分子ふるいおよびその混合物が挙げられる。吸着剤として用いることのできる他の物質としては、例えば、ハロゲン化化合物、例えば塩化物、臭化物、およびフッ化物を含むハロゲン塩など、が挙げられる。
【0014】
分子ふるいとしては、ゼオライト分子ふるいが挙げられる。ゼオライトは、微多孔性であり、かつ、頂点共有(corner-sharing)AlOおよびSiO四面体から形成される三次元の酸化物骨格を有する、結晶性アルミノケイ酸塩組成物である。天然に生じるゼオライトも合成ゼオライトも、当該媒体において用いることができる。ゼオライトの非限定的な例は、構造型がフォージャサイト、A、ベータ等のゼオライトファミリーである。フォージャサイト型ゼオライトとしては、DDZ−70、Y−54、Y−74、Y−84、Y−85、スチーム焼成希土類交換Y−54、低セリウム希土類交換Y−84、低セリウム希土類交換ゼオライトLZ‐210、および例えばゼオライトXなどの他のフォージャサイト型ゼオライト、ならびにその混合物、が挙げられる。DDZ−70は、希土類交換ナトリウムYゼオライト、例えばY−54など、であり、これは、US5,512,083およびUS5,667,560のプロセスに記載されているようにスチーム焼成してある。このUS5,512,083およびUS5,667,560はいずれもUOP LLCに対するものであり、これらは参照によりその全体が組み入れられるものとする。フォージャサイト型ゼオライトは、二次構築単位(secondary building unit)である4員環、6員環、および二重6員環(double 6-rings)で作られた3次元の大きな細孔構造を有するゼオライトである。フォージャサイト型ゼオライト細孔は7Åの直径を有していてもよい。
【0015】
これらのゼオライトには、合成されたままの(as-synthesized)ゼオライトおよび例えばCaなどの他の陽イオンで交換してあるものが含まれる。非ゼオライト分子ふるいは、必須の骨格構成物としてAlOおよびSiO四面体の両方を含有しないものの、ゼオライトのイオン交換特性および/または吸着特性を示すようなもののことである。同様に当該媒体において用いることができる非ゼオライト分子ふるい吸着剤の非限定的な例としては、アルミノリン酸塩すなわちAlPO分子ふるい、シリコアルミノリン酸塩すなわちSAPO分子ふるい、シリカライトIおよびシリカライトIIまたは他の純シリカ分子ふるい、ならびにチタノケイ酸塩分子ふるい、が挙げられる。
【0016】
ゼオライト系分子ふるいの細孔径は、種々の金属陽イオンを用いることにより変動させることができる。例えば、ナトリウムゼオライトAの見かけ上の細孔径は4Åであり、一方、カルシウムゼオライトAの見かけ上の細孔径は5Åである。ここで使用される「見かけ上の細孔径」という句は、通常条件下におけるその分子ふるいの最大限界寸法(maximum critical dimension)と定義することができる。見かけ上の細孔径は、ゼオライト構造中の適切なケイ酸塩の環の自由直径(free diameter)と定義することができる有効細孔直径よりも大きい。焼成された形態のゼオライト系分子ふるいは、一般式:
Me2/nO:Al:xSiO:yH
で表すことができ、式中、Meは陽イオンであり、xは2から無限大までの値を有し、nは陽イオンの価数であり、かつ、yは2から10までの値を有する。商業的に13X型として知られている分子ふるい組成物に対する一般式は、:
1.0±0.2NaO:1.00Al:2.5±0.5SiO
プラス水和水(water of hydration)、である。13X型は、10Åまでの限界寸法を有する分子が入ることができる細孔開口を通って接触可能な相互に繋がった結晶内空隙を有する三次元網目構造を特徴とする立方晶構造を有する。空隙容積はゼオライトの51体積パーセントであり、ほとんどの吸着が結晶空隙で起こる。
【0017】
吸着剤は、例えばスリップコーティング、ディッピング、スプレーコーティング、カーテンコーティング、電気泳動コーティング(electrophoretic coating)およびその組み合わせなどの従来のコーティング方法により、紙、箔、フィルム、プレートまたはスクリーン上にコーティングすることができる。あるいは、吸着剤は紙の製造の最中に紙シート中へ取り込まれてもよく、あるいは、製紙の際の吸着剤取り込みとその後の吸着剤でのコーティングとを組み合わせて用いてもよい。
【0018】
上記で提示したように、好ましくは、当該媒体は薄い多孔質層で構成される。具体的には、この層は薄いマクロ多孔質層であることが好ましい。好ましくは、当該媒体は、実質的に均一な厚さを有し、0.10mm〜1.00mm(0.004〜0.04インチ)厚である。よって、当該媒体は吸着剤ビーズまたは顆粒の2分の1(1/2)から20分の1(1/20)までのうちの任意の厚さである。これにより、当該媒体はより短い拡散経路を提供し、これにより、当該媒体中への、および当該媒体から外への、比較的、より速い物質移動速度が可能となる。
【0019】
当該媒体は少なくとも30重量パーセント(30%)の吸着剤を含む。しかしながら、吸着剤の重量パーセントは当該媒体の厚さにいくらか依存していてもよい。例えば、最終厚さまたはキャリパー(caliper)が少なくとも0.375mm(0.015インチ)厚である場合には、75〜80重量パーセントのゼオライト紙を調製することはより容易となり得る。好ましくは、当該媒体は1.00mm(0.040インチ)厚以下であり、かつ、60重量パーセントより多い吸着剤を含有する。当該媒体中の吸着剤含有量の好ましい範囲は60〜85重量パーセントである。加えて、当該吸着剤は均一の密度を含んでいてもよく、これは、完成紙料(紙スラリー)の組成、湿式堆積(wet laying)条件、およびカレンダリング処理、の調節により、0.5から1.1g/cmまでの間で調節可能である。
【0020】
当該媒体はピッチ系炭素繊維も含む。好ましくは、このピッチ系炭素繊維は非活性化のものであるが、しかしながら、後述するように、当該媒体が5〜30重量パーセントの非活性化ピッチ系炭素を含むという条件で、非活性化ピッチ系炭素と活性化ピッチ系炭素とのブレンドを用いてもよい。活性炭においては、炭素は、吸着容量を与える微多孔性を生じさせるべく、炭化の後または炭化の最中に、加熱されるか、スチームされるか、または酸化される。よって、活性炭繊維は、例えばゼオライトなどの吸着剤に対する補助として、またはそのような吸着剤の代わりに、用いられることもある。
【0021】
しばしば、炭素は、活性化のために、例えば二酸化炭素などの反応性の気体の存在下で、少なくとも800℃温度へと加熱される。これらの酸化条件はピッチ系炭素繊維の熱伝導率を低下させる。US6,800,364によれば、等方性ピッチ系繊維の熱伝導率は、25℃の空気中で10ワット/m−Kである。活性化後の等方性ピッチ系繊維の熱伝導率は0.25ワット/m−Kである(Vittorio et al., The Transport Properties of Activated Carbon Fibers, J. Mater. Res., Vol. 6, No. 4, Apr 1991, page 782)。よって、非活性化等方性ピッチ系炭素繊維は、活性化等方性ピッチ系炭素繊維よりも40倍大きい熱伝導率を有する。メソフェーズピッチ系炭素繊維は、活性化ピッチ系炭素繊維と非活性化ピッチ系炭素繊維との間で、同じかまたはより大きい熱伝導率の差を示すであろう。メソフェーズピッチ系炭素繊維は、通常、等方性ピッチ系炭素繊維よりも高い熱伝導率を有することから、活性化メソフェーズピッチ系炭素繊維は、さらに大きな熱伝導率の低下を経験することとなる可能性がある。したがって、活性化による有意な減少の潜在性がより大きい。
【0022】
好ましくは、当該媒体は、5重量パーセント〜30重量パーセントの非活性化ピッチ系炭素繊維を含む。より好ましくは、当該媒体は、10〜20重量パーセントの非活性化ピッチ系炭素繊維を含む。これらの量のピッチ系炭素繊維を用いて所望の熱伝導率を与える。当該媒体、例えばアラミド−ゼオライト−炭素繊維複合体など、の熱伝導率は、必ずしも直線的である必要はないが炭素繊維の体積分率に応じた大きさとなることが予想され、また、当該媒体において好ましくは5:1〜20:1である炭素繊維アスペクト比にも関係する。したがって、例えば、たった1〜2重量パーセントの炭素繊維(これは、当該成分密度を与える体積パーセントに換算して0.5〜1となるであろう)では、当該媒体の熱移動能力の効率的増加を引き起こすのに不十分に小さい量の物質となるであろう。また、ピッチ系炭素繊維が30重量パーセントよりも高いレベルで利用される場合には、適切な強度のために十分なアラミド繊維を当該シート中へとさらに取り込むべく吸着剤粉末のレベルを低くしすぎなければならず、その結果として生じる、吸着剤紙の容量は、吸着剤プロセス用途での使用のためには低くなりすぎることとなるであろう。
【0023】
使用するピッチ系炭素繊維は、石油または石炭から形成されるメソフェーズピッチから生じる炭素質物質である。このピッチ系炭素繊維は実質的にいかなる市販のピッチ系炭素繊維であってもよい。好ましくは、当該ピッチ系炭素繊維は、紙の熱伝導率と比べ、比較的高い熱伝導率を有する。そのような比較的高い熱伝導率とは20W/mK〜1000W/mKである。当該ピッチ系炭素繊維は、また、1.00g/cc〜3.00g/ccの密度、および5.00ミクロン(0.0002インチ)〜15ミクロン(0.0006インチ)の直径を有していてもよい。そのようなピッチ系炭素繊維としては、ニュージャージー州のサイテックインダストリーズ(Cytec Industries)社およびアラバマ州のトーレ・カーボンファイバーズ・アメリカ社(Toray Carbon Fibers America, Inc.)から入手可能なものが挙げられる。
【0024】
紙層を含む媒体層を調製するには、例えば、ピッチ系炭素繊維を、上述のように、水、例えばトワロンまたはケブラーパルプなどのフィブリル化した高分子繊維、ゼオライト粉末、及び凝集添加剤(flocculation additive)を含有している紙完成紙料(paper furnish)(スラリー)中へと調合する。この紙完成紙料は、また、有機ラテックスおよび/または無機酸化物結合剤を含んでいてもよい。この完成紙料を抄紙機(paper machine)中で湿式堆積することによりシートを調製する。その結果として生じる紙は、85重量パーセントまでのゼオライト粉末を用いて調合されてもよく、また、例えば圧力スイング吸着、温度スイング吸着、真空スイング吸着、およびその組み合わせなどの急速サイクル吸着プロセス、ならびに吸着加熱および冷却プロセスにおいて用いられてもよい。上記で提示したように、好ましくは、当該炭素繊維は活性化されていないものであるか、または、活性化されているものである場合には、5重量パーセント〜30重量パーセントの非活性化ピッチ系炭素繊維が残存する。少なくとも5重量パーセント〜30重量パーセントの非活性化ピッチ系炭素繊維を提供することにより、当該媒体はその熱伝導率を保持することが可能になる。
【0025】
比較的薄い層媒体においては、物質移動は、ビーズまたは顆粒を用い得る吸着剤についてよりも、有意に高く、速い。これは、媒体がより薄ければ、気相または液相供給から平均的な吸着部位までの経路長は実質的により短くなるためである。加えて、吸着剤媒体のマクロ細孔径分布は、典型的な吸着剤ビーズにおけるよりもおよそ1桁大きい。この、より大きいマクロ細孔径によっても、当該媒体の物質移動は、顆粒のビーズに比して増加する。
【0026】
しかしながら、従来の媒体においては、より速い物質移動に伴い、吸着熱を放散させることは困難となることがある。事実、高い吸着熱を有する分子の吸着に起因する吸着剤の加熱によって実際に平衡への接近が遅くなることがあり、それにより、より薄い吸着剤媒体の吸着速度および物質移動の利益は減少する。同様に、脱着に伴い、吸着剤の温度は、脱着による熱除去に起因して降下し、それにより、当該媒体の脱着性能は低下する。
【0027】
図1および2A〜2Bに示すように、また、後述のように、当該媒体中のピッチ系炭素繊維により、当該媒体の熱伝導率が大きく改善され、その結果、吸着熱の拡散が促進される。よって、当該媒体により、当該媒体の薄さとそのピッチ系炭素繊維からの必要な熱放散とに起因する増加した質量流(mass flow)が提供される。
【0028】
図1は、吸着剤媒体の熱流束および表面温度を示しており、ここでは、吸着剤媒体は、以下で説明する、第一装填サイクル後の、ピッチ系炭素繊維を含有しないアラミド/ゼオライト紙である。図2A〜2Dは、4つの装填サイクルの後の、20重量パーセントのTHORNELブランドのピッチ系炭素繊維を含有する吸着剤媒体の熱流束および表面温度を示している。図1および2A〜2Dに示した実施例においては、使用したゼオライトはY−54ゼオライトである。
【0029】
図1および2A〜2Dに示した熱流束および表面温度を測定するために、熱流計(heat flux transducer)および熱電対を当該媒体に連結した。当該媒体を、熱流計(Vatell Electronics社からのBF−02)と接触した状態に配置させ、熱流計を、媒体試料と、30.0℃に自動温度調節された(thermostatted)高い熱伝導率のヒートシンクとの間に挟んだ。使用したヒートシンクは、恒温槽(thermostatted bath)から反対側の流体の急速な循環を伴う薄いステンレス製のステージである。したがって、吸着に関連して試料において発生した熱または除去された熱は、試料温度がヒートシンクのそれと異なる限り、熱流計を介して、ヒートシンクの中および外へ通過し、それにより、熱流の大きさに比例した熱流計中の電圧信号が発生する。応答時間が数ミリ秒の細径(fine gauge)熱電対を、媒体試料のもう一方の側と接触した状態にして置いた。
【0030】
この試料セルと取り付けられた真空システムとを真空にした。次いで、第一装填または投与サイクルを実施した。具体的には、30.0℃の温度の10torrの水蒸気を投与して一投与容積(a dosing volume)とし、次いで、これを、当該試料セルに開口して、この水蒸気の、シート試料中への吸着を開始した。表面温度および熱流束を、結果として起こる水の吸着、および当該シート試料の温度変化の原因となる吸着熱、として測定した。当該媒体を30.0℃の周囲温度へと冷却させておいた。次いで、第二装填サイクルを実施した。上述のように、10torrの水蒸気のもう一投与量が、同様に、このシステム中へと入ることができるようにした。表面温度および熱流束を測定した。この水蒸気装填または投与手順を、ピッチ系炭素繊維を含有しない媒体について合計4回、および、ピッチ系炭素繊維を含有する媒体について4回行った。利用可能な水の吸着容量は、このプロセスにおいて実質的に飽和した。
【0031】
当該媒体が次第に水で飽和されるにつれて、それぞれの水蒸気投与量の後に測定される表面温度の増加は小さくなり、熱流束電圧は低くなる。これは、当該分野において公知のこと;吸着熱が、ゼオライトへ装填するパーセントに依存するということ、に一致する。例えば、図2Aに示されている、ピッチ系炭素繊維媒体の第一装填サイクルでは、表面温度は62℃に達する。しかしながら、図2Bに示されている第二装填では、表面温度は35℃にしか達しない。加えて、図2A〜2Dに示されているように、また、後述のように、熱流束により測定した当該媒体が周囲温度に達する時間は、それぞれのサイクルに伴って減少する。
【0032】
ピッチ系炭素繊維を含有しない媒体の第一装填サイクルでは、表面温度は43℃に達する。熱流束は0.34ワット/cmに達する。この熱流束は、450秒後に0ワット/cmへと戻り、この表面温度は450秒後に周囲温度(30℃)まで冷える。これらの結果を図1に示す。第二装填サイクル(不掲載)では、表面温度は37℃に達した。熱流束は0.23ワット/cmに達した。この熱流束は、250秒後に0ワット/cmへと戻った。そして、この表面温度は、250秒後に周囲温度まで冷える。第三装填サイクル(不掲載)では、表面温度は31℃で始まった。熱流束は0.5ワット/cmに達した。この熱流束は、150秒後に0ワット/cmへと戻った。そして、この表面温度は、150秒後に周囲温度まで冷える。第四装填(不掲載)では、表面温度は31℃であった。熱流束は0.1ワット/cmに達した。この熱流束は、120秒後に0ワット/cmへと戻った。そして、この表面温度は、120秒後に周囲温度まで冷える。
【0033】
図2Aに示されているように、ピッチ系炭素繊維を含有する媒体の第一装填サイクルでは、表面温度は62℃に達する。熱流束は0.59ワット/cmに達する。この熱流束は、200秒後に0ワット/cmへと戻り、この表面温度は200秒後に周囲温度(30.0℃)まで冷える。図2Bに示されている第二装填では、表面温度は35℃に達する。熱流束は0.13ワット/cmに達する。この熱流束は、130秒後に0ワット/cmへと戻り、この表面温度は、180秒後に周囲温度まで冷える。図2Cに示されている第三装填では、表面温度は30.5℃で始まる。熱流束は0.09ワット/cmに達する。この熱流束は、90秒後に0ワット/cmへと戻る。そして、この表面温度は、160秒後に周囲温度まで冷えると思われる(このデータ中にはいくらかノイズがあり、当該冷却時間には不確かさがある)。図2Dに示されている第四装填では、表面温度は30℃である。熱流束は0.3ワット/cmに達する。この熱流束は、50秒後に0ワット/cmへと戻り、この表面温度は、50秒後に周囲温度まで冷える。
【0034】
図1および2A〜2Dは、要するに、どれだけ多くの熱が、時間とともに放散されるかを示している。上述したように、ピッチ系炭素繊維を含有する媒体において吸着の際に発生する熱は、ピッチ系炭素繊維を含有しない媒体において吸着の際に発生する熱よりもずっと速く放散する。例えば、ピッチ系炭素繊維媒体を用いた最初のラン(first run)では、熱流束が0ワット/cmへと戻るのに200秒しかかからなかったが、一方、ピッチ系炭素繊維を含有しない炭素繊維媒体を用いた最初のランでは、熱流束が0ワット/cmへと戻るのに450秒かかった。同様に、ピッチ系炭素繊維を含有する媒体の吸着熱により発生する表面温度の増加は、ピッチ系炭素繊維を含有しない媒体の表面温度の増加よりも速く周囲温度まで冷える。経時的な熱流束および表面温度に関するこれらの測定値は、当該ピッチ系炭素繊維媒体によりもたらされる熱放散の改善に関する真の尺度である。
【0035】
もう1つの形態においては、当該媒体は、例えば熱交換器の表面上にコーティングされるよう適合される。この形態では、当該媒体は、ゼオライト吸着剤とともに、有機スラリーのオルガノシロキサン樹脂で構成されてもよく、またはあるいは、ゼオライト吸着剤とともに、水性スラリーの無機結合剤で構成されてもよい。また、当該媒体は、ピッチ系炭素繊維で構成されてもよい。これらのピッチ系炭素繊維は、好ましくは非活性化のものであるが、しかしながら、これらは、活性化ピッチ系炭素繊維と非活性化ピッチ系炭素繊維との混合物を含んでいてもよい。提示した当該媒体およびコーティングの方法により、当該媒体を、従来の媒体よりも相対的に、より大きく、かつ、より複雑な、または込み入った表面積(例えば、波状表面)上にコーティングすることが可能となる。結合剤を硬い吸着剤コーティングにするための加熱処理のプロセスは、当該ピッチ系炭素繊維の熱伝導特性を損なうことを避けるようデザインされる。例えば、コーティングスラリーの揮発性成分は、不活性雰囲気もしくは還元性雰囲気(reducing atmosphere)中で、または真空下で、450℃〜600℃の温度へと加熱することにより除去される。
【0036】
好例の実施形態という観点から当該媒体を記載してきたが、当該媒体はこれらに限定されない。むしろ、添付の特許請求の範囲は、均等物(equivalents)の範囲(scope)および範囲(range)から逸脱することなく当業者がなすことができる他の変体および実施形態を含むよう広く解釈されるべきである。本開示は、本明細書において記載した、いかなる適合または変形をも包含するよう意図されている。前述の説明および添付の図面を参照して上記で記載した機器は、これにより主張されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類の支持材;
吸着剤;および
5〜30重量パーセントの非活性化ピッチ系炭素繊維、
を含む吸着剤媒体。
【請求項2】
前記支持材が、紙、金属箔および高分子フィルムからなる群より選択される、請求項1に記載の媒体。
【請求項3】
前記吸着剤がゼオライトで構成される、請求項1に記載の媒体。
【請求項4】
少なくとも60重量パーセントの吸着剤を含む、請求項1に記載の媒体。
【請求項5】
0.10mm〜1.00mmの、実質的に均一な厚さを有する、請求項1に記載の媒体。
【請求項6】
20重量パーセントのピッチ系炭素繊維を含む、請求項1に記載の媒体。
【請求項7】
吸着熱により発生する前記媒体の表面温度の増加が、ピッチ系炭素繊維を含有しない同様の媒体の表面温度の増加よりも速く周囲温度に戻る、請求項1に記載の媒体。
【請求項8】
前記媒体が、薄い多孔質層を含む、請求項1に記載の媒体。
【請求項9】
前記支持材がパラ−アラミドである、請求項2に記載の媒体。
【請求項10】
前記ゼオライトがフォージャサイト型ゼオライトである、請求項3に記載の媒体。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【公表番号】特表2012−511425(P2012−511425A)
【公表日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−540723(P2011−540723)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【国際出願番号】PCT/US2009/058675
【国際公開番号】WO2010/068326
【国際公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(598055242)ユーオーピー エルエルシー (182)
【Fターム(参考)】