説明

吸着剤組成物及びその製造方法、並びに汚染水浄化方法

【課題】放射性の汚染物質を高選択的に吸着して、優れた効率で汚染水を浄化することが可能であるとともに、汚染物質吸着後の処理が容易な吸着剤組成物を提供する。
【解決手段】キトサンと、酸性基を有するポリマーと、下記一般式(1)で表される化合物を主成分とする顔料とを含有する吸着剤組成物である。
MFe[Fe(CN)6] ・・・(1)
(前記一般式(1)中、Mはアルカリ金属又はアンモニウム基を示し、二つのFeの一方は2価であり、他方は3価である)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性物質により汚染された汚染水を浄化するために用いられる吸着剤組成物及びその製造方法、並びにそれを用いた汚染水浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
活性炭やゼオライトは吸着剤として優れた性能を有しており、公害関係を中心とした幅広い分野において、汚染物質の吸着や浄化に活用されている。例えば、汚染物質が含まれる汚染水を活性炭やゼオライトで処理し、汚染物質を活性炭やゼオライトに吸着させて除去することで浄化水を得ることが一般的に行われている。
【0003】
また、活性炭やゼオライトは、放射性物質を吸着する性能をも有することが知られており、原子力発電所等の施設から発生する放射性物質を含有する汚染水を浄化する材料としても有用である。例えば、活性炭を充填した濾過槽に放射性物質を含有する汚染水を通過させ、放射性物質を活性炭に吸着させる浄化方法が開示されている(特許文献1参照)。また、放射性物質が溶解又は懸濁した汚染水にゼオライトを含む粒子を接触させ、放射性物質を粒子に吸着させる浄化方法が開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−232773号公報
【特許文献2】特開2005−177709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、活性炭やゼオライトは、一般的には可能な限り微細化して比表面積を増大させ、その吸着能力を向上させた状態で使用される。このため、汚染水を濾過して汚染物質を吸着した活性炭やゼオライトを除去しようとすると圧力損失が増大してしまい、処理効率が上がらないといった問題がある。
【0006】
また、活性炭やゼオライトは、吸着能力が高い一方で選択性が若干乏しい。このため、本来除去する必要のない物質までをも吸着してしまう場合がある。このように、除去を必要としない物質まで吸着した活性炭等を処理するには多大な労力とコストが必要とされるといった問題がある。
【0007】
なお、ゼオライトについては、その種類や細孔径等を適当に設定することで、吸着対象物の選択性を向上させることがある程度可能である。しかしながら、ゼオライトは無機物質であるため、汚染物質を吸着させたゼオライトを焼却処理することは実質上不可能である。このため、例えば汚染物質として放射性物質を吸着させたゼオライトは、体積を減らすことなく埋め立て処分せざるを得ないので、後処理が容易ではない。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、放射性の汚染物質を高選択的に吸着して、優れた効率で汚染水を浄化することが可能であるとともに、汚染物質吸着後の処理が容易な吸着剤組成物、及びその製造方法を提供することにある。
【0009】
また、本発明の課題とするところは、放射性の汚染物質を含む汚染水を優れた効率で浄化することが可能であるとともに、浄化後の後処理の利便性も良好な汚染水浄化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、酸性基を有するポリマーとキトサンを用いて、特定の化学構造で表される化合物を主成分とする顔料(いわゆる紺青)を捕捉連結することによって、上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明によれば、キトサンと、酸性基を有するポリマーと、下記一般式(1)で表される化合物を主成分とする顔料とを含有する吸着剤組成物が提供される。
MFe[Fe(CN)6] ・・・(1)
(前記一般式(1)中、Mはアルカリ金属又はアンモニウム基を示し、二つのFeの一方は2価であり、他方は3価である)
【0012】
本発明においては、前記ポリマーが、多糖、カルボキシル基含有モノマーの単独重合体、及びカルボキシル基含有モノマーとカルボキシル基非含有モノマーとの共重合体からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましく;前記ポリマーが、アルギン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸、及びポリイタコン酸からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。本発明においては、前記キトサンと前記ポリマーの合計100質量部に対する、前記顔料の含有割合が10〜500質量部であることが好ましい。
【0013】
また、本発明によれば、上記の吸着剤組成物の製造方法であって、水を含有する水系媒体中で、キトサンの酸塩、酸性基を有するポリマーのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩、及び下記一般式(1)で表される顔料を混合する工程を有する吸着剤組成物の製造方法が提供される。
MFe[Fe(CN)6] ・・・(1)
(前記一般式(1)中、Mはアルカリ金属又はアンモニウム基を示し、二つのFeの一方は2価であり、他方は3価である)
【0014】
本発明においては、(1)キトサン及び酸を前記水系媒体中に加えて得られたキトサン酸塩溶液に、前記顔料を分散させて第一の分散液を得、得られた前記第一の分散液に前記酸性基を有するポリマーのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩の水系媒体溶液を混合する、又は(2)前記顔料を前記水系媒体中に分散させて得られた第二の分散液と、前記キトサン酸塩溶液とを混合して第三の分散液を得、得られた前記第三の分散液と、前記酸性基を有するポリマーのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩の水系媒体溶液とを混合することが好ましい。また、本発明においては、前記水系媒体の少なくとも一部を除去する工程をさらに有することが好ましい。
【0015】
さらに、本発明によれば、前述の吸着剤組成物を、少なくとも放射性セシウムを汚染物質として含有する汚染水に添加する工程と、添加した前記吸着剤組成物を固液分離して除去する工程と、を有する汚染水浄化方法が提供される。
【0016】
本発明においては、前記汚染水に、放射性ヨウ素と放射性ストロンチウムが前記汚染物質としてさらに含有されていることが好ましい。また、本発明においては、前記汚染物質が吸着した前記吸着剤組成物に含まれる有機物を、微生物によって分解して減容化する工程をさらに有することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の吸着剤組成物は、放射性の汚染物質を高選択的に吸着して、優れた効率で汚染水を浄化することが可能であるとともに、汚染物質吸着後の処理が容易なものである。
また、本発明の吸着剤組成物の製造方法によれば、このような優れた特性を有する吸着剤組成物を容易に製造することができる。
【0018】
本発明の汚染水浄化方法によれば、放射性の汚染物質を含む汚染水を優れた効率で浄化することが可能である。さらには、本発明の汚染水浄化方法は、浄化後の後処理の利便性も良好である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0020】
1.吸着剤組成物
本発明の吸着剤組成物は、キトサンと、酸性基を有するポリマーと、下記一般式(1)で表される化合物を主成分とする顔料とを含有する。以下、その詳細について説明する。
MFe[Fe(CN)6] ・・・(1)
(前記一般式(1)中、Mはアルカリ金属又はアンモニウム基を示し、二つのFeの一方は2価であり、他方は3価である)
【0021】
(キトサン)
キトサンは、例えば、カニやエビの甲殻類の外皮中に存在するキチンを脱アセチル化して得ることができる高分子材料である。キトサンの脱アセチル化度や分子量(重合度)は任意に調整可能であるとともに、種々のグレードのものを市場で入手することができる。なお、キトサンは、高脱アセチル化度及び高重合度のものが好ましい。但し、すべて脱アセチル化していなくてもよく、キトサンの酸塩が水に可溶であれば、一部のアセチル基が残存していてもよい。なお、キチンの脱アセチル化度は70%以上であることが好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。
【0022】
キトサンの重量平均分子量は5,000以上であることが好ましく、30,000〜1,000,000であることがさらに好ましい。キトサンの重量平均分子量が5,000未満であると、吸着剤組成物中での顔料の分散性が低下する傾向にある。一方、キトサンの重量平均分子量が1,000,000超であると、吸着剤組成物の粘度が高くなりすぎてしまい、顔料の濃度を上げにくくなる傾向にある。
【0023】
(酸性基を有するポリマー)
酸性基を有するポリマー(以下、「酸性基含有ポリマー」とも記す)は、前述のキチンとポリイオンコンプレックスを形成しうる高分子材料である。具体的には、キチンと酸性基含有ポリマーを共存させると、キチンのアミノ基と、酸性基含有ポリマーの酸性基とがイオン結合し、凝集体であるポリイオンコンプレックスが形成されると推測される。このように形成されたポリイオンコンプレックス中に顔料(紺青)が捕捉連結されることで、本発明の吸着剤組成物が構成されていると考えられる。
【0024】
ポリイオンコンプレックスは、ヨウ素(I)やストロンチウム(Sr)を吸着しうる成分である。なお、安定同位体であるヨウ素127(127I)やストロンチウム88(88Sr)だけでなく、放射性同位体であるヨウ素131(131I)やストロンチウム90(90Sr)もポリイオンコンプレックスに吸着される。このため、ポリイオンコンプレックスを含有する本発明の吸着剤組成物は、放射性ヨウ素及び放射性ストロンチウムを含む汚染水を浄化するための吸着剤として極めて有用である。
【0025】
酸性基含有ポリマーに含まれる酸性基の種類は、キチンのアミノ基とイオン結合可能なものであればよい。酸性基の具体例としては、カルボキシル基及びスルホン酸基等を挙げることができる。また、酸性基含有ポリマーの具体例としては、(a)多糖、(b)カルボキシル基含有モノマーの単独重合体、及び(c)カルボキシル基含有モノマーとカルボキシル基非含有モノマーとの共重合体を挙げることができる。なお、これらの酸性基含有ポリマーは、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
多糖の具体例としては、アルギン酸等を挙げることができる。また、カルボキシル基含有モノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、β−カルボキシエチルアクリレート、β−カルボキシエチルメタクリレート等を挙げることができる。さらに、カルボキシル基非含有モノマーの具体例としては、スチレン類、(メタ)アクリレート類、アクリルアミド類、アルカン酸ビニルエステル、アクリロニトリル類等を挙げることができる。
【0027】
スチレン類の具体例としては、スチレン、メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルエチルベンゼン、ビニルナフタレン等を挙げることができる。(メタ)アクリレート類の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル等の(メタ)アクリル酸と脂肪族(C1〜C30)アルコールとのエステル;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキサン等の(メタ)アクリル酸と脂環族アルコールとのエステル;(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル等のアミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸グリシジル等のグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル等を挙げることができる。
【0028】
アクリルアミド類の具体例としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド等を挙げることができる。アルカン酸ビニルエステルの具体例としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等を挙げることができる。また、アクリロニトリル類の具体例としては、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等を挙げることができる。
【0029】
酸性基含有ポリマーとして、カルボキシル基含有モノマーとカルボキシル基非含有モノマーとの共重合体を用いる場合には、この共重合体に含まれるカルボキシル基含有モノマーに由来する構成単位の割合は20モル%以上であることが好ましい。カルボキシル基含有モノマーに由来する構成単位の割合が20モル%未満であると、顔料が適切に捕捉されるポリイオンコンプレックスを形成し難くなる傾向にある。
【0030】
酸性基含有ポリマーとしては、アルギン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸、及びポリイタコン酸が好ましい。なお、これらの酸性基含有ポリマーは、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
酸性基含有ポリマーの重量平均分子量は5,000以上であることが好ましく、30,000〜1,000,000であることがさらに好ましい。酸性基含有ポリマーの重量平均分子量が5,000未満であると、吸着剤組成物中での顔料の分散性が低下する傾向にある。一方、酸性基含有ポリマーの重量平均分子量が1,000,000超であると、吸着剤組成物の粘度が高くなりすぎてしまい、顔料の濃度を上げにくくなる傾向にある。
【0032】
吸着剤組成物に含まれる酸性基含有ポリマーの好ましい割合は、ポリイオンコンプレックスを形成するキトサンの脱アセチル化度や分子量、或いは酸性基含有ポリマーの分子量や酸価に左右され、一概にはいえないが、キトサンと概ね等量であることが好ましい。例えば、キトサン100質量部に対して70〜130質量部であることが好ましく、80〜120質量部であることがさらに好ましい。酸性基含有ポリマーの割合が上記の数値範囲外であると、吸着剤組成物中に顔料を良好な状態で捕捉することが困難となる傾向にある。
【0033】
(顔料)
本発明の吸着剤組成物に含有される顔料は、下記一般式(1)で表される化合物を主成分とするものである。この顔料は、一般的には紺青、プルシアンブルー、ベルリンブルー、ターンブルブルー、ミロリーブルー、チャイニーズブルー、又はパリブルーと称される。
MFe[Fe(CN)6] ・・・(1)
(前記一般式(1)中、Mはアルカリ金属又はアンモニウム基を示し、二つのFeの一方は2価であり、他方は3価である)
【0034】
この紺青は、セシウム(Cs)を選択的に吸着しうる成分である。なお、安定同位体であるセシウム133(133Cs)だけでなく、放射性同位体であるセシウム137(137Cs)も紺青に吸着される。このため、紺青を含有する本発明の吸着剤組成物は、放射性セシウムを含む汚染水を浄化するための吸着剤として極めて有用である。
【0035】
吸着能を考慮すると、顔料の粒子径は小さいことが好ましい。粒子径が小さいほど比表面積が大きくなるからである。具体的には、顔料の数平均粒子径は0.03〜0.2μmであることが好ましく、0.05〜0.1μmであることがさらに好ましい。その数平均粒子径が上記数値範囲である顔料を用いることで、汚染水中のセシウムを効率的に吸着することができる。
【0036】
吸着剤組成物に含まれる顔料の割合は、キトサンと酸性基含有ポリマーの合計100質量部に対して10〜500質量部であることが好ましく、50〜200質量部であることがさらに好ましい。顔料の割合が10質量部未満であると汚染物質の吸着性能が不十分となる傾向にある。一方、顔料の割合が500質量部超であると、吸着剤組成物中に顔料を良好な状態で捕捉することが困難となる傾向にある。
【0037】
(吸着剤組成物)
小粒径の顔料を、例えばそのまま汚染水に添加して浄化する場合において、汚染物質吸着後の顔料を濾過して除去しようとすると圧力損失が過度に上昇しやすく、除去効率が向上せずに効率的ではない。また、上記のような小粒径の顔料を、例えばそのままフィルターに充填して濾過層とし、この濾過槽に汚染水を透過させて浄化する場合には、やはり圧力損失が過度に上昇しやすく、効率的に浄化することが困難である。
【0038】
これに対して、本発明の吸着剤組成物は、小粒径(大比表面積)の顔料を、キトサンと酸性基含有ポリマーからなるポリイオンコンプレックス中に捕捉連結しているので、濾過の際に圧力損失が過度に上昇する等の不具合が極めて生じ難い。また、粉末状の顔料そのものと比べて、取り扱い性も良好である。また、本発明の吸着剤組成物は、構成成分の大部分が燃焼(焼却)可能な有機物質である。このため、汚染物質を吸着した後の吸着剤組成物は、ゼオライト等の無機物質と異なり、容易に焼却処理してコンパクトにすることができる。したがって、本発明の吸着剤組成物は、汚染水浄化後の後処理も容易であるといった利点がある。
【0039】
本発明の吸着剤組成物は、粉体状、粒状、ペレット状、綿状、繊維状、膜状等の任意の形状に成形することができる。すなわち、本発明の吸着剤組成物は、汚染水に対する処理の仕方に応じて任意の形状とすることができるので、利便性に優れている。
【0040】
2.吸着剤組成物の製造方法
次に、本発明の吸着剤組成物の製造方法について説明する。本発明の吸着剤組成物の製造方法は、水を含有する水系媒体中で、キトサンの酸塩、酸性基含有ポリマーのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩、及び顔料(紺青)を混合する工程を有する。
【0041】
吸着剤組成物を製造するには、先ず、キトサンの酸塩の水系媒体溶液に顔料を分散させた懸濁液を調製することが好ましい。キトサンの酸塩と顔料の添加順序は特に限定されない。例えば、先にキトサンの酸塩溶液を調製しておき、この溶液に粉末状の顔料を添加してもよい。また、キトサンの酸塩と粉末状の顔料を混合した混合物を調製しておき、この混合物に少量ずつ水系媒体を添加して練り合わせながら所定の濃度となるまで希釈してもよい。なお、操作性の観点からは、キトサンの酸塩の濃度は、水系媒体に対する比率で0.1〜2質量%とするのが適当である。
【0042】
使用する酸の具体例としては、酢酸、ギ酸、スルファミン酸等の有機酸;塩酸等の無機酸を挙げることができる。なかでも、酢酸及びギ酸が好ましい。また、水系媒体は、水であってもよく、水と水溶性溶媒との混合溶媒であってもよい。
【0043】
キトサンの酸塩の水系媒体溶液に顔料を分散させた懸濁液(A液)と、酸性基含有ポリマーのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩の水溶液(B液)とを接触させると、キトサンと酸性基含有ポリマーとのポリイオンコンプレックスが形成されて析出する。また、形成されたポリイオンコンプレックス中には、顔料が捕捉連結される。析出物を分離して水洗した後、100〜150℃程度で乾燥して水系媒体の少なくとも一部を除去すれば、目的とする吸着剤組成物を得ることができる。
【0044】
なお、(1)キトサン及び酸を水系媒体中に加えて得られたキトサン酸塩溶液に、顔料を分散させて第一の分散液を得、得られた第一の分散液に酸性基含有ポリマーのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩の水系媒体溶液を混合することによっても、目的とする吸着剤組成物を得ることができる。さらには、(2)顔料を水系媒体中に分散させて得られた第二の分散液と、キトサン酸塩溶液とを混合して第三の分散液を得、得られた第三の分散液と、酸性基含有ポリマーのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩の水系媒体溶液とを混合することによっても、目的とする吸着剤組成物を得ることができる。
【0045】
A液とB液を接触させる方法を適宜選択することで、得られる吸着剤組成物(吸着体)の形状を綿状、繊維状、又は膜状等にすることができる。例えば、A液とB液を混合して攪拌すると、綿状物を得ることができる。さらに、得られた綿状物を抄紙機に欠ければ紙状物を得ることができる。また、A液とB液のいずれかにパルプ等の繊維を加えておけば、強度が向上した吸着体を得ることができる。
【0046】
また、A液をガラス板等の基材上に流延した後、この基材をB液に浸漬することで膜状物を得ることができる。さらには、織布、不織布、紙、ラバーフォーム、又はウレタンフォーム等の素材をA液に浸漬した後、B液で処理することで、これらの素材に吸着剤組成物を担持させることができる。
【0047】
3.汚染水浄化方法
次に、本発明の汚染水浄化方法について説明する。本発明の汚染水浄化方法は、前述の本発明の吸着剤組成物を、少なくとも放射性セシウムを汚染物質として含有する汚染水に添加する工程(添加工程)と、添加した吸着剤組成物を固液分離して除去する工程(除去工程)と、を有する。
【0048】
(添加工程)
添加工程では、汚染物質を含有する汚染水に吸着剤組成物を添加する。吸着可能な汚染物質としては、放射性セシウムを挙げることができる。さらに、放射性ヨウ素と放射性ストロンチウムについても、吸着して除去することができる。吸着剤組成物を添加する方法は特に限定されず、任意の方法で添加すればよい。具体的には、粉体状、粒状、又はペレット状の吸着剤組成物(吸着体)を汚染水に直接投入する方法、吸着剤組成物を充填したフィルターを用いて汚染水を濾過する方法等を挙げることができる。また、吸着剤組成物を不織布等の適当な素材上に担持したものを汚染水に投入したり、フィルターとして使用したりすることもできる。
【0049】
吸着剤組成物(吸着体)を汚染水に直接投入した場合には、投入後、汚染水を静置してもよく、或いは撹拌してもよい。また、汚染水に吸着剤組成物を添加した後は、汚染水に含まれる汚染物質の濃度変化をモニタリングし、汚染物質の濃度が低下したことを確認後に次の工程を実施することが好ましい。
【0050】
(除去工程)
除去工程では、汚染水に添加した吸着剤組成物を、固液分離することによって汚染水(浄化水)から除去する。固液分離の具体的な方法は特に限定されず、任意の方法で吸着剤組成物と汚染水(浄化水)を分離すればよい。具体的には、静置、遠心分離、濾過等の方法を挙げることができる。なお、本発明において用いる吸着剤組成物は、小粒径(大比表面積)の顔料が、キトサンと酸性基含有ポリマーからなるポリイオンコンプレックス中に捕捉連結されたものであるため、濾過の際に圧力損失が過度に上昇し難い。このため、濾過することで、吸着剤組成物と汚染水(浄化水)を簡単に分離することができる。
【0051】
分離した吸着剤組成物は、ゼオライト等の無機物質と異なり、容易に焼却処理することができる。このため、汚染物質が吸着した吸着剤組成物については、焼却して体積を減少させることができる。なお、本発明において用いる吸着剤組成物は、セシウム、ヨウ素、及びストロンチウムを選択的に吸着するが、ウラン(U)やプルトニウム(Pt)等は積極的には吸着し難い。なお、放射性セシウム、ヨウ素、及びストロンチウムの半減期は、放射性ウラン及びプルトニウムの半減期に比して極めて短い。すなわち、本発明の汚染水浄化方法によって生じた浄化後の吸着剤組成物には、半減期の極めて長い放射性物質がほとんど吸着されていないので、浄化後の吸着剤組成物の保存期間が短くて済むといった利点がある。
【0052】
さらには、例えば焼却処分が困難な場合には、汚染物質が吸着した吸着剤組成物を微生物で処理し、吸着剤組成物に含まれる有機物を分解させることで、浄化後の吸着剤組成物を減容化することも有効である。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0054】
(実施例1)
キトサンの酢酸塩水溶液(キトサンの濃度:2%)15部と、紺青の粉末1.4部を混合した後、水50部を添加してさらに混合した。得られた混合物を、0.67%アルギン酸ナトリウム水溶液45部中に撹拌しながら滴下したところ綿状物が析出した。析出した綿状物を分離して水洗した後、130℃で12時間乾燥して吸着剤組成物を得た。このようにして得られる吸着剤組成物には、セシウム、ヨウ素、及びストロンチウムが高い吸着率で吸着される。
【0055】
セシウム、ストロンチウム、及びヨウ素の濃度がそれぞれ500μg/Lとなるように、硝酸セシウム、硝酸ストロンチウム、及びヨウ素ヨウ化カリウムの各水溶液を調製した。実施例1で調製した吸着剤組成物0.1gを各水溶液1000mLに加え、マグネチックスターラーを用いて室温で一晩撹拌した。その後、G3グラスフィルターを用いて吸着剤組成物をろ別した。常法に従ってろ液を分析し、セシウム、ストロンチウム、及びヨウ素のそれぞれの濃度を測定した。なお、セシウム及びストロンチウムについては原子吸光法により、ヨウ素については誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)により、それぞれ濃度を測定した。測定結果に基づき、下記式(2)を用いて汚染物質(セシウム、ストロンチウム、及びヨウ素)の吸着率を算出した。
【0056】
(汚染物質の吸着率)
汚染物質(セシウム、ストロンチウム、及びヨウ素)の吸着率を、下記式(2)によりそれぞれ算出した。
汚染物質の吸着率(%)
={吸着された汚染物質の質量(g)/吸着剤組成物の初期質量(g)}×100
・・・(2)
その結果、実施例1で調製した吸着剤組成物への汚染物質の吸着率は、セシウム:0.25%、ヨウ素:0.05%、ストロンチウム:0.06%であった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の吸着剤組成物を用いれば、放射性の汚染物質を含む汚染水を優れた効率で浄化することが可能である。また、浄化後に生ずる吸着剤組成物の処理の利便性も良好である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キトサンと、酸性基を有するポリマーと、下記一般式(1)で表される化合物を主成分とする顔料とを含有する吸着剤組成物。
MFe[Fe(CN)6] ・・・(1)
(前記一般式(1)中、Mはアルカリ金属又はアンモニウム基を示し、二つのFeの一方は2価であり、他方は3価である)
【請求項2】
前記ポリマーが、多糖、カルボキシル基含有モノマーの単独重合体、及びカルボキシル基含有モノマーとカルボキシル基非含有モノマーとの共重合体からなる群より選択される少なくとも一種である請求項1に記載の吸着剤組成物。
【請求項3】
前記ポリマーが、アルギン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸、及びポリイタコン酸からなる群より選択される少なくとも一種である請求項1又は2に記載の吸着剤組成物。
【請求項4】
前記キトサンと前記ポリマーの合計100質量部に対する、前記顔料の含有割合が10〜500質量部である請求項1〜3のいずれか一項に記載の吸着剤組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の吸着剤組成物の製造方法であって、
水を含有する水系媒体中で、キトサンの酸塩、酸性基を有するポリマーのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩、及び下記一般式(1)で表される顔料を混合する工程を有する吸着剤組成物の製造方法。
MFe[Fe(CN)6] ・・・(1)
(前記一般式(1)中、Mはアルカリ金属又はアンモニウム基を示し、二つのFeの一方は2価であり、他方は3価である)
【請求項6】
(1)キトサン及び酸を前記水系媒体中に加えて得られたキトサン酸塩溶液に、前記顔料を分散させて第一の分散液を得、得られた前記第一の分散液に前記酸性基を有するポリマーのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩の水系媒体溶液を混合する、又は
(2)前記顔料を前記水系媒体中に分散させて得られた第二の分散液と、前記キトサン酸塩溶液とを混合して第三の分散液を得、得られた前記第三の分散液と、前記酸性基を有するポリマーのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩の水系媒体溶液とを混合する請求項5に記載の吸着剤組成物の製造方法。
【請求項7】
前記水系媒体の少なくとも一部を除去する工程をさらに有する請求項5又は6に記載の吸着剤組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の吸着剤組成物を、少なくとも放射性セシウムを汚染物質として含有する汚染水に添加する工程と、
添加した前記吸着剤組成物を固液分離して除去する工程と、を有する汚染水浄化方法。
【請求項9】
前記汚染水に、放射性ヨウ素と放射性ストロンチウムが前記汚染物質としてさらに含有されている請求項8に記載の汚染水浄化方法。
【請求項10】
前記汚染物質が吸着した前記吸着剤組成物に含まれる有機物を、微生物によって分解して減容化する工程をさらに有する請求項8又は9に記載の汚染水浄化方法。

【公開番号】特開2012−236190(P2012−236190A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−98039(P2012−98039)
【出願日】平成24年4月23日(2012.4.23)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】